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1992-05-12 第123回国会 参議院 法務委員会 第8号 公式Web版

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  1. 会議録情報

    平成四年五月十二日(火曜日)    午前十時一分開会     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         鶴岡  洋君     理 事                 野村 五男君                 北村 哲男君                 中野 鉄造君     委 員                 加藤 武徳君                 下稲葉耕吉君                 中西 一郎君                 福田 宏一君                 糸久八重子君                 千葉 景子君                 深田  肇君                 橋本  敦君                 萩野 浩基君                 紀平 悌子君    政府委員        法務大臣官房審        議官       本間 達三君        法務省入国管理        局長       高橋 雅二君    事務局側        常任委員会専門        員        播磨 益夫君    参考人        慶應義塾大学法        学部教授     小此木政夫君        弁  護  士  床井  茂君        国際基督教大学        准教授      姜  尚中君        弁  護  士  新美  隆君     東北福祉大学社     会福祉学部教授  ジョン・W・スティ              ーブンス君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○外国人登録法の一部を改正する法律案内閣提  出、衆議院送付)     —————————————
  2. 鶴岡洋

    委員長鶴岡洋君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  外国人登録法の一部を改正する法律案を議題といたします。  本日は、本案につきましてお手元の名簿の五名の参考人方々から御意見を拝聴いたします。  まず午前は、慶應義塾大学法学部教授小此木政夫先生弁護士床井茂先生に御出席をいただいております。  この際、参考人方々に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多忙の中、本委員会に御出席をいただきまして、心から御礼を申し上げます。  皆様から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、本案審査参考にさせていただきたいと存じます。どうぞよろしくお願いを申し上げます。  次に、議事の進め方について申し上げます。  まず、参考人方々から、小此木参考人床井参考人の順にお一人十五分程度御意見をお述べいただきまして、その後、各委員からの質問にお答えいただきたいと存じます。  なお、念のため申し上げますが、発言の際は、その都度、委員長の許可を得ることとなっております。また、各委員の質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いしたいと思います。  それでは、まず小此木参考人からお願いいたします。小此木参考人
  3. 小此木政夫

    参考人小此木政夫君) ただいま紹介にあずかりました小此木でございます。  私の専門政治学でございまして、慶應義塾大学の方では政治学科の学生を対象にして国際政治論やあるいは現代朝鮮論朝鮮半島政治について教えております。参議院の法務委員会から参考人として出席を求められまして大変光栄に存じますが、その意味では外務委員会でなかったことにやや意外感を持っております。恐らく、私が朝鮮半島の問題を専門にしておりまして、長らく韓国に滞在したり、あるいは韓国とともに北朝鮮を往来したりしているためではないかというふうに想像しております。したがいまして、今回の外国人登録法の一部改正につきましても、主として国際政治観点から意見を述べさせていただきたい、かように存じます。  今回の法改正出発点は、昭和六十二年、第百九回国会衆参両院法務委員会におきまして、指紋押捺にかわる同一人性を確認する手段の開発が求められたところにありますが、他方、それが鋭意検討されている過程におきまして、日韓両国昭和六十三年十二月以来、在日韓国人法的地位待遇に関する協定に基づくところの政府間の正式協議を開始いたしました。日韓高級実務者会議と呼ばれるものがこれでございます。昨年一月の海部総理の訪韓に際してそれが決着を見て、在日韓国人指紋押捺の廃止を含む外務大臣署名の覚書が交換されましたことは御承知のとおりでございます。  言いかえますと、これは国際政治学的な見方かもしれませんが、今回の法改正の背景には日韓両国政府間協議が存在し、外交交渉を通じてその大枠が決定されたということでございます。もちろん、その過程法務当局意見在日韓国人意見も、両国政府を通じてこの協議に反映されたものと信じております。  さて、今回の法改正の問題につきましても、私は専らそのような二国間の外交交渉を通じて観察してまいりました。それに伴う感慨も少なくございません。しかし、交渉技術観点から見ますと、私の見るところでは、今回は明らかに韓国側のわざあり一本勝ちというふうに申し上げていいのではないかというふうに思います。  なぜかと申しますと、本来、この交渉は一九六五年の在日韓国人法的地位待遇に関する協定規定されていなかった協定三世の日本国における居住についての協議に限定されてしかるべきものであったからであります。しかし、結果的には日本国における居住という文言の内容が非常に幅広く解釈されまして、協定三世の単なる居住だけでなく、指紋押捺を含む在日韓国人子孫法的地位、処遇が協議対象にされたわけでございます。さらに、その結果の一部は一世や二世にも適用されることになりました。  韓国側交渉担当者にしてみますと、これは予想していた以上の成功でございました。事実、当初、韓国側担当者日本側の譲歩にやや意外感を持っていたようであります。私、当時何人かの韓国関係者とお会いしまして感想を聞いたことがございますが、そのような印象を持ちました。交渉が決着しましたときにも、韓国側は明らかに明るい表情でございまして、日本側関係者はそれとは対照的にやや重苦しい雰囲気であったというふうに理解しております。また、外交交渉を見守った在日韓国人反応も、民団の反応を含めまして、多くはそれを評価するものでございました。  もちろん、私はこの交渉経緯や結果に異議があってこのようなことを申し上げているわけではございません。そうではなくて、韓国外務当局外交的な技量を称賛し、それと同時に、より高いレベルの国益、人権というような観点から韓国側の要求をあえて受け入れた日本側外務当局の度量というものに、双方に敬意を表している次第であります。内容の子細には異論もあるようでございますが、大局的に見まして今回の外国人登録法の一部改正は、そのような日韓交渉の成果を実行に移すものであり、高く評価されるべきものだと信じております。もちろん、この種の問題は余り外交の勝ち負けという観点から見るべきではございません。それよりも内容が重要でございます。しかし、その意味では従来、日韓外交当局も、日本国内関係者も余り白か黒かをはっきりさせることのできないような問題、すなわち白でもないし黒でもない、グレーゾーンに属するとしか言いようのない問題、これに固執して過度に論争をし過ぎたのではないかというような印象を私は持っております。  例えば、韓国側立場は、韓日間の特殊な歴史的経緯日本社会への定着性を踏まえて、日本人に準じた地位を付与すべきだということでありましたが、その点では日本側立場も、国籍が違う以上日本人と全く同じというわけにはいかないと言っているにすぎなかったわけでありまして、しかもそのことはまた在日韓国人自身がよく承知しているところでございます。  今回、参考人として出席するに際して、改めて大韓民国居留民団機関誌韓国新聞」を拝読しましたが、外国人登録法の一部改正衆議院で可決されましたときの社説には、「我々は、外国人として日本で生きていくからにはすべてを日本人と同じくするよう要求しているのではなく、法の施行が内外人に公正であるべきであると主張しているのであり、外国籍というだけで不当な差別を受け、法の名において人権を侵害されていることに抗議しているのである」、このように記しております。これは大変もっともなことであります。もちろん、外国籍というだけで不当な差別を受け、法の名のもとにおいて人権を侵害されているかどうかにつきましては、いろいろ議論があろうかと存じますが、とりわけ、その前段の部分、すなわち「我々は、外国人として日本で生きていくからにはすべてを日本人と同じくするよう要求しているのではなく」とする部分にいたく感激させられました。このような立場にある両者がどうして理解し合い、妥協することができないのか、不思議なくらいでございます。  日本人に準じた、公正であるが同じではない地位待遇が具体的にどのようなものであるのか。先ほどの言い方で言えば、これは白でも黒でもないグレーゾーンのどこに線を引くかという問題であり、この問題には、より白に近いか、あるいはより黒に近いか以上の明確な解答があるようには思えません。私は、問題の指紋押捺も、外国人登録証の常時携帯も、基本的にはこのような種類の問題であろうかと考えております。  しかし、現在の国際社会が依然として国民国家を主たる構成単位として維持されている以上、どこかに一線が引かれなければなりません。冷戦終結後の国際社会が平和と協調の社会になることは、だれもが願うことでありますが、現実に発生しているのは、むしろ民族、国家、宗教、人種の対立に起因する地域紛争であり、時にこれは暴力的な事態にまで発展し、大量の難民の流出を招いております。朝鮮半島台湾海峡、香港、インドシナなど、日本周辺地域においても、多かれ少なかれそのような事情は同じであり、決して楽観は許されません。  そのような観点からいえば、要するにそのグレーゾーンに引かれる一線妥当性は、主として国内外の現在の情勢及びその将来の展望に関する行政当局判断が妥当であるかどうかというところに依存していると言わざるを得ません。もちろん、グレーゾーンを外れた一線が妥当でないことは言うまでもございません。  私は、さきに述べた日韓外交当局交渉経緯や今後に予想される国際政治変化から見て、今回の行政当局判断が著しく常識の域を脱しているとは思いません。ただし、国際情勢は日々に変化しております。行政当局判断も、それにおくれてよいはずはございません。行政当局判断妥当性については、今後とも議論が継続されるべきであろうと存じます。行政当局国際情勢変化に対応して、率先して定住外国人地位向上努力すべきであることは言うまでもありません。このことを最後に申し添えたいと存じます。  御清聴どうもありがとうございました。
  4. 鶴岡洋

    委員長鶴岡洋君) どうもありがとうございました。  次に、床井参考人にお願いいたします。床井参考人
  5. 床井茂

    参考人床井茂君) 御紹介いただきました床井でございます。  まず初めに、本法務委員会参考人として意見を陳述する機会を与えていただいたということにつきまして、感謝の意を表する次第でございます。  私は、法律学者ではございません。一介の弁護士でございます。したがいまして、理論的にどうのこうのということよりは、私が弁護士として人権擁護活動に携わってきた、特に在日朝鮮人権利擁護活動に携わってきたという経験から、本国会に上程されておりますところの外国人登録法改正案並び修正案につきまして、意見を述べさせていただきたいというふうに思うわけでございます。  ここで申し上げたいことは、まず在日朝鮮人という言葉を使わせていただきますけれども、これは朝鮮半島出身者ないしは朝鮮半島に本籍を有する者ということの総称ということで使わせていただきたい。別に、何も韓国を無視しているという意味ではございませんので、御了解いただきたいというふうに思います。  まず、現行外国人登録法を見る場合に、私は三つ観点から見る必要があるのではないかというふうに考えているわけでございます。まず第一は、その成立過程でございます。つまり、現在の外国人登録法の前身であるところの外国人登録令をどう見るのかという問題でございます。次に、現行登録法がどのような規定になっているのかという観点でございます。三番目に、現行登録法がどのように適用されてきたかということでございます。この三つ観点から見る場合におきまして、私は現行登録法治安立法である。特に、在日朝鮮人を中心にした、その取り締まりということを目的としておる治安立法であるというふうに私は言わざるを得ないわけでございます。  なぜそのように申し上げるかということでございますけれども、これから簡単にそのことについて御説明申し上げたいと思います。  まず最初に、成立過程のところを見てみますと、もう先生方は既に御存じのとおりでございましょうけれども、あえてつけ加えさせていただくならば、外国人登録令、これは日本国憲法が施行される前日にいわゆる天皇の最後勅令ということでつくられたものでございました。それを見ますと、基本的に、当時日本政府見解によれば、在日朝鮮人及び台湾人、これは日本人でございます。日本国籍を有する者でございます。つまり、日本講和条約発効と同時に、それら在日朝鮮人台湾人日本国籍を失ったという見解でございます。  とするならば、外国人登録令の発令当時、当然のことながら在日朝鮮人台湾人日本人でございますから、この適用を受けるということはないはずでございます。しかしながら、その十一条におきまして、「台湾人のうち内務大臣の定めるもの及び朝鮮人は、この勅令適用については、当分の間、これを外国人とみなす。」というふうな規定がございます。当時、連合国支配下にありました日本におきまして、外国人入国ということはほとんどございません。ということになれば、当然のことながらこの法律対象在日朝鮮人ないし台湾人であったというふうに言わざるを得ないわけでございます。この外国人登録令によりまして外国人登録、つまり外国人とみなされる日本人であった朝鮮籍方々、これについての登録を強制されてきたわけでございます。その成立過程から見ますと、以上のような形でもって在日朝鮮人に対する治安立法であったというふうに言わざるを得ないわけでございます。  次に、現行外国人登録法の「目的」というところをごらんになっていただきたいと思いますけれども、これを見ますと、「登録」という言葉、それから「管理」という言葉を使っております。管理とは一体何か、すなわちこれはコントロールでございます。コントロールするということは、支配し統制するということを意味します。政府見解によりますと、外国人居住関係及び身分関係を明瞭ならしめるために登録が必要だということでございます。  一方、日本人適用される住民基本台帳法、これによりましてもいずれも日本人居住関係身分関係を明らかにするということになっております。  となりますと、当然のことながら身分関係居住関係を明らかにするという目的であるならば、当然外国人であろうと日本人であろうと、同じ法律ないしは同じ考え方適用されるべきではないかというふうに考えております。  ところが、住民基本台帳法、これは「登録」という言葉は使われておりません。登録というのは、いわゆる選挙人名簿登録をするということはございますけれども、日本国民ないしは住民登録をするという基本的な考え方には立っておりません。あくまで届け出でございます。この住民基本台帳法、これの前には住民登録法がございました。この住民登録法の中では、確かに住民登録という言葉が使われておりました。ということは、これが改正されて住民基本台帳法になったわけでございますけれども、私はこの住民登録法住民基本台帳法に変わった経過について深く知るわけではございません。ただ感じることは、この「登録」という言葉管理ないしは支配というイメージを抱かせた。それが契機となって現在の住民基本台帳法に変わっていったのではないかというふうに推測しているわけでございます。したがいまして、同じように身分関係居住関係を明らかにするのであれば、当然のことながら、日本人と同様に外国人が扱われなければならないのではないかというふうに基本的には私は考えているわけでございます。  次に、既に御承知のことかと思いますけれども、現行外国人登録法登録内容は非常に詳細でございます。二十項目にわたって外国人登録内容規定している法律でございます。しかも、この罰則が非常に重い。これは最高は一年の禁錮、懲役、または二十万円以下の罰金。それで住民基本台帳法罰則というのは、——罰則ではございません、行政上の過料でございますけれども、これは五千円以下というふうになっています。格段の違いがあるわけでございます。なぜこのような非常に重い罰則外国人登録法規定されなければならないのだろうか、私は非常に疑問に思わざるを得ないわけでございます。  この外国人登録法が現在どのような適用状況にあるのかということでございます。これは外国人登録令が施行されましたときから一九九〇年までを見ますと、五十一万七千二百五十九件の外国人登録法違反事件が起きております。ということは、在日朝鮮人の成人一人はすべてこの外国人登録法違反にひっかかっているというふうに言わざるを得ない状況でございます。これほど異常な法律は私はないというふうに考えております。  幸いながら、一九八七年以降この違反事件という。ものは減少に向かっております。これは先生方の御努力によりまして、八七年、昭和六十二年に衆参法務委員会で、この登録法違反については常識的、弾力的に行うという決議がなされました。そのおかげであろうというふうに私は考えております。したがいまして、その八七年以降は非常に減少しているという状況が見られるわけでございます。この点につきまして、先生方の御努力に非常に感謝を申し上げたいというふうに思っております。ただ、申し上げたいことは、それ以前の状況が非常に異常な状況であった。そして、その状況がいつ何ときどのような形で繰り返されるのか、私はこの点について危惧を抱かざるを得ないわけでございます。  中でも、この登録法違反事件の中で、いわゆる外国人登録証の不携帯事犯というのが非常に高い比率を占めております。例えで言うならば、いわゆる道路交通法違反事件、一時停止違反とかあるいはスピード違反という形で捕まった外国人在日朝鮮人運転免許証提示を求められるわけでございます。運転免許証を見ますと、当然のことながら国籍が書いてございます。国籍を見ることによって、それでは外国人登録証提示しろということになるわけでございます。その結果、たまたま持っていなかったということでもって外国人登録法違反、不携帯事犯ということで立件されるケースが非常に多いということでございます。  外国人登録証携帯ということは何を意味するのだろうか。少なくともそれは、その人が同一人性を示す、その登録証を持っている人とその人とが同一人性を示すというところに基本があるのだろうと思うのでございます。したがいまして、免許証を持っていれば、その人が同一人性、その人と免許証の人物が同一であるということは完全に証明されるわけでございます。何もわざわざ外国人登録証明書まで見せろ、提示しろと言う必要はないというふうに考えております。  この外国人登録証携帯義務、これは非常に在日朝鮮人を主として外国人にとって苦痛を与えている。つまり、常住座臥といいますか、二十四時間携帯せざるを得ないということになるわけでございます。ところが、ということになりますと、例えば小錦関が土俵に上がるときに、まわしの中に外国人登録証明書を入れておるでしょうか。あるいはプロスポーツ選手が試合に出るとき登録証を持っておるでございましょうか。つまり、このようなことが実は行われてきた。例えば、マラソンの最中にちょいちょいと呼びとめられまして、朝鮮人選手外国人登録証提示を求められたというふうな極端な例までございます。  私は、このような事件を見ますと、外国人登録証携帯ということが非常な問題を含んでいるのではないか、しかもそれが罰則でもって規定をされているというところに大きな問題があるのではないかというふうに考えているわけでございます。  時間もございませんので余り詳しいことは述べられませんけれども、例えば日本ほどこのような戸籍制度ないしは住民登録制度が整っている国を私は余り存じません。まあ、あえて言うならば、お隣の韓国あるいは台湾等がこれに似た形のものといいますか、非常に似通っているということが言えるかと思います。いずれもこれは日本植民地であったわけでございます。そうしますと、日本人の場合、戸籍等々が非常に整っておりますためにほとんど間違いはないと言っていいだろうと思います。ところが、在日朝鮮人の場合、必ずしもそれはそうでもない。すなわち、日本登録しておられる人々の氏名を見て戸籍謄本を取り寄せますと、韓国戸籍では別な名前が載っている、あるいは生年月日も違うということが往々にしてございます。それで戸籍謄本を取り寄せまして、そちらが本名であるということで登録の訂正を申し立てるということになりますと、これは不申請ないしは虚偽登録ということで罰せられるような仕組みになっているわけでございます。現実にそのようなことで、一九九二年の、ことしの一月二十二日に、懲役六月、執行猶予一年の判決を受けた事例もございます。  このようなものを見ますと、治安立法的な性格ということはいまだもって残っている。しかも今度の改正案修正案を含めましてでございますけれども、治安立法的な性格は変わっておらない、全外国人被疑者扱いにする、指紋押捺の問題でございますけれども、そういうことで残っているのではないかというふうに考えているわけでございます。  私は、朝鮮語を余りよく知りませんけれども、在日朝鮮人の間では登録証のことをケピョというそうでございます。「ケ」というのは何か。これは犬という意味でございます。「ピョ」というのは票ということで、ある意味では犬の鑑札ということを意味するわけでございます。つまり、在日朝鮮人にとっては犬の鑑札を常時つけられているのだというふうに考えている、こういう状況にあるということを御了解いただければ幸いだというふうに思います。  しかも、この外国人登録証携帯の問題、これは常時携帯ということになりますので、うっかり忘れるということになると罰則を受けますから、日本国内における居住ないしは移転の自由までも制限しているというふうに言わざるを得ないのではないかというふうに考えているわけでございます。  昨年暮れ、日本政府国際人権規約に基づきます第三回の報告書を提出いたしました。それを見ますと、参政権等性格日本国民のみを対象としている権利を除き、基本的人権の享有は保障され、内国民待遇は獲得されている、こういうふうに書いてございます、ところが、その下に、「外国人登録証携帯制度は、外国人居住関係及び身分関係を現場において即時に確認する手段を確保するために採用されている。しかし、本制度についても運用の在り方も含め適切な解決策について引き続き検討することとした」、つまり、日本政府それ自体が、この外国人登録証携帯問題について問題があるのだということを自覚しておられるといいますか、問題を指摘されているというところでございます。私は当然のことながら、この報告書に基づいて、今度の改正案にもこの登録証携帯問題ということが盛り込まれるかというふうに思っておりましたところが、現実にはそうではなかった。修正案の中でも依然として罰則規定として残っているというふうに言わざるを得ないのでございます。  最後になりますけれども、先日、作家の陳舜臣さんの「儒教三千年」という本を読んでおりましたところが、次のような文章に出会いました。これは葵丘の盟というのだそうですが、古代中国周の時代におきまして、紀元前六五〇年ごろといいますから孔子が生まれる約百年ぐらい前のことでございましょうか、そのときに中原の諸侯が集まりまして葵丘の盟というものをつくったそうでございます。これは五条にわたるのですけれども、その第四条に「老を敬い幼さを慈しみ賓旅を忘るることなかれ」というふうに書いてございます。これはもちろん陳さんの御説明でございますけれども、老、幼、つまり弱者でございますね、この弱者を配慮することが政治のキーポイントである。と同時に、賓、これは在留外国人である。旅、これは旅行者である。つまり、自国民だけを保護するような排他的な姿勢はとってはならないということを意味するのだそうでございます。つまり、今からもう二千五、六百年以上も前に、在留外国人ないしは老、弱を大切にしなさい、保護しなさいということを訴えている。つまり、このいにしえの人々の考え方に現在もまだ及びもつかないということを私は非常に残念に思うわけでございます。このいにしえの知恵に学ぶということが私は今我々に課せられている大きな課題ではなかろうかということを申し上げて、意見の陳述に変えさせていただきたいと思います。  ありがとうございました。
  6. 鶴岡洋

