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参考人(
松本惟子君) 私は、
日本労働組合総連合会の
松本でございます。
私は、今
労働基準法改正の
審議に当たりまして、当
労働委員会で
参考人の
意見を聞く機会をつくっていただいたことに感謝を申し上げたいと思います。
せっかくの機会でございますので、今回の
労働基準法改正の持つ課題と、それに対する簡単な評価と問題点を指摘させていただいた上で、女性
労働者の置かれている
状況と
労働基準法改正に女性
は何を期待しているのか、そして今
改正の争点ともなっている
変形労働時間制について
意見を述べさせていただきたいと思っております。
さて、宮澤内閣が昨年六月に閣議決定をしました
生活大国五カ年
計画では、「
労働時間の
短縮は、勤労者とその家庭にゆとりをもたらし、職業生活と家庭生活、地域生活との調和を図り、「
生活大国」の実現を目指す上での最
重要課題の
一つである。」というふうに位置づけております。そして、「
計画期間中に
年間総
労働時間千八百時間を
達成することを
目標」として、「
労働基準法の
改正により、早期に週四十時間
労働制に移行するとともに、」「
計画期間中に大部分の
業種において週四十時間
労働制を実現する。」と、こうおっしゃっております。
この観点から提案されました今回の
労働基準法改正案の
内容について見ますと、九四年四月から週四十時間制に移行したこと、それから猶予
期間の終了時期を明記したこと、年次有給休暇の勤続
要件の
短縮と育児休業を
出勤扱いとしたこと、
時短に取り組む
中小企業への援助措置を拡充することといったことにつきましては評価できます。
しかし、我が国の長時間
労働の原因である時間外・休日
労働の削減につきましては、その上限規制を見送り、
割り増し賃金率の引き上げについても当面休日
労働についてだけ引き上げ、時間
外労働については現状のままとしています。そして、年次有給休暇の付与日数の引き上げと
完全取得の条件整備となる病気休暇、
介護休業の法制化も見送られております。これでは、
年間総
労働時間千八百時間という
政府の
目標達成は困難だと言わざるを得ません。また私は、新たに導入される
年間単位の
変形制について、
経済計画にある就業生活と家庭生活の調和を図るということに逆行しないかと非常に心配をしております。
それでは、最近の女性
労働者の
状況について触れてみたいと思います。
一九九一年の女性
労働者は一千九百十八万人で、雇用者数に占める割合は三八・三%となりました。一九八五年から比べますと、その数は五百六十四万人、雇用者数に占める割合では八・八%の増加となっております。女性雇用者の
平均年齢はこの間一歳、それから
平均勤続年数はこの間一・三年延びております。このように女性雇用者の数はふえ続けて、
平均年齢、勤続年数も延び、女性の職域も少しずつ拡大し、共働き世帯が多数になっております。女性
労働者の
労働は、もはや
日本の
経済社会の発展には欠かせないものであり、同時に共働きが当たり前の社会となりつつあることを示していると思います。
それでは、女性
労働者が働き続けるための条件はどうなっているか、現状について述べてみたいと思います。
まず、
賃金を
平成三年で見てみますと、
事業所規模三十人以上の
事業所での
平均賃金の総額は男性の五〇・八%と、その格差は拡大する一方でございます。既に御承知かと存じますが、
日本はILOの九二年ワールド・レイバー・レポートで、先進工業国の中では男女の
賃金格差が最も大きいことが指摘されているわけでございます。ILO総会では、同一
賃金に関する百号条約を批准している
日本に対して
賃金格差改善のための措置をとり、その推進
状況を
報告するように求められております。
次に、妊娠、出産にかかわることでございます。
女性
労働者の中で、出産者の割合は年々低下をしております。出生率問題が言われながら低下をしておるわけでございます。昭和四十六年では二・四%だったものが、
平成三年には一・四%となっております。妊娠中の軽作業への転換や育児時間請求者の割合も、これまた年々低下をしており、妊娠中の通院休暇、それから妊娠障害休暇も極めて不十分であるために、現在妊娠・出産を
理由として退職する者が妊産婦の三割を超えております。妊娠・出産にかかわる制度は充実されているといいながら、
実態は不十分であり、その結果先進国と違って年齢別
労働力率は依然としてM字型となっております。
昨年四月に、男女を
対象とした育児休業法が施行されました。家族的責任にかかわる制度で男女を
対象としたことは、
日本において画期的であったことは評価しておりますけれ
ども、私
