○不破哲三君 私は、
日本共産党を代表して、
細川総理に
質問いたします。
総理は、
所信表明で、新
政権がいわゆる「
政治改革政権」であることを肝に銘じ、
政治改革の実現に全力を挙げると強調しました。同時にまた、
国民に目を向けた
政治が原点だということも繰り返し力説しました。この言葉が真実のものであるならば、当然、
政治改革に対する態度においてもそれを貫くべきであります。(
拍手)
国民が
政治改革に何を求めているかは、総
選挙の前も後も一貫しています。最近の世論調査でも、金権腐敗の解決が第一とする声が八割前後を占め、
選挙制度改革を求める声は一割台の少数
意見でした。ところが、新
内閣は、この声を無視して、小
選挙区並立制の導入が
政治改革の
中心だということを、最初から、いわば問答無用の結論としてきました。なぜ
国民の世論に目を向けないのか。それは、首相が
政治の原点だとしたことと全く矛盾しているではありませんか。(
拍手)
しかも、今、
日本の
政治は、災害
対策、不況・
円高対策など、
国民生活にかかわることだけでも、一連の緊急、重大な問題に直面しています。その多くは、従来の
自民党政治の古い枠組みの再
検討を切実に迫るものであります。その中で新
内閣が、
選挙制度の問題を最優先の
課題とすること自体、国政全般からいえば極めて異常な態度と言わざるを得ないのであります。(
拍手)なぜ
選挙制度の問題が最優先なのか、
総理の
見解をまずただしたいのであります。
しかもその中身が問題であります。小
選挙区制とは、
選挙区の最高得票者だけが当選して、他の候補の得票は無視される制度であります。これは少数
意見の抹殺というにとどまらず、今の
日本の
政党状況では、
国民の多数
意見が無視されることになります。
先日の総
選挙の結果で試算しても、
政党の配置が同じなら、得票率三七%の
自民党が小
選挙区の八〇%以上を獲得する計算になります。連立諸党が合体したら現
与党の方が多数になるなどの計算もありますが、現
与党とは、
自民党政治の継承を公に宣言している勢力であります。重大なことは、仮に二大
政党制と呼ばれる体制になっても、小
選挙区制のもとでは、
自民党政治の
立場に立つ勢力が小
選挙区の全議席を独占し、これに批判的な
国民の声は議会から締め出されてしまうことであります。
首相は先日の
記者会見で、
国民の多様な
価値観の問題について触れましたが、小
選挙区制とは、単一の
価値観が
国会を独占して、多様な
価値観を排除することにほかなりません。(
拍手)首相が昨日、希望的な見通しとして述べた「穏健な多党制」などは最初からその基盤を奪われるのであります。
選挙制度における
民主主義の核心は、
国民の多様な
意見をできるだけ正確に
国会の構成に反映することにあります。小
選挙区制とはそのことを否定する制度であり、
国民主権の
民主主義とは絶対に両立し得ないものと
考えますが、議会制
民主主義のこの基本点について首相の
見解を
伺いたいのであります。(
拍手)
首相は、並立制は比例代表制を加味していると弁明するかもしれません。しかし、二百五十議席にしろ二百議席にしろ、比例代表制を部分的に加味したぐらいで、小
選挙区制の害悪が消え去るものでないことは明白であります。総
選挙の結果に基づく試算をもう一度挙げれば、二百五十対二百五十の並立制でも、第一党である
自民党は、三七%の得票で総議席の六〇%近くを得る、こういう計算になります。
もともと小
選挙区制は、
自民党の鳩山
内閣以来の野望であります。特に並立制は、七〇年代には田中
内閣が、最近では海部
内閣が持ち出し、その都度、民主
政治を擁護する
国民の
反対の前に断念せざるを得なくなったものでした。しかも、この計画が、嶋山
内閣の最初の提案のときから、
自民党の党是である
憲法改悪の策動と結びついていたことを
国民は忘れてはおりません。(
拍手)小
選挙区並立制は、
自民党政治の中でも最も
自民党的な悪政の典型であります。それを受け継いで最優先の
課題としようという
内閣や
政党に、非
自民を名のる資格がどこにあるのでしょうか。結局は、
自民党歴代
内閣がやれなかったことを、
自民党にかわって新しい陣立てで強行しようというだけのことではありませんか。(
拍手)
しかも、不思議なことは、今なぜ小
選挙区制がということについて、首相が
国民の前に何ら
説明しようとしていないことであります。
演説で首相が導入の理由として述べたのは、現行中
