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参考人(
松浦祥次郎君)
日本原子力研究所の
松浦でございます。
本日は、お
手元のあらかじめお配りさせていただきました
資料に基づきまして、
原子力発電の
安全性と、それに関します
原研で行っております
安全性研究について
説明させていただきます。
説明に入ります前に、まことに申しわけございませんが、
資料にミスプリントがございましたので、お手数ですがあらかじめ御訂正くださいますようお願い申し上げます。
一つは、一枚の紙の「
原子力発電の
安全性について
説明項目と概要」という紙でございますが、これの上の方の「
日本の
原子力発電」という
項目で、
運転中の
発電用原子炉は四十四基と書いてあると思いますが、先日動いたものがございますので現在四十五基でございます。それと同様のことでございますが、とした
資料の二ページでございますが、これの下の方の表の中で、
運転中四十四基となっておりますのを四十五基に、それから
出力の方が三十六・一と書いてあるのを三十七・二に、それからその次の
建設中の八を七に、そして九・〇と書いておりますのを七・九に御訂正をお願いいたしたいと思います。申しわけございません。
本日お話しいたします
項目でございますが、とじた方の一ページをお開きいただきたいと思います。まず、
原子力発電の
安全性の
考え方というところで、
日本の
原子力発電の
状況が今どうかということを簡単に御
説明して、それからその
安全性の
基本的な
考え方として取り上げられております
多重防護の
考え方、それから
放射性物質の閉じ込めの話、それからそれに関しまして
原研が
研究開発を進めております
安全性の
研究といたしましての
NSRR実験、
ROSA計画、
シビアアクシデント時の
原子炉挙動、こういうものに関しまして簡単に御
説明させていただきたいと思います。
二ページをお開きいただきたいと思います。まず、
原子力発電の
安全性の
考え方でございますが、現在の
日本の
原子力発電でございます。現在、
我が国には
平成五年九月の
段階で
運転中の
商業用の
発電用原子炉は四十五基、それから
建設中の
原子炉が七基、
建設準備中のものが一基ございます。このほかに
開発途上の
発電用の
原型炉、
ATR、これは
動力炉・核燃料開発事業団さんが
運転中でございますが、それがございます。現在の
商業用の
発電用原子炉の合計の
出力はその二ページの表にもございますように三千七百二十万キロワットでございまして、総
発電電力量の約三〇%を
原子力で補っているというわけでございます。したがいまして、
原子力発電が
日常生活と非常に密接なものとなっているというわけでございます。
原子力発電は当然
原子炉を用いて
発電いたすものですから、その
安全性の
確保には十二分の注意を払う必要があることは言うまでもありません。幸い
我が国の
原子炉の
運転実績は
世界でも一、二を争うくらい良好なものになっておりますが、これは
発電に当たられる
関係者の
方々の日ごろの
安全性確保への努力のたまものと言えるのではないかと思います。
とじた
資料の三ページへ移らせていただきます。
原子力発電の
安全性の
基本的な
考え方でございますが、これはこのページに書いてございますように、
多重防護という
考え方で
安全性を
確保しているわけでございます。
多重防護というのは、要するに安全を
確保するために何
段階もの手だてをつけているということでございまして、まず
多重防護のその一といたしましては、異常の
発生を防止するためにいろんな
対策を立てておく。その次に
多重防護のその二といたしましては、異常が起こってもそれが
事故に
拡大しないようにどこかで
事故拡大を防止するための
対策をつけておく。三番目は、今度は
放射性物質の異常な
放出が起こるような
事故になったとしても、それを防止するための
対策を立てておく。こういう
段階でそれぞれに
防護を考えておくというわけでございます。
その第一番目の異常の
発生を防止するための
対策でございますが、これはまず
設計の
段階で安全上余裕のある
設計をするということ、これは当然ございます。それから、その中で当然
誤操作とか
