○公述人(三宅和助君) 現在の
PKO法案のとりあえず
想定をされているのは
カンボジアの平和活動にいかに
協力するかということでございますので、なるべく
現実的な問題として私の方から御説明いたしたいと思います。
私自身、インドシナ問題に二十数年間関与いたしまして、ベトナム、
カンボジアを十数回訪問しております。一昨年で一回、それから昨年は二回訪問しておりますし、またことしの三月にも訪問しております。そこで、シアヌーク殿下、フンセンその他各大臣、それからできるだけ一般の民衆の方、そしてベトナム、タイでも
政府関係者から、私の場合
政府の要員でございませんものですから、できるだけ中立的な客観的な
立場から話を伺ってきたということでございます。
そこで、これらを通じまして私から、まず
カンボジアの和平というものはアジアの平和と安定のかなめであると、これは非常に重要な点でございます。この
カンボジアの平和問題が解決して初めてベトナムとASEANとの平和共存の基礎ができた。ですから、今やベトナムとインドシナを含む平和共存の基礎ができたということは、この
カンボジアの平和の解決にあるわけでございます。したがいまして、一
カンボジアの問題ではないということが重要でございます。
それから第二の点は、この
カンボジア和平というのは、一九八八年からありとあらゆる努力、これは
国連における常任理事国五大
国会議、またジャカルタにおける非公式会談、そして東京における東京会談というありとあらゆる努力の成果が実って、そして去年の十月二十三日にパリで平和協定が署名された。これは全会一致でございまして、当事者の四派のみならず、すべての当事国がこの平和というものに対して合意し、それに対する
国連の関与の仕方も合意したわけでございます。大変な努力によって、しかもアジアの国がリーダーシップをとって、そしてやっと達成した
カンボジアにおける平和というものを我々はどうしても守らなければならない。また、
日本がこのインドシナとASEANの平和的共存による最大の受益者の一人であるということを忘れてはならないと思います。
その次に具体的な論点、いろいろな論点が
各党の
皆さんの中で展開されておりますので、私の結論だけを申し上げたいと思いますが、
PKO協力というものは武力行使ではない。平和というものが成立してから平和を維持するものである。要するに戦う相手はいない。四派が全部合意した。ポル・ポトを含めて合意したわけですから、戦う相手がいない。そして、私がちょうど訪問しましたときにも、今までの中で最も大きなコンポントムにおける
紛争が起きておりました。そのときに、インドネシアの部隊長がおりまして、我々はこの
紛争が解決するまで現地に行かないんだと言ってプノンペンの私と同じホテルに泊まっておりましたが、ちょうどそのときシアヌーク殿下がその
紛争を解決して帰ってこられました。そのときにシアヌーク殿下にお会いしましたら、要するに四派の軍事
委員会で問題は解決する。そして、自分が積極的に説得して四派の話し合いがついたと。
さて、それが平和になったときに行くわけでございまして、この現在の
カンボジアにおけるUNTACの機能というものは、これは明石代表も私に何回も繰り返し言っておりましたが、
紛争を解決するためのものではない。
紛争がおさまったときに、それを監視し、それを維持するということであって、従来のような
考え方とは全く違う概念である。
ただ、
カンボジアの実態を見てみますとやはり治安が悪い。それは治安が悪いというのは、
皆さんよくすぐ
戦争という、
紛争ということですが、それ以上に実は強盗とか、あるいはいろいろと今軍隊が引き揚げております、それで警察も余ってくる。そして給料が払えない。それが匪賊化しております。ですから、それは大した兵力ではないんですけれ
ども、こういう治安に対してやはりいかなる人、特に
派遣される人については小火器を持って、もし万が一何か起きた場合にはこれに対してみずからの正当防衛として持たれるということは単なる、それ自体もそうでございますが、やはり安心感、自信を持って行けるということにもなるわけでございまして、これはいわゆる通常言われる武力の行使、国による武力の行使ではない。
したがいまして、私は率直に言いまして
憲法には全く違反しないというぐあいに
考えておりますし、まして湾岸
戦争の多国籍軍と時々同じ次元で
考えられます。私自身も、当時
イラクにちょうど中曽根元
総理が行かれる前に行って人質解放のために努力した一人でございますけれ
ども、このときはあくまでも