    委員長鶴岡洋君) どうもありがとうございました。  以上で参考人方々の御意見の陳述は終わりました。  それでは、これより参考人に対する質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  7. 野村五男

    ○野村五男君 自由民主党の野村五男でございます。  参考人の諸先生には御多用中にもかかわらず本委員会において貴重な御意見をお聞かせいただき、まことにありがとうございます。  最初に、小此木参考人にお尋ねします。  先生は現代朝鮮論に大変造詣が深く、また長期にわたって韓国に滞在されたことがおありだそうでございますが、そのときの事情はどうでありましたでしょうか。先生は、指紋押捺を行い、外国人登録証明書の常時携帯を実行しましたでしょうか。そのときどのような感想を持たれましたか、まずお話し願います。
  8. 小此木政夫

    参考人小此木政夫君) 私は、一番長く韓国におりましたのは実は一九七〇年代の前半でございまして、大分前のことでございます。  もちろん、指紋押捺をいたしました。五指でしたか十指でしたか今ちょっと記憶がはっきりいたしませんが、押捺をいたしました。登録証は常時携帯いたしました。  感想ということであれば、それはやはり余りいい気持ちはいたしませんでしたということは率直に申し上げなければいけないと思います。  ただ、常時携帯の点に関しましては、やはり時代も国情も違いまして、私は進んでそれを携帯した次第でございます。と申しますのも、一九七〇年代の前半でございますから、これは朴政権の維新体制がスタートしたころのことでもありますし、金大中事件もございまして、余り韓国の政情はよろしくなかった時期であります。ですから、そういう意味では、外国人であるということを常に立証できるものが手元にないことにはやや不安がございました。かと申しまして、パスポートをいつも持って歩くのも大変ですから、もっとずっと小さな登録証を持って歩いておりました。  まあ、一、二例を挙げますと、例えば、南北の間の緊張が随分あった時代ですから、現在でも多少そういったこともありますが、韓国内では北の工作員の摘発ということに随分力を入れておりました。たばこ屋なんかに行きますと挙動不審な人はあるいは通報されてしまうかもしれない。たばこの値段を尋ねて、あなた、なぜたばこを吸うのに値段を知らないのかと聞き返されてぎょっとしたことがございました。これは通報されたら大変だというふうに思いまして。そういうときには何か身分を証明するものを持っていなければいけないわけであります。あるいは国内を旅行する場合でも、飛行機に乗りますときにはパスポートないしそれに準ずるものを提示しなければいけません。そんなことがありまして、常時携帯しておりました。現在、随分政情もよくなっておりますが、しかし改めて長期に滞在するとなれば、韓国でも北朝鮮でも私は多分依然として常時携帯するだろうと思います。
  9. 野村五男

    ○野村五男君 外国人登録法改正要求で問題にされるのが外国人登録証明書の常時携帯制度及び罰則のあり方であります。私は、外国人登録法目的に照らして常識的かつ適切に運用されていると理解しておりますが、先生の御所見をお尋ねいたします。
  10. 小此木政夫

    参考人小此木政夫君) 私、その間の事情は細かく知っているものではございません。行政当局ではありませんし、そのあたりのことを綿密に調べたものでもございません。床井先生最前申されましたような事例があるのかもしれません。マラソンの選手の話ですとか、小錦の話が出ましたけれども、いつごろのことなのか、どのくらい頻繁にあるのかということに関しては私は存じ上げません。しかし、運転免許証で同一人性が確認されているのに外国人登録証提示を要求するというふうなことはやはり行き過ぎではなかろうかというふうに存じます。八七年以後、常識的、弾力的に運用するという趣旨が生かされつつあるというふうに伺いましたが、私もそのような印象は持っております。
  11. 野村五男

    ○野村五男君 小此木参考人に続いてお伺いいたします。  先生の御意見の中には、冷戦の終結は必ずしも地域紛争や民族問題の解決を意味しないとの御指摘がありましたが、朝鮮半島情勢の将来の展望はどうでしょうか。今後十年ぐらいの期間に大きな混乱が発生し、日本の入管行政に深刻な影響を与えるような可能性は心配しなくともよいのでしょうか。先生の御所見をお伺いいたします。
  12. 小此木政夫

    参考人小此木政夫君) 朝鮮半島、この十年ぐらい非常に重要な時期に来ているというふうに私は思います。恐らくその間に統一問題に関しでもかなりの進展があるのではないかというふうに思います。ただし、その過程が平和的なものであるのか、あるいはそこで再び暴力が使用されるようなことがあるのかということになりますと、これは一概には断定できないのでありまして、率直に申しますと、私は五分五分ぐらいと思っています。南北が平和的な対話を通じて一つになることを願っておりますが、しかし一方の体制がその過程で崩壊するような危険というようなものも全くないわけではございません。  御承知のようなソ連・東欧情勢あるいは中国の天安門事件等を見ておりますと、そのようなことが全くないとは申せないだろうと思います。人によってこれが五分五分なのか、七、三なのか、三、七なのか評価の違いはあろうかと思いますが、私は大体その程度のことではないかと思います。ドイツと同じように平和的に統一されれば日本に対する影響というのは最小限で抑えられると思いますが、例えば統一が五年以内に実現するというふうなケースを考えてみますと、私は多分そのようにはならないだろうと思います。つまり、短期間に統一が実現すればするほど多分暴力的な事態が発生するのではないかというふうに思います。十年ぐらいの時間をかけて徐々に統一が実現するということであれば、それはドイツ型の統一に帰着する可能性が強いだろうと思います。  率直に申しまして、韓国政治、経済の安定度と申しますか、随分高まっておりまして、十年ぐらいの間には経済的にも今の二倍ぐらいになっているでしょうし、政治的な民主化の度合いというのもさらに進展し、先進諸国の仲間入りが可能になるのではないかというふうに考えています。そのような時代が来れば、西ドイツと同じように平和的に統一を達成するというようなことも不可能ではないだろうと思います。しかし、そうならない可能性があるということも否定できないわけであります。万一そのような仮定を考えますと、それは日本国にとっても大変大きな事態でありまして、天安門の比ではないだろうというふうに想像しております。
  13. 野村五男

    ○野村五男君 小此木参考人にお聞きします。  今の問題と似ておりますけれども、国際間のいわゆる垣根が低くなり、ボーダーレスな世界が出現しつつあるとの指摘もありますが、日本周辺でもそのようなことを言えるのでしょうか、改めてお伺いします。
  14. 小此木政夫

    参考人小此木政夫君) ボーダーレスな国際社会ということはよく言われるわけでありますが、確かにそういう現象が存在します。特に、これは先進諸国間の政治経済関係においては、あるいは社会関係においてもそうだろうというふうに思います。例えばヨーロッパの、特に西ヨーロッパのECのような共同体においてはかなりの部分でボーダーレスの現象が現実のものになっているわけであります。しかし、日本周辺、東アジアというようなことになってまいりますと、この地域ではむしろ国境の持つ政治的な意味というのが高まっているというふうに私は考えております。  冷戦が終結して、民族、宗教、人種の問題が地域紛争となって激発しているというのは御承知のとおりでございまして、我が国の周辺を見ますと、朝鮮半島台湾海峡、それから九七年に返還される香港の問題、さらにインドシナの問題、こういった問題がございまして、恐らくこういった地域紛争が解決されるまでには随分時間がかかるのではないかというふうに思います。そうなりますと、一方においてはボーダーレスであり、他方においてはそうではないというふうなことが言えるわけでありまして、東アジアにおいてもこういった地域紛争が解決されて、人、物、情報の交流が活発になり、ヨーロッパと同じような共同体ができること、これは私は十年以上先のことだというふうに思いますが、そういう時代が来ることをまた強く願っておりますが、現実においてそういうものが実現しているわけではないということも事実でございます。日本はその二つ、一方において境界がますますなくなっていく、他方において境界がはっきりと意識されている、こういったものの二つの世界の中間に位置して、しかし同一の基準でこれを扱わなければいけないという大変大きなジレンマに直面しているのではないかというふうに見ております。
  15. 野村五男

    ○野村五男君 もう一問、小此木先生にお聞きします。  日本人外国人法的地位の相違についてはどのようにお考えでしょうか。  私は、今回、永住者及び特別永住者の指紋押捺を廃止しようとすることは大変な前進であると評価しているものであります。また御案内のように、昨年の出入国管理特例法では、終戦前から引き続き我が国に在留し、日本国との平和条約の発効により日本国籍を離脱した在日韓国朝鮮人及び台湾人並びにその子孫については、歴史的な経緯を踏まえて細分化されていた在留資格が特別永住に一本化されるという画期的な措置がとられており、在日韓国人等の法的地位は極めて安定的になったものと思います。  ところで、先生は、外国人登録法上も、さらにいわば限りなく外国人の一部のみの法的地位日本人と同じにするような措置をとるべきか、その是非について最後にお伺いいたします。
  16. 小此木政夫

    参考人小此木政夫君) 御質問の趣旨が、定住外国人というようなものの地位と同じようなものを外国人登録法においても考えるべきではないかというようなものであると理解いたしますならば、それにはいろんな考えがあり得ると思いますが、私は余りそういった考え方には賛成いたしません。なぜかと申しますと、国籍というのは生まれながらのものであると同時に、選択するものでもあるということなんですね。つまり、よく在日外国人方々がおっしゃられる、我々の祖先は朝鮮半島から強制的に連行されたのである、このことはもっともな指摘であろうというふうに思います。そういう歴史的な経緯を考慮に入れないわけにはいけないわけでありますが、しかしにもかかわらず、協定三世、ですから戦前からいらした方から考えれば四世ということになるのでしょうか。そういう時代が来て、なおかつ日本国籍を取得しないで外国人として居住するという行為は、これは大変勇気のある、ある意味では主体的な選択だというふうに考えざるを得ないわけであります。ですから、先生が御指摘のようなあいまいな地位というものを新たに設けるということがそういった主体的な選択というものを尊重することになるのかどうかということに関して疑問を感じております。
  17. 野村五男

    ○野村五男君 ありがとうございました。  それでは、床井参考人にお尋ねします。  私は、今回、永住者及び特別永住者の指紋押捺を廃止しようとすることは大変な前進であり、ぜひ成立させる必要があると考えておりますが、まず先生の御所見をお尋ねいたします。
  18. 床井茂

    参考人床井茂君) 私の考え方から申し上げますと、この指紋押捺廃止の問題につきましては、本来はいわゆる特別永住者のみではなくてすべての外国人に廃止さるべきであろうというふうに考えております。ただ、その一つの過程としまして、いわゆる長期在留外国人に対し廃止をするということは一つの前進であろうというふうに考えております。  ただ私は、立法的にそぐわないということを申し上げたいのは、長期在留外国人とそうでない外国人との間で、指紋押捺をさせる、させないというところの区別をする理由があるのだろうかというところに疑問を抱いているわけでございます。つまり、短期在留外国人だから指紋押捺をしなくてはならない、長期在留外国人であるから指紋の押捺はしなくてもよろしいのだと。では、なぜ指紋押捺を必要とするのかという従来の日本政府見解をお聞きしていきますと、同一人性確認のために必要だというふうに言っております。この同一人性の確認ということを考えましたときに、長期在留外国人であろうと短期在留外国人であろうと関係はないはずでございます。そういう意味からいきますと、本来指紋押捺ということは私は間違っていた、誤っていた制度だろうと考えておりますので、本来ならばすべての在留外国人から指紋押捺を廃止すべきであろうというふうに考えております。
  19. 野村五男

    ○野村五男君 もう一点お伺いします。  日本人外国人、特に在日朝鮮人との法的地位の相違についてはどのようにお考えでしょうか。日本人すなわち日本国民日本国の構成員であり、日本国とは国籍という深い関係で結ばれており、当然に日本国居住し、日本国の法秩序のもとで自由に活動することができるものであります。他方、外国人は、日本国国籍という関係はなく、たとえ在日韓国朝鮮人にはいろいろ歴史的な経緯があるとしましても、それぞれ大韓民国あるいは北朝鮮の構成員という関係にあると考えられます。この日本国民外国人との違いから、種々の行政あるいは法的な関係においてそれぞれの行政の性質によって日本国民外国人とは日本国憲法あるいは日本国の法秩序のもとで相違があることは当然と考えられ、日本国民と同様な関係にある場合もあるし、また日本国民と異なる場合もあると考えられます。内外人平等という議論をする方もありますが、すべての法律関係で日本国民外国人とが同じということではないと思われます。  ところで、国際法上、外国人入国や在留といったことは主権を有する国家の権限に属することとされておりますので、日本国行政上の必要性がある場合において、いわゆる内外人平等ではなく、日本国民外国人との間で相違のある場合もあると考えられますが、先生のお考えはいかがでありますでしょうか。
  20. 床井茂

    参考人床井茂君) お答えいたします。  まず、基本的に日本人外国人との間で先生の御指摘のような相違があることは事実でございます。しかしながら、基本的な人権という考え方に立ちますと、同じ人間でありながら差別があるということ自体に私は疑問を抱かざるを得ないわけでございます。特に、今御指摘をいただきました在日韓国朝鮮人、これは私申し上げておりますのは、長期在留外国人という意味で申し上げているわけでございますけれども、この方々につきましては少なくとも日本人と同じような処遇、待遇を与えるべきではないか、これが少なくとも現在の国際人権規約等から要求されていることではなかろうかと思います。  先生のおっしゃるとおりに、外国人につきまして出入国管理ということ、これ自体私も承知しておりますし、そのとおりだろうと思います。しかしながら、現実に長期在留外国人、特に戦前から日本に住んでおられる方々及びその子孫につきましては、事実上といいますか、本来的にもう日本が生活の本拠になっている、長期在留の根拠になっている、単に国籍が他にあるというだけにすぎないのだろうと思います。そういう方々につきましては、少なくとも日本人と同じような待遇を与えるべきじゃないか。特に小此木先生がおっしゃられましたような歴史的な経過、強制連行その他によってみずからの意思で日本に来たのではないそういう方々につきましては、少なくとも日本人と同様な待遇を与えるべきではないかというのが私の考えでございます。  ただし、例えば参政権等のような問題も確かにございます。私はこれについて諸外国の例を詳しく申し上げられるような学識はございませんけれども、ある外国におきましては、少なくとも地方自治体においては選挙権を与えるような方式をとっている国もあるというふうに聞いてございます。ただ、私は現実にこの選挙権を与えるべきかどうかという議論につきましては、私自身の考え方は十分にまとまっているわけではございませんので、お答えいたしかねるというふうに申し上げたいと思います。
  21. 野村五男

    ○野村五男君 終わります。
  22. 千葉景子

    ○千葉景子君 社会党の千葉景子でございます。  きょうは小此木参考人床井参考人御両名に貴重な御意見をいただきましてありがとうございます。  私の方から若干のお時間いただきまして、何点か質問させていただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いをいたします。野村委員の質問とも若干重なる点もあろうかと思います。重ねてお答えをいただかなければいけない部分あろうかと思いますけれども、その点はお許しをいただきたいというふうに思っております。  まず、小此木参考人そして床井参考人御両名にもう一度確認をさせていただきたいのですが、まず基本的原則として、日本に在留する外国人の皆さんに対する行政のあり方、これに対してはいろいろな国際的な情勢あるいはまた国際的な人権問題あるいは歴史、いろいろな観点があろうかと思いますけれども、原則として日本に在留する外国人に対する行政のあり方、これはどのようにあるべきだとお考えでしょうか、それぞれ両参考人にお尋ねをしたいと思います。
  23. 鶴岡洋

    委員長鶴岡洋君) 恐れ入りますが、参考人の方に申し上げますけれども、挙手を願います。そうしたら、御指名いたしますので。
  24. 小此木政夫

    参考人小此木政夫君) これは繰り返しになるかもしれませんが、内外人平等ということの意味ですね。これは、人権の面でできる限り公正かつ平等でなければいけないというのはそのとおりだろうというふうに思います。ですから、内外において日本人外国人の間に原則としてできるだけ差異がないことが望ましいというのは御指摘のとおりで、私もそのように考えています。  ただ、最前申し上げましたように、現在の国際社会国家というものを単位にしている以上、全く同じというわけにはいかない。つまり、内外平等ということは内外同一ということと同じではないというふうに私は考えています。それぞれの立場が違うわけでありますから、それぞれの立場に応じて違った処遇があるのはやむを得ない。それ自体は一概に同等でないとか差別であるとかということは言えないのではないかというふうに考えております。
  25. 床井茂

    参考人床井茂君) 私は、先ほど申し上げましたように、基本的には内外人平等の原則が貫かれるべきであるし、それが現在の確立された国際法規、人権法規ではなかろうかというふうに考えております。  ただ、私申し上げたいことは、少なくとも長期在留外国人と言われる方々と短期在留外国人と言われる方々との間で、現在のところ、待遇、処遇に相違があってもやむを得ない状況があるということは承知しております。ただ、先ほど申し上げましたように、国際人権規約の第三回報告書の中で、在日韓国朝鮮人につきましては、日本政府それ自体が、内国民待遇は獲得されているというふうに言っております。ですから、少なくとも、長期在留外国人に対しまして、日本政府は内国人待遇ということを目指しているというふうに私は考えております。  その意味におきまして、将来におきましては、長期、短期を問わずに、外国人は平等に扱わるべきだろうというふうに考えておりますけれども、現在のところは、短期と長期において差があるということはやむを得ないかなというふうには考えております。
  26. 千葉景子

    ○千葉景子君 小此木参考人にお尋ねをさせていただきます。  それぞれの国の違いがあり、取り扱いに違いがあることはやむを得ないのではないかというお話でございますけれども、長年にわたり日本に定住をしている、あるいはまた、先ほど御指摘がありましたけれども、強制連行などで自分の意思に基づかないで日本居住を余儀なくされた、こういういろいろな歴史的な経過などを考えたときに、今回、一定の定住者に対して特別な措置というものがとられたわけですけれども、こういう歴史的な背景によっての取り扱いの区別といいますか、違い、こういうものについてはどうお考えでしょうか。
  27. 小此木政夫

    参考人小此木政夫君) 歴史的な経緯というものを踏まえて今回定住者に対してより望ましい措置がとられたというふうに解釈しておりますが、しかし、私も今回の措置、特に指紋の問題に関しましては、これはグレーゾーンに属するというふうに申しましたが、あえてそのグレーゾーンの中で位置づけをすれば、白に近いグレーよりは黒に近いグレーでありまして、できる限りこういったものが廃止されていくことが望ましいというふうに考えております。  ですから、もちろん国内外の情勢等を見ながら判断していかなければならないわけですが、将来的には、今回適用されなかった外国人にも同じような措置がとられるということを期待しております。
  28. 千葉景子

    ○千葉景子君 それでは床井参考人にお尋ねをいたしますが、今回は、一定の部分指紋押捺制度にかわりまして署名、写真、家族登録という形での登録の方法がとられるようになってまいりました。  この指紋押捺制度に対して、一定の部分で署名あるいは写真、家族登録、乙ういう形での登録に変更がなされたこと、これについてはどう評価をされているか、あるいはまたどうお考えであるか、お聞かせいただきたいと思います。
  29. 床井茂

