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森嶌参考人 おはようございます。
参考人の
森嶌でございます。
私は、昨年の十月に出ました
中公審それから自
環審の「
環境基本法制の
あり方について」という
答申の
審議に
中公審の
委員としてかかわりましたので、
一つにはその
立場から、それからもう
一つには、
昭和三十年代から
公害問題を通じてさまざまな
公害訴訟であるとかあるいは
公害法の
体系をつくっていくのに直接、間接に
研究者としてかかわってきたという、その
二つの
立場から御
意見を述べさせていただきたいというふうに思います。
時間がそれほどございませんので、
最初に
環境基本法の
必要性、二番目に
政府案でとられている
理念につきまして、三番目には
施策、
環境政策における
施策の
特殊性という問題、それから四番目に
国際協力、
地方公共団体の
位置づけ等について、簡単に申し述べたいと思います。
まず
最初に、
環境基本法の
必要性でございますが、申し上げるまでもなく、
我が国においては、
昭和三十年代の後半から始まりましたいわゆる
高度経済成長の中で深刻な
公害問題、しかも、それは
人身被害を含む
公害問題が発生いたしまして、
我が国における
環境法というのは諸
外国と違いまして、
産業公害の
被害者に対する救済あるいは
産業公害の
規制というのが
我が国の
環境法の始まりでございました。
それで、
昭和四十二年に
公害対策基本法という
法律ができておりますけれども、これはまさにそうした
産業公害をどのようにしてコントロールしていくかということを考え、また、極端に申しますと、それのみを
対象とした
法律でございました。
自然環境につきましては、
昭和四十七年に
自然環境保全法という
法律ができておりますけれども、これは
産業公害そのものではございませんが、ここで考えられておりました
自然環境というのは、今日のような身近な自然あるいは
生態系ということではございませんで、
理念のところにはそういうことが書いてございますけれども、実際には、
手つかずの自然をどのようにして保存していくかという
観点からのものでございました。
しかし、
昭和五十年代になってまいりまして、
産業公害に対するコントロールがようやく
効果を見せ始めてきたわけでありますが、と同時に、他面では、従来の
産業公害とは違ったいわゆる
都市型あるいは
生活型の
公害、例えばごみの問題、し尿の問題あるいは
交通公害のような問題が発生してまいりました。また、
自然環境の問題にいたしましても、周りを見渡してみるといつの間にかトンボがいなくなるというような、身近な自然が失われてきつつあるということが
認識され、それに対する
対策が
一般国民から求められたわけであります。
そして、この当時、既に
世界の
国際社会においては
地球環境問題というものが問題になっておりましたけれども、
我が国におきましては、
昭和六十年代になりまして、例えば
オゾン層の
破壊というような問題を通じて、あるいは比較的最近ですと
地球温暖化の問題、
熱帯雨林の喪失というような
観点から
地球環境問題が
認識され、そして御承知のように、昨年にブラジルの
リオデジャネイロで開かれました
UNCEDの
会議で、
地球環境問題に
国際社会が取り組むというような事態になってまいりました。このように、
環境問題の質が変わり、そしてまた
環境問題の
対象となるべきものが広がってきたわけであります。
そこで、数年前から、あるいは政党によってはもう
昭和五十年代の初めごろから、先ほど申し上げましたような
公害に対する
規制、
手つかずの自然の保存というようなことを
対象とする
環境政策あるいは
公害政策というものではもはや十分ではないのではないかというような声が上がっておりましたし、それから、私
ども研究者の方でも数年前から、
公害対策基本法の
体系ではもはや今日の問題は解決できないということを申し述べてきたわけであります。
政府におかれましても、昨年の
リオデジャネイロの
会議に
日本政府として対応していくという
過程で、国内の
環境法体系を従来のものと変えていく必要があるということを
認識され、昨年は、
中央公害対策審議会、
自然環境保全審議会において、その合同という形で、
政府が
環境政策、
環境法の