誤動作とかいうことが起こる
可能性があるわけでございますので、それを防止するような
設計をする。すなわち、
誤操作を行ったりあるいは
機器に
誤動作が起こったとしても、それが
事故を
発生しないように防止するという
設計をあらかじめしておく。当然、
運転中あるいは
運転前の
機器の点検、検査をしっかりやる。それから、
自然界にはいろいろ地震とか台風とかございますので、そういう
自然災害が来たとしてもそれに対応できるようにしておく。これがまず異常の
発生を防止するための
対策としていろいろ考えるわけでございます、当然のことでございますが。
それから次に、
事故への
拡大を防止する
対策でございますが、これは異常が起こったときに早く発見できるような
設計にしておく。それから、何かあったときに、これは危ないというときには
原子炉を緊急に停止できるような
設計にしておく。
次に、今度は
放射性物質の異常な
放出を起こすような
事故の場合のそれのとめ方でございますが、非
常用炉心冷却装置、ECCSと略されておりますけれども、これでまず
原子炉を冷やす。それから、
放射性物質が
原子炉から出てきても、今度は
原子炉の
格納容器でそれを閉じ込める。こういうような何
段階かの
段取りで安全を
確保しようというわけでございます。
かつて起こりました大きな
事故として
アメリカの
TMI事故がございますが、これはどこで失敗したかといいますと、この
多重防護の
考え方で現実に
確保することは、まず
原子炉をとめるということ、それからとめた後で残っている熱を除去すること、それから
放射性物質が放散しそうになったときにそれを閉じ込めるという、このとめる、冷やす、閉じ込めるということが
基本でございます。
先ほど言いかけました
アメリカの
事故でございますが、これはとめることには成功いたしました。しかし、冷やすことに部分的に失敗したために
原子炉の炉心の溶融が起こったわけでございます。しかし、閉じ込めることには成功しておりますので
周辺にはほとんど
放射性物質は出ていない、こういうことであります。その次に、
ロシアで起こりましたチェルノブイリの
事故でございますが、この場合はとめることを失敗し、閉じ込めることを失敗したために
放射性物質が放散した、そういうことでございます。
次の四ページに、今度は
放射性物質の閉じ込めのためにどういう
段取りがしてあるかということを簡単に示しております。現在
日本で使われております加圧水型の
原子炉と沸騰水型の
原子炉の二つについて示しておりますが、
基本的な
考え方はいずれも同じでございまして、まず
燃料の
ペレット自身が
放射性物質を閉じ込める
性質を持っております。それから、その
ペレットを包んでおります
燃料の
被覆管が第二番目のバリアといいますか、閉じ込める
障壁として働きます。その次に、
原子炉を包んでおります
圧力容器がさらにその次の閉じ込めになる。それから、その
原子炉圧力容器を設置しております
格納容器が次の閉じ込めの
障壁になる。こういうことで
放射性物質の閉じ込めを何
段階かで
確保している、そういうことでございます。
五ページヘ進ませていただきますが、こういう
原子力発電の
仕組みの安全を
確保するために、またその安全がどのように
確保されているかを確認するための
研究といたしまして
原研で行っております
研究の
項目を五ページに示させていただいております。
こういう
研究は
原子力安全委員会が定められます
安全研究の
年次計画等に従って進めているわけでございまして、先ほど申しました閉じ込めるあるいは冷やすということに
研究の重点が置かれております。とめるということについての
項目がございませんが、これは現在の
発電炉はとめるということについては非常に確実にとまる
仕組みになっておりまして、現在ではそれに関する
研究を新たにやる必要がないということでございます。
閉じ込めるということにつきましては、そこにございますように
通常時の
燃料挙動研究で、
通常時に
燃料の中でどのように閉じ込められているか、それから実際に使った
燃料がどういうふうに
健全性を保っているかの
健全性試験、
事故に遭ったような場合にどのように
燃料が振る舞うかの
事故時の
研究、
機器、
構造物の
信頼性がどういうふうになっているか、そういう
