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冬柴委員 外務省、今の関係の方はもうお帰りいただいて結構です。どうも本当にありがとうございました。
さて、アウトライン、人口それから予算規模等は今伺ったわけですけれども、そういう国が、まずフィリピンですが、どういうことをやっているか調べてみました。
フィリピンの
法律扶助制度というのは、司法省、日本でいえば法務省の直轄事業としてやられているようでございます。公設
法律事務所と訳していいのでしょうか、パブリック・アトーニーズ・オフィス、これを略してPA〇(パオ)というふうに呼んでおります。そこが行っている非常に組織的な
法律扶助活動と、それ以外にフィリピン統合法曹会といいますか、インテグレーテッド・バー・オブ・ザ・フィリピンズ、IBPというふうに言っておりますが、そこの
法律扶助委員会というところが行っているものが主流をなしているようでございます。しかし、それ以外にも、例えばフィリピン大学法学部の行う
法律相談とか、あるいはフリー・リーガル・アシスタンス・グループ、FLAG(フラッグ)というような愛称で呼ばれている、
弁護士約三百人による援助団体等の活躍も見過ごすことはできないと思いました。そういうそれぞれについて視察をさせていただきました。
まず、政府が行う
法律扶助制度でありますが、このパブリック・アトーニーズ・オフィス、PAOというのは、やはり私が記憶していたように憲法に根拠を持っております。フィリピン憲法の第三条第十一節というところに「何人も貧困の故に
裁判所及び準司法機関に救済を求め、適切な法的扶助を得る権利を害されることはない。」このような規定に基づいて行われているものでございます。
このような思想は、
お尋ねいたしますと、一九〇一年に、アメリカによる植民地支配が始まったときに持ち込まれた権利章典、ビル・オブ・ライトに淵源をしているのだということをお聞きしましたが、こういう規定を含む憲法というのは非常に早くて、アメリカ統治下のもとの自治を開始した一九三五年(
昭和十年)、ケソン大統領時代にこのようなものが規定されたということでございました。
しかしながら、これはプログラムとしてあっただけで、法制度として具体化されたのは、憲法発布より実に数十年も後のアキノ大統領時代の大統領令第一号というものによるザ・シチズンズ・リーガル・アシスタンス・オフィス、これはCLAO(クラオ)というふうに愛称されておりましたが、このCLAOという組織で政府直轄で行われるようになったようでございます。このCLAOは、民事、刑事、行政の各事件につきまして、貧困者に対し無償で
弁護士をつけるという制度でございまして、もちろん無料
法律相談事業も行っていたわけでございます。
なお、
弁護士だけをつけるわけでして、
弁護士費用以外の訴訟費用の立てかえというのはCLAOは行っていなかったようでございまして、ただし民事訴訟法、
刑事訴訟法の訴訟救助の規定が活用されまして、実際には訴訟費用の負担ができないから
法律扶助を受けられない、こういうようなことはなかったようでございます。そのように言われておりました。
その後一九八七年、日本では
昭和六十二年、新しいことですが、大統領令によりまして、先ほど言いましたように、このCLAOはPAOという
名前に改称されまして、
内容も一段と拡充されて今日に至っているということでございました。
それで、PAO、政府直轄の事業でございますが、本部はマニラの司法省内にありました。私は、この四月二十八日に秘書と二人でこの司法省に参りまして、レイノルド・ファハルド公設
法律事務所、PAO所長を訪ねまして、現時点における活動などについて詳細な説明等を受け、また資料もたくさんちょうだいしてまいりました。
御説明によりますと、全国に十五の上級地方事務所があるそうです。そして、二百の下級地方事務所が置かれておりました。私が訪ねた四月二十八日現在で、何と一千四十六名の公務員である
弁護士と七百九十四名の職員、合計千八百四十名がこの
法律扶助事業を
担当していらっしゃる。これは恐らく東洋一の規模であろうと思います。
一九九三年、今
執行されつつある予算について
