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公述人(
藤田至孝君) 御紹介いただきました
藤田でございます。座らせて話をさせていただきます。
私は、
生活関係の
予算と施策につきまして
意見を申し上げます。また、中長期的な
立場に立ちましても今後の
課題について
意見を申し述べさせていただきます。
豊かで
ゆとりある
国民生活の確立ということが現在の
日本の
政策の
目標であることは、もう既に昨年の六月の
政府の
生活大国五カ年
計画で策定されておるところでございます。
さて、
生活の豊かさ、
ゆとりということを考えますと、それは大きく分けまして
賃金、
労働時間、
住宅、
社会資本、
社会保障、
環境、それから
思いやりのある
社会連帯づくり、こういう七つのことが考えられると思います。
日本はこれから大変な
高齢化時代、あるいは
労働力不足、あるいは
人口減少の
時代に入るわけでありまして、三%の
成長は長期的に見て難しいと言われておるのであります。
〔
委員長退席、
理事井上裕君着席〕
ただ、これまでは
欧米に比べましてかなりの
高度成長を
維持することができたのでございまして、そのおかげによりまして
賃金、
労働時間、あるいは
住宅、
社会資本、
社会保障などの
整備が進んでまいったのであります。ところが、これからは低
成長が
人口要因から避けられないということでございまして、これからは厳しい
時代に入ると。ことしの春闘などはその第一年目ではないかというふうに考えられるわけでございます。
そのような
高度成長を終わりまして、長期的な低
成長時代に入る前に、とにもかくにも
賃金におきましては、
名目賃金でございますけれども、
欧米並みに追いついたということは大変幸せなことであったと思うのであります。ところが、
賃金は
欧米と同じ
水準になりましたけれども
物価が非常に高いと。いろいろな
国際統計を見ましても三割から四割高い。したがいまして、
賃金は同じでも
物価が高いために
生活水準はやはり依然として
欧米に比べて三割から四割低いという、そういう結果になっておるわけでございます。
したがいまして、これからの
生活大国づくりのためには、まずもって
物価の安定、むしろ
引き下げが必要である。これから
賃上げが難しい
状況に入るという中では、むしろ
物価を
引き下げるということによって
生活水準を引き上げていくということが必要になってくるわけでございます。
幸いにして、今大変な
円高でございます。これは
輸出産業、
中小企業などにとりましては大変な問題をもたらしているのでありますけれども、
国民生活全体から見ますというと、これは
物価安定の最大の
援護射撃でございまして、これを何とか活用いたしまして現在の一・一%台の
物価の安定を図る、できれば
物価の
引き下げを導いていかなければならないということでございます。
そこで、この
物価の動向を見てみますというと、
生産物関係の物の値段は安定しているのでありますけれども、
サービスの
価格が上昇しておるということでございますので、大体、
日本は衣食住が満ちまして物に対する
需要が
安定期に入りまして、それで今、
国民は百円
所得がふえますと四十円近くは旅行でありますとか観光でありますとか、いろいろな
サービスに使うようになっておるのであります。したがいまして、
日本もだんだんと
製造業が横ばいあるいは衰退に入りまして、第三次
産業、
サービス産業が
需要の面からも
拡大期に入っておると。そうしますと、
需要もふえているということでありまして、しかもこの
分野は
生産性がなかなか上がらないということでございまして、そういうことでこれから考えられますことは、そういう第三次
産業における
物価の上昇ということが非常に心配になるのでございまして、そういう第三次
産業、
サービス産業を
中心とする
物価の
安定策をとらなければならないということでございます。
次の二番目の
労働時間でございますけれども、これは先ごろ
毎勤統計が発表になりまして、
平成四年は一九九二年ということで、長年の
目標でありました二千時間を超えるようになったのであります。これは主として
残業が減ったということでございます。したがいまして、電機、自動車、鉄鋼、造船、その他の部門におきましては
残業による
減収が
賃上げによる分を下回るというそういう
減収の
状況になっておるのでありまして、これがここ数年は続くのではないか。
政府の言っておりますように、千八百時間の
残業は千四百八十時間くらいでございまして、今そういう
