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冬柴委員 それでは佐川問題はその程度に終わりまして、ぜひ
金丸上申書等が一日も早く
国民の目に触れる状態に置いてほしい、その
意味でも慎重にかつ迅速に実体的真実発見のために頑張ってやってもらいたい、こういうふうに思うわけでございます。
さて、後半、法律扶助のことについて
お尋ねしたいと思います。
私は、本年十月二十六日と二十七日の二日、お隣の国、大韓民国へ参りまして、同国の法律扶助制度の現況について勉強してまいりました。短い時間ではありましたが、
法務省及び外務省の便宜供与をいただきまして、非常に効率よく視察をさせていただくことができました。
関係部局の
方々に心から謝意を表したいと思います。
大韓民国の法律扶助制度は、この国では法律救助と呼んでいますが、本格的な質疑というものは来年の通常国会でまたさせていただきたい、このように思いますが、若干のそのときの見聞をここで報告を申し上げ、
最後に
大臣及び所管
局長、
人権擁護局長の所感をお伺いしたい、こういうふうに思いますので、若干
異例ではありますが、前半私の報告をお聞きいただきたいというふうに思うわけであります。
二十六日の午前に、ソウル地方
検察庁で
検事長の李健介氏を表敬訪問いたしました。韓国において法律扶助を支えてきたのは、我が国とは異なりまして、
弁護士会ではなくて伝統的に
検察庁であるということをかねて聞き知っていたからであります。ここで、李
検事長より興味深い話を伺うことができました。
一九七一年二月、当時三十歳だった李健介氏は、パク・チョンヒ、朴大統領の
法務担当秘書官の職にあったそうでございます。
朴大統領は、
法務部、日本でいえば
法務省視察の日程となっていた当日の朝、李秘書官を呼び、きょう
法務部に特に指示してしかるべきことを申してみよとの御
質問を受けたので、李氏がかねて問題意識を持っていた貧困者に対する法律救助制度創設の必要性を申し上げたところ、簡略にメモに記せというふうに言われたそうであります。
朴大統領は、李秘書官の記したメモを胸ポケットにおさめて、李秘書官らを従えて
法務部視察に赴かれたそうでありますが、朴大統領は、
法務部高官らへの訓示を終えた後、当時の
法務大臣であられる申植秀
法務部長官に対し、極めて貧しい
人たちで金なくして法律の保護を受けることができない
人々に対し、積極的にこれを救助する
方法を考究せよと指示するとともに、朴大統領は、私財から一定の基金を下賜されたそうであります。後に他の
人々にただしたところ、複数の
方々から、当時大統領が下賜された基金は三億ウォン、現在の日本の邦貨に換算いたしますと約五千万円であったそうでございます。
これにいたく感動した
検察首脳は、全国の
検察官にこれを伝え賛同を求めたところ、同年中に各地の
検察庁に法律救助
検事制度が発足し、全
検察官及び
検察庁
職員有志がこれに賛同いたしまして、その会員となり事務を奉仕するとともに、経費は年会費として
個人で負担する、こういうような方式で朴大統領の熱意にこたえ法律救助制度の第一
段階がスタートしたそうであります。
韓国では、
刑事事件については我が国と同じように国選弁護制度が定着いたしておりましたので、法律救助
検事制度は、専ら民事、家事に関する貧困者のための無料法律相談、示談、和解のあっせんによる訴訟によらない民事紛争の終局解決、それから民事訴訟
事件についての
弁護士紹介とその費用の立てかえということを始められたわけでございます。
その後、法律救助
検事制度は財団法人大韓法律救助協会の設立・許可とともに発展的に吸収されましたが、
理事長には
検察の高官、
法務部次官クラスの方が就任をされ、これを実質的に支えたのはやはり
検察の組織であり、極めて熱心に組織を挙げて、一人の民も貧困なるがゆえに法の保護が受けられないということが大韓民
国内でないようにと努力が払われてきたようでございます。
協会時代は十四年続きました。これが大韓救助制度の第二
段階目でありました。