    参考人床井茂君) まず、指紋押捺制度、これは先ほど申し上げましたとおりに廃止さるべきであろうと思います。そのかわりとしましていわゆる三点セット、写真、署名、家族登録制度、これを持ち込んだわけでございます。  私は、この改正案について正直のところ意味がよくわかりません。つまり、この三点セットでもって同一人性の確認の手段にかえるという意味だろうと思いますのであるならば、写真で十分ではなかろうか。何がゆえに署名、家族登録制度を持ち込むのだろうかというふうに考えざるを得ない。  特に、この家族登録の問題でございますけれども、改正案によりますと本人の申し立てによるわけでございます。つまり、資料の添付は必要ない形になっているようでございます。そうしますと、実はこういう例がございます。  先ほど申し上げましたように、父親の名前がかわっていた、あるいは本人の名前が本籍地に行って調べたところ違っていた。これは私が扱った事例で、死亡した父が別な名前を使っておりまして——他人の名前を名のって登録していたわけでございますね。その死亡後に、その子供たちが戸籍謄本等をとって調べましたところ、別人の名前を使っていた、本名は別にあったということがわかった。実はこれの訂正のしょうがないわけでございます。在日朝鮮人でございましたが、その方は日本に帰化をしたいということで申し出られました。その際に、添付資料として必要とされるものが戸籍謄本でございますが、その戸籍謄本の氏名と亡くなった父親の氏名が違う、したがって帰化は受け付けられないと、こういうことになったわけでございます。  そうしますと、例えば過ってといいますか、父親から自分の名前はこうなんだというふうに聞かされて、その父親の名前、母親の名前を登録したとします。それを訂正するのは非常に困難、と同時に、もし誤ったまま申請をしますと、改正案によりますれば罰則規定があることになるわけでございます。少なくとも、家族登録制度を取り入れるのであれば、私は罰則を外すべきではないかというふうに考えております。つまり、この家族登録制度というものは、ある意味においては管理を強化するところにつながっていくのではないか。  もう一つ申し上げますと、例えば在日朝鮮人の結婚という問題がございます。これは婚姻届は必要ございません。ところが、今度の家族登録制度によりますと、世帯主との続柄ということを記載することになっております。そうなりますと、例えば婚姻届をしていない、いわゆる内縁関係の御夫婦の場合、これはどういう関係で届けられるのだろうか。これは同居ということになるのでしょうか。同居というのは続柄とは言えませんので、それ自体についても和ば法律上疑問を抱かざるを得ない面がございます。  と同時に、もう一つは、こういった従来にも増して詳細な家族登録制度を取り入れるということ自体、一つはプライバシーの侵害というところにもつながってきやしないだろうかというおそれを抱いております。  そういう意味において、今回、家族登録制度を取り入れるのであれば、私は罰則をもって強制することではないというふうに考えております。
  30. 千葉景子

    ○千葉景子君 続けて、床井参考人にお尋ねをいたしますが、今、家族登録制度の問題点などを御指摘いただきました。  私も基本的には同一人性の判断というものは写真などが存在すれば十分できるのではないだろうか、そうも考えているところですが、今回はこの外国人に対する同一人性の判断といいましょうか、その行政のシステムのあり方として結局は三つですね。指紋押捺制度を利用するというグループ、それからこの三点セットと申しましょうか、これを利用するグループ、それから全くこういう指紋押捺制度等が要らないグループ、大きく言えばそういう三つですね。こういう形に結果的にはなってしまった。それじゃ一つに統一できるんではないか、何で指紋制度が必要なんだろうかといろいろな疑問が残るわけですけれども、その点について床井参考人はどんなふうにお考えでしょうか。
  31. 床井茂

    参考人床井茂君) おっしゃるとおりに、外国人につきまして三つ判断基準といいますか、同一人性を判断する基準として三つの方法を持ち込んだということになるわけでございます。指紋が要らないグループといいますのは、いわゆる一年未満の在留の方々ということになるわけでございますけれども、私はなぜこういうふうに三つに分けたのかということ自体が実はよくわからないのでございます。  といいますのは、一番政府当局が問題にされている方々は恐らく短期在留の外国人方々ではなかろうかなというふうに思うのでございます。この方々から指紋を外す、それから一年を超えていわゆる永住までに至らない方々はこれは指紋だと、それから特別永住の方はいわゆる三点セットであるということになりますと、現実の問題としましてこれを受け付ける市町村の窓口が混乱する可能性が大いにある。  実はこういう例がございました。これは、たしか青森の方でございましたでしょうか、危篤状態にある在日朝鮮人のところに行きまして指紋の押捺を市の当局が強制したという事例がございます。実は、これは指紋の押捺は必要のなかった方なのでございます。にもかかわらず、その解釈の相違で市の当局がわざわざ危篤状態にある病床に行って指紋押捺を強制したという事件がございました。  つまり、ある意味ではこういう持ち込み方、分け方というものが、行政当局現実に事務を取り扱うところの市町村段階において混乱を来すおそれがある。ですから、私は速やかに何らかの形で一つに統一すべきであろうというふうに考えております。
  32. 千葉景子

    ○千葉景子君 今、床井参考人から、何らかの形で今後は一つに行政のあり方を統一すべきではないかという御指摘がございました。  それについて床井参考人にお尋ねをいたしますが、先ほどの御意見ですと、基本的には写真などで十分判断がつくのではないかというお考えもおありだったようですけれども、これから将来に向けてさらに検討を続けていく、あるいは制度改正していくというようなことを考えたときには、床井参考人の御意見としてはどのようなシステムというものがベターである、あるいはベストであるとお考えでしょうか。
  33. 床井茂

    参考人床井茂君) 先ほど申し上げましたように、この同一人性の確認の手段としての方法、これは将来にわたってはすべての在日外国人に対して同じような方法でやられるべきではなかろうかというふうに考えております。  特に、衆議院法務委員会での附帯決議がございますけれども、「この法律の施行後五年を経た後の速やかな時期までに適切な措置を講ずる」というふうにでございます、罰則規定も含めまして。これは私は、こういうあいまいな期限の切り方ということではなくて、きちんとした期限を切って検討するということが必要ではなかろうか。特に、先ほど申し上げましたように、国際人権規約報告書の中でも、速やかにその改善措置を講ずると、こういうふうに報告書出しておりますので、できれば私はこの次、第四回の報告書が五年後になりますけれども、この五年後には日本政府はこのような改善をしたのだということを胸を張って堂々と報告できるような改善措置をとっていただきたい、これは私の念願でございます。
  34. 千葉景子

    ○千葉景子君 それでは、次に床井参考人そして小此木参考人にお尋ねをいたします。  先ほど両参考人から御意見をいただき、それぞれの御意見がちょっと共通点もあり、違いもあろうかというふうに思うのですけれども、罰則それから常時携帯の問題についてお尋ねをさせていただきます。  床井参考人からは、この現外国人登録法治安立法的な性格を持っている。それの大きな柱として、私はやはりこれまでも指紋の押捺そして罰則あるいは常時携帯、これがいわゆる三点セットのような形で機能してきたのではなかろうかというふうに思っています。基本的には、罰則、常時携帯について今回は大きな改正はなされなかったということになりますけれども、床井参考人に、さらにその罰則、常時携帯についてお考えと今後の問題点を御指摘いただきたいというふうに思っています。  それから小此木参考人、常時携帯については余り気分のいいものではないというお話でございました。今の国際的な状況とか、あるいは御専門ではないかとは思いますけれども、人権の保障とかそういう面を考え合わせて常時携帯あるいは今後の取り扱い方などについてどうお考えか、罰則の問題も小此木参考人のお考えがあればつけ加えていただきたいというふうに思います。
  35. 床井茂

    参考人床井茂君) まず、常時携帯制度でございますけれども、これは先ほど申し上げましたように、在日外国人にとっては非常な苦痛となっております。つまり、一歩家を出るということになりますと、外国人登録証携帯しているかどうかを必ず確認せざるを得ない、あるいはちょっと買い物に出るというときにもその確認をせざるを得ないという負担を負わせられている。私は、少なくとも長期に日本に住んでいる外国人にとっては常時携帯制度は必要ないのではないかというふうに考えております。短期の方々につきましても、これは常時携帯ということよりは、むしろ小此木参考人がおっしゃられましたような旅券の携帯義務で十分ではなかろうか、外国人登録証携帯義務まで負わせるという必要はないのではないかというふうに考えております。  そしてまた、先年の改正によりまして、常時携帯制度から一年以下の体刑ということが外されまして、現在は罰金のみになっておりますけれども、この二十万円以下の罰金というのは非常に重いうっかり忘れたと、いわゆる過失犯ですね、過失犯につきましても二十万円以下の罰金を科せられるという現実があるわけでございます。したがって、この罰則制度というものは少なくとも住民基本台帳法戸籍法等による行政罰、すなわち過料にすべきではないかというふうに考えております。一足飛びにすべての外国人にそれが無理だということであるならば、少なくとも長期在留外国人につきましては、既にこれは身元の確認も十分できているわけでございますので、私はこの罰則制度は廃止すべきではないか、行政罰にとどめるべきではないかというふうに考えております。
  36. 小此木政夫

    参考人小此木政夫君) 私の議論は、日本人に準じた、公正であるが同じでないという、こういった基準をどこに求めるかということでありまして、そうなりますと常時携帯とか罰則とかというようなことに関しましても、ほぼそれに尽きるのではないかというふうに思います。  つまり、外国人としてとどまるという以上、日本人に準じたものでなければいけないけれども、しかし全く同じではない。罰則に関してもそういった言い方は当てはまるのではないかと思います。全く同じでいいのかということになりますと、それは日本人の場合にはここで生まれてここで育っているわけでありますから、外国から来た場合には外国人としての地位というのがそこにあるわけでございまして、場合によっては、例えば好ましからざる人物であれば外交的に入国できないというようなケースもあるわけでございますから、全く同じではないということは自明だろうと思います。しかし、長く定住されている方々に関しましては、日本人に準じた、できるだけそれに近い扱いをすべきだろうというふうに同時に考えております。  指紋と常時携帯を比べてみますと、私は指紋押捺に関しましては、かなり黒に近いグレーだというふうに申しましたが、常時携帯に関しましては、むしろ白に近いグレーだというふうに思います。外国人がその種のものを常時携帯するというのは必ずしも例外ではないというふうに思います。ただし、運用の仕方は確かに問題がございまして、居住地域内を移動するのに一々それを持って動かなきゃいけないのかというようなことになりますと、確かにそういったものを要求する必要はないのではなかろうかというふうに思います。また、同一人性が確認されればいいわけですから、最前の話に出ましたように、運転免許証があるのに登録証を持っている必要が本当にあるのかということになりますと、これも疑問でございます。  私がこの点に関して若干行政側を弁護するといいますか、その必要性を感じるのは、むしろ現在の状況であるよりは将来の状況、つまり最前申し上げたような非常に不安定な国際情勢というものが他方にございますので、そのときにそういったものを一切廃止していてそれでいいのかどうか、あるいはそれが本当に定住外国人のためになるのかどうかということに関してはちょっと判断がつきかねております。
  37. 千葉景子

    ○千葉景子君 時間もありませんので、最後になりますけれども、御両名に、今回の改正というのは一つの経過の中での一時期の改正ではなかろうかというふうに思います。今後の将来に向けた抱負といいますか、国会あるいは法務省等に対する要望といいましょうか、そういうものがございましたら御意見を伺って終わりにしたいと思います。
  38. 床井茂

    参考人床井茂君) 私は、もう外国人というものを敵視する時代というものは過ぎ去ってきているのではないか。つまり、これだけ国際化が叫ばれて日本国際社会に貢献しようというときに、外国人外国人ということで敵視をするという政策はとられるべきではないと考えているわけでございます。  それはどういう形であらわれるかといいますと、例えば外国人規定する二大法律の一つとして出入国管理及び難民認定法がございますけれども、こういった法律につきましても将来的にどういうふうにあるべきなのか、あるいはまた、現在問題となっております外国人登録法についてもどのような問題であるべきなめか。これは私は前から申し上げていますように、少なくとも内外人平等の原則に立った形のものが望ましい。そのためにどうしたらいいのかということを在日外国人人権を守る立場から検討していく必要性がある。そのための基本的人権はどうあるべきなのかということをぜひ先生方の間で十分な御検討、御討議をお願いしたいと思っている次第でございます。
  39. 小此木政夫

    参考人小此木政夫君) 私のふだん考えていることは、床井先生がおっしゃられたこととそれほど大きく違うわけではございません。できる限り内外人平等という観点から法が運用され施行されることが望ましいというふうに考えています。行政当局は常にそのあたりのことを検討しながら、少しでもそういった理想に近づくように努力していただきたいというふうに考えています。
  40. 千葉景子

    ○千葉景子君 ありがとうございました。
  41. 中野鉄造

    ○中野鉄造君 まず初めに、小此木先生にお伺いいたしますが、本法案は御承知のように衆議院を附帯決議を付されて通過して今本院で審議中でございます。先ほどからのいろいろなお話を伺っておりますけれども、率直に申しまして先生は今のこの法案については、衆議院から送付されているこの状態で大体満足とまではいかないまでも、これを今の段階では是と思われるのかどうか、その点をお伺いいたします。
  42. 小此木政夫

    参考人小此木政夫君) そのとおりでございます。
  43. 中野鉄造

    ○中野鉄造君 次に、床井先生にお伺いいたしますが、先ほどから先生のいろいろな陳述をお伺いしておりますけれども、将来的には例えば韓国においても、先ほど小此木先生からお話があっておりましたような常時携帯だとか、あるいは現在行われている指紋押捺だとか、そういったようなこともこれは廃止すべきものである、こういうようにやっぱりお考えになっておりますか。
  44. 床井茂

    参考人床井茂君) 韓国制度がどのようになっているのか、これは私不勉強でございまして、今小此木先生から教えていただいたような状況下にあるということを知ったわけでございますけれども、ただ指紋押捺に関しましては、内外人別なく指紋押捺をされているというふうに聞いております、その意味においては悪い形での内外人平等が行われているのかなというふうに感ぜざるを得ないわけでございます。  この修正案——改正案といいますか、ということに関しましては、確かに従来から見るならば一歩の前進であろうというふうに考えます。しかし、どうなんでしょうか。長い間踏みつけられてきた人々、この人々にとって、なぜこのような期間足げにされ、踏みにじられてこなければならなかったのかという思いを強くされているのではないでしょうか。  この修正案につきまして私が一言申し上げたいのは、少なくともこの携帯義務に関しましては罰則を外すべきである、それから家族登録制度についても罰則は廃止すべきであるというふうに考えております。
  45. 中野鉄造

    ○中野鉄造君 ところで、外登法の第十三条は外国人登録証明書の常時携帯を義務づけていることは御承知のとおりですが、この点について政府側としては、一層の常識的、弾力的な運用を徹底するということを申しております。しかしながら、その運用の実際は現場の警察官の判断にゆだねるということになっておりまして、このために現場での警察官の判断が果たして政府答弁のような弾力的かつ常識的なものであり得るのかどうかというような危惧の声も聞かれますけれども、この点について両先生のお考えをお尋ねいたします。
  46. 床井茂

    参考人床井茂君) 先生のおっしゃられるとおりだろうと思います。特に、現場におきまして政府見解のような弾力的な運用がなされているのだろうかということについては私は疑問を抱かざるを得ない状況にあると思っております。  特に、例えばこれはチョゴリ・チマ事件ということで有名になったことでございますけれども、その警察官が証人として出まして証人尋問したところが、いや、すべての外国人に対して常時携帯提示義務ということを求めているんだと。それでは、例えば英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語等で外国人登録証を見せてくださいというのはどういうふうに言いますかと聞きましたところが答えられなかった。つまり、現実的に行われている方策というものは、私は在日朝鮮人等が主に対象としてその取り締まりが行われているのではないか、現場においてはそういうふうにとらえているのではないかというふうに思っております。  前に上智大学の学長をなされてたジョセフ・ピタウ先生でございますけれども、この方は二十五年間日本におられまして一度も外国人登録証提示を求められなかったというふうに朝日新聞に書いてございました。日本の国ほど自由でかつ安全な国はない、この自由と安全とを守るべきであるというふうなことをおっしゃっておられまして、私はそのとおりだと思うのですけれども、それは欧米人に関してのみ言えることかなと。在日朝鮮人に関しては、残念ながら現場においては必ずしも政府見解どおりの運用が行われているかどうかについて私は疑問を抱かざるを得ないわけでございます。
  47. 小此木政夫

    参考人小此木政夫君) 現場の取り扱いがどうかということになってまいりますと、これは率直に申しまして日本国民の意識の問題でございますから、残念ながらそれが我々が期待しているほど高くないということではないかというふうに考えます。  床井先生からいろいろ例が挙げられたような問題に関して大変私も遺憾に存じます。できるだけ今後ともそういうことのないように指導していくという努力を積み重ねていただきたいというふうに思います。
  48. 中野鉄造

    ○中野鉄造君 終わります。
  49. 橋本敦

    ○橋本敦君 床井先生にお伺いしたいと思うのですが、先生が御説明なさったように、一つは住民基本台帳法目的居住関係身分関係を明らかにする。一方で、外国人登録法の法目的も同じように外国人居住関係身分関係を明らかにする。こう見ますと、法の目的が同一である、そしてまた、法によって守られることが期待される法益性もまた同一であるということになろうかと思うんですね。ところが、それにもかかわらず制裁、罰則において大変な大きな違いがある、この違いの合理性は一体説明し切れるの脱ろうか。私は、この点は法の構造として、まさに憲法の法のもとの平等ということから見ても説明し切れない問題を持っている、欠陥ではないかと思っておりますが、この点についてもう少し先生のお考えがあればお話をお聞きしたいと思います。
  50. 床井茂

    参考人床井茂君) 私は先生の御意見に全く賛成でございます。  外国人であるがゆえに外国人登録法の問題において大きな罰則が加えられるということについては私は疑問を感ぜざるを得ない。この一年以下の懲役、二十万円以下の罰金というものは、賭博罪ないしは過失致死罪より重い規定でございます。つまり、それほどの保護されるべき重い法益なんだろうか、私は人の命の方が大切なのではないかというふうに思っております。そういう意味で、この外国人登録法罰則は私は重過ぎるというふうに考えております。
  51. 橋本敦

    ○橋本敦君 次に、指紋押捺制度そのものの問題ですが、基本的にこれは全廃をするのが正しいという考えを私も持っておる一人なんですけれども、問題はなぜ指紋押捺制度がこれほど問題になるか、それは先生も御指摘のように、との指紋押捺制度というのが指紋をとるという意味において被疑者扱いにするという感覚を社会的に非常に多く持っているものですから、人権上の問題にかかわってくる。  だから、同一人性判断の資料ということであれば、それにかわるものがあれば、それにかわるものをやれば当然いいわけなんですが、そのかわるものを何にするかということの議論をさておいても、被疑者扱いにするという意味において人権上の問題はもうぬぐえないのではないか、そういうように感じておるんです。指紋押捺制度の根本問題がここにあるのかどこにあるのか、私はやっぱりここにあるということが人権上の問題として大きな課題だと思っておるんですが、被疑者扱いにするということの持っている社会意味なり法律意味なり、先生のお考えがあればお聞かせいただ。きたいと思います。
  52. 床井茂

    参考人床井茂君) この点につきましても、私は先生のおっしゃられるとおりだというふうに思います。  実はこの指紋押捺ということ、これは従前は更親切りかえごとに押捺していた、当初は三年ごとでございましたけれども押捺した。それが先年の改正によりまして一回限りになった。これは一つの前進だというふうに言われたのかもしれませんけれども、少なくとも一回限りにすることにおいて指紋押捺制度の根拠は失われてしまったというふうに考えざるを得ないわけでございます。  なぜそのように申し上げますかといいますと、従来、政府答弁におきましては、一回限りにするのであればこれは単なる嫌がらせにしかすぎないのだということになるから廃止できないのだ、だから何回も押させる必要があるのだというふうなことを言われたというふうに記憶しております。ところが、一回限りにすることによってその政府見解の根拠が失われてしまったと同時に、一回押させるのであれば何の意味を持つのだろうか、同一人性の確認にとってどういう意味を持つのであろうかというふうに考えざるを得ないわけでございます。  おっしゃるとおり、指紋の押捺ということ自体はその人にとってどんな苦痛をもたらすのだろうか。従来、先生がおっしゃられましたように、感覚的にはやはり指紋を押すということ自体は何らかの犯罪を犯した、あるいは犯罪を犯したと疑われる行為をなしたということにおいて押させるのが通常でございます。何にも罪もない方に指紋押捺させるということになれば、当然のことながらやはり被疑者扱いにしていたのだというふうに私も言わざるを得ないと考えております。
  53. 橋本敦

    ○橋本敦君 最近、内外人待遇の同一性という問題についても多くの議論が行われまして、大阪市を初め地方自治体で外国人の皆さんの地方公務員への採用という話が進んでおりますが、この問題について両参考人の御意見があれば伺って、質問を終わりたいと思います。
  54. 床井茂

    参考人床井茂君) 地方公務員の採用の問題につきましては、実は私、正直のところ申し上げまして考えがまとまってはおりません。と申しますのは、この地方公務員に関しましてどの程度までの職務につかせるかということが一つはあるいは問題になろうかと思います。外国人日本人との間で差があるとするならばやはりこの点の差というものがあるのかと思います。  ただ、公務員におきましても先生御承知のとおりにいろんな権限の相違がございます。例えば、公権力の行使に当たる公務員あるいはそうではない公務員とあるかと思います。とするならば、あるいは公権力の行使に当たらない公務員につきましては私は外国人を採用してもよろしいのかなと。ただ、これにつきましては、当然のことながら現在日本に住んでおられる多数の在日韓国朝鮮人方々の御意見というものを私は十分に聞いていただいて、その合意の上でどのように方策をとるべきかを考えるべきではなかろうかというふうに考えております。
  55. 小此木政夫

