○
参考人(
行天良雄君) お招きいただきましてありがとうございます。
自己紹介を兼ねてちょっと先生方に申し上げておきますが、私はたまたまそのコースを選んだのでございますが、約四十年間
医療というものだけをずっと見てまいりましたので、ちょうど私
自身の歩んでまいりました歴史が
日本の
高齢化の歩みと並行しておりましたし、また
医療は御存じのとおり、
医療保険制度それから
医療制度そのほかが大きく変わる時期と全部仕事がマッチいたしまして、ある
意味においては非常にラッキーでございましたのですけれ
ども、文字どおり
高齢化問題と
医療問題だけをずっと中心にして今日まで来たような経緯で私
自身が参りました。
そして、たまたまメディアにおりましたので、一般の方々からの問い合わせとかあるいは投書というのが非常に多かったので、それらをもとにしながら、今一般の国民がどういう視点でこの問題をとらえているかというのをずっと見てきたわけでございまして、後でスライドの折にまた御説明させていただきますが、私
自身はこの時期が最も激変と申しますか根本的に見直すべき時期にぶつかっているような感じがいたします。
特に、言葉といたしますと二十一世紀あるいは来世紀は、例えばきのう
日本医師会が委託いたしました日大の小川報告というのが発表されておりますけれ
ども、大変な
時代だというふうに言われておりますが、一般の人々にとりましては、この九〇年代の終わりまでが最大
課題と言っていいような時期ではないかというふうに私は思っておりますので、大変一方的な、まさに
私見になりますけれ
ども、先生方にこの
高齢化の現実というものをやはり知っていただきたいし、また見ていただきたいというふうに思っております。
それから、
会長ともちょっと御相談いたしましたけれ
ども、先生方それぞれの御専門の分野が違っております
関係で、私の話がある先生には非常に幼稚っぽい面が入ってくるかもしれませんが、その点はお許しいただきまして、全体像としての高齢問題に関してお話を進めさせていただきたいと思います。
私は今ずっと見ておりまして、少なくとも私
どもの分野から見ると、国民にとって重大な影響をもたらしておりますのはこの
高齢化の加速の問題でございまして、単純な
高齢化ではなくて大変なスピードというのが
一つ問題になっております。それから、それらを裏づける形としては、当然ですけれ
ども、国際
関係の中での
日本の経済の安定という問題が非常に大きくなっております。そして、
医療面というのはいわゆる年金
福祉関連と大きく並行しておりますので、その動きがこの後二、三年というのは大きな形で動いていくんではないかというふうに思っております。
それから、私は余り細かい数字というのを申し上げないつもりでおりますのは、この数字の予測というのは毎年のように狂っております。
日本の
高齢化問題の最大
課題というのは、
厚生省にしましても例えばきのう出ました
日本医師会の小川報告にいたしましても、ほとんどが狂います。狂う理由は前倒してございまして、大方の相当シビアな予測よりもなお速いスピードで
日本の
高齢化が動いてしまっているわけでございまして、その理由に関しても後ほどちょっと申し上げてみたいと思います。
私が、こうやって顔で申し上げるよりもスライドを一応見ていただいた方がいいと思いますので、大変恐縮ですけれ
どもスライドを見ていただきたいと思います。(スライド映写)
大もとの考え方ということで整理させていただきますと、私
どもは生き物でございますので必ず死ななければなりません。これはもう私を含めまして、大変縁起でもないんですが、先生方御
自身もやはりいつかは死というものをお考えにならなきゃならないんですが、これは仕方がないわけでございまして、生物はそのサイクルによって新しい命を生み、かつ育てていきながら文明と文化をつくり上げていったわけでございます。
この死をもたらす要因というのは、当然ですが、最大のものは飢餓です。飢えこそが死に最も直結しておりまして、飢餓対策という問題があるからこそ領土であるとか、現実的には食糧であるとかあるいは食糧生産に従事する人の力であるとか、あるいは
時代が変わりまして資源であるとか頭脳とか、そういったいろいろな問題に展開いたしましたけれ
ども、要は飢えないため、そして不必要に早く死なないための飢餓対策で戦争が起こります。そこへ宗教であるとかそのほかの問題が絡んではおりますけれ
ども、いずれにしましても飢餓と戦争は直結しながら動いてまいりました。
御承知のように、現在地球
人口は五十七億から六十億と言われておりますが、現時点でも国連などの発表では百カ所を超える箇所でこの時間に戦闘行為が行われております。そして、サラエボだけではございませんで、ソマリアにしましてもカンボジアにしましても、そしてモルディブそのほかいろんなところで考えられないくらいのトラブルが発生しております。そして、そこでは当然