体系のこれからの改革に対してどういう
態度で臨まなければならないかということを
議論したわけでございます。その結果、先ほど申しました「
環境基本法制の
あり方について」という
答申が出ましたけれども、それに基づきまして
政府は
環境基本法案をつくったわけでございます。
端的に申しますと、片一方は
答申ということでございますので、通常の、いろいろ理由もつけた
文章で書いてございますし、
他方、
政府のものは、
環境基本法案という形で
法律の形になっておりますので、
文章の
文言等においてはいろいろな点で違いがございます。
審議会で考えていたものと
政府案とで違うところもないわけではございませんけれども、基本的には、
答申で述べられていることをほぼ忠実に
政府の
基本法案は立案、起案されているというふうに言ってよいかと思います。言いかえれば、
答申を
法律という形で具体化したものというふうに私は評価しております。
そこで、二番目でございますが、
理念という点について申しますと、先ほど申しましたように、
環境問題が
地球環境をも含む
広がりを見せてきたというところから、
環境問題が人類の生存にとって、存続にとって非常に重大な問題である、それは現世の
世代だけではなくて将来の
世代にわたっても維持保存しなければならないものであるという
認識で、
政府案ですと、三条の「
環境の
恵沢の享受」という
条文ができております。
さらに、その
環境の
恵沢を享受していくためには我々はどういうふうにしていかなければならないかという
方法あるいは
ゴールの点につきましては、
環境への
負荷の少ない
社会、
循環型社会などというふうに申しますけれども、そのような
社会、また別の言葉で申しますと、持続可能な
経済構造を持った
社会と言ってよいかと思いますけれども、そのような
ゴールに向けて
環境政策、
環境法というものはなければならないというふうに、これは四条でございますが述べております。
五条では
国際協力の点が書いてございますけれども、これも、
地球的な
規模での問題に対応するということはもちろんですけれども、単にそれだけではなくて、
我が国の
経済活動そのものが輸入とかその他の、あるいは
我が国の
企業が海外に進出するなどということを通じて
我が国の
存立そのものが国際的な
環境問題につながっているという点から、国益という点からも、あるいは
国際社会の
一員としての面からも
国際協調をしていかなければならないというのが第三番目の
理念として挙げられているところであります。このことは、申すまでもなく、今日の
環境問題の質と
広がりに対応したものでございまして、現時点におけるさまざまな
環境問題の
認識を
前提とし、その上に立って
条文ができていると申し上げて過言でないと思います。
ここで、
理念あるいは
考え方のポイントとして申し上げておきたいのは、
一つは、
環境というものを広くとらえておりまして、
定義をしておりません。これは
審議会におきましても、一体ここで対応しようとしている
環境は何なのか、
定義をするのがいいのではないかという
議論もございましたけれども、現在の
環境問題は非常に広いというのみならず、将来
環境問題のウエートが移っていくかもしれない、それに柔軟に対応できるようにむしろ
環境そのものの
定義はここではしていないわけであります。
それから、その
方法と申しますか、
環境政策の
あり方につきましても、
公害に対する
対策がいわば
問題対処型と申しますか、要するに起きたマイナスを抑えていくという
考え方であるのに対し、むしろ今後の
国民全体の
経済活動あるいは
国民生活というものを変えていく、先ほど申しました
環境への
負荷の少ない
社会へ変えていくという、
方法としても極めて独特と申しますか、ユニークなものであろうと思われます。
その点から申しますと、このような
認識と視野とを持った
環境基本法というものは、私の知る限り、幾つか宣言的なものはほかの国にもございますけれども、手前みそになるかもしれませんけれども、恐らく
世界に先駆けたものであろうというふうに思われます。もっとも、これが本当に内容的にも
世界に先駆けていくことになるかどうかというのは、
基本法の問題と申しますよりか、今後
基本法に基づいて展開されていくであろう個別の
法律をどういうふうにつくっていくかということにかかるかというふうに思っております。