    参考人小此木政夫君) 私は、そのあたりのことに関してはかなり進歩的といったらいいのでしょうか、何といったらいいかわかりませんが、大幅に取り入れて構わないのじゃないかという気がしております。公権力の行使に当たらないということも余り厳格に考える必要はない。在日韓国・朝鮮の方がもしそういう職につきたいというのであれば、その線をどこで引くかというのは非常に難しいことではありますが、できる限りそういった意思を尊重してさしあげるべきだというふうに考えます。
  56. 橋本敦

    ○橋本敦君 ありがとうございました。
  57. 萩野浩基

    ○萩野浩基君 小此木先生、床井先生、お忙しい中本当にありがとうございます。大変持ち時間が短いのでまとめて質問をさせていただきますので、ちょっとメモをお願いいたしたいと思います。  今回、この外登法の改正に関してはある意味では前進と、こう言われておりますけれども、よく見てみますと韓国・朝鮮・台湾人を除く他の外国人にこの指紋押捺を強制する合理的根拠というものに対して私は非常に疑問を持っております。と申しますのは、外国人間における差別というものを生んでくるんではないか、そのように考えております。まず一点、その点を申し上げます。  聞くところによりますと、今回の改正はできれば本来全廃の意向というので進んでおったんではないかと聞いておるわけですが、出てきた結果は私にとっては非常にアンフォーチュネトリーなものと言わざるを得ない、そのように考えております。  その根拠としましては、憲法の前文で国際社会で名誉ある地位を占めたい、このように表明しておりますし、また先ほど来同僚の委員からもありましたが、特に憲法の第十四条、またさかのぼって第十三条、人権と法のもとでの平等という観点から、私はこの政治道徳の法則の普遍性というような面から考えても甚だ疑問に思うわけであります。私も大学で国際関係等を教えたりしておりますから、常にその辺を考えておるわけで中ございます。特に、憲法の第九十八条におきましては、御案内のとおり、条約及び確立された国際法規はこれを誠実に守っていくということをうたっております。また、国際人権規約のB規約の二条、二十六条におきましては、人種、言語、宗教、政治意見、それから門地等でその差をつけてはならないということでありますのに、今回の改正の中におきましては、一歩前進といえども、韓国・朝鮮・台湾人を除く他の外国人指紋押捺をするということは、この朝鮮の方々自身の方からも指摘があります。そういう点から考えまして、私は以上特に申し上げました憲法の第十四条の趣旨、それから国際人権規約等から考えても、幾ちそこに正当性をつけようと思いましても、合理的な整合性ある区別として容認し得る限度を超えておるんでないか。  そういうところから考えますと、今回衆議院から通過してきました附帯決議があるんですが、せっかく両先生いらしていただいたんでぜひともお聞きいたしたいんですが、参議院というのはそのファンクション、すなわちその機能はやはり衆議院の出てきたものをチェックしていく、そういう機能を持ってこそ参議院の存在意義があるわけでございます。この附帯決議の中におきましても、先ほど指摘がございましたが、五年後に速やかに適切な措置を講ずるとありますが、じゃ一体どういう方向に向かって適切なる措置を講ずるのか、この辺が非常に不明瞭であり、この辺を参議院としては何としてももう一歩前進的に、また明確に具体的にすべきと私は考えております。  以上の点につきまして、両先生からひとつお答えをいただければ幸せでございます。よろしくお願いいたします。
  58. 小此木政夫

    参考人小此木政夫君) 定住外国人とその他の外国人の間に差が出てしまった、それが問題ではないかという趣旨であろうかと思いますが、確かにそのとおりでございまして、それがないことが望ましいのは当然だろうというふうに思います。ただ、経済学的に言えば、拡大均衡と縮小均衡というような考え方がございますが、プラスの均衡をもたらすための段階的なものだというふうに私は理解しておりまして、したがいまして先生がおっしやられるように、将来どういう形でこれが一つのものになっていくのかということを考えれば、プラスの形で一つにしてもらわなければ困る、当然それ以外の外国人に関しても指紋押捺の廃止という方向で検討していただきたいというふうに考えております。
  59. 床井茂

    参考人床井茂君) 私も先生の御意見は全くそのとおりだろうというふうに思っております。  ただ、申し上げたいことは、先ほど先生がおっしゃられた在日朝鮮人韓国人あるいは台湾人等につきまして、他の外国人差別をするという意味ではなくて、この方々を優遇していくべきではないか、つまり、歴史的な経緯からいきましても、その優遇していくということ自体に私は合理的な根拠があるのではなかろうかというふうに考えております。そういう意味で将来とも、先生のおっしゃるとおりに指紋の全廃ということはなされるべきであろうと思いますけれども、当面、そういう意味において優遇措置をとるということ自体は、ある意味ではやむを得ない面もあるのかなというふうな気がしますけれども、基本的にはやはり先生のおっしゃるとおりでございます。  それからもう一つ、附帯決議の問題でございますけれども、これも私は先生の御意見に全く賛成でございまして、先ほど申し上げましたとおりに、あいまいな時期ということでなくて限定された時期に、少なくとも五年以内、次回の人権委員会報告書に記載できるような形での決議といいますか、それを当法務委員会においてお願いできればというふうに私は考えております。
  60. 萩野浩基

    ○萩野浩基君 終わります。  ありがとうございました。
  61. 紀平悌子

    ○紀平悌子君 時間ももう終わりに近づいてまいりまして押しておりますけれども、両先生よろしくお願いをいたします。  まず、一問ずつ両先生にお答えいただきたいと思いますけれども、今回の外登法改正案におきましては、在日韓国人朝鮮人、台湾出身者の永住者の約六十四万五千人について指紋押捺制度は廃止されますけれども、非永住の一般外国人、在留期間一年以上三年未満の約三十万人の方々は、従来どおり押捺制度が残されるわけでございます。そして、前の委員の質問と重なる部分もございますが、外国人について押捺制度登録制度が二本立てになるという制度のあり方にも問題がありますけれども、やはり外国人国籍によって取り扱いに不平等を生じるということ、ひいては国際化の流れの中で、日本にとって本当に廃止がまず求められてしかるべき有識者というか、ビジネスマン、学者、宗教家、芸術家などという方々の、たくさんいらっしゃる、一年から五年という程度の在留者について指紋押捺廃止がされないということは、これはどうなんでございましょうか、日本の国益に直接マイナスをもたらすということはないんでしょうか。これは時間があれば床井先生にもお答えいただきたいんですが、小此木先生にひとつお願いをいたします。  もう一点は、昨年五月で十五万九千人、十六万人とも推定される不法就労者が指紋押捺をこれはしていないわけでございますが、正規の滞在者には押捺をさせるということで矛盾があるわけですね。国際化の中での日本で、外国人の滞在される、あるいは住まれるということに対するこれからどのような対応というのが制度として望ましいとお考えになるか、これは床井先生の方から特にお願いをしたいと思います。
  62. 小此木政夫

    参考人小此木政夫君) ただいま御指摘になられたような、そういう幾つかの不都合が現実に存在するというのは多分否定できないのだろうと思うのですね。ただ、これは最前申し上げたことと重なるわけですが、そういった一年から五年の期間の滞在者に関しても、やがて指紋押捺が撤廃されるべきだというふうに考えますが、一遍にそれができないのは多分何らかの理由があるのだろうというふうに考えております。  私はややそういう意味では、国際政治、国と国との関係なんかをやっているがために、国籍の持つ意味というものをちょっと過大に評価し過ぎているのかもしれませんが、ですから、一時的なゆがみとしておっしゃられたような不備な点も考えておりまして、やがてそういった点も改善されていかなければいけないというふうに個人的には考えております。
  63. 床井茂

    参考人床井茂君) 不法就労者の問題、これは外国人登録法の問題というよりはむしろ出入国管理法の関係の問題になるかと思います。  これは私が余り勉強していないというせいもありますけれども、この不法就労者の問題、これにつきましては、確かに先生のおっしゃるとおりの人権侵害要素というものは含んでいることは事実でございます。特に社会保険その他の社会保障が全く受けられないという状況にある。そしてまた、その上で指紋押捺もしていないという状況にある。この点についてどのように考えるか。これは外国人登録法の問題というよりは、今申し上げましたような出入国管理法上の問題であろうかと思います。  そこで、この外国人不法就労者をどのように取り扱っていくべきかということについては、ぜひ私は先生方の御努力によりまして、どのようにこの人権を守っていくのかという方向で考えていただければ幸いかというふうに思っております。
  64. 紀平悌子

    ○紀平悌子君 これは、その関係だけでなくて、こういうような現存する非常に矛盾した状態がある中で、もう一つ突っ込んでこの登録制度の問題を理想的にはどういうふうなあり方がいいかということで御所見があれば伺いたかったわけです。
  65. 床井茂

    参考人床井茂君) この不法就労者、先生御指摘の不法就労者の問題を含めまして外国人登録制度を考えていくということになりますと、これは非常に難しいわけでございます。不法就労者にとって外国人登録をするということは、すなわち退去強制に結びついていくということになるわけでございます。つまり、国外追放ということになりますとみずから外国人登録はできないということになってくる。その辺の矛盾をどういうふうに考えていくのかということに帰着するのではないかと私は思います。  将来あるべきこの問題につきまして、外国人登録法上の問題としてのみ考えていくということについては私はいろんな矛盾が生じるかと思いますので、総合的に外国人に対する対策をどのように考えていくのかということの大きな枠組みの中で考えられるべき問題だろうというふうに思います。
  66. 紀平悌子

    ○紀平悌子君 ありがとうございました。  終わります。
  67. 鶴岡洋

    委員長鶴岡洋君) 以上をもちまして午前の参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人方々に一言御礼のごあいさつを申し上げます。  本日は、長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきましてまことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。ありがとうございました。  午後一時まで休憩いたします。    午前十一時五十四分休憩      —————・—————    午後一時開会
  68. 鶴岡洋

    委員長鶴岡洋君) ただいまから法務委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き、外国人登録法の一部を改正する法律案を議題とし、午後は、国際基督教大学准教授姜尚中先生、弁護士新美隆先生、東北福祉大学社会福祉学部教授ジョン・W・スティーブンス先生に御出席をいただき、御意見を拝聴いたします。  この際、参考人方々に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多忙の中、本委員会に御出席をいただきまして、心から御礼を申し上げます。  皆様から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、本案審査参考にさせていただきたいと存じます。どうぞよろしくお願いを申し上げます。  次に、議事の進め方について申し上げます。  まず、参考人方々から、姜参考人、新美参考人、スティーブンス参考人の順にお一人十五分程度御意見をお述べいただきまして、その後、各委員からの質問にお答えいただきたいと存じます。  なお、念のため申し上げますが、発言の際は、その都度、委員長の許可を得ることとなっております。また、各委員の質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いいたしたいと思います。  それでは、まず姜参考人からお願いいたします。姜参考人
  69. 姜尚中

    参考人(姜尚中君) 姜と言います。どうぞよろしく。  本日は良識の府である参議院に呼ばれまして、意見陳述の機会を与えられ、非常に感謝しております。  私は、生まれは、個人的なことなんですけれども、熊本県に生まれまして、私の親類の中には旧戦争中にいわゆる憲兵をしていた人物がおります。彼は一九四五年八月十五日に当然敗戦を迎えるわけですけれども、その間の経緯についての話を小さいころからいろいろな形で聞いたことがあります。そのような非常に長い日本での在留という、旧植民地にかかわるような在留者に関するさまざまな法律についてきょう御審議のことと存じますので、私の意見を少し述べさせていただきます。  まず、私の全体的な印象なんですけれども、今回の改正案について非常に厳しい言い方をいたしますと、お金を借りた債務者が、長い間お金を返してほしいという催促をしても返さずに、そして利子の一部だけでも今やっと返済しようとしているという段階ではないでしょうか。この利子の返済をもってお金を返さないよりはいいだろうという議論があるかもしれませんけれども、やはりそれは非常に本末転倒な議論です。全体の印象はそういうことです。  したがって、結論から先に述べますと、私は、附帯決議なり附帯条項に何らかの形で、将来的にはこの外登法の全面撤廃というものを入れていただきたい、これが単純な私の結論です。  なぜそういうことを考えるかということについて三つの問題点と、それからその三つの問題点の根幹にある基本的な問題点、これは二つに絞ることができると思いますけれども、そういうことを述べつつ、最終的に、もっと広い角度から日本とアジアの関係について私の意見を述べさせていただきます。  まず、今回の改正案を見ていくときに、第一番目に指紋の問題が出てくるわけですね。この問題については衆議院法務委員会でるる御議論されたことと思いますし、大体の問題点は皆様も御存じのとおりと思います。要するに、指紋は、その制度自体は何ら変わっていないということだと思うのです。制度自体は何ら変わっておりませんし、いわゆる永住権者に対して指紋を押さなくて済むという、それが非常に大きな改正案の目玉になっているわけですけれども、実態的にはこれは、いわゆる永住権者の子孫というものは年間大体一万人前後で、そういう人々は指紋を押さなければならない外国人の中でたかだか六%ないしは七%にすぎません。そういう点から見ますと、指紋を支えている基本的な考え方というものは全然変わっていない。まず、ここが私は最大の問題点だと思います。  それから第二番目に、外国人登録証携帯及び提示義務についてです。これはやはり私は基本的には、悪い言い方をすれば犬の鑑札だと思うのです。南アフリカ共和国でも、アパルトヘイトをやっているあの国でさまざまなそういう登録証に類似した携帯義務等々厳しい条項があると言われてきました。日本においてもこの登録証携帯提示義務ということは一貫して変わらない。  しかも、この改正案を見ましても、いわば携帯義務違反した場合の罰則というものは刑事罰になっているわけです。これも衆議院でるる議論されたとおりです。私は、その禁錮あるいは懲役一年以下、さらに二十万円以下の罰金、これは日本の場合の住民基本台帳法に定められているさまざまな規則違反、五千円以下の過料に比べると非常に重い罰則だと思うのです。なぜそういうことまでしなければならないのか、私は非常に理解に苦しむわけです。  さらに、その二つの問題点から三つ目には、私は、やはり基本的に日本人外国人というものを根本的に二つに分け、そして外国人の中でもさまざまな幾つかの差別をつくるという、非常に差別と監視、こういう考え方がこれを貫いていると思います。これは、はっきり申し上げて非常に刑事警察的な発想法、あるいはその技術というものが一貫してそこに貫かれている。  日本人の場合には、御案内のとおりいわゆる戸籍法、住民基本台帳法に従って一応さまざまな登録というのが行われているわけです。それに対して永住権者に対しては、家族登録、さらには署名、写真ということで、今回代替措置がとられるようになりました。しかしながら、考えていきますと、永住権者以外に非永住権の外国人がいるわけで、その場合の一年以上の滞在者に関しては指紋制度というものは一貫して生きているわけです。したがって、外国人の側の中にも幾つかの差別をつくるという、そういう発想がここに貫かれていると思います。  私は、世界のGNPの十何%をつくり出している経済大国日本にしては余りに貧弱な、正直申し上げて恥ずかしい法律ではないかなと思うのです。やはり基本的には内外人平等、そして人権立場から明確な法を支える基本的な原理を明らかにし、その上に立脚して、運用の具体的な局面においては幾つかの差別をつくらざるを得ないる面もあるでしょう。  しかしながら、私は、今回の改正案の中から基本的なポリシーというものが見えてきません。やはりこれは正直申し上げると、法務官僚、具体的に言いますと検察庁を中心とするような今までの管理制度のシステム、あるいは技術的な方法、こういうものを何とか維持したいという非常に現状維持的な発想から生まれてきた。そういう点では、私は政治の明確な見識というものが生きていないと思うのです。そういう点を私は三つの問題点として指摘しておきたいと思うわけです。  最後に、この三つの問題点が一体どこから来るのか、私は、それはやはり二つの問題点に最終的には帰着すると思うのです。  第一点。それは、なぜ内外人平等でないのか、つまり、外国人に関しては何らかの形で差別を設けてもいい、あるいは違うという考え方、その根拠は一体どこにあるかということです。これは衆議院法務委員会で、要するに外国籍を選択しているということは、外国に対してロイヤルティー、忠誠義務を持っているからだという御議論がありました。実定法を云々するような局面において、その忠誠心という非常にわけのわからない、あいまいもことした心理的な要因を持ち出し、それによって外国人日本人とを区別する根拠にしようという論拠は、これは非常にあやふやな議論です。  例えば、日本の若者の中に、日本が侵略された場合に、国を守りたいという人間よりは早く外国に逃げたいという人がたくさんいるわけです。こういう若者は、じゃ忠誠心がないわけですから、外国人扱いということになります。いかがでしょうか。まさしくこれは非常にばかげた議論です。あるいは、例えば多国籍企業が海外に自分たちが進出していく、そうすると日本の雇用状況は非常に悪くなります。そうすると日本の経済を悪くするわけですから、この多国籍企業に勤めている社長さんや重役さんは忠誠心がないことになる。いかがでしょうか。全くばかげた議論によって日本人外国人を分けている、その忠誠心という根拠が私にはわかりません。  我々は、日本に定住して日本に対しても愛着を持っております。少なくとも社会に対しては。さらに国際化の局面の中で、いわゆるハーフというか、あるいは二重国籍者がたくさん出てきているわけです。これは、現実の問題として人間の動き、資本、技術、さらには労働者等々が国境を越えでいろいろな相互依存関係に立っております。そういう社会において、非常に前近代的というか、そのような発想に従って日本人外国人を身分法的に分ける考え方、これは私は早晩内外からの批判に遭っていつかは撤廃ないしは是正に向かわざるを得ないと思います。  現在の日本は、私は外登法の問題だけではなくして、さまざまな局面において内外の圧力によって少しずつ今までのようなシステムを変えなければならないる面に来ていると思うのです。こういう事態に関しては、私は官僚によってではなくて政治家によって明確なポリシーを打ち出し、そして自分たちの意思に基づいてはっきりとしたポリシーのもとに内外に、こういう観点から我々はこのような形で日本居住する外国人に対しては対処していきたい、そのようなメッセージをはっきりと私は出すべきだと思うのです。そういう考え方が今回の改正案にはほとんど生かされていない。したがって、忠誠義務という非常にあいまいな、これは小学生が考えても非常におかしい議論だと思っております。そのことをまず一つ申し上げておきたい。  それから第二番目に、日本国家は主権国家である。いわば主権国家である以上は国家主権に基づいて日本国内居住する外国人に関して合理的な理由の範囲に従って何らかの差別を設けることは妥当性があるという議論があると思います。  しかしながら、どうでしょうか、皆さん。日米の構造摩擦、構造協議で、これは日本の主権国家の管轄事項をアメリカがいちゃもんつけているに等しいわけです。少なくともこれは何十年前であれば戦争が起きていもでしょう。現在は戦争は起きていません。つまり、主権というものを盾にとって、それが絶対的であるという発想はもう既に十九世紀的な発想で、現在の我々の社会、しかも日本のように経済大国においては主権国家の純粋性というものはもう崩れているわけです。さらには、国境を越えたさまざまな問題がございます。したがって、主権を盾にとって、そしてその絶対性を立脚点として外国人に関してさまざまな差別規定を設けることが合理的であるという判断は、私は世界の趨勢に合わないと思います。日本は少なくとも、これほど大きくなった経済大国としての国家の一つの威信なり、あるいは風格というものが私は必要だと思うのです。個人にも国家にも私は風格というものがあると思うのです。大きくなれば大きくなったでそれに対応するいわば名誉とそして風格というものが必要なわけであります。そこには、何らかの形で今申し上げたような主権国家という十九世紀的な発想から脱却して新しい事態に積極的に対応できるような指針を打ち出す必要があるのではないかと思います。それが私の全体的な、基本的な考え方です。  さらに最後に、一つだけ申し上げておきたいことは、PKOの問題が非常に巷間をにぎわしていることと存じます。この外国人登録法についてはもう非常にマイナーな問題として議論されているのではないかなと思いますが、私は国際貢献ということを言うならば、日本の中のアジア、アジアの中の日本という基本的な観点に立ては、PKOの問題もあるいは日本の中のアジアとしての外国人登録法の問題も根っこは同じです。この外国人登録法の発生、さらにはその対象になっている人々を考えますと、圧倒的にアジア系の出身者が多いわけですから、この外国人登録法において差別規定を設けているということは、実は日本とアジアの関係がどのような関係であるかということをいわば集約的にこの外国人登録法はあらわしているのじゃないでしょうか。  私は、日本が国際貢献ということを言うならば、外に人を出す以上に日本の中のアジアに対して日本という国はどのように対応していくのか、それがまずあって初めてアジアの中の日本という国際貢献論というものが出てくるのじゃないでしょうか。そういう観点から、良識の府である参議院において末梢的な法技術上の問題にとどまらず、もう少し広い観点からこの問題について御議論願いたいと思います。  以上です。
  70. 鶴岡洋