国連の決議があり、これに基づいて、基づいてというよりはこれによって許容された多国籍軍、米国の行動であり多国籍軍の行動であり、しかも
イラクの侵略に対してクウェートを解放するための手段として
軍事力が行使されるということでございます。これは
国連そのものの行動ではないわけです。
国連で許容される、したがって
国連違反ではないけれ
ども、しかし
国連そのものの行動ではない。
UNTACというものは
国連そのものの行動です。現在既に三十カ国五千人が配置されているそうで、続々と今入っております。インドネシアの八百五十、マレーシア八百五十、タイ工兵隊、それから中国も工兵隊ということで入っております。明石代表も言っておりますが、決して
国連の武力によって平和を維持するのではない、
国連の権威。
現実問題として先遣隊が行っておりましたときに、
国連の先遣隊が三人、五人行くことによって、今までいざこざが起きていたところにいざこざが起きなくなってきたということを言っておりますが、これはまさしく
国連の旗、
国連の権威というものが非常に生きているという証左でございます。
それでは、そのためには果たして
自衛隊が必要なんであろうかという次の疑問になるわけでございますが、確かに現地へ二十何名の
日本のボランティアの方も行っております。非常によくやっております。私自身、外務省
時代に
カンボジア難民のときに、緒方貞子団長の副団長として難民救済のために行きました。また
局長時代には毛布を集める運動をやったわけでございます。しかし問題は、行ってよろしいといってもそう簡単に、随分努力しましたけれ
ども集まらない、なかなか行ってもらえないということも、まして厳しい
状況であれば非常に難しいということの
現実をやはり私たちは見なければならないと思いますし、現に行った場合に、なかなか機材も思うようにならない、コーディネーションもうまくいかないということでございます。
その点では、組織的に自己完結的に行動できるのはやはり
日本においては
自衛隊以外にはない。仮に第二
自衛隊をつくるにしてもそれは同じことであって、対外的に見るとやはり
自衛隊の
派遣ということではなかろうかと思います。要するにこういう
状況のもとにおいては、今言った治安上の大きな問題がある場合に、装備の点でもまた予算の面でも、
自衛隊の組織力をもって行動するということが大変重要である。
現にフランス、豪州、インドネシアの部隊の方にお会いしましたが、テントを持っていって、そして水を含めて、井戸を掘って自給自足をしながら自前で行動をするわけです。これは実際問題として、テントを張って井戸を掘って、水から食料品も二月分持っていって現地の生活を圧迫しない。もしそれは全部圧迫しますと大変なインフレ、ますます経済
状況の悪化につながりますから、これは自己完結的に能率よくやっているという
意味におきまして、明石代表もシアヌーク殿下も言っていましたが、本当に頭の下がる思いである。フランスから、遠くから来て、全く自分たちから遠いアジアに来て、ヘリコプターを持ってきて、そして地方のひどいところに生活している
状況を見て、頭が下がるということを言っておりましたが、
現実問題としてフランス、豪州の隊が入ってきたのを私は見ましたけれ
ども、大変な歓待で大拍手でありました。
それで、アジアの目ということをよく言われます。ASEANの中でほとんどの国が大
賛成でございますし、タイの場合は、もちろんこれは
日本の国内問題であって
日本国内で決めるべき問題であるけれ
ども、平和を維持するという
国連の行動に対してなぜ
日本はだめなんだろうかと。私もいろいろと
日本の国内事情の説明をしておりますが、リー・クアン・ユー首相、この方がよく反対だということに誤解されておりますが、私も個別にお会いしました。お会いしましたが、リー・クアン・ユー首相さえも
自衛隊の
派遣というのは我々問題ないと。ただ、そこで言っておりましたのは、
日本は技術力も進んでいるし、それから機材も優秀であるから、できれば
後方支援に重点的にやった方がより効果的ではないかと思うと。しかし、これは
日本が決めるべき問題であって、
派遣そのものには反対ではないということでございます。
ベトナムの方にもお会いしました。よっぽどこちらから
質問しない限り、この
PKO法案の問題が出ても、
自衛隊の方はどうですかと積極的に
質問をした場合に、あくまでも
質問をした場合ですが、向こうからは慎重にやってもらいたい、それよりもベトナムに援助してくれ、
日本はやはり経済力が得意なんだから経済力でひとつ大いにやってもらいたい、それよりもベトナムに対して援助を再開して早くやってほしいというところに重点があるということでございます。
