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渡辺公述人 早稲田大学の
渡辺でございます。
今、
舛添さんからいわゆる
一般論でお話がありましたので、私は少々個別に立ち入って話をしてみたい、こういうふうに思うわけであります。
私は、今日の
政治改革関連法案につきまして一番大切なことは一体何か。
政治でありますから、
優先順位をつけることが大切であると思いますけれども、私
たちは第一に、まず健全な
野党を育成するということでございます。実際に
政権交代より前に、健全な
応答能力のある
野党を育成するのが第一義的でございます。
自民党の一
党優位体制のもとで
選挙という
民主主義的な手段で行われてきたじゃないか、その結果
国民の大多数の賛成を得ているとおっしゃいますけれども、実は
民主主義には手続と、そして質の面があるのではなかろうかと思うのであります。実際、
民主主義の質とは何かといいますと、これは
国民の実質的な
選択の幅である。この実質的な
選択の幅がない限り、これは
民主主義の本質的な
実行は達成されないということではなかろうかと思うのであります。
そのようにして考えてみて、今日、まず
選挙制度、それから
政治資金、
政党助成の三点から
意見を述べさせていただきます。
選挙制度でございますけれども、まず第一に、この
選挙制度を評価する
一つの基準といたしましては、何はともあれこれは
国民の目にわかりやすいということ、これが第一に挙げられます。第二には、言うまでもなく、
国民の多種多様な利益を
代表するという、いわゆる純粋な
代表機能であります。第三番目には、言うまでもなく、これは健全な
野党を育成し、かつ、
政権交代を可能にするということがございます。四番目には、この
国民主権を実際に実質化し、活性化していくことだろうと思うのでありますね。この四点から、
選挙制度というのは今日顧みられなければならないだろう。そういたしますと、やはりこの点から考えてみますと、いわゆる小
選挙区
比例代表併用制、この形が一番適当であろうというふうに考えるわけでございます。
まずは、
選挙制度が実際の
政党制あるいは
政党の数に与える影響に関しまして、私はさほど大きな意味を認めておりません。実際は、やはりその国の
社会構造によって規定される部分が多いであろう。したがって、小
選挙区制も、実際においては健全な
野党が存在していれば、十分に
機能することは言うまでもありません。したがって、この
議論を考えてみますと、今日において、一方では小
選挙区制に対する
アレルギー症状が非常に多い。一方ではまた、
比例代表制に対する
アレルギー症状が多い。この二つのはざまで今、その
意見が闘わされているのではなかろうかと思うのであります。
そのように考えてみますと、小
選挙区
比例代表を併用するというこの形は、本質的には
比例代表制だと言われます。しかし、
ドイツにおける
歴史を考えてみますと、これは第二
帝政下においては、
ドイツにおきましては小
選挙区二回
投票制でありました。その
選挙制度のもとで、社会民主党は非常に不利益をこうむったわけであります。その結果、
ワイマール共和制の
時代におきましては
比例代表制をとった。したがって、戦後の
ボン基本法制定審議会の中で
選挙制度委員会ができたとき、
ボン基本法制定審議の中で最も激烈に激しい論争が行われたのは、まさにこの
選挙制度委員会であったわけであります。実はこれは、一方では
比例代表制、一方では小
選挙区制、まさにこれは闘いの果ての、本当の意味での真の妥協の産物であったわけでございます。
そう考えてみるときに、これは今日まずもって、
政権交代を可能にする前に健全な
野党を育成する、そしてまた
国民の多種多様な利益をここに発現していく、この両者を勘案し、かつ
国民主権を活性化していくためには、どうしてもやはりこの二つの
制度を結び合わさなければならないのではないかというふうに考えるわけでございます。
しかし考えてみますと、小
選挙区制の
議席数を幾らにするか、
比例代表制の
議席を幾らにするかという形は、ここで論ぜられているほど、僕は、余り大きな意味を持たないのではなかろうかというふうに思っているわけであります。例えば、
社会党、公明党のこの二百、三百という
議席も決して絶対的なものではない。すなわち半々、つまり二百五十、二百五十を基準として、やはりそのときの状況に応じて、小
選挙区
議席二百、三百という形は当然考えられることであるということでございます。それは大した大きな意味を、研究の結果では、持つわけではございません。
それはなぜかと申しますと、この併用型の特性というものは、これは
国民の利益を
選挙と議会という場で統合していくという統合的な要因と、そして
国民の意思を、多種多様な利益を反映していくという
代表機能と、
最大限結び合わせた
制度だと言って差し支えないだろうと思うのであります。したがいまして、ここで与