人間の体が、生物ですから、弱り目にたたり目という形で、生き物としては
人間以外である病原体、ばい菌であるとかあるいはウイルスといったものが、感染症と言われております伝染病を起こしました。
ところが、私
どもはどうしても死ぬというと病気で死ぬということを考えてしまうパターンができておりますが、実は病気で死ぬどころではなくて飢餓で死ぬ方がはるかに重大でございまして、今国連の
一つの働きとしてWHOと言われております世界保健機関、
日本人の中嶋ドクターが事務局長を、今度再選されましたけれ
ども、このWHOも表向きは一応疾病対策をうたってはおりますが、予算そのほかに関しては一にも二にも飢餓対策でございまして、それこそ三、四がなくて五で初めて結核であるとか寄生虫であるとか、あるいはそれに関連した病気の対策がとられております。
ところが
日本は、この死の問題、飢餓と戦争と伝染病というパターンが死をもたらしておりましたのが、ちょうど昭和で申しますと昭和三十年代の半ば、一九六〇年に入りましてから急激に転じました。そして見る間に、右側にございますように寿命に近い形で死がもたらされる唯一の国に変わりました。先進国では追いかけるように寿命による死が常識化しつつはございますけれ
ども、
日本では余りにも速いトラスチックな
変化で、昭和三十年から四十年代の半ばにかけまして寿命による死に死のパターンが変わりました。となりますと、人々の関心は、寿命が神様仏様のおぼしめしであるという考え方は基本的にございますけれ
ども、寿命目いっぱいまで若々しくありたいとか、可能な限り老けたくない、また寿命というものを漠然とですけれ
ども長く持ち続けたいということで、老化というものに対する関心がぐっと上がってまいりました。
と同時に、
社会は寿命目いっぱいに近い形まで皆様が長生きなさいますために
高齢化の動きを徐々に進めると同時に、これら
社会要因は、大きな環境問題を含める南北問題として、地球全域の飢餓対策に向かって
日本の責任が問われる形に変わっていったわけでございます。
去年ございましたいわゆる南北問題の環境資源対策の国際会議、
日本でも開かれましたしメキシコでも開かれましたが、ここでいわゆる俗に南と言われております開発途上の国々から先進国側に対して考えられないくらいの憎悪に近いような発言が繰り返されましたのは、挙げてこの先進国全体がカバーされております
高齢化と安定した経済政策の中で、飢餓という問題とそれに裏づけされたいわゆる資源という問題に関するもうせっぱ詰まったような声がずっと上がったわけでございます。
医療はさっき申しましたように主に伝染病、感染症対策が中心でございましたが、昭和十八年にイギリスで開発されましたペニシリン、これが見る間に抗生物質としていろんな薬に展開されました。そして感染症に対して具体的な手だてを私
たち人間が持つことに成功いたしまして、見る間にずっと姿を消してまいりましたけれ
ども、薬よりも何よりも大きな問題は、
日本の経済復興であり豊かさであり
生活の安定であり、そして平和に裏づけされたこの国独特の
生活環境というものが感染症を見る間に減らしていってしまったわけです。
そして今は老化でございますから、実は本人の問題、本人の考え方、生き方の問題ということが大きく問われ出しておりますのが今です。
そして、病気の具体的な名前でごらんいただきますと、上が昭和二十二年、一九四七年ですが、
日本の亡国病と言われました結核、肺病が圧倒的に第一位です。そして二番目に肺炎がございますけれ
ども、これも今の肺炎と全く違っておりまして、そのころの子供とかそのころの年寄り、実は四十代、五十代でございますけれ
ども、この人々を一瞬の間に奪いました。
それから胃腸炎というのは消化器系の伝染病でして、赤痢、疫痢、コレラ、腸チフス、こういったような問題。そして四番目に卒中というのがございます。下の卒中と同じ卒中というカテゴリーになっておりますために同じ病気が残っているようにお考えになるかもしれませんが、実は上のころの卒中というのは、後ほ
ども御説明させていただきますけれ
ども、ほとんどが脳出血です。原因は若い人の重労働と低栄養です。そして五番目に老衰という、これは実はお医者さんにかかるお金がないために死亡診断書に老衰というものが多く書かれていた時期です。
それががらっと変わりまして、九一年は一位ががんで二五%、それから心臓病――狭心症、心筋梗塞、そして三番に今申しました脳梗塞中心型の脳卒中、これら両方合わせますと全部で約七〇%近くなります。したがって今
