○立木洋君 私は、これまで
調査してきた問題を踏まえまして、
労働力の問題について全般にわたることはできませんけれども、今後さらに
充実した点を今後の
調査会の
機会に述べるということをまず最初に申し上げておきたいと思います。
中長期的な
労働力の問題を考える場合に、やはり現在の
労働力の問題あるいは
雇用問題、これを離れて考えることができないと思いますものですから、その点についてまず一言述べておきたいと思います。
今日の
日本の
雇用・失業
状況は、一九九一年以降、それまで大きな問題となっていたいわゆる人手不足という
状況から一転して
雇用調整の時期に入りました。大
企業では、中高年ホワイトカラーを
中心とした人員の削減、そして新規採用の大幅
抑制という状態が生まれてきております。
これはバブル
経済のもとで
労働市場が膨張して、一九八七年から九一年にかけて
雇用労働者は三千八百九十八万人から四千三百七十三万人へと四百七十五万人も増加したわけですけれども、バブルが破綻をし、過剰生産との結びつきによる複合不況によってこうした事態が生じたものであるということが言えるとしても、今日のいわゆる
雇用調整については合理化できない面があるということを述べたいと思うんです。大
企業では、売り上げが全く伸びなくなっても利益が出る経営体質への転換を図るとか、低
成長下でも収益を
確保できる経営体質づくりに取り組むとの目標を掲げて、固定費の削減、損益分岐点比率の引き下げに乗り出して、その
中心的な
課題が人件費の縮小に置かれております。製造業の
雇用調整実施
企業の比率を見てみますと、一九九一年第四・四半期が一八%、九二年第一・四半期が二五%、第二・四半期が三〇%、第三・四半期が三三%、第四・四半期が三九%というふうに上昇してきております。特に機械関連業種では五二%にまで増加しているというのが
状況です。
これは景気局面の悪化という
状況があるものの、それによるだけのものではなく、この不況をてこに新たなリストラの
推進にかかわっているということも見なければならないと思うんです。また、生産拠点の海外移転への増加は
産業空洞化とも関連して重視されるべき問題だと考えます。
日本では高度
成長が終わった一九七〇年代初めから二十年間、
経済は三回の大きな不況に直面してきました。第一次石油ショック、第二次石油危機、そして円高不況。そのたびに独占資本は、
労働者に対する賃金
抑制や
雇用調整、さらに
中小企業へのしわ寄せを進めて、ME化を基礎とした
技術革新の
導入と結びつけて不況に
対応してきたと言うことができます。
こうした
日本経済は、将来の
労働力問題とも深くかかわっているので述べたわけですが、問題はこうした
労働者や
地域経済へのしわ寄せで問題を解決するのではなく、大
企業の内部留保を取り崩すことによって賃上げを進めたり、あるいは時間
短縮の完全な実施によって
国民的な購買力の
向上と
雇用確保の方向によって不況の克服を図ることが重要な点だということを指摘しておきたいと思います。
さて
労働力の問題は、長期的に見ますと、新規の追加
労働力供給量は、
出生率の低下の影響で一九九〇年代後半より年々
減少していくことになると見られます。約百三十万から百万
程度になるんではないか。他方中高年
人口はふえ、また女子
労働力人口も年々ふえていますので、
労働市場に少なくない
変化が生まれてくると考えられます。
こうした展望に立って、
企業本位を最優先とする
雇用政策ではなく、憲法の基本的人権尊重の精神を踏まえて、勤労の権利、団結や団体交渉の権利、人種、信条、性別などによる差別の排除、これらを十分に保障する
施策を具体化して、世界第二の
経済力を有する国として当然、国際的にも認められている
ILO条約の早期批准、
労働者の権利、健康・生命を守るのに役立つ立法が求められることを強調したいと考えます。こういう
見地に立って、以下若干の見解を述べることとします。
第一に、
労働時間の
短縮の問題についてです。
日本の長時間
労働の問題は内外の厳しい批判を受けてまいりました。歴史的に見ると
労働時間は、オイルショックを境にして、西欧諸国は
日本を下回り、八〇年代にはアメリカも
日本を下回るようになったわけです。このことは、
労働時間の長短は、労使間及び政治の
対応にあることを示しています。
政府の発表によりますと、三十人以上の事業所では一人当たり年平均千九百七十二時間とされていますが、これは実態を正しく反映しているのでしょうか。
労働省と総務庁の
調査の差から推計される統計上あらわれない
サービス残業は、運輸・通信
関係が三十一・八時間、建設
関係が二十五・八時間、そのほか鉄鋼、電気機械などに
サービス残業が存在していることは明らかであります。さらに問題は抽出
調査をする
政府の統計に対して、県で行う実態
調査は
政府の
労働時間統計との間に差が生じているということであります。
労働時間の
調査は、国際的批判を免れるための数字の発表ではなく、正確な把握が問題解決の上で必要であると考えます。
次に、
時短について
