○正森
委員 個別の問題には入らないけれども、
一般論として
お答えしたいということで、自分に有利な判例があるということで
議論がかみ合うようになりましたので、私もそういう
趣旨で述べさせてもらいたいと思います。
あなたが多分そう言われると思って、あなたの根拠とする判例を全部集めてまいりました。それは「シュトイエル」というちょっと聞かない本なんですが、
日本税法学会が出している「税法・判例・通達の批判 税務訴訟の判決特報」。税務訴訟についての判例を特別にまとめた
日本税法学会編の「シュトイエル」、税という
意味ですね。きょうはこれはコピーですが、過去の分が全部こういうぐあいに整理してあって、国会図書館にあります。それで、国会図書館に行って調べてきました。
今課税
部長の言いましたそういう判例が
最初に出ましたのは、私が調べた
範囲では、和歌山地裁の判決が
最初でありまして、それを大阪地裁がさらに引き継ぎまして、その後、高裁
段階等でも
幾つかの判例が出ているわけであります。
最初に出ましたのは昭和四十九年ごろですが、昭和五十五年ごろからそういう判例が
幾つか出ております。ここに判例は持ってまいりましたが、一々読みません。
その
趣旨は、法律では、
所得税法では、ここに六法全書がありますが、
所得税法と
法人税法とほぼ同じ規定なんです。
法人税法については先ほど同僚議員も使途不明金の点で御
指摘になりましたが、
所得税法では、第百五十条に「青色申告の承認の取消し」という項目がありまして、「その年における第百四十三条に規定する業務に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が第百四十八条第一項に規定する
大蔵省令で定めるところに従って行なわれていないこと。」という規定があるのです。この規定はあくまでも「帳簿書類の備付け、記録又は保存」というようになっております。ところが、
大蔵省の見解及び
幾つかの過去の判例は、それは、そもそも税務
調査のときに見せて、そして申告が正しいかどうかということを判定する、そういう資料になるものだから、不提示というのは、提示しないということ、あるいは見られないということですが、それは帳簿書類の保存、記録、備えつけがないのと同じことであるというのが一貫した判例だったのです。
あなたが判例を引用されましたから、同じ土俵に入られたわけですから私も判例を引用させていただきますが、その判例を覆したのが、この前もう一遍やりますよといって私が予約しておいた、東京の荒川判決と言われております荒川税務署の判例なんですね。これは
平成三年の一月三十一日に地裁の判決がありまして、ここに両方持ってまいりましたが、
平成五年の二月九日、ついこの間ですが、東京高裁でそれを全面的に肯定する判決が出て、それで、
大臣、覚えておられますか、目をあけて聞いていただきたいのですが、国税庁は上告しなかったのですよ。上告しないで
異議なくそれに服しますという態度をとったのです。この間課税
部長は個別の案件だからと言いましたが、なるほどこの事件での具体的な事実関係は個別の案件です。しかし、そこに判示された判決の理屈は、課税
部長が自分に有利なものは
一般論として
お答えしますがといって引用しておりますように、自分に不利なものもやはり
一般論として今後適用されるに値する理屈なんですね。
そこではどう言っているかということを念のために言いますと、原文から引用したいと思いますが、どうせお読みになるでしょうから、ここでは納税者に若干不利なこともついでに引用しておきたいと思うのですね。いいですか、つまり、帳簿書類の備えつけ、記録、保存がないという場合に青色が取り消されるのですね。ところが税務署側は、それが提示されない、不提示という場合も同じことなんだという理屈なんです。まずそれが争点になりまして、こう言っているのです。
しかしながら、被告の主張するとおり、青色申告者が
所得税法一四八条一項所定の帳簿書類の提示を拒否したため、その備付け、記録及び保存が正しく行われているか否かを税務署長が確認することができないときも、同法一五〇条一項一号が定める青色申告承認の取消事由に該当するものと解するのが相当である。ここでは税務署の言い分を認めているのです。被告というのは税務署のことですね。というのは、そもそも青色申告制度は、納税義務者が自己の記録、保存している正確な帳簿書類を基礎として納税申告を行うことを奨励することにより、申告納
税制度が適正に機能することを目的とする制度であるから、納税義務者の帳簿書類の備付け、記録又は保存が正しく行われているとともに、その点を税務当局が的確に確認できるということが、その制度の当然の
