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参考人(
小川泰一君)
日経連の
小川でございます。
お許しを得まして、座らせていただきたいと思います。
御指示によりまして
労働時間問題と
労働力問題につきまして、簡単に私どもの主として中長期的な観点からの
考え方を申し上げさせていただきます。
レジュメを差し上げてございます。それから、「新しい
国際化
時代における
日本と
労使の選択」というパンフレットを差し上げてございますので、この両方を御参照いただきながらお聞き取りいただければと存じます。
このパンフレットは、いわゆる春の
労使交渉に向けてつくられたものではございますが、中長期的な
課題もかなり織り込んでございますので、本日はその部分を
中心に引用させていただきながら
参考にしていただきたいと存じます。
レジュメに従いますが、まず
労働時間問題でございます。
よく使用者側は時間
短縮について大変消極的であるという御批判もちょうだいいたしております。私ども
日経連という立場におきましても、既に時間
短縮をかなり前向きに取り上げましてからもう六、七年たつわけでございます。このパンフレットにおきまして、四十ページをちょっとお開きいただければと存じますが、まず、時間
短縮は春の
労使交渉におきます
賃金とは必ずしも同一に論じがたい側面がございまして、経営の体質、設備投資あるいは現場第一線の仕事のやり方等を含めて改善をしながら、着実に、後戻りしないように進めていくという視点から、中長期的な重要
課題というふうに受けとめております。
昨今は御
承知のとおり大変な不況でございまして、若干投資がスローダウンするという側面はございますが、
企業が懸命にあらゆる角度からむだを省くということに現在力を入れております。お金のむだだけではなくて、時間のむだを省くという視点も大切でございますし、かねて
労働組合との間に中期的な時間
短縮の交渉も進んでおりますので、そういったものを念頭に置きながら着実に時間
短縮を進めていくという姿勢が大事ではないかというふうに総括的には存じております。ただ、
河口さんから既に御指摘ございましたが、中期的ないわゆる千八百時間目標ということにつきましてはいろいろ大きな
課題があるのではないかというふうに思っております。
四十六ページをちょっとお開きいただきたいと思います。四十六ページの下の図に「
政府の新
経済計画と成長、時短などの整合性」という表がございます。これは昨年の春にやった作業でございますのでいろいろ
条件は変わっておりますし、専門家の御指導は受けましたけれども、大変簡単なシミュレーションでございますから、単に問題の所在を指摘するだけというふうに御理解をちょうだいできれば幸いであろうかと思います。
御案内のように、時間
短縮を進めるということと三・五%の中期的な成長を確保するということが
政府の新
経済計画でございますが、これを達成するには
生産性の向上と一定の
労働力の確保が当然前提になるわけでありますが、四者がどのようにバランスを保てはそれぞれの目標が実現されるのかということを簡単に試算をしてみたわけでございますが、ケース一から五までございます。
ケース一は、何よりも時間
短縮を優先してまいりますと、そのほかの
生産性の伸び率であるとか
労働力率を一定にしたという場合、どうしてもやはり
経済成長にかなりの問題が起きるのではないか。二番目は、逆に
経済成長を優先いたしまして、
労働力率、
生産性の伸び率を一定といたしますと、
労働時間
短縮の方がかなりスローダウンせざるを得ない。ケース三は、
経済成長と時短の両立、
生産性の伸びを一定にしますと、
労働力の面にかなり問題が起きるのではないか。ケース四は、
経済成長と時短を両立させますと
労働力を一定とする限り
生産性の伸びは五割増しと、これは正確かどうかは別にいたしまして、かなりこれは頑張らなきゃいかぬということでございます。これらは従来の数字を延長したものでございますので、このシミュレーションの示しますところは、千八百時間の目標を否定するためにつくったものではございませんで、
リストラクチャリングという御指摘が既にお二人からございましたが、かなり
日本の
産業、
企業の
リストラクチャリングを伴わないと時間
短縮、
経済成長の達成は難しいのではないか、相当困難な問題があるということをみずから戒めるためにつくったというふうに御理解いただければと思っております。
そういった視点もございまして、私どもとしては、現在この不況も含めまして
企業の
リストラクチャリングを進めておりますが、当面現実的な
課題としては、ここ一、二年のうちに千九百時間台の半ば、この辺をまず第一の目標にいたしまして、これは確実に達成できるのではないかというふうに、これは勘でございますが、感じております。これをまず目標に置きまして、しかる後に中期的
展望のもとに千八百時間をターゲットにするというような構えが現実的ではないかという提起をい
たしております。御批判はいろいろあろうかと思います。御指摘をいただければと思っております。
それから、
労働時間問題の三番目といたしまして、
中小企業の立場でございます。これにつきましても
河口さんから大変いい御指摘をちょうだいいたしておりますが、私どもといたしましては五十一ページに
中小企業の問題を取り上げでございます。