分野におきましては三百時間も超えているのであります。それをそこまで持っていくためには一年に五十時間ずつ
残業を減らしても三年かかるということでございまして、そういう時間的な
ゆとりはあるけれども
所得はふえないという、まさに今そういう
時代に入ったんではないかと思うのであります。
それから、
ゆとりのその自由時間をどう使うかということが
課題でありまして、例えば
高速道路代を
新幹線よりも高く取っているような国は
世界にないのであります。私が行きましても、
高速道路代を取られるのはニューヨークでありますとか、サンフランシスコの川を越えるときでありますとか、あるいは
フランスとかスペインにも若干ありますけれども、それは名目的なものでございまして、
日本のように家族で自由時間を使うために車でドライブをするといえば
新幹線に乗ったよりも高い
高速道路代を取られるというようなことでは、これはとても
生活の自由時間の
ゆとりを享受できないということであります。そういう
意味から
社会資本の
充実ということが必要なわけでございまして、今度の
予算でもかなり使われておりますけれども、私の考えでは、借金を将来の世代に残してまでそういう
社会資本の
充実を図るということは問題でありますけれども、今、特にこの不況というそういう
緊急避難を必要とされるときであるということの中で、公債の発行による
社会資本の
充実ということも必要になっているんではないかというふうに考えるわけでございます。
それから、
住宅も地価の安定により、また
住宅ローンの
引き下げによりまして取得しやすくなっているわけでありますけれども、
政府の五カ年
計画で
目標とされている五年分にはほど遠いものであります。外国は大体二年から三年分で家が持てるのでありまして、やはり依然として豊かさを阻害しているものは
住宅、持ち家であるということでございます。
ところが、よく考えてみますと、六一%の
労働者は土地と家を持っているのでございまして、そういう
意味でこれからの
対策といいますものはまだ家を持っていない人に対する
対策、特にきょう主として
意見を申し上げまする子供を生み育てる
人たちが良質の安い
価格での借り家を求められるというそういう
政策が、非常に重要になってくるということでございます。
そこで、そういう物の豊かさから心の豊かさということが求められる
時代でございまして、いつまでも
日本人が
お金だ、物だ、
財産だと言っていては、これはもう何か
守銭奴国民みたいになるおそれがあるのであります。私は、
ゆとりとはある程度の
所得と自由時間と
財産を持って、その一部を
社会やほかの人のために使う
ゆとりである、
思いやりであるというふうに定義をしているのでありまして、そういう点から、これから
日本はそういう自由時間や
お金の一部を人のため、
社会のため、
世界のために使うというそういうことこそ、本当の
ゆとりではないかというふうに考えるわけでございます。
さて皆さん、
予算でございますとか
国民所得の分配が世代間でどういうふうに分けられているかということをお考えになられたことがあるでしょうか。
例えば、今、
日本の六十五歳以上の高齢者は一三%でございますけれども、年金でございますとか医療でございますとか老人福祉でございますとか、そういう十三%の人に四割近い
予算が使われているというふうに私は試算をするのでございます。また、それに対しまして、多数の人口を占めながら非常に
予算配分が少ないという年齢層があるのでございまして、それが結婚して子供を育てるそういう中間層なのでございます。
そういうことで、私が二番目に申し上げたいことは、
予算の世代間配分あるいは
国民所得の世代間配分をもう少し公正にいたしまして、子供を生み育てる世代にもっともっと配分をしないと
日本は大変なことになるということなのでございます。
考えてみますと、現在の不況も、これは第二次ベビーブームの世代が十八歳に到達するのが終わったということ、そして昨年の
日本の出生数は百二十万と史上最低でございまして、合計特殊出生率も一・五二になったんではないかというふうに予測をされておるわけでございまして、要するに
労働者がふえない、人口すなわち消費者がふえないということで生産もふえないし
所得もふえないし不況になるという、これが現在の
日本の姿でございます。ですから過去における
高度成長といいますものも、昭和二十一年から二十四年に生まれた二百七十万人という戦後の第一次ベビーブームがだんだん就職をしてきたということの成果であったのであり、バブル景気とよく言われますけれども、これもよく考えますと、第二次ベビーブームの一年間に二百万人生まれた
人たちがどんどん就職をして
