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翫正敏君 次に行きますが、
外交保護権を行使しないということ、これが現在の
中国の立場であることはよく理解をしておりますが、
条約上できないということとは同じではないわけで、その点について先ほどから日中
共同声明における「
国民」という文言が入っていない問題について
質問をしましたが、回答が平行線でありますので、さらに機会がありましたらまたお尋ねしたいと思います。
ところで、さきにも触れました
民間の
賠償請求のこの件に関して、
中国外相のコメントを報ずる三月二十四日の東京新聞がございました。これに対して
日本の
外務省の方の見解も同時に載せられておりましたが、それによると、
外務省は、従来どおり
政府間の賠償問題は決着済みであると、こう今おっしゃったようなことを述べた上で、「中
国民間の
賠償請求は
中国政府に対して行われるべきだ」と、こういうふうに述べたと新聞には書かれておりますが、こういうふうにおっしゃったのかどうか、その点をお答えいただきたいと思いますが、私は、もし
外務省がこのようなことを新聞に発表したということならばゆゆしき問題だと、破廉恥と言ってもいいんじゃないかと思うんですけれども、ちょっと事実
関係を確かめさせていただきます。
もし、
中国に対しては折に触れて経済協力や経済援助をいろいろしてきた、こういうことを理由にしておられるのであれば、例えば日韓
請求権・
経済協力協定のような取り決め、これに類するものがいつどのような形で
中国に対してなされたのか。そして、この
国民の
請求権という問題について
中国との間で議論をして、そういうことについてどんな形で同意が得られたのか。そういうことを明確にしていただきたいと思いますし、そのような戦後処理というものも明確になされていないままに、
中国の方が一方的にこの
請求権を放棄したのだからということをいいことにして、
中国人の
民間人の
要求は
中国政府に請求しなさいというようなことは、これは先ほど恥知らずという言い方をしましたが、ちょっと別の言い方をしますと恩知らずであると、こういうふうに言わなきゃならないんじゃないかと思うんです。そういう
意味で、経済協力というようなことではこの
条約上の問題は解決しないのではないか、このように思います。
それで、他の国の例をちょっと挙げておきますが、昨年八月、
戦争末期にフィリピンで起こりました
日本軍によるパミンタハン大虐殺から奇跡的に生き残って、そのときに銃剣で胸を五カ所刺された、後ろの方も刺されておられましたが、そのせいで戦後もぜんそくがひどくて仕事に満足につけなかったというガルシアさんという方が戦後の補償を求めて
日本に来られましたとき、私が
外務省の方に同行をいたしました。そのとき訴えをされるガルシアさんに対して
外務省の担当の方は、名前が今問題なのではないので申しませんが、その担当の方は、
日本とフィリピンの間の賠償問題は、サンフランシスコ
条約に基づいて一九五六年日比
賠償協定が結ばれ、
日本の方から千九百八十億円お支払いをして解決いたしましたと、こういうふうに答えたわけです。
そのときのやりとり、私まざまざと今も覚えておりますけれども、ガルシアさんは裸になられて自分の傷跡を見せられまして、そしてその上で、でも私は一ペソももらっておりませんと、こういうふうに言われて、涙ながらに自分の
被害というものをお訴えになった姿が忘れられないわけであります。
現在、
日本のODAというものが大きな金額になっております。しかし、そのことがかえって軍事政権を支えることになってしまっているという批判があったり、また、人権抑圧や環境破壊につながっているのではないかという指摘などもされているところでありまして、ODAの問題もやはり出発点は
戦争賠償というような問題の解決に始まっていると聞いておりますけれども、こういうことも順次今後取り上げていきたいとは思っておりますけれども、こういう一つの例として、今のフィリピンの方のお訴えを取り上げさせていただきました。
そこで、ちょっと
質問したいわけでありますが、日中
共同声明で
中国政府が放棄をしました
戦争賠償とは一体どれくらいの額であるのか、これを
政府としてどう考えておられるのか、お聞かせください。
また、いかなる
意味においても放棄されない個々人、
民間の
損害額というもの、これは
外交保護権の行使は
中国政府はしないわけでございますけれども、どういうふうに解決するかしないかの問題は別として、とにかく金額として算出するとどれくらいのものになると
日本政府は考えておられるのか、お答えをいただきたい。もちろん
被害額というもの、人命というようなものに関する
被害額を金銭で計算するなどということは、これはできないことであるという、こういう前提にもちろん立っているつもりでございますけれども、あえてそれを換算するとどれくらいになるのか。