実は、
労働基準法改正の議論を進めていく
過程でにわかに不況と重なりまして、私どものところに要請が参りましたのは、
中小企業の
労働時間
短縮へのハードルがとりわけこの不況によって極めて高くなったといういわば大変悲痛な叫び声でございまして、私どもとしては大変耳を傾けざるを得ないというふうに考えております。
したがいまして、そういった諸問題は
労働時間
法制の面にもいろいろ御考慮をいただくと同時に、
労働時間
短縮の進め方について私どもといたしましてもいろいろ
中小企業を支援する必要があろうかと思いまして、私どもの内部
委員会でございます
日経連の
中小企業問題特別
委員会で
中小企業問題と時短の関連について問題を煮詰めた実は研究を出しております。本日お配りをいたしませんでしたが、五十一ページにはその骨子が、幾つかの
中小企業における時短の成功例からピックアップをしてございます。一々御説明するいとまもございませんが、時短は従業員の
人間尊重の一手段あるいは自己実現という観点から大変大切なものだという自覚のもとに、トップが何よりも決断をしなきゃならないという前提におきまして、幾つか大
企業なりその他環境整備の問題について問題点を指摘いたしておりますので、これはぜひ御
参考までにごらんいただきたいと同時に、
中小企業が大変時短については真剣な前向きな姿勢を持ちながら、非常に厳しい環境、それから経営上の苦しみを抱いているということだけはぜひひとつ御理解を賜りたいと思うわけでございます。
さて、
労働時間問題の四番目でございますが、
労働時間
法制が現在中央
労働基準
審議会で一応の結論が得られまして、今後
国会において御論議をちょうだいする段取りになるだろうと思っております。細かいことはこれは申しませんが、
労働時間
法制についての
考え方を若干申し述べさせていただきたいと思います。
私どもといたしましては、基本的には
労働時間というのは、これはどこの国でも同じでございますが、
労使あるいは
経営者と従業員の立場の中で前向きに解決されていくべきものであって、
法律による誘導というのは、これは率直に言って最低限度にとどめるべきものであると思っております。特に、
労働基準法のいわゆる
国際比較もございますが、罰則をもって
労働時間
法制を強制しておるという例は必ずしも世界では共通のものではございません。そういう観点から見ますと、
労働時間
短縮の促進
法制は先般
国会で御決定をいただきました
労働時間
短縮促進法、こういったものによって促進をちょうだいすることについては私どもも賛成でございますが、法によって強制いたしますのは、私どもとしては限界があるというふうに考えております。
したがいまして、当然四十時間への到達について、法案によれば
労働基準法が来年以降原則移行という建前をとることについては異存がございませんが、それにいまだついていけない
中小企業については、少しずつ前進をさせながら、無理なくいわゆる強制的な
法律の枠内におさめていくという誘導
方法をとっていただきたいということと、それから割り増し
賃金については、これは話せば長いことでございますが、いろいろな
雇用慣行あるいは職場の時間外
労働に対するさまざまな習慣、その他もろもろのことを考えますと、相当慎重であっていかねばならぬということも考えております。
それから、
雇用の問題とも関連をいたしますが、今後
労働時間
法制の上で大きな問題になりますのは、ホワイトカラーと割り切るにはちょっと
言葉としては正確ではございませんが、いわゆる裁量
労働、自分自身の判断で物事を進めていくという仕事の分野がかなり実は広がっていくだろうというふうに思っております。これは
雇用の面とも関係がございます。そういった側面をサポートする
労働時間
法制というのが、率直に言ってまだまだ
日本の
労働基準法の中には十分とは言えないと思います。
労働基準
審議会でさまざまな議論がなされておりますが、次なる
課題というふうにおおむねはなっておるようでございますので、私どもといたしましては今後この面を十分研究の上、当然これは適切なる処遇と十分なる休養というのを伴わなきゃなりませんが、一般的ないわゆる升目ではかるような
労働時間管理というものからは若干違った目で見ていく必要があるのではないかと思っております。
労働時間問題につきましては、以上のようなことでございます。
次に、
労働力問題に移らせていただきたいと思っております。これも
レジュメに従いまして申し上げます。
当面の
雇用情勢でございますが、昨日も大変厳しい
雇用情勢が発表されております。差し上げてございますパンフレットの三十九ページをお開きいただきたいと存じます。その上に
失業率の
国際比較が載っております。統計のとり方その他にいろいろ直接比較するには留保しなきゃならぬ側面もあろうかとは思いますが、いずれも現在先進諸国においては構造的不況に悩んでおるさなかでございますが、これだけ
日本と他の先進諸国と画然と差があるということ、現在この二・一が若干上向いておりますが、それにいたしましてもいわゆる
日本的な
労使慣行、あるいは
日本の中の
雇用をまず優先する
企業行動というものがかなり反映しているのではないかと私どもは思っております。もちろん、それに耐えるには
企業の存立の限界まででございまして、
企業の存立
条件が失われればこれは耐えていけないわけでありますが、私どもといたしましても
