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参考人(
中上英俊君) 住
環境計画研究所の
中上でございます。七年前に同じようにこの席にお呼びいただきまして
お話ししたことときょう
お話しすることが余り大きく変わっていないということは、当時から進めておかなければいけなかったことがまだ進められていなかったんじゃないかというふうに私
自身も反省を込めて御
報告したいと思います。
きょう私に与えられましたテーマは非常に大きなテーマです。「二十一
世紀に向けた
省エネルギーと
社会システムの
あり方」ということになっているわけですが、特に私の専門は、御
承知のように
エネルギーというのは
産業部門、運輸部門それから民生部門と三つの部門で言われるわけでございます。
きょう
お話ししますのはその民生部門、私
ども家庭生活で使う
エネルギー、それからこういったビルであるとかホテルであるとか飲食店、そういったところで使われる
エネルギー、この
二つに分かれるわけでございます。そういったものの
消費の位置づけと
省エネルギーの
可能性、我々は後何をなさなきゃいけないか、こういった点についてかいつまんで御
報告したいと思います。
図表をつけておきましたし
OHPも使いたいんですが、お二人の先生の
お話を伺っておりますと、
OHPを使っていると時間が足りそうもございませんので、あけたりひっくり返したりしながらお聞きいただきたいと思います。
まず民生部門の
エネルギー消費の推移でございます。これは四ページから六ページにかけて幾つかのグラフがありますが、まず四ページの表をごらんいただきますと「民生部門」というのが中ほどに書いてありまして、「家庭」と「業務」と
二つに分けでございます。右の枠の中に
長期エネルギー需給見通し、
資源エネルギー庁で平成二年に出しました見通してございますが、それとの対比をしていただくために数字を挙げておきました。九一年度は速報値でございますけれ
ども、民生部門の括弧の中に書かれている数値が
伸び率でございます。
長期エネルギー需給見通し二〇〇〇年までの括弧というのは一九八八年から二〇〇〇年まで二・七%、二〇〇〇年から二〇一〇年二%の伸びを想定したわけですが、いずれにしましても非常に高い伸びでここ数年推移しているということが御理解いただけると思います。なかんずく業務部門の伸びは非常に高い。これは私も
計算してみまして驚きましたけれ
ども、非常に高いわけでございます。
業務と家庭と大きく分けましたけれ
ども、業務部門は先ほど申しましたように
内容が非常に多岐にわたるものですから、一概にここがこうだからこう変わったとはなかなか言えないわけでございます。ただ、言えますことは、非常な建設ブームがここ数年続きまして、業務用の床面積が大変な勢いで伸びたということが
一つ確かにございます。
それはもちろん、ただいたずらにふえただけではなくて、
一つにはいわゆる
産業部門と言われる製造業の部門からサービス化、ソフト化が進展することによってこの業務部門、要するに民生部門に相当
産業構造が変わってきているんじゃないか、そういったこともありますから、一概に民生部門が伸びたことが悪いわけではなくて、ある部分は
産業部門からシフトしてきた部分もあると思われます。
ただ、最近の動向を見ておりますと、それにしましても異常に高い伸びであることは間違いございませんし、私
どもも幾つか
調査をしてみますと、過剰な暖房ですとか過剰な冷房、要するに人の要求に任せて温度コントロールしているとどんどん冬は暖房温度を高くしてしまう、夏は下げてしまう、あるいは照明も過剰に照明してしまう。アメリカでは、先ほど
佐和先生の
お話で白熱灯から蛍光灯へというシフトがございましたけれ
ども、逆に
日本はムード照明と称してせっかく蛍光灯で省エネ的な照明をしていたのが逆に多
消費型に移るというふうな動向もございますので、この部分については
省エネルギーの余地はまだ今後あるだろうと思われます。
一方、家庭用でございますけれ
ども、次のページの五ページ、六ページに家庭用の推移を示しておきましたが、何度か増減を繰り返しながらですが、全体的には傾向として
増加してきていることがおわかりいただけるんじゃないかと思います。
図の一は
エネルギー種別、下が用途別でございます。用途別というのは暖房、冷房、給湯それから照明・動力・その他と分けてあるわけですね。
上の図で
特徴的なのは、一番左の白い部分、これは電力でございますけれ
ども、合計では減ったりふえたりしているにもかかわらず、電力だけは非常に安定的に伸びてきているということで、家庭内の電化率が今後ますます高まっていくのではなかろうかということがうかがえるということが一点。