    委員長鶴岡洋君) どうもありがとうございました。  次に、新美参考人にお願いいたします。新美参考人
  71. 新美隆

    参考人(新美隆君) 参考人の新美でございます。  ふだん法廷はなれておりますが、こういう場はなれませんので、少し混乱するかもしれませんが、私の意見を申し上げたいと思います。  私のこの外国人登録法とのかかわりというのは、一九八〇年の九月に、東京の新宿区で指紋押捺を拒否した韓宗錫君という在日韓国人の弁護活動を通じてでありました。その後、一九八五年の五月には、川崎の李相鎬君という在日の押捺拒否事件も担当しました。この八五年前後には、約一万を超える人たちが押捺を拒否したり、押捺を留保するという宣言をしまして、指紋押捺問題に代表される、この外国人登録法差別性というものがいわば初めて日本人の多くの人たちの前に問題として提起されたわけです。  外国人登録法の問題は、指紋制度の問題だけではなくて、八五年以降法務省当局の方で押捺拒否者に対して嫌がらせとしか考えられないようなさまざまな制裁措置を実行しましたので、私は指紋制度についての法廷活動だけではなくて、再入国問題をめぐる種々の問題にもタッチをいたしました。一九八〇年代の約十年間を通じて外登法の問題について自分なりに研究もし、考えてきたものであります。  私が、一九八〇年の当初に、指紋押捺問題について考え始めた際には、外国人登録法の研究というものはほとんどなされてない状況でした。もっと大きく言いますと、外国人登録法の領域である在日の外国人にかかわる法的な問題については、政府当局者のレポートはありますけれども、在野の、それを批判的に見ようとする研究というのは今日ほど一般的ではありませんでした。つまり、指紋の裁判を通じて、指紋制度に代表される外登法というのが、どういう歴史の中でこのような形になったのかというのを最初から学はざるを得なかったわけです。  今回の法案の問題点につきましては、技術的な問題をも含めればいろいろありますが、時間の関係もありますので絞って意見を述べたいと思うのです。  一つは、先ほど姜先生がおっしゃったように、この指紋押捺制度の存続という点であります。  政府の提案説明にもありますように、今回の法改正案を準備した直接の原因というのは、日韓の九一年協議をめぐる九一年一月の政治決着でありました。私は、九一年一月の日韓覚書が発表された時点でこの内容を見まして、率直な感想として、これで外国人登録法の指紋制度も息がとめられたというふうに感じたわけです。  どうしてそのような感じを受けたかといいますと、今や既に多くの人が御存じのように、外国人登録法の指紋制度は、その立法の経過からも明らかなように、朝鮮人に対する治安取締法でありました。日韓覚書でその本体について指紋制度を外す以上、残りの外国人にだけ指紋を維持するというのは、これはとてもあり得ないことだというふうに私自身踏んだわけです。  ところが、昨年の秋から暮れにかけての新聞報道などを見ますと、指紋制度が全廃されるのか、全廃でないのか、二転も三転もいたしました。この内幕については、吉田類さんという方がお書きになった「「指紋」はなぜ残ったか」という「世界」の本年三月号のレポートに大変詳しいものがあります。  結果としては、指紋制度は残ったわけであります。なぜ残らざるを得なかったのか。この理由を考えてみますと、私はこの八〇年代を通じて多くの人々が叫び訴えてきたその思いや感じというものが、いまだ立法府には真の意味で理解もされ到着もしていないというふうに感ぜざるを得ないわけです。  八〇年代の日本の裁判所の判断を通じて、指紋が一つのプライバシーであり、一個の人権であるということはもはや確立された法判断であろうと思います。ところが、今回のこの立法をめぐるいきさつの中で、指紋を在日外国人人権の問題としてとらえるという視点というものが欠落しているというふうに私は感じるのであります。なぜ二国間の協議の結果がそのまま人権問題にかかわる立法になってしまうのか。人権というのは政府間の協議で決めるものでありましょうか。指紋問題というのは指紋を押すかどうかという事務的、技術的な問題ではないと思います。  一九八四年の九月十七日に出された東京地方裁判所の判決があります。この判決は、私が弁護人であった事件に対する東京地裁の判決でありますが、この判決が言うように、指紋問題とは要するに外国人の同一人性の確認の必要の度合いというものをどのように考えるか、技術的にはそういう点に尽きると思います。しかし、これは翻って考えてみれば、外国人をどのように見るか、どのように考えるかということであります。先ほど姜先生もおっしゃっているように、なぜ外国人だけが指紋を押さなければならないのか。そのようなときに、その外国人というものを、私たちも含めて、日本というものはどのように見ていることになるのか、この点を私たちすべてが自覚する必要があろうと思うわけであります。  指紋は、繰り返し言われておりますように、万人不同・終生不変の絶対的な手段であります。最近法廷の実務においてもデオキシリボ核酸の型の鑑定というものが議論になっておりますけれども、これはいまだ確立されたものではありません。それに対して、指紋は既に確立された同一人性確認の絶対手段であります。  なぜ外国人だけがこのような絶対的な手段で確定されなければならないのか。この点について、これからの立法の準備の議論ではなくて、既に存在をしている指紋制度の合理性なり必要性について、従来いろいろな主張が特に法務省当局からなされております。  代表的なものは、外国人というのは一般に在留期間が短くて係累も少ないから日本への密着度が乏しい、だから同一人性の確認が容易ではない、これが「つの理由でもあります。さらに、より利益を受ける長期の在留者に短期の在留者が成りかわる可能性があるから在留に利益を得る外国人からは指紋をとる必要があるとか、指紋は日常的には使われなくてもいざというときに使えればいい、そういうバックアップの機能を有するとか、あるいは指紋それ自体の効用ではなくて、外国人登録制度の中に指紋があることによって偽造や変造に対する心理的な抑止力があるとか、およそ考えられるいろいろな主張がなされてきました。  指紋というのは絶対的な手段でありますから、その効用を取り締まりや管理、把握の面から分析すれば、確かにいろいろな理由づけができるでしょう。しかし、問題は、指紋までとって外国人を把握しなければ安心できない、そのような思想とか考え方というのはどこから出てきたのかということであります。  弁護士実務の中で、憲法の人権にかかわる議論をする際には、よく立法事実論ということが最近言われます。要するに、ある法律の憲法審査を尽くす際には、その法律の条文の字面だけではなくて、その立法がなされるに至った社会的な経済的な政治的なもろもろの事実関係というものを考慮に入れた上で立法審査というものを尽くすべきであるという考え方であります。これは裁判所の憲法審査の考え方だけではなくて、むしろ立法府の審査に当たっても有益な考え方であろうというふうに思うわけであります。  指紋制度の導入の立法事実が一体どういうものであったのかについてだけ簡単に申し上げておきたいと思います。  指紋制度の導入を公式に政府に対して勧告をしたのは、一九五一年の国会における行政監察特別委員会の八月十五日付の報告書であります。この行政監察特別委員会は、日本の立法審議の中では異例なほど大規模な調査をしました。委員が全国各地に出かけていったり、繰り返し証人や参考人の事情聴取もした上で指紋制度の導入を勧告したわけであります。  このときの指紋を導入せざるを得なかった理由というのは、朝鮮半島からの密入国者の取り締まりということに尽きたわけであります。  一九五二年四月の「警察時報」という雑誌に国警本部警備課の担当者が次のように書いております。在日朝鮮人というのは百万を既に五一年段階で超えていたはずだ。しかし、五一年十月末の登録人数というのは五十六万人しかいない。すると、約四十万人近くが不正規在留者として我が国に存在をしていることになる。この人たちをどうするかと。  こういう発想がこの五一年段階での警察及びこの特別委員会の発想でもありました。  一たん日本社会に潜り込んでしまったこの不正規在留者、不正規居住者をどのようにしてあぶり出していくのか、当時は朝鮮戦争下でもありましたから、これは同時に防諜の目的も持っておったわけであります。ここで指紋が導入されたわけであります。当時は、一人の密入国者でもこれを見逃せば国家の利益に対して取り返しのつかない不利益があり得るというこの発想に縛られておりました。そのために、外国人登録証明書に従来写真だけ張ってあったのを指紋をも加える、そして法務省入国管理局ですべての外国人から押された指紋の原紙を切りかえ年度ごとに照合して鑑識をする、それで一たん潜り込んでしまった不正規在留者をあぶり出し、選別していくというのがこの五二年以降の指紋制度の実質でありました。  ところが、五五年以降の指紋制度の体制というものは、一九五八年に日中貿易を促進するために一年未満の在留者の指紋免除を政治的にせざるを得なかったことによって大きな一角が崩れただけではなくて、実際にもそのような人員と費用をかけての効果というのはあらわれませんでした。そして、ついに一九七〇年には指紋照合の体制というものを法務省当局は中止しましたし、七四年には法務省にとって最も重要な指紋原紙の省略通達まで出しております。このころには既に、人権とかそういうものを仮に外したとしても、指紋制度の効用というのは終わっておったわけであります。この時点で法務省当局は事態を明らかにして指紋を廃止すべきであった、歴史的に考えるとそういうことが言えるのではないかと思うわけであります。  現在、過去のアジアに対する日本の侵略とか植民地支配の見直しの問題、克復の問題、補償の問題というのがいろいろ問われております。  一九五二年、占領から脱すると同時に我が国が自前で外国人登録法を立法したときに、日本制度の中では初めて行政制度としての指紋制度を導入してしまったというのは、ある意味では不幸な、誤った出発であったというふうに考えざるを得ません。指紋制度は、現在の自衛隊と同じように朝鮮戦争の落とし子であります。
  72. 鶴岡洋

    委員長鶴岡洋君) 新美参考人にお願いしますけれども、全体のバランスもございますので、簡潔にお願いをいたします。
  73. 新美隆

    参考人(新美隆君) その戦争下において、また当時の特殊な状況下において初めて可能とされたこの指紋制度がその後数十年の長きにわたって存続してきてしまったということ自体が、戦後の我が国のアジアを初めとする外国に対する姿勢というものをあらわしているのではないでしょうか。  今や大きく歴史の振り子が振れて、もう一度私たちが日本の戦後史を改めて見直さなければならないときに指紋制度を維持するという決断というものは、これは大変重大な決断であろうというふうに思うわけであります。導入をする際のあれだけの立法審査というものが、その後の改正の都度きちんと審査がされておれば、先ほど申し上げたように、七〇年の段階でこの指紋制度の問題は大きな見直しの機会を与えられたはずであります。ところが、今日まで残ってしまったことについては、よく裁判所が、裁判所は事実資料の収集については制約があるから最終的には立法府に任せてほしいということで立法裁量論というのを繰り返し持ち出されます。しかし、果たして今その裁判所から任された立法府がそのようなきちんとした審査というのをなさっておられるかどうか。  永住者や特別永住者以外のいわゆる一般外国人三十二万人に対して指紋制度を維持するというのは、この一九九二年の段階で五二年当時の日本外国人に対する物の見方を今改めて引き継ぐという、そういう役割を果たします。そういう意味では、これは一外国人登録法の問題ではなくて、今後の日本が進むべき大きな試練と言えます。一たんつくられた制度を改めるというのは、これは大変勇気が要ります。しかし、その勇気が今の日本社会日本政府には問われておるというふうに私は考えるわけです。  簡単でございますが、私の意見を終わります。
  74. 鶴岡洋

    委員長鶴岡洋君) どうもありがとうございました。  次に、スティーブンス参考人にお願いいたします。スティーブンス参考人
  75. ジョン・W・スティーブンス

    参考人(ジョン・W・スティーブンス君) 東北福祉大学のジョン・スティーブンスでございます。  私は、アメリカのシカゴ出身ですが、一九七〇年に女房と子供を連れて、仏教、東洋思想、日本文化の研究のために日本にやってきました。最初の予定は半年ぐらいの滞在予定でしたが、何回も滞在期間を延長して日本の生活も十九年になりました。  子供は四人おりますけれども、上の三人は幼稚園から高校まで日本の教育を受けました。ことし長男が仙台の美しい女性の方と結ばれて、次男の彼女も長女の彼氏も日本人ですから、子供は三人とも国際結婚になりそうでございます。四番目、三男ですけれども、仙台で生まれまして日本製です。女房の方は熱心に茶道、お茶のけいこをしまして、裏千家から茶名をいただきました。仙台で国際茶道教室を開きました。私の方は、日本文化を専門にしており、特に武道に興味を持ちまして、すばらしい日本人の先生に教わって合気道師範の資格を取りました。今、国内と海外で、日本の心と合気道を力いっぱい宣伝いたしております。  こういうふうに、我が家族はみんな日本を大好きです。しかし、皆は、指紋押捺及び登録証明書常時携帯制度は大嫌いです。私は外国人登録法に従って四回ほど指紋を押しておりますけれども、いつも、犯人ではないのになぜこのことが必要なのかと感じました。女房と子供も、僕の外国人の知り合いも、皆同感です。外国人だけじゃなくて、私の日本人仲間もこの外登法に賛成しません。  登録証明書常時携帯制度の問題について、私の長男が高校時代に町で遊んでいたところ、お巡りさんが突然に、君の外国人登録証明書を見せてくれと命令しました。高校生ですから、長男はふだんその証明書を持って歩きません。それでお巡りさんが、いけないんだ、違法だと言ってすぐ直接に交番に連れていきました。警察の方が私に連絡しまして、私が交番に行ったときに、私の息子は悪いことをしたんですかと聞くと、はい、外国人登録証明書を持っていないんだと答えました。それだけですか、学生ですからあれは別に問題ないのではないでしょうか、簡単に注意すればもう十分じゃないでしょうか、私がこういうふうに言うと、外登法違反です、法律違反ですとだけ返事をしました。そのとき、私も長男も、これは人種差別だ、人権じゅうりんだと強く感じました。いかがでしょうか。  日本に滞在する外国人の一〇〇%近くがこの指紋押捺及び外国人登録証明書常時携帯制度を廃止されるように望みます。そして、よく調べると、この外登法については日本国憲法の十三条に対して憲法違反になると思います。この問題について法律よりも常識、物よりも心が必要と思います。  普通は日本政府が外圧によって動きます。反応します。だから、ほかの国の立場から日本政府日本人が小さく見えます。この問題について、外国人の反対運動に対して取り扱おうじゃなくて、日本人側から積極的にこの制度は余りよくないんだ、国際社会の中で意味が余りないんだ、一発で全廃しようと言われましたら物すごくプラスになります。そういうふうにすればほかの国から日本人は大きく見えます。日本は国際人権運動のヒーローになるかもしれないです。これから長期滞在する外国人と永住権の持てる外国人に対しては、一回だけ簡単に登録して日本に自由に出入りできるような制度がありましたらよろしいと思います。政治的に常識的に経済的に理想の制度じゃないでしょうか。  もう一つのお願いがあります。外登法に直接に関係ありませんが、いずれこの法務委員会に出る問題になると思います。私のような外国人が何年間滞在しても、幾ら税金を払っても選挙権を持っておりません。選挙権はもちろん自由の権利ですが、外国人に選挙権を与えるような制度がありましたら大変よろしいと思います。よろしくお願いします。  私は、法律専門家ではないですけれども、この言葉は好きです。オール・イコール・アンダー・ザ・ロー。法律上すべての人間は平等です。失礼しました。  以上です。
  76. 鶴岡洋

    委員長鶴岡洋君) どうもありがとうございました。  以上で参考人方々の御意見の陳述は終わりました。  それでは、これより参考人に対する質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  77. 野村五男

    ○野村五男君 自由民主党の野村五男でございます。  参考人の諸先生には御多用中にもかかわらず本委員会において貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございます。  最初に、新美参考人にお尋ねしたいと思います。  日本人外国人、特に在日朝鮮人等との法的地位の相違についてはどのようにお考えでしょうか。日本人、すなわち日本国民日本国の構成員であり、日本国とは国籍という深い関係で結ばれており、当然に日本国居住し、日本国の法秩序のもとで自由に活動することができるものであります。他方、外国人は、日本国国籍という関係はなく、たとえ在日韓国朝鮮人にはいろいろ歴史的な経緯があるとしても、それぞれ大韓民国あるいは北朝鮮の構成員という関係にあると考えられます。  この日本国民外国人との違いから、種々の行政あるいは法的な関係において、それぞれの行政の性質によって日本国民外国人とは日本国憲法あるいは日本国の法秩序のもとで相違があることは当然と考えられ、日本国民と同様な関係にある場合もあるし、また日本国民と異なる場合もあると考えられます。内外人平等という議論をする方もありますが、すべての法律関係で日本国民外国人とが同じということではないと思われます。  ところで、国際法上、外国人入国や在留といったことは主権を有する国家の権限に属することとされておりますので、日本国行政上の必要性がある場合において、いわゆる内外人平等ではなく、日本国民外国人との間で相違のある場合もあると考えられますが、先生のお考えはいかがでしょうか。
  78. 新美隆

    参考人(新美隆君) 今、野村先生のおっしゃった点については、実は裁判の中でも常に出てきた問題であります。国民と外国人基本地位の相違という言葉が、裁判の中でもいろいろと言われております。しかし、翻って、そのような基本的な地位の相違の実質というのは一体何であろうかというふうに考えてみましたときには、今の日本国憲法を前提にしてその差異というものを考えるしかないわけであります。もちろん、日本の歴史や風土に対する日本人としての愛着という問題はこれは当然のことであります。しかし、法的な差異を設ける際に、特にこれが人権の問題にかかわった場合には、果たして日本の憲法というのはどういうものとしてその差異というのを予定しておるでしょうか。  先ほど姜参考人の方からも言われましたし、また衆議院の審査の中でも出ていました国家に対する忠誠心とかいうものを基準にする、それを具体的な基本地位の差であると、その内容として説明するという方もおられます。しかし、日本は既に戦争を放棄し平和主義に徹し、戦争に対する国民の義務というものは一切うたっておりません。そういった中で人権の保障というのを国家の最終の目標にしておるわけであります。問題になっているこの差異が議論をされる場合には、人権について外国人日本国民ほどは保障されなくてもいい、場合によれば日本国民が享受すべき人権をある一定程度は制約されてもいいという、その議論の中でこの差異の問題というのが持ち出されるわけであります。  私は、人権の本質からすれば、国籍による差別というものはもはや二十世紀の今日においては疑わしい差別である、よほど合理的な理由がない限りはその差別というのは合理化されないというふうに考えるのが今の国際人権の流れに沿った考え方だろうと思うのです。もちろん文学的な方面とかいろんな歴史的な方面で日本人外国人の差異を強調するというのは、これはこれで結構でしょう。しかし、権力的にある人の自由とか人権というものを制約する根拠としての国籍というものについては、非常に現在はそれは総体的に小さくなっている。それを一つ一つ問題にされた人権の類型に従って私たちは検討をしていかなければならないのじゃないかと思うわけであります。一般的に言えばそういう考えております。
  79. 野村五男

    ○野村五男君 ありがとうございました。  それでは姜尚中参考人にお伺いいたします。  韓国では外国人登録制度はどのようになっているのでしょうか。また、指紋押捺や常時携帯制度はどのようになっているのか、御説明願います。
  80. 姜尚中

    参考人(姜尚中君) 私は法律専門家ではないので、専門はもともと政治学なもので不案内なところがあるかもしれませんけれども、御容赦願いたいと思います。  私が知っている限りは、大韓民国つまり朝鮮半島の三十八度線の南を一応所轄している国家においては、指紋押捺制度に関して、私の記憶ではたしか一九六八年だったと思いますが、まず、いわゆる韓国人というか要するに自分たち、韓国国籍を持っている人間から最初指紋押捺制度を導入した、そして、やがてそれを外国人にも適用したのであります。  私は、根本的には指紋は全廃すべきだと思います、大韓民国に対しても。しかし、注目しなければならないのは、大韓民国においては悪法が平等に行われているということです。ところが、日本においては悪法が不平等に行われているという最悪の結果が出ているわけです。ですから、私はもちろんこの席において大韓民国のことについて私の考えを披瀝する時間もないとは思いますが、基本的には大韓民国であれどこの国であれ、指紋制度は廃止すべきであるという基本的な考え方です。しかしながら、大韓民国と日本との根本的な差異は、内外人に対して一応指紋制度をそのまま適用しているということですね。  私は、この点については新美先生がお詳しいと思いますけれども、日本においても本来は日本人にも指紋制度適用するという考え方が当初あったはずです。しかし、私の聞くところによりますと、いわば皇族方にも指紋を強要するのかという議論があって、そこから立ち腐れになって外国人だけは指紋というふうになったと聞いております。そういう経緯があったということだけ伝えておきたいと思います。
  81. 野村五男

    ○野村五男君 もう一点、姜尚中参考人にお伺いします。  長年日本居住している在日韓国人等と新規に日本入国した外国人とを、外国人登録法上異なった扱いとすることについてはどうお考えになりますか。
  82. 姜尚中