しかし、民事に関する無料法律相談や民・民の争いに
検察が介入することについての反省は常にあったそうでありまして、第七次経済発展五カ年計画の中の大きな目標である社会福祉の充実の中に、法律分野における福祉施策として法律救助基本法の
制定が決められ、与党民自党も基本となる基金を三百億ウォンとする財団創設を骨子とする法律救助基本法の
制定を公約に掲げられたようでございます。
このような流れの中で、一九八六年、我が国でいえば昭和六十一年十二月二十三日、法第三八六二号法律救助法の
制定を見、翌八七年七月一日施行され、同法に基づき、同年九月一日には大韓法律救助公団が発足しました。
当初、政府、民間団体出資で三百億ウォンの基金を元に出発する予定であったようでありますが、財源難から、とりあえずは協会から継承をした十億ウォンの財産と政府出資の五億ウォンを加えた十五億ウォンで出発せざるを得なかったようであります。したがって、基金果実による運営が期待されないところから、毎年国の予算の中から財団の運営経費や救助
資金が支出されてきて、発足の年は国から三十億ウォン(約五億円)、本年、九二年度予算では国家から三十九億ウォン(約六億五千万円)の補助を受け、基金果実及び償還金収入三億ウォンを加えた四十二億ウォン(七億円)で今年度は運営をされることとなっております。
これが大韓救助制度第三
段階で、財政的には不十分ながら、いわば完成
段階に到達していると思います。
これにより、一応
検察と救助事業とは法律的には明確に区別されるところとなったものの、救助制度の沿革に照らしまして、財団成立五年を経た今日もなお、大韓救助公団の支所、出張所は各地の
検察庁の中に置かれており、九二年、本年の十月二十日現在における各地方
検察庁
職員、総数で二百十七名が救助財団の事務を兼務して援助をしているという実情にあるとのことであります。
このようなことをソウルの地方
検察庁
検事長は情熱を込めて説明くださいまして、韓国の扶助制度のアウトラインを知ることができました。
〔
田辺(広)
委員長代理退席、
委員長着席〕
続いて、大韓法律救助公団を訪問いたしまして、約三時間にわたりまして
理事長の金東哲氏と懇談をし、また各部の視察をさせていただき、各部の方から実情を伺うことができました。
本部は、ソウル地方
検察庁から至近の距離にある官庁街、六階建て延べ五百五十坪のビルに置かれてありました。
職員は、九二年、本年十月二十日現在で、公団固有の
職員二百二十名(うち
弁護士二十二名)、
検察庁の兼務または派遣
職員、先ほど申しました二百十七名を合わせますと四百二十七名のスタッフでこれが運営をされております。
昨年度の
事件処理実績は、救助処理
事件数二万一千二件、そのうち非訴訟救助
事件というものが一万六千三十七件で、訴訟救助
事件が四千九百六十五件であります。また、無料法律相談総数が二十六万二千八百三十二件でありました。このような大変な実績を上げていられます。
私はその際に、非訴訟救助
事件とはどんなものなんですかということを
質問いたしました。そうしますと、この
理事長は、相談に来られた紛争の相手方を呼び出しをして、そして公団が立ち会いのもとにその前で和解を勧告して紛争を終局的に解決をしてしまうんだ、こういうことをおっしゃいました。迅速な紛争解決の観点からは大変結構な制度なんですけれ
ども、これはやはり
検察がやっている、
検察だから相手方を呼び出してすぐできる、
弁護士会ではこれはできないな、こういうふうに思ったんですが、これが大変な実績を上げているということを感じました。
また、たった二十二名の
弁護士で年間二十六万件以上の無料法律相談を処理するということは不可能だと思いますので、その点はどうなっているのかということをただしましたところ、正規の法科大学を卒業し、その教授の推薦を受けた者を受験資格とする公団の試験に合格し、かつ一定の研修を経た相談員、この百十八名が相談に乗っているということを言いました。これは資格を有する
弁護士ではありませんけれ
ども、その二十二名の
弁護士の監督のもとに相談を実施している、こういうことを説明をいたしました。
