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政府委員(
柳井俊二君) 外務省の
総合外交政策局長をしております柳井でございます。
まず、最近の
国際情勢につきまして概観いたしました後、今後の課題について御説明させていただきたいと存じます。
それでは、まず最近の
国際情勢の概観につきまして、課題とそして各
地域情勢の二つの側面から御説明させていただきます。
現在の
国際社会は、冷戦が終わりまして、新たな国際平和と協力の枠組みの構築を模索しております転換期にあると言えると存じます。新しい枠組みの構築に向けまして、国連を中心とした種々の
取り組みや世界的な民主化、自由化の進展、
市場経済志向の高まりや核軍縮、特に
全面核実験禁止に向けての努力も本格化しつつある等、肯定的な動きが見られます。
他方、
国際情勢はむしろ不透明感が増大しているという側面もございます。具体的には、次に申します五つの課題があると存じます。
第一に、
先進国経済は依然として低迷しておりまして、また多くの国は深刻な失業問題を抱えております。これを背景に、
保護主義や
管理貿易的な動きの高まりから
経済摩擦が激化する様相を見せております。また、新しい経済の
相互依存関係の中で、国際的な
経済調整、協調の枠組みをどのように構築していくべきかという問題も大きな課題でございまして、その足がかりとなる
ウルグアイ・ラウンド交渉も大詰めを迎えております。さらに、我が国が抱える大幅な黒字の問題もございます。
第二に、
世界各地で発生しております民族や宗教に根差した対立の激化、
地域紛争の問題がございます。
カンボジア、中東では歓迎すべき動きも見られますが、旧
ユーゴスラビア、
ソマリア、旧ソ連邦内の幾つかの
共和国等では深刻な問題が生じております。
第三に、核兵器を初めとする
大量破壊兵器及び
ミサイルの拡散防止の問題がございます。これは、国際的な
安全保障を確保する上で緊急の課題となっております。特に、北朝鮮の核開発疑惑問題は、東アジアの
安全保障という側面のみならず、不拡散に向けての
国際社会の努力に対する大きな挑戦でもございまして、極めて深刻な問題でございます。また、旧ソ連の核兵器廃棄問題への対応も必要になっております。さらに、
大量破壊兵器、
ミサイルの不拡散のための
輸出規制強化の努力も行われております。
通常兵器の軍縮につきましては、
欧州通常戦力いわゆる
CFE条約の動きもございます。また、
通常兵器の移転の透明性の増大と適切な抑制を図っていくことも重要な課題です。
第四に、多くの途上国が依然貧困等深刻な困難に直面しておりまして、引き続き
途上国支援を行う必要がございます。同時に、冷戦後、旧
社会主義諸国の民主化、
市場経済化への移行の努力を支援することが新たな課題となっております。
第五に、地球環境問題、難民問題、人口問題のような
地球的規模の問題への対応も求められている次第でございます。
次に、各地域の情勢につきまして御説明いたします。
まず、アジア・
太平洋地域情勢でございますが、
世界経済が低迷する中で、この地域は順調な
経済発展を続けており、
国際社会の中でのこの地域の重要性は一層増大しております。冷戦終結後、アジア・
太平洋地域におきましても、韓ロ、韓中の国交樹立、
中越関係の正常化、
カンボジアの総
選挙実施、新政府の成立といった一連の好ましい動きがございました。
特に、
カンボジアにおきましては、九月二十四日、新憲法が制定され、新政府が発足いたしましたが、これは長年にわたる
国際社会と国連、なかんずく
UNTACの努力及び
カンボジア人自身の努力が実ったものでございます。しかし、
ポル・ポト派の存在は依然として最大の
不安定要因でございます。
シアヌーク国王を中心に
国民和解努力が行われておりますが、
シアヌーク国王の北京における療養が長引く見込みであること、
ポル・ポト派が同派の
支配地域の解放等に応じる構えがないこと等から、新しい
カンボジア政府と
ポル・ポト派との
話し合い実現の見通しは立っておりません。
他方、朝鮮半島における南北の軍事的な対峙の構造は変わっておらず、日ロ間の北方領土問題や南シナ海諸群島の領有権問題は依然未解決であり、また我が国に近接する
極東地域のロシア軍は、軍の政策として、またロシアの厳しい
経済状況等から、活動の規模、
レベルともに縮小しつつございますが、依然として核兵器を含む近代化された膨大な戦力を蓄積しているという事実に変わりはなく、さらに北朝鮮の
核兵器開発疑惑のような問題も存在しております。
次に、
北米情勢ですが、まず、米国では
クリントン政権が米国の再生を旗印に
国内経済の再建を最優先課題として取り組んでおります。九月の
議会再開後は、新たに
行政改革、
NAFTA実施法案の
議会成立、