野党の先生方がいらっしゃいますけれども、まさにこれはその中でも
選択の幅が一番多いのではないかと思うのであります。つまり、小
選挙区
比例代表並立制とか
連用制に比べて、今度のこの
併用制というものはそれだけ
選択の幅は非常に多い。
では、どういう点に
選択の幅が多いかということからいきますと、まずは小
選挙区の
議席をどのくらいにするか、これがあると思います。それから、小
選挙区の
議席及び
比例代表の
議席に関しまして、ブロックをどのようにするか。ブロック別にするのか
日本全土
統一にするのか、これは非常に重要な
一つの問題だというふうに思うわけでございます。そう考えてみますと、この形は確かに、これでいきますと
比例代表制が本質であるからして、当然
小党分立を招くという考え方が出てくるだろうと思いますけれども、実はこの
政党の状況、
政党の数、これはやはりその国々の独特な
民主主義の土壌あるいは
政治文化に規定される場面が非常に多いわけでございます。
なおかつ今日では、小
選挙区と
比例代表の併用の場合には二票制ということが
一つ問題になると思いますが、もとより一票制も考えられるわけでございます。実を申しますと、
ドイツにおきまして、一九四九年の連邦
選挙法では、実にこれは小
選挙区
議席ほぼ六〇%、
比例代表議席四〇%、そして一票制でございました。それで、一票がもとより二票の意味を持つわけでございます。そうすることによって、かなりこれは統合的要因とそれから比例的要因を、本当に
最大限合致させる
制度となったわけでございます。
一九五三年の連邦
選挙法によりまして二票制が採用されました。しかし、実はここには
理由がございまして、最初
選挙区を画定したのが二百四十二でございましたが、総
議席数ほぼ四百でございました。そして、これは一九四九年に
選挙法が成立してから、その
選挙まではたかだか二カ月間でございました。二カ月間でいわゆる
選挙区の区割りをした。したがいまして一九五三年には、つまり議員数の増加というものはどうしても必要であるというわけで、何をやったのかといいますと、ちょうど今の一九四九年の連邦
選挙法では
選挙区が二百四十二であった。そういう六、四よりは、むしろこれを倍加しようということになりまして、当然これは四百八十四という数字が出てきたわけでございます。そういう経過がありまして、これは二票制というものが、こういう
理由で二票制を採用するといったような明確な論理的前提があったわけではございません。これはやはりそのときの偶然による事柄が非常に多かった点、これは
歴史的に見て明らかでございます。
そういたしますと、小
選挙区
議席と
比例代表議席をどのくらいに割り当てたらいいのか、これが非常に
意見の分かれ目になることはわかりますけれども、現実の問題といたしましてはさほど大きな分かれ道ではない、このように考えるわけでございます。
かつ、小
選挙区制という形でありますと、これは大
政党有利である、あるいは一党に
議席が偏るのではないか、こういう考え方がございます。
ドイツにおきまして現在まで十一回の連邦議会
選挙が行われまして、確かに小
選挙区
議席というのは、一九六一年の
選挙からそれは二つの大きな
政党に限定されております。確かに一九九一年の全
ドイツ統一選挙におきましては、若干事情が違いましたけれども。しかし、この
議席がどちらかの
政党に急激な傾斜を見せるというのは、今までの
選挙で二回しかなかったのでございます。ここをよく理解していただきたいと思うのであります。
かつ、つまり
選挙区ごとの得票と、そして第二投票における
比例代表の
選挙の得票と、これがどのくらい入れかわるのか、これも極めて重要だと思うのであります。これを、二票制が始まった一九五三年から今日までの
選挙の結果を全部分析いたしますと、一九九一年の全
ドイツ統一選挙は一応別扱いにしまして、それまでの
選挙において
最大値は十六でございます。つまり二百四十八
選挙区のうちの十六でございます。これが
最大値でございます。そしてこの
最大値も、一九七二年のあのノーベル平和賞をとったウィリー・ブラントの
個人的な人気その他が重なった、いわば東方外交の成果、特殊要因でございます。平均は大体五から七、つまり小
選挙区における多数派と、そして第二投票における
比例代表制との差というものはそのぐらいでございます。
そういたしますと、やはり
政党であれば当然
政権をねらうということは、これは
政党の本旨でございます。したがいまして、当然小
選挙区
議席である一定の
議席をとることを望めないような
政党というものは、やはり今日においてしかるべく考える必要があるのではないか、こう考えるわけでございます。したがいまして、その点におきまして余り僕は、小
選挙区
議席と
比例代表議席の割合に関しましては、さほど大きな意味を持つわけではないということを研究の結果から申し上げたい、こういうふうに思うわけでございます。
