○村上正邦君 私は、自由民主党を代表して、新しい
政治の方向を求めて質問をいたします。
質問に入ります前に、一言申し上げます。
本院は、与野党逆転、自来二年半、八
国会を経たわけであります。この間、土地基本法、地方交付税法、育児休業法、老人保健法及び補正
予算などに対する修正あるいは賛成の野党各位の現実的な対応をいただきましたことは、まさに健全野党としての
政治的
責任を分かち合ったものであり、心から敬意を表したいと存ずる次第であります。
私は、今、与党の
国会対策委員長の職にありますが、大先輩河野謙三元参議院議長の野党重視の七、三の構えは、
国会運営の要請と心得ております。今日の保革逆転というねじれ現象は、いわば天が与えた試練であると受けとめております。与野党がともに、公党としての立場から、また良識の府参議院として、対話と協調により
政治に対する負託と
責任を果たすことは、成熟した
議会制民主主義を
確立する第一義のものであると確信するものであります。
この通常
国会におきましてもそうした意味で一層の成果を上げますことができますよう、野党各位の一層の御協力をまずもってお願いする次第であります。
そこで、本論に入りますが、私は、参議院の衆議院に対する抑制と補完という役割を踏まえて、従来の与党の枠組みにとらわれず大所高所から、
提案を含め、国家危急の重要問題に絞って質問をいたします。
冒頭に
共和事件を取り上げなければならないことは、
総理、まことに残念なことでございます。阿部文男元
北海道開発庁長官が収賄容疑で逮捕されましたことは、
国民の皆様にまことに申しわけないことであり、遺憾のきわみであります。事件の真相は司直の手によって速やかに究明されるものと信じます。
明治の先覚者、中江兆民先生をして、「
日本人は利害の計算は得意だが、民主主義の根本を考えることは不得意なために、腐敗、堕落の
社会ができ上がった」と悲嘆させた言葉が、今生ける人から聞かされるような思いがいたします。
民主主義の根本は、
国民の
政治に対する信がなければなりません。私たち
政治家は、厳しい
倫理観に基づく
政治道義を一日も早く
確立するためにも、
政治浄化の自浄能力を回復しなければならないと思います。
総理、いかがお考えでございますか。
我々は、昨年秋の第百二十一
国会に、衆議院の選挙制度、
政治資金、政党への公的助成等を柱としたいわゆる
政治改革三
法案を
提案いたしましたが、審査未了となりました。この原因は、衆議院に小選挙区比例並立制を導入せんとしたことにより、野党はもとより、我が党内においても合意がなされなかったことによるものであります。舞台は今、各党間の
政治改革協議会の場に移されていますが、事は急であります。
総理は一年を目途に改革の方向が打ち出されることを期待していると申されていますが、果たしてそう簡単に事が運ぶでしょうか。
御案内のように、
政治改革には、選挙制度から
政治資金、政党助成、
国会改革、党改革等々、問題の分野が幅広い上に、それぞれが相互に関連を持って絡み合っており、個々一人一人の
政治生命、各党の命運に影響するからであります。したがいまして、各党の共通認識を得るにはある程度の時間がかかると思います。
そこで、理想は理想として将来の抜本改革を求めつつも、現実的には、与野党間で合意し得る点を速やかに見出し、できるものから順次
実行していくべきだと考えます。道は近くとも、行かなければ到達いたしません。事は小さくとも、行わなければ成就しないのであります。
総理は、現実を踏まえ、まず何から
政治改革に着手するお考えであるか、その具体的手順と方法を示されたいのであります。
〔議長退席、副議長着席〕
私は、例えば現行の
政治資金規正法については当面早急に、
政治資金の公開基準、パーティー開催のあり方、罰則等について厳しい
見直しを行って、まず今日の
政治と資金の問題解決の第一歩を進めるべきだと考えます。いかがでしょうか。
総理、いずれにしても、我が党の
政治改革大綱の基本理念を踏まえ、
政治に対する
国民の信頼回復に不屈の信念でリーダーシップを発揮願いたいのであります。
さて、時の流れは激しく動いております。
日本の
政治のもたつきを
国民は許しません。
