○
参考人(
月尾嘉男君)
月尾でございます。
あと座ってお話しさせていただきます。
お
手元に配付させていただきました図を
使いながら説明させていただこうと思います。
私が話をさせていただきますのは、交通と
エネルギーの問題について話をさせていただきます。
図二を見ていただきたいのですが、現在
日本で輸送部門が使っておる
エネルギーはおおよそ全
エネルギー需要の四分の一になっております。次のページの図三をごらんいただきますと、それがどんどんふえてきておるというのが現状でありまして、
オイルショックの年でありました一九七三年には全
エネルギーの一六%程度でありましたけれども、それが九〇年では二三%までふえてきております。もちろん
社会的に輸送というものが必要であり、それに
エネルギーが必要であるということであればそれはそれで結構なことなんですが、三つほどこの交通部門での
エネルギーについては大きな問題があります。
第一点は、
エネルギーの節約ということが余り進んでいない分野であります。図四というのは既に
平田先生の御説明にも使われましたが、このほぼ二十年間の
GNPと
エネルギーの
消費の関係を見ていただきますと、
産業用というのはむしろ減る程度に努力をしてきたわけですが、交通用、
民生用エネルギーというのは
GNPにほぼ比例した形で
消費がふえてきておりまして一
エネルギーを節約するということが必ずしも十分進んでないというのが第一番目の問題。
それから第二番目の問題は、図八をごらんいただきたいのですが、交通部門、
運輸部門の
エネルギーが
石油依存度が異常に高い、ほぼ九八%が
石油に依存しております。これは可搬型
エネルギーを必要とする、つまり自分で持ち運ぶ
エネルギーを必要とする自動車のようなものが中心になっておりますから、やむを得ない部分がありますが、
石油依存度が非常に高いということも問題でありまして、ちなみに
日本の
石油製品の
消費のうち三八%が現在輸送部門で使われております。
それから三番目は、資源だけではなくて、環境への影響が非常に大きいということであります。図七は
日本の全部門で発生しておる
CO2、
二酸化炭素のうち
運輸部門がどれだけかということですが、二三%。それから世界規模で見ますと、これは
CO2ではありませんが一酸化炭素、これも地球温暖化
ガスの
一つでありますが、COが現状でほぼ六〇%。OECD諸国だけでは七五%が輸送部門からの排出
ガスがCOを排出しておるということになっております。それから窒素酸化物、NOxにつきましてはほぼ四〇%、世界全体の四〇%が交通に起因するものである。この環境問題への影響というものも無視できないことでありまして、この三つが輸送と
エネルギーの関係で重要な問題かと思います。その主要な原因というのは自動車にあるということはほぼ
先生方も御推察のとおりであります。
では交通との関係で見るとどういうことかということで図九と図十をごらんいただきたいと思います。
現在
日本の交通の中で自動車が負担しておる割合が、図九でありますが、旅客の場合でごらんいただきますと、バスも含めますとほぼ六五%が自動車に依存しております。バス、乗用車に依存しております。貨物では五一%が自動車に依存しております。自動車がどういう問題をはらんでおるかということでありますが、次のページの図十二をごらんいただきたいと思いますが、まず第一番目に現在の自動車というのは非常に
エネルギー効率の悪い乗り物であるということでありまして、この図十二の見方は一番下の一〇〇と書いてありますところが投入された
エネルギーでありまして、一番上の数字がそれが実際最後に役に立ったのはどれくらいかという比率を示すものであります。例えば交流電化で走っております、
水力から起きた
電気で走っております電車の場合は
エネルギーの五八%が動くということに使われております。それから火力
発電で起こした
電気を使って走る
電気機関車というのは二八%、ディーゼル機関車で走る鉄道でも二二%が最終的な
目的のために使われておりますが、自動車の場合六%程度しか最終的な移動のためには使われておらない、こういう
効率の悪い手段ということであります。
その結果どういうことが起こるかということでありますが、図十四、図十五のあたりをごらんいただきたいと思いますが、例えば上の旅客のところを見ていただきますと、この人の形が書いてあります図の下の段がどれだけそれぞれの手段が運んでおるかという図でありまして、上の段の四角い箱がそのためにどれだけの
エネルギーを使っておるかというのをあらわしております。
鉄道をごらんいただきますと、
日本中の旅客の移動の三〇%を負担しておるにもかかわらず
エネルギー消費は八%でありますが、自動車の場合では四三%しか運んでおらないのに
エネルギーの
消費は六五%ということになっております。同じように貨物につきましても、営業用と自家用と合わせますと五〇%の貨物を運ぶのに対して
エネルギーは九〇%を使っておるということになります。
それを別の表現にしましたのがちょっと飛んだ十九図というところにありますが、これでごらんいただきましてもおわかりいただけますように、旅客の場合自家用自動車と営業バスで四九%、ほぼ半分の人を運んでおるのにもかかわらず、