そしてまた二票制も、もちろん二票制と一票制ということであれば、当然そこに大きな差が出るだろうとお考えになると思いますけれども、実際において、先ほど申し上げましたように、
ドイツにおきましては二票制に対してさしたるいわゆる理論的根底があったわけではございません。むしろ
ドイツにおいて、今日だんだんと非常に大きな有力な説となってきましたのは、一票制こそが首尾一貫したものではないかということであります。そう考えてみるとき、
日本において
選挙区の
議席をどのくらいにするかということは、僕は、二百から三百の間で十分にそれを考えることができるのではないか、こういうふうに思うわけでございます。
それに関連しまして、では、並立制と一体どこがどう違うのか。これは、
ドイツにおきましては、言うまでもなく、統合的要因を強調する小
選挙区の結果と、そして
代表機能をあらわす比例区の結果とでは当然溝ができます。これは言うまでもありません。溝ができるわけであります。そして
ドイツでは、それを溝という言葉で表現しているわけでございます。その溝をどうするのかということでござます。そして、当然これは溝ができるわけですから、じゃそのできた溝をどのようにして埋めるのかという
一つの発想が、
一つは今日言われている民間
政治臨調の
連用制ということでありましょうけれども、しかしこれは二重の誤りを犯すことになるのではないかというふうに感ずるわけであります。
すなわち、小
選挙区
議席で出た結果、そして
比例代表で出た結果は、小
選挙区制で得た
議席にハンディーをつけまして割っていくということは、これはまずもって
比例代表制から出た結果と小
選挙区から出た結果の溝ができる。そしてまた、この小
選挙区であらわれた
国民意思が、またそういったハンディーをつけることによって、またそこに誤った方向に偽造されていくという、こういう形なのではないかと思うのであります。
もとより、本当に健全な
応答能力のある
野党を育成し、そして長い期間で見て、
政権交代を可能にするような
選挙制度というものを考えてみる裏側には、どうしても
野党といえどもこのハンディーを乗り越えなければいけないということになるだろうと思うのであります。そういたしますと、確かに
政治制度が、その国の
民主主義のありよう、あるいはまた
政党の数、
政党状況にいかばかりかの影響を与えるかに関して、私はさほど幻想を抱いておりません。やはりその国の
社会構造、
民主主義の質があると思います。
先ほど
舛添さんから、
フランスの例を挙げて、小
選挙区二回
投票制、
日本におきましてはどうもこの
選挙区制に話が収れんされていくのではないか、このような印象を受けるのであります。つまり、小
選挙区制でも、単純小
選挙区制それから小
選挙区二回
投票制がある。あるいはまた、そこには単記
投票制のもとでも、非移譲式と移譲式とがあります。中
選挙区制及び大
選挙区制におきましても、制限連記にするのか単記投票にするのか、制限連記にするのか完全連記にするのか、こういう考え方があると思います。これによって投票行動は違ってまいります。言うまでもないと思います、これは。したがいまして、西欧的な考え方をすれば、二人以上の
選挙区、いわゆる大
選挙区におきましては、これは単記投票という形は考えられない。大
選挙区をとった以上、例えば五名の議員を選ぶとするならば、当然
有権者はその五名の議員を選ぶ権利があるんだ、当然完全連記という考え方になってくるわけであります。それによって、これは大分投票行動が違ってくるわけでございます。それにもかかわらず、いわゆる小
選挙区制、その
選挙区制だけに話が収れんされていくという一方における事実があるのではなかろうか、こういうふうに思うわけでございます。
したがいまして、
フランスの場合におきますと、忘れてならないことは、今日、絶対過半数をとって第一回投票で確定されるのは大体三〇%から四〇%の間、七〇%から六〇%までの間はやはり二回投票にいく。しかし、忘れてならないのは、二回投票に立
候補することができるところにハードルを設けているわけであります。それはどういうハードルかと申しますと、第一回投票において
有権者数の一二・五%をとっている
政党でなければだめなんです、これは。ここを往々にして忘れがちでございます。すなわち、ここで注意していただきたいのは、これは投票者数の一二・五%ではない、登録
有権者数の一二・五%である。登録
有権者数の一二・五%がどのくらいの数字になるか。これは圧倒的な数字であります。とするならば、当然、この
制度のもとにおいて二回
投票制にいくには、どうしてもやはり
選挙協定を結ばざるを得ない。どちら側にしても、
選挙協定を結ばざるを得ない、そういう状況の中で行われているわけでございます。
かつ、
フランスの
歴史を見ますと、一方では小
選挙区二回
投票制、一方では
比例代表制という、いわゆる振り子の振動であったかと思います。したがって、その
時代時代によってもちろん