世界は待ってはくれません。
今、その
世界は歴史的な大変革のさなかにあります。米ソ冷戦構造の解消から昨年末の
ソ連邦解体に至るまで、一体だれがこれほどの激動を予知し得たでありましょうか。ことしに入ってテレビ大河ドラマが、乱世の英雄、織田信長を取り上げておりますが、あの
時代がそうであったように、
世界は今まさに全地球的な乱世、疾風怒濤の
時代から、新たな秩序を構築する
時代に向かっております。
我が国は、その巨大なうねりのただ中にあるのであります。こうした
時代認識に立って、私たち
政治家一人一人は、今こそこの歴史的変革に対応した新たな意識革命が求められているのであります。
国際社会の平和と安定確保のために
我が国の比重は年ごとに強まり、
国際連合の役割もまた重視されてまいりました。そうした中で、自分
中心主義、つまり一国平和主義とか一国繁栄主義とかは
世界で通用するものではありません。
日本は
世界とともにあるという一体感こそが必要だと思うのであります。
ことしはコロンブスが新大陸に到達してから五百年であります。さらに、あと五年すると、バスコ・ダ・ガマがアフリカ大陸南端の喜望峰を回ってインド洋に出てからやはり五百年になります。これと同じように、
我が国の
政治、
経済、
社会の万般も、今、喜望峰を回って
国際社会の新しい大海に乗り出すときを迎えていると言えましょう。
古今東西の歴史を顧みましたときに、
時代はその
時代にふさわしい人をトップリーダーに選んでまいりました。
総理は、数世紀に一度という一大変革期にあって、その
時代認識、役割をどのように考えておられるか、また、その
時代認識に立ってみずからの使命をどう果たしていかれるのか、その御決意のほどを伺いたいと思います。
湾岸戦争に際して、
我が国は百三十億ドルに上る拠出を行い、さらに昨年四月には、ペルシャ湾へ海上
自衛隊の掃海艇を派遣いたしました。掃海艇の派遣は、その時期がいささか遅きに失した感があるにせよ、
我が国に対する国際的信頼を高めたことでは大きな意義を持ちました。この機会に私は、長期間にわたる隊員の労苦に対し心からなる敬意と感謝を表するものであります。
湾岸戦争終結直後、クウエートはアメリカの主要新聞に三十カ国の国名を挙げて感謝広告を掲載しましたが、その中に
我が国の名前が入っていなかったことは皆さん御承知のとおりであります。ところが、
我が国が掃海部隊をペルシャ湾に派遣して実際に作業に着手するに及んで、湾岸諸国の
我が国に対する態度は一変したのであります。
この閣僚席にお座りの、当時、党の
安全保障調査会長代理でありました山崎拓先生を団長として、私どもは掃海部隊の諸君を激励のためにペルシャ湾に参りました。その折に現地の
日本人会の代表から、「今まで私たちはこの国で小さくなっていなければなりませんでしたが、掃海部隊が来てくださったおかげで、これで在留邦人はやっと堂々と胸を張って町を歩けるようになりました。我々企業の外国での活動の背景には国家が必要であるということを実感しました。」とのお話をお聞きしたのであります。事ほどさように、平和維持のためにはお金だけではだめなのであります。人も出し、汗もかかなければならないのであります。
さきの
国会に提出された、本院で継続審議となっておりますPKO協力
法案は、
自衛隊派遣を骨子に、平和目的のための国際協力の体制を整えるものとしてその意義が内外に大いに注目されているところでありました。
近く国連カンボジア暫定行政機構UNTACが発足いたしますが、さきにカンボジアのプノンペンを訪れられた
社会党の
田邊委員長に対しシアヌーク殿下とテア・シム
国会議長は、地雷の除去のために
日本の
自衛隊の協力をお願いしたいと求めたと伝えられています。また、国連暫定行政機構の最高
責任者には、
日本人の明石康国連事務次長が起用されました。
我が国の果たすべき国際的役割に、事ほどさように全
世界が期待しているのであります。
私は、郷里福岡の大先輩である緒方竹虎先生がかつて
政治の刷新を訴え、保守合同こそ爛頭の急務と言われたことを思い出します。今日、爛頭の急務とは何かといえば、私は、今
国会ので音る限り早い時期に
PKO法案を成立させることだと信ずるものであります。
そこで、
総理は、