それから下の図でいきますと、この白い部分、これは今度は用途別ですから暖房になりますけれ
ども、非常にその年によって大きく
変動しているわけですね。これは申すまでもなく、その年が暖かい年であったか寒い年であったかということによって暖房の
エネルギーは左右されるわけです。いずれにしましても、一九九一年、これは一番新しいデータですけれ
ども、合計でいきますと、一世帯当たり一年間に一千万キロカロリーという値を初めて九一年で突破した、昨年のデータはまだ出ておりませんけれ
ども、そういう状況にある。
六ページをごらんになっていただきますと、寒さ暑さというものを、一応年によって変わるわけですから三十年ぐらいの平均でならしてみまして、同じような気候であったらどうかというふうに並べかえてみますと、破線の太い線がございます。それが気温補正値になっているわけですが、二回の
オイルショックのときには確実に対前年を下回っておりますけれ
ども、一貫して右上がり、ただ九一年で初めて横ばいないしは若干落ちたという状況がうかがえますので、そろそろ伸びの勢いがとまりかかったかなという気がしないわけでもない、そういう状況でございます。
しからば、将来どの
程度までいくであろうかということが御興味あろうかと思いますが、それは例えば
参考としまして七ページをあけていただきたいと思います。
これはほかの国、要は先進国がどうなっているんだということでございますけれ
ども、ヨーロッパ諸国とアメリカと
日本とを比べたものでございます。グラフが少し見づらいかもしれませんが、ほかの国々で非常に背の高いのは暖房用でございます。給湯あるいは厨房、照明、動力といったのは、アメリカは論外に多いわけでございますけれ
ども、
日本とヨーロッパ諸国とはほぼ同じかあるいは
日本の方が多いという状況がおわかりいただけると思いますが、暖房だけは随分大きな差がある。非常に見づらいですけれ
ども、
日本の中には左から二番目に冷房がちょっと出ているんですが、ヨーロッパ諸国は御
承知のように冷房はほとんど必要としない気候なわけですね。アメリカには冷房は結構出ております。
そうしてみますと、
日本の場合には気候条件でいきますと、当然これはヨーロッパと比べると
日本の方が温暖でございますので、ヨーロッパ並みに暖房
消費が伸びるとはとても思えないわけです。イタリアと
日本の冬の気候を調べてみますと、これはもうどういうあらわし方で寒い暑いを言ったらいいかわかりませんが、いろんなデータがあるわけですが、約一割方
日本の方が寒いといいますか、イタリアの方が少し温暖なんですね。ですから、イタリア並みとはいかなくても、イタリアに近い水準までは暖房もふえてもおかしくないというのが私
どもの見解でございます。
そうしますと、これは冒頭一ページに書いてあると思いますが、今後
日本の家庭用の
エネルギーが一世帯当たりどのぐらいまでいくだろうかというと、大体今の水準から五割増しぐらいの水準にいくと、多分そこからは伸びがなくて、もう後は暑さ寒さだけで
変動するという状況に変わってくると思います。右上がりというのはなくなってくるだろうと思います。
しかし、この一・五倍というのが達成できるかと。これは大体今までの趨勢で伸ばしてみますと、二〇一〇年ぐらいになりますとその水準になるだろうと思われるわけです、これが一方、お二方の先生の
お話にもございましたように、
地球環境問題等の制約がございまして、家庭用といえ
どもそういう伸びが許されるわけではない。したがって、下手をすると
日本の住生活水準は永遠にヨーロッパをキャッチアップできないまま終わってしまう危険性といいますか、寂しい状況もあり得るわけです。
ただ、それは今までの趨勢で伸びたらそうだということでございまして、しからばどういう手だてがあるかというと、きょう
お話しする
一つの
ポイントである
省エネルギーという
技術によってそれを達成していこうということになるわけでございます。
次の八ページ目は、これは業務用のビルの
省エネルギーの
技術の例でございますけれ
ども、これは二回の
オイルショックの直後ぐらいにゼネコンの大林組が建てましたビルで、非常に
省エネルギーとしては有名なビルでございます。ビルの場合にはこういった
技術がございますが、業務用の場合には、あるビルでこの
技術が適用できたからすべてのビルにこの
技術が適用できるかとなると、それはそうではないわけですね。立地条件が違いますし、規模も違いますし、用途も違いますから、必ずしもこの
技術がすべて適用できるわけではないわけです。
しかし、理想的に
省エネルギーを取り込もうとするならば、四分の一ないし三分の一ぐらいの
エネルギーで十分今の水準をクリアできるというのが一例でございます。もちろん、これにはコストの増分要因もございますけれ
