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矢田部理君 私は、
日本社会党・
護憲民主連合を代表して、さきの
宮澤総理の
施政方針演説に対し、私どもの見解を明らかにしつつ、質問を行います。
世界は今、歴史的な転換期に差しかかっております。半世紀近く東西を画してきた冷戦という一つの時代が終わり、新しい歴史の一ページが記されつつあります。それだけに、我が国の政治は今何をなすべきか、いかなる進路をとり、どのような役割を果たすのかが内外より厳しく問われております。にもかかわらず、
宮澤総理、あなたは、政権をとって一年、本格政権などと期待されながら、顔が見えない、何もしない、指導力がないと批判され、存在感の希薄な総理として世論の指弾を浴び、国民の支持を失ってきました。
その典型例が
佐川急便事件であります。「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する」と言った
イギリスの
歴史家アクトンの警句を引用するまでもなく、
ロッキード以来、
政治腐敗はとどまることを知らず、今や極限に達しております。このような汚職と利権の政治を再生産してきた根源には、政財官の癒着と、その上に成り立ってきた長期にわたる自民党の
政治支配があります。それを突きませなかった私ども野党にも一半の責任なしとはしませんが、
リクルート事件に見られるように、総理御自身も関与を指摘されてきたこの腐敗の体質と、それを生み出した構造について、まずどのような認識をされておられるのか伺いたいのであります。
また、政治は信なくば立たずと言われてから久しいのでありますが、腐敗のきわみとも言うべき、泥棒をしても金が欲しいと語ったのは、ほかならぬあなたを総理・総裁に押し上げた責任者である阿部文男その人でした。その究極の姿が、政権の誕生に右翼、暴力団の関与までも許すことになったのであります。事ここに至って政治の信頼は地に落ち、我が国の
議会制民主主義は根底からその存在を問われることになっているのであります。総理、この事態をどのように受けとめておられるのでしょうか。
佐川急便事件は、二百名以上の政治家に数百億円に上る巨額の資金がさまざまな名目で動いたと言われており、日本の疑獄史の中でも空前のものとして指摘されております。金丸氏の五億円は氷山の一角にすぎず、それらの金の流れについてはほとんど明らかにされておりません。また、いかなる理由でそのような大金が政界等にばらまかれたのか突きとめる必要があります。
佐川スキャンダルの本質は、運輸業界の後発企業が全国展開をしていくに当たり、許認可権を握る運輸省を初めとする既存の
利権構造に食い込むために、自治体を含む政官界に独自の利権のネットワークを張りめぐらす必要があった、巨額の金の流れはその手段であり、
わいろ性の強い資金であったと考えられます。金丸氏が五億円授受に際し何かわけのある金ではないかと思い最初断ったというのは、まさに語るに落ちたでありまして、その実態について、小沢一郎氏を初め必要な証人喚問を行うなど本格的な解明をする必要があります。
佐川急便事件のもう一つの問題は、
自民党政権の総理・総裁を選ぶ過程において右翼、暴力団が関与し、我が国憲政史上ぬぐいがたい汚点を残したということであります。しかも、当の竹下元首相は、
総裁選直前に暴力団の関与の事情を知っていた疑いが強く、少なくとも総現在任中その事実を知ったと証言までしておりますのに、その責任を一切とろうといたしておりません。事はもはや一個人、一政治家の問題ではなく、
我が国政治制度の根幹が厳しく問われているのであります。激しい怒りが全国に充満し、竹下やめるべしという声は今や天の声となっております。
宮澤さん、総理・総裁の座にある者として、政権の誕生に暴力団が関与したという忌まわしい事態について、政治家が暴力団と関係を持つことは適当でないというような評論ではなく、どう受けとめ、どのようなけじめをつけるべきだと考えておられるのか、明快な見解を示すべきであります。
これら多くの疑惑に包まれた
佐川急便事件の全容解明はいまだ緒についたばかりであり、今国会が正念場であります。総理は、これまでも事件を一貫して他人事とし、解明に消極的、受動的な態度をとり続けてきました。政治的、