PKO法案の早期成立のためにこれからどのような
政治的努力を傾けられる御決意であるか、この点をまずお尋ねしたいと思います。
私たち参議院側としても、この
PKO法案についてさらなる議論を重ねたいと思います。その上。で、
自衛隊派遣という骨格を貫きつつ大局的立場からの再修正で各党間の合意がなされるならば、これは小異を残して大同につくというものだと考えます。
総理はこの修正問題についてどうお考えになっているのか、具体的にお風がせ願いたいと存じます。
なお、何かをしてやる、貴いでやるといった響きを持つ
国際貢献という言葉は不適切ではないでしょうか。今、
我が国にとって必要なことは、みずからの意思で果たしていくべき国際的な最低の義務であり、
責任意識であり、仲間としての参加であります。このことを踏まえて、この際、
国際貢献ではなく国際責務と言いかえるべきであると思うのでありますが、あわせて
総理の御所見をお伺いいたします。
次に、私は、
世界に開かれた新しい外交という発想に立って、当面の外交案件について質問いたします。
さきのブッシュ・アメリカ大統領訪日の最大の意義は、東京宣言にも示されたように、両国が確固とした友情関係を再確認し、
世界の新しい平和秩序
確立のためにあらゆる面で互いに協力し合うことを誓ったことだと思います。今回の訪日が、
日米両国において、とかく
自動車及びその部品の輸出入という問題に矮小化される傾向があることは、私は大きな誤りだと思います。これはと密接で巨大な日米の
経済関係であれば、何かと摩擦が生ずるりは当然のことであります。だからこそ、今後とも互いの協調への努力が必要なのであります。
三、四年前、ポール・ケネディ氏の「大国の興亡」という本がベストセラーになりましたが、人間個々人と同様に、国家もまた勢いの強いとき弱まるときと変遷を繰り返していく。アメリカもまたその例外ではないのでありましょうか。
私は、アメリカの持つ底力の強さを率直に認めるものでありますが、
世界運営の上で、今、アメリカはよきパートナーを求めております。私は、かつてあの敗戦に打ちひしかれていた
我が国がアメリカの友情と助力によって今日まで発展してきたことに思いをいたし、今後は、
我が国の方からできる限りの範囲でアメリカの回復に協力し、その果たしている
世界的役割を支えていくべきだと信ずるものであります。そして、新しい
時代にふさわしい
世界の平和秩序をつくり出すために、具体的に誠実に手を携えていくことが重要だと思うのであります。
宮澤総理は、五月にはワシントンを正式訪問して再び大統領との会談に臨むとのことでありますが、今後、
政治、
経済、
安全保障などあらゆる面でどのような日米関係を築き上げ維持していくおつもりなのか、お尋ねをいたします。
旧ソ連、今日の
独立国家共同体との関係も、これまた外交上重要な課題であります。
国内の政情がおさまってくれば、やがて北方領土の返還交渉問題も前面に大きく登場してくるでありましょう。旧ソ連への
経済支援の問題も、
我が国として大きく考慮の中に入れておかねばなりません。これらの問題にどう対処されるつもりか。
また、我々の一番の危惧は、二万七千発に及ぶ旧ソ連の
核兵器の安全管理、三万発近い核弾頭の解体、三千人以上と言われる
核兵器技術者の海外への流出などであります。こうした問題への対応にもし失敗することがあれば、
世界は新たな核の脅威に直面することとなるのであります。失敗は許されません。
政府としても種々の対応をお考えのことと思いますが、核弾頭解体のための財政。技術的援助、安全管理のための国際的検証機関の設置、技術者の国際的な雇用促進なども考えたらどうでしょうか。
政府は今の状況をどう見ているのか。
世界において非核軍縮を進めている
日本は、これらの問題を訴え積極的な
提案を行う時期であると思いますが、どう対応するおつもりか、これまたお伺いしたい。
渡辺
外務大臣には、モスクワにおける中東和平会議からの早々の御帰国、朝食をもどる暇もなく本会議出席、大変御苦労さまであります。もう一日の延長ができず、せっかくの
エリツィン・
ロシア共和国大統領との会談は持たれませんでしたが、湾岸戦争後の中東和平をめぐる国際会議に
我が国の閣僚として初めて出席されました。