前提となっているものと考えられるところ、青色申告の承認を受けている納税義務者が正当な理由がないのに当該帳簿書類を税務当局に提示することを拒否したような場合は、たとえ客観的には当該納税義務者の帳簿書類の備付け、記録又は保存が正しく行われていたとしても、税務当局がその点を確認することができない以上、やはり青色申告制度の
前提自体が欠けることとなるものといわざるを得ないからである。ここまでは松川課税
部長、あなたが非常に喜びそうな今までの判例と同じ見解を言っているのです。これから先が大事なんですよ。ちゃんと耳をよくあけて聞いてもらわなければいかぬのですが、ここから先が、
もっとも、右のような青色申告承認の取消事由が法規上明文をもっては規定されていないこと、いいですか、この
意味は、法文上明文をもって規定されているのは帳簿書類の備えつけと記録それから保存がないという場合であって、帳簿書類を提示しないというようなことは、これは法律上規定された取り消し事由ではないということを言っているのですね。
もっとも、右のような青色申告承認の取消事由が法規上明文をもっては規定されていないこと、また青色申告承認取消処分が納税者に対して一定の不利益を課する処分であること等からすれば、右のような取消事由の認定に当たっては、一定の慎重さが要求されるものというべきである。すなわち、納税義務者の帳簿書類の提示拒否の事実の有無は、一定の時点においてのみ
判断されるべきものではなく、税務当局の行う
調査の全過程を通じて、税務当局側が帳簿の備付け
状況等を確認するために社会通念上当然に要求される
程度の
努力を行ったにもかかわらず、その確認を行うことが客観的にみてできなかったと考えられる場合に、右のような取消事由の存在が肯定されるものと考えるのが相当である。こう言っているのです。いいですか。だから、香川の税務署長なんかが言っているように、一たん見せなければ後はもうだめなんだというのじゃなしに、税務
調査の全過程において、社会的に相当と思われるような
努力をしてもなおかつ見ることができない、存在を確認することができないというような場合にのみ取り消し事由を発動するという慎重さが必要とされるのだということを言っているのです。
ここから後はこの事件の個別事由ですから参考意見として言うのですが、本件の場合には、帳簿書類等をきちんと机の上に広げて、そして本人以外に確かに立会人はおったけれども、それは帳簿書類の作成に関与した事務局が一人だけだった、それが手にとって見てくれと言ったのに、わずか二十分ぐらいで立会人がおるから見られないと言って
調査をしなかったというのは、いまだ社会的に相当の手段を使ったということは言えないということで、青色承認の取り消し処分が取り消されて、八年分の更正、決定が全部取り消されるということになったわけです。これが前回言ったとおりです。そして、それに対して高裁が地裁の言い分はそのとおりだという判決をして、そしてそれにあなた方は従ったのでしょう。上告しなかったのでしょう。そうしたら、今まであなた方が言っている、この「ジュトイエル」などに載っているそういう立場は、一定の見直しが必要とされるということであるのは当然のことじゃないですか。
しかも、この青色の取り消しの場合には、法人の場合だったら五年間欠損を繰り延べるとか、これはいろいろな恩典なんですよ。ところが、
消費税の場合はそうじゃないでしょうが。仕入れ税額控除というのは、既に税金として納められている、控除するのは当然だ。それを控除しない。恩典でも権利でも何でもないのですよ。税務署が当然控除しなければならないものではないですか。そんなものを立会人が気に入らぬのが一人おるからというので見ないで、仕入れ税額控除をしない。
所得税なんかより仕入れ税額控除されない場合の方がはるかに負担が大きいのですよ。卸売業者の場合には、あえて言いませんが、千何百万円も言ってこられてびっくり仰天しているのがあるのですよ。そんなことでは中小
企業はとてもやっていけないじゃないですか。今そういう目に遭っているところが全国至るところにありまして、私どもが知っているだけでも、山口、大阪、岐阜、静岡、神奈川、千葉、沖縄、香川というように続出しています。
大臣、こういうことをやられたら、今税率三%だって中小
企業はそれだけでつぶれるのですよ。税率が五%、一〇%になればとんでもないことじゃないですか。ですから、荒川判決と呼んでおきますが、そういう判決があり、高裁が出、そしてあなた方が上告もできなかったということから見れば、あなた方のこういう態度は当然改めるべきじゃないですか。
時間がちょうど参りましたというのが事務局から来ましたから、本当はまだこれから言いたい、おもしろいところがあったのですが、それはまた次のあれでやることにして、きょうはこれで終わらざるを得ないのですが、一言
答弁を聞いて、
答弁がよければやめてもいいのですが、
答弁が悪ければ第三回目のシリーズをやることにして、一応きょうはこれで終わります。