医療保険改革の内政の三大課題に取り組んでおります。特に、現在審議されております
NAFTA実施法案の帰趨は、
クリントン政権の今後の動向、米国の今後の
対外政策の展開に重要な影響を及ぼすものと見られ、我が国としても大きな関心を有しております。また、
外交政策におきましては、ボスニア、
ソマリア、
ハイチ等の難問に直面しておりますが、アジア・
太平洋地域に関しましては、十一月中旬に
APEC非公式首脳会議を開催する等、この地域を重視する姿勢を見せていることが特筆されます。
次に、カナダにおきましては、変化を訴えた自由党が、十月末の選挙の結果、九年ぶりに政権に返り咲きました。今後、新政権が内政面での最大の課題である景気、雇用問題にいかに取り組むか、また外交面で米国からの自立性を強調し、
自主外交を掲げる新政権がいかなる政策を展開するかが注視されるところでございます。
欧州におきましては、本年初頭に
EC域内統一市場が完成いたしまして、さらに十一月一日には
欧州連合条約が発効し、さらなる統合推進の努力がなされております。
東欧につきましては、すべての国で
複数政党自由選挙が実施される等、民主化の流れは逆戻りしないで進んでおりますが、
改革断行に必要な強力な
政治的リーダーシップあるいは多数
派安定勢力が欠如しているという状況にございます。他方、
経済改革も進展しておりますが、一定の成果が見られる反面、失業の増大、生産の低下等、国民の負担が増大しているという側面も見られます。他方、旧
ユーゴスラビアの紛争が依然深刻な状況であり、
国際社会としても国連、ECを中心とした
取り組みを行っております。
最近の
ロシア情勢について申し上げれば、十月三日から四日のモスクワでの騒乱事件は、反
大統領勢力が武力を行使したのに対し、
エリツィン大統領が
秩序維持のためにこれを武力で鎮圧したものでございまして、多くの犠牲者が出たことは極めて遺憾でございますが、他方、衝突が地方などに拡大せず、二日間で一応の決着を見、早期に
モスクワ市内の秩序が回復されたことを評価しております。当面の内政上の焦点は、なお
保守勢力の強い
地方自治体、すなわち共和国、州などでございますが、この
地方自治体の動向と、十二月に予定されております新
連邦議会や
地方選挙についての動向でございます。
経済政策につきましては、当面は
経済状況の改善は困難であると見られます。
九一年十月の
マドリード中東和平会議以来、これまで
紛争当事者の間で和平に向けての交渉が行われてまいりましたが、本年九月には
イスラエル・
パレスチナ間で
暫定自治に関する
原則宣言の署名が行われ、
和平交渉で大きな進展が見られております。
パレスチナ人支援のための我が国を含む
国際協力が強化されております。また、将来の
地域協力を念頭に置いた
多国間協議も進展が見られております。
中南米各国におきましては、累積債務問題、インフレ、内戦等に象徴される困難を経て、現在ではキューバ、ハイチを除く国々が民主化を達成いたしまして、
市場経済に基づく真摯な改革に努力が傾注されております。
ペルーにおきましては、昨年四月の憲法一時停止以降の
民主化復帰プロセスの総仕上げとも言える新
憲法法案に対する
国民投票が実施されまして、現時点におきましてまだ公式結果は発表されておりませんけれども、一部開票の結果に基づき、現地の
民間調査機関が実施いたしました
サンプリング調査では、新
憲法法案に対する賛成票が過半数を獲得していると伝えられております。
また、ハイチにおきましては、九一年九月末の
軍事クーデター以降、国連、米州機構を中心に
民主主義秩序の回復のための努力が続けられておりますが、まだその実現は見られておりません。
アフリカ諸国では、八〇年代を通じて
経済状況の悪化が見られ、現在、世界の最貧国四十七カ国のうち三十一カ国が
サハラ以南の
アフリカに集中している状況にございます。冷戦の終結を受けて、
アフリカ大陸でも政治、
経済両面での民主化、自由化に向けての改革が進行しつつございますが、こうした改革も所期の成果を上げているとは申せません。
ソマリア、
アンゴラ等では悲惨な紛争が続いておりまして、世界じゅうの注目を集めております一方で、経済的な困難は忘れ去られてしまうのではないかという危機感が
アフリカ諸国にはございます。
南アにおきましては、八九年の
デクラーク大統領の就任以来、アパルトヘイトを撤廃し、
民主的国家を建設するための
歴史的改革が進行しております。特に、本年四月から開始されました各政党間の交渉におきまして、黒人を含む全人種が参加する総選挙を来年四月二十七日に実施することが基本的に合意されております。現在、一部の政党が交渉を離脱するということも起こっておりますが、できるだけ多くの政党の参加のもとで総選挙が予定どおり実施されることが望まれている次第でございます。