言うまでもなく、中東和平問題は現存する最大規模の国際紛争であり、その解決は久しく待ち望まれているところであります。
我が国は中東和平プロセスに積極的に参加すべきであり、この会議に
外務大臣が出席されたことは大きな意義があると思います。和平会議において協議された内容と、今後の方向についてどう認識されたか、あわせて、
ロシア外相と会談され、北方
領土返還、対日支援問題、さらには
エリツィン大統領の来日等について具体的にお話がおありであったことと思いますので、そうしたこと等について御報告を願いたいと思います。
私は、これからの新しい
日本外交の展開に当たっては、日米、日ロ関係はもとより、
日本と
アジア諸国との共通の
価値観を見出していくことが大事なことだと考えます。
宮澤総理の韓国訪問、渡辺副
総理兼
外務大臣の韓国、中国訪問などは、
アジア重視のあらわれとして高く評価するものであります。
アジアは、
我が国に続く韓国、台湾、香港、シンガポールなどの発展、さらに中国やASEAN諸国等の大発展が確保されれば、二十一世紀には
世界の中の主導役になるでありましょう。
我が国は、あくまでも
アジアに基軸を置いた
日本として、
アジアの諸国との信頼と協力関係の強化に努めるべきであります。
総理は
アジアに対する
我が国の外交のあり方をどう考えているのか、お聞かせください。
さきの
宮澤総理の韓国訪問のときには、対馬
社会党代表質問の中にもありましたが、
従軍慰安婦の問題が韓国の人たちの過去の戦争の悲惨な思いを強く呼び起こしました。私は、この問題は、人間の一番大事にしなければならない心の奥底の問題、つまり人間の尊厳を傷つけた行為であり、胸の痛む思いでいっぱいであります。我々は
日本人として一人一人が率直に謝罪しなければならないと思います。
この問題に関する
政府の
答弁、談話をお聞きする限りでは、非常に冷たく、突き放したようにも聞こえるのであります。事柄からして人権にもかかおり、その経緯も複雑多岐な問題があることは万々承知しておりますものの、もっともっと誠意を持って対応すべきであります。お考えをお聞かせください。
アジア外交を考えますとき、台湾、中華民国との関係は現状のままでいいのでしょうか。
我が国と台湾との
政治関係は、断絶されてから二十年が経過いたしました。中華人民
共和国と中華民国、台湾との関係は、同じ中国人として互いに歴史と伝統と誇りを持ち、私たちが軽々に口を出すべきではないことは私も十分承知いたしております。しかし、
日本民族が永遠に忘れてならないことは、蒋介石総統が、
日本が戦争に敗れたときに、「怨みに報いるに徳をもってす」として、
我が国に対して恩情あふれる立場をとった大恩人であるということであります。蒋総統の強い主張がなかったならば、戦後
日本は、あるいは米、ソ、中による三分割占領の状況さえあり得たでありましょう。恩義に対してややもすると健忘症になるのが人間
社会のとかくの常であります。
中国と台湾との関係は、なお基本的な問題を残しつつも、昨年秋には台湾
政府が内戦終結宣言を出すなど、同一民族としての歩み寄りと交流が盛んになりました。台湾は
アジア・太平洋
経済協力閣僚会議APECにも加わり、
アジアの中ではとりわけ大きな
経済的地位を占めております。こうした歴史的な経緯を考えましたときに、私は、今や台湾と
我が国との間には、実務事項に関し、政、府公務員間の交流、さらには閣僚級の相互訪問ぐらいの関係維持に着手すべきときが来たと考えます。
ちなみに、アメリカは、台湾関係法という法律を制定して両国関係の維持発展に努めてまいりました。私は決して中国との関係を軽視するものではありませんが、台湾との関係を一歩二歩と前進させる考えはありませんか。
総理のお考えをお聞かせください。
ところで、
日本外交の積極的展開に当たって、私は、天皇、皇后両陛下による皇室外交に対して心から敬意を表します。両陛下の御労苦に深甚なる感謝の気持ちを申し上げるものであります。
ことしは、秋に中国御訪問が検討されていると新聞報道にあります。アメリカや韓国などからも御訪問の御要請があると聞き及んでおります。ただ、皇室外交の展開は、一定の