雇用については最後まで、決してその
雇用調整について従業員の不幸をもたらすようなことについては慎むべきであるし、使用者の
社会的責任として頑張るべきであるということを繰り返し言っておりますし、いろいろ
企業、
産業によっては例外なり髪もございますが、大勢としては、現在なおかつての円高不況のところまではいっておりませんので、何とか早く景気浮揚を、諸般の
条件を整えていただきまして、
雇用についてももう少し楽な
状況に持っていくことが大事じゃないかというふうに思っております。
中期的な
労働力情勢と
課題につきましてはおおむね
高梨先生、
河口先生のおっしゃることとさほど違いはございませんが、若干このパンフレットの引用をいたしながら、私どもの考えを御説明させていただきたいと思います。
私どもも中長期的には
日本は人手
不足の
社会に転換をするというふうに思っております。しかしながら、
日本の
産業は人手がだんだん要る
産業の形にここ二十数
年間で転換をいたしております。引用するまてもございませんが、昭和四十年以降
日本の
産業、
日本の
経済が毎年一〇%前後の高度成長をした
時代には一%の
雇用、GNP上昇に対する
雇用、就業者の弾性値は〇・一三でございました。ところが、中成長に転換をしまして四%前後の成長が定着をしました一九九一年に例をとりますと〇・四六でございまして、同じ
経済成長を達するためにはかなり多くの人手を追加投入しなきゃならぬという実態がまだまだあらわれております。これは
サービス化であるとか高付加価値化であるとかいうことであろうかと思います。この辺の体質転換をしてまいりませんと、話はもとに戻りますけれども、時間
短縮あるいは適度な
経済成長あるいはこれから国民的な負担となります
高齢化
社会におきます
社会保障の問題あるいは
海外の貢献の問題等の負担も負い切れないのではないかということを痛感をいたしております。
したがいまして、今後は
日本産業、
企業の
リストラクチャリング、とりわけ人手を大事に使うという方向に転換をしなきゃならないということは、お二人の先生方の
意見と同様だろうと思います。その辺の基本的な
考え方につきましては、パ
ンフレットの二十九ページに書いてございます。特に、第一次
産業、第三次
産業あたりが相当
中心になるのではないかと思います。それを解決するためには、先生方の御審議もちょうだいいたしまして、やはり主として
政府の許認可規制、保護行政等によって、たまたま
生産性が必ずしも向上してないという分野についてぜひ解決をいたしていただきながら、
内外価
格差も解消しつつ人手がかなり厳しくなる
事態に
対応できるスリムな、しかも豊かな
日本産業社会を構成していくことが必要であろうかと思っております。
若干各論につきましては、三十ページ以降に書いてございます。その視点については、これはどなたの御
意見とも同じでございますが、いわゆるホワイトカラーでございます。私ども反省をいたしておりますのは、
バブルの時期におきまして、大変
大学卒を
中心とします新規卒業生に対して殺到して採用いたしました。これについては、大変戒むべきことであったと反省をいたしておりますが、ホワイトカラーの
生産性、特に仕事の成果に対する評価を含めて、もっともっと
能力を引き出しながら使うということがまず第一点であろうかと思います。
第二点は、これはどなたもおっしゃっております
女性の
社会進出でございまして、これは男性
中心の
考え方を
企業の中から改めていくということが
一つの柱、そのほか
女性の方が働きやすい環境を支援をしていくという体制が必要であろうと思います。
高
年齢者の
労働環境については、特に改めて言及する必要もなかろうかと思いますが、特に年功制人事の見直しというのが高
年齢者に対する適切な職を維持する
一つの前提になろうかとも思っております。要は、多様化する
労働力をどう
企業の中に包摂をしながら、
企業のアイデンティティーを確保して全体の従業員の幸福も図りながら発展していくかという道を探っていくのが今後の
企業の人事管理の大きな使命であろうかと思っております。
最後に、
外国人労働者問題について、三十二ページから三十三ページに述べておりますので、一言申し上げます。
外国人労働の受け入れについては、
企業経営者の中にはさまざまな
意見があることも
承知いたしておりますが、私ども
日経連の立場としては、いわゆる単純
労働者を受け入れることについては慎重な態度を一貫してとっております。
外国人労働者の受け入れについては、国益を
中心に考えろというお話もございまして、まことにそのとおりであると思っております。同時に、
国際協力という観点も大事でございまして、今
政府でいろいろ審議をいたしております技術移転、それから一定の研修後にある程度
雇用という形をとりながら、技術移転の成果確認を含めて、その成果を確実なものにしていくという方向が模索されているようでございますが、その辺は私どもも賛成でございます。
なお、今後こういった
外国人研修については、ODAのぜひ資金も投入しつつ、
国際協力という視点からいい方向に向かっていければと思っております。もちろん反省すべき点、あるいはこれから改善しなきゃならぬ点多々ございますが、基本的
考え方としてはそのように思っておりますので、最後に一言申し上げたいと存じます。
以上でございます。