日本では死の原因のほとんどががん、それから心臓にくるか脳みそにくるかという違いだけであります動脈硬化ベースの問題、つまり病気では成人病と言っておりますが、国連の方ではこれらを老化現象というふうに見る見方が強くなっております。それから肺炎も上の肺炎と全く違っておりまして、寝たきりのために起こってくる、肺の働きが弱ってしまうという心肺機能の低下というのが主力でございます。
このまま
日本の経済環境が続くといたしますと、恐らく
日本人は全体の八〇%近くがこの老化を原因とするがん、心臓、卒中、肺炎といったもので死んでいくことができるようになる。かつ事故という
社会要因、これは交通事故だけではございませんで
社会要因の事故。そして六位には自殺が入っております。
これを逆の言い方をいたしますと、国民健康保険にヘルスパイオニアという
一つの運動がございますが、ある町では「百まで生きてがんで死のう」というスローガンが採択されております。これはがんという問題に対する一般の人々の考え方が急速に変わっていることを示しておりまして、これは特に後ほど御説明させていただきます。
厚生省は昭和十三年にスタートいたしまして、ねらいは富国強兵ということは言われておりますが、せっぱ詰まった具体策としては結核対策です。そのために内務省から分離したことは御存じのとおりでございますが、現在はそのときの
人口の約倍になっております。
問題は一番下の死亡でございまして、括弧の方は実数ですが、上の一七・七が六・七になり現在はおおむね七に近いというふうにお考えいただいていいんで、大体三分の一。そして、後で申し上げますが、
日本のこれからの
高齢化の最大
課題は出生の激減でございまして、二七・二あったのが九・九になり現在の推測値は九・〇ぐらいになっております。そして、この結果、
日本は
高齢化という
一つの形をもたらされたわけです。
ちょっと素人っぽい説明でお許しいただきたいんですが、
高齢化というのは
日本語では前は老齢化と訳しておりましたが、今は
高齢化に一応統一してございます。
あそこに七と書いてございますのは、その土地、その国、その民族の中で総
人口に対する六十五歳以上のお年寄りの数の割合を
高齢化の率と言っております。あそこの七というのは七%です。じゃ、いつ
日本がなったかと申しますと、一九七〇年ですから昭和四十五年、大阪万博の年に
日本は
高齢化社会に突入いたしました。そして、このままでまいりますと、上に参りまして一四と書いてございますのが一四%、これが高齢
社会というふうに一応言っております。予測は一九九五年と横に書いてございます。
しかし実際は、きのうの小川論文を見ますと九四年に間違いなく一四%を突破いたします。現在既に
日本は一三%を超えております。そして、超高齢というのが二〇%でございまして、これがこの予測値では二〇二〇年ぐらいとなっておりますが、やはり小川論文では二〇〇七年から遅くとも二〇一〇年ぐらいに二〇%を突破いたします。ですから、いかに速いスピードであるかというのは、あの破線の
部分まで入れても先生方御了解いただけると思うんですが、速いことがいいか悪いかというのが
一つの問題でございます。
例えばよその国を比較いたしますと、この
高齢化社会に突入したのはみんな年次が違っておりますけれ
ども、一応予想される高齢
社会突入もしくは高齢
社会になってしまった年代との間があの年代でございまして、フランスは百三十年かかってもなお高齢
社会にならないだろうというふうに今予想されております。この高齢
社会突入をおくらせることが政治的手腕であるかどうか、ここは難しいところでございますが、少なくともミッテラン大統領指揮のECをめぐります動きというのは、明らかに
高齢化の抑制に大きな効果を上げていることは間違いないわけでございます。
そして、
スウェーデンは高
福祉高負担ですが、この高負担のために
スウェーデンの前の内閣は一応政策
転換をいたしまして、御存じのとおり現在は中負担で高
福祉をやっております。
ちょっと申し上げたいのは、
スウェーデンの場合は高
福祉を切れません。その理由は当然でございまして、高
福祉を目標にして負担を負っていた年代の人々に対して高
福祉を打ち切るということは大変な問題になります。したがって、
スウェーデン自身はことしの秋、あるいは来年になりますけれ
ども、中負担中
福祉にどうやって軟着陸させるかということが政策の最大の目玉になっております。ところが一部の人は、
スウェーデンは偉いもので依然として
福祉はちっとも変わっていないというふうにおっしゃいますが、これは大間違いでございまして、変えることができない形にもうなってしまっているわけです。
そしてアメリカは、御存じのとおりクリントン政権になりましてから、この
高齢化に対する抑制を一層強めようとはしておりますけれ