どもが強く要求いたしました育児休業中の所得保障、これについては何ら措置が講じられておりません。満一歳未満の子を育てる
労働者の年齢は、多くが三十五歳以下でございます。この年齢層の
賃金はさほど高くはございません。ですから、
法律で一
年間休めるといっても、所得がなければ、休業しないか、休業しても
期間を短くせざるを得ないわけでございます。そして、育児休業後の保育所入所の困難さから、入所時期に合わせた
期間育休を
取得するか、すぐ入所できるならば育休をとらないで職場復帰しようかと悩んでいる声が身近に聞こえてまいります。
問題は、子供を産み育て、働き続けることを願う
労働者が、子供を産まないで仕事を続けるか子供を産んで仕事をやめるかの選択を迫られ、やむを得ず退職をしてしまうということでございます。
我が国も批准しております国連の女子差別撤廃条約には、「子の養育には男女及び社会全体が共に責任を負うことが必要である」と明記をされております。ILO百五十六号条約にも同様のことがうたわれております。したがいまして、
政府は条約批准の責任上からも、育児休業中の所得保障、保育所の拡充、学童保育の法制化を早急に図るべきだと考えております。
均等法が施行されて七年が経過いたしました。施行以降、確かに職域は拡大し、男女差別定年年齢などは是正をされてきています。ところが、募集・採用、配置、昇進・昇格など、努力義務とされてきたステージでの改善の速度は鈍くて、特に募集・採用では、景気がよいときは女性の時代とか、女性の活用と言っておりましたのに、景気が後退した途端に、
企業は女子大生の募集・採用数を大幅に減らしました。均等法を逆手にとったコース別雇用
管理の導入が増加しておりますが、これが新たな差別を生み出し、差別の固定化につながるのではないかと懸念をされております。
労働省は、「コース別雇用
管理の望ましいあり方」で問題点を指摘しつつ、
企業に対して指導をしておりますけれ
ども、実際どの程度改善がされているのか大変疑問でございます。私
どもは、早急に雇用における全ステージでの男女差別を禁止するよう
法律を
改正することを強く要望いたします。
一方、均等法の制定とともに、強い
反対にもかかわらず
労働基準法の女子保護規定が緩和をされました。さらに、八八年の労基法
改正によって
変形労働時間制が拡大導入をされました。均等法の目的である職業生活と家庭生活の調和は本当に実現できるのでしょうか。生活時間との
関係で見てみたいと思います。
我が国は、性別役割分業意識が大変強い国です。古い
調査ではありますが、一九八二年に総理府婦人担当室が行いました国際比較によりますと、男は仕事女は家庭という
考え方には賛成、どちらかといえば賛成を合わせますと、旧西ドイツが三四%、
イギリスが二六%、
アメリカ三四%に対して、
日本は何と七一%となっております。総理府の九一年の
調査では、この
考え方に賛成が男性で三四・七%、女性は二五・一%となっていますが、九一年の総務庁の共働きの妻と夫の家事・育児時間
調査で見ますと、平日で妻は四・二一時間、夫は約五分となっております。仕事は、男性八・四二時間、女性五・四五時間ですが、この家事・育児時間と仕事時間を合わせますと、男性八・五時間、女性九・六六時間ということになります。その結果、共働き女性は睡眠時間や趣味、交際の時間を減らすことになっているわけでございます。役割分業に対する意識は変化してきておりますが、
実態として家事、育児を担っているのは女性であることに変わりはありません。
このような中で、年次有給休暇はどのように使われているのでしょうか。連合が三十五歳以上の女性を
対象に行った
調査では、自分の病気や子供の保育園、学校行事が挙げられております。
年休
の本来の目的である心身のリフレッシュからはほど遠い
実態でございます。多くの人は
年休を自分が病気になったときのために残しておくのでございます。したがいまして、何としても病気休暇の法制化を図っていただきたいと存じます。
さらに、老人介護の問題がございます。同
調査によりますと、かつて働きながらと現在を合わせますと、介護経験者が一五・七%あり、その中でだれが介護をしたかといいますと、自分が中心にというのが四一・二%という答えが出ております。三十五歳以上の女性
労働者が、今後仕事を続けていく上で障害となると思われるものに老親の介護を挙げているのは、当然と言えば当然でございます。
介護休業法の制定と地域介護援助システムの充実を早急に図ることを要望いたします。
そして、女性
労働者が
労働時間
短縮に最も強く期待しているのは何か。同
調査では、長く働き続けていくためには
労働時間の
短縮、家族看護休暇、年次有給休暇の
取得促進、これが挙げられており、時間
短縮を進める上で最も力を入れてほしいことは一日の
時短となっております。また、本年三月に小学校三年までの子供を持つ母親