政治的なねらいを込めたものであってはならないのは当然であります。慎重に検討されたいと存じます。両陛下の御訪問先の国、日程等、具体的な検討が進められているならばお聞かせ願いたいと存じます。
私は、両陛下におかれましては、ますますお健やかにて、皇室外交をお進めいただきたいと願うものであります。同時に、
国民が今ひとしく待ち望んでいるのは皇太子殿下の御婚儀、一日も早く調いますことを心から願い、皇室のいやさかをお祈り申し上げたいと存じます。
さて、六月にブラジルで開かれる
地球環境サミットは、二十一世紀を展望した人類の生存、地球の将来にかかわる重要な会議であります。
総理は、この会議にみずから出席し、地球全体の利益、いわば地球益の立場から持続可能な発展を目指し、
我が国が持つ
経済力、テクノロジー、情報、そして知識を最大限に活用する決意と貢献の具体的方法を明らかにすべきであります。
そのためにも、
政府は、
環境に優しいライフスタイルヘの転換、二酸化炭素や硫黄酸化物の排出、熱帯林など森林の保護と再生の
計画、年間一千二百五十億ドルとを言われる
地球環境保全資金の国際的調達方法などについて早急に包括的な長期
計画を策定し、これを内外に明らかにすべきであると思います。
今日、外交は一日として休みのないものとなりました。首脳が第一線に立って
世界に飛び出していく
時代であります。
我が国も、今般、
政府専用の航空機を備えることになりましたが、私は、
総理や
外務大臣がそれこそ専用機をフルに使って空飛ぶ外交を展開して当然と思います。
国会の審議日程は重要であります。最優先することは当然であります。しかし、
国際国家日本にふさわしい首脳外交の展開が欠かせない場合が今後ますます多くなってくることでありましょう。
こうした
時代を迎え重要なことは、野党側の理解と協力を求めつつも、
政府は国益に沿った機敏な外交に取り組んでいかなければなりません。そのために、
政府としても新しい外交への対応がなければなりません。例えば、現在副
総理と
外務大臣が兼務していますが、これを分離し無任所の副
総理が即応体制に備える方法、あるいは無任所の
国務大臣を別途置くとか、さらに、最近は官房副長官に閣僚経験の大物が起用されております。その任に当たる者がその任に当たる方法は考えてもよろしいのではないかと思いますが、内閣としてどのような腹案をお持ちなのか、お聞かせ願いたいと思います。
ところで、開かれた新しい外交は、あわせて開かれた新しい内政によって裏打ちされなければなりません。私は、今や内政もまた新しい観点から改革を進めていかねばならぬときだと信ずるものであります。
鈴木内閣、中曽根内閣を通じてあれだけ叫ばれた行政改革は、今一体どこへ行ってしまったのでしょうか。
我が国の行政組織は、国際化
時代に対応するような仕組みにたっているでしょうか。相も変わらぬ縦割り組織の弊害が見られはしないでしょうか。
ある統計では、
政府の許認可数はこのところ年に百三十件ほどふえ、平成三年は一万七百十七件に達しているということであります。例えば、地方のバス停の位置をわずかに移動するのにも運輸省の許認可を得なければならないということは、悲劇というより喜劇でさえあります。こんな状況を引き続きほうっておくわけにはまいりません。
また、
政府関係機関等の役員には七十歳を超える方がおられます。つぶしかきくから各方面で求められ、渡り馬となるのでありましょうが、それにしても、週に数日の出勤で月百数十万円、
国会議員よりも高い給与のほかに、その都度多額の退職金が支給されることは、どう考えても
国民の理解は到底得られるものではありません。こうしたあり方を放置すべきではないと思います。
また、私は
国会の運営も同様だと思います。交通や通信手段が大発達した今、いつまでも
国会は東京で開くものとこだわらなくてもいいと考えます。通常
国会は東京で開くとしても、臨時
国会は各地域持ち回りで開くぐらいの発想の転換があってしかるべきだと考えます。既に
国会には、昨年八月、
国会移転のための特別委員会が置かれました。東京への一点集中解消へのねらいからも、
国会などの首都機能を東京の外に移す遷都あるいは重都などの構想がしきりに
提案されています。東京以外で
国会を開くことになれば、これは