以上、御説明いたしましたような
国際情勢の中にありまして、我が国の
国際的責任と役割、我が国に寄せられている期待はかつてないほど増大しております。
我が国が戦後の復興と現在の進展を達成できましたのは、自由、
民主主義、
市場経済のもとでの国民の英知と努力とともに平和が保たれていたこと、そして自由な貿易が可能であったこと、また特に戦後の時期におきましては、米国を初めとする友好国の援助と協力があったことによるものであると考えております。今や、我が国が世界の平和と繁栄を確保するために積極的な役割を率先して果たすことが必要でございます。また、これは
我が国自身の平和と繁栄を確保するためにも不可欠なものであると考えます。
国際社会が直面する課題に対処するためには、
国際協調がますます重要となっていることは申すまでもございません。この中でも、特に
基本的価値を共有し、世界のGNPの約七割を占める日米欧の協力は、世界の諸問題に取り組んでいく上で極めて重要でございます。とりわけ、政治・
安全保障、グローバルな協力、経済を三本柱とする
日米パートナーシップのバランスのとれた発展を確保していくことが
我が国外交の基軸として特に重要であります。
こうした
日米パートナーシップ強化の必要性につきましては、九月に行われました細川総理と
クリントン大統領との
首脳会談におきましても確認されたところでございます。特に、環境、
エイズ等の
地球的規模の
問題解決に向けた協力の推進がますます重要になってきております。また、
国際社会における役割をますます高めつつある
欧州諸国とも引き続き緊密な
協力関係を築いていく必要がございます。
冷戦の終結は国連の再生をもたらしました。
湾岸危機の際の国連を中心とした
国際社会の一致した対応は、このことを強く印象づけました。さきに述べました
地域紛争への対処や
地球的規模の問題の解決は、
国際社会の一致した協力によってのみ可能でございます。そのために、
国際連合の果たす役割もますます大きくなってまいります。
次に、我が国は具体的にいかなる
外交課題に直面しているのか、また平和と
国際協調という憲法の精神に基づき、いかなる
外交努力を行っていくかについて御説明したいと存じます。
我が国の
経済的繁栄は、
多角的自由貿易体制下で実現されてきたものでございますが、低成長あるいは高い失業率といった
世界経済が直面する現在の困難な状況のもとで引き続き繁栄を確保するためには、今後の
世界経済の
安定的発展を図るとともに、
自由貿易体制の
維持強化が欠かせません。そのためにも、
サミット、
OECD等の場を通じた
国際協調に率先して
取り組み、
ウルグアイ・ラウンドを成功裏に年内に終結させることが重要でございます。
米国や
EC諸国を初め幾つかの国々から我が国の大幅な
経常黒字が
国際経済に与える影響を懸念する指摘がなされていることを真摯に受けとめ、良好な
対外経済関係を維持するためのみならず、国民生活の向上を図るためにも
内需拡大努力や
市場アクセスの改善、
内外価格差の是正、
規制緩和等の政策を積極的に推進し、
経常黒字の縮小に向けて努力していく必要がございます。既に
緊急経済対策が決定されており、また
経済改革研究会から報告が年内に出される予定になっておりますが、自主的な変革、
改革努力の推進が諸外国より期待されているところでございます。
各国との協調という面では、米国との関係を見ますと、米国内では産業界及び議会を中心に依然として我が国の市場が閉鎖的であるとの認識がございます。また、
日米両国の一部において、
日本異質論のように摩擦を助長しかねない見解も存在しております。
こうした状況も踏まえ、
東京サミットの際に
日米首脳の間での
共同発表として、日米間の新たな
経済パートナーシップのための枠組みの設定発表に至り、
日米関係を
中長期的観点から安定させるための
日米包括協議という
話し合いの場ができたところでございます。九月から協議が開始されまして、明年早い段階での
日米首脳会談の機会にその時点までの
話し合いの成果を発表すべく、現在も鋭意協議を進めております。
自由貿易主義や
市場経済原則に従って、
日米双方が努力することにより両国の対外不均衡の改善を図り、安定的な
日米経済関係を築いていくことが重要であります。そのためにも、我が国として
政府調達手続の改善を含め、自主的な
改善努力を進めていくことが重要です。そして、協議に際しましては、
日米双方の問題を取り上げるいわゆる
双方通行性を旨とすることや、
管理貿易につながるような数値目標を設定するというようなアプローチを排除していくこと、政府による対応が可能で責任が及ぶ範囲を対象とするといった諸原則を踏まえた対応を重視しております。
日本とECとの間では、九一年の日本・