道義的責任の問題につきましても、竹下氏については個人の問題と逃げ、時には金丸副総裁を慰留するなど、関係者をかばったりしてきたのであります。これでは、国民の怒りを静め、政治の信頼を回復することはできません。
宮澤内閣の姿勢と責任が厳しく問われていることを肝に銘すべきであります。総理は、真相解明は既に終わった、事件としては一件落着をしたとでもお考えでしょうか。
そこで、
政治改革について申し上げます。
さきの臨時国会で二十一項目の改革がなされましたが、極めて不十分なものであります。
政治改革の最大の焦点は、
金権腐敗政治を一掃し、
政治倫理を確立するためにどのような法律と制度をつくるべきかということであります。
金権腐敗の原因を選挙制度のせいにし、小選挙区制導入に道を開こうとするのはとんでもないすりかえであり、真犯人を隠して
身がわり犯人を差し出すたぐいのものと言わなければなりません。総理に改めて、
政治改革の原則は何かをただしたいのであります。
真の
政治改革は、まず第一に、企業、
団体献金を廃止することであります。
政治資金は個人の浄財を基本にし、
受け入れ団体の一本化やその徹底した透明化を図り、違反者への罰則等の強化などを断行すべきであります。
アメリカでは企業、団体の献金は早くから禁止されており、百ドル以上の所得や贈り物まで資産報告の記載事項とされております。ところが、我が国では、
ロッキード疑獄の教訓として
政治資金規正法が改正され、その附則第八条で五年後には
企業献金等を再検討すると明記されましたのに、いまだにこれが自民党の反対で日の目を見ておりません。宮澤さん、この約束をどう守るのでしょうか。
政治改革のもう一つの柱は、
政治腐敗防止法の制定であります。腐敗した政治家への罰則の強化とあわせて、政界からの追放を制度化することであります。
イギリスでは一八八三年、
政治腐敗防止法がつくられました。その結果、買収、供応などの
腐敗行為によって有罪と確定した候補者はその選挙区から
終身立候補ができません。運動員の行為であっても当選無効、七年間の
立候補禁止となり、
政治腐敗はほぼ一掃されたのであります。
総理、
イギリスで百年前にできたことがどうして我が国ではできないのでしょうか。総理の
改革断行の決意と、いつまでにどのように実現をするのか具体的なプログラムを国民の前に示すべきであります。
次に、外交政策について質問をいたします。
まず、
冷戦終結後の世界認識についてであります。
東西冷戦の一方を担ってきたソ連、東欧などの
社会主義国は、その負担の重さとたび重なる過ちゃ失敗によって一挙に瓦解いたしました。疲弊をしたのは
アメリカも同様であります。そして、残された世界には、東西の枠組みを超えて、
地域紛争、南北問題、貧富の格差、環境、麻薬、疾病など解決されない深刻な課題を抱え、そこには勝者もなければ敗者もないのであります。これら人類的、地球的な規模の課題に取り組むためには、もはや旧来の
冷戦型思考や
先進大国による世界管理という発想では対応も解決もできず、根源的な発想の転換が必要であります。
冷戦終結後の我が国の
国際政治における役割と進路について、幾つかの提言をしながら、総理の所信を求めたいと思います。
その第一は、日本の戦後責任の問題であります。
日本が
太平洋戦争で敗北して半世紀になりますが、我が国はいまだ戦後責任を果たしておりません。
日中戦争から
太平洋戦争に至る一連の侵略は、
アジア諸国と多くの民衆に対しはかり知れない大きな損害を与えました。
従軍慰安婦や強制連行問題はその典型的な例であります。長きにわたる朝鮮に対する
植民地支配を含めて、深く反省し、心から謝罪することが必要であり、同時に適切な補償をする責任があります。
そこで、私は、国権の最高機関である国会として、当参議院が改めて
戦争責任についての反省と謝罪を
特別決議にして内外に宣言すること、また、国会に戦後責任問題の
特別委員会を設置することを同僚の議員の皆様方に提案を申し上げたいのであります。
総理、あなたは自民党の総裁としての立場から、国会の
特別決議の実現を推進するとともに、政府としてもそれに見合って、調査と補償、教育など適切な措置をとるべきものと思いますが、いかがでしょうか。
外交について第二の問題は、冷戦後の国連のあり方についてであります。
我が国はこれまで