選挙区制には「制度疲労に伴うさまざまな弊害が指摘されている」ということだけでした。新
内閣として
民主主義の基本にかかわる重大問題を提起するのに、
自民党のこれまでの言い分を引き写すだけといった無
責任な態度は許されないのであります。(
拍手)首相が、現行の
選挙制度は一刻の放置も許されない制度疲労に陥っているとするのなら、一体、制度疲労の深刻な弊害とは何なのか、また、現行制度がいつから制度疲労に陥ったと
考えているのか、首相
自身の言葉で
国民に明確な
説明をすべきであります。(
拍手)
自民党が一九九〇年に並立制を党議決定したとき、二つの理由を挙げていました。
その一つは、中
選挙区制では、
自民党が同じ
選挙区に複数の候補を立てるから、有権者へのサービス合戦になって金がかかる、金権腐敗のもとになるといった
説明でした。この
説明自体、
自民党の党内事情を
選挙制度へなすりつけたもので、天下に通用できる
議論ではありませんでした。しかし、最近の金権腐敗事件は、その言い分をさえ完全に覆したのであります。
実際、仙台や茨城の金権汚職は、複数候補どころか、定数一の知事・市長
選挙をめぐって起こった事件であります。また、金丸事件は、ゼネコンからのやみ献金を個人の財産としてため込んだものでありました。これらの腐敗の原因を
選挙制度になすりつけるわけにいかないことは明白ではありませんか。(
拍手)
小
選挙区制のもう一つの理由づけは、
政権交代を促進できるということでした。しかも、当時、
自民党の
選挙制度調査
会長だった羽田氏、現副
総理は、並立制を
推進する論拠として、それ以外の
選挙制度だと、
連立内閣になって国政が不安定になるから困るということまで力説したものであります。(
拍手)大体、小
選挙区制とは、どんな形であろうと、第一党の議会内での比重を得票率以上に強めることを特質とする
選挙制度であります。
政権交代云々は、手前勝手なごまかしの
議論にすぎませんでした。しかも、現在では、中
選挙区制のもとで
政権交代が行われ、しかも並立制
推進論者が絶対に避けるべきだとした
連立内閣が生まれたのであります。(
拍手)この口実が何の説得力も持てなくなったことは既に明瞭ではありませんか。
口実がすべて失われても、小
選挙区制導入の計画そのものは変えないというのなら、それは本来のねらいが公式の
説明とは別のところにあったことを告白することにほかなりません。そのねらいとは、
自民党政治に対する
国民の批判を小
選挙区制によって
国会から締め出し、
国会の絶対多数をもってどんな悪政をも強行できる、いわゆる強権
政治の体制をつくり出すということであります。
この点で特にただしたいのは、
憲法改定の問題であります。
細川代表が編さんして総
選挙直前の四月に発行した「
日本新党 責任ある変革」という本では、
自身の
立場を「護憲的改憲」、先ほども登場した言葉ですが、と性格づけながら、
国連の安全保障
活動に積極的に
参加できるように
憲法に新たな文章をつけ加えることを提案しています。現
憲法のもとでは
国連の
軍事活動に加わることはできないから、新しい条文をつけ加えて、
国連の名による海外での
軍事行動に
日本が
参加できるようにしようというものであります。これは、新生党の代表幹事である小沢氏が、
国連を
中心としたアメリカの平和維持
活動に積極的に
協力する
立場からといって、その著書「
日本改造計画」で述べている
憲法改定の提案と全く同じ性質のものであります。護憲的どころか、
憲法第九条に対する改悪攻撃の当面の最大の焦点がそこにあるのであります。
これは、小
選挙区制導入の後の
日本の
政治の大きな展望にもかかわってくる問題であります。連立諸党の合意がどうとかなどの逃げ口上でなく、こうした
内容での
憲法改定が、
細川首相が目指す方向であるのかどうか、明確な
答弁を求めるものであります。(
拍手)
このことにも深い関連のある問題で
伺いたいのは、過去の戦争に対する
評価の問題であります。
首相は、先日の
記者会見では、
日本が行った戦争が侵略戦争であることを認めました。ところが、
所信表明では、「侵略行為」と「植民地支配」についての
反省の言葉を述べただけでありました。これは、昨日の
答弁のように、不十分な部分を補ったなどというものではありません。極めて重大な後退であります。
日本が行ったのは、決して個々の侵略行為にとどまるものではありません。数百万の大軍を動員し、長期にわたった大規模な侵略戦争であったからこそ、それは
