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参考人(
竹内啓君) おはようございます。ただいま御紹介いただきました
竹内でございます。
きょうはこのような席にお呼びいただきまして、少し
お話をする
機会を与えていただきましたことを大変光栄に存じております。ありがとうございました。
最初に、今回の
法律の
改正あるいは
新法の
制定、それはいずれにしましても
獣医業と
大変関係があるわけでございますが、この
獣医業とそれから私
自身との絡み合うところをごく簡単にちょっと
お話をしたいと思います。
私の本業は
大学で
獣医学を教えておりますが、それも
臨床獣医学、もっと細かく申しますと
臨床獣医学がいろいろ分かれておりまして、その中の
獣医外科学と申します
外科の方をやっておりますが、実際の
臨床では余り細かく分けるわけにもいきませんのでいろいろな
病気を診ております。あるいは
大学の
家畜病院長として
臨床教育全般にかかわり合っておりますので、どちらかと申しますと
臨床獣医学にかかわり合っている
人間と思っていただいて結構かと存じます。
また、農林水産省に関しましては、本省でやっております
獣医師免許審議会のお
手伝いをして
獣医師の
国家試験を実施するようなことのお
手伝いをしております。それから、またさらに、
日本獣医師会におきましては
学術担当の
理事といたしまして、卒業した後の
獣医師の卒後
教育あるいは
学術活動のお
手伝いをしております。
したがいまして、このような日ごろの
活動を通じまして、私
自身も私
どもの業界をよくするために、あるいはさらに
社会に貢献するためにいろいろな
問題点を感じておりますが、きょうはその中で今回の法の
改正あるいは
新法の
制定と絡み合うような
部分を
幾つか取り上げて私見を述べさせていただきたいと思います。
まず、今回の
法改正の中で
獣医師の非常に広い
範囲の
活動が
獣医師の
任務として明記されているということについて
一言触れさせていただきたいと思います。
恐らく
獣医業のそもそもの起こりというのは、
家畜の
病気を
診療、治療するということだったと思います。しかしながら、それにはいろいろな
学問や
知識、
技術が必要でございます。
病気のことだけではなくて、
病気の起こり方に関して、
家畜の体の解剖であるとか、あるいは生理であるとか、生化学であるとか、遺伝であるとか、そういういろいろな
学問が必要ですし、さらに近年では、生態とか
行動とか、そういうことも必要です。
そうしますと、そういう
分野の
知識というのが、実は
家畜の
診療ということだけにとどまらず、
世の中のいろんな
分野で
専門的知識として必要だということになりまして、近年では大変広い
範囲に
獣医業あるいは
獣医学的知識あるいは
獣医師が使われるようになってまいりました。
例えば、食品の
衛生でございますとか、あるいは防疫もそうでございますし、さらにはいろいろな広い
意味の医薬品の
開発であるとか、そういうかなり広い
範囲になりましたし、また対象とします
動物も、狭義の
家畜から
人間と
動物の絡み合いがいろいろ変わるに従いまして、随分広い
範囲の
動物を診るようになってまいりました。
そういたしますと、かなり
仕事の
範囲が広くなっているわけでございますけれ
ども、実はこの
傾向というのは、世界的な
傾向でもあると同時に、
日本では特にこの
傾向が強いんですね。もちろん
動物の
病気を診る
獣医師もたくさんおりますが、それ以外の
分野で
獣医師の
知識、
技術というのが非常に高く評価されているというのが、恐らく
外国に比べると
日本の
獣医界の
一つの
特徴がと思います。
そういうことを考えますと、今回の
法改正に際して、御存じのように、「その他の
獣医事をつかさどる」という
表現で非常に広い
範囲の
獣医師の
職域というのが明記されているということは、まさに近年の
動き、さらには将来の
動きを大変見据えたことではないかと思いまして、私
どもそういうところに
関係する
人間としては、
大変当を得た
表現ではないかというふうに考えております。
さらに、この
任務に関する
規定の中で、もう
一つ私は注目したい
表現があるわけですが、それは
動物の「
保健衛生の
向上」ということがやはり
獣医師の
仕事として明記されている点でございます。実はこの
言葉は、私
ども現場にいる
人間としては、非常に
含みの多い
言葉だと思います。
いろんな