国連中心主義という建前をとってきました。総理もそのように強調をされておりますが、果たしてそのとおりでありましょうか。これまで
自民党政府の
国連外交は、
国連中心主義とはほど遠く、
アメリカ追随一辺倒の外交であったと断言せざるを得ません。事実、日本は、一九五一年に国連に加盟して以来、国際の平和や正義に関する
国連決議の採択において、
冷戦時代を通じて、我が国は
アメリカに次いで反対や棄権が多かったのであります。しかし、
国連自身も、東西対立のはざまで、みずからの存在意義を見出そうと苦悩してきました。したがって、私は、もはや過去を非難するだけの立場をとろうとは思っておりません。
私は、冷戦が終結した今日、こうした国連の歴史を総括し、二十一世紀にふさわしい全人類的な国連の再構築を図ることが世界と日本の国際的な役割にほかならないと確信するものであります。そのための我が国の
国連協力は、
平和憲法の基調に沿って非軍事の立場を堅持し、大きな経済力や高い技術力をてこに民生の面で積極的な役割を担うべきものであると考えますが、まずこの
基本認識につきまして総理の見解を伺っておきます。
総理、国連は、今や発足当初の三倍以上の加盟国を持つに至りました。とりわけ、冷戦の終えんによって
地球的規模での対応が可能となり、また
地勢環境や南北問題、飢餓や貧困、人権問題などでしてこれらと密接に関連して多発している
地域紛争など、緊急の課題に直面をいたしております。
国連がこうしたグローバルな課題に取り組むことができるためには、その抜本的な改革が必要であります。我が党は、平和、公正、民主の観点から、既に重要な提案を行っております。その第一は、
国連総会の権限強化。第二は、安保理の拡大と
地域代表制の確立、拒否権の廃止を含む見直し。第三は、環境、人権など新たな理事会の創設。第四には、国連の下部機構としての
地域機構の確立などでありますが、総理はこうした
国連改革を提唱し推進する決意がありますでしょうか、伺っておきたいと思います。
ところで、総理、政府は安保理の
常任理事国に名のりを上げているようであります。しかし、安保理は、第二次大戦の戦勝五大国が特別の地位と権限を占めており、国際的な公正と
民主主義の原則にもとるものであります。また、安保理は、
軍事的強制措置をも決定、推進する機関であります。そのような安保理に、
平和憲法を持つ日本が
常任理事国となることは適切ではありません。日本は、我が党が提案している
国連改革を実現することこそが先決であり、それがなされないままの
常任理事国入りは本末転倒であると考えますが、総理の見解を伺っておきたいと思います。
次に、PKO問題について質問をいたします。
国民の強い反対を押し切って
カンボジアに自衛隊を派遣して三カ月が過ぎました。総理は、戦争が終わって平和な地域に行くのだ、五原則があるから大丈夫だと国民に説明をしてきました。しかし、
カンボジアではいまだ戦闘はやまず、むしろ選挙が近づくにつれて激化の様相さえ呈しております。停戦は事実上破綻し、派遣要員が戦闘に巻き込まれたり攻撃の対象になりつつある現状にどのように対処をするのか、撤収をも含めて、
カンボジアへの対応を全般的に見直すべきであると考えますが、総理の所見を求めます。
昨年夏、国連の
ガリ事務総長は「平和への課題」という報告を発表いたしました。そこでは、国連による国内紛争への介入や軍隊の事前配置、あるいは重装備の部隊を投入する構想など、従来のPKOを超えた
システムづくりが提案されております。その一部は既に実施に移されており、国連の
平和維持機能は、原則や基準があいまいなまま軍事行動が拡大する状況になっております。政府はこのような方向を支持する立場をとろうとしております。
また、最近、これにあわせて、PKFの凍結解除やPKO諸原則の緩和の主張が政府の閣僚などからも出されております。憲法上の問題も解決せず、基準も不明確なままに、軽率な判断は控えるべきであります。日本は、国連の信頼性の確保のためにも、公正な
国際秩序づくりや、大国の誤り、行き過ぎをチェックする役割をもっと引き受けるべきであると思いますが、総理の所見をここでも伺っておきたいと思います。
日本は、状況に振り回されるだけではなく、独自の
平和協力の立場と体制を積極的に確立すべきものと思っております。私たちがかつて提案をしてきた、自衛隊とは別個に、非軍事、民生、文民による常設の