しかし、何よりも大事なことは、
カンボジア人自身が非常に
日本の
自衛隊の
協力というものを歓迎しているということでございます。もちろん、シアヌーク殿下、フン・セン首相その他お会いした方、皆そうでございますが、一般の人の中にも、極端に言うと、中国、ベトナムはちょっと困ると。というのは、やはり中越
戦争とかポル・ポトに中国は支援した、そしてベトナムは派兵していたわけですから、やはりそういうものに対してはちょっとというような感じでございますが、この中国さえも工兵隊というものを
派遣しているわけなんで、本来この種のものというものは、余り極端に外国がどう気にするかというよりも、聞けば中国でもどこでも、それは慎重にやってくださいと。
現に慎重にやろうとしているわけでございますから、やはり
日本の外交としては、客観的にまず
カンボジアの
国民がどう思うか、
政府はどう感じているか、そしてその横にあるタイがどう判断しているかということを
中心的に
考え、また多少の誤解が私は依然としてないことはないと思いますが、これはやはり実際に
派遣することによって、いかに平和のための有効な
協力をしたかということによってむしろ誤解を解いていく、極めて有効であったということが大事ではないかと思います。
それで、最後に、現在一つの
政治的妥協としてPKF本体への参加の
凍結問題というものが取り上げられておりますが、私は本来その必要はないと思いますけれ
ども、ただ
政治は妥協ですから、問題は一刻も早くこの
法案を通してもらいたい。実際問題として、本体への参加
凍結というのは、
後方支援と機材の提供が特に期待されておりますし、例えば地雷の撤去、除去の問題につきましてもむしろ訓練だと。
カンボジア人にみずからやらせないといかぬということと、その訓練の機材と訓練要員が欲しいということを
カンボジアの
政府の方もUNTACの方も言っておられました。
したがいまして、実際問題としては支障はないのでございますが、ただ、世の中
カンボジアだけじゃありません。これからどうしてもいろんな場合がありますし、そのケース・バイ・ケースによっては、必ずしもあれほど明確に今回の
カンボジアみたいに果たしていくのかどうかという問題もございますから、これはやはり将来の問題としては、仮に
凍結しても、この
凍結解除をすることが適当であるかどうかということをそのときの客観
情勢でぜひ見直しをやっていただきたいと思います。
それから、
国会における
事前承認でございますが、およそ一つの
法律、私は今回理屈というよりもむしろ
現実問題として
考えた場合に、やはりこれだけの
国民が
賛成にしろ反対にしろ関心を持っている。ですから、一つの
法律を通して執行につき一々
事前承認はおかしいじゃないかということはありましょうが、やはりこれだけの大きな
最初のケースだとすれば、
国会の
事前承認をとるということはむしろ正しいのではないか。ただ、この問題を含めて、能率性の問題も含めて、やはり将来の問題として
考えていく。
カンボジアはもう始まっているわけです、そして来年の春にも選挙が行われる、その地ならしをやらなくてはいかぬ。したがって、いろいろな形で妥協してでも一刻も早くこの
法案を通して、そしてやっていただきたい。そして、
日本はその場合に、これに参加することによって、確かに資金
協力も大事です。しかし人的の
協力も必要ではないかと思います。
最後に、インドネシアの隊長が私に言ったことが最後に強く印象に残っております。自分たちは前線で活動する、何ら危険はない。それなのに
日本がもしいろんな理由で困るというのなら私たちがやってあげましょう。
日本人は、
日本の
自衛隊はプノンペンにいなさい、やってあげましょう。ただ、装備とお金だけ下さいということを言った。私は非常に憤慨しまして、失礼な話じゃないか、そういうことではない。やはりそれぞれの分担に応じて、その国の国内体制に応じてやれるところからやっていくということであって、最後に明石代表が私に言いましたが、これはある
意味において平和維持に対するオリンピックである。ですから、
日本の
協力できる分野を十分やって、そして平和維持に対する
日本の姿勢、決して金だけでやるのではない、我々みずから平和の維持に対して
日本が積極的にやっているという平和のオリンピックのために
協力してもらいたいということを申されて、私は非常に強い感銘を受けたということを最後に申し上げまして、時間でございますので終わらせていただきたいと思います。