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政府委員(
清水湛君) まず、代表訴訟の目的の価額を九十五万円とみなすということにいたした根拠でございます。
九十五万円とみなしましたために訴状に貼用する印紙の額は御
指摘のとおり八千二百円で足りる、こういうことになります。
なぜ九十五万円としたかということでございますが、実は株主の代表訴訟の手数料の算出の基礎となる訴訟の目的の価額につきましては、いわゆる請求額説という
考え方と、それから九十五万円説、つまり訴訟の目的の価額が算定不能であるということで九十五万円とみなすというような
二つの
考え方がこれまでも裁判所の中でございまして、実は裁判所によって取り扱いが分かれるというような問題があったわけでございます。
それぞれに
それなりの理由というものがあるわけでございますけれ
ども、
法律の解釈として窓口の
段階でそういう解釈が分かれるというのは適当ではないんじゃないか、どちらかにやはり統一をする必要があるということが第一点でございます。私
どもといたしましては、九十五万円とする方に統一をするということで
法律の
規定でその統一を図ったということがまず第一の理由になるわけでございます。
それならばなぜ九十五万円の方を選んだのかということでございますけれ
ども、やはり
会社が直接取締役に対して損害賠償請求をするという場合にはいいわけでございますが、株主が
会社の権利を代位して請求するというのじゃなくて、いわば株主を代表して請求するということになりますと、直接に例えば百億なら百億の請求をする場合に、株主がその百億円の利益を受けるわけではない、株主全体、
会社全体のために百億の請求をするという
立場にございますので、百億を基準としてこの訴訟費用を納めさせるということはいささかどうかというような点、それからやはり代表訴訟を起こしやすくするというような
意味におきまして九十五万円説をとるのが相当である、こういうことになったわけでございます。
それからもう
一つは、これは日米構造協議でも問題にされたわけでございますけれ
ども、アメリカ側の
考え方というのは、やはり取締役なりそういった
会社の経営執行部の
責任というのは非常に重い、しかし
法律上
責任が重いというだけではなくて具体的にそれを追及する手段というものがないとこれは絵にかいたもちではないか、
日本でも取締役とか監査役の
責任は非常に重いと言われているけれ
ども現実にはその
責任の追及はされていない、その
責任を追及する手段である代表訴訟
制度というものがうまく機能していないからそういうことになっておるのではないかというような
指摘があったわけでございます。
私
どもアメリカ側からそういうような
指摘があったからそうだというふうに考えたわけではございませんで、代表訴訟
制度の活性化というのはかねてからの問題であったわけでございます。そういう
意味で、これはアメリカ側からその問題の
指摘があったからというわけではございませんけれ
ども、やはり代表訴訟
制度の活性化を図るという
観点から九十五万円とするのが妥当である、こういうことにいたしたわけでございます。
それから第二番目の御質問の株主は
会社に対し訴訟に要した費用の額の範囲内において相当な額の支払いを請求することができるという、この場合の相当な額とはだれが決めるのかということになるわけでございます。
代表訴訟に勝訴した株主は、このような費用につきましてみずから相当と認める、自分は相当な費用はこの範囲の金額であるということで恐らく第一次的には
会社に請求をするということになろうかと思います。
会社の方では、そうはいってもそれは相当な額ではないということになって、もしこれが争いになるということになりますと、結局勝訴した株主の方では
会社を
相手取って相当な額の支払いを請求するということになるわけでございまして、
最終的には裁判所がその相当な額を判断するということになろうかと思います。
私
ども具体的には、本来の訴訟費用は勝訴いたしますとこれは敗訴者の負担になりますので問題外といたしまして、訴訟費用ではない費用で
会社に対して支払いを請求することができる金額といたしましては、訴訟を提起する場合の準備行為としての事実
関係の調査費用というようなものが主なものではないかと。それ以外のものといたしましては、弁護士の