国際協力隊という構想を具体化することが必要であります。今からでも遅くはありません。総理の率直な見解を求めたいと思います。
次に、ODA、
国際開発協力について質問をいたします。
日本のODAは世界第一位となり、
事業ベースでは二兆円に近づきつつあります。しかし、日本の
国際開発協力がこれだけの規模になり重要性を持つに至っておりながら、国民の代表たる国会が具体的に関与できるシステムになっておりません。これでは、国会は国民の負託にこたえることができません。政府は、少なくともその
基本方針や予算、計画等について事前に国会に示し、その承認を得るとともに、責任性の明確な行政の一元化を図るべきであります。
さらに、私は、贈与比率の向上、生活や環境の
破壊防止、
NGO向け援助の拡大、
青年海外協力隊の大幅拡充などを実施するよう求めるものであります。私たちは、そのためにも、ODAの理念や諸原則を明記し、国会の責任ある関与や行政の一元化を内容とした
ODA基本法が必要であると考えております。この際、政府は、基本法の成立のために積極的に協力すべきであると考えておりますが、いかがでしょうか。
次に、軍縮とアジア・太平洋の平和の問題について質問をいたします。
第二次
戦略兵器削減条約に見られますように、米国とロシアを中心とした本格的な軍縮の動きは、アジア・
太平洋地域にとっても歓迎すべきことであります。日本はこれに対して、ロシアの核兵器の解体・処理、軍民転換への協力など支援を強化すべきであると考えておりますが、総理の見解はいかがでしょうか。
また、太平洋に位置する日本としては、海の核の削減、全廃が大きな関心事でありますが、総理、
米ロ両国に対し全廃に向け積極的な働きかけを行うべきではないでしょうか。
政府はかねてから
極東ソ連軍の脅威を軍拡の口実としてきましたが、ロシアの現状は、その脅威も顕著になくなってきているのではありませんか。
日ロ平和条約の締結や
日朝国交回復はさらに平和の
環境づくりを加速させることになると思いますが、どのように推進をしようとしているのか、総理の所見を伺いたいと思います。
このような情勢の中で、日本も大がかりな軍縮を進める必要があり、またそれが可能であります。政府は最近、
中期防衛力整備計画を見直し、五千八百億円の削減を発表いたしましたが、これは
中期防総額のわずか二・五%にすぎません。しかも、導入しないと言っていたAWACSなど高性能で高価な兵器の導入を行うなど、軍縮の流れに逆行いたしております。
今日、日本の防衛費は、中国と南北朝鮮、ASEAN六カ国の合計に匹敵しておりますが、これではアジアに向けて軍縮の
イニシアチブをとることはできません。思い切って、三年をめどに、
陸上自衛隊を五万人、海空で二万五千人を削減してはどうでしょうか。加えて、
新型兵器の調達などを取りやめれば三兆円の削減が可能であります。それでもなおかつ、
近代兵器で武装した陸上十万人を含む十六万人の強大な戦力が残ることになり、いかなる意味でも国の安全が損なわれることは考えられません。
なお、兵員の削減につきましては毎年退職をする二万人の隊員を中心にし、余剰の部分は自衛隊とは別個の非軍事の
国際協力隊などに
組み込み人道援助や災害救助に当たることになれば、一挙両得でもあります。大胆な軍縮を追求することを提案し、総理の答弁を求めたいと思います。
日本の軍縮は、当然、アジア・
太平洋地域の諸国に対しても、軍縮と平和の
システムづくりへの強力なメッセージとなるでありましょう。軍縮による平和の配当はこの地域全体に配分されるとともに、これら諸国の内部においても生み出されることになります。総理は、アジア・
太平洋地域の軍縮のためにどのような
イニシアチブをとられるおつもりか、お答えをいただきたいのであります。
一月二十日、
アメリカでは
クリントン政権が発足をいたしました。この政権は、大幅軍縮と
国内経済の再建に力を入れるものと期待されており、
国民生活の向上と人種和解の達成が課題となっております。
一方、米国の対外政策がどうなるかが私たちにとっても大きな関心事であります。米国は世界の警察官にならないとは言っても、グローバルな軍事力を維持し、国連などを舞台に軍事介入を続けたり、軍縮のツケを日本に肩がわりさせてくる可能性があります。また、