    参考人(姜尚中君) これは非常に難しい問題で、基本的にはまず普遍的な原則で網をかけて、そして歴史的な経緯や実態に即した差別化というよりは区別を設ける必要があるならば、それが極めてリーズナブルで合理的な判断根拠に基づいていれば私はそれは少なくとも法実務上仕方のないる面もあるのではないか。したがって、まず内外人平等、そして人権観点に立って、ニューカマーも、そして我々のように戦前から居住している旧植民地出身者の子孫に対しても、まず基本的な原則はこれでいく。そして、その上で居住の実態やあるいはさまざまな生活上の歴史的な経緯を踏まえて法の運営や実務上に何らかの区別ができるということに関しては、少なくとも現時点においては現実的に仕方のないる面もあるのではないか。  ですから、私は、もしそこに差別あるいは区別を設けるとするならば、その前提にまず普遍的な原理原則で網をかける必要があるということだと思います。そのことが恐らく海外の国々に対しても納得のいく議論になるのではないでしょうか。
  83. 野村五男

    ○野村五男君 ありがとうございました。  次に、スティーブンス参考人にお伺いいたします。  米国には外国人登録をするという制度はあるのでしょうか。また、指紋押捺外国人登録証常時携帯制度はどのようになっているのか、御説明願います。
  84. ジョン・W・スティーブンス

    参考人(ジョン・W・スティーブンス君) 私も法律専門家ではないですけれども、多分アメリカの場合はパーマネントレジデント、永久権の場合は多分指紋をとると思います。あと、ハワイ州の場合は運転免許を取るときやっぱり指紋をとられるんですよ。アメリカでも州によって、場所によっては多分とると思いますけれども、あれよくないと思います、個人的に、アメリカ人として。
  85. 野村五男

    ○野村五男君 ありがとうございました。  それでは、最後に姜参考人並びにスティーブンス参考人両人にお伺いいたします。  東京新聞のサンデー版に毎週日本人と国際結婚された方の感想等を掲載した「ニッポン新暮らし事情」という連載物があります。両先生ともお読みになったかもしれませんが、その四月二十六日号で、フランス人の母親とポーランド人の父親の間に出生された岡田ナディヌさんの発言が載っております。それによりますと、ナディヌさんは指紋押捺について、「ちょっとは手は汚れるけど、絶対に悪いことはしないから平気でした。日本に住む以上、日本の習慣やマナーを守るのは当たり前と思うから」と単純明快に述べていらっしゃいました。  姜参考人及びスティーブンス参考人両先生とも指紋押捺の経験がおありかと思いますが、決して全員が屈辱的とだけ感じていらっしゃるわけでもないということであろうかと思います。押捺を全廃しても行政上支障のない手法の開発が期待されるところですが、当面は永住者等に限られるわけです。ナディヌさんの発言への感想も含めて、今回の法案に対する最終的な両先生の評価をお聞かせ願いたいと思います。
  86. 姜尚中

    参考人(姜尚中君) まず、私の個人的な経験からお話しいたします。  私は、熊本市のある市内の中学におりまして、中学三年のときに教員からちょっと来てくれということで、それでどうやら市役所に行ってくれということなのですね。忙しいときに、受験を控えて何だろうと思って行きました。そして、そのとき初めて指紋というものにお目にかかったわけですけれども、私にとっては、いわば一言で言うと非常に暗い思い出ですね。  それは、今御案内のとおり、非常に主観的で心理的な判断、しかもそれは極めてマイナーなケースでしょう。マイナーなケースをもって全体を類推するということは非常に私は本末転倒だと思いますし、それから、今指紋制度日本の慣習及び伝統に近いような御発言でしたけれども、法律というもの、とりわけこの指紋制度あるいは外国人登録法というものは、御案内のとおり、一九四〇年のアメリカにおける戦時立法として成立した外国人登録法が母体になっております。私は、その観点からちょっと意見を述べさせていただいて私の感想にかえさせていただきます。  私は基本的には、先ほど新美先生からお話もありましたとおり、日本外国人管理からさまざまな制度の全体が三〇年代に大体つくられてきたと思います。私の言葉で言えば、統制経済下でつくられたいわゆる日本的システムと言われているものが戦後、改革の不徹底の中でそのまま生き残り、そして今日まで受け継がれてきた。それは基本的にいいますと、いわゆる旧内務省は崩壊しましたけれども、旧内務省的な発想で行政管理、過剰介入、規制をやろうとする。実はこれが、日本がまだスケールが小さいときはよかったのですけれども、現在のような世界のウルトラ経済大国になってきますといろんな問題点がそこから出てきています。  私は、戦争をてことして進められてきたそのような制度というものが冷戦の崩壊の中でもうにっちもさっちもいかなくなっていると思います。その端的な例が社会主義ソビエトの崩壊で、日本もある意味においては、統制経済下につくられた基本的な発想法、つまり行政国家的な発想法というものが内外の局面の中で金属疲労を起こしていると思います。その一つとしてこの外国人登録法があるわけで、そういうものは早晩私はほころびてくると思います。したがって、これは一九九五年、戦後ちょうど丸半世紀たちます。三年かけて一九九五年までにはこれを全廃し、そして住民基本台帳法に準ずる別個の法体系をつくり、そこにすべて任せ、そして外国人についての住民サービス等々を私はやるべきだと思うのです。  基本的に、国籍によってオール・オア・ナッシングという考え方が実はいかにあいまいな議論がということは、外国人も実はタックスを払っております。つまり、税金を払うということは公共の負担を率先していわば担っているということなんです。御案内のとおり、ヨーロッパにおいて市民革命はすべてタックスから始まっています。まさしくこれによって初めて権利と義務が発生し、そして公共の福祉を担える住民、市民として生活ができるわけなんです。もし国籍云々の議論だけでこのタックスの問題をいわば避けて通るならば、それは極めて片手落ちな議論なんです。  つまり、タックスを払っているということはある社会の構成員であるということです。もし、タックスについて義務を平等に課し、権利に関して何らかの差別を設けるとするならば、私は、逆に言えばタックスについては半分にしていただきたい。義務も半分だけれども権利も半分というなら、まだ話はわかります。フェアです。私は基本的に、タックスを払い、ある社会の構成員として合法性の枠の内部で日々、日常の生活の糧を得ている人間は社会の仲間である。  それから、最後に私の個人的な感情を申しますれば、もし日本という国が実に理不尽な理由で他国から侵略された場合、私は、先ほど例に挙げました日本の若者のように、海外に逃げることはまずないと思います。日本国内にとどまって非軍事的手段において徹底的に抗戦すると思います。したがって、私の方がはるかにロイヤルティーがあるということですね、少なくとも国家に対してじゃなくて日本社会に対して。これは必ずしもアブノーマルではなくして、人々の生活の本拠がそこにある限りにおいてはその社会の構成員であり、そして立派に一つの仲間であるという観点があれば、国籍によるオール・オア・ナッシングという考え方、これがいかに狭い、そして実態のないものであるかということはすぐおわかりになるのじゃないでしょうか。それが私の基本的な感想です。
  87. ジョン・W・スティーブンス

    参考人(ジョン・W・スティーブンス君) 自分の個人的な体験ですけれども、この前おっしゃったように、指紋を押すときはやっぱり嫌ですね、すごく。要するにその制度をなるべく早くやめれば本当に日本に対してプラスになると思いますよ。物すごいプラスになりますよ。それだけですね。
  88. 野村五男

    ○野村五男君 終わります。
  89. 千葉景子

    ○千葉景子君 本日は、姜参考人、新美参考人そしてスティーブンス参考人、貴重な御意見をいただきまして本当にありがとうございます。  今、三人の参考人からのお話を伺いまして、いわば大変厳しい私たちにとっても御意見ではなかったかというふうに思っています。きょうは法務省からも担当の方もお見えのようですけれども、行政そして私たち立法にかかわる者にとっても大変厳しい御意見をいただいたと改めて認識をさせていただいたところでございます。  ちょうどお三方の御意見、いろいろな面で重なり合いそしてまた厳しい御指摘があったかというふうに思います。姜参考人からいただきました御意見、やはり基本的に政治の見識といいましょうか、ポリシーが見えてこない、これは確かに今のこの外登法の審議のみならず日本政治すべてに当てはまることではないんだろうか、そんな感じもいたしますし、それから新美参考人からは、人権という問題に対する基本的な考え方を教えていただいたような気がいたします。人権というものが政府間の協議とかあるいは多数意見などで左右をされるものではない、こういう御意見もあったかというふうに思います。また、スティーブンス参考人からは、やはり国際人といいますか、国境を越えた新しい私たちのこれからの生き方、こういうものをやはり指し示していただいたんではなかろうか、こんなふうにも感じているところでございます。  そこで、もう既にそれぞれの御意見の中にその思いといいましょうか、基本は尽きているのではなかろうかというふうに思うのですが、何点か今後の私たちの審議あるいは方向づけ、その参考にもさせていただきたいというふうにも思いますので質問をさせていただきたいというように思います。  まず、お三方にそれぞれお伺いをしたいというふうに思うのですけれども、お三方とも指紋制度というのはもうこれは廃止をすべきだ、こういう御意見であったかというふうに思います。私も本来、在留している外国人の皆さんに対してはやはり内外平等の原則で同じ人間として対応していくべきであろう、とりわけ行政の対応のあり方、これは今後厳しく考えていく必要があるのではないかというふうに思います。今回の外国人登録法を考えるときに、日本住民票などと比較をいたしましてやはり治安的なあるいは管理的なもので、日本人そして外国人差別する、そういう観点が大変強いように私も認識をしている一人でございます。そういう意味で本来、在留されている外国人の皆さんに対する行政のあり方、これをどのように考えていらっしゃるか、特に日本住民票などとの比較もあわせて今後どのようなシステムを検討すべきとお考えか、その辺についてそれぞれお考えをお聞かせいただきたいというふうに思います。
  90. 姜尚中

    参考人(姜尚中君) 先ほど申しましたとおり、私、法律家ではございませんので少し素人的な考えになるかもしれませんけれども、先ほど野村先生の御質問にちょっとお答えしましたが、基本的には私は住民基本台帳に準ずる一つのシステムをつくるべきじゃないかと思います。  今回の改正案では家族登録それから署名及び写真ということが出ているわけですけれども、基本的に私は日本人とそして永住権者と非永住権者の大体この三つに分けて、そしていわゆる定住外国人に関してはその住民基本台帳法とそれから非永住権者、その中間にいわばグレゾーンにあるのじゃないかと思いますね。それを基本的には住民基本台帳法に準ずるような法システムの中にすべて組み込んで、そして法務省の登録課の方々もいろいろとお仕事がたくさんおありになるでしょうから、それをすべて地方自治体に任せるということですね。つまり、住民としていわば定住外国人を見ていくということです。基本的にはそこからタックスということも発想が出てきているわけですから。そしてその上で私は、やはり罰則規定に関しても住民基本台帳法にあるような秩序罰といいましょうか、つまり過料程度に済ませるということですね。そして、社会の構成員としての住民行政サービスにかかわるさまざまな情報をそこから引き出すために必要なシステム、ですからいわば刑事警察的な性格から住民行政的なあるいは民生的な性格へと法の根本的な性格を変えていくということですね。  そして、私は、住民基本台帳法に準ずるような法体系に定住外国人を移していく場合には二つの点が必要だと思います。その一つは、自分の情報に対するアクセス権を保障するということですね。現在の外国人登録法では原票に記載されていることに関して当該の本人がその記載事項を閲覧することすらできません。これはやはり今御案内のとおり、学校の中でも内申書に関して開示の権利がいろいろ出てきております。ましてや大の大人に対してもそれがないということは私は非常に不自然だと思います。  それから第二に、それと裏表の関係になりますが、そこに記載されている情報に関しては秘密の保護といいましょうか、それをやはり設けていただきたい。現実的には御案内のとおり治安的な性格が強い外国人登録法においては、我々の情報というものは捜査機関がこれは任意に閲覧していろいろな形で情報収集活動できるわけですから、そういう点で人権という問題を考えるならば、情報公開という側面、それからプライバシーのいわば保護という観点、この二つを盛り込みながら住民基本台帳法に準ずるような法体系をつくっていただきたい、それが私の基本的な考え方です。
  91. 新美隆

    参考人(新美隆君) 冒頭に意見の中で少し言い足りなかった点も含めて今の質問にお答えしたいと思うのですが、外国人登録法の出生の過程からいいますと、いろいろなものがこの中に含まれております。外国人登録法の前身である外国人登録令というのはもっといろいろなものが含まれておったわけです。登録令では国外退去の規定もありましたし、それが後に出入国管理令の方に分離したわけですけれども、それでもなおかつ外国人登録法の中には、ある意味では電線に電流をいつも流してびりびり在日を監視するといいますか、非常に刑罰の固まりのような側面があると同時に、名前のとおり登録というもちろん側面もあります。  私は、外国人登録法はやはり外国人登録というものに純化すべきだ、それを純化していけば、今、姜参考人もおっしゃったように、日本人住民登録に相応するようなものになっていかざるを得ないのではないか、外国人登録法という法のもとで実は警察取り締まりの効果というのが期待されているというような、そういうあいまいさというのをこの際きちっと腑分けをしていくことが今の段階では必要ではないだろうか、こういうふうに考えるわけです。  特に、外国人登録法には外国人人権を配慮した条文というものは一条もありません。日本法律の中には、乱用されやすい法律、余りにも強大な権限というのを当局に与える場合には乱用を戒めたり、それの制約をできる限り保障しようということを配慮する条文というのが少なからず見られますけれども、この外登法にはそれがありません。日本に住む外国人人権とは無縁であるという思想ならともかくも、内外人平等の徹底が迫られている中において、これは極めて異例な法律だろう、こういうふうに思うわけです。  先ほど申し上げたように、私たちがこの外国人登録法に含まれているそういう問題点をやはり理解するためには、この歴史的な立法経過をいま一度見直してみて、今改めてこの外国人登録法をつくるとすれば、我々は一体どのような法体系なりシステムをつくるべきかというその視点に立って審議をしていただきたいと思うのです。
  92. ジョン・W・スティーブンス

    参考人(ジョン・W・スティーブンス君) 外登法システムは確かに難しい問題ですけれども、今の外登法は物すごく暗い感じですね。アメリカの移民局もちょっと暗い感じですよ、向こうでも。それから、細かいことよりもやっぱり心の問題ですね。これから、なるべく簡単な、明るいシステムをつくってほしいですね。前向きにですね。
  93. 千葉景子

    ○千葉景子君 今それぞれの御意見をいただきましたが、そういう中で、ちょっと今回の法案にかかわる部分でございますけれども、今回は、一つのシステムとして押捺制度にかわって署名、写真、家族登録、こういうものを使っての登録というものが採用され提起をされたところでございます。これについて御意見を伺わせていただきたいというふうに思います。  一応押捺はせずに済む、こういう制度が取り入れられようとするわけですけれども、とりわけ家族登録というような逆にまた新しい要件というものが加味されてくる、こういうことについて、指紋押捺制度については廃止というそれぞれ御意見を承ったわけですけれども、これらにかわる一つのシステム、これについてはどんなふうにお考えか、姜参考人、新美参考人、それからスティーブンス参考人にも御意見があればお聞かせをいただきたいというふうに思います。
  94. 姜尚中

    参考人(姜尚中君) 先ほど少し私の感想を申し上げたのですけれども、基本的にはこれは非常にグレーゾーンにあるのじゃないかなと思うのですね。  つまり、日本人の場合の住民基本台帳法及び戸籍法に基づく一つの登録管理と、いわばトランジットや非常に在留期間の短い外国人、その中間形態といいましょうか、これは明確なポリシーのもとにそういうものを設けたというよりは、一応やはり指紋という管理制度を、実は恐らく法務省の方はもうほとんど定住外国人に関して指紋を何回もとっていますから、今さら指紋は必要ないと思うのです。ですから、内外の批判からそれに代替する署名、写真そして家族登録というふうになってきたのだと思いますけれども、もちろん、それがやがて住民サービスという方向へと向いていけば私はそれでいいのではないかと思うのですが、基本的にはやはり、住民の一員として定住外国人を受け入れ、そしてタックスに対応する行政側のサービスを与えるために必要な情報を当該の定住外国人から収集しておきたい、こういう発想ではないのじゃないかと思うのですね。やはり治安、あるいは管理的な性格が依然として濃厚ですし、したがって、法務省のような中央官庁にそのような情報を集中的に管理していくという考え方、やはりこれは私は基本的に地方自治体の行政側の住民サービスといいましょうか、そういう視点から、これにかわるもっと住民基本台帳法に基づくようなそういう方向へと向かっていく必要があるのじゃないか。  具体的に言いますと、私は埼玉県のある都市に住んでいたのですけれども、そのときに、市役所のある方から、市内に住んでいると十五歳だったと思いますが、それ以上の御老人に関して週一回マッサージのサービスを市の方からサービスとしてやりたいと。その場合の在住者はどこからピックアップしてきたかというと、結局住民基本台帳ですね。そうすると、定住外国人で七十五歳を過ぎていても住民サービスが受けられないわけです。その人々たちはその市町村に住んでタックスを払い、そして住民として生活をしていたにもかかわらず。  さらに、私の場合で言いますと、例えば私の息子が日本の学校に通う場合に、就学通知というものが普通日本人の場合は来ます。我々の場合には、現在の実態は少し私はわかりませんけれども、以前まではそれが来なかったわけですね。ですから、外国人に関しては、大半は日本の学校に通っているという実態を考えていきますと、いわば義務教育を受けられる権利といいましょうか、あるいは義務教育の義務ということすらもネグられているという現状であります。それはやはり、基本的に定住外国人住民として受け入れ、そして、タックスを払っているがゆえにいわば住民サービスを受けられる、人間としての基本的な権利やそういうものを共有できる主体とは考えていないということだと思うのですね。  ですから、今回の署名、写真あるいは家族登録住民基本台帳法に基づくような考え方により近くなっていくための過渡的な形態であれば、それを何らかの形で明文化していただきたいと思うのです。そうではなくして、ある種緊急避難的にグレーゾーンに一応バイパスを通したというような印象を与えかねない内容な気がしてなりません。
  95. 新美隆

    参考人(新美隆君) 先ほど千葉先生の方で、写真、家族登録、署名が指紋にかわるものという言葉がありました。今回の法案の理由の中でも、この三つのものが指紋にかわり得るのだということが一つの理由になっておるようです。  しかし、これはもう中学生でもわかることで、指紋にかわり得るものがこの世に現時点ではあるはずもないわけであります。それをなぜあえて指紋にかわり得るということを言うのか。もし指紋にかわり得るものとしての写真とか家族登録とか署名というものでなければ、これはこれ自体一つの同一人性確認のそれなりの手段たり得るかもしれません。しかし、これが指紋にかわり得るというその説明が続く限りは、この家族登録も大変厳しいものになっていく可能性というのが常に含まれておるわけであります。もし指紋制度がここで全廃をされて、外国人登録のためにどういう事項が必要であるかというそういう素直な議論がされるならば、それはまた別個の議論が可能であろうと思うのです。  それからもう一つは、刑罰の威嚇までして登録をさせるということの意味が一体どこにあるのか。一九五〇年代では、在日朝鮮人の人たちは日本社会保障システムからは全く排除されておりました。生活保護を受けることが国外退去の理由にもなったぐらいなわけです。そういう時代と、七九年、八〇年以降の内外人平等の中で、在日外国人に対しても基本的には社会保障システムの利益が及ぶようになった現時点では、この登録意味というものは基本的には変わっているわけです。物理的な力で登録させなければならない、そういう力でさせた上で管理をするという発想と、社会システムの中でこの登録というものを考えて、それに行政サービスがついて回っていくというものとでは、全く違うわけです。自治体の現場では、外国人登録日本人住民登録もほとんど同じ機能を果たさざるを得ないわけです。それをなぜ今刑罰を担保にしなければこの登録ができないというふうに考えてしまうのか。少なくとも私は、この三つの事項そのものの性質の問題ではなくて、刑罰制度のもとにあるこの考え方というのは速やかに改める必要があるというふうに考えておるわけです。
  96. 鶴岡洋

    委員長鶴岡洋君) スティーブンスさん、御答弁しますか。
  97. ジョン・W・スティーブンス

    参考人(ジョン・W・スティーブンス君) いや、別にありませんですけれども。
  98. 千葉景子

    ○千葉景子君 ところで、新美先生にお伺いをしたいと思うんですけれども、先ほどから指紋の問題について大変詳細にお伺いをしたところでございます。  ただ、それと同時に、今ちょっと触れられましたけれども、その刑罰の問題、それからいわゆる常時携帯の問題、これについては先ほど時間の関係もあったかと思いますけれども、お触れがほとんどございませんでした。これまでのいろいろな実情を知っていらっしゃるそういう立場も含めて、今回はこの常時携帯、そして刑罰、これについてはほとんど手がまだ触れられていないという状況ですけれども、新美参考人の方からこの問題についてどうお考えがお聞かせいただきたいと思います。
  99. 新美隆

