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島田公述人 島田でございます。
今日の
日本は、不況が長引く中で、未来への明確な展望はなかなかつかめない大変難しい
状態でございます。そういった
状況を踏まえまして、本日私は、先生方のお手元に配付させていただきましたレジュメにもございますように、「逞しく豊かな
日本」を築くにはどうすればよいか、こういう観点から所見を申し上げたいというふうに思います。
まず初めに、たくましい
日本、具体的には人的資本の強化ということでございますが、そういったことを強調させていただきたいと思います。
本年度の
予算案は、不況の脱出を目指して、生活関連インフラを大変重視した公共投資に力点を置いて編成をされております。公共投資というのは実行するまでに大変時間がかかりますので、一
国民の私といたしましては一日も早いこの
予算の成立を期待したいというふうに思います。
また、大型の所得減税に住宅減税その他政策減税を組み合わせた野党の共同修正案というものが用意されているというふうに伺っておりますが、非常に低迷する景気の中で、雇用不安を解消する、金融システムの安定化を目指すといった
国内の
経済への配慮、また、昨夜のニューヨーク市場の
動きにも見られますように円高が高進しております。そういった中で日米関係の国際収支のバランスを回復するといった国際
経済への配慮からも、一段の大型景気刺激策は大変重要であり、また意義が深いというふうに私は
考えます。
しかしながら、所得減税の消費刺激効果ということになると、実は必ずしも楽観できない面がございます。と申しますのは、家計も企業と同じように住宅や自動車など耐久消費財その他大変なストックを抱えて、現在調整過程にある。したがって、単なる所得減税ということでありますと、ローンの支払いとか貯蓄等に吸収される可能性が極めて大であろうというふうに私は
考えております。したがって、一般的な所得減税では、消費刺激効果というのは、実は残念ながら今最も効果が期待しにくい時期にあるのではないかというふうに
考えます。
一方、財源については、これだけの大型刺激策をとるということでございますから、大量の赤字国債の発行は不可避であろう、こう
考えるわけでございますが、しかし、今後数年税収減が予想される中で、この
行動というものは将来非常に大きな負担を上積みすることは明らかであろう、こう
考えます。したがって、適当な段階で消費税の税率引き上げなどで増収を図ることは不可避であろう、こう
考えるわけでございます。
しかしながら、
国民の納得を得るということ、これがなかなか容易でない。なぜかというと、現行の消費税はさまざまな不公平性その他多くの問題を抱えております。したがって、この難点を
解決して税率を引き上げる準備をするということが急務ではなかろうか、このように
考えます。
国民の大多数を占める給与生活者から
考えますと、消費税の税率を引き上げても、それを中立化する所得減税と組み合わせるならば必ず有利なはずでございます。したがって、一刻も早く消費税の抱えておる
問題点を改革して、そして
国民の広い理解を得てこれを実施するということが急務ではなかろうかというふうに思います。
しかしながら、税体系の変革という問題は後々の影響が極めて大きい。したがって、よく将来を見据えて行うことが重要であろうというふうに
考えます。税の改革というものは単なる負担増になってしまっては元も子もない。これからの
日本はますます高齢化してまいりますから、
日本経済の活力を増進するという方向に働く先行投資の視点を踏まえた税改革が極めて重要ではなかろうか、こういうことでございます。
そこで本日私は、とりたてて、たくましい
日本というテーマをつけさせていただきましたのはそういう
意味からでございまして、私なりに具体的な例示としまして
二つばかりのアイデアを提案させていただきたいと思います。
一つは、自己啓発もしくは個人教育投資優遇税制、こういったものでございます。
皆様のお手元にお配りいたしました資料の中に、実は数年前に書いた記事でございますが、かねてからこのアイデアを私は提唱しておりますものですから、お配りさせていただきました。一言で言いますと、これは転職者とかあるいは転職を