ども、ブッシュさんの最後のころ持っておりました移民に対する相当強いブレーキを今後ともクリントン政権は続けていきます。ということは、若年労働力のその国の
人間としての移入をある程度ブレーキをかけますと
高齢化は一気に上がってまいります。ここが非常に難しいところで、失業問題と絡みながらアメリカが一体どのような
高齢化対策をとるかということは、実は奥さんのヒラリーをキャップに据えました、いわゆる
日本でいうところの国民健康保険法の
改正の
委員会がございますが、その
委員会の動きと相まって非常に難しい政治判断になっております。
これに対しては、アメリカのロビイスト
たちがいろんな
意見を言っておりますけれ
ども、今のところ私
どもが分析している限りでは七、三の割合で成功不可能というふうに見ております。やはり
医療問題とか
福祉問題とか、あるいは高齢問題というのは非常に大きな経済とのつながりを持っておりまして、
福祉のために出し過ぎれば国の活性化が失われる、しかし活性化をある程度維持するためには相当の負担というものはほどほどのところで持たなければならないという難しい問題がございます。
それからイギリスですが、御存じのとおり
日本の
医療制度、
医療保険制度の原点であるナショナル・ヘルス・
サービスをサッチャー政権がずっとつないでおりましたが、人頭別の税制の問題で結局失脚いたしました。ただし後を継ぎましたのがメージャー政権で、これは主力としてはサッチャー政権の後を継いております。ここでは、揺りかごから墓場までという考え方に全面的な改定の手を伸ばそうとしております。税問題と絡んでなかなか染められないところもございますが、ECの問題で大きな変動がイギリスを現在襲っていることは御承知のとおりです。特に、フランスとの間にドーバーのトンネルが完成いたしました。これはたかがトンネルということではなくて、非常に大きな経済交流というものが予想されますので、イギリスも恐らく経済交流は即
人間の交流になります。
間もなくかつての西ドイツのコールさんが
日本に見えますけれ
ども、
日本で一番言いたいことは、旧ソビエトに対する、そして現在はロシアのエリツィン政権に対する支援であるということをきのう言っておりますけれ
ども、何でロシアに支援をと言うかといえば、これはもうソビエトの崩壊によってこれら西ヨーロッパは大打撃を受けたわけでございます。つまり難民の流入です。この難民流入は、民族として受け入れれば
高齢化に対する大きなブレーキになりますが、職を奪うという問題がございますと、東ドイツの一部でなおネオナチズムの運動が続いているように、非常に難しい民族問題を抱えてしまっております。そして、西ドイツはあのように高齢
社会に入ったのですが、東ドイツという非常に貧困なグループを抱え入れたために、一二%から一二%半ぐらいのところを現在移動していると言われております。
ちょっとよその国の動きを御説明し過ぎましたけれ
ども、これらの国々がいずれも高齢
社会突入にブレーキをかけているにもかかわらず、
日本だけは、何でも一番はいいことだというような考え方があったせいもございますけれ
ども、独特の
日本の安定し切った経済環境、
社会環境が、唯一の高齢加速を進めている国に
日本を置いております。これだけ見ましても、いかに
日本が国際的に孤立しているかということがはっきりいたしまして、この
高齢化の加速
自身は大変すばらしいこととして評価すべきなんですが、よその国のように他国の影響を全く受けないで
日本だけが唯一
高齢化の加速を続けているというところが、さっき初めに私が申しましたように、国際問題として一体どういう評価を受けるだろうかということにつながってまいります。
日本が一九七〇年に七・一%という
高齢化社会に突入いたしましたのが、さっき申しました大阪万博です。このころは万博の経済開発というものが非常に一般の人々のブームを呼んでおりましたために、
高齢化社会突入というのは国民の多くの人々にインパクトを与えなかったのです。
しかし、言葉は
高齢化社会突入というふうになっておりますが、もうそのころのことはけろりとみんな忘れております。少なくとも
日本民族が千年近くにわたって願い続けてきた不老長寿の国というのは、実は
高齢化社会であったわけです。たかが
高齢化社会、六十五歳以上が七%で何だというふうにおっしゃるのは、長い間抱き続けてきた
日本人の夢というものを読み返していただければよくわかるわけでございまして、死は極めて身近なところで私
どもに常に隣り合っておりました。それがあっと言う間に遠のいてしまって、ほとんどの人々に二十年から三十年の老後というものを間違いなく与えたのが
高齢化社会です。
なぜ
高齢化社会にある日突然のように転じたかと言えば、下にございますように、昭和二十八年