中国の
全人代の方に
提出されているものによりますと、一
国家間のものが千二百億ドルだと、米ドルでですね、こういうことになっております。
民間のものが千八百億ドルであると、こういう
建議がなされております。
この金額について、
官房長官は大き過ぎると思われるか、少な過ぎると思われるか、このくらいだと思われるか、御感想を述べていただきたい。全然わからないと言うならば、ぜひ綿密な調査をされるべきではないかと、そういうことが日中友好の今後ということについて大事なのではないかと、そう思います。
それで、もしサンフランシスコ
条約の第二十一条「
中国は、第十条及び第十四条(a)2の利益を受ける権利を有し」に基づいて、サンフランシスコ
条約の締結国でない
中国も、
日本が旧満洲などに残した在外資産などを処分する権利を得たのであるから、
国民の
請求権についてもサンフランシスコ
条約に従って解決されたと、こういうふうな見解ではないと思いますが、もしそういう見解であるとするならば、まずサンフランシスコ
条約の枠組みの中で、一九五二年四月に締結された中華民国
政府、現在の台湾
政府との日華
平和条約それから日中
共同声明、この
関係も明らかにしていかなければならないと思います。日華
平和条約においては、
請求権問題はまた別の「特別取極の主題とする」と、こういうことになっていたわけですが、その特別取り決めがなされることがないままに、一九七二年九月、日中
共同声明において
日本の方から中華人民共和国
政府を
中国の唯一合法
政府であるという承認をしたことによりまして、日華
平和条約は失効したということであります。確かに日華
平和条約には、「この
条約及びこれを補足する文書に別段の定がある場合を除く外、
日本国と中華民国との間に
戦争状態の存在の結果として生じた問題は、サン・フランシスコ
条約の相当規定に従って解決するものとする。」と、こういうふうに述べられております。
これによって、日華
平和条約はサンフランシスコ
条約を準用することで
中国の対日
請求権というものが放棄されたと、こういう見方も学者の中にはあるようでありますけれども、それはやはり基本的に正しい理解ではなくて、
条約自体に
請求権問題は別の取り決めをするということが決められておって、それがそういうふうにできなかったというわけでありますから、この問題は別の定めがあってしかるべき場合と、こういう場合に当たるのだと思います。
さらに、日華
平和条約と同時に交わされた交換公文では、「この
条約の条項が、中華民国に関しては、中華民国
政府の支配下に現にあり、又は今後入るすべての領域に適用がある」と、こうされております。
中国大陸全体が中華民国
政府、現台湾
政府の支配下に今後入るというようなことはとても考えられないことでございますので、日華
平和条約の効力はそもそも大陸には及ぶものではないと、こう理解すべきだと思います。
そういう日華
条約と日中
共同声明との
関係について考えた上で申し上げたいのですが、そもそも日中
共同声明は、他の協定などのようにサンフランシスコ
条約の枠組みの中でなされたものと、こういうふうに考えるべきではないと思います。それは、「中華人民共和国
政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。
日本国政府は、この中華人民共和国
政府の立場を十分理解し、尊重し一ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。」とありますように、日中
共同声明の
歴史的起源はむしろ直接ポツダム宣言に立ち返っているものであると思います。
そのポツダム宣言の第八項を見ますと、「カイロ」宣言ノ条項ハ履行セラルベク」、こう述べられておりまして、そのカイ呈り言の関連箇所を若干引用してみますと、右同盟国、米国、
中国、英国の目的は、
日本国より一九一四年の第一次世界大戦の開始以後において
日本国が奪取し、または占領したる太平洋における一切の島嶼を剥奪すること並びに満洲、台湾及び瀞湖島のごとき
日本国が
中国人より盗取したる一切の
地域を中華民国に返還することにあり、
日本国は、また暴力及びどん欲により
日本国が略取したる他の一切の
地域より駆逐せらるべしと、このように書かれております。これはもちろん
国家の領土について言っているものでありますけれども、今日の私たちにおいては、かつての
日本の
侵略によって
中国から奪い取ったものを
中国人に返し、そして殺し尽くし、焼き尽くし、奪い尽くした、こういう
中国人の命と物に対する補償というものは今後も全力を挙げて取り組んでいかなければならないと、こう思います。
具体的に、三月二十四日の東京新聞に掲載されました
外務省の見解の真意を
外務省からお答えいただきますとともに、今ほど私の方から少しく問題提起をしましたことについて
官房長官のお考えをお聞かせいただきたいと思います。