考えている人、みずからのグレードアップを目指している人、こういう人々の自己啓発費あるいは自己教育訓練費の経費の実費の一定部分を課税所得から控除する、こういう所得税法の改正にかかわるようなことでございます。この
考え方は次に申し上げるような幾つかの
メリットがあります。
〔
委員長退席、小杉
委員長代理着席〕
一つは、
日本は人口が高齢化してまいります。また、産業構造、技術構造が変化しておりまして、就業構造に占めるホワイトカラーの比重がどんどんふえております。そういった中で、とりわけホワイトカラーの人的資源の再開発に貢献するということでございます。
二番目には、最近各方面で懸念されておりますホワイトカラーの雇用不安にも
対応するだろうと思います。
三番目に、自己啓発、教育訓練支出というのがございます。これは投資効果を持ちます。また、これの受け皿としての産業人の教育訓練関連産業というものが育つはずでございますが、こういった両面からの税収増が期待されますので、恐らく長期的にはネットで税収増になるだろうというふうに思います。
それから四番目に、現在こういった目的のものがないわけではない。例えば生涯職業訓練奨励給付金といった補助金などがありますが、補助金では
国民に周知できない、また広くないということで、やはり一般的な優遇税制がよろしい、こう
考えます。
最後に申し上げたいのは、これは国家百年の計でございます。
日本は今日
世界一の長寿国でございますが、これは
日本の手厚い保健衛生医療制度があずかって大いに力がある。また、
日本経済の発展を支えてきたすぐれた労働力は、
日本の大変立派な義務教育制度によるところが大きい、このように
考えます。ところが今日、
日本は高齢化しつつある、そして人々の生涯勤労期間というのは大変長くなっております。そういった中で、貴重な人材の能力向上を今のうちに図っておくということは、国家百年の計ではなかろうかというふうに
考える次第でございます。
いま
一つ、高等教育研究基盤の特別整備計画といったようなものを提案したいと思います。
今日、主要な国立大学を初め多くの大学の研究教育施設の惨状というのは見るにたえないものがございます。世間の関心も高まっておりまして、
政府も国立大学については最近、およそ年間二百億円程度の特別施設整備費ですかそういったものを計上して改善に着手しておるようでございますが、この際先生方に提案したいのは、この際ですから抜本的かつ徹底的な改善、拡充を図ってはどうかということでございます。
関係者の話をいろいろ聞きますと、およそ二兆円あれば主要大学及び主要基礎研究機関等の抜本的な、相当理想的なインフラの総改善が可能だということのようでございます。もちろん、これはどういう財源から出すかということになれば建設国債ということであろうかと思いますが、財政法の第四条によれば、建設国債というのは国の資産となる公共事業というふうに定義されております。文教関連でいいますと施設費ということになるわけですが、もちろん建物は建設国債で幾らもつくれるわけですけれども、関係者の話によりますと、今非常に欠けておりますのは、
日本が外国の研究者を受け入れる住宅基盤が非常に弱い。たくさんの研究者、教育者が
日本に来たいんだけれども住むところがない。こういう施設を抜本的につくったら、これは大変な国際貢献になると同時に、
日本の科学技術、教育の発展に資することは明らかでございます。さらに、こういう事業というのは実はハードよりもソフトが大切。コンピューターのソフトであるとか通信ネットワーク、あるいはプロジェクト、試験研究費、こういったものが重要でございますが、これは先生方に釈迦に説法でございますけれども、四条三項で、この
範囲というものを
国会で決めることができることになっているはずでございます。ぜひ先生方の、「自ら古(いにしえ)を成す」という
考え方で、建設国債の中に研究、教育に関してはソフトを組み入れるということをぜひ今
国会で決議していただきまして、実現していただきたいものだというふうに
考えます。こういうプログラムは、将来大きな見返りを生むことは必定でございます。
日本の今日の産業の
状態を見ておりますと、量で稼ぐということでやっておりますが、知的な面が大変弱い。創造性が欠けております。太平洋の向こうの米国では、クリントン政権が人的資本投資というものを必死に始めました。これは初等中等教育でございます。彼らはそれが弱い。しかし、
