○下村泰君 本日のこの法案に対して、私は反対はいたしません。戸田
局長の顔を見ているだけで、これ反対したらえらいことになりそうですので、何か不動明王を見ているみたいで、これは賛成でございます。
実は、
大臣、聞いていただきたいんですが、おととしなんですが、
平成三年、九一年四月のことなんですが、
船舶安全法改正案について私がたった一人反対したんです。衆参両院ともにこれは全会一致で上がってきた。私はそのとき運輸
委員じゃございませんでした。本会議場でだった一人だけ反対したんです。私の後ろが自民党さんのお席で、何だ何だなんて言っていましたけれども、それはそうでしょう、一人だけ反対ですから、見えませんからね。
何で反対したか。これは反対する理由があったわけなんです。と申しますのは、免許の取得に当たって、聴覚
障害者への検査
基準に強い不満があったんです。それに対して、抗議と問題点提起の意味で私は反対したんです。
これからその方のことを御説明しますが、
大臣よく聞いていていただきたいと思うんですが、一人の聴覚
障害者が財団法人日本船舶職員養成協会が開いた国家試験免除講習を受けまして、学科、実技とも試験をパスしたわけです。これは八八年、六十三年です、まだ
平成になっていません。そして、八九年の二月六日に四級の小型船舶
操縦士免許の交付を受けることになったんです。これはうれしいでしょう、御本人にとっては。聴覚
障害でいろいろ制限のある中でこの免許が取れたということは本当に喜んだと思いますよ。ところが、一九八九年一月十九日に日本船舶職員養成協会神戸支部から説明したいことがあるからというわけで、連絡を受けて行ったんです。そうしますと、
講習申込みの時に添付した、予備身体検査証明書の医師所見が、大阪の財団法人日本モーターボート協会近畿事務所でひっかかっている。二十二日午前九時三〇分に、同事務所へ行ってもらいたい。免許を交付するかどうかは、そこの
判断に
まかせることになる。こういうふうに言われたわけです。ところが、この方は事前に難聴であるということをきちんとお伝えして受講をしているわけなんです。ですから、交付されるのを喜んだわけなんですね。ところが、行ったらこういうことになった。
そこで、一月二十三日、財団法人日本モーターボート協会近畿事務所へ行きました。そうしたら、こういうことになったんですね。試験員が二人いたそうです。一人の若い試験員に面会しますと、身体検査を改めてやることになり、廊下のいすに座らされた、いすに座った。そうしますと若い試験員が、「いまから何か言葉を話しますから、わかったら手を挙げて何を言ったか答えてください」と言った。御本人は、「はい」と答えました。そうしますとその試験員が、「では、補聴器を外して目をつむり、下を向いてください」と。いすに座って補聴器を外して目をつむって下を向けと言うんですね。驚いたんですよ、本人は。「えっ、補聴器を外して下を向かないとダメなのですか。しかも、目をつむるなんて……」と聞くと、「あくまでも検査としてやりますから」との返事なんです。その方は仕方なく、言われたとおり、補聴器を外して目をつむって下を向いた。そうすると、試験員は一メートルほど離れた横側から「トウキョウ」、「カナガワ」などと都道府県名を言ったそうです。この方は、何か言っている気配は
感じたものの、言葉として判別できません。そこで三回目に試験員が声を出したとき、「すこし耳にはいってきていますけど、何を言ったのか聞き取るところまでは判別できません」と申し出たわけです。それで、この方にしてみれば、「なぜ、相手の話を理解するのに、補聴器を外して目をつむり、下を向かなければならないのですか。私
たちには読話という方法があり、相手の口の動きを見ることによって、何を言っているか理解しやすいのです」と反論をしたんですが、試験員は「国の規定でこうなっていますから仕方がありません」と。これでついにこの方は免許証が取れなかったんです。
この検査
基準が聴覚
障害者への偏見と思い込みによるというふうに私は感ずるんです。そういったことに対する私は抗議の意味で反対をしたんです。
ですから、
大臣、
障害があるということだけで、健常者、我々何でもない人間にとっては、あの人はこういう状態だからこういうことをしちゃ危ないとか、こういうことがあるから危ないとか、勝手に机上の思い込みだけで決めているわけです。実際に科学的データも何もないわけなんです。危険かどうかは、そういう科学的とか客観的裏づけがあって初めてそういう方に対する対応を考えるべきだと思うんです。でなければ、悔しいですよ、この方は。もう免許証がもらえるって目の前に見えていて、改めて行ったら、補聴器は外されるわ、下を向けたとか、見ていればわかるんです、それを外された。じゃ、何のために補聴器というのはあるんですか。何にもならぬでしょう。
行政側はこういうことなんですが、
大臣、今のお話を聞いて私が反対する理由がよくおわかりだろうと思いますけれども、この船舶免許のあり方についてどういうふうにお考えになりますか。