○小沢和秋君 私は、
日本共産党を代表して、
労働基準法及び
労働時間の
短縮の
促進に関する
臨時措置法の一部を
改正する
法律案について、
総理並びに
関係大臣に
質問いたします。
総理、
労働基準法が制定されてから既に四十六年が
経過しております。今や
日本は世界第二の
経済大国になりましたが、この急激な
経済成長を支えてきた
我が国の
労働者の非人間的な長時間・低賃金
労働の改善は、残念ながら今も遅々として進んでおりません。
総理は、
我が国の
労働時間
法制と実態が他の先進国に比して大きく立ちおくれており、これを克服することが今回の
法改正の
課題であると
考えておられるのかどうか、まず
お尋ねいたします。
次の問題は、
政府のこれに取り組む姿勢であります。
政府は、これまで
労働時間
短縮についての
目標を何回も掲げましたが、一度としてそれを
達成したことはありませんでした。昨年も
政府は、一九九二年千八百時間
達成という
目標をいち早く放棄し、一九九六年へと
目標を四年も先送りしたばかりであります。今度の
改正案を見れば、私は、四年先も
達成できないのではないかと言わざるを得ません。
ここ数年、
時短は毎年二十数時間
程度にすぎず、今ようやく
年間二千時間を切ったばかりであり、これを四年先に千八百時間にしようとすれば、
時短のテンポを二倍に引き上げなければなりませんが、この
改正案にはそのような姿勢を全く感ずることはできません。実際には、長時間
労働を放置しながら、
労働時間が
短縮したかのごとき外観をつくり出そうとしているだけではありませんか。
我が国の
労働時間はパート
労働者を含めて計算されるので、パートがふえればその分だけ統計上の
労働時間は
短縮されるとよく言われますが、
総理が
考えておられるのは、このたぐいのことではないのか、明確にしていただきたいのであります。(
拍手)
次に、
改正案の具体的
内容について
お尋ねいたします。
第一に、
改正案では週四十時間制を来年四月から
実施することにしていますが、この本則がそのまま適用される
労働者は全体のわずか三十数%にすぎず、しかも、既にほとんどが所定内は四十時間以下となっているのであります。残り六十数%、二千百六十万人への本則の適用こそ必要であるにもかかわらず、それを猶予と称して四年後まで四十四時間制を温存し、さらに、零細
企業には四十八時間制の特例さえ残したのであります。これでは、附則を廃止したとしても全く見せかけだけではありませんか。(
拍手)
今必要なことは、下請・
中小企業などにも本則を直ちに適用できるよう、必要な
援助を国として行うことであります。大
企業の下請単価を引き上げさせ、一方的な短い納期の押しつけを厳しく規制する等の
措置をとれば、直ちに全
労働者に週四十時間を適用できることは明らかではありませんか。
総理の明確な
答弁を求めます。(
拍手)
第二に、今回の最大の改悪点である一年
単位の
変形労働時間制の導入についてであります。これは
現行の三カ月
単位をさらに拡大し、事実上、無制限、野放しにするもので、断じて認めることのできない重大な改悪であります。
言うまでもなく、人間は一日
単位で
生活しており、寝だめや休みだめをすることなどできません。ところが、
変形労働時間制は、時期によって繁閑の差が大きい
企業の場合、忙しいときは連日八時間をはるかに超える長時間
労働を所定内として押しつけ、一たんピークを過ぎるや、今度は時間を
短縮したり休暇をとらせるなど、
企業の都合で勝手きわまる
労働時間を強制するものであります。これによって本人の健康が損なわれることはもちろん、
家族との団らん時間も奪われ、社会活動への参加もできなくなります。
このような大きな犠牲を
労働者に押しつけながら、これがすべて所定内とされ、一切時間外手当が支払われなくなるため、賃金も大幅な減収となります。まさに
労働者には二重の打撃であります。これを一年
単位に拡大すれば、その弊害がさらに何倍にも拡大することは明らかではないでしょうか。このような一年
単位の
変形労働時間制の導入は到底認められず、削除すべきであります。
総理の明確な
答弁を求めます。(
拍手)
次に、文部
大臣、所定内、つまり義務的な
労働時間がこのように一年じゅう変動し続けることになれば、育児や介護など家庭
生活に
責任を持つ女性はフルタイムで働き続けることができません。勤労学生が高校や大学など夜間の
学校に通うこともできなくなります。最近は生涯学習が盛んになり、夜間に英会話、パソコン、お茶などを習得する