国際経済においては、公正な競争を旗印に、日本などに強力な圧力をかけてくることも予想されます。このような
クリントン政権に対し、総理はどのような立場と手法で関係を築いていかれるのかを答弁いただきたいと思います。
また、
東京サミットでは対
ロシア支援策がテーマの一つになるはずでありますが、我が国としては、
政経不可分論を転換して具体的な支援を進めることが、
国際社会の安定のためにも、領土問題の解決のためにも有益であると考えておりますが、総理の所見を伺います。
次に、内政問題に質問を移します。
私は当面の最大の課題である
景気対策や農業問題を中心に質問し、その他の課題は明日、同僚の渕上議員が担当することになっております。
我が国経済は、戦後半世紀の間に経験をしたことのない
資産デフレと循環型の
複合不況にあえいでおります。今日に至るも景気は本格的な回復の兆しを見せておりません。にもかかわらず、
宮澤内閣は
景気動向の判断を誤り、二年おくれで、ことしの一月の月例報告でやっと不況であるとの認識を示しました。
景気判断を誤った結果、政府は、
景気対策のタイミングを失しただけではなく、最大規模だけが売り物の十兆七千億の
景気対策も所期の成果を上げておりません。
また、
景気回復の見通しにつきましても、多くのエコノミストは、よくてもことしの後半、悲観的な見方では年内は絶望的であるとさえ言っておりますのに、総理はこの春からと楽観的な見通しを語っておられます。そのとおりでしょうか。
景気見通しを再び誤診することになりますればどのような責任をとられるのか、総理の答弁を求めたいと思います。
さらに、九三年度の
経済見通しについて、政府と民間との間には
実質成長率でおおむね一%の開きがありますが、総理は三・三%成長に確信をお持ちでしょうか。
東京サミットではこれが
国際公約になることも予想されますが、責任を持てるのか、根拠を示して答弁をいただきたいのであります。
なお、今回の不況の中で、
資産デフレにつきましては過剰な投融資を行った企業や金融機関が
自己責任で対処すべきであり、政府が
バブル経済のツケとでも言うべき土地や株の救済をすることは許されないと考えております。したがって、
公的資金の導入は将来も絶対にしないと断言できるかどうか、総理の答弁を求めておきます。
我が党は、ゆとりと豊かさが実感できる生活を求めて、
生活関連の社会資本の大幅な拡大が必要であると考えております。それは
景気対策からも重要であります。総理も
生活大国五カ年計画を掲げましたが、初年度の予算でその展望が開けるとはお世辞にも言うことができません。
生活関連の公共投資はわずか五百億円増加しただけで、配分も従来の枠組みを変えておりません。これでは、五年分の所得でマイホームが取得できるとか、
欧米先進国並みの
生活環境整備を行うと言っても絵にかいたもちにすぎません。
総理、
生活大国というのであれば、
日米構造協議における四百三十兆円の拠出も含め、その
グランドデザインを明らかにし、具体的な計画を国民の前に示すべきではないでしょうか。総理の答弁を求めます。
また、昨年春以来、
不況対策と税の
不公平是正の見地から、私たちは大幅な
所得税減税の必要性とその実行を政府に強く求めてまいりました。
GNPの六割余を占める個人消費は急激かつ大幅に落ち込んでおります。所得の減少が消費を停滞させ、
消費不況を増幅させていることは明白であります。しかるに、政府は、減税は貯蓄に回り
不況対策に役立たないとして、国民の切実な要求について九三年度予算でも一顧だにしておりません。ところが、この政府の態度は足元から崩れつつあります。与党である自民党は、短期の特例国債を発行し、これを財源に、戻し税方式とはいえ二兆円規模の減税実施を検討中とのことであります。今や減税は、経済界を含めて天の声と言っても過言ではありません。総理に決断を迫りたいと思います。
次に、農業問題についてお伺いをいたします。
今日、我が国の農林漁業は、過疎、高齢化、
後継者不足、経営難などで崩壊の危機に瀕しております。中
山間地域農業も深刻であります。農業等の持つ
公益的機能は、単に食糧の供給に限らず、
地域経済の活性化、
国土保全等多岐にわたっており、