国会と
国民を身近に結びつけ、地域
社会全体を生き生きとさせることにもつながってくるのではないでしょうか。
しかも、東京以外の地で開く
国会の会期中は、行政関係職員の議会出席は原則として認めず、議員同士による議論、討論を
中心にしたらどうでありましょうか。それこそ討論の府としての議会本来の機能の活性化につながり、あわせて行政職員の
国会からの解放をも意味することにもなります。そのこともまた行政改革の一環だと言えましょう。このくらいの行政、
国会を一体とした運営の改革を図るべきだと私は考えますが、
総理のお考えはいかがでしょうか、お尋ねをいたします。
ウルグアイ・ラウンドの交渉は、年が明けて
最終段階を迎え、
農業分野の交渉が各国間で大きな関心を集めております。米の
市場開放につながる問題として、
我が国もまた重大な岐路に立たされているのは言うをまちません。しかし、これからの進路を考えますならば、単に守りの論理だけではなく、自由貿易体制の維持強化に向けた努力もまた必要であります。
もとより、
我が国の水田
農業は
我が国古来の文化、伝統にかかわることであり、これを軽視してはなりません。水田が国土や自然
環境の保護に大きな役割を果たしていることも忘れられません。
食糧の自給安定や米の
自由化反対をめぐっては、
国会で過去三回の決議がなされていることは議員各位も広く御承知のとおりであります。主食の自給原則はどこの国でも
農業政策の根幹であり、あわせて一国の広い意味での
安全保障にもかかわる問題であります。特に、
我が国は
世界最大の食糧輸入国であること、カロリーベースの食糧自給率四八%は先進国で最低であること等を考えるたらば、今後とも米については国内産で自給するとの基本
方針を堅持されたいのであります。最終妥結に向けて、
農水大臣、これからも苦しい局面を迎えることと思いますが、
総理及び農林水産大臣のお考えを求めます。
次に、国内
経済の運営についでお尋ねいたします。
政府は、昨年末の平成四年度
予算案編成に際し、来年度の
経済見通しを実質三・五%成長に設定いたしました。この
実現のために、
予算案の内容を見ると、
建設国債を目いっぱいの七兆二千八百億円発行し、なお財政投融資
計画を前年度比一〇・九%増の四十兆八千二十二億円にまで積み上げるなど、
景気回復を目指した措置をとっております。これは、
政府が三・五%成長と
景気回復へのかたい決意を示したものと高く評価してしかるべきであります。しかし、三・五%成長の約束は、単に国内向けになされたものだけではなく、
世界経済の中で大きな比重を占めるに至った
我が国が
世界に公示したものでもあります。
我が国だけが機関車のようになってひとり
世界経済を引っ張っていけるものではありませんが、
世界の期待感が強まっているのも事実であります。
総理は、去る一月十四日に
経済審議会に、九二年度を初年度とする新しい
経済五カ年
計画の策定を諮問されました。この新
計画の内容は、
労働時間の短縮、
社会資本の充実などによる
生活大国の
実現を期すものになっているということであります。三・五%成長といい
生活大国の
実現といい、だれにも異存のない見事なスローガンでありますが、問題は、絵にかいたもちに終わらせてはなりません。内での約束は同時にまた外への明示でもあるとの観点から、
経済運営のかじ取りをこれからどうとるのか、
総理の青写真をお出しいただきたいと思います。
関連して、財政問題でありますが、これまで毎年度
自然増収を計上してきた
我が国財政は
バブル経済の終えんにより大幅減収に見舞われ、平成三年度の補正
予算では、二兆八千億円に上る減額修正を行う一方、一兆三千八百七十億円の公債の追加発行を行いました。これにより平成七年度までに公債依存度を五%に抑制する目標は困難となりましたが、
政府は緊縮財政
時代の財政運営を今後どうするのか、あわせて新たな
財政再建の
方針を説明願いたいのであります。
大蔵大臣の
答弁を求めます。
次に、外国人
労働者問題についてお尋ねいたします。
海外から
我が国に来て働きたいという人々が年々ふえ、
我が国の企業、特に中小企業も、人手不足解消の一助として外国人を雇いたいとの希望が強くなっております。