エネルギーとしては六八%、七割弱を使っておるというようなことになりますし、貨物についてはほぼ五〇%運んでおるものが九〇%近い
エネルギーを使うというような構成になっておりまして、非常に便利であるけれども、これが自動車というものを使うときの大きな問題であります。
同じことを別の視点から見ましたのが図十四、図十五の下の電車の絵や船の絵がかいてあるものでありますが、例えば旅客の場合鉄道で一人の方を一キロ運ぶのに必要な
エネルギーを一〇〇としますと、自動車では五三四、五倍以上の
エネルギーが要るとか、貨物の場合鉄道である単位運ぶのに一〇〇という
エネルギーを必要とするのに対して、営業用トラックで五二九、自家用トラックでは一七〇〇、実に十七倍の
エネルギーを必要とするというようなことになるわけであります。
その結果、もう
一つ起こってくるのが環境への影響でありまして、大分飛びますが二十一図をごらんいただきたいと思います。
これはある単位の旅客、例えば一人の人を一キロ運ぶのにそれぞれ
CO2をどの程度排出するかということでありますが、鉄道を一〇〇としますとバスで二六八、ほぼ二・七倍、自家用乗用車では八倍以上排出するということになります。貨物では同様に営業用貨物車で八倍、自家用になりますと実に三十五倍以上の
炭酸ガスを排出するということになります。
こういうような問題があるということでありまして、これを今後解決していくということが結局交通と
エネルギーの問題を解決していく重要なことであります。
どんなふうに解決していったらいいかということでありますが、この基本的な考え方は、私は一ページ目の二というところに書きましたようなサステーナブルディベロプメントというような考え方を導入する必要があるだろう。これは
御存じのように、一九八四年にできました環境と開発に関する世界
委員会の中で検討され、八七年の
東京宣言の中で出された考え方でありますが、将来の世代のニーズを損なうことなく現在の世代のニーズを満たすような節度ある開発をしていくということが言われております。つまり、現在の人が非常に我慢に我慢を重ねて将来のために何かを残すという考え方ではなくて、虫がいいようでありますが、現在の必要も十分に満たしながら将来の必要も損なわないような
発展を考えていくということでありまして、移動ということについても同じような発想を入れない限り多くの
方々の賛同を得られないだろうということであります。
それを具体的にどうするかということについては、これを三つに分けて考えたらいいと思いますが、
一つは
経済はまず
成長させる。それから、それに伴って
エネルギーが比例してふえるのではなくて、
エネルギーについては相対的に減少するというようなことを考える。なおかつ人々に不便を強いるのではなくて、そこにはプラス・サム・アメニティーという言葉がありますが、快適さをより向上するというような移動の方法を
社会的に導入していくという、考え方によっては極めて好都合なというか、ある意味では虫のいいということかもわかりませんが、そういうような考え方を導入する
可能性がないかということであります。
これに関しましては、だれでもまず
最初にやったらいいだろうと思いつきますのは、モーダルシフトという言葉がございまして、
効率の悪い自動車から
効率のいい鉄道とか営業用のバスとかそういうものにどんどん移っていったらいいだろうというような考え方、貨物であれば自動車を少なくして鉄道で運ぶ分をふやせばいいだろうというような考え方があると思いますが、実はこれが一見解決のようなんですが、現実には解決にはならないということが最近だんだん計算の結果わかってきております。
例えば、まず一番目は、それは不便であるということで賛成される方が少ないということであります。つまり、自動車をやめて鉄道で我慢しろということは、多くの人がよほど自動車を利用する費用が高くならない限り納得しないだろうということであります。二番目は、既に大都市圏では鉄道の利用がかなり進んでおりまして、それほど移す余裕はないということであります。例えば首都圏では通勤の移動のうち九〇%が既に鉄道を利用しておりますから、それをさらに鉄道に移すということを努力しても効果は努力の割には少ないということになります。それから、地方圏ではアクセスが必ずしも十分でありません。鉄道のようなものが密には入っておりませんから、例えばそこまでオートバイで来るとか自動車で来るというようなことを考えますと、結局総合的には近い、自動車と鉄道は同じ距離を同じ人数運ぶのに
エネルギーがそれほど変わらないという状況にもなります。貨物についても同じことでありまして、鉄道と自動車は長距離を運ぶ場合は既に
エネルギーはもう同じくらいになっておりまして、必ずしも自動車が不便だということにはならない。つまり一言で言えば、モーダルシフトというのは、一見解決しそうですが、
エネルギーという観点から見ると必ずしも問題を解決することにはならないということです。
じゃ、どういう考え方かということで、私は三段階に分けて考える必要があるだろうと思っています。
一つは、まず
日本は科学
技術大国でありますから、
技術の力を使って問題を解決する方法を模索するということであります。
