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最高裁判所長官代理者(今井功君) 今お話のございました事件でございますが、実はまだ現在東京地裁で、後ほど御
説明いたしますが、係属しておるわけでございますので、私
どもとしては記録からうかがえる客観的な事実を申し上げたいと思います。
この事件は、東京地裁の
平成三年のワの二六一一号という事件でございまして、
平成三年の三月の初めに
訴訟が提起されたわけでございます。それで、この事件の
請求の趣旨と申しますのは、大ざっぱに申しまして九十億ドルの支出差しとめ、それから自衛隊派遣の差しとめ、それから原告が五百七十一名ございまして、それぞれ慰謝料ということで一万円ずつ五百七十一万円を支払え、こういうことであったわけであります。
これにつきまして、原告が訴状提出されたときに一応の
訴訟物の価額というのは訴状に書いてあるわけでございますが、六百六十六万円、こういうことであったわけであります。この六百六十六万円というのはどういうことかといいますと、この九十億ドルの支出差しとめ及び自衛隊派遣の差しとめ、この
訴訟については
訴額の算定ができないということで九十五万円、それから五百七十一万円の支払いを求めておりますのでこれが五百七十一万円、
訴額は六百六十六万円だ、こういうことで印紙を張られて訴状が出たわけであります。
その際、原告代理人の方では
訴額算定につきましては訴状を提出されたと同時に、
訴額算定についてもし自分たちの原告の言っておる
訴額と別の
考え方があるとするならばそれについて自分たちの方に言ってほしい、こういう
訴額算定についての上申、こういう書面が出たわけでございます。それで、その上申書によりますと、これと
裁判所が異なる見解を有する場合にはさらに詳細な意見書を提出する用意があるというふうに書いてあったわけであります。
そこで、この受訴
裁判所におきましては、今報道では三兆円を払え、
手数料が三兆円だというような報道がされた。この
裁判所の、いわゆる見解と言われておりますが、それが出されたわけでございます。これについてはこういうものでございます。日付が
平成三年三月二十日となっております。実際に原告の方に渡ったのは三月二十八日のようでありますけれ
ども、こういうふうに書いてあるわけであります。この事件の
訴額の算定については次のような問題点があると思われるので、この点について意見があれば書面で提出されたい、こういう前書きがございまして、要旨はこういうことでございます。一般に金銭の給付等を求める
請求については給付等に係る金銭の額を
基準として
訴額を算定すべきものとされており、そのような
考え方を
前提とすると九十億ドルをもって
訴額算定の
基準とすべきこととなるのではないか、こういうような問題点を
指摘したということでございます。
これは、報道によりますと、
裁判所が
訴額は九十億ドルだと言った、こういうような報道がされたわけでありますけれ
ども、これは決して
裁判所の最終的な判断というものではございませんで、原告がこれと異なる意見があればさらに詳細な意見書を出す用意があるという疑問を提起されたわけでございますので、
裁判所の方としてはこのような疑問があるのではないか、問題点があるのではないか、こういう
指摘をしたわけでございます。
これに対しまして原告の方で、五月七日付でございますけれ
ども、その
裁判所の先ほどの問題点の
指摘に対しまして、
訴額算定についての意見書というのを原告代理人の方からお出しになったわけでございます。それについて原告の方では、どうして九十五万円かという
理由を詳細に述べた、こういう経過になっておるわけであります。
それで、最終的にはそういう意見をも踏まえまして、
裁判所の方では
平成三年、昨年の五月二十七日でございますけれ
ども、この訴え提起の
手数料として二百六十七万九千円を支払え、こういう印紙の追徴命令が出たわけでございます。この
考え方は、九十億ドルの支出差しとめによって原告が得ることとなる
利益というのはなかなか算定が不能または算定が困難であるから、一人九十五万円と。それでその人数、原告一人ずつの
利益は別である、こういうことで、それ掛ける原告数ということでございます。こういう印紙の納付命令を出したわけでございます。これが
裁判所の正式な
裁判ということでございます。
こういうものを受けまして、原告の方では、六月八日に二人だけ原告が残りまして、そのあとの五百六十九名という方はこの九十億ドルの支出、それから自衛隊の派遣の差しとめを求める訴え、これは取り下げた、こういうことでございます。取り下げると同時に、残った二名分の
手数料が不足しておる分が四千円ということでございますので、その印紙を追徴したということでございます。その後、
訴訟は現在、印紙の問題はそういうことで解決いたしまして、現在は弁論が続けられておるという状況でございます。
マスコミ報道等では、先ほど申しましたように、
裁判所があたかも九十億ドルあるいは九十億ドル掛ける人数分といいましょうか、そのような
訴額を示したというような報道がされたわけでございますが、それはあくまでも原告がいろいろ問題点があれば
指摘してほしいという問題点、その問題点を
指摘したという書面でございまして、最終的な判断は、先ほど申しましたような印紙の最後の納付命令にあらわれておるということでございます。