あたりから一応形を整えてまいりまして、昭和三十六年に新国民健康保険法の成立によって、いつでもどこでもだれでもが、極めてわずかな負担で繰り返してあるレベル以上の
医療をほとんどただで受けることができるという、人類史上空前の皆保険制度が完成しております。そこへもってきて、昭和二十年に完全敗北であったにもかかわらず、第二次世界大戦後、
日本というのは、よその国に国家の命令において一人の今も失っていないという、これもまた人類史上空前の平和、安定というものを持ちました。問題点は、この
二つが
日本だけというところに今国際的な指弾と批判を受けているわけです。
当然
生活は安定いたします。物があふれて、アメリカ流の言い方をすれば、ブッシュ政権の最後にアメリカが言ったのは、アメリカの若者の血によって
日本が豊かさを持っているにもかかわらず何の感謝もないと言われた一番大きな問題。それから、いわゆる湾岸戦争のときの九十億ドルの負担で圧迫を受けましたときの言い分も全部そうでございまして、
日本だけが国際
社会に対する責任を余りはっきりさせないままに長い間の安定を持ってきたわけです。ですから、当然死亡率は低下の一途をたどりまして、特に乳児死亡は激減いたしました。そして、あっと言う間に
日本は一九七〇年に
高齢化社会に入ったわけです。
そして、見ていただきますとおわかりのとおり、非常に目立っておりますのは出生の激減です。
このブルーが余りの速さでおっこっております。そして、死亡は横ばいになっております。なお、この後九〇年代の最後の方をちょっと申し上げておきますと、九〇年代の最後
あたりで徐々にあの赤い線の死亡は少し上向いてまいります。しかし出生の方は多くの人々の期待を裏切りましてなお落ち続けるだろうというのが現在の推測です。ですから、あのブルーはずっとさらに下がってまいりまして、赤だけが寿命の壁にぶつかりまして多少上がってまいります。
当然、出生の激減は分母と分子の問題でございますから、
高齢化を一層加速いたします。いわゆる出生率激減というのは
社会構造の
変化でして、お話し申し上げれば切りはございませんけれ
ども、要するに若い
女性たちが結婚を余り望まない、そして結婚しても子供をつくるということ、家庭というものをつくるということに対して意欲がないというような問題が直接の理由になっております。ただし、加藤シヅエ先生が、たしか衆議院がどちらかでやはり
参考人としての御
意見をお述べになったときに、女はみんな結婚したがっている、結婚しない最大の理由は結婚したいような男がいないことだから、女を責めるよりも結婚したくなるような男をつくる
社会構造に変えろということで、学歴の問題、企業のあり方の問題、そのほかいろんなことをお述べになっておりますが、まさにそのとおりでございます。
しかし、残念ながらこの事実はほとんど変わっておりませんで、今度いわゆる
雅子さんブームということで、多くの人々が出生の回復、結婚の回復というものを三兆三千億ということで大きく期待したんですが、今のところ私
どもの予想分析ではほとんど
変化はございませんで、むしろまだ出生はさらに下がってしまうんではないか、やっぱりハーバードを出てなかったら結婚なんか考えない方がいいという形が強くなりますと、ぐっと落ちるんではないかというふうに懸念されております。また、小川レポートも、この出生の激減はなおとめることができないというふうに言っております。
そこで、
日本はお年寄りが一体どうなっているかという一番の見方は、病人が世界一多いんです。これはスライドがございませんけれ
ども、
日本の国民の健康度
調査というのを
厚生省が年に二回いたしますが、圧倒的にどの国よりも健康感あふれている国民が多い国です。それから、平均寿命も延びております。また
高齢化も進んでおりまして、みんなが丈夫で長生きできる国になっているにもかかわらず、世界一病人が多いわけです。ここが実は
日本の
医療の最大の問題でございます。
大体一日に八百四十万と御記憶いただきたいんですが、この中には歯科が入っております。これを除きますと、一番わかりやすいのはうそ八百万が入院・外来で一日の病人だというふうに御記憶いただきますと、いかに病人なのか、年寄りなのかというのが大きな問題です。
そして、これは実はこの後の
高齢化の大きな
課題になってくるわけでございますけれ
ども、そもそも
病院とか
医療というところは病人を対象にしてまいりました。それがかつての感染症
時代の話ですが、現在ではお年寄りがほとんど主力に変わっております。七〇%以上がお年寄りです。それが
社会入院だとか、年寄りが用もないのに
病院に行っているのはけしからぬという話になりますけれ
ども、これがけしからぬのか、あるいは
日本独特の
一つの
