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参考人(
溝口勲君)
溝口でございます。
私は五年前から
北海道大学工学部衛生工学科で
大気汚染の制御の問題あるいは
影響の問題ということをやっているんですが、そこに行く以前は十六年半ばかり
東京都立衛生
研究所の
環境保健部長ということで
大気汚染の
影響の問題をやっておりました。そういう観点で
大気汚染、特に
窒素酸化物の生態
影響というようなことに関しましてごく最近の
研究調査から二つばかり申し上げまして、それに
関連して私の
意見を申し述べたいと思います。
皆さんのお手元に陳述資料ということでお配りいたしました資料がございます。大変簡単なものでございますが、見ていただいた方がわかりやすいんじゃないかと思って配らせていただきました。
初めの
報告は、
東京都衛生局が昨年八月に発表いたしました
大気汚染保健
対策に係る健康
影響調査総合解析
報告書というものでございます。これは私もずっと以前から参加しておりまして、この
報告書自体は
昭和六十二年から
平成元年までの三年間にわたる調査のまとめでございます。この
報告書は大変広範なものでございまして、道路沿道の健康調査、学童の調査、健康監視モニタリング調査、それから基礎的実験的
研究というような大きく分けまして四つの部分から成っております。その中で、第一番目の道路沿道の健康調査の大変簡単な概要についてお話ししたいと思います。
図三-三-一を見ていただきますと、
汚染物質、特に
窒素酸化物あるいは浮遊
粒子状物質というのは
東京都区内の道路沿道からゼロメートル、二十メートル、百五十メートルというふうにいたしまして、道路沿道はいろいろな
汚染物質が高いということが図から読み取れると思います。
そういうところでそれではどんな健康に対する悪
影響が起こっているかといいますと、図三-三-二を見ていただきますと、持続性のたん、これは毎日たんが出るということでございます。それから、息切れグレード三というふうに書いてありますのは平地を普通のスピードで歩いても息切れがする。特に坂を上るとか走るとかそういうことをいたしませ人でも息切れがするというのが息切れグレード三ですが、こういうのが沿道の、特に
東京二十三区の沿道に持続性のたんでありますと約八%、平地を歩いても息切れがするというのが三・三%というようなことです。市部というのはこれは実は東大和市なんですが、そこに書いてありますように、沿道は墨田でございまして、後背というのは墨田の幹線道路から百五十メートル程度離れているところの住民ということでございます。こういうふうに調査では沿道住民の方が健康に対する悪
影響を訴える率が非常に高いということがわかります。
ちなみに線で書いてございます図三-二-三という一番左下の図を見ていただきますと、道路沿道というのが
汚染物質の濃度もやはり高い。それが墨田の場合ですと百五十メートル離れても二十メートルと余り変わらない。というのは、
東京の場合には大変幹線道路の後ろにもやはり
自動車交通が多い、比較的小さな道路も
自動車が入ってくる、そういうことを反映しているのではないかというふうに思われます。
時間がありませんので少しはしょらせていただきますが、二番目には、学童の健康
影響調査というところで二つばかり
特徴的なものを挙げておきました。
一つは欠席率。これは目黒の大変
交通量の多いところ。それから板橋、これも比較的
交通量が多い。しかし目黒に比べると若干少ないんですが、それと東大和市という三つの小学校を使いましていろいろ調べたものです。これが図三-一-四というものを見ていただきますと一目瞭然なように、一年間の病欠率というのがきれいに目黒、板橋、東大和という順に並んでおります。
図三-一-二というのは肺機能。もちろん学童でございますから年齢が高くなっていきますとどんどん成長して大きくなっていくはずなんですが、その
伸びがどうも目黒はほかの二校と比べて違いがあるというようなことで、現在の
東京都の沿道といいますか、大変
窒素酸化物の濃度の高いところでは学童の健康に対して好ましくない
影響が出ているというようなことでございます。
そのほかにもぜんそくの有症率というような点もございますが、やはり目黒はほかと比べてよくない、そういう結果が出ております。しかし、例えばアメリカでどこの都市がぜんそくが一番少ないかというとロサンゼルスが一番少ない。ぜんそくだったらロサンゼルスには住めない、こういうこともございますので当然のことながらそこに住んでから発症したというようなこともチェックしてございますが、目黒に住んでいてそこで発症しているということで、やはり発症率も高く出ております。東大和の方は東大和に住んでいて発症したというのが今東大和の学童のぜんそくの中で言うと約六割ということでございまして、四割の人はぜんそくのためにぜんそく疎開というとちょっとおかしいんですが、そういうことになっているというふうな結果も出ております。
健康監視モニタリングというのは
東京都十カ所、例えば板橋であるとか大田区であるとか中央区であるとか杉並区であるとか、そういう比較的