日本はどこが弱いかといえば、私も奉職しておりますが、残念ながら大学教育が弱いんです。それが産業の知的生産性の足を引っ張っております。ぜひ先生方の御英断でこのあたりを強化していただきたいというふうに思います。これはまた、同時に
世界の科学技術の発展にも資することになります。しかも、すぐにこれは着手可能でございます。即効性がございます。保確実な投資支出があります。ですから、景気浮揚効果も明らかでございます。先生方におかれましては、将来の
日本を形づくる、こういう
意味で、真に役に立つ
予算というものを今
国会でぜひ、さすが立派な
国会議員の先生方だと言われるような修正をしていただきたいものというふうに
考えます。
次に、豊かさ実現の戦略ということで申し上げたいと思います。
生活大国の実現というのは、現行の
経済運営五カ年計画の主題でございます。これは、まさに中期
経済政策の運営の基本であろうかというふうに思います。しかし、
日本人の生活は、ごく率直に総合的に評価すれば、国際的に見て今私はかなりいい方だ、こういうふうに思います。だからやらなくていいというのではなくて、私が申し上げたいのは、しかしもっともっとよくできるのだ、それをなぜしっかりおやりにならないかということでございます。
生活の質を決めるには、私の
考えるところ
三つの柱がございます。
一つは時間、
二つは空間、三番目はお金でございます。政策のよろしきを得れば、時間の問題、空間は住宅でございます、お金は生計費でございますが、もっともっと改善できるのでございます。
これらについて簡単に申し上げたいと思いますが、第一に時間、つまり労働時間、自由時間といったものでございますが、労働時間の短縮ということが叫ばれております。ここで強調しておきたいのは、時間短縮の基本はあくまで民間の努力である、労働を効率化すること、創造的な付加価値を生み出すこと、これでございます。
政府の役割は、傍らからこれを支援することでございます。そこで、
政府の役割は何かというと、最も直接的にはルールを設定することでございます。週四十時間労働制というものが来年から施行されることになっておりますが、これは大変適切な
行動であろうというふうに思います。ただ、これをいかに担保するのかということが問題でございまして、時間外割り増し率というのがございますが、今
日本では二五%、多くの国々の中で最低に近い方でございますが、
政府はこれを二五%から五〇%ぐらいの
範囲で政令で決めるというふうな方針のようでございますけれども、少なくとも国際水準の五〇%を最低基準とするように努力をしていただきたい、このように思います。
しかし、
政府にとってもっと重要なことは、生計費の問題でございます。
日本の都市の生計費は
欧米に比べて二割から三割高いというのは、どういう統計をひっくり返してみても出てまいります。これはどういうことかといいますと、
国内の消費財・サービス産業の物価が高いということでございます。その大きな要因は、円高の
メリットが還元されていないということでございます。国際競争に洗われております輸出型の製造業は、円高の際に懸命なリストラクチャーで
対応いたしました。しかし、
国内産業は、合理化、近代化への構造改革が大変おくれました。なぜか。これは、
政府の規制と保護というものが大きくかかわってございます。
日本にはこういう
意味で五つの、五大
国内産業と言ってよろしいかと思いますが、ございます。例えば農業、四百万人の方が従事しております。建設六百万人、サービス業千七百万人、卸売、小売、飲食業千五百万人、運輸業三百七十万人、これらを足し合わせますと四千五百七十万人になります。
日本の総労働力は六千四百万人でございます。製造業はたかだか千五百万人を占めるにすぎません。この五千万人になんなんとする
国内産業の近代化、合理化がおくれているということが物価高の
根本原因でございます。
これらの産業の構造改革を促進するためには、市場の開放、自由化というものが極めて重要でございます。そして、規制の保護撤廃、緩和ということが重要でございます。しかし同時に、これらの産業の方々の合理化、近代化を促進するため、構造改革、リストラを促進するためには強力な支援が必要である。私は自由化論者ですけれども、何もしないで自由化するというほど乱暴なことはありません。農業であれば、経営近代化の支援、農地の流動化、集中化、あるいは農地法を改正して、私は、農業外の人材が流入するということも