EC共同宣言発出以降、幅広い分野での協力が進展しておりますが、当面の課題は、日米間と同様、貿易不均衡に代表される
経済分野で、域内の
経済停滞及び高い失業率が問題を先鋭化させる危険をはらんでいると言えましょう。
また、
自由貿易体制の
維持強化を進めるための
多国間取り決めを築く
ウルグアイ・ラウンド交渉が不調に終わるようなことがあれば、
世界経済に深刻な影響を与えることは確実でございまして、先般の
東京サミットにおきましても確認されたように、交渉の年内終結に向けて我が国としても引き続き全力を尽くしていく必要がございます。なお、農業につきましては、各国ともそれぞれ困難な問題を抱えておりますが、我が国としても相互の協力による解決に向けて最大限努力してまいります。
地域紛争に関しましては、我が国が具体的に行っている協力について御説明申し上げます。
カンボジア復興への協力に関しましては、我が国も
国際平和協力法に基づきまして要員や部隊を派遣し、その活動は
カンボジア側及び
国際社会より高い評価を受けたところでございます。本年九月の新政府の成立に伴いまして
UNTACの任務は終了いたしましたが、今後、
カンボジアの経済社会的な安定を通じ政治的安定を図っていく必要がございます。その意味で、復興に関する
支援強化が不可欠であります。
去る九月に開催されました
カンボジア復興国際委員会いわゆる
ICORC第一回の会合は、昨年の
カンボジア復興会議で意図表明されました入・八億ドルの援助の早急な実施に合意し、さらに一・二億ドルの追加の意図表明を得て成功裏に終了いたしました。さらに、明年三月までに東京において次回会合を
閣僚レベルにて開催する方針でございます。我が国は、既に約一・七五億ドルの対
カンボジア援助を実施しておりますが、引き続き
カンボジアの復興に積極的に協力してまいりますとともに、
カンボジア復興国際委員会、
ICORC議長として
国際社会による援助の迅速かつ効率的な実施のため、関係国、
国際社会と力を合わせて努力してまいりたいと考えております。
これまでの
中東和平交渉に対しまして、我が国はこれを強く支持、支援する立場から、
中東和平多国間協議各作業部会の議長国あるいは副議長国を務めるとともに、調査団の派遣、セミナーの開催等のプロジェクトを進めまして、この
多国間協議の進展に大きく寄与してまいりました。また、
パレスチナ人支援のために、
国際機関を通じた資金拠出、研修員の受け入れなどを行ってきております。さらに、
和平交渉当事者などとの意見交換を通じ働きかけを行ってきております。
本年九月の
イスラエル・
パレスチナ間の
暫定自治に関する
原則宣言署名を受け、これまでに
国際社会は
中東和平のため全体として五年間で約二十一億ドルの支出の意図を表明しております。我が国といたしましても、先般の
中東和平支援閣僚会合におきまして、今後二年間で二億ドルの支援を行う意図を表明いたしました。今後も
多国間協議等を中心に
和平交渉進展のため積極的に支援してまいる所存でございます。
旧ユーゴの紛争は、冷戦後、
世界各地で多発する
地域紛争の典型でございまして、
国際社会の対応が試されていると言ってよいと思います。特に、戦場における集団虐殺や女性に対する暴行等の非
人道的行為は看過できません。このため、我が国としても、三百六十万人とも言われる
紛争被災民のため、
国際機関を通じまして約六千二百万ドル以上の
資金協力も実施してまいりました。
また、旧ソ連内では、
アゼルバイジャン共和国ナゴルノ・カラバフ自治州の
アルメニア共和国への帰属をめぐる
アルメニアと
アゼルバイジャンの紛争、
アブハジア自治共和国の
分離独立問題等グルジアにおける民族問題、タジキスタンの現政権である旧
共産党勢力と
イスラム民主党連合勢力等の野党との内戦といった問題もございます。
我が国といたしましては、こうした紛争により生じた
社会的混乱に対して、旧
ソ連諸国に対する
人道支援の一環といたしまして
医薬品等の支援を行っておりますほか、国連、
欧州安全保障協力会議いわゆるCSCEによる種々の
和平努力を支持しております。
ソマリアにおける
氏族間紛争の一刻も早い終結及び和平と秩序の回復は、
国際社会共通の関心事項でございます。モガディシオでの一連の事件は事態の深刻さを示すものでございますが、
国際社会として国連による
和平努力及び
関係諸国の
政治和解プロセス促進の努力を支持し、一日も早く危機を克服しなければなりません。我が国としては、
人道的観点から、
ソマリア国内被災民及び周辺国の
ソマリア難民に対しまして、九二年以来総額約五千四百万ドルの
人道支援を
国際機関等を通じて行ってまいりました。今後とも、可能な限りこうした貢献を行ってまいる所存でございます。
湾岸危機を契機といたしまして、我が国の人的貢献の必要性につきまして国内において議論され、昨年六月、