選挙制度は変わります。しかし、振り子の振動の幅というのはその間でございます。そこをよく理解をしていただきたいと思うのであります。それから、もとより
フランスの統治構造が半
大統領制でありまして、
日本とはまた違ったものでございます。そういった統治構造の本質もやはり考えに入れなければいけない。
もとより、
アメリカの例をとりますけれども、
アメリカにおきましては確かに
大統領制をとっております。それを考えてみますと、連邦議会、その下院では、皆さんも御承知のように、一九五三年以降、
日本よりも長く民主党が議会では勝利をおさめているわけでございます。そういたしますと、
日本の議院内閣制と
アメリカの
大統領制とではもちろん本質は違います。しかし、考えてみるとき、
アメリカにおきましては、
国民のマンデート、信託を受けているのは
大統領だという観念があるわけであります。これは、
国民による投票を通じておりますので、
国民の信託を受けているのは
大統領であるという考え方があるわけであります。そういう考え方のもとで考えてみますと、いわば
大統領と議会の多数派とが一致するいわゆる統合
政府、及び
大統領と議会の多数派とが食い違う分割
政府、そういうふうに分けて見た場合に、第二次
世界大戦後
アメリカにおいては、分割
政府が圧倒的長い期間を占めているのでございます。そこにおいて、いわゆるその間での話し合いの、協議の
政治が行われている。むしろそこに本質があるんじゃないか、今日におきましては。そこもよく理解をしていただきたいわけであります。
とするならば、
日本的な状況において今日小
選挙区制をとる、確かにこれは
一つの価値を実現するものであろうことは間違いないと思います。しかし、今日の
日本の状況から見た場合、これはやっぱり健全な
野党の育成には役立たない。かつ、これは、
国民の実質的
選択の幅が狭まるということになるだろうと思うのであります。私は、そういう結果から、小
選挙区と
比例代表制を併用することによって、二つの統合的要因と
代表的要因とを兼ね合わせることが、今
日本にとって最善の結果を生むのではないかと確信するものであります。
時間がなくなりましたが、
政治資金と、そして
政党助成の問題に関して若干言いますが、つまり
政治資金の規制だけを行って、
政党に対して何ら援助を与えない。つまりそれは、自由な
政治活動のためにはなるべく公の
権力を入れない、これはそのとおりでございます。公の
権力が入ることは
政治腐敗よりは悪いかもしれません。これは間違いありません。しかし、このような中で、このような状況になってきて、例えば諸外国の、とりわけ先進デモクラシーの国々のやり方を見ている場合、むしろ、
政治資金を規制するだけで、
政党に対して助成を与えないということは、楽観論をはるかに超えて、もう今ではこっけいとしか言いようがない事態に来ているのではないか、こういうふうに考えるわけでございます。
では、確かに、それは事情が違うじゃないか、西
ドイツにおきましては、もうボン
基本法上二十一条で
政党国家を明確に表明しているじゃないか、その結果としてではないかという異論があるかもしれません。しかし、
政党が果たしている役割は、憲法上に規定されているか否かにかかわらず、実質的にはどこの国においてもこれは動脈となっております。そう考えてみるときに、健全な
政党に対する助成というものは、まさに今それを考えるべき急務を要する問題である。
しかし、そうである以上、やっぱり
政治資金の方は、これはまさに透明度を増さなければいけない。したがって、当然企業献金、
団体献金はやっぱり廃止する方向に向かうのが一番よろしい、これは言うまでもないことであります。しかし、私は、
政治の現状から見てみる場合に、一足飛びにそれを即座にやめるということに関しましては、それはさまざまな
問題点が生ずるかもしれません。しかしそれは時間を区切って、当然これは、企業からの献金の禁止の日程を具体的に提示すべき時期に来ているのではないか、こういうふうに考えるわけでございます。そのためにもやはりこれは
政党助成して、かなりの部分の負担を
民主主義のコストとして、
国民の側もそれに対して背負わなければならない時期に来ているのではないか、こういうふうに思うわけであります。
このようなさまざまな意味から考えてみるとき、最後に言わせてもらいますが、小
選挙区制をとって、
政治資金を規制していく、
政党にも助成する、それででは本当に
政権交代の可能な
政党システムになるか、それに対して私は疑問に思うのであります。それは、
イギリスが例外であるからであります。
イギリスを例にとりましても、
イギリスが例外である。むしろ小
選挙区制は、ほとんどの国において、一
党優位体制を導く。そして、
イギリスにおきましても、このようにいわば
保守党の
政権担当がなくなるに従って、
イギリス政界の
日本化現象ということが問題になっているときではあります。
さまざまな観点から小
選挙区と
比例代表併用制を
主張して、私の説明といたしたいと思います。(拍手)