○井上哲夫君 私は、連合参議院を代表して、ただいま
議題となりました
国際平和協力業務及び
国際緊急援助業務の
実施等に関する
法律案、以下これを私は対案と呼びます、について、提案者の
日本社会党・
護憲共同の発議者並びに
宮澤総理に
お尋ねをいたします。
日本の国際平和協力については、国連平和維持活動、以下PKO活動と呼びますが、これへの参加の仕方をめぐって、国会論議はもとより、新聞、テレビなどのマスコミも連日これを報道しております。それにもかかわらず、PKO
法案すなわちPKO活動の
内容やその参加すべき形態の是非については多くの国民から十分な理解が得られない、あるいは難しい問題でお手上げたとの声も少なくありません。
さらに、ここに来て
政府がさきに提出したいわゆる
政府案につきましても、参議院PKO特別委員会で継続審議案件となって以降にわかにその修正案論議が出てきました。軍事的色彩の濃いいわゆるPKF活動はひとまず凍結すべきだとか、国会の事前
承認は欠かせないとか、さらに自衛隊員の身分を併任する協力隊員の指揮命令監督権は国連にあるのか
日本政府にあるのかを明確にすべきだといったさまざまな修正案の声は、
政府案の
内容からも決して見逃すことのできない重要な
部分ばかりであります。このような
事態になり、かえってPKO
法案への国民の理解は遠くなったとを言われるところであります。
さて、社会党の田邊委員長は先週二十四日の全国書記長
会議でのあいさつで、初めに審議拒否ありきの態度ではなく、徹底審議を求める中で野党間の接点を見出していきたいと表明したと報道されました。PKO
法案に関して野党間の
政策協調の場をもつくりたいとのお考えがあることを前提に
質問するものです。
ここで一言お断りをいたします。私ども連合参議院は、さきの第百二十二回国会より独自のPKO
法案をまとめておりました。そして、その
基本的
内容は折に触れ公表してきております。今日この
事態の中でも、私どもの独自案はその
内容から見て、
政府案や
対策、さらに他党の見解に比べて決して遜色のないものと考えております。しかし、対案に対し、
政府案との相違並びにその背景についての
質問をするべく貴重な時間をいただいたものと考えております。その意味で、
質問への率直かつ明確な、そして核心に触れる答弁をいただきたく、あらかじめお願いを申し上げます。
対案の特徴は、非軍事、文民、民生という単語で象徴的に表現されております。
日本のPKO活動参加の形態は、軍事的色彩のない
業務に、自衛隊員ではなく民間人による構成で、派遣国の国民
生活に密接した部門援助のためになされねばならないとの考えに基づくものであります。
そもそも、PKO活動は多岐にわたる
内容で、その
実態につきこれを一義的には
説明できないことはいたし方ありません。ただ、PKO活動は、国際連合の総会または安全保障
理事会が行う決議に基づき、停戦
合意の遵守の確保、停戦
合意後に行われる民主的統治
組織の設立の援助、その他紛争に対処して国際平和及び安全を維持するために国際連合の統括のもとに行われる活動であります。したがって、武力紛争当事者の兵力引き離し、放棄された武器の収集から、緩衝地帯、
地域での停戦監視のための駐留、巡回といったいわば軍事的
業務と、選挙管理監視
業務、文民警察
業務、医療
業務といった民
生活動、さらに難民救援、インフラ復旧といった人道的な救援活動とに大きく分類されましょう。
聞くところによれば、過日
実施に入ったカンボジアでのPKO活動の概要は、約七割はPKF要員で構成され、
業務の
内容も軍人の経験者が平和維持の
業務につく側面が主要なものであるとのことです。にもかかわらず、PKF活動に
日本が参加することについては、これまでの論議の中でも甲論乙駁、賛否入り乱れ、まさにかんかんがくがくの
状況にあります。
政府案では、自衛隊の身分をあわせ持った協力隊員のみがPKFや停戦監視
業務に従事すべしとなっており、一方、対案では、軍事的色彩の濃いこれら活動に
日本は参加すべきでないばかりか、身分が自衛隊員である限り国際災害援助活動にも従事すべきでないと対案からは読めます。対案で自衛隊員の身分を持つ者は一切参加すべきでないことの理由はどこから来ているのでしょうか。
私どもの独自案では、