国際平和協力法が成立したところでございます。我が国は、この法律に基づきまして、アンゴラ、
カンボジアに要員あるいは部隊の派遣を行ってまいりましたほか、現在、モザンビークに要員と部隊を派遣中でございます。
カンボジアへの要員、部隊の派遣は本年九月に終了したばかりでございますが、我が国の協力は
国際社会の高い評価を受けております。今後とも、
カンボジア等の経験を踏まえた上で積極的に人的貢献を行っていきたいと考えております。
核不拡散体制の
維持強化という課題にも我が国は積極的に取り組んでおります。核不拡散体制を安定的なものとするとの観点から、我が国は核不拡散条約いわゆるNPTの無期限延長を支持しております。同時に、核軍縮、
全面核実験禁止に向けても努力しており、ジュネーブの軍縮会議では、来年初めから
全面核実験禁止に向けて条約交渉が行えますよう、我が国が核実験禁止特別委員会議長となっており、これを取りまとめておるところでございます。この議長の職は本年末まででございます。
北朝鮮の核開発疑惑問題に対しましては、米国、韓国等の
関係諸国及びIAEA等の
国際機関との緊密な協力を通じまして、外交による解決に向け努力しておるところでございます。
旧ソ連の核兵器廃棄につきましては、我が国として約一億ドルの支援を行うことにしております。このうち、ロシアに対する協力につきましては、先般の
エリツィン大統領訪日の際に枠組み協定に署名し、今後、ロシア側と協議しつつ具体的協力案を検討していくことになっております。
また、
大量破壊兵器及び
ミサイルの不拡散のための国際的努力に関しましては、核兵器不拡散条約NPT、化学兵器禁止条約、生物兵器禁止条約といったグローバルな軍縮条約のほかに、これらの条約体制を補強すべく、先進国を中心としてこれらの兵器の関連物資や技術の輸出規制が国際的な枠組みのもとで実施されており、我が国もこのような枠組み強化のために積極的に努力しております。
さらに、
通常兵器の移転の透明性の増大と適切な抑制を図っていくことも重要でございまして、我が国等の提唱によって設置されました国連軍備登録制度の実効的運用に協力しております。政府といたしましては、武器取引に対する関係国の慎重な対応の必要性を引き続き国際的に強調してまいる所存です。
途上国の経済困難は、一部諸国を除きましてむしろ深刻化しておりますが、先進各国とも厳しい財政状況にございまして、さらに旧
社会主義諸国等新たな援助対象地域の発生、環境、人口等の
地球的規模の問題への対応など、援助需要は拡大、多様化しております。このような状況の中で、我が国といたしましては今後とも積極的な
途上国支援を行うことが必要となっております。
九二年の日本のODA実績は、百十三・三二億ドルに達した次第でございます。本年六月には、第五次ODA中期目標を策定いたしまして、九三年から九七年の間に七百億から七百五十億ドルを目標とすることといたしております。また、
資金協力計画も策定いたしまして、この期間でODA及び非ODAを合わせ、アンタイド資金おおむね千二百億ドル程度の協力を行うこととしております。
ODAは、引き続き重要な役割を担うものと考えておりますが、一方、国民の税金を財源とするODAを実施するに当たりましては、我が国国民の理解と支持が得られるものであると同時に、相手国国民からも喜ばれるものでなければなりません。
このような観点から、政府はODAについて種々の改善措置を図ってきております。
まず、昨年、政府開発援助大綱を定めまして、我が国ODAについての基本理念や原則を明らかにいたしました。また、援助に対する透明性を高めるとの観点から、本年度よりODA案件の受注企業名を含むODAの実施状況を包括的に取りまとめた年次報告を国会等に提出しております。さらに、援助について広く国民の声を吸い上げるという考え方から、本年十月に援助に関する市民との触れ合いの場といたしまして
国際協力プラザを都内、これは広尾でございますが、に開設いたしました。実際のプロジェクト実施に当たりましても、環境配慮を初めとする事前調査や事後の評価活動を充実させております。政府といたしましては、今後とも援助実施体制や広報、情報公開等の面における改善に全力を傾注いたしまして、効果的、効率的な援助の実施に努めてまいる所存でございます。
我が国は、本年十月、東京におきまして国連等との共催によって
アフリカ開発会議を開催いたしまして、今後の
アフリカ開発の指針を示す東京宣言を採択する等、成功裏に右を終了いたしました。この会議は、九一年の国連総会で我が国が提唱したものでございまして、我が国の対
アフリカ外交上画期的なイニシアチブであったと考えております。
我が国は、政治の分野における民主化、経済の分野における