労働者が非常にふえておりますが、それも重大な危機にさらされます。
文部
大臣、あなたは女性として、また
教育行政の
責任者として、このような
変形労働時間制に断固反対すべきではありませんか。
答弁を求めます。
第三に、裁量みなし
労働について
質問いたします。
みなし
労働とは、これだけの仕事が八時間でできるはずだというノルマを
労使間で
協定さえすれば、それが実際に何時間かかろうと八時間
労働したとみなす制度であります。ですから、そのノルマを高目に設定すれば、十時間働いても十二時間働いてもそれだけ
労働したとは認められない、ただ働きを公認することになりかねない危険な制度であります。
法案では、
現行法の
研究開発その他という例示が削除されますから、一挙にホワイトカラー
労働者全体に適用が拡大される方向に踏み出すことになり、
対象者が二十倍にも広がります。これは、財界のホワイトカラーの合理化、生産性向上の要求とも一致するものであります。我が党は、みなし
労働の拡大を絶対に認めることはできません。
総理の
責任ある
答弁をいただきたい。(
拍手)
第四に、時間外・休日
労働の問題であります。
我が国では、多くの
企業が時間
外労働を生産体制の中に組み込んでおります。ですから、その強力な規制なしに時間
短縮は進みません。現に、好況のときは
政府が幾ら
時短、
時短と言っても、
労働時間はふえ続けました。この
時短にとって決定的な時間外の規制を今回も見送ったのはなぜか。その上、割り増し牽引き上げの要求もほとんど無視されました。これでどうして時間外や休日
労働を規制することができるのか。
ドイツでは、時間外は一日二時間、
年間六十時間、
フランスでは
年間百三十時間以下と規制しております。時間外
割り増し率は、先進国だけでなく、南朝鮮やインドネシアでも五〇%以上であります。少なくとも時間外の上限を一日二時間、月二十時間、年百二十時間と法定し、
割り増し率を時間外五〇%、深夜、休日を一〇〇%に引き上げるのが当然ではありませんか。
総理の見解をお伺いいたします。
第五に、
年次有給休暇であります。
我が国の
年休付与日数がわずか
年間十日にすぎず、
国際水準の半分
程度の極めて低いものであるにもかかわらず、その増加が見送られたのはなぜか。また、年次休暇はその取得率がわずか五割
程度というひどい状態が続いております。この際、
企業に対し、休暇の
完全消化を義務づけるべきではないか、
労働大臣に
お尋ねをいたします。
最後に、ILO条約の批准問題について
総理にお伺いいたします。
八時間
労働制をうたった歴史的なILO第一
号条約が採択されてから既に七十四年たっておりますが、
我が国は今なお批准しておりません。今回も、時間
外労働の
上限規制を行わなかったために批准することができません。それだけでなく、一九三五年の週四十時間制を定めたILO第四十七
号条約など、
労働時間の改善に関する二十五本の条約をただの一本も批准していません。これで
経済大国として
国際的に貢献するとか
生活大国を目指すなどとどうして言うことができましょうか。
ILO一
号条約を採択した七十四年前の第一回総会で、
日本代表団の使用者代表であった武藤山治氏は何と言ったか。「
日本職工ハ欧米職工ノ如ク自ラ修養シ且ツ運動遊戯スル等ノ習慣乏シキヲ以テ時間
短縮ニ依リテ得タル時間ヲ利用スルコト能ハス却ッテ悪結果ヲ来スノ因トナルヘシ」と八時間
労働制に反対し、各国代表から、
日本は軍備では一等国だと主張しながら、
労働時間はみずから三等国でよいと言うのかと笑い物にされた話は余りにも有名であります。
日本政府の立場は、その当時とほとんど変わっておらないではありませんか。
政府は、この
国際的にも恥ずべき状態を今後も続けるのか、
総理に
お尋ねいたします。
総理、最近
円高が急激に進行していますが、これは
日本に対し、これ以上長時間の超過密
労働を武器にして輸出を続けることは許さないという世界的な厳しい意思表示であります。
総理が
国際国家として
日本を誤りなく導こうとするのであれば、
国際水準にも合った
改正案を提出し直す以外にありません。
我が党は、既に昨年二月、抜本的な
労働基準法改正提案を発表しております。今
国会にも抜本的な修正案を提出し、その
実現のため徹底的に闘い抜く決意を申し上げ、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣宮澤喜一君
登壇〕