医療とか
福祉のあり方のパターンなのかというのをぜひ先生方にお決めいただく
時代がいずれ来るだろうと思います。
さっき申しましたように私
どもにいろんな問い合わせがございます。一日に大体二百ぐらい参ります、これは
全国の支社全部入れてですが。今までのところ一番多い、そして現在でもなお相当数まだ残っておりますのは、この三番目と四番目です。いい
病院と名医を紹介してくれと。
例えばテレビなんかで放送をなさいますと、その先生にすぐ紹介してくれとか、その先生にかかりたいという問い合わせがいっぱい参ります。これはやはり名医というものに対する信仰、それから何が何でもどうしても助かりたいという
人間の欲望、これは当然でございますけれ
ども、それが強かったのですが、昨今は上
二つに変わりました。圧倒的と言っていいくらい上
二つに変わったんですが、これが実は一年あるいは一年半前ぐらいから変わったわけです。
まず、年寄りを受け入れる
場所を教えろ、それから往診してくれるような親切なお医者さんが自分の住んでいる
地域にいるだろうかどうだろうかという、その名前を教えろということです。これが大問題でございまして、この老人問題というのは実は
高齢化の加速が現実の問題となって第一に私
どものところに響いてまいりましたのが、あの上でございます。
さっき申しましたような、
社会入院という問題をある程度
医療費の面からブレーキをかけるという形を国はとらざるを得ないわけでして、とりますと、当然何も病気でない、またこれ以上治す処置も何にも必要のない老人はやっぱり出ていただかなければならないということになりますが、出た後戻るべき家庭がないわけでございます。前あった
部屋は子供の勉強
部屋に変わるし、またいろいろと
社会構造が変わっております。
また、戻ったところでそのお世話をする人がいないという問題がございますと、結局、老人はおうちで一人で暮らすことができなくなる。世話をする、面倒を見るということで
施設ということになってまいりますが、
施設は
場所によって大きな差がございますけれ
ども、まず早くても三カ月、遅いところでは三年、二年というのはざらです。よい
施設ほど二年、三年待たなければなりません。その間に肝心かなめの方が亡くなってしまうということもあるし、それ以前に家庭崩壊を招きます。
また、二番目の往診の問題は、現在のままですと開業の先生方の平均年齢が六十五歳を超えております。往診する人が先にいってしまうんじゃないかということが心配されるくらいに年をとり過ぎております。そこで今、
日本医師会にしましても
厚生省にしましても、
医療法改正の後に、結局この往診をいかにして推進するかということで、若いお医者さん方に往診する開業医になっていただきたいという施策をこれから打ち出そうとして診療報酬改定の作業が始まっております。しかし、まだそれまでには何年かの時間が必要で、現時点では、往診、往診と簡単に言いますけれ
ども、往診すべきお医者さんが年をうんととっているという事実だけはぜひ御記憶いただきたいと思うんです。それでも結構行っていらっしゃるお医者さんがいますが、本当に危険な状態がだんだん起こってまいります。
それから、一番下はリハビリをどうする、室料差額をどうする、付き添いをどうするという問題で、最大
課題は後ほど申し上げますが、この付き添いの方に移っております。
付き添いは実は世話の問題です。これは中高年四千人の大規模
調査ですが、自分の親、夫の親ではなくて自分の親を自分や
家族が見るというのが三〇%、
施設に入れるが一〇%、外部
サービスに依存せざるを得ないというのが半数を超えておりますが、他人の世話の場合は嫌だというのが八〇%を超えております。これを古い方が見ますと、けしからぬと、嫁のくせに、娘のくせに、子供のくせに親孝行を忘れたのかというふうにおっしゃいますけれ
ども、今や介護の問題は実に深刻な問題でございます。
ついでに申し上げておきますと、ボランティアの問題が出ますけれ
ども、ボランティア問題の中で介護という問題のボランティアと、花であるとか本を持っていってあげるとか、いろんな
意味における手伝いのボランティアとは全く異質です。特にこの介護問題の中ではおむつの取りかえという問題は最大
課題でございまして、これをやるがやらないかということによって
人間の考え方は全く変わってまいります。
それから、御自分でよく親の面倒を見ているという方がいらっしゃいますが、現実に御自分が親の入浴という問題と、おむつの上げ下げという問題を毎日繰り返して半年以上続けられた方がいらっしゃるとすると、その方の介護というのは本物ですし、親の面倒を見ましたという言葉を私
どもは無条件で信用しますが、そうでない場合はなかなか難しい問題が、余りにも差がございます。この点をちょっと頭に入れておいていただきたいと思います。
