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荒川参考人 私は、ただいま御紹介いただきました
日本経営者団体連盟労務管理部長の
荒川でございます。
本日、衆議院
労働委員会の
パートタイム労働に関する小
委員会が開催されまして、私
ども参考人から
意見をお聞きいただくことになりまして、心から感謝申し上げる次第でございます。
私の見解といたしまして、経営側から見た今日の
パートタイム労働に関する認識を述べさせていただきますと、次のような諸点に集約されるのではないかと思います。
第一には、
パートタイム労働の
雇用形態は、雇い入れる側、働く側それぞれのニーズにマッチしたものとして、これからの
労働市場を健全に発展させる必要があると考えられる点であります。
先ほど
高梨先生からも御紹介がございましたとおり、総務庁の
労働力調査によれば、
パートタイム労働者と言われる
方々が大半を占めているのではないかと思われます過所定
労働時間三十五時間
未満の雇用者は、俗称で短時間雇用者と言っておりますが、昨年の
平成四年で八百六十八万人であり、雇用者に占める割合は一七・三%に及んだと言われております。また、
平成元年と比較いたしますと、
平成元年時は六百二万人でございましたので、その間、数で二百六十六万人、率で四四・二%増加したということでございます。
このように
パートタイム労働市場が拡大した背景には、御案内のとおり、経済のソフト化、サービス化の進展の中で、
パートタイム労働に適した
業務が増加し、需要が高まったことがあると思います。また、就業意識の変化などにより、
パートタイム労働者として就業したいと希望する者が増加したことにあると思います。
経営側といたしましては、積極的に
パートタイム労働を戦力化していくために、
就労者の属性や
就労意識を十分勘案しながら、
雇用形態、
労働条件、
雇用管理制度、職種・職務領域などについて多様な
対応ができるよう取り組んでいかなければならないと考えています。
第二には、第一の認識の条件となるものでありますけれ
ども、
雇用形態、
労働条件、
雇用管理制度、職種・職務領域など需要側の問題と供給側の就業事情等とのマッチングにつきまして、あくまでも関係
労使、この場合の
労使は、集団としての
労働組合と経営者との関係だけではありません。あくまでも関係
労使が
市場原理にのっとり、自主的に工夫、
改善努力することが必要だろうと思います。
パートタイム労働市場は、これまでこの自由で柔軟な発想と積極的な
市場育成があったからこそ、このような活況を呈したと考えているわけでございます。
そこで、この自主的な
改善努力の重要性に関連しまして、
パートタイム労働をめぐる
行政指導あるいは法制化の問題について述べさせていただきます。
前述のように、
パートタイム労働者の
雇用管理の
改善は、
労働市場育成の条件であります。それはあくまでも現行の各種
労働保護法令、中身は
労働基準法であり最低
賃金法であり
安全衛生法であり、そのほかたくさんあると思いますが、これを遵守することは絶対条件であり、前提であります。それを前提にしながら関係
労使が自主的に行動することであって、
改善努力がその基本にあるわけでございます。
この点では、
政府が
平成元年六月に
パートタイム労働指針として、
パートタイム労働者の処遇及び
労働条件などの
改善を図るために、
労使を初め関係者が考慮すべき事項を定めましたが、まさしく自主的
改善努力の方向が
指針とされたことであり、健全な
労働市場づくりに寄与するものと評価していかなければならないと思います。まだこの
指針が十分
徹底していないと指摘が多くされております。さらに経営側としては
指針の趣旨を
周知徹底し、適切な
対応に努めていくことがまず大切なことだと認識しております。この点については、
パートタイム労働指針の
行政指導をいただくということもありましょうが、まず個別の経営者の意識、
パートタイム労働者を雇用する意識につきまして喚起が非常に大切であります。
そこで、いろいろな方策が考えられるわけでございますが、私
どもの経営者団体、何も日経連ばかりじゃございません、商工
会議所あるいは中小企業団体、商工会あるいは
業種別のさまざまな団体があるわけでございますが、そこでの勉強会、そういう団体を通じたいろいろな御
指導などがこれからもますます有効な手段と考えられるわけでございます。
特に、ポイントになりますのは雇入通知書の点でございます。先ほどの御両者からの御指摘もございましたが、
パートタイム労働をめぐりましては、とかく
労働につきまして
労働性の意識、これは使用者側も
労働側もひょっとしてない場合がございます。そういう中で、後々の