ども、
技術によってはもう一年以内で開始できるものもございますし、あるものは十年かかるものもございますけれ
ども、ビルの耐用年数が三十年、四十年ということを考えれば、十分その範疇に入ってくるわけです。
一例で申し上げますと、典型的なビルで使われる照明用の
エネルギーのトータルですね。要するに、そのビルが建てられてから壊されるまで通常三十年とか五十年とか耐えますけれ
ども、例えば五十年ぐらいだとしますと、照明代だけでビルの建設費の半分以上が飛んでしまうといいますか、照明代というのはそのぐらいの規模になるわけですね。それにさらに冷暖房等を加えてまいりますと、建てるコストよりは
エネルギー代の方がトータルでは高くなるということでございますけれ
ども、なかなかそういう御理解がいただけないところが問題でございまして、すぐ投資回収してしまいたいということで、時間のかかる
技術はなかなか適用してもらえない。この辺が悩みでございます。
九ページは、これはもう皆様御
承知のとおり、昨年省エネ法の改正が一部ございまして、その中で住宅を保温構造化することによって暖房あるいは冷房の
エネルギー消費を節減しようという最も典型的で効果の大きな
技術でございますけれ
ども、この基準が改定されました。左側の黒くドットが打ってあるのが旧基準、白抜きの方が新基準。戸建住宅と集合住宅と分けてありますが、どちらでも結構でございますけれ
ども、例えば戸建住宅で見ますと、これは全国を平均してみました。どうやって平均するかというと、下のような地域区分になっておりますから、毎年各地域で建てられる着工戸数が違うわけですね。それを最新年の着工戸数で加重平均してみました。ですから、当然Ⅳ地域、この一番大きな地域の
影響が大きくなるわけですね。したがって、全体の平均というのもⅣ地域の値に近くなっておりますけれ
ども、おおむね三〇%ぐらいの
省エネルギーの強化を行ったということが言えると思います。
単純には三・二を四・六で割り返していただければそんな値になろうかと思いますけれ
ども、まだこの先がないかというと、北海道並みにすれば、まだ幾分の取り代はあるのではなかろうかと思いますから、いずれまた今後強化するときの目安になるのではなかろうかと思います。
それから、十ページでございます。これはまだそんなに普及していないといいますか、製品
開発が終わったばかりの
技術でございますけれ
ども、多機能ヒートポンプ、少し専門的で申しわけないのですが、ヒートポンプというのは、皆様方がおうちでお使いのエアコンというのは全部ヒートポンプというメカニズムを使っております。夏は冷房し、冬は暖房をするということになりますけれ
ども、例えばこの多機能ヒートポンプは、その場合に、夏冷房していると外側の暖かい熱がどんどん捨てられているわけですね。それを回収してお湯に使ってしまおうと。もちろん
太陽を使ってもいいですけれ
ども、冷房していれば自然に捨てている熱でお湯は全部賄えてしまう。いわばおふろ用の
エネルギーはかからない。そういったような
技術でございます。
お湯を沸かす場合でも、今までのお湯の沸かし方よりは効率がよくなりますものですから、全体的に非常に効率が高くなるわけです。そういった
技術を用いますと、従来ケースというのはどういうケースかといいますと、セントラル冷暖房をして、給湯も一応おふる、台所、洗面所で使える、こういう状況を仮定しますと、それが一に対して、電力多機能、エンジン多機能、いずれにいたしましても半分ぐらいの
エネルギー消費量で十分それだけの性能が賄えるというわけです。したがって、一・五倍になると先ほど申し上げましたけれ
ども、すべての家にこういう
技術が適用できるような時代になれば、むしろ今より
エネルギーは減らして、快適性は一・五倍になるということが期待できるわけです。
ただ、ここで難しいのは、こういった
技術というのは
システム技術でございますから、冷房を一台ずつ部屋にふやしていったときに、この
システムに入れかえようとすると、全部取りかえなきゃいけないわけです。そうすると、なかなか既存の住宅には適用しづらいわけです。新築住宅の場合でしたら最初から、どうせ冷暖房、給湯をやるならばこういう
システムを入れておこうということができるわけですけれ
ども、既存の住宅をどうするかとなると、これまた簡単ではない。先ほどの断熱材もしかりでございまして、既存の住宅に断熱材をくまなく効率的に設置しようとすると、これは大変でございます。床から壁から屋根から引っぱがさなきゃいけないということになりますから、なかなか簡単ではない。
そういったことで、できるだけ新築住宅の
段階からこういった
技術を適用していくということを心がけなきゃいけないわけでございますけれ