日本人三百万人の犠牲だけでなく、アジア諸国にあれだけの巨大な被害を与えたのであります。このことをあいまいにしたのでは、結局は
自民党政府の従来の
立場と本質的には変わりないことになり、首相の言う「深い
反省とおわびの気持ち」も中身のないものになります。首相は、この戦争の性格を一体どう
認識しているのか、なぜ、一たん述べた「侵略戦争」という
認識を
所信表明で変更したのか、改めて
見解をただすものであります。(
拍手)
次に、金権腐敗の問題に進みます。
新
内閣は、
日本の
民主主義を覆す小
選挙区制導入には
内閣の命運をかけるほどの熱意を示す一方、
国民の批判と怒りの的になっている金権腐敗の一掃の問題についてはなまぬるい態度しか示しておりません。この具体策という点で、
連立与党の間での合意がまだ大綱的で、協議中だということは承知しておりますから、ここでは、首相
自身が問題をどう
認識しているかに重点を置いて
伺いたいと思います。
まず、企業・団体献金を
日本の民主
政治にとって有害な、禁止すべきものと
考えているかどうかという基本問題であります。
自民党はこれまで、企業も社会的存在だから献金をする権利があるという
議論を振りかざしてきました。しかし、
政治の主権者は
国民であります。営利を目的とする企業、財界がその
経済力に物を言わせて
政治に介入する、この状況を放置すれば、財界の利益のために
政治をゆがめる金権
政治を生み出すことは必然であります。現在、中央、地方のゼネコン疑惑が摘発されつつあり、この徹底究明は国政上も重要な
課題であります。
一部には、財界団体を通じての献金なら腐敗は起きないとの
議論もありました。しかし、献金のまとめ役である経団連が、
自民党政治に対する最大の圧力団体として行動してきたことは周知の事実であります。
先日、北海道の釧路で行われた九十五カ国の
参加によるラムサール
条約締約
国会議、自然保護の国際
会議で、勧告文春の原案にあった「
環境アセスメントの法制化を各国に求める」という部分に
日本が頑強に
反対し、ついにこれを削除させたという残念至極な事件が起こりました。
もともと、
開発が
環境にどんな
影響を及ぼすかを事前に調査する
環境アセスメントは、
環境保護の基本であって、その法制化は、
日本政府の
環境庁長官が二十年前に
国連の人間
環境会議で公約したことでした。それが経団連の
反対でつぶれて今日に至り、
日本は
環境後進国というべき
立場にあることが国際
会議の場でさらけ出されたのであります。あるイギリス人研究者は、
日本とアメリカ、イギリスの
環境保護制度の比較研究を行って、
日本では企業の
開発活動の自由がはるかに大きく保障されていることに驚きの声を上げていました。
これは一例ですが、企業・団体献金とそれを裏づけにした財界の圧力が
政治を曲げるという事実は、ゼネコンのやみ献金と
公共事業発注の
関係にとどまらず、国の行政のさまざまな
分野に極めて深刻な形であらわれています。
幾つかの問題を見てみましょう。
日本は、
世界じゅうの地震と火山の一割が集中しているという
世界有数の地震国、火山国であります。そうでありながら、災害に弱い
日本列島という状況は長く放置されてきています。一昨年来の雲仙の噴火災害に続き、北海道奥尻島を
中心にした地震災害、鹿児島の豪雨災害など、重大な被害を経験するたびに立ちおくれが指摘されます。しかし、地震、火山の災害に対しても、台風や豪雨の災害に対しても、本格的と言える
対策は講じられないまま、逆に、乱
開発などによって、災害の危険が年ごとに大きくなっているのが
現実であります。
日本は、
世界第二の
経済力を持ちながら、ヨーロッパなどに比べて社会保障が極めて低水準にあることも重大な問題であります。年金でも、高齢者の過半数が月額三万円
程度の年金の受給者である。これは、サミット諸国の二分の一、三分の一という状態であって、
日本の社会保障がけた外れにおくれていることを示しています。
不況のもとで、最大の被害を受けるのが
中小企業・業者であること、そして、
中小企業というのが
日本経済の中で、工業でも商業でも大企業以上の比重を占めていることは
政府も認めました。しかし、
政府が不況
対策の重要な柱として
中小企業の営業を守ることを柱にしたことは一度もないのであります。
円高でも、
国民の購買力での力
関係では、円が一ドル二百円というのが常識であります。その実力からかけ離れた
円高が長く続いているその根底には、大企業の大量輸出による貿易の不均衡があります。その貿易の不均衡、大量輸出は、過労死を生み出す長時間・過密労働、下請企業に対する締めつけ、こういう異常なコスト切り下げ体制によって支えられていますが、