国民生活に欠かせないものであります。このような厳しい状況のもとで農産物の例外なき関税化による我が国の米などの市場開放が行われれば、農林業の崩壊にさらに拍車をかけることは必至であり、その影響は広く
国民生活全般に及ぶと言っても過言ではありません。
現在の
ガット農業交渉は明らかに
食糧輸出国ペースで進んでおりますが、そもそもガットにおいても、
農産物貿易につきましては、
農業生産が土地や
気象条件等に左右されやすいことなどから輸入制限の特例を設けてきたのであります。このようなことを考えますならば、我が国の米の完全自給や各国の
食糧安全保障の承認は、日本だけの特殊な主張ではなく、広く国際的にも普遍性を持つ正当な主張だと言うことができます。政府は、
国会決議を尊重し、今後事態がいかなる方向に推移をいたしましても、我が国はガットの場で米市場の開放に反対し、
食糧安全保障の権利を主張するという基本的な立場を貫き通すよう強く求めたいと思います。総理、この間政府部内には不協和音が流れておりますが、この場で確固たる反対の意思を表明されてはいかがでしょうか。
次に、環境問題についてお伺いをいたします。
限りある地球の環境は悪化の一途をたどり、豊かな自然は国の内外で取り返しのつかない破壊の危機に瀕しております。これからの環境保全のためには、この社会を循環型社会へ転換することが急務でありましょう。このため、環境負荷の小さい製品や循環型の好ましい生産に対する優遇措置、環境汚染を抑える機能を持った環境税の導入など、経済的な手法を確立することも求められております。また、環境アセスメントの法定は最小限必要なことであります。この点、総理はどのように考えておられるでしょうか。
日本は、狭い利害にとらわれることなく、日本と世界の豊かな自然を次代に引き継ぐという視点で、世界に誇り得る環境基本法を持つべきであります。しかし、政府部内の作業では、企業の圧力や省庁間の対立でその内容が後退しつつあるのは全く遺憾であります。総理は、演説で環境基本法の制定に触れられましたが、今国会に提出することを公約なさいますか。日本が環境分野で世界の
イニシアチブをとるためにも、どのような決断をされるのかが問われております。お伺いをしておきたいと思います。
最後に、憲法問題について質問をいたします。
昨今、憲法見直し論議が新たな装いを凝らして登場してまいりました。その特徴の一つは九条問題でありますが、第一に、PKOや国連の決議に基づく
地域紛争に自衛隊が疑義なく出動できるようにするために憲法を改正すべきである、二番目には、国連が行う
軍事的強制措置に自衛隊が参加、協力することは集団的安全保障として憲法上可能である、第三には、集団的自衛権の行使は憲法上禁止されていないなどの主張が行われております。
そのねらいは、いずれも、自衛隊の海外展開によって
冷戦終結後の
国際秩序づくりに参画をしようというものであります。その立場から、明文改憲、またはさらなる解釈改憲を掲げるものであり、断じて容認することはできません。これらの主張につきまして、総理の所見を求めます。
平和憲法は、冷戦構造のもとでは閉塞状態に置かれ、必ずしも有効に機能してきませんでした。しかし、冷戦後の世界の趨勢は、一部に
地域紛争が発生しておりますが、全欧安保協力会議に見られますように、平和と軍縮の時代の到来を告げております。それは憲法の期待した時代の幕あけとも言うべきであり、憲法の平和主義はその生命力を回復する最良の機会を迎えたのであります。この視点から、冷戦構造の産物である日米安保条約も、自衛隊も、この際根本的に見直す必要があるのではないでしょうか。そして、アジア・
太平洋地域での平和と軍縮、協力と共生のシステムへと置きかえるべきであります。総理の所見を伺っておきます。
元来、日本国憲法は、人類普遍の原理と崇高な理想に基づいて制定されたものであります。とりわけ、憲法前文と第九条に託した平和の原則は、侵略と戦争という大きな犠牲を払って実現した憲法の核心であり、国民の誇りとなっております。日本国憲法は、二十一世紀に向けて世界を先取りした平和の哲学として、また、国民主権、基本的人権、国際協調主義などを推進する基礎として、国の内外でその理念を生かし、開花させるべきであります。日本国憲法のその意義と今日的役割について総理の憲法認識を伺って、私の質問を終わります。(拍手)
〔
国務大臣宮澤喜一君登壇、拍手〕