含みがありますが、例えばその
一つを申し上げますと、近年、
産業動物の
分野で働く
獣医師の不足がいろいう言われておりますけれ
ども、
産業動物の
病気を診る場合というのは、もちろん
病気になった個々の
動物を手厚く看護するということも大事ではございますけれ
ども、
経済動物であるということを考えますと、そういうことだけで
人間や犬や猫を診ると同じような感覚だけでは問題は解決しないと思うんですね。やはりそれも大事ではございますけれ
ども、なぜ
病気が起こるかということを十分解析して、そしてその
病気の起こる要因というものを除去する、言うなれば予防する、あるいは
病気の
発生を未然に防ぐ、あるいは軽いうちにそれを処置するということがあってこそ、
経済動物としてその
経済性を失わないような形で
病気を防ぐことができるんだと思うんですね。
ですから、ということになりますと、今回書かれております「
保健衛生の
向上」というのはまさにそういうことでありまして、日ごろのえさの与え方あるいは
飼育環境の問題、そういうことを含めてやることこそ非常に大事なことだと思います。
実は、これは簡単なようで大変高度の
知識、経験を必要とします。したがって、こういうことが明記されたということは、治療などと違って目立たない
部分でありますが、十分な専門的な
知識、
技術を身につけるということが必要だということが明記されたことになりまして、これが恐らく
産業動物獣医師が胸を張って日ごろの勉強をそこに生かせる、言うなれば、ちょっと話が飛びますが、
産業動物の
獣医師のなり手が少ないということの原因の
一つは、
待遇改善などのほかにこういう
職業人としての
満足度ということにもあるわけでございますから、少しうがった考えかもしれませんが、そういうところにも通じる
部分ではないかというふうに考えております。
また、見方をもう少し変えてみますと、この
動物の「
保健衛生の
向上」というのは、近年、
獣医師のかかわり合う
部分として
大変関心を呼んでおります
動物愛護の問題にも通じると思います。これは、この狭い地球で
動物とそれから
人間が
一緒にすむわけですから、どうしてもそこにいろんな葛藤が生じてまいります。それをやはり感情的に処理するんではなくて、科学的に、お互いが利用し合いながら
一緒に生きていくということをするためには、
獣医師の身につけている
知識、
技術というものが大変重要だというのが世界的な認識でございます。
一体それでは
獣医師がどういう
部分を通じて
動物愛護に貢献するかということになりますが、それは世界の
獣医師界の中にそういう
部分の
委員会がございまして、その中で言われておりますのは、
動物の飢餓、飢えですね、あるいは渇きというようなものを防いてやる、あるいは痛みや苦悩を取り除いてやる、さらには不安とか恐怖を取り除く、そして
病気やけがを適切に治療していく、そして非常に大事なことは
動物の本来の
行動様式というものを考慮した飼い方を指導する、こういうことが大事だと言われているわけでございまして、これは実は
一言で言いますと
動物の「
保健衛生の
向上」ということになります。したがって、この
言葉は裏を返しますとそういう
部分にも通じるわけでございまして、まさに世界的なコンセンサスを得ている
獣医師の広い
職域というものをあらわすのに大変適切な
表現が随所に見られまして、それにかかわり合う
人間としては
大変期待を持っております。
次に
獣医師の卒後
研修について申し上げたいと思いますけれ
ども、このような広い
範囲をカバーする
獣医師をつくるわけでございますから、学校でもそれなりの
教育をしなきゃなりませんが、その件につきましては、おかげさまで六年
制教育というものが実施されておりまして、その中でかなり昔に比べますと広い
分野の
教育ができるようになりました。これは
教育をする
現場にいる
人間としては
大変満足をしております。しかしながら、
獣医師の
職業を考えましたときに、
免許証のない状態で
学生の
段階で
教育をするということにはどうしても完全でない
部分というのが残ります。
その
部分の
一つが
臨床獣医師の
教育という
部分ですね。これは
免許証がないわけですから、卒業したからといって、もうそこで一人前の
人間として、
社会のといいますか、
市民の
所有物である
動物を全幅の信頼を受けて一人で診られるというわけになかなかまいりません。そういう
教育をやるのはどうしても
免許証を取った後で、
現場でマン・ツー・マンで教えを請うという必要がございます、これは