市場経済化を目指して改革を実施している旧ソ連、東欧諸国が、現在、過渡期特有の苦しみを味わっており、またこれらの諸国における改革が成功し、政治的、経済的安定が確保されることは
国際社会全体にとっての利益であるという認識に立っております。このような認識のもとで、我が国はこれらの諸国に対しまして、各国における改革の進捗状況、支援の必要性等の諸点を勘案しつつ、人道援助、技術支援、
資金協力等、各種の支援を取り進めてきております。
環境、難民等の地球規模の問題は人類の生存基盤に関する問題でございます。
地球環境問題は遠い将来の問題ではございませんで、いっときの猶予も許されない緊急の課題であり、我が国の有する経験と能力を十分に生かしながら、地球環境問題の解決に向けた国際的な努力に対し率先して貢献していくことが必要でございます。
我が国は、昨年六月の国連環境開発会議、UNCEDにおいて、環境分野での援助を九二年度から五年間にわたり九千億円から一兆円をめどとして大幅に拡充強化することに努めることを表明いたしました。その後、国際的な法的枠組みの強化、環境ODAの実施、UNEP国際環境技術センターの我が国への誘致を通じた環境技術の開発途上国への移転等を中心に、着実にUNCEDフォローアップに努めてまいりました。政府といたしましては、引き続き国連等の場を通じまして本問題に積極的に取り組んでまいる所存でございます。
全世界に千八百万人以上いると言われる難民の問題につきましては、我が国は人道上の問題であると同時に世界の平和と安定にも影響を及ぼしかねない問題であるとの認識のもとで、国連難民高等弁務官事務所いわゆるUNHCR等の
国際機関を通じた協力を実施しております。我が国のUNHCRに対する九二年の拠出額は約一億一千九百万ドルと、各国の中で第二位となっております。
ちなみに、現在の難民高等弁務官は緒方貞子さんでございまして、今般、五年の任期で再任されたところでございます。今後とも緒方さんと緊密な連携をとってまいる所存であります。
八七年に五十億人に達した世界の人口は、現在約五十六億人に達しておりまして、今世紀末には六十四億人、二〇二五年には何と八十五億人に増加すると予想されております。このような人口増加のほとんどが開発途上国において発生しており、これらの諸国におきまして経済社会の発展や開発の阻害要因となっており、また緑地の砂漠化や地球の温暖化などの地球環境問題を深刻化させる要因ともなっております。他方、我が国を初めとする先進国は、高齢化や開発途上国からの人口移動等、新たな人口問題を抱えている状況にございます。
我が国としては、この人口問題への
取り組みは人類が直面している最も大きな課題の一つと認識いたしまして、これまで国連人口基金に対して九三年度には六千三百三十万ドルを拠出する等、積極的な貢献を行っておりまして、今後ともかかる支援を継続していく考えでございます。
また、来年九月にはエジプトにおきまして国連の主催する国際人口開発会議が開催されますが、我が国はこれに先立ちまして、国連人口基金及び国連大学の協力を得て人口問題に関する賢人会議を東京において開催し、国際人口会議に貢献したいと考えております。
新たな国際秩序の模索に当たりまして、国連に対する期待は増大しており、国際的な平和と安全のために国連を中心とした努力が種々行われております。国連への期待は高まる一方、国連の実力は期待に追いついておりません。したがいまして、国連の機能の強化、具体的には財政基盤の強化を含む行財政改革、平和維持機能の強化及び安保理の機能強化が必要となっております。
また、安保理につきましても、国際の平和と安全に主要な責任を負う国連の中核的機関といたしまして、加盟国の総意を反映するとともに、今日の世界の期待に実効的にこたえていくことができるよう強化される必要があると考えております。
安保理改組の問題につきましては、近年の安保理の重要性の増大にかんがみますれば、その一層の機能強化が必要でございまして、世界の平和と安定に貢献する意思と能力を有する国を積極的に活用することが重要でございます。この夏に既に六十九の加盟国が意見書を提出いたしましたのに加えまして、現在行われております国連総会の演説でも百四カ国がこの問題に言及をしておりまして、安保理の効率性を維持しつつ、その議席を拡大することはもはや一つの大きな歴史の流れと言ってよいと思います。
本年の国連総会におきましては、安保理改組に関し、すべての加盟国が参加できる作業部会を設置するという決議を採択する、そういう方向で関係国間の
話し合いが目下行われております。本年末までには作業部会が設置されることになると思われます。
さらに、若干の予測を申し上げれば、ドイツと並び我が国を常任理事国に加えることは多くの加盟国の支持を得ておりますが、そのほかに途上国よりも常任理事国を加えるとの点につきましては、今後の議論に相当の紆余曲折が予想されるところでございます。したがいまして、今後、なお時間を要する問題であると考えております。我が国といたしましては、このような議論に積極的に参加してまいりますとともに、