労働生産性向上が前提として不可欠との主張についても述べておきたいと思います。
労働生産性の
向上は
社会の進歩であり、それ自体肯定されるものであります。しかし、
時短に伴うコスト吸収困難という理由で
時短が敬遠、遅延されるとするならば、それは道理に合わないことになると考えます。
日本での
労働生産性の
向上と
労働時間
短縮との
関係を見てみますと、一九六五年から七五年の十年間はほぼ相応してきたと見ることができますが、その後の十年間は生産性は九〇%近い伸びを示したのに対し、
労働時間は
短縮されるどころか、反対に長時間
労働となっているわけであります。
労働生産性が
向上したら、それは当然
時短になるという保障はないのであります。
国際的に見ると、一九七七年を一〇〇とした時間当たりの産出量は、一九八八年、アメリカは一三六、フランス一四四、西ドイツ一二六、イギリス一五六となっていますが、
日本は飛び抜けて一九〇になっています。ところで、これらの国の
労働コストを同じように一九七七年を一〇〇として八八年を見てみますと、アメリカ一四二、フランス二一〇、西ドイツ一三六、イギリス二〇六と上昇しているのに、
日本だけが低下をして九〇となっているのであります。これを見ても
日本の
施策上の問題は明白であり、
労働時間の大幅
短縮は可能だということを示しております。
特に、この点で強調したいのは、
中小企業の時間
短縮の問題であります。
日本の
中小企業は先進諸
外国に比べて高い比率を示しております。
日本の
中小企業は必ずしも生産性が低いわけではありませんが、
経済構造上親
企業の下請の比重は極めて高くなっており、特定親
企業の下請は五五・九%ですが、親
企業が数社にまたがる下請は七割を超えています。
この
中小企業における
労働時間
短縮を阻害している要因について、不況や
労働生産性などの理由が挙げられておりますが、親
企業にあるかんばん方式、多頻度少量配送、休日前
発注・休日後納品、納検体制、罰金
制度、下請単価の切り下げなどの強化が大きな問題になっています。
中小企業庁から出されている通達によりましても、下請
企業の時間
短縮を図るための
発注方式の
改善が
要請されておりますが、依然として
改善されていません。この点での
改善のための規制を強めることによって
中小企業の状態が改められることは、
時短を
促進する上でも不可欠となっていると考えます。
以上、
時短については一日八時間、週四十時間、
完全週休二日制、残業時間上限の厳しい規制と割り増し率の引き上げ、健康上行き届いた
勤務時間、有給休暇の
最低の引き上げを実行すべきであると考えます。また同時に、全国一律の
最低賃金制の規定を初め、賃金引き上げが行われるべきであるということを強調したいと思います。
第二に、
高齢者の
雇用問題について述べます。
高齢者の
雇用促進のための
環境の
整備は今日焦眉の問題となっています。確かに
高齢者雇用安定法の
改正によって六十歳
定年制や六十五歳までの
雇用への
努力などが問題化されているものの、まだ若年層への依存体質は変わっておらず、五千人以上の大
企業を見てみますと、中
高齢者を対象とする早期
退職勧奨
制度が存在している
企業は四一%を占めています。そのうち四十五歳以下が二九・七%も占めているという
状況です。とりわけ、最近の不況の中で高中年齢層への勧奨
退職がふえております。九一年三月時の
調査ですが、小
企業、百人未満では六十歳以上の従業員が五・五%。中
企業が三・三%。千人以上の
企業では〇・九%となっています。この傾向は今日でも基本的に変わっていません。
高齢者の再
雇用、
雇用延長、
継続雇用においては、
高齢者の経験や
技術を活用し、事実上
高齢者に差別とも言えるような低賃金、長時間
勤務などを持ち込むべきではないと考えます。
次に、
女性の
雇用問題について、時間が来ましたので、ちょっと早口で述べさせていただきますので、
会長にお許しをいただきたいと思います。
女性の
労働力人口を年齢別に見てみますと、最も働き盛りの二十五歳から三十歳代が低く、年齢別の
労働力率の曲線がM字型になっていることは多く知られているところです。これは多くの原因が産児、
育児にあると言われていますが、
育児休業制度や保育設備など
女性の働く
環境に大きな問題があることを示しています。
現在、女子
労働力率は五〇・七%になっており、このことは
女性の働く
環境の
整備、
充実がこれからの
雇用政策にとって極めて重要になっていることを示していると言えます。
この点で母性保護とともに
育児施設、
制度、費用の面での
拡大、
充実の強化、
育児休業法を実効性あるものにすること、さらに
労働条件における
男女差別の排除を強めるべきであるということを強調します。
最後に一言、
高齢者と
女性を安上がりの
労働力としてのみ扱う、あるいは
中小企業にしわ寄せをしてきた従来の大
企業本位の
雇用労働政策を根本的に改めない限り、新しい
労働力の
確保も
日本経済の真の活性化もおぼつかないということを特に強調して、私の発言を終わります。