労働条件をめぐりまして、あるいは働く期待というのでしょうか、それをめぐりましてさまざまな問題が提起され、それが大きなトラブルになってくるということがあろうかと思います。その防止のためにも、雇入通知書の使用者側からの交付、こういうものがまずベースにあってしかるべきではないかと思うわけでございます。
ここら辺につきましては、使用者団体などでもいろいろ議論があるようでございますが、私としましては、まず入り口のレベルできちっと
労働の
内容をはっきりさせる、そしてそれを条件として、後々そごのないような
管理にしていくというところが大切ではないかと考えるわけでございます。
ところで、今春、国会に短時間
労働者の
雇用管理の
改善等に関する
法律案が上程されています。この
法律案づくりにつきましては、
高梨先生の
研究会あるいは婦人少年問題
審議会での熱心な御議論というものがあり、今回の法案上程になったわけでございますが、婦人少年問題
審議会の使用者代表
委員の
立場からいたしますと、いささか
立場を異にした態度を表明いたしました。
短時間
労働の
雇用形態が
労使のニーズにマッチしたものとして
労使が有効に活用できるようにすることが必要である。法的規制を行うことはやはり慎重でなければならないのではないか。それには現行の
労働保護法令の遵守と
指針の
周知徹底が先決であって、新法の制定の
必要性というものはないのではないか。法案の
内容は
法律の根拠がなくても現在も実施されているものであり、新法の制定の
必要性というものも乏しいと思う。
指針に法的根拠を与えることになれば
行政指導の強化を招くおそれもあり、これが経営者の自主的努力を阻害するおそれもあるということなどを理由にいたしまして、法制化に反対をしたものであります。この根底にありますのは、契約自由の原則のもとに多種多様な
雇用形態を創造していく、つくっていく、そして企業の雇用活動をより活発にしたいと願っているからであります。
第三に、
雇用管理のあり方についての見解であります。
それは、特に
パートタイム労働者の
労働条件・処遇について、フルタイム
労働者との関連でどのように位置づけをするかであります。
パートタイム労働者の
賃金・手当、賞与一時金、
退職手当、休日・休暇、配置・昇進あるいは
教育訓練、福利厚生などなど、
労働条件・処遇につきましては、やはり法令の遵守と
指針の趣旨の理解を前提にして、
パートタイム労働の特性から独自に
判断され、決定されるものだと理解するものであります。
つまり、
パートタイム労働というフルタイム
労働とは違った
雇用形態を前提にして、
労働市場の中で当事者が仕事の
内容、責任の度合いあるいは
雇用管理制度、例えば配置転換のようなこともあろうかと思います、諸要素をもってして、さまざまに勘案されて合意した結果というものを尊重していくというのが筋ではないかと思うわけでございます。
第四には、
パートタイム労働者に対する
社会保険の
適用及び課税についてのあり方であります。
本問題は、現実には利害関係が交錯しています。使用者側の中でもさまざまな
意見があり、整理がなかなか難しいのが現状であります。直ちに変更を迫ることは問題がありますので、将来を見越した十分な
検討が必要であるというところが最終的な結論になるわけでございますが、
社会保険適用については、
パートタイム労働者に対する現行の
社会保険制度の被扶養者認定基準というものが、一番目には
労働時間・日数、次に所得となっている点に着目をしてみますと、フルタイム
労働者の被扶養者認定基準が原則として所得基準のみになっているのに照らし、
パートタイム労働者にもまず所得基準としつつ、調整のため
労働時間・日数という方式で改めていくことではどうだろうかという議論も使用者の中ではされているわけでございます。これは
一つの例でございます。
所得課税の問題につきましては、当面の
対策として、
非課税限度額の引き上げを図るべきという考え、あるいは将来的には所得に応じた税負担に持っていくべきであるとの考え、大変交錯しております。利害関係がいろいろ複雑に絡んでおりま
す。しかしながら、将来的に所得に応じた税負担に持っていくべきであるという方向は、当面の
対策以上に大切なことではないかと思うわけでございます。
社会保険、
税制ともに、いずれも夫婦のいずれかが主として
就労する姿を前提にし、部分的にそれを調整するということで今日の扱いがされていますが、今後は
就労意識の変化と実績を見ながら、
制度の根本的な枠組みを見直していく方向が必要になってくると思われるわけでございます。
パートタイム労働の問題はさまざまありますが、以上の諸点につきまして所見を述べさせていただきました。御清聴ありがとうございました。(拍手)