国際社会の期待にこたえて、安保理においてなし得る限りの責任を果たすとの姿勢が必要であると考えております。
次に、アジア・
太平洋地域諸国との関係、日ロ関係について触れたいと存じます。
世界の平和と安定を確保する上で、高い成長率を続けるアジア・
太平洋地域の国際的役割はますます重要になっております。我が国は、アジア・
太平洋地域の一員として、これらの諸国との経済、政治両面にわたる対話と協力をこれまで以上に緊密に進めるとともに、中国、韓国、ASEAN諸国等、近隣諸国との一層の関係改善に努める考えでございます。
アジア・
太平洋地域につきましては、全体として経済的結びつきが中心でございまして、今後ともこのような結びつきを深めていくことが重要でありますが、同時に
安全保障の枠組みづくりが冷戦後の今日、重要になってきております。
安全保障について申し上げれば、アジア・
太平洋地域における米軍の存在は、この地域の安定要因として平和と繁栄を促進していくための不可欠の前提となっており、このような認識は域内の多くの国が共有しているということをまず申し上げたいと存じます。したがいまして、我が国といたしましては、引き続き日米安保条約体制を堅持し、このような米軍の存在の確保に引き続き努力する必要がございます。
このような日米安保体制及び米軍の存在を前提といたしまして、アジア・
太平洋地域での
安全保障を考えるに当たりましては次のような分野での努力を並行的に進めるいわば複合的なアプローチが重要であると考えております。
まず、この地域の多様性に留意し、朝鮮半島問題を初めとするこの地域の個々の紛争につき、おのおのの状況に適した枠組みを通じて解決に努力することでございます。
第二に、アジア・太平洋諸国が
安全保障対話を深め、政策の透明性とお互いの安心感を高めていくことが重要でございます。このような全域的な政治・
安全保障対話につきましては、昨年からASEAN拡大外相会議を中心として本格化しております。我が国としては、このような域内での政治・
安全保障対話に積極的に参画していく考えでございます。
さらに、経済開発を通じた地域の政治的、社会的安定性の向上を図っていくことも重要でございます。このため、アジアを我が国援助の重点地域として、域内各国の
経済発展を引き続き支援していく考えであります。
ここで、この地域の経済の分野について見ますと、シアトルにおきまして、今月の十七日から十九日までAPEC閣僚会議、また十九日と二十日には
APEC非公式首脳会議が開催されることになっております。我が国は、APECをガットを補完、強化する開かれた
地域協力の場として位置づけておりまして、アジア・
太平洋地域、ひいては
世界経済の発展のため、その重要性はますます増大していくものと考えております。これらの会議におきましては、貿易投資委員会の設立、新規加盟等の問題などが議論される予定でございますが、このような観点から、APECの一層の推進、強化を図るため積極的に取り組んでいく考えでございます。
本年二月に発足いたしました金泳三政権は、対日関係発展を重視しております。今後とも個別の案件を着実に処理し、未来志向的な関係の構築のため努力していくことが必要でございます。
また、従軍慰安婦問題につきましては、我々の気持ちをいかなる形であらわすことができるかを現在鋭意検討しているところでございます。
先週末の細川総理の訪韓におきましては、自由な雰囲気の中で率直な意見交換が行われ、両首脳の個人的な信頼関係を築く上で大きな意義があったと考えております。
首脳会談におきましては、朝鮮半島を中心とする
国際情勢及び日韓関係につき意見交換が行われ、特に両首脳は北朝鮮の核兵器開発問題に関して緊密に協議していくことにつき合意するとともに、未来に向けての日韓の貴重なパートナーシップを築いていくことで認識が一致いたしました。
日中関係は、我が国にとりまして
日米関係と並んで重要な二国間関係でございます。良好かつ安定した日中関係を維持発展させていくことは、両国にとってのみならず、アジア・太平洋ひいては世界の平和と繁栄にとり極めて重要な要素であり、我が国として日中関係を引き続き重視していくものでございます。
我が国の現在の対中政策の基本方針は次の諸点でございます。
第一に、日中二国間関係の一層の成熟化ということでございます。第二に、中国が
国際社会において建設的役割を演ずるよう慫慂することでございます。そして第三に、中国の進める改革・開放政策への支援という点でございます。
具体的には、まず昨年の国交正常化二十周年、天皇、皇后両陛下の御訪中等を経て、良好かつ安定的な状況にある現在の日中関係を幅広い分野における交流の一層の活発化によって成熟化させ、両国間の種々の問題を政治問題化させることなく、冷静な