項目について、まず閉じ込めに関する
研究をしております。
それから、冷やすということに関しまして、
熱水力安全研究あるいは
シビアアクシデント時の
原子炉挙動の
研究という
項目でございますが、これはいずれも
原子炉を
事故時にどのように冷やすかということについての
研究でございます。そのほかに解析的な、すなわち理論的な計算でその
安全性を評価するという、そういうことのための
研究として
安全性の解析
研究、あるいは確率論的な
安全性評価
研究、それから人的因子の
研究、こういうことを進めておるわけでございます。
まず
最初に、
事故時の
燃料挙動の
研究でございますが、六ページ、七ページ、八ページに示させていただいておりますが、これに関しましてはNSRRの実験というのを行っております。NSRRと申しますのは、ニュークリア・セーフティー・リサーチ・リアクターでございまして、
原子炉の
安全研究用の
試験炉でございます。構造は七ページにございますが、少し細かい絵になりますので
説明は簡単にさせていただきます。
プールの下の方にありますのが
原子炉の炉心でございまして、この炉心の真ん中にサンプルを入れる大きなチューブがございます。このチューブの中にテストすべき
燃料を入れて、そしてここでいろいろな
状況でこの
燃料を照射いたしまして、それで
燃料がどのくらい大丈夫なものかということをテストしているわけでございます。ここではかなり強い
出力で照射しましても、プールの底にあるということで十分に放射線の遮へいはされている、そういう構造になっております。
六ページへ戻らせていただきますが、この実験では
原子炉の
出力が異常に上昇する
事故というのを想定いたしまして実験するわけでございますが、NSRRでは非常に短い時間に
燃料の
出力を大きく上げまして、そして
燃料の振る舞いを
研究いたします。最高は、普通の
発電所で
燃料が出します
出力の七倍程度まで
出力を上げてその振る舞いを調べるということをいたしております。この結果は後のページに示しますが、「
発電用軽水型
原子炉施設の反応度投入事象に関する評価指針」に反映されております。
八ページでございますが、この図は何を示しているかと申しますと、
燃料棒の中にいろいろガスが詰めてあるわけでございますけれども、その
状況によりまして事情が変わります。グラフの中の縦軸は何を示しているかといいますと、
燃料棒の中に短時間にどのくらい
出力、
エネルギーが出たかということを指標として示しております。横軸は
燃料被覆管の中の
圧力でございますが、黒丸は
燃料が壊れたという、そういうものを示しております。白丸は壊れなかったという限界を示しておりまして、それから余裕を持って
設計の限界が示されている。すなわち、点線が実験値として示された
燃料が破損する破損しないのぎりぎりのところを示しておりまして、
設計において使われておりますのが実線で余裕を持って決められているというところでございます。
次に九ページヘ移らせていただきます。次は、冷やすということの
研究でございまして、これは
熱水力安全研究と称しておりまして、その一番主たる計画が
ROSA計画と呼んでおります。これは、冷却材が喪失する
事故等を想定いたしまして、その場合にどういう現象が起こるかというようなことを調べて、それで現在の
設計が確実なものであるということを確認している実験でございまして、その装置等は十ページに示してございます。
十ページの上に書いてある図がその装置を簡単に示したものでございまして、この装置の
特徴は、垂直方向には実際の大型のPWRと同じ寸法を使っております。水平方向に関しましてはずっと小さくて、四十八分の一というのを使っておりますが、こういう装置を使っていろいろの実験をしております。この実験によりまして非
常用炉心冷却装置、すなわち
事故が起こったときに
原子炉がどのように冷やせるかという、その確認をいたしたわけでございます。
例えば、その確認の
一つといたしましては、九ページにございますように、美浜二号炉の事象を模擬いたしました実験を行いまして、
事故発生後の
原子炉の中の
圧力変化等についてどういうふうに
経緯したかということを確認したわけでございます。
この様子は十ページの下の図にございますが、これは