    参考人(新美隆君) 常時携帯のことについての私の意見を申し上げます。  私は、常時携帯はもう速やかに廃止すべきだという考え方です。  冒頭申し上げたように、常時携帯制度というのは指紋押捺制度と車の両輪となって、日本社会に当時の意識では潜入した在旧朝鮮人をあぶり出し選別するというその役割を持っておったわけであります。その役割の中では、朝鮮人らしいと見たらすぐ外登証を見せろということを通じて、警察の日常的な監視の中ですべての外国人が、すべての朝鮮人が必ず外国人登録証明書というものを持っているという状態を常に維持しておく、その上で外国人登録の切りかえを行って、指紋制度の照合を通じてあぶり出していくという制度でありました。  この常時携帯の問題が、三年とか五年に一度の指紋押捺とは違って、日常的な警察の監視にさらされておるために、皆様御存じのように、大変多くの人権侵害の実例というのが在日の方々から報告もされ、その訴えもなされておるわけです。果たして現時点に立って考えてみた場合に、常時携帯を刑罰でもって制度化している実質的な意味というのは一体どこにあるのかということを真剣に一度考えてみる必要があるだろうと思うのです。  この外国人登録をするということとその常時携帯をさせなければならないということとは、これは必ずしも私は論理的には結びついていないと思うのです。常時携帯についての理由の中で常に言われるのは、その場で即時に取り締まれるその効用を特に警察あたりは強調します。しかし、即時に取り締まらなければならない、即時にその同一人性なりを判断しなければならない利益というのは一体何でしょうか。一たん取り逃がしたら取り返しのつかないことにでもなるというふうに考えるのでしょうか。  一九八八年に大阪高裁が外国人登録証明書携帯違反事件で無罪判決を出しました。これは大変私は重要な判決だろうと思います。今ここにその判決文を持っておりますけれども、要するに、在日韓国人の学生が外国人登録証明書をたまたまその場で持ち合わせていなかったために逮捕されて裁判になったという事案であります。しかし、この韓国人学生は運転免許証と大学の学生証を持っておりました。大阪の高等裁判所は、この学生証や運転免許証でその人の同一人性というのは外国人登録証明書とほぼ同じように判断が可能であるから、実質的な意味での違法性はないということで無罪にしたわけであります。  これは、裁判所としては非常に素直な判断だろうと思うのです。つまり、検察官の方の説明というのは、外国人登録証明書についている指紋というのは同一人性の確認のためにある、警察とかそういう治安の問題ではないという主張をしておりますので、その議論を突き詰めていきますと、運転免許証や学生証で代替可能であるという判断というのは割合すんなり出てくるわけであります。  社会関係を一切取り結んでいない外国人ならともかくも、今日本に在留している外国人のほとんど大部分は、いろんな意味日本社会とのかかわりというものを持っていて、その人の持っている証明書のたぐいというのは外登証以外にはあり得ないということは決してもう考えられないわけであります。そうしますと、その同一人性確認を即時に把握するために刑罰を科さなければならないという必要性というのは大変現実には薄れている。それから、もう一面では、いつも冷や冷やびくびくしなければならないというこういう精神的な圧迫感を在日外国人に与えることによって監視をしていくというものは、これはある意味では人権問題でもあります。  その両面から考えますと、常時携帯のごときは、もはや既に選別や洗い直しの作業の時代的な背景がもうなくなっていることを考えましても、これは速やかに廃止すべきである。  この大阪高裁の判決に関しては、検察庁は最高裁判所に上告をしまして、その上告の中で、免許証や学生証が外国人登録証明書にかわり得るなどという判断は、外国人登録証明書の常時携帯制度を実質的に否定するものであるということでかなり厳しい批判をしております。その批判の重要な一つは、なぜ運転免許証外国人登録証明書が代替できないのかというと、運転免許証には指紋がない、外登証には絶対的な手段である指紋がある。ですから、これをかわり得るなどということは間違った判断であるという、そういうところに一つのポイントがあるわけであります。  ところが、今回の法改正案では、少なくとも絶対的判別手段である指紋は永住者、特別永住者の外登証から消えるわけです。消えた外登証と運転免許証とそれほどの質的な違いがありますか。私はその論理というのは、ある意味ではもうドグマに近い論理ではないかというふうに考えておるわけです。  それから、この刑罰制度の問題に関しましても、先ほど申し上げたように、この外国人登録というものを純化していけば、これはある意味では自発的な登録というものが十分期待できる。むしろ自発的な登録をしない場合に、その不利益というのが行政サービス上いろいろ不利益を受けざるを得ないというぐらいのことでむしろ十分じゃないかというふうに極端に言えば思っておるわけです。ですから、刑罰による担保というものは、これは行政目的日本人住民登録と同じであるとすれば、その行政目的を達成するために刑罰制度を借りてきたにすぎないわけですから、その借り物の刑罰の威嚇力というものをこのような形の行政目的に利用する必要というのは私はもはや失われている、こういうふうに考えておるわけです。
  100. ジョン・W・スティーブンス

    参考人(ジョン・W・スティーブンス君) 関連ですけれども、自分の息子、先ほど申しましたように、高校時代に外国人登録証明書を持っていないで警察につかまってしまったんですよ。本当にそのとき、私も大変怒られて、非常にひどい国だなと思いまして帰国しようと思いました。もしそのときアメリカに戻っていたら日本の悪口を言うでしょう、物すごく非難する。その常時携帯制度にしてもそれを廃止すればいいわけだと思います。
  101. 千葉景子

    ○千葉景子君 終わります。
  102. 中野鉄造

    ○中野鉄造君 私がいろいろお尋ねしようかと思っている事項はほぼ今まで質問され尽くしたような感じがありますので、一点、二点お尋ねいたします。  今回のこの法案が可決されるということになりますと、来年の一月からかあるいはどのころになるかわかりませんけれども、多少の期間を置いて施行されるということになります。そうすると、いわゆる経過措置としてその期間どういうことになるだろうか、どういうような処置をとられるだろうかというようなことをよく民団の方々が懸念されているような向きがありますけれども、この点については姜先生はどういうようにあるべきだとお考えなんでしょうか。
  103. 姜尚中

    参考人(姜尚中君) 非常に難しい質問で私が答えられるかどうかわかりませんけれども、一応経過措置としていろいろな情報の不徹底や、それからもう一つは、実はこれは韓国だけに限定してみますと、韓国の内部で国籍法の改正原案が今出ております。これもまた非常に将来的に大きな問題になる一つの要因なんですけれども、そういうものも絡みまして、具体的に生活している定住外国人にとって、多分その経過措置の周知徹底というのがどこまで行われるか、そのためにどんな方法を使うのか、私はむしろ法務当局あるいは政府当局に御判断を聞きたいのです。  ただ、どうあるべきかという観点からいいますと、私はまず、先ほど千葉先生にも少し申し上げたとおり、写真と、それからさらには家族登録、そしてサインということであれば、これはやはり住民基本台帳法に準ずるようなものへの移行措置であるということをまずはっきりとうたって、そのために必要な情報としてそのような移行措置をとるのだということですね。したがって、従来のような外国人登録法に基づくこれまでの管理のあり方について、私は何らかの形でまず地方自治体の窓口の現場にやはり実務面からの実態を収集していただきたいと思います。そして、そこから初めて移行措置としてどんなものが必要なのか、やはり従来のように、現場の窓口を無視して上意下達的に一方的に改正案あるいは法律を上から下へと持っていくような発想ではなくして。  それから、私が一番懸念しているのは、果たして当該の定住外国人にこのような改正の経過措置というものがどこまで周知徹底されるのか、ちょっと私はよくわかりませんので、その点に関してむしろ逆に法務当局ではどういうことを考えているのか、具体的にお聞きしたいと思います。
  104. 中野鉄造

    ○中野鉄造君 この指紋押捺は特別永住者については廃止されることになりましたけれども、問題は、今まで押捺された指紋の登録原票及びその指紋原紙の処置について、政府は、廃棄する方向で検討したいというような答弁が、この間の当委員会の中でもあっておりますけれども、この点については、姜先生とういうふうにお考えでしょうか。
  105. 姜尚中

    参考人(姜尚中君) 廃棄処分というときには、私は基本的にはその指紋というものは一応、これは考え方が違うかもしれませんけれども、身体の一部、しかも先ほどの新美先生がおっしゃったとおり、絶対的な同一人性確認のための手段として指紋がとられたわけですけれども、その指紋とそれから原票に書かれている記載事項等々に関して、今まで当該の人に開示の権利がありませんでしたから、基本的には私は該当者に返還すべきだと思います。  その廃棄処分にするという場合に、一体どのような処置として、実際にそれがどういうふうに廃棄されたのか、それは正直申し上げて当該者にはほとんどわからないわけですから、それをすべてコンピューター化して、もっと合理的に管理できるようなシステムの中に組み込んで、そして廃棄したということも、これもまた廃棄と言えるかもしれませんけれども、一応私はそこに記載されている事項をすべて、この文書をすべて当該の人にいわば返却すべきだと思います、廃棄と言うならば。それが私は必要なのではないかと思います。
  106. 中野鉄造

    ○中野鉄造君 最後に、三人の参考人方々にお尋ねいたします。  現在、日本の国民の中には素朴な疑問として、日本人が外国に居住する、あるいは短期旅行をする。その際、相手国では指紋押捺をさせられたり、あるいは外国人としての登録証の常時携帯を義務づけられておる。それなのに、日本に対してはその廃止を求め、あるいは常時携帯の廃止を求めている。これはなぜだろうかというような、そういう声をよく聞くわけですが、すなわち、相手にそれを求めるならば、自分たちの国でもまずそれを改めるべきじゃないかというような、そういう率直な気持ちだろうと思うんですが、この点について、簡単に参考人方々からお願いいたします。
  107. 姜尚中

    参考人(姜尚中君) 私は、先ほど野村先生の御質問に関して、韓国では、つまり悪法が平等に行われているというふうにお話しいたしました。  恐らく、それぞれの国ごとにさまざまな事情によって異なったシステムをとっているとは思います。その中で、少なくとも先進国と呼ばれている国で、グリーーンカードを取得する場合にアメリカにおいては指紋があります。しかし、アメリカの場合には日本と根本的に違うのは、戸籍がありません。つまり、血統主義ではないということですね。ですから、二世がアメリカで生まれた場合には、当然アメリカ人としてみなされている。  したがって、私は日本人が海外に在留して、その場合に指紋をとられたにもかかわらず、じゃ日本に対して、外国人が指紋をなくしてくれというのは不平等ではないかという素朴な疑問があるという御指摘があったわけですけれども、その場合でも、よくよく見ていきますと、つまり国内に居住している内外人平等に悪法を適用している場合もありますし、それからアメリカのように指紋をグリーンカード取得の場合に強要する場合でも、根本的に戸籍という、つまり血統主義的な考え方に立たない、そのような法システムになっています。ですから、そのあたりの具体的なものを見ていけば、日本の場合が先進国の中で非常にやはりアブノーマルであるということは、私は比較的に言えるのじゃないかと思います。  さらに、私はこれは個人的な考え方ですけれども、韓国指紋押捺制度についても反対の意思を持っております、個人的には。少なくとも我々が日本国家に対して指紋の廃棄を要求する以上は、私の国籍が属している韓国に対しても我々は将来的に指紋制度の撤廃ということを、少なくともそのような状況が早く進むような状態を我々望んでいるわけで、現在の分断国家の現状があるという説明ではもう説明がつかないような現状が朝鮮半島で今進みつつありますから、私は普遍的な人権内外人平等というものは国々の実情によって違うのだという、そういうようなエクスキューズの議論では私自身の論拠が非常に脆弱になりますので、普遍的に日本国家に対しても、そして私の国籍が属している韓国に対しても指紋制度は撤廃されるべきである。そういう観点から、私は日本国家に対してそのような申し入れを述べているわけです。そのように御理解していただきたいと思います。
  108. 新美隆

    参考人(新美隆君) 私の意見は、ある分野においては国家間レベルでの相互主義というのが働く場合もあると思うのです。例えば、ビザの免除についての条約などは、場合によると、状況が変わったためにある国とのビザ免条約は改定をしてビザを義務づけるということはそれなりの判断でしょう。しかし、人権の問題に深くかかわっている問題については、このような相互主義のシステムというものは大変大きな問題をはらむということが言えると思うのです。  もう一つ、先ほどの姜参考人意見と同じですけれども、結局私たちが一番自分の人権というものが侵害されたというふうに感じるのはどういうときかというのを一遍考えてみますと、同じように扱われずに自分だけ別に扱われる、この平等感覚というものが害されたときに人間は一番傷つくわけです。日本社会においてこの内外人平等というものが果たす役割というのは、これはやはり社会秩序、お互いを敵と味方として見ずに、一緒に生きる者として見ていくというその物の考え方においては、この内外人平等というのはある意味では必要条件だろうと思うのです。  その観点からいいますと、確かに韓国の場合の、先ほどおっしゃっている悪平等というような議論もありますけれども、日本においては日本人からはそういう絶対手段の指紋というものをとってないわけですから、その目的というのは同じ居住者、日本に住む、日本で生活する一人の人間としての登録とかそういうもののサービスを受ける地位とかいうものについては同じですから、それを全く別の制度のもとに置くというのはそういう平等感というものを害する、平等に反するということが言えるかと思います。
  109. ジョン・W・スティーブンス

    参考人(ジョン・W・スティーブンス君) もし日本が先に指紋押捺と常時携帯制度を廃止すれば、国際社会の中で物すごく評判が高くなると思います。積極的にやればいいと思います。
  110. 中野鉄造

    ○中野鉄造君 終わります。
  111. 橋本敦

    ○橋本敦君 先ほどのお話の中にもそれぞれございましたけれども、今日のこの法改正ということで、今、日本に何が問われているかという大きな観点から考えますと、これからの国際社会の中で人権を擁護する民主的な国家としての我が国の基本的なあり方とそのポリシーにもかかわる重大な課題が問われているという意味で、三人の参考人の皆さん方の御意見に私も全くその点は同感であります。にもかかわらず、指紋制度が一部温存されるという今日の状態になっておるというところにさらに問題がやっぱり残っていくわけであります。  私としては、指紋制度はこの機会に全廃をするのが当然だという考えを持っているのでありますけれども、その一つの問題としては、新美参考人も御指摘になったように、外国人登録令を含む指紋押捺制度ができてきたその立法事情となっていた背景的事実が、今日は根本的に見直しを必要とする状況に、過去のものになっているということ、それから今日の新しい国際社会における民主主義の発展という流れの問題であること、それからもう一つは、法技術的に言って指紋制度にかわる同一人性確認の方法として写真その他によって技術的にも可能であるということが考えられるということ、こういったことが総合的に言えると思うわけですね。  そういう中で今なぜ政府はこれを残したかということについて、一つは指紋押捺制度にかわるそれほどの確定的な同一人性確認の方法はないと言いながらこの三点セットを持ち出してきて、この三点セットでも十分の同一人性確認はできないとこう言いながら、それを補充するものとして永住者の皆さんについての定住性、定着性ということを補強的に、補充的にそう言ってくるわけです。そう言ってくる関係で、今度は永住者と認められない外国の皆さんに対しては、その定着性、永住性が足らないからということで指紋押捺制度を残して、外国人の皆さんの間で新たな差別を生むという悪循環を来している、こういうことになってくる。  そういう意味で、私は、今度の改正法というのは全面的な将来に向かっての理念に欠けるということと同時に、中途半端な温存ということが法技術的にも矛盾を生み出しているという問題をぬぐい切れないという弱点を持っているように見ているんですが、その点について新美参考人及び姜先生の御意見があれば伺わせていただきたいと思います。
  112. 新美隆

    参考人(新美隆君) つまり、指紋の制度現実的にどのような役割を果たすのか、本当に指紋がなければ外国人登録法目的なり外国人登録実務の目的というのが達せられないのかどうか、ここをきちっと見定める必要があると思うのです。  私の理解では、以前も現在も、外国人登録法制度、この指紋が外国人登録事務の中で有効にかつ制度的に利用されなければこの目的が達せられないような事態というのは一度もなかったと思うわけです。そうすると、ある意味では制度としては残っているけれども使いようがない、それにかわるものかどうかという議論というのは、大変これは虚構の上というか、うその上に議論をしているような感じがしてならないわけであります。むしろ、指紋制度の歴史からいうと、指紋制度というものの考え方が今問われているのではないでしょうか。  ちょっと先ほども一言口を挟みましたけれども、指紋によって管理するというのは、これは人権とか自由とかという社会秩序を前提にした物の見方ではなくて、いわば軍事的な物の見方なんですね。いざというときに敵と味方というものを峻別する、場合によれば物理的に隔離ができるようにするというこの考え方だろうと思うのです。  在日の人たちの個々人を見れば、きょうの参考人三人のうちお二方は外国人ですけれども、ここに来た人が姜参考人か、ここに来た人がスティーブンス参考人かどうかについては、これは何も指紋をとらなければわからないわけではない。指紋押捺拒否の裁判の中で、ある押捺拒否者が、検察官は指紋指紋ということを繰り返して言うけれども、ここの法廷に立っている自分が自分であるということは指紋とは一切関係がないのじゃないかということを言いました。つまり、個人個人に着目して見れば、指紋というのは同一人性確認とは関係ないわけです。そのような絶対的手段が持ち出される場合というのは、例えば犯罪を犯した刑事手続の場合か、または有事とか非常時と言われる場合に国に敵対する可能性のある外国人というものを分離するというその二つぐらいしかないのではないでしょうか。つまり、指紋によって我々が問われているものは、そういう絶対的手段を人の管理に結びつけなければ何かこうやまない、不安てしょうがないというこの考え方が今まさに問われていると思うのです。  そういう物の見方で、個々の日本人が、いや外国人についてはそういうふうに見ていませんと言われても、日本制度としてのシステム自体がそういう外国人観というものを前提にして成り立っている以上は、これは国際交流なり国際貢献というものはある意味ではうそになるというふうに私は感じているわけです。
  113. 姜尚中

    参考人(姜尚中君) 私も新美先生とまるきり同じで、先ほど私は日本外国人登録法の母体というか参考になったものがアメリカの戦時立法としてつくられた外国人登録法だというふうに申しましたけれども、基本的にはそれは軍事的な色彩の強い、それはやはり総力戦あるいは統制経済下において敵を峻別し、国内においては防諜的な役割を果たすような、ここに御出席先生方には戦争中どのような状況であったかというのは大体体験をもって知っていらっしゃる先生方が多いと思いますけれども、要するに外国人というものは潜在的ないわば撹乱分子といいましょうか、いわば治安によって取り締まらなければならないというそういう発想が、アメリカにおいてはいわば共産主義者といいましょうか、そういう人々をいわば取り締まるために、日本においては総力戦下の軍事目的に即して、いわば治安、そして日本人の側の国家的な統合手段としてそのような制度というものが私は有効に働く余地があったのだと思います。しかも、戦後において冷戦というそのような思考様式から脱却できずに、そのような制度がいわば形を変えて温存されてきた。それが私は、この指紋制度を初めとする外国人登録法基本的な沿革ではなかったかと思います。  今、冷戦が終えんし、そして世界の秩序というものは大きく変わろうとしています。これは私は、化石的な、あるいはそれこそシーラカンス的なある種の法制度として歴史によって葬り去られる可能性もあるのではないかと思っております。私は、それに固執するということが実は長い目で見て日本のいわゆる国益というものに果たして貢献するものなのかどうか、むしろ国益に反するのではないかと思っています。  今内外から、日本のさまざまなシステムのいわば改変といいましょうか、修正を迫られている現状が私はあると思うのです。つまり、経済からさらには文化から、そしてさらには人の問題へと、ある種の構造協議というものが進んでいくでしょう。そういう中で、頑としてその屋塁だけは守りたいという発想は、私はやはり歴史の趨勢の中で結局最終的には葬り去られるというか、何らかの抜本的な改変を迫られていくのではないかと思っています。  私は、先ほど熊本で生まれたと言いました。皆さんに単純な比喩で恐縮ですけれども、あのチッソ水俣の水俣病です。もし、あの公害において、当該の人々がいわば公害の甚大な犠牲というものをいち早く察知し、あの企業が何らかの形で早いうちに手を打っていたとしたならば、あるいは行政当局がそれに対して何らかの早い措置をとっていたとしたならば、あのような膨大な人的犠牲はなかったでしょうし、結果としてあのチッソ水俣という企業は、コストの上でも、そして社会的なあるいは世界史に残るような非常に公害のいわば本人として半永久的に歴史に刻まれることはなかったでしょう。  私は、この外国人登録法を初めとする管理治安立法というものは、そのように経済的なコストの面でもあるいは日本の名誉という点でも、結局はさまざまな小手先の議論でそれを糊塗しようとする限りは、そこで払わなければならないコストというものは今以上に大きいということを皆様方に訴えかけておきたいわけです。したがって、それに対して積極的なイニシアチブをとれるのは私は政治家の諸先生方と思いますし、どうか何らかの形での改変、抜本的な改正を要請してやまない次第です。
  114. 萩野浩基

