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牛嶋正君 かなり私から見ますと楽観的な
見通しのように聞こえるんですけれ
ども、私はもう
ちょっと悲観的な
見通しを持っております。果たして個人消費需要が四%伸びるだろうかということ、それからまた民間設備投資がプラスに転じるだろうかということについても少し悲観的でございます。その理由を三つ挙げさせていただきたいと思います。
一つは、昨年の
総合経済対策、それから
平成五年度の
景気対策を盛り込んだ
予算、そして今回の新
総合経済対策、
規模は違いますけれ
ども、私はいずれも内容といいますかパターンは同じではないかというふうに思うんです。やっぱり公共事業あるいは
公共投資中心の
経済対策である。だとしますと、なるほど内需の中でかなりの部分を占めております
公共投資、これは膨らみますけれ
ども、先ほどからおっしゃっておられますように、他の内需
項目、消費あるいは投資、民間の企業投資に対してどれほどのインパクトを与えるだろうか。余りにも
景気対策の内容が同じパターンであるために、そういった量的に膨らませるだけでは
効果というのはそれほど期待できないんではないかというのが一つの理由でございます。
それからもう一つの理由は、これは常々申し上げておりますが、私は
日本の
経済の構造がバブル
経済発生以前から少しずつ構造を変えてきているんではないかというふうに思っております。それはいつごろからかということですが、これは徐々に変わっていくわけでいつということは言えませんが、仮に、
政府が行政改革をお進めになり、そしてまた
財政運営におきまして増税なき
財政再建を打ち出された
昭和五十七年というのが一つの起点ではないかというふうに思っておりまして、その前後でいろいろな内需の主な
項目の動きというものを比較いたしますと、幾つかの大きな変化を見出すわけでございます。
そのうち、個人消費需要に関しましては、この前も申し上げましたようにその前後で大体四、五%の平均消費性向、それから限界消費性向の減少が見られます。もちろん
昭和五十八年以降の方が低くなっているわけであります。そして、民間の設備投資もその
昭和五十七年を起点にいたしまして前半、製造業は平均で八・一%の伸びを示しているのに対して、それ以降は五・一%の伸びにダウンしております。非製造業の方はそれほどダウンはありませんが、それでも前半が、すなわち
昭和五十七年以前が一一・一%、以降が一〇・五%でございます。
さらに、非製造業の中で電力、ガスの投資動向、これが非常に産業の大きな構造の変化みたいなものをよく示しているというふうに思いまして、電力、ガスの投資関数を算定させていただきました。五十七年以前は
GNPを説明変数にいたしますと
GNPにかかる係数が〇・〇一五八でございます。それが五十八年以降は
GNPにかかる係数は〇・〇〇五五、三分の一に下がっております。
このように見てまいりますと、図式で書いても非常によくわかるんですが、五十七年が一つの転換点であるということがよくわかります。これごらんいただけますかしら。(資料を示す)ここまでが五十七年以前、横軸が
GNP、縦軸が電力、ガスの産業の投資額です。こういう勾配。これが五十八年以降は緩やかになっていますね。それから、
政府支出、
財政支出の方も、
財政支出関数と申しますか、
GNPであらわしますと五十七年以前が
GNPにかかる係数が〇・二二八、それが五十八年以降は〇・一三七でございます。大体三分の二。これは御
承知のようにシーリング方式、ゼロシーリングとかマイナスシーリングをおやりになったわけで、それが出てきているわけでございます。
こういうふうに見てまいりますと、内需の重要な
項目であります個人消費需要にいたしましても、設備投資にしても、それからまた
財政支出にいたしましても、全部五十七年でキンクしているわけです。こういった変化をとらえて、それ以前は我が国の
経済というのは需要先導型
経済であったけれ
ども、このあたりから需要不足型
経済に移行したのではないかというふうに私はとらえているわけでございます。
そうだといたしますと、今回
景気が
回復いたしましても、そういった
経済構造の変化があるわけでありますから、果たして三・三あるいは三・五といった実質
成長率を期待することができるか、こういう点で二つ目の理由を挙げさせていただくわけでございます。
ですから、先ほ
どもケインズ論が
議論されました。私は需要先導型の
経済の場合はそんなにケインズの理論に基づかなくてよかったと思うんですが、むしろこういうふうに需要不足型
経済に移ってきたときこそケインズ理論というものが非常に重要な
意味を持ってくるというふうに思っております。
三番目の理由でございますけれ
ども、私は今の企業の投資意欲の停滞、沈滞というのは、バブル
経済の崩壊によって民間企業がその投資目標といいますか経営方針を見失っているんではないかというふうに思っているわけでございます。
これまでは、
昭和二十年代の
経済復興期以来、国の目指している
経済政策の目標とそれから民間企業の投資目標というのは私は一致してきたんではないかと思います。ですから、国がとりあえず貿易立国として国際市場において競争力をつけなきゃいけない、それに従って民間企業も省力化のための大変な投資を行ってきたわけでございます。それが成熟社会に移ってきて、価値観の多様化によって少しずつその両者に乖離が見られてきた。
私はその典型が
政府が今度お立てになった生活大国づくりではないか。この生活大国づくりと企業の経営方針がどう結びつくのかというふうに
考えますと、これまでは民間企業の経営方針というのはシェア拡大主義でありまして、これがバブルの崩壊によって挫折してしまったわけです。まさに私は企業の投資目標というのは今や本当に見失われているんではないか。これが続く限りは投資意欲というのは沈滞が続くんではないかと思っておりまして、これが私は最も重要な点ではないかというふうに思うわけでございます。
ですから、ここでこういった
総合経済対策を打ち出される場合には、今国が目指しておられる地球社会に共存する生活大国、これを実現していくに当たって企業がそこでどういうふうな役割を果たし得るのかということをもう一度お互い確認し合う必要があるのではないか。そうなりますと、何も
税制で優遇
措置しなくても、環境のための投資、省エネのための投資などがやられていくんではないかと思うわけでございます。
こういうふうに
考えていきますと、やはり先ほど申しましたように、個人消費需要の方がある程度
回復しても、民間の設備投資の
回復というのは少し時間がかかるのではないか、こういう今
見解を持っております。これにつきまして
政府側のお
考えをお聞きしたいと思います。