話し合いを通じて実務的に処理していけるようなそういう関係を固めていくことが必要であります。
また、日中関係を単に二国間関係の枠組みでとらえるのではなく、世界の中の日中関係という観点から、軍備管理・軍縮、地球環境問題、麻薬対策等、グローバルな問題につきましてともに建設的な役割を果たしていくよう促していくことが必要でございます。
さらに、中国が政治、
経済両面にわたる改革・開放政策を維持しつつ安定的な発展を遂げていくことはアジア・太平洋の繁栄と安定にとって重要であるとの考えから、我が国としては中国の進める改革・開放政策をできる限り支援していくという考えでございます。 対ロ外交につきましては、領土問題を解決して平和条約を締結することにより日ロ関係の完全な正常化を図ること、また現在ロシアにおいて行われている改革を支持し、
国際協調のもとでこれに応分の支援を行っていくことを基本としております。この関連で、十月の
エリツィン大統領の訪日は、領土問題の解決と平和条約締結に向けての基盤を確立てきたと評価しております。この成果を踏まえ、前述の方針のもとで一貫した姿勢で対ロ外交を進めていく所存でございます。
また、先般の放射性廃棄物の海洋投棄は近隣諸国に対する配慮に欠けるものであって、極めて遺憾でございます。第一回目の投棄の事実が確認された直後、外務大臣を初めハイレベルで投棄の即時中止を強く申し入れてまいりましたことは御承知のとおりでございます。日日両国の専門家会合を十月二十七日から二十八日にモスクワで開催いたしまして、また第二回日ロ合同作業部会を十一月十日から十一日に同じくモスクワで開催することになっております。これらの会合を通じまして、今回の事態の正確な把握に努めますとともに、日ロ共同海洋調査をできる限り早期に実施できるよう調整を進めていく方針でございます。
なお、ロシア側は海洋投棄以外の方法によって放射性廃棄物の管理、処理を行うべきであり、そのため、ロシア側が希望するのであれば、適切な管理を行えるよう我が国としても協力の可能性を検討する用意があるところでございます。
最後に、世界諸国民の相互理解の重要性につきまして申し上げたいと存じます。
このように大きな転換期にある今日の
国際社会におきまして、各国との間で長期的な視野に立った積極的かつ多面的な知的、文化的交流を推進し、国家間の相互理解と信頼関係を築いていくことは、平和で安定した国際関係を構築する上で不可欠でございます。政府といたしましても、平和で安定した国際関係の構築には各国民との相互理解が必要であり、文化交流がそのための最も重要な手段であると認識しており、国際文化交流を
我が国外交の重要な柱として推進しているところでございます。
我が国におきましては、外国や外国人との接触の機会が急速に増大する一方で、日本人一人一人の異文化に対する理解はまだ不十分なところでございます。このため、我が国社会が国際的により開かれたものとなるために、各国、各民族の文化に対する理解を深める必要が増大しております。
他方、我が国の経済進出、経済協力は進んでいるものの、我が国に対する理解は不十分なままでございます。このため、現在の日本人の姿、日本人の考え方に対する理解を深めてもらう必要がございます。
このための最も有効な手だての一つは、日本語教育の推進でございます。近年の日本語学習熱の高まりは日本語を普及する上での好機でございまして、早急に対応することが必要でございます。また、ジャパン・フェスティバル、日本週間などの総合的な日本紹介行事も集中的に我が国への関心を高めまして、対日理解を増進する上で効果的でございます。さらに、テレビ、映画等、映像メディアという強力な媒体を利用いたしまして、日本文化についての情報を世界の隅々まで伝えられるよう諸政策を打ち出してまいりたいと考えております。
また、我が国の世界に対する貢献につきましては、経済協力及び政治面のみならず、文化の面においても我が国の国力に相ふさわしい貢献が必要でございます。特に、途上国の経済開発に伴い、人類共通の遺産である有形無形の文化財、遺産の保存、振興のための国際的協力の必要性が増大しております。特に、欧米的思考が中心となっている現在の
国際社会におきまして、固有の文化を持った我が国について正しい理解を得るためには、欧米諸国よりはるかに大きな努力が必要でございます。
しかしながら、我が国の国際文化交流の中核的実施機関たる国際交流基金の規模は、海外の主要な同種の機関との比較では依然として大きな開きがあり、今後、これらの機関に最低限匹敵し得るような予算、人員等を確保いたしまして、事業の拡大を図ることが我が国の主要な課題になっていると考えております。
以上、最近の
国際情勢と今後の課題について御報告申し上げました。どうもありがとうございました。