事務所に行くための交通費用、あるいは司法書士等に払った報酬等がこの相当な額の中に含まれるものと考えておりますので、ある程度そういった形で具体的な基準というものはおのずからつくられていくのではないかというふうに思っております。
それから三番目の質問の帳簿閲覧権を十分の一以上から百分の三以上にした根拠は何かということでございます。
これも株主の権利の問題でございまして、帳簿閲覧権というのは株主が
会社に対して各種の行為をするいわば前提としての行為でございます。例えば取締役の解任を請求するとか、あるいは先ほど申し上げましたような取締役の
責任を追及するための代表訴訟を提起する、こういうような行為をする場合のいわば前提となるべき調査行為でございます。これにつきましては、
現行法は十分の一ということになっているわけでございますが、これを百分の三に緩和いたしました。一これも実は日米構造協議等で、
日本における株主の権利というものは非常に弱いのではないか、アメリカではたとえ一株の株主でも帳簿閲覧を請求することができる、もちろん
会社側では不当な閲覧請求に対してはこれを拒否することができるということは大幅に認められておりますのでそれはまた
考え方の問題かと思いますけれ
ども、そういった株主が直接に
会社をコントロールするというような思想はかなり強く出ておるというような
問題がございます。
日本では、午前中も御
議論がございましたように、監査役という
制度がございますのでそれだけ株主のこういった閲覧の要件というようなものも重くなっているという事情があるわけでございますが、しかし少なくとも株主が帳簿を閲覧していろんなことを調査するという場合に一割持っていなければならないというのはいささかこれはきつ過ぎる、一般的に
商法で株主が各種の行為をする場合の持ち株要件というものが大体百分の三になっているというようなことも考慮いたしましてこの際百分の三までに緩和する、こういうことにいたしたわけでございます。
この百分の三は一人で持っていなければならないというわけではございませんで、株主が数十人集まって合計で百分の三ということも可能になるわけでございまして、この結果として帳簿閲覧の請求をすることができる株主の数は具体的にはかなり増加するというふうに思われるわけでございます。
そこで問題は、代表訴訟にせよあるいは帳簿閲覧にせよ、こういったものが乱用されてかえって
会社が不利益な
立場に追い込まれるのではないかというような御心配があるわけでございます。
代表訴訟につきましては、アメリカと違いまして株主の方に直接金を払えという
意味での請求は
日本ではできませんで、
会社に対して支払えというような形になっておりますということと、それからやはり何でもかんでも
会社を困らせるために訴訟を起こすということは認められておりませんで、もしそういう悪意のある訴訟の提起ということになりますと、これは被告となった取締役の方で裁判所に申し立てまして、取締役がこうむることがあるべき損害につき担保の提供を求めることができる、こういうようなことになっているわけでございます。
これまでも裁判所によりましては九十五万円とみなして印紙を納めさせて代表訴訟の提起を認めておるという裁判所があるわけでございますが、我が国の実情といたしましては、実際問題としてそれほど代表訴訟が乱用にわたるような形で起こされておるというようなことにはなっていないというふうに思うわけでございます。
アメリカの実情等を私は必ずしもつまびらかに承知しているわけではございませんけれ
ども、アメリカではやや乱用の気味があると。それは株主の権利意識の問題も違いましょうし、弁護士の数も非常に多いというような問題もある。あるいは弁護士の報酬が成功報酬
制度であるというようなことも影響しているというような
指摘をなさる方もおられるわけでございますけれ
ども、それほど私
どもといたしましては乱用の弊害ということは心配する必要はないというふうに思うわけでございます。
また、帳簿閲覧の問題につきましても、十分の一から百分の三になったからといって、
会社の方では不当な閲覧請求に対してはこれを拒むことができるということで、これは
現行法の
商法におきましても拒絶の事由というものは明確にされておりますので、これらを適切に行使することによりまして、いわゆる総会屋等が
会社から金品の交付を受ける等の目的を持ちまして不当にこのような行為をするということにつきましては十分に防御をすることが可能ではないかというふうに思っているわけでございます。
以上でございます。