所得を得て結婚をして家を建てるという、そういうことの結果として土地に対する
需要も急騰いたしましてバブル景気が生まれた、こういうことなのでございます。それがこれからはずっと
労働力も減る、人口も減るというそういう過程でありまして、やはり
経済成長は人口が
中心的な決定要因でございますので、
日本はこの
人口要因から見まして将来が非常に心配されるということでございます。
御承知のように、ベバリッジは一九四二年にベバリッジ報告を出して
社会保障の父と言われておるのでありますが、この報告はイギリスのちょうど
日本の今のような出生率低下に対する
対策として出されたものなのでございます。
そこで、ビバリッジ報告が言っておりますことは、まず児童手当を新設しまして、安心して子供を生み育てられるようなそういう
生活環境をつくらなきゃならない、それから、病気になった場合の医療、児童手当と医療というものを前提といたしましてその上に年金を構築するという、それがアイデアなのであります。
日本は、ずっと臨調路線で
国民負担率を、例えば高齢化が一番進む二十一
世紀の一五年から過ぎても五割で済むようにというような基本
政策でずっとまいったのでありますが、ただ私は、ベバリッジと違うところは、その
国民負担率を安定させるために、そういう子供に対する
社会保障でありますとかあるいは子供を育てる
人たちに対する
社会保障でありますとかそういうものを切りながら高齢者の方に回してきたという、そのことが今日の少産
社会というものをもたらしまして、これがこれからの大変な事態を招こうとしているのではないかということなんでございます。
そこで、考えてみますと、マンアワー当たりの
労働供給といいますものは、
労働時間短縮が今大体年二%、年四十時間ぐらいで一九八九年以降進んでおりまして、それで
労働者が大体一%ぐらいしかふえておりませんので、マンアワーで見た
労働供給といいますのはもう既に一九九〇年から減少の段階に
日本は入っておるわけであります。それで、働いてくれるのは十五歳から六十四歳のいわゆる生産年齢人口でございますので、この
人たちの数は、これは一九九五年でありますからあと二年後に減少に入るのであります。
それで、人口そのものが現在の一億二千四百万が二〇一八年の一億二千九百万、わずか二十七年で今よりも五百万しかふえないのであります。ということは年間十五、六万しかふえないという計算でありまして、そういうことで人口も減り出すということなんであります。これはもちろん言うまでもないことでありますけれども、出生率の低下によるのであります。
そこで私は、健やかに安心して子供を妊娠し生み育てられるという、それが本当の高齢者にとってもまた
日本全体にとっても長期的に
生活大国を
維持するあるいは実現する基本であるということで、もちろん出産は個人の自由でありまして、それが
政策的にどうというような意図は全くないのでありますけれども、とにかく
環境をつくるということは、これは次の世代に対する大人の責任ではないかと考えるのであります。
そこで私は、そういう安心して子供を妊娠し生み育てられるために、これから九つのことを申し上げたいのであります。
一番目は児童手当の
充実ということでございまして、御承知のように、
日本は第一子五千円、第二子五千円、第三子以降一万円ということでありまして、三人子供を持ちますと児童手当は二万円でございます。それに対しまして、ドイツは子供を三人持ちますと三万五千円でございます。スウェーデンは四万六千円でございます。
フランスは四万六千円でございます。そして、老齢年金の一人当たり平均とそれを対比してみますと、例えば
日本の老齢年金は今十五万円でございますので、十五万分の二万円でありますので、それは一三%に当たるのであります。そのパーセントがドイツは三四%であります。スウェーデンは二七%であります。
フランスが三二%でございます。そういうことで、私が先ほど
予算や
社会保障や
生活の費用の配分を世代間で公平にしなきゃならないと言うことの一つの例証は、例えばこういうところにもあらわれているのであります。
それで、ILOの調査によりますと、児童手当の
社会保障費に占める割合は
日本は〇・四%にすぎないのであります。それに対してイギリスは七%、ドイツは四%、
フランスは一一%、スウェーデンは一五%でございます。また、
国民所得に対する児童手当の給付率も
日本は〇・〇六%でありまして、イギリスの二%、ドイツの一%、
フランスの四%、スウェーデンの六%に対しまして非常に劣っているということ。もちろん、一人子供を生めば幾らもらえるから子供を生むというような、そんなことはあり得ないのでありまして、ただこれは、児童手当というのは、子供を持つことに対する