三番目に、
施策の問題でございますが、これも端的に申しますと計画的、総合的というものでありまして、その点では、伝統的な
規制を中心とする
法律の
手法とは異なるものも取り入れていこうというものであります。
まず
一つは、国の
政策全体につきましてそれを統合的に
調整をしていくということから、
環境基本計画というものを策定することになっております。これは、
審議会の中では具体的に
環境基本計画ということでありませんで、
環境の
基本方針等の
政府の基本的なポリシーを決めていくということにしていたわけでございますけれども、この
政府案では
基本計画という形で具体化されております。これも私の知る限りでは、
環境政策の
あり方としては画期的な
考え方であろうと思いますけれども、これも先ほど申しましたように、それでは今後
環境基本計画というのはどういうものがつくられていくかということによっては、絵にかいたもちになるのか、本当に生きて
日本の
政策全体をリードしていくものになるかということが決まってくるであろうと思います。
それから二番目には、
環境影響評価あるいは
アセスメントでございますが、これは従来からも
閣議決定という形で行われていたわけでございますが、諸
外国では
アセスメント法というような
法律によって行っているところが少なくございません。少なくとも計画的、総合的な
政策を展開しようとするならば、事前に
環境への
影響はアセスしておくということが不可欠でありまして、事実上
我が国では行われているにせよ、
環境政策の根本を決める
基本法として
環境アセスメントというものが重要であるということはきっちり
法律に書いておく必要があるという
観点から、必要な
措置を講ずるというような形でございますけれども、
基本法の中に入ったわけでございます。
それから、
施策の三番目でありますが、もちろん従来の伝統的な意味での
規制、つまり
一つ一つの
行為を抑えていくという
規制は重要であります。そしてまた、そのような規定も入ってございますけれども、
基本法の中のユニークな
考え方としましては、
国民全体あるいは
企業活動、
産業活動全体を
環境への
負荷の少ないものにしていこうということにいたしますと、これは個々の
行為を
法律によって抑えていくということでは十分でございません。そこで、いわゆる
経済的な
手法を用いて、
経済的なインセンティブを与えることによってみずから自分の
行動を変えていく、そういう
行動をそれぞれのイニシアチブによって変えていく、そのための動機づけになるような
考え方を導入しているわけでございます。
それから四番目には、時間がもう参りましたので簡単に申し上げますと、
環境教育とかあるいはNGOの
活動を支援するとかあるいは情報を提供するというような形で従来もやっていたわけでございますけれども、むしろ
国民全体あるいは
企業活動全体を
理念に合ったような
活動に変えていってもらうためのいわば間接的な
施策を強調しているわけであります。
四番目の
国際協力につきましては、もう申し上げるまでもないわけですが、これは相手のあることであり、また
国際社会の中での問題でありますから、
日本としていわば
グローバルパートナーの
一員として協力することは非常に重要であるということをうたっておりますけれども、具体的にそれではどこまでできるかという問題につきましては、むしろ今後
日本が
国際社会の中で
国際社会の動向に忠実に、あるいは場合によってはそれをリードしていくというような
態度を示すということを期待しているわけであります。
それから五番目の
地方公共団体につきましては、従来から
環境行政におきましては
地方公共団体の役割というのは非常に重要でございまして、従来の
公害対策基本法にも
地方公共団体の
位置づけはしてございますけれども、これをより明らかにしていく、
地方公共団体自身が独自に総合的かつ計画的な
施策を展開できる手がかりを
環境基本法の中に入れたと同時に、
国際協力の面においても
地方公共団体が貢献できるということを期待しているわけであります。
与えられた時間を少しオーバーしてしまいましたけれども、以上をもちまして私の
最初の陳述を終わらせていただきます。また後ほど御質問にお答えするという形で、もう少し詳しく申し上げたいと思います。
どうもありがとうございました。(拍手)