しかし、彼らを単なる出稼ぎ者として扱ってはなりません。
我が国の高い技術と技能を習得してもらい、再び母国に帰ってその国の産業基盤を支える集団となり得るような、きちっとした研修制度を根幹とした受け入れ体制を
確立しなければならないと思います。従来の拒否と守りの論理から、開放へと
方針を転換すべき時期に来ていると思います。そのために、外国人への医療、保険制度の適用等々を初め、国内の諸法令、諸制度を抜本的に見直すとともに、関係諸国
政府と具体的な話し合いを早急に進めることを
提案いたします。
私は、休日や祝日に東京の上野公園や代々木公園などで中東地域からのたくさんの移入者がたむろしているさまを見るにつけ、こうした制度を一日も早くつくらなければならないと思うのであります。
労働大臣の所見をお伺いします。
一方、私は国内でふえ続ける外国人の犯罪についても大変危惧しているところであります。早急な対策が求められています。これは自治大臣にお尋ねするところでございますが、
総理にお伺いをいたしておきます。
私は、以上において、外交、内政とも
我が国が新しい
時代の展望に立った大改革をなすべきなどの趣旨を申し上げましたが、百数十年前の開国、維新のとき、そして、もう五十年近くも前になったあの敗戦直後のときに次いで、今日は第三の改革のときであると思います。しかし、そのときに際して一番重要なことは、すべてにタブーがあってはならないということであります。憲法もまた不磨の大典であってはいけません。
時代の要請、
国民の要望に沿って憲法を改正することはむしろ当然のことであり、
我が国を除く諸外国では憲法改正に何のタブーもないのであります。
時代の変遷とともに、
我が国の憲法の諸規定の中にも制度疲労が多々生じております。憲法改正問題と私が申しますと、とかく憲法第九条のことのみに目が向きがちだと思いますが、決してそうではありません。九条を含めて、
国民の権利義務のあり方、国連協力と憲法との関係、財産権の公共の福祉に適合するあり方等々、一条一条の全体について今は
見直しの論議を進めるべきであります。
そこで、私は、中曽根内閣で行革臨調が置かれたように、今度は
宮澤内閣のもとで憲法臨調を発足させ全
国民的論議を起こすべきだと
提案申し上げますが、
総理はいかがですか。
私は、これまで、戦後四十六年間の延長線上ではもはや何事も解決し得ないところに来ていることを述べてまいりました。教育の問題もそうです。
我が国が将来にわたって
国際社会の中で信頼と敬愛を集めていく国づくりのもとになるのは、人づくりにあります。
我が国は目覚ましい豊かさに到達いたしましたが、その一方で、宮沢賢治がかつてその詩の中でうたった「東二病気ノコドモアレバ行ツチ看病シテヤリ西ニツカレタ母アレバ行ツテソノ稲ノ束ヲ貧イ南二死ニソウナ人アレバ行ツテコワガラナクテモイイトイイ」といった
日本人のあの優しさ、弱い人への思いやりというものは、今、
日本の
社会の中から失われつつあるのでありましょうか。
教育の場において公への奉仕の心を養うことも、また大事なことであります。海外ボランティア協力隊を創設し、あるいは国内におけるボランティア活動を高校以上の卒業単位に加えるぐらいの工夫もあってしかるべぎだと思います。他人への思いやりや公への奉仕の心を養う教育を進めなければなりません。
さらに、その国にはその国の歴史があり、誇るべき伝統と文化があります。教育の中で
我が国の歴史と伝統と文化がしっかりと伝えられることも、また大事なことであります。
私は、人間の実相は善であり、美であり、愛であり、慈悲の心があふれている存在だと思います。人間に宿る実相を引き出すことが教育の根本だと思います。
総理、いかがでありましょうか。
私たち
政治の
世界にある者が率先垂範して、日常の一つ一つの事柄の中にも、公的
責任とはかくあるべしとの範例を積み重ねていく必要があろうかと思います。
私は、かつてあの灼熱の中東から
自衛隊の掃海部隊が帰国したときに、当時の海部
総理に、隊員と長く留守を守っていた家族たちをともに首相官邸に招いてその労苦をねぎらってはどうかと
