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宮澤内閣総理大臣 先ほどから今の
不況のことを少し国民の
皆さんにもうちょっと平易な
言葉で話せというお話がございまして、ちょっとお時間をとるものですから余りそういうことを今いたしていないのでございますけれ
ども、一九八五年にプラザ合意がございまして、そこでずっと円が上がっていきました。あれは九月のお彼岸のときに始まったことですが、二百四十何円の円がその年の暮れには二百円になってしまいまして、今日はもう百二十何円ですが、
日本経済は耐えられずに、企業が店を閉める、企業城下町は火の消えたようになる、失業が大変に発生をするという
状況を御記憶であったと思います。
それに対応して
政府が大きな
補正予算を組み、
公共事業をやり、この危機を、いわゆる円高危機というのを乗り切りましたが、その後、長い
成長が続く、好況が続くわけですが、そのときに
政府の支出は非常に多うございましたし、それから、為替の安定をするために、いわゆるドルの急激な下落を防ぐためにドルを買う、ということは円が流出したわけですが、そういうことから一般に過剰流動性というものが生じて、その金が御記憶のように土地に行き、株に行ったわけでございます。それは非常に一種のブームになった。その間、
日本の
経済の好調が続きます。税収も非常にふえたわけでございます。
そのブームの裏が来たわけですが、なぜ裏が来たかと言えば、やっぱりブームというものは、本質的に正常じゃない状態ですから、いつかは終わるということでもありますけれ
ども、この間に我が国の企業の設備投資が毎年二けたずつ、ずっと三年余りふえたわけでございます。それだけ供給力がふえた。こんな毎年二けた以上、三年余りも設備投資が続きますと、これはいつかはやっぱり供給過剰の体制にならざるを得ない。これも後になればわかることですけれ
ども、そういう状態が続きました。
その二つのことが、結局、ブームがつぶれるということと供給過剰体制というものが明らかになったということで、我が国のそのプラザ合意、もっと正確に言えば一九八六、七年からの好況が終了したわけでございますが、その終了時期がいつであったかは、先ほ
ども御議論がございましたけれ
ども、恐らく一九九一年のある時点、暮れには少しずつ在庫調整が始まりましたので企業もこれには気がつき始めておるということですけれ
ども、大変実はその時期は遅うございまして、在庫調整は、
最初に原材料と申しますか基礎資材と申しますか、鉄から始まったように思われます。それは一九九一年の夏ごろでございます。一九九一年の末になりまして、初めて家庭電器のところまで在庫調整がようやく始まりましたけれ
ども、実は非常にそれは長引いておりまして、今日の時点で申しますと、在庫調整がまず済みましたのは原材料の部分、それから資本財、生産財の部分、これはかなり私はもう進んで終了に近いかと思われます。しかし、耐久消費財はまだ在庫調整は済んでいるように思えません。ここに来まして、かなり家庭電器などの在庫調整が進んでいますけれ
ども、まだまだ終了したようには思えない。
他方で、普通でございますと、在庫調整が済みますといわゆる腹が減った
状況になるわけで、生産がふえていくわけですけれ
ども、国民の側に消費に対する意欲が起こってきていない。比喩的に言えば、それだけ体が弱っているといいますか、あるいは前に食い過ぎたといいますか、そういうふうに申し上げるべきなんでしょうが、もっと具体的に申しましたら、その例のブームの裏というものは株式なり不動産なりの価格が非常に下がったということでございますので、あれが上がっていきますときには資産効果ということで、何となく自分も金持ちになったような気持ちになってデパートヘ行って余計に物を買いますけれ
ども、下がってきますと、自分が貧乏になったような気がいたしますから、どうしたって家計はそれは消極的になる。考えてみると、要るものは大体持っておりますから、余計そういうことになっておるということと、同じことが企業にも起こっておると思います。設備投資をやり過ぎましたから、これ以上設備投資はなかなかしにくいんですが、企業自身が持っておったはずの株式なり不動産なりの含みがあれだけ落ちましたから、とても設備投資をしようという気にはならないということもございます。ですから、在庫調整が進みましても、消費の面、投資の面からなかなかすぐに
経済が反転をするということになっていないのではないか、こういうふうに思うことが
一つでございます。
それからもう
一つは、先ほど大蔵大臣が言われましたけれ
ども、そういう株式なり不動産なりの資産の下落の結果、殊に金融機関にやはりかなりの
影響を生んだ。つまり、金融機関の不良資産、不良貸付分がそれだけ多くなっておるわけでございますから、金融機関の融資対応能力が落ちている。先ほど日銀総裁が言われましたマネーサプライの問題でございますが、これがマイナスになっているということは、
一つは金融機関そのものが貸し出しをするということに実は非常に消極的になっている。あるいは融資需要も少ないかもしれませんが、そういう消極的な態度がある。で、同じことは証券でも、これはもっと直接に証券のバーストがきいたわけでございますから、そういう国民
経済の血液ともいうべき部分を担う金融機関あるいは証券市場が活発に動かないということも、もう
一つこの
景気の立ち直りを遅くしているのではないか。
大変長くなりまして申しわけありませんでしたが、そういうことでございますから、
日本は市場
経済の国でございますが、しかしこうなればやはり
政府ができるだけのことをやりまして、そうして
景気脱出を図らなければならないということで、その中心は当然のことでございますけれ
ども公共投資になったわけでございます。
それが昨年の
総合経済対策でもございますし、また今度は中央ばかりでない、地方も随分
単独事業で一生懸命仕事をしてくれております。それは、今度の
平成五年度の
予算もその延長線上にあるわけでございまして、昨年の
総合経済対策の十兆七千億円の投資乗数効果は、大体一年間で二・四%と言われておりますから、GNPの、それはもう決してばかにしたものではない。殊に今回の
平成五年度がそれに次きますから、これは必ずや
経済を正常の軌道に近づけると思いますが、何せ
日本は
市場経済でございますから、
政府ができる大きさというものはせいぜいその、仮に十兆円なんというものは
日本経済からいえばどれだけ乗数効果を考えましても、民間あるいは国民の消費にはとてもそれは及ぶべくもないものでございますから、そういう
意味で、この沈滞した
経済にもう一遍火をつけると申しますか、正常化へ戻すための
努力を
政府としては一生懸命いたしておる。
まあ、もう
一つ言わしていただきますならば、それは容易ならぬことでございますけれ
ども、よそとどこが違うかとさっきおっしゃいましたので、例えば外国と比べれば、いわゆるスタグフレーションで、そうしてインフレーションが五%か六%とかいうことで進行しているというようなことは我が国にはございません。スタグネーションはございますけれ
ども、スタグフレーションというものはないということと、それから失業率が九%とか一〇%とかいうこともございません。有効求人倍率が一を割りましたし、パートはだんだんなくなりますし、残業も減ってまいりますから、決して楽観はいたしませんけれ
ども、本当に雇用の失業率が何%というような不安はない。それから、多少雇用調整を必要とすれば、雇用調整特別会計は十分金を持っておりますからそれには対応できるというところあたりは、これでも我が国としてよそに比べれば、まあそういう
意味では恵まれた部分がある。
決して楽観はいたしておりませんけれ
ども、そういうふうに思っておりますので、
政府としましてはこのたびの
予算案、あるいは先ほ
どもお話しになりました金融機関の不良債権の買い取り機構であるとかあるいは証券市場に対する公的資金の出動であるとか、そういうことを交えましてこの
不況脱出について総力を挙げて脱出を図っているというのがただいまの
政府の
努力でございます。
大変長くなりまして申しわけございません。