国民全体の
思いやりのあらわれであるということであります。そういうふうにビバリッジは言っているのでありまして、子供を持って大変ですねというそういう意思を
国民としてあらわすということが必要なんではないかということで、児童手当の拡充ということを私は考えていただきたいのであります。
それから二番目には
住宅手当であります。
子供を持つ人はそんなに給与が高くありませんけれども、ヨーロッパでは、やはりある程度子供が生めるような広さの質のよいアパートに住むためにはかなりの家賃を払う、そこで収入と子供数と払っている家賃の三つを比べまして、それで
社会保障として
住宅補助を行っている、
住宅手当を発給しているということでございまして、これが二番目でございます。
それから三番目には、ILOの百二号条約にも言われておりますように、分娩費といいますのはこれは
社会保険で現物給付で全額負担しなければならないのでありますけれども、
日本は御承知のように二十四万の現金給付でありまして、出産は病気ではないということでこれは保険の給付の対象になっていないのであります。それは先進国の中では
日本くらいでありまして、そのために
日本はILOの百二号条約でこの部分を留保している状態でございます。現実には三十万くらいかかっているのでありまして、分娩費を保険のカバーにしていただきたいということ。
それから四番目には、三歳未満の医療を無料にすることを考えていただきたいということ。
それから五番目には、保育所の拡充と夜の保育の
充実ということ。
それから六番目には、教育の税控除ということを設けていただきたい。
それから、特に育英会の育英資金に、入学金を程度とするそういう貸付制度を育英会で公的にやるようにしてはどうかということ。
それから今度は八番目でありますけれども、育児休業、介護休業ということがこれからの
生活大国維持の非常な
基盤でありますので、これを
充実させる。昨年から育児休業が導入されましたけれども、その
社会保険料の使用者負担というのは二〇%程度でございまして、やはりそういう
経済面も
充実をしなければならないということ。
それから九番目、最後でありますが、
日本くらい若いときに
賃金が安くて子供を育て終えたころに高くなるという国はないのでありまして、いわゆる年功
賃金というのは、若くて結婚し、子供を育て、うんと金がかかるときには給与は低い。ところが子供を育て終わったころになりますと、これはもう非常な高さになるということでございまして、これは非常な矛盾でございます。
やはり、仕事に見合った
賃金ということで
日本の
社会全体がもっと早くから高い給与が取れるような、そういう
賃金体系というものを考えるべきではないのか。使用者にせよ
労働組合にせよ、何歳で結婚をしろとか、そうすればこれだけかかるからそれに見合う
賃金を払うとかというような、そういう大それたことを一体どんな権限で言うのかということを私は考えざるを得ないのでありまして、考えてみますとそういういろいろな矛盾というものが結局
日本の出生率を低下させているのだということでございますので、その点をお願いしたいということであります。
それからもう一つ、これで最後でございますが、今、
日本は人口が一億二千四百万でありまして、六十五歳以上が千六百万人、一三%であります。そのうちで七十五歳以上のいわゆる後期高齢者と言われる人が六百三十万でありまして、高齢者の三九%を占めているのであります。それが二○二〇年ころになりますと人口が先ほど言いましたように一億二千九百万、そして六十五歳以上が三千二百万人でありまして、二四%、四人に一人になる、のであります。ところが、そこまでしか一般に言われていないんですが、問題はその中の実に千六百万、ちょうど今の六十五歳以上全部の人が二〇二〇年以降は七十五歳以上の後期高齢者になるのであります。
そういうことで、今は年金を払えば元気でお年寄りの人は
生活できるのでありますけれども、そろそろ二十一
世紀に入りまして病気がちで寝たきりというようなお年寄りがふえてまいりますので、今度は介護ということが
社会保障や
生活の安定の
中心になる。そのためにはやはり介護制度というものをしっかりさせまして、そして在宅介護に対しては介護手当を、例えば自宅に住んでは衣食住が必要でありますし、あるいは妻や嫁や子供がやはり休む、働けなくなるわけでございますので、やはり介護手当を今の
お金で五、六万程度は、かつて一年間だけ
国会で認めたことがありますけれどもそういう介護手当というものの制度化をぜひお考えをいただきたいということでございます。
どうもありがとうございました。(拍手)