日本は初めてPKO活動に参加することだし、憲法の制約や、海外、とりわけアジア諸国の不安や懸念もあるようだから、とりあえずはPKF活動は見合わせようと考えました。対案は、自衛隊そのものが憲法違反であることからなのか、武力行使の機会がPKF活動では避けられず、憲法上の制約をはみ出すおそれがあるからでしょうか。また、
昭和二十九年六月の参議院での自衛隊の海外出動はこれをなさない旨の国会決議に違反するからなのでしょうか。さらに、くどいようですが、PKO協力隊員の指揮命令監督権がどうしても国連事務総長下に入り、
日本政府の関与、監督が及ばなくなること、つまり自衛隊法違反の疑いが出てくることからなのでしょうか。
ところで、湾岸戦争は
日本に、
アメリカその他の諸国に対し実に百三十億ドルの財政支援をもたらしたばかりか、難民輸送に自衛隊機を充てようとして、実現できなかったものの、いわゆる
特例政令を生み出しました。さらに、ペルシャ湾での浮遊機雷の除去処理に自衛隊の掃海艇が、自衛隊法の
改正手続を経ることなく雑則規定に基づいて派遣されました。私どもは、この問題に関しては
政府と考えを異にしたのも事実です。
しかし、こうした
政府の対応は、憲法の空洞化の始まりとかあるいは法の支配の危機との声を招きました。自衛隊については、
日本国憲法上どこにも規定がないにもかかわらず、
政府の見解によれば憲法解釈によって軍備の
整備、増強が図られ、しかも、廃案となったものの国連平和協力
法案の審議の際には、これも解釈によって、ペルシャ湾でもどこへでも兵たん、輸送、通信
業務を含む自衛隊派遣ができると
説明されました。そして、難民輸送のための
特例政令と掃海艇の派遣に至ったのです。
しかし、憲法解釈の山を築いて自衛隊問題の処理を図るという手法は、当然のことながら政治問題を重箱の隅をつつくような
法律論へと変質させる結果となります。このようなやり方は、自衛隊の問題については国民的コンセンサスをつくることを回避する極めて便宜主義的な取り組みと言われても反論はできません。これでは、一体憲法は何のために存在するのか、憲法体制が国の
基本体制だと言われてもさっぱりわからなくなります。その意味では、法の支配が空洞化し始めていると言えます。
このように考えますと、
政府案も対案も多数の
合意とならないとき、修正案を圧倒的多数で策定して目前の政治
課題を処理しなければ私たち議員の職責は全うできないと言わざるを得ません。対案発議者にこのような
考え方はあるのか、さらにカンボジア支援のPKO版を時限立法その他で考え得る余地はあるのかを
お尋ねする次第です。
私は、昨年十二月二十日、参議院PKO特別委員会にて
宮澤総理に、
政府案以外PKO
法案につき念頭にないのか、つまり修正の余地はないのかどうかを
お尋ねいたしました。そのとき
総理は、参議院がその意思として修正を決めればこれを
政府は尊重する、三権分立というのはそういう原則だとお答えになりました。しかし、これまで私がるる申し上げたように、
状況は
政府案への重大な
内容の修正及びこれに呼応する声が与野党に上がり、また野党第一党よりこうして対案も出された中で、
政府の最高
責任者、そして与党総裁としては、むしろ今こそ
主体的に修正案の骨子を提案して、これを審議の上成立させてほしいと御主張される意思はありませんか。
宮澤総理に改めて
お尋ねいたします。
私の
質問を終えるに際し、最後に申し上げます。
今日の国際化社会の中で
日本が今できることは何かは、国民の注視ばかりか海外からも注目されるところです。国会は今、議論は議論、しかし一つの結論、決断をしなければならないものと私は考えます。それは、私ども議員全員の
努力によってPKO活動への参加の
法案をまとめ、これを成立させることだと思います。
昨年秋、私どもはスウェーデン、オーストリア、そしてキプロス共和国を訪ねました。中立
政策を堅持してきたオーストリアの高官は、私どもにこう話ってくれました。「我がオーストリアのPKO活動参加の初めは衛生兵、看護兵を派遣し、次いで野戦病院等後方支援部隊を出し、最後にPKF隊を出した。いずれも国会
承認のもとに」。この事実を厳粛に受けとめて、私の
質問を終わります。(
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〔野田哲君
登壇、
拍手〕