また、九二年、ことしは公団設立五周年に当たりまして、アメリカやドイツやフィリピンの扶助制度の
関係者あるいは学者を招いて盛大な記念シンポ等の事業を行ったそうであります。我が国がこれに招待されなかったことは非常に寂しいことだというふうに感じましたが、現地の
新聞や
テレビ等
マスコミは非常に好意的で大々的に
報道して、
国民に対する法律救助の啓発に大いに役に立ったということを言っていられました。
そうして、法律救助の資力要件ですが、韓国の
国民の四五%がこの要件を満たしているということで、すなわち無料の法律相談あるいは法律扶助を受けられる資格が日本よりはずっと緩いということを感じました。
続いて、翌日はソウルの中央
弁護士会を訪問をいたしまして、黄桂龍会長と二時間にわたって懇談をさせていただきました。黄会長は、
弁護士会長就任までは救助公団の
理事にも就任されていたという方でありまして、非常に救助事業に
理解の深い方でございました。
まず、
弁護士の数なんですが、九二年、ことしの九月末日現在で、韓国全土の登録
弁護士は二千四百四十六名ということで非常に少ない人数でありますが、うちソウルの
弁護士会所属会員は実にその六三%を占める千五百五十三名である、そしてまたソウルについては年々増加の傾向にある、こういうこともお聞きをいたしました。
問題は、
弁護士会も救助公団とは別に救助事業をやっているのかということを
お尋ねしたところ、もちろんやっているということで、ただ
弁護士会は国家からの支援を受けていないので、訴訟の際の救助と四名の専任
弁護士による無料法律相談業務を中心に行っているということをおっしゃいました。
訴訟救助
事件は、昨年の実績で十四件と非常に少ないわけでありますが、ただこの十四件はそれぞれに非常に
規模の大きいといいますか、世間の耳目を沸かすというか、そういう
事件のようでございまして、その一件には、輸血原因によるエイズ感染患者が自殺をしたということを原因とする相続人からの製薬会社らに対する巨額の損害賠償
事件がこの
弁護士会の救助事業で行われているということを誇らしくおっしゃっていました。しかし、少額
事件はどうなるのですかということを聞きますと、それは当然公団が扱うべきものであるということで割り切っていられました。無料法律相談は、九一年度延べ九百七十名の相談
弁護士によって九千五百七十九件を処理した、そして我々は社会的責任を果たしている、このように述べていられました。
こういうのがあらあらの私の視察の報告でございますけれ
ども、ちなみに大韓民国の人口でございますが、約四千万人だそうでございます。すなわち、我が国の人口の約三分の一でございます。一九九二年度の
一般会計予算についても調べましたが、総額が三十三兆二千億ウォン、約五兆五千四百億円、邦貨に直しますとそのようなものでございまして、我が国の七十二兆二千百八十億円に比較をいたしますと約十三分の一の経済
規模の国であるということがわかると思います。この国が法律扶助の分野で、九二年度予算において、先ほど述べましたように、我が国は一億六千二百万円でございますが、韓国は約六億五千万を国家から支出していられるわけでありまして、名目額で四倍、人口比では約十二倍、予算
規模になれば五十二倍、こういうことになるんじゃないか。その面で非常に努力をしていられるというふうに感じました。
また、我が国の法律扶助協会が行った昨年度、九一年度の無料法律相談の件数総数は三万七千二十八件でありましたから、人口比を無視しても、韓国の二十六万二千八百三十二件と比較すると七分の一になってしまう。もっと努力しなければいけないなということを感じました。
訴訟扶助件数は韓国の四千九百六十五件に対して我が国が四千八百九十六件、人口比を無視すればほぼ同数でありますけれ
ども、それ以外に先ほど申しましたような非訴訟救助件数一万六千三十七件というものがあるわけですから、日本はもっとやらなきゃならないということを感じたわけであります。
以上が報告と私の感想でございますが、ここまでしゃべりましたので、
大臣、一言御感想を承りたい、このように思います。