考える
時代に来ているのではないかというふうに思います。他の産業も同様でございまして、
政府がなすべき重要なことは、所得補償的な補助金よりも、むしろ制度の改革、システムの改善、ソフト面での支援ということが重要ではなかろうかと思います。
〔小杉
委員長代理退席、
委員長着席〕
最後に、空間、住宅整備の問題、国土活用の問題について触れたいと思います。
今日、バブルが崩壊して、地価が非常に下がっております。しかし、住宅問題は
解決されてはおりません。良質な住宅インフラを都市の近郊そして全国に
展開することが住宅問題を
解決する基本でございます。そして今こそ、地価の下がっている今こそ、そして財政出動が要請されている今こそそのチャンスだというふうに私は
考えます。
以下、
三つのポイントについて申し上げたいと思います。
一つは、調整区域を活用するということです。
日本の土地は決して狭くございません。バブル
時代に釣り値がついた一因は何かというと、土地が狭いのではなくて、税制のために供給が出ないということでございます。そしてまた、良質の住宅インフラの整備が不十分だということでございます。
日本の国土は三十八万平方キロメートルございますが、御案内のように、都市計画区域というのは九・二万平方キロ、農地は六万平方キロ、しかしこの九・二万平方キロのうち実際に整備されて活用されている市街化区域というのは丁三万平方キロにすぎません。これの三倍に及ぶ三・八万平方キロという土地が、調整区域として甚だ不十分な活用の
もとに放置されている現状でございます。
先生方のお手元にお配り申し上げた最後のページに、コア・ネットプランというのがございますが、水玉プランとも私ども
考えておりましたのですが、このようなイメージでございますけれども、全国
各地の調整区域に職住近接の小さな都市をたくさん、良質の住宅ということを主眼にして
展開するという
考えもあり得るのではないか。ただ、これは大変やりにくいんですね。なぜやりにくいかというと、役所の縦割りでございます。したがって、私どもは、国土庁、関係省庁の上位に位置する行政
委員会のようなもの、つまり、住宅インフラ計画
委員会とでもいいましょうか、そういったものでもつくっていただいて本格的にこの際やっていただきたいというふうに思うわけでございます。
二番目、
地域開発の問題でございますが、バブルが崩壊しておりまして、東京の一極集中は、現在のところ一時停止の様相あるいはむしろ逆流の様相が短期的に見られます。しかし、均衡のとれた
日本の発展のためには、全国に雇用
機会がまんべんなく均てんするような各
地域の発展が強く望まれるわけでございます。
日本は高度に発展した情報化社会でございまして、このために最も重要なことは、
地域に最新の情報を発信できる機能が育つようなソフトインフラの整備が必要だということでございます。このために私が日ごろから強調しておりますのは、まず通信料金の全国均一化ということをお
考えいただいてはいかがなものかと思います。東京との情報コストの
地域格差、これは莫大でございます。これが地方の発展を妨げております。長距離通信料金を引き下げる、それには市内の料金をちょっと上げなければなりませんが、例えば東京の市内料金を三分十円でなくて三分三十円にすれば、全国、沖縄、北海道を含めて三十円で長距離通話ができるという試算がございます。これはあしたからでもできるのです。早期に改革をしていただきたい、このように思います。先生方の
選挙活動にも大変役に立つのではないか、このように思います。
二番目、
国内の航空ネットワーク整備とソフトの充実。空港のハードはもう十分に整っているのです。必要なのは首都圏の空港の追加的能力とソフトの充実でございます。
そして最後に地方財政における主体性、独立性の増進。
そして最後に新都の建設。これは先生方の英断によりまして、一昨年、首都機能の移転という決議がなされたはずでございますが、二十一世紀の
日本づくりということを目指して、先生方の創造力あふれる、さすが立派な
国会議員の先生方だと
選挙民に言わせる大改革を今
国会で実現していただきたいと思います。
どうもありがとうございました。(拍手)