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日下部禧代子君 確かに
社会復帰の問題というのは、さまざまな要因を含んでおりますので、これは一概に言えるほど簡単ではない、理想どおりというのはなかなか難しいということも
承知しております。他の先進国の場合には、かなり早い時期からそういう問題に挑戦しているというふうに私はとらえております。
例えば、イギリスにおきましては、自由
入院というのを法制化いたしましたのが一九三〇年でございました。これは英国法におきまして自由
入院を法制化したわけでございます。コミュニティーケアという言葉あるいは概念というものが最初にあらわれたのが二十世紀の初頭、今世紀の初頭でございまして、まず精神
障害者の分野でコミュニティーケアが進められ、それが児童
福祉、そしてさらに老人
福祉というふうに流れていったという歴史的な過程、これは
日本とかなり違っているなという感じが私はしております。
一九八七年でございましたが、イギリスの世界的に有名な医学誌でございます「ランセット」、
大臣御
承知だと思いますが、この「ランセット」の一九八七年の三月二十一日号に、「フォーゴトンミリオンス」、つまり忘れられた多くの人々というタイトルで我が国に非常に多い、いわゆる拘禁者が二十五万人いるという記事が出ております。当時一九八〇年の初めで、イギリスではいわゆる拘禁されている精神
障害者の
患者というのは七千人ぐらいでございました。その当時
日本が二十五万人だったわけです。そのことが、セントラルテレビの「ビューポイント87」という番組で放映されております。また、そういうことを受けとめまして、「インディペンデント」という新聞が「ぺーシェント・オア・プリスナー」、
患者か受刑者かというタイトルで大きく取り上げております。
そういう歴史がある国でございます。私が議員になる前、研究者の端くれでおりますときからも、イギリスの精神
障害者の
社会復帰の実態
調査は数を重ねております。今回、また四月二十三日から五月十日までイギリスとドイツを訪問いたしました。そこで、私はイギリスのシャドーキャビネットの
大臣、そしてまた与党の
大臣にもお会いいたしましたが、その際、イギリスの精神
障害者に対するコミュニティーケアの実態を再度見てまいりました。
私にとって非常に印象的だったのは、各自治体によりまして精神
障害者の
社会復帰についての計画ができていることでした。そこで使われている言葉にはいわゆる
患者という言葉はございませんし、クライアントという言葉もございませんでした。そのかわりにどういう言葉が使われているかというと、コンシューマー、
日本語に訳すと消費者というのでしょうか、そういう言葉が使われておりました。言葉というのはいろいろと重要な
意味を持っていると思いますが、その点が私は印象的でございました。計画書の中の至るところに、コンシューマー、つまり消費者の
人権、人間としての尊厳、そしてプライド、プライバシーという言葉が至るところに出ている計画書を見まして、私は非常に印象的でございました。
社会復帰ということをそのように早くからずっとやっております。特にデイセンターというのは全国に普及しており、今世紀の終わりまでにはいわゆる
閉鎖病棟をなくすという計画で各自治体が取り組んでおりました。私は、ロンドン市のハマースミス地区に参りました。ここは、エイズのデイセンターもきちんとしており、精神
障害者のデイセンターも整備されておりました。
また、ケント州というところに参りました。ここの精神
障害者のコミュニティーケアというのはもっと徹底しておりまして、
地域の衛生局が住宅を民間から買いまして、それをいわゆる公社に運営を委託するという形になっておりました。そこで入居なさっている方の家庭を訪問させていただいたんですが、一人はもう八十歳の女性でした。ほとんどその方の生涯というのは
施設と
精神病院を行ったり来たりということだったんですけれ
ども、やっとケント州の計画の中で
社会復帰ということが可能になり、人生の最後の部分において、
地域社会の一人の住民として生活をしていらっしゃる。その家庭を見てまいりました。
その場合、当然のことながら、生涯のほとんどを
病院とかあるいは
施設でお過ごしになっていらっしゃるので、社会的生活というのはなかなか難しい。したがいまして、その方につくケアをする人々というのが六人あるいは八人もいらっしゃった。何もその方々は一緒に住んでいるわけではございませんで、彼女は本当に独立して、グループハウジングでなく
一つの家に住んでいらっしゃいました。その場合、必要なときに必要な担当の方が来ていただけるように、ケアをする方の顔写真と同時にその下に番号がちゃんと置いてある。だから、ボタンを押せばちゃんと応答してくださるという方式がきちんと彼女の家庭にできておりました。
そういう形で
地域の受け皿というのをきちっとつくっているわけであります。家賃は無料というのではなくて、
障害者年金あるいは老齢年金で賄える家賃でございます。そういういわゆる
地域復帰のためのさまざまな施策、
地域の受け皿というものができておりました。
そういう受け皿が必要なことは先ほどから申し上げておりますけれ
ども、その受け皿の重要なものの
一つにやはり住宅があると思います。私が見てまいりましたケント州の場合ですと、衛生局が住宅を買い上げていく、それをいわゆるもと
患者だった方に
退院した後に貸すという形になっております。そういうふうな住宅をどのように供給するか、利用する側からいくとどのように住宅が供給されるかということでございます。
ここで建設省に
お尋ねしたいのでございますが、
入院なさった方が
退院なさった、その受け皿として住宅が必要なわけでございますが、建設省といたしまして、公営住宅への優先入居制度、そういったことは全くお
考えの中にございませんでしょうか。これからはそれを
考えていくというふうな対応の御方針を持っていらっしゃるでしょうか、お伺いいたします。