それにつきましては二十五図を見ていただきたいと思いますが、既にいろいろな努力がなされてきておりまして、例えば自動車の燃費をよくするということはこの十数年大変な努力が進みまして、ほぼこの十数年の間に同じ距離を移動するのに必要な
エネルギーは七五%から八〇%にまで減ってきました。
それから、環境問題に関しては排出
ガスの規制をするということでありまして、図二十六に書いてありますが、昭和四十八年、つまり
オイルショックが起きた年から大変な努力がされまして、例えばガソリンを使う一般の乗用車では排出
ガスは八%、
オイルショック前後のときの八%まで減る規制がとられており、ディーゼル
エンジンを使う自動車でも二〇%とか四〇%という、車種によって違いますが、削減が行われておるということで、こういう努力を今後も積み重ねていくということが必要だろうと。
それから、もう少し前向きの解決としましては、図二十七に幾つかの例が出ておりますが、代替
エネルギー車、つまり有害な
ガスを出したり
エネルギー損失が大きい自動車をやめ、有害な排出
ガスが少なく
エネルギー効率のいい自動車を新しく開発して普及していくということをやったらどうかということで、現在研究が進み、ある程度の
見通しが出始めたものとしては、右側三列に書いてありますようなメタノール車、アルコールを使うという自動車でありますとか、
電気自動車でありますとか、CNGといいますのは
天然ガスを使った自動車でありますが、そんなようなものを今後
技術開発を進め、導入していく。現
時点ではまだ本格的に導入する具体的なプログラムはありませんが、こういう方向を推し進めていくというようなことがまず第一番目でありまして、要は
技術が問題を解決するという方向であります。
それから二番目は、
社会的な
構造、例えば国土の
構造その他を変えていくというようなことであります。
図二十九、三十というところに渋滞がどんどんふえておるということがグラフにしてあります。渋滞というのは大変
エネルギー効率を悪くするものでありまして、図三十一を見ていただきますと、平均十キロぐらいで走るというときには一キロ走るのに百七十二ccのガソリンを使うのに対して、四十キロ、五十キロ、六十キロぐらいで走りますとその三分の一近い
エネルギーで同じ距離が走れるというようなことになるということであります。そういう渋滞をなくすような新しい
技術を導入していくということを考えたらどうかと。
ちなみに、おもしろい計算がございまして、図三十三を見ていただきますと、もし一日にある方が車で通勤され、五十回発進、停止を行われたとしますと、そういうことを一年間繰り返しますと、その間にむだに使われる
エネルギーで一体どれだけ走れるかというとほぼ二千キロ程度走れるということになりまして、
日本列島を九州から北海道まで移動することができるというような計算もありまして、その渋滞による発進、停止というものがいかに大きなむだをもたらすかということであります。
それから、同様に、今
東京で通勤のために必要としておる時間は一人の方が大体九十四分を往復に使っておられますが、全国平均では四十七分、ちょうど半分であります。つまり、そういう大変遠くから一点に集まるというような都市
構造をつくってきたということをもう一度考え直して、より分散的な、
エネルギー効率のいい都市
構造をつくっていくというようなことも考える、そういう国土
構造とか都市
構造というものを考えることによって
エネルギーと交通の関係を改善していくというようなことも考えていいんではないか。
それから、最終的には精神的な
構造改革と言っていいかと思いますが、そういうものが必要ではないかということです。
図三十二をごらんいただきますと、特に若い方に多いわけですが、急発進とか急加速というようなことをやるとどの程度
エネルギーがむだに使われるか、それからゴルフバッグを積んだままいつも走りますとどの程度むだな
エネルギーが使われるかというようなことがいろいろ出ております。例えば十キロの荷物をいつも積んでおられますと、それで五十キロ走りますと、その余分な
エネルギーだけで、これはわずかと言えばわずかですが、二百十メーターさらに余分に走ることができるというようないろいろな計算がありますが、そういうむだをいろいろ排除する精神を
社会的に養っていくということ。
それから、図三十四をごらんいただきますと、年々貨物自動車の輸送
効率が落ちておると。つまり、空きスペースが非常に多い
状態で貨物自動車が走り回っておるという
状態が示されております。ある輸送会社が
日本のわがまま運びますというテレビコマーシャルをやっておりましたが、あれは会社の宣伝としては結構ですけれども、
エネルギーから見ると大変なむだを実はもたらしておるということでありまして、そういう何でも必要なときにすぐ送りたいとか、
一つの荷物でもすぐ送るというようなことを、もちろんそれは便利でいいんですが、そういうむだなことは少し控えるというようなその精神の改革ということをやっていくというようなことも必要ではないか。
そういう
技術と、国土
構造を変える、それからさらには人間の考え方を変えるということによってこの問題を解決していくことが必要ではないかというふうに思っております。
以上で終わらせていただきます。