自民党政治のもとでは、ここに目を向けることはついにありませんでした。
これらの問題は、すべて
国民にとっては緊急の問題でありますが、これらがなおざりにされてきた根底には、企業献金に裏づけされた大企業・財界優先の
政治が横行しているという
日本の
現実があったことは紛れもない事実であります。(
拍手)
総理、あなたは金権
政治が生み出したこのような
日本の
政治のゆがみ、大企業・財界優先のゆがみを今日どう
認識しているのか、そして、今後の
政治に当たるに当たって、こういうゆがみを正す
立場で
政治に取り組む
決意があるかどうか、そのことを企業・団体献金の禁止にかかわる基本の問題として
総理の
見解を
伺いたいのであります。(
拍手)
企業・団体献金の廃止の問題については、
総理は、
所信表明で、
政党に対する公費助成の導入などによって廃止の方向に踏み切ると述べました。踏み切ると言うだけで、本当に企業・団体献金の禁止を実行せず、条件つきで先送りにする、そして、実際にはいつまでも企業・団体献金が残る、そういうことが繰り返されるならば、
国民の不信は一層増すばかりであります。
総理が金権
政治への
国民の批判に本当にこたえるつもりならば、あれこれの条件をつけないで、企業・団体献金の禁止に向かって確実な措置をとる、そして、少なくとも次の国政
選挙までには企業・団体献金禁止をきっぱりと実施する、こういう態度を明らかにすることを私はここで求めるものであります。(
拍手)
特に、公費助成が企業・団体献全廃止の条件とされていることは極めて重大な問題であります。これはもともと
自民党が提案したものであって、さきの
国会には、総額三百億円、
国民一人二百五十円の資金を国の
財政から
政党に回す
法案が
提出されました。しかし、企業献金、金権
政治から脱却すると言いながら、それを国の
財政で賄うというのは、全く言語道断な
政党のおごりであります。本来、
政党というものは、みずからめ必要とする資金を、みずからの
活動で
国民の
支持を広げ、主権者である
国民の一人一人の個人献金によって賄うのが当然であります。私
たち日本共産党は、党員の党費及び
機関紙
活動などの収入以外には、企業、団体からの献金は受けず、すべて個人献金によって党の
政党活動を賄っております。企業献金を減らした分を国の
財政によって賄おう、
国民の税金によって賄おうというのは、私は、これはまさに
政党としては許されないおごりであって、これは絶対に断念すベきであるということを
総理に
主張したいのであります。
特に、公費助成ということになれば、これはすべての
国民が、
国民の税金から
政党の資金を拠出することになります。ある人が、自分はあの
政党は絶対に
支持しない、こういう信念を持っていたとしても、その人から徴収された税金は、あれこれの
政党に、その人の信念に反して助成される、そういう結果になります。
憲法は、
国民の思想及び信条の自由を厳格に保障しておりますけれども、この点からいっても、公費助成は
憲法上の重大問題であります。
こういう危険まではらんだ公費助成を、それを条件にして企業・団体献全廃止に踏み出すという
政策は、私は、
民主主義に対しても、
国民の権利に対しても重大な背反であり挑戦だということを指摘せざるを得ないのであります。(
拍手)
総理は、
答弁の中でも再三にわたって、
国民に目を向ける、その
政治の原点を強調されました。しかし、今、新
内閣が用意している
政治改革の
法案は、小
選挙区並立制を
中心にした、そしてまた公費助成を含むもので、これは
国民の願いに真っ向から反するものであります。本当に
総理が、また新
内閣が
国民の声にこたえることを使命とするというのであるならば、そういう反動的な
政治改悪
法案を直おに準備を中止し、企業・団体献金の禁止、
政治腐敗の防止、このことを
中心にした本当の
政治改革の諸
課題に向かって、改めて根本的な準備を行い直すべきであります。
総理が、新
内閣が、あくまでも現在の小
選挙区導入の計画に固執するというのであるならば、
日本共産党は、
日本の
民主主義を守ろうというすべての
国民とともに、この計画を打ち破るために闘うであろうということを最後に申し上げ、その
決意をもって私の
質問を終わるものであります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣
細川護煕君登壇〕