お尋ねしますと、二億六千二百三十四万三千ペソ、一ペソは大体五円と換算をいたしますと、日本円で十三億一千百七十一万円五千円の予算を組んでいるわけでございまして、この金額によって職員の人件費とか行政費のすべてが賄われておりました。こんな一千八百四十人もの役所がわずか十三億円でと思いましていろいろしつこく聞きましたら、うちの国は人件費が安いんだ、何だったら全部
名前と給料を書いた一覧表を差し上げましょうと言って、こんなごつい、日本の役所じゃとてもこんなもの出せませんけれども、そういうものもちょうだいして帰りました。
それによりますと、サラリーグレードは三十級に別れておりまして、最高のチーフ・パブリック・アト二ーという職責にあるレイノルド・ファハルド所長さんの給料は三十級で、年俸、日本円で百十三万八千五百円でありました。最低の一級のユーティリティーワーカー、雑役をやられる方の年俸は十二万円、月給が一万円。運転手さんは高いんだろうということで聞いたら、いや四級だ、年俸で十三万五千円ということですから、これは確かに安いですね。それでこの十三億円はすごいですねということも話したわけですが、ラモス大統領の年俸が三十万ペソ、百五十万円ですか、そして国
会議員さんも、二十万ペソで百万円です。年俸です、月給と違います。そういうことですから、非常に人件費の安いところでそれだけのものを大変頑張っているということでございまして、絶対額だけでは比較はできないなという感じは受けました。
それで、PAOにおいて無料
法律相談とか訴訟援助を受けられる資力要件を
お尋ねしたわけですが、それは無収入の人はもちろんのこと、家族全体の月間の収入が首都マニラに居住している方は五千ペソで二万五千円以内、家族全員の足した月収が二万五千円以内の人は受けられる。それから、マニラ市以外の市に居住しておらる方は二万二千五百円以下、その他の地域にあっては、二万円以下であれば、フィリピン人それから三年以上住んだ外国人あるいは非居住のフィリピン人、それぞれこれは
法律扶助を受けられます。そういうことを教えていただきまして、これは約六千三百万人の
国民中八三%をカバーしています。八三%の方が無料でこのリーガル・エイド・サービスを受けることができるということをおっしゃっていました。
そして、それじゃ実績はどうだということで、一九九二年の実績表をいただきましたけれども、受理件数が二百二十六万七千八百七十七件、膨大なものでございました。そのうち訴訟、これは準訴訟事件、行政事件のようなものだと思うのですけれども、
裁判所における訴訟だけじゃなしに、それが三十五万二千件に及んでいる。それから、非訴訟事件というふうに分類されている無料
法律相談を含む法的助言・援助が実に百九十一万五千八百七十七件、膨大なものでございます。
法律扶助協会が九一年に処理をした無料
法律相談が三万七千二十八件だったわけですから、百九十一万というのは大変な数であるということがわかると思います。訴訟事件は、シビルケース(民事事件)も二万八千六百六十四件処理をしておりまして、控訴、上告事件も三千二十四件含んでいるということで、相当な規模でやっておられるということがわかるわけでございます。
この無料
法律相談というのは、家族、不動産、少年、老人、労働、そういう民事に関する相談がほとんどを占めているということですが、百九十一万件というのは英国をしのぐような実績だなという感想も持ちました。余り詳しくやると時間があれですけれども、このうち大部分は即決の口頭による相談、インスタントサービスと言っておられましたが、それ以外に、外へ出かけて行って、そして
弁護士が現場で法的助言を与えているという事件もたくさんあるということでございまして、二十万件近くもそういうものをやっている。このPAOに対する措置というものは年々拡充をしていってくれているということでございました。
先ほどCLAOというのを言いましたけれども、CLAO当時についての日本の文献で
紹介されているのには、
弁護士数は四百八十三名、年間予算は三千六百万ペソ、こういうふうに書かれているのですが、このわずかな間に、人数においても
弁護士の数が倍以上の一千四十六人になるとか、予算規模も数倍にふえているということを考え合わせますと、こういうものに対するフィリピンの国全体の取り組みというものが非常に熱心だということがわかったわけでございます。
ここまでのところで、一言、
局長で結構ですからコメントをいただければ次に進ませていただきます。