    ○萩野浩基君 三人の先生方のそれぞれの体験に基づいた示唆は、大変説得力があり勉強になりました。  この外登法というのは衆議院を全会一致で通過してまいったわけでございます。しかし、本参議院の法務委員会としましては、私もそのメンバーとして、やはり良識の府としての参議院の機能を発揮していかなければならないんではないか。そういう意味におきまして大変ありがとうございました。  同僚の委員方々の質問で私の言いたいこともほとんど言い尽くされたように思いますけれども、今回のこの改正の本来の趣旨というようなものを大きく見ましてもう一度確認してみる必要があるんではないか。すなわち、外国人立場というか、もっと相手の立場に立って物を考えていく、また、人の痛みを解するというか、そういう意味での外国人登録制度の明確化というようなものが大切ではないかということを考えさせられました。  それから、罰則、刑罰問題、証明書の常時携帯等につきましても例を挙げてお話をいただきました。私も免許証を忘れて近くに運転をして出たことが数度ございます。途中で車をほっぽらかして帰るわけにはいかない、これも一つ罪を犯しているのかもわかりません。そういうようないろいろなことを考えさせられました。  ディテールにわたりましては、先ほど来姜先生並びに新美先生が同僚の委員からの質問等において触れられておりましたので、私は申し上げません。前回の委員会で、私質問の途中で終わっているわけですけれども、果たして本当に指紋押捺の必要性がどこまであるのか、この根拠については私はまだ疑問を持っておる一人でございます。  特に、今日言われておりますように、日本国際政治関係といいますか、また人権とか経済、地球環境、そういう中での新たな秩序構築にやはりリーダーシップを発揮していく、そういう役割を担わなければならないというようなところに置かれております。特にマルチ・ナショナル・コーポレーションといいますか、多国籍企業といいますか、こういうのがどんどん入ってきているわけです。そういう中では優秀なるビジネスマン、エンジニア、それから学者、また宗教者等、こういう人たちが三カ月以上そしてまた五年未満、こういう中で指紋押捺というのが日本にとってこれからの国際社会に向けて果たしてその必要性がどこまであるのか、このメリット、デメリット。国際社会に向けての日本のこれからのあるべき姿を志向しなければならないときに、今回のこの法改正は半歩は前進であるという意見もありますけれども、私はその辺について疑問を持っておるわけでございます。  衆議院を附帯決議をつけて通過したわけですが、きょうも午前中の参考人先生方にも質問したのでございますが、「この法律の施行後五年を経た後の速やかな時期までに適切な措置を講ずること」ということが出ておるんです。これにおきましては、非常に明確さを欠いておる。先ほど来申し上げましたように、特に日本のこれからのあるべき姿、先ほど参考人先生方がおっしゃっておられたように、オブリゲーションとしてタックスは課せられておる、だけど、そこには権利というものが奪われている。というのは、これは憲法第十三条、第十四条から考えても、常識的な一般社会通念としても、私はやはりこれは疑問が残るのではないか、そのように考えております。それからまた、御案内のとおりに、日本国際人権規約のB規約二条並びに二十六条、これは批准しているわけでございます。  そういう点から考えても、これからこの参議院が良識の府としてどのような結論を出していくか、これは我々が決めるべきでありますけれども、質問の時間、私は八分しかございませんのですべてまとめて言ってしまいましたが、日本のこれからのあるべき姿ということを志向しながら、この法改正はどうあるべきか。私は、もちろん多分今回出される法務省の原案では指紋押捺は全廃の方向で出るんだと、そのように考えておりましたけれども、残念ながらこういうような速やかにその措置を講ずるというような形なので、特にこの辺に絞ってそれぞれの参考人先生方の御意見を聞きたいと思います。よろしくお願いいたします。
  115. 姜尚中

    参考人(姜尚中君) 少し茫漠としたお答えになるかもしれませんけれども、私は常々今日本は大きな曲がり角にきていることは間違いないと思っています。  これはやはり私の考え方では、どうも日本の戦後をつくってきたさまざまな制度、それは大体三十年代に原形ができ上がって、それが四十五年以降形を変えて、しかも非常にうまくソフトランディングして、そして今日のようなまれに見る経済成長を遂げた国になったのではないかなと思います。しかし、どうもうまくいっていたさまざまな機構や制度や仕組みというものがきしみ出して、逆にうまくいっているものだと考えていたものが実は桎梏になりつつあるというか、つまりこれから先の新しい時代に対応できなくなってきている。これは経済や政治や教育や文化やありとあらゆる面で私は言えるのじゃないかと思います。そのときにさまざまなそのようなある種の制度疲労や改変をもっとトータルに総括して、そしてあるべき姿というものがどうも打ち出せないでいる。むしろ縦割り行政の中で、非常にいわば区切られた範囲の中で重箱の隅をつついていろいろな改正事項をやっているような気がしてなりません。それは恐らく政治というものがうまく働いていないということの一つのあらわれではないかと思います。そういう点ではより高いレベルに立って全体を総括し、そして日本のあるべき姿というものを示していけるような、そのようなオリエンテーションの中で初めてこうした外登法を初めとする外国人に対する法律行政措置というものも必然的にそこから演繹されて出てくるのではないかと私は思います、  そういう点で、私は日本の中のアジア、アジアの中の日本ということを常々申し上げておりました。つまり、日本の中にあるアジア、在日韓国朝鮮人や中国人、そしてさまざまな海外から来る人々、そしてさらにはアジアの中で日本というものがどのようにあるべきなのか。恐らく、それは日本だけにとどまらず、アジア的なレベルで非常にこれから先の将来にとって大きな意味を持つと私は思います。  したがって、今回の外国人登録法というものはなるほど国家主権の管轄事項であり、国内法の問題、しかしその性格は明らかに国際的な意味を持っております。やはり私は冒頭申し上げましたとおり、外国人登録法の中にある治安管理という性格が、しかもその沿革から見て日本の近隣諸国との関係が非常に濃密であった国々との、そのいわば在留外国人をターゲットにしているという面から見ても、日本がアジアとどんな関係を結ぼうとしているのか。その集約がこの外国人登録法の中にもあらわれている、あるいは指紋制度を何とかして保持したいという考え方の中にも私はあらわれていると思います。それは将来的に見て、アジア諸国と日本との友好関係という面から見ても、私はデメリットだと思うのです。それがある限り、依然として日本の安全保障というものに関しても不安定要因が出てくるでしょう。」イソップ童話ではありませんけれども、北風ではなくしてやはり暖かい太陽といいましょうか、そういう点で日本は今数十年前とは違って最も有利な立場にあります。いろいろな外交交渉において利害、打算はあるとは思いますけれども、交渉において私はまず有利な立場にある人間の方が譲歩する。それは歴史的な経緯から見てもそうだと思います。ましてや、先ほど新美先生がおっしゃったとおり、人権という観点からすればもっとその普遍的な性格が要求されているのではないでしょうか。  私は、日本の中のアジアに対して日本がどのような対応をするかということを実はアジアの国々はいわばかたずをのんで見守っていると思います。そして、アジアの国々が日本の中でどのような処遇を受けたのかということは、日本がアジアをどう見ているかということの反映でありますし、したがって日本がアジアにおいていわば平和的な安全保障を考え、そして相互依存の経済秩序を構築し、そして歴史的に清算されなければならない負の遺産に関しても、一九九五年つまり戦後半世紀ということを一つのエポックメーキングにしてそのようなすべてのしがらみを一掃し、新しい二十一世紀に向けて大きなビジョンを日本政府やあるいは国権の最高機関である国会において出していただきたい。そのことが長い目で見て日本の利益にも私はかなっていると思うのです。そういうことを一つ申し上げたいと思います。
  116. 新美隆

    参考人(新美隆君) 私は、少し具体的な点に戻ってお答えしたいと思うのですが、一年から三年の期間の在留外国人に対して今時点で指紋制度を今後も維持していくということに具体的にどのようなメリットがあるのか、これをいま一度真剣に審議をしていただきたいと思うのです。  八〇年代の外国人登録法についての抜本的な改正を求めるいろんな人々の運動の中で、もう指紋制度についても、外国人登録証明書携帯問題についても、その基礎が大きく揺らいでいたわけであります。それを今回、永住者、特別永住者については適用除外をしたということでありますけれども(それならば積極的に、今のその残された指紋制度対象になる人たちについて、実質的なメリットというのは一体何なのかということについてこれは余り無関心であってはいけない、こういうふうに思うわけであります。  先ほどの御質問の中に運転免許証の話が一つ出ましたが、実は、この運転免許証携帯義務について、外国人登録証明書の常時携帯義務と非常に通ずるものがあるという意見があります。先ほど例に出しました大阪高裁の判決に対する検察庁の上告の中で、運転免許証の問題が延々と説かれております。確かに法制度的に、また法技術的には似通った面があるでしょう。しかし、一方は車の運転というのはそれ自体危険なものなんです。ですから、運転行為の現場で押さえなければこれは道交法の目的や人命の尊重という目的は達せられません。取り逃がしたら終わりだという面は運転免許証にはあります。反面翻って、外国人という存在は運転のように危険な行為でしょうか。危険な状態でしょうか。五〇年代とは違って、現場で取り逃がしたら在日外国人はそれでもう見失ってしまうような存在なんでしょうか。非常に在日朝鮮人は当時は流動性が高いというふうに言われた。しょっちゅう転々としている。こういう人たちを把握するためには現場で即時取り締まらなければならないというその感覚というのは、ある意味ではわかるような気もします。しかし今、家に帰って学生証を持ってくるとか、家に帰って外登証を持ってくるということではなぜだめなんでしょうか。  私は、この常時携帯の問題については、これは率直な議論というものをすべきだと思うのです。警察がどうしてもこの常時携帯が見逃せないならば、警察庁の法案として私は出して率直に議論をした方がいいと思うのです。法務省の外国人登録事務との関係で常時携帯の問題を議論するには余りにも常時携帯の問題というのは問題が大き過ぎるというふうに考えておるわけです。  先ほどの一年−三年の指紋を残すという問題に関連してですけれども、衆議院の方でも五年後に見直しという附帯決議がなされたようです。しかし、私はむしろ五年間一遍指紋制度をやめてもらいたい。何がここで問題として残るのか。どうしても指紋がなければやっていけないかどうかというのを五年間一遍やめてみた上で、五年後に指紋制度を維持するかどうかを決めたらいいじゃないですか。どうもその既成事実によりかかっていると、何かわからぬけれどもそれが失われると不安てしょうがない、そういう発想でこの人権にかかわる指紋制度の存続というのを安易に決めるということは間違いだと、私はそういうふうに考えておるわけです。
  117. ジョン・W・スティーブンス

    参考人(ジョン・W・スティーブンス君) 私は、日本人外国人という言葉は嫌いですよ。これから日本人と滞在する外国人は協力しないとだめになります。友達にならないと、仲間にならないとだめです。一般的に、政府が外圧によって反応します、それから反対運動に対して動きますけれども、先ほどおっしゃったように、この問題について日本の方が先にこの制度を廃止したら、物すごく評判高くなると思います、どこへ行っても。気が弱くなるとやっぱりジャパン・バッシングになるんですよ。そう思いませんか。
  118. 萩野浩基

    ○萩野浩基君 ザッツ・ライト。
  119. 紀平悌子

    ○紀平悌子君 もう二時間余りになりますので、大変参考人の皆様方お疲れになったと思いますけれども、私で最後でございますので、どうぞよろしくお願いをいたします。  私は、この外登法の審議に当たりまして、世界に開かれた日本の外登法でなければならないという立場で、基本的には人権尊重ということに立って審議をしていきたいと願っておる者の一人でございます。  先ほどからいろいろなお話は出尽くしていると思われますので、少し角度を変えまして、御家族に関する話というか、それを伺いたいと思います。家族事項を登録させるということについての御意見でございますが、時間はいただいているのは私は八分なんです。お返事の方はなるべく簡単に、しかもインパクトが強いようにお答えいただきたいと思います。一体、家族事項を登録させるということはどういう有効性があると思われますか。  次は、既に指紋を押している方々、その方々に新たに家族事項を登録させること、その上に新たに家族事項を登録させることになりますが、どのような負担を覚えていらっしゃるでしょうか、感じていらっしゃるでしょうか。それから、これはジョン・スティーブンスさんと姜さんでございますが、御家族の御感想がもしあれば、お差し支えなければ加えてお聞かせいただきたいと思います、この件につきまして。  それから、新美参考人にお伺いしたいことは、いろいろ現実の現場をよく知っていらっしゃると思います。そのお立場からこの常時携帯制度、今もお述べになりましたけれども、これは心理的に非常に圧迫感があるということは自分の身にかえて考えましてもそうだと思います。もし持っていなかったらとか、持って出たはずだけれども忘れてきたかもしれないとか、持っていながら家へ走り帰るようなこともあって、いろんなことに遅刻をしたり、事が成らなかったりするようなことも、いろんなことが生じるんじゃないか。  午前中の参考人のお話で、お相撲さんだったと思いますけれども、外国人のお相撲さんがどこへそれをしまっておくんだろうかというふうな話もございました。実際の問題として、これは実行できることなんでしょうか。  だから、一〇〇%実行はできないと思いますけれども、その辺のところで、どんな状況が具体的にこの法案が通った暁に生じるんだろうかという点を聞かせていただいて、質問を終えたいというふうに思っております。  順次、どちらからでも結構でございますのでお願いいたします。
  120. 姜尚中

    参考人(姜尚中君) 紀平先生に、最初の質問で三点ございました。そして、一、二点は二つとも密接不可分な関係にございますので、私の方からお答えさせていただきます。  まず一つは、指紋という絶対的な同一人性確認の手段、それの代替措置として家族事項の記載、そして写真、署名ということが出てきたわけですね。既に指紋を押している人になおかつその家族事項を記載させるということ、これはある種やはり二重の負担を課すことになるのではないか。  しかも、家族事項の有効性に関して、御案内のとおり、私は住民サービスという観点から見れば、私たちは今まで外国人登録証には個人情報しか記載されていませんでした。したがって、そういう点では、例えば息子が就学の通知をいただくとか、あるいは行政サービスをいただくという点でのインフォメーションとしては有効でしょう。  しかし、その根本的な発想は依然として指紋の代替措置という形になっているわけですから、基本的には治安的な性格を持った上での家族事項の記載ということにならざるを得ない。それは先ほど新美先生からもお話があったとおり、非常にやはりシビアなものにならざるを得ないのではないか。  私は、もし家族事項の記載の有効性があるとするならば、それはあくまでも住民という立場で、住民サービスに必要不可欠な情報を収集するという観点からであれば、そこに何らかの有効性はあるかもしれません。その場合には、私は今回の代替措置に関してやはり当該の人が自分についての情報を自由にアクセスできる権利と、そして情報の保護ということを附帯事項として入れていただきたい。  それから、指紋を一度押していながらなおかつ家族事項に関して管理事項を強要される、これは私は非常に問題が多いと思います。先ほど中野先生からお話もあったと思いますけれども、指紋原票その他原票に関してまず当該の人に返還をするということですね。その上に立って、この家族事項に関してもやはり情報に対する自由なアクセスと、そして情報の保護ということを何らかの形で入れておかないと、非常に問題があるのではないか。  それから最後に、家族について私のプライベートな問題になるかもしれませんが、これは必ずしも私に特異な例ではなくして、非常に一般的な事例としてお考えになっていただきたいわけですけれども、私は日本人と結婚しております。その場合に、長男はいわゆる父母両系主義の以前に生まれましたから国籍は当然のことながら一つ韓国国籍です。しかしながら、長女の場合には父母両系主義の後に生まれましたので二重国籍者になっております。そういう点で名字が当然違っているわけですね。二人が同じ学校に通えば、長男は私の姓であり、長女は私のワイフの、家内の姓になるという現状です。  そのようなやはり今までのように一律では縄がかけられないような非常に複雑な混交した状況というものは、これからもっと出てくるのではないでしょうか。したがって、それを白か黒かで一律的に法律によって裁けない、非常に人間の生活の実態というものがまず事実関係としてあるわけですから、できる限り法律もその実態に即して法律をつくり、そして運用していただきたいと思います。
  121. 新美隆

    参考人(新美隆君) 指紋の制度というのは五五年からですから、現在まで三十七年に及んでおるわけです。その間、外国人の同一人性の確認というのは、現場である自治体ではどういうふうに行われてきたかといいますと、実際は指紋というものは全く無縁なもので、写真で行われてきた、ないしは申請書に書いてある事項と原票を比較して、それで十分足りてきて、それで何か問題が起こったということはないわけです。だからこそ自治体の三千数百の自治体の窓口の人に指紋照合などを教え込む必要は過去数十年来なかったわけです。  今回、指紋は実際に使われていなかったけれども指紋制度がある、その指紋制度を一部の外国人には適用除外するために、指紋にかわり得るものとして、写真だけではどうにも格好がつきにくいので家族登録だとか署名とかというものを持ち出してきたというのが実際のところなんではないでしょうか。  戦前は、外国人というものはすべて警察庁、内務省の取り締まりの対象でありました。それを戦後の法制度の中では、外国人登録は警察ではなくて自治体に任じたわけです。この自治体においてさまざまな行政サービスというのが戦後発達してきました。  そういう意味では、もし家族登録というものについて法制度化するならば、どのような家族登録事項が自治体サービスの中で必要なのかについて、自治体の意見を十分聞くべきだろうと思うのです。使いようのないようなものをただ、ただ管理という目的のために残すということはどうもおかしいというふうに私は考えるわけです。  それから、私の感想は余りこの当事者でありませんので、最後の常時携帯の問題について申し上げますが、この常時携帯の問題は、先ほども申し上げましたけれども、その実質的な必要性というのはもう失われております。ただ、いたずらにこの過失を罰するというのは、これは大変実は厳しいものがあります。そういう意味で、私はこの常時携帯制度を今すぐどうしても撤廃するのが国会の意思としては無理だというふうにおっしゃるならば、少なくとも乱用乱用というふうにこの間指摘されている現場の取り締まりについて、何らかのやはり手だてをとるべきだと、もうその時期に来ているというふうに思うわけです。  常時携帯の問題というのは、ある外国人がどういう外国人がわけわからなくなってしまうということを避けるためのものです。そうしますと、現場で逮捕の口実にされるようなことは、これはまかり間違ってもあってはならないと思うわけです。  昨年の法改正で、刑事訴訟法の中で、幸いなことに、現行犯逮捕と令状逮捕についての限界が三十万円に引き上げられました。刑事訴訟法の二百十七条と百九十九条です。ただ、外国人登録法は当分の間二十万円ということで、この二十万円についても現行犯逮捕の要件には合致しておりますけれども、もし乱用をとりあえず防止するというならば、現行犯逮捕ができないようにしてもらいたい。どうしてもそれで本人の同一性がわからなければ罰則適用して起訴すればいいじゃないですか。現場での現行犯逮捕さえできなければ、この乱用の問題というのは相当大きく前進すると思います。現行犯逮捕ができなければ、この実質的な即時取り締まりの効用というのは大きく薄れるでしょう。そうして、この常時携帯制度の持っているメリットとデメリットというものをもう一度しっかりと考え直せるチャンスが出てくるのではないでしょうか。それを一つ提案したいと思います。  在日外国人をめぐるこの制度というのは、先ほど申し上げましたように、実質的には戦後は自治体が全部なしてきました。自治体に外国人登録を初めとする種々のサービスを任せたということの選択が間違っていたとは思いません。ある意味ではこれは正しい選択であったわけです。それを間違っていたかのように、むしろ自治体のレベルからどんどん入国管理局の方に管理を強めていくことによってもう少ししっかり管理しようという発想というのは、これは私はやはり間違っているのじゃないかと思います。
  122. ジョン・W・スティーブンス

    参考人(ジョン・W・スティーブンス君) 上の子供は三人とも十六歳になったとき指紋を押しましたけれども、その指紋押捺の理由が全く理解できなくて、今でも友達に外国人登録証明書を見せないです、恥ずかしいから。そういうことでした。
  123. 紀平悌子

    ○紀平悌子君 ありがとうございました。  終わります。
  124. 鶴岡洋

    委員長鶴岡洋君) 以上をもちまして参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人方々に一言御礼のごあいさつを申し上げます。  本日は、長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきましてまことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。  本日はこれにて散会いたします。     午後三時三十二分散会      —————・—————