提案したことがありました。また、湾岸戦争の際、生命の危険にさらされたクウエート在留邦人の身の安全を守るために、我が身の危険も顧みず不眠不体の精力的な活動を続けた片倉邦雄イラク大使、城田安紀夫クウエート公使ら数人の外交官が帰国した際にも同様の
提案をいたしました。さらに、一九八九年末のフィリピンにおける軍事クーデターの際、戦闘地域に取り残された邦人一家を丸腰で、砲弾の中をかいくぐって救出した当時の防衛駐在官藤井泰司一等空佐を
政府は表彰するように提言いたしました。しかし、いずれもその
実現を見ませんでした。
芸能人やスポーツ関係の人たちを官邸に招いて時に笑いさざめくことも、私は決して悪いことだとは申しません。しかし、なぜ、身の安全も顧みず公的な仕事に携わった人たちの労をねぎらわないのか。それほどの時間と経費がかかるわけではありません。官邸の昼食でよろしいと私は申し上げておるのであります。私は、公的な仕事で身の安全も顧みず尽くした行為には、制度以前の問題として、国や
政府は深く敬意を表し、これに感謝の意をあらわすことぐらいがあってもいいと思うのであります。そうでなくして、広く一般
国民の間に公的責務への認識がどうして高まるでしょうか。
宮澤総理にはぜひ、以上のような公的貢献活動をする者への重視をお願いするとともに、
総理のお考えをお聞かせ願いたいのであります。
最近、お金目的の凶悪な殺人という犯罪が頻繁に起こっております。私は、この背景の一つには、法の名のもとに、年間の出生数百二十数万とほぼ同じ数の胎児を、合法的に、
経済的理由をもってやみからやみへと葬っている厳然たる事実があると思います。物や金と人の生命をてんびんにかける風潮は、大量中絶の延長線上にあると私は思います。私たちが戦争を憎むのは、このとうとい生命が奪われるからにほかなりません。
生命尊重の筋を通すために、人間の生命は受胎の瞬間から尊重されなければなりません。生命尊重とは、目に見えない生命をとうとぶところから始まると私は思います。
宮澤内閣が
生活大国の
実現を内政の最重要課題に据え、豊かさが実感できる
社会の創造を目指すたらば、
国民一人一人の心の豊かさもまた重視しなければなりません。
その際、最も大事なことは、一人一人の心の中に命を慈しむ心がはぐくまれることであると思います。家庭内にあって、
経済的な理由で親が胎内に宿った我が子を抹殺しなければならないようなことでは、そうした心ははぐくみ育ちません。
生活大国の
実現の施策として、安心して産める
環境、条件を整備することをぜひお進めいただきたいのであります。
同時に、終戦直後の食べるに食なく住むに家なき
時代に、いわば緊急避難的に制定された今の優生保護法を見直すときであると私は思います。
総理の所見を伺います。
最後に申し上げます。
我が自由民主党は、
国民の指し示すところには率直に耳を傾け、今後とも
責任政党として国家
国民のための
政治の運営に全力を挙げて取り組まなければなりません。一過去において、我が党は、
国民の幾多のおしかりを受けたがらも、
国民の幅広い支持をいただき、精いっぱいに頑張って今日の
我が国を築いてまいりました。そのことへの自負と誇りと涙もあります。
ところが、まだ
参議院選挙を戦いもしないうちから、政界再編成の名のもとに与野党内それぞれに、選挙後の与野党連立または連合を口にする向きがあるのはいかがかと思います。
宮澤総理は、
保守本流のトップリーダーとして、今後とも我が党が
国民政党として、政権政党として
国民の信を得られるよう、勇気を持って、朽ち果てた枝を切り払いながら、
政治に高い道義と名誉をとうとぶ精神を取り戻すことこそ肝要であろうかと思うのであります。全身全霊でこのことに臨んでいただきたいのであります。
参議院選挙を勝ち抜くために全力を尽くしてもらいたい。
我が国は、今、歴史上初めて
世界の新秩序づくりに積極的に参加すべきときを迎えております。
総理にはその先頭に立っていただきたい。
世界を駆けめぐって各国の首脳とさして話し合ってもらいたい。
宮澤総理の高い教養と見識と、絶えず戦後
政治の中枢に携わってこられた深い経験を、今こそ
日本と
世界のために役立たせるときであると思います。
これからの政局に臨む
総理の御決意のほどを伺って、私の代表質問を終わります。ありがとうございました。(拍手)
〔
国務大臣宮澤喜一君登壇、拍手〕