ですから、老後の心配は何だというふうに国民の方に、
生活センターであるとかあるいはリクルートであるとか、いろんなところが
調査を繰り返しております。総務庁も
調査をやっておりますが、大体答えはいつも変わりません。
日本が特筆すべきことは、三番目にございます蓄えが十分でないという、老後のお金の問題があんなに少なくなっております。ところが、圧倒的に寝たきり、ぼけになったらということが心配だというのが多いわけです。それから、配偶者に先立たれることと最後の世話を頼める人の問題です。
これを順番で見ていただきますと、トップの寝たきり、ぼけ、「ぼけ」という言葉が嫌なためにわざわざ抜かしてございますが、実は同じでございまして、寝たきり、ぼけです。なぜ男が六〇%しかなくて女の方が七六%も老後の心配があるかといいますと、
日本はまだまだ現在の
高齢者並びに若い
人たちまでが、夫婦単位で、奥さんが面倒を見てくれるのが当たり前だと思っております。
ですから、家庭介護の主力はみんな奥さんだと思われているので、男はそれを信用しておりますから大丈夫だというので、自分の老後に関してはどうせ女房が見てくれるという、心配がないという六〇%です。ところが、女の方の場合は小川推計でも出ておりますけれ
ども、約七歳長生きいたします。そこへもってきて昨今は少し近づいてまいりましたけれ
ども、結婚年齢が四、五歳離れておりますと、十年は統計の上では未亡人という形になります。したがって、十年間夫の世話で疲れ果ててお金も使い果たした
人たちに来る老後というものは実は惨たんたるものでして、これが最後に響いてまいります。
したがって、男の場合ですと話は全く逆で、奥さんに死なれたら大変だという不安は六三%もございますが、奥さんの方は、どうせ夫は先に死ぬと思っていますから三七%しか不安がないわけです。これは愛情とは全く違うということは、あらゆる
調査がこれを裏づけております。
しかし、最後に世話を頼める人がいないというのは、気の毒に
日本の女の方がこれから担っていかなければならない最大
課題でございまして、後ほ
どもまとめて先生方に申し上げたいんですが、今
在宅介護を云々というふうに国が政策的に打ち出さざるを得なくなっておりますが、これを進めますと
在宅によって嫁さん、なかんずく長男の嫁が大打撃を受けます。しかも経済的な問題は大変な支出です。だから、金と力と
生活を全部犠牲にしながら、疲れ果てて、夫もしくは親の面倒を見終わった後に一体その女の人にどのような老後があるのかというのが実は非常に問題です。こういう問題はヨーロッパそのほかでは見られない形でございまして、親孝行理論と現実の高齢加速の中で
日本が選択していかなければならない、これは政治問題ではなくて実は
社会の判断の問題です。
そして、
医療そのものは、初めに見ていただいた表のように、飢餓が伝染病を生み、公衆衛生
対応を中心にしましたので集団
対応、これは今問題になっておりますワクチンの問題にしましても何もかも、ある数を対象にしてやりました開発途上型です。これがさっきお話ししましたように、昭和三十年の真ん中ぐらいから突如
日本は先進国型のパターンに変わりましたのは、
生活が安定し始めたためです。
特に、四十五年の大阪万博は
日本の経済の華やかな姿を世界じゅうにうたいましたが、その後オイルショックが二回続けてまいりましたけれ
ども、何といっても朝鮮動乱とベトナム動乱という
二つの特需によりまして
日本は今日の
生活安定、経済安定の基礎をつくってしまっております。そして、寿命、老化
対応、これは全部個別になります。したがって、
医療自身は急速に個別化に向かわざるを得なくなったわけでございまして、特に今、個別化の最たるものは人の寿命がわからないという問題にぶつかってまいります。
これが、ちょっとごらんになりにくいかもしれませんが、左側にございますのが、簡単を言い方をしますと、百
人生まれたと考えていただきたいんです。そして下の横が年齢でございます。すると、一番短いのが緑色の濃いのですが、あれは
日本で言いますとちょうど戦国
時代ぐらいに考えていただければいいんですが、生まれたばかりの赤ん坊が、見る間にこの二、三歳ぐらいのところで百人のうち四十人ぐらいが死んでしまいます。それからずっと死んでしまって、一番長生きしても五十まで
あたりが限度で急速に数を減らしていくという形になっておりますが、文明、文化が入ってまいりまして
生活安定が始まると、見る間にこのもえぎ色の緑に変わりましてぐっと寿命が延びました。
では今、
日本がどんな線かといいますと、実は予想されております紫よりももっと上でございまして、理論的には考えられない理想曲線に、