ども、ここで少し本文に戻りたいと思います。
今三ページの上の辺まで
お話をしてきたわけですが、こういった建てかえや改築をする場合に、こんな
技術がごく自然に一般国民の
方々に取り入れられるような部品
開発、
技術開発が同時に必要でございますけれ
ども、国民の
方々にとってわかりやすい形でこういった情報なり
技術が提供される、この仕組みが必要だろうと思います。
その際、当然
省エネルギーに対する一層の理解を促すといいますか、理解を持ってもらうためにも、我が家は省エネ型なんだろうか、私のビルは省エネ型なんだろうかというような診断ができるような、そういう仕組みがあればいいなと思うのですが、これがなかなか言うのは簡単ですが、つくるのは難しい。だけれ
ども、ぜひ将来的にはそういうことをどなたでもチェックでき、どなたでも診断してもらえるというような仕組みが必要になってくるだろうと思います。
一方で、既に若い世代、大ざっぱに言って三分の一の世代ぐらいになろうかと思いますけれ
ども、二回の
オイルショックすらもう歴史的な事柄なんですね。全然自分の体験にはないわけでございます。そういう人たちにとっては、私は驚くべきことなんですが、湯水どころか、
エネルギー自体が空気みたいな存在だと。スイッチをひねれば何でもできてしまう、こういう状況になっているわけです。そういった状況ではとても
技術開発をやっても、やはり根本的なところを変えていかなきゃいけないだろうというのが、私の最近の実感でございます。
佐和先生は、これを美意識というふうにおっしゃいましたけれ
ども、そうではなくて、根本的な生活、あらゆる場面で常に
エネルギーを効率よく使うということを、人々の知恵の中にビルトインしてしまわなきゃいけないのじゃないのか。そういった世代にこそ今後主役になってもらわなきゃいけないわけですから、こういう世代を中心とした
エネルギー教育といいますか、
エネルギー学習といったことをぜひ推進していただきたい。
また、
エネルギーという問題は、きょうも皆様方に
お話ししまして、非常にわかりづらい面があって恐縮でございますけれ
ども、すぐ数字が伴うわけです。これはわかりづらいわけです。これをまた円換算してみましても、最近の
エネルギー代が非常に安いものですから、全然バンチがないんですね。
そうじゃなくて、これはそういう攻め方じゃだめなんだろうなと思いまして、最近は、体験しながら学習できるような
環境学習フィールドみたいなところが各所にできて、そういうところに行って、実は
エネルギーというのはどういう仕組みで成り立ってきていて、使ってみると、断熱材を使っている家と使っていない家じゃこれだけ違うのだとか、
太陽エネルギーを使うというのはこういうことなんだとか、あるいは小川があれば、そこで小さな水力の
発電機を回してみて、小川から取れる電力のレベルを考えて、実際の水力
発電なり原子力というのはどれだけのパワーがあるものなのかとか、そういったことを身近に体験するような場所ができればいいのではないか。そういうことによって、より一層認識を深めてもらえるのじゃないかなと思っております。
最後の四番目は、少し大きなことが書いてありますけれ
ども、とにかく先ほどお見せしましたように、我が国の家庭をごらんいただきましても、一部の用途を除いて、もう欧米水準をはるかに上回るようなレベルにきているような用途もあるわけです。これまではどちらかというと、そういうところを見ながら我々は生活を豊かにしたいと考えてきたわけですが、これは両先生の
お話にもございましたけれ
ども、途上国にあってはまだまだ我が国の明治時代、江戸時代という生活をしている人は数倍のオーダーでいるわけですね。
そういう人たちが我々と同じような暮らしをしたいということに対して、我々はそれを拒否するあるいは否定する権利はどこにもないわけでございまして、そういったことから考えると、空間的、時間的とおっしゃいましたけれ
ども、私もまさにそのとおりだと思いますが、資源配分の
あり方を根本的に我々が考えていかなきゃいけない。必ずしも先進国を見て追いつけ追い越せではなくて、途上国の人に対しても我々が何ができるのかという
意味で資源問題を考えるとなればもっと違うアプローチがあるんじゃないかと思います。
これはまた、そういうことを今考えるということは、おくれてくる世代にとっても私たちが今やっておかなきゃいけないことだと思います。特に今回の
地球環境問題が三十年、五十年といった非常に
長期な問題であるならば、なおかつこういったアプローチの仕方というのは、非常に後になって効いてくるといいますか、有効性があるんではないかと思いますので、その点を強調して、とりあえず私の
報告を終わりたいと思います。