医師の
教育をごらんになればそのとおりでございますけれ
ども。したがいまして、その
部分がどうしても欲しいと私
たちは思っておりました。
昔は、実は
獣医学ではそういうところは
人間と違って心配がないんだというのが私
たちの誇りでございました。それは、牛を診る人なら牛を、犬を診る人なら犬を、
実習用の
動物としてたくさん使って
免許を取る前にさんざん練習をして、そして一人前の
獣医師をかなりつくることができたということがあります。
人間ではもちろんそれはできませんです。
しかしながら、先ほ
どもお話ししましたように、
動物愛護の観念が世界的に高まってまいりましたので、こういうことは現在は許されないというのが一般的な考え方でございます。そうしますと、やはり
免許を取った後で、
動物を助けながらそこでだんだんと腕を磨いていくという
部分がどうしても必要でございます。したがって、この卒後
研修というものは、六年制あるいはそれ以上の
教育を昔からやっております
西欧諸国ではどこでももう常識化しておりまして、何らかの形の卒後
研修制度がございます。
日本でも
臨床教育をやっております教官の間にいろんな
会議がございまして、そこではもう大分前から、一句とかして卒後
研修制度を
大学の
附属家畜病院でもやりたいという結論が出ておりまして、文部省にも
お願いをしたことがございます。
したがいまして、今回、
努力目標とは言いながらも卒後
研修制度が法の
改正を
契機に明記されたということは、
教育の
現場にいる
人間としまして、この六年
制教育がより
社会に役立つように
最後のまとめをするという
段階でも非常にいいことじゃないかと思いまして、大変私
たちはそれに
期待をしております。
さらに、
日本の国内だけじゃなくてちょっと海外に目を向けますと、最近は非常に
外国の
人たちあるいは
外国の
獣医師が
日本に入ってまいります。これは私
どもの教室を見ましても、
大学院の
学生が九人おりますが四人は留
学生でございます。こういう
傾向はこれからも続くでしょうし、あるいは増加するかもしれません。そういう場合、どうしても
外国人で
日本の
獣医師の
免許を取りたいという人も出てきて当然でございます。従来もそういう方はいらっしゃいまして、そういう場合は
免許審議会で
審議いたしまして、
日本の卒業生と同等以上の学力がある場合には
受験を許可しておりました。それは
審議会の
審議の結果です。
ところが、近年いろいろな国から人がやってまいりますと、そこの
教育年限も違いますし単位の
計算方法も違います。そうしますと、非常に判定がしにくい
ボーダーラインの方が多くなってしまうんですね。そうすると、
国際化というものをきちんと考える場合に、いろんな原則がございますが、そのうちの大事なものの
一つは公平であるということだと思います。そういうことを考えますと、今回のように
外国人の
受験者に対して、特に
ボーダーラインで判定しにくいような人に関して
予備試験制度が設けられたということは、まさに公平に、しかも
能力のある人にはちゃんと門戸を閉ざさないという
意味で、大変今まで
免許審議会のこういうことにかかわり合っておりました
人間としては、これで
一つ問題が解決したな、するんじゃないかというふうに喜んでおります。
最後に設備の問題について
お話をしたいと思いますが、今回、
獣医療法の中で
診療施設の
基準が設けられることになりました。特にこの中で、
エックス線に関しては省令で細かいところが決められていくわけでございます。
これは、やはり
エックス線の場合は、御承知のように、
獣医師の間でも非常に広く使われる
技術でございますし、また使い方をもし間違えますとこれは近隣の
市民にも非常に影響の出る問題でございますから、そういうような
部分の
基準をきちんと定めて、そして高度の
医療を安心して
世の中に提供できるというふうになることは、多少の制限を伴うとは言いながらも信頼される
獣医業として確立するためにも大変大事なことではないかというふうに考えております。
以上、時間の
関係もありまして少し突っ走りましたけれ
ども、基本的には
幾つかの私
たちの
問題点を改善する上で今回の
法改正というものが大変うまく作用するんではないかというふうに考えまして、この法の
改正、
制定に御努力なさいました
関係者の
方々に敬意を表しますとともに、ここでお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。