日本はさらにそれを食い込んでおります。例えば、生まれた赤ん坊は現在ほとんど死にません。これはNICUそのほかという先端
医療が進んでおりまして生きてしまっております。そして、ずっと来ますと、交通事故だとかごく一部の特殊な病気以外には子供は死にません。そして五、六十まではほとんど死なないというパターンで参りまして、そこから先はいろんな病気そのほかで人が減ってまいりますが、実際はこの紫よりもむしろ理論的理想曲線に近い形でいっておりまして、六十、七十ぐらいまではほとんど
日本の人は、大きな統計的な
意味では死ぬというパターンをとりません。
そして、その後ぐっとなりますけれ
ども、実は百歳を超えた方が去年四千人、恐らくことしは一万人を超えるだろうというふうに予想されておりまして、息も絶え絶えで百を超えるのではなくて、きんさん、ぎんさんに象徴されるように、おととい、ぎんさんという方が白内障の手術を人工水晶体でなさいまして、食べている米粒の一粒一粒が見えて全く世界が広がったということを言っております。まさにこのとおりでございまして、よたよたやっと百というのではなくて、考えられない丈夫な
高齢者層を抱え出しております。もちろんこれは全部ではございませんで、例外的な問題もありますが、とにかく
人間が予想できないくらいの恐ろしい確実な長寿を
日本が手にしております。
そこで、一体老化というのはどうして起こるかといえば、まず八割は遺伝です。つまり、遺伝子によって私
どもは決定しておりますけれ
ども、俗に言われるように、あの人は二十の遺伝だ、こっちは百歳の遺伝だというほど大きな差はございません。何かといえば、遺伝子というのは、御存じのとおり万年とかあるいは十万年、二十万年という長い、まさにロングスパンによって淘汰を繰り返しておりますから、現在の
日本人の持っております遺伝子は、おおむね八十、九十は生きるのが当然だという遺伝子になっております。そして、男女で不思議なことに多少違っております。
女性がやっぱり延びますが、開発途上国では
女性の方が早死にしております。
それから年齢は、この暦の年齢がどうしてもある程度加速いたしますが、四十ぐらいを過ぎますと、今度は暦だけではございませんで遺伝子の方が強くなってまいりますので、環境因子とちょっと違ってまいります。それから、圧倒的な要因は、残った二〇%ないし三〇%をコントロールするのは環境と食べ物で、この環境、食べ物が今後の
日本人の老化対策の主力になってまいります。
そして、年齢調整死亡というのがございまして、長生きしているために病気の様相が変わっている。みんなが長生きすれば今までの病気とはちょっと違っているじゃないかというのが出てまいりますのですが、これが大きく変わってまいりますと、あそこで見ていただくようにがんはほとんど横ばいです。心臓も横ばい、脳卒中だけが大きく形を変えております。これはつまり、長生きのためにかかるようになった。さっき言った百まで生きてがんで死のうというのはここに出ているわけです。
ちょっと急がせていただきます。
これを見ますと、がんなんというのは今一番死ぬのが七十代の半ばで、やがて八十代に移ります。心臓もそうで、
高齢化がどんどん横にいきますと、がん、心臓はまさに寿命の範疇に入り出しております。
ここで終わらせていただきますが、やがて二〇一〇年
あたりで超高齢に入りますと、最大
課題は
世代間調整、扶養と負担の問題をどうコントロールするかということで、クリントン演説でもごらんになりましたように、クリントン政権がこの扶養、負担問題をめぐりまして、アメリカの
高齢化問題を経済政策の中でどうやっていくかという大事な
課題を現在迎えているわけでございます。
私はきょう伺わせていただきまして、先生方に非常な早足で御説明させていただいたのですけれ
ども、やはり
日本の人類史上空前の高齢加速という問題をどういうふうに思うか。これは、政策にしましても統計にしましても、全部後手に回ります、それはなっとらぬとかけしからぬということではなくて、余りの速さについていけない。私
どもは、現実問題として一般の方々のリアクションを見ておりますので、
高齢化の加速は一般の人々に実に重大な影響を与え始めております。なかんずく
在宅で親の面倒を見ている家庭、
全国で約五十万から六十万というふうに推測しておりますが、これは、惨たんたると申し上げていいような
生活環境の中で、現在、親孝行理論と
日本が持ってきたかつての
家族制度の谷間で大変な苦労をしていらっしゃる唯一の方々だというふうに思っております。
しかし、このまままいりますと、現在の四十代は相当シビアな老後が来ますし、現在の十代の特に女の方にとっては、これはとてもこのままでは考えられないくらいの惨めな老後しかないということを予言して、話を終わらせていただきます。