圧力を縦軸にとりまして、横軸に蒸気
発生器の細管が破れた後の時間の
経緯に従ってどんなふうに
圧力が変わったかということを示しておりますが、これによりまして、これは実験装置でございますので、
原子炉の中のいろんな部分について、温度であるとかあるいは
圧力であるとか流量であるとかはかれますので、それによりまして、美浜
事故がどういうふうに起こってどう経過したか、そしてどのように確実に
安全性が
確保されたかということを確認したわけでございます。
次に十一ページ、
シビアアクシデント時の
原子炉挙動の
研究でございます。この
シビアアクシデントと申しますのは、普通の
設計基準では考えられないような基準事象を大幅に超えまして炉心の重大な損傷に至るような事象というふうなものを
シビアアクシデントと呼んでおります。
こういう事象というのは、現在の
日本で使っております
原子力発電所では、工学的な見方からしますととても起こるとは考えられないものでありますけれども、しかしどういうことが起こるかということを確認しておくということは重要なことでありますので、そういう
研究を行っているわけでございます。
もう
一つは、
シビアアクシデントが起こったときのアクシデントマネージメントということでございますが、これは
シビアアクシデントの
拡大を防止する、あるいはその
影響を緩和するための措置を
研究するものでございまして、そこにございますように、この
研究によりましてアクシデントマネージメントの有効性を評価する、あるいは
原子炉の安全裕度を評価するということを行いまして、リスクの一層の低減、
安全性の一層の向上に寄与しようということでございます。
具体的な実験の例として
一つ示しておりますのは、十二ページにございますように、これはそこの絵にございますが、直径が約四メーター、高さが約六メーターの鋼鉄製のタンクでございます。このタンクの中に冷却水を張ったタンクを置きまして、その上から
原子炉の炉心が溶融したようなものを模擬するようなもの、ここの実験としては酸化鉄、アルミニウムというようなものを溶かしまして、その溶けたものを上からこの装置の真ん中の冷却水のところへ落としまして、そしてどういう現象が起こるか。水蒸気が
発生し、かつその水蒸気が急激な
圧力上昇を伴うような爆発的な反応を起こすか起こさないか、どういう場合にそれを起こすか、そういうようなことを
研究しているわけでございます。
以上、こういう
研究を進めまして、この
研究の結果はどのように
利用されているかということでございますけれども、これは
一つには、十三ページのところにございますように、
安全性の審査指針であるとか、あるいは安全審査を具体的にされますときにこの
研究の成果に基づきまして判断される
資料を提供するということでございまして、現在までのところ、反応度
事故に関する安全指針の策定であるとか、あるいは冷却材喪失
事故のときに用いますECCSの装置の指針の改定であるとか、その評価であるとか、そういうことに使われるということであります。また、
試験によりまして実際に
安全性が
確保されることを確認するという実験の例といたしましては、先ほど申し上げました美浜二号機の
事故の再現実験を行ってその確認をいたしました。
あるいは、大型再冠水実証
試験と申しますのは、これは
原子炉の冷却水を通します大きな配管が突然に破断いたしまして、冷却水が
原子炉の外へ出たようなとき、あとを冷やすためにもう一度そこに水を注入いたしまして、そして冷やすということを確認するわけでございますが、そういう大型の再冠水実証
試験というのを行って、現在の
設計の
考え方が正しいということ、十分であるということを確認するという、そういう実験を行っております。
さらにまた、こういう
設計の計算法あるいは安全評価をするときの評価の計算法等の精度を向上させるということを目的にいたしまして、
安全性の解析手法の整備等を、これは大型のコンピューターを使うわけでございますが、そういうコンピューターを使って行います計算コードの
開発等を進めているわけでございまして、こういうことによりまして、
原子力発電所の
原子炉の
安全性の
確保を
研究としてサポートするということをいたしております。
おおよそ時間になりましたので、以上にさせていただきます。