労働者の
調査をいたしました。働きながら子育てのために必要なものとしては、育児休業中の所得保障と一日の
時短が挙げられております。さらに、本年四月に一万人を
対象とした
調査を連合がいたしておりますが、ここでも
時短や
労働時間、休暇制度に対する要望の第一位は一日の
時短というふうになっております。このように、長く働く女性を
対象とした
調査ではいずれも一日の
時短への要望が強くなっております。生活は一日の二十四時間を
単位として営まれているわけでございますから。
一日の会社での拘束時間が八ないし九時間、通勤時間が大都市であれば一時間近くとなりますが、小さな子供を持って働く女性は駆け足で保育所に駆け込み、子供を抱えながら買い物をし、帰宅してからは座る間もなく食事の支度、子供の世話をし、子供が寝た後にやっと自分の時間でございます。この間、多くの働き過ぎの夫は帰ってきません。帰ったころは子供は寝ている、こんな風景が当たり前となっています。これが
生活大国を目指そうとしている
日本の勤労者の姿でございます。
今や世界は、先ほど述べましたように子の養育は男女及び社会全体がともに責任を負うという考えのもとにさまざまな措置が講じられているのです。それにしましても、家庭責任を負えないどころか、世界的に有名になった過労死までしてしまう男性の働き方は異常としか言いようがございません。男も女もともに家庭生活と職業生活に責任を持つためには、まず一日の
時短、何といっても青天井である男性の残業時間の規制をすることだと思います。男性の残業時間をこのままにして、一部エリート女性は男性と同じように働きなさい、そのほかの女性は家事、育児、介護を担いながらほどほどに働けばいい、働けなくなったらば家庭に入って、その後パートで働けばどうですか、この間の年金、税金は優遇いたしますよというふうに
政府の女性
労働政策は役割分業を基礎にし、女性
労働者の二極分化をしようとしているのではないかと勘ぐってしまいたくなります。このように多くの女性
労働者は、今なお家事、育児及び介護に責任を負いながら職業生活と家庭生活の両立を続けているのが現状でございます。
したがって、女性
労働者が働き続けることができるようにするためには、会社人間の男性たちも家族的責任を持てるよう働き方を変えること、
労働時間を
短縮することが重要となります。しかし、
変形労働時間制は女性
労働者の置かれている現状を改善する方向ではなく、むしろ職業生活と家庭生活の両立を困難にするのではないかとの危惧の念を持たざるを得ません。
それでは、
変形労働時間制の評価について
労働省の意識
調査を見てみましょう。一日の
所定労働時間が八時間を超える日があっても休日がふえるのであればよいとする回答が男性四七・一%、女性四二・三%と、男性の方が多くなっております。ところが、一日の
所定労働時間はどんなことがあっても八時間を超えない方がよいということについては、男性二六・四%なのに対して、女性が三一・六%で、女性の方が一日の
労働時間八時間を重視していることがうかがえます。
この
調査でも明らかなように、女性は一日の
所定労働時間は八時間ということを非常に大切にしております。言うまでもありませんが、
変形労働時間は一日八時間、週四十時間を
弾力化するものです。これに我が国の場合は残業規制が不十分ですから、一日八時間、週四十時間を超えた時間に残業と通勤時間が上乗せされることになります。家事、育児及び介護に責任を負っている女性
労働者にとっては最悪の場合仕事をやめざるを得ないことも起こりかねません。これでは、
変形労働時間制の拡大に
反対せざるを得ません。どうしても拡大するということであれば、変形
期間を通した週
平均の
労働時間を四十時間ではなく三十八時間とか三十六時間とすべきだと考えております。
政府は、
年間単位の
変形制について、
年間休日の増加が目的であるということを
説明されております。しかし、一日を八時間とした場合に、四週八休制である
年間百四日の休日を実施している
企業では、これ以上休日をふやさなくても
変形制を導入できます。
年間休日をふやすとの趣旨を具体的に実現する制度とすべきであり、このためにはまず私は、第一にこの制度を導入する
企業については
完全週休二日制に相当する百四日の休日と国民祝祭日を加えた百二十日程度の休日確保を
要件とすべきである。
二つ目には、週四十八時間の上限は当然として、一日の上限について八時間とすること。三つ目は、育児・介護に責任を負っている
労働者や勤労学生等については
変形制の
適用を除外することをはっきりとさせてほしいと思います。
以上、三点について提案をさせていただきます。今後の
審議にぜひ生かしていただきたいことを申し上げまして、私の
意見といたします。
ありがとうございました。