交通量の多いところを
対象にいたしましてやはり沿道、後背というようなことでやった結果でございます。これも道路沿道調査と大変よく似たことで、持続性のなんというのと息切れというようなことでやはり差が出ているという泉うになってございます。
いろいろ広範な調査なものですからあとはちょっと省略させていただきますが、現在の
東京の
大気汚染の状態で健康に好ましくない
影響が出ているということがおわかりかと思います。
三枚目の資料でございますが、これは去年の秋に
環境保健雑誌、アーカイブス・オブ・エンバイロンメンタル・ヘルスというふうに言われる国際的に大変権威のある雑誌があるんですが、そこにヘルシンキ市の衛生局のペンケという医者が発表したものでございまして、これはぜんそくの患者が
大気汚染と連動して緊急入院するとか入院するというようなことが起こっているということで、一九八七年から八九年までの三年間ヘルシンキ市でやられた結果をちょっと皆さんにお知らせして考えていただきたいというふうに思います。
ヘルシンキというのは人口六十数万でございまして、札幌の半分くらいしかない都市でございます。
大気汚染の状態というのをその一番下にちょっと書きました。表七というのは低濃度と高濃度の
大気汚染のときのぜんそくによる入院数がどんなふうに変わるかという表でございますが、その真ん中の三番目に書いてあるNO2のところを見ていただきますと、ヘルシンキで言うと高濃度時というのが実は私がちょっと万年筆で書き込みましたが〇・〇二ppmということでございますから、日本で言うと
環境基準の中に入っている、一年間の平均が。こういうような
状況が実は高濃度時で、〇・〇一四ppmというようなのが低濃度時ということになるわけでございます。
それで、これは大変立派な論文で、ここに現物を持ってきておりますが、これの第一番目に出されている大変長い相当きちっとしたものでございます。もちろん、ぜんそくの患者がふえるというのは非常に低温になる、気温が急に下がるとかそういうことで、表六に星を三つつけてございますが、最低気温が大変下がると逆に入院患者、これは緊急入院もふえるし全体の入院もふえるのだというそういうことでございます。
万年筆で書いた星の数が多ければ多いほど
関係が深いということでございまして、年齢別に分けてみても特に中年、高年というようなところでNO2の濃度がふえあるいはNOの濃度がふえると緊急入院の患者がふえ、ぜんそくによる全体の入院患者がふえるのだというようなそういうことが出されております。これは
環境基準というものをどう考えるかというようなこととも
関連しまして、これくらいの低濃度で人間の健康に対する悪
影響というのが出るということはやはり注意しなきゃならないのじゃないかというふうに思います。
最近の二つの調査
研究のことから私がここで申し上げたいのは、四枚目に結論的にということで書かせていただきました。今まで
環境庁でも随分熱心に長く調査
研究をやられておりますが、
我が国でもたくさんそのほかにもございます。あるいは今御紹介いたしましたような諸外国で行われた調査
研究というのもございますが、
自動車排ガス、特に
ディーゼル排ガスを
中心にして、
自動車排ガスというのが沿道住民の健康に大変悪い
影響を与えているということはどうも否定できないというふうに思われます。
それで、先ほどのヘルシンキ衛生局のペンケ博士の
報告をちょっと御紹介いたしましたが、
我が国の
環境基準以下の濃度
レベルでさえも悪
影響が認められているということから考えますと、
我が国のNO2の
環境基準の速やかな
達成というのは言いかえれば最低の必要条件で、本当に全体の健康が守れるという点の保証ということでは必ずしもなくて必要条件にすぎないのではないかというふうに私は考える。
ただ問題は、三に書かせていただきましたように、人間の健康に対して悪い
影響を与えるのは
二酸化窒素だけじゃございませんで、排ガス中の浮遊
粒子状物質というのが大変悪
影響を強めるというようなことが、これは実験的にも疫学的にもいろんなところで認められていることでございまして、先ほど
参考人の先生からもお話がありましたように非常に相反するといいますか大変コントロールが難しいということはあるのかもしれませんが、
粒子状物質の
影響というのもやはり十分考えていかなきゃならない。
特に
粒子状物質の中で問題になるのは、やはり発がんとの
関連性というようなことではないか。これはやはり実験的には十分認められていることでございますし、疫学的にも幾つかの
報告では認められているというふうな
現状でございますから、遅発性の
影響ということに関しても考えていかなきゃならない。
最後に、人間というのは大変体質が多様だということです。実験動物というのは、遺伝子をそろえるために昔は純系のマウスとかラットとかいいまして、今は近交系のラットとかマウスとかということで遺伝子をそろえるような形で実験に使う動物をつくります。しかし人間はもう大変多様でございますから、この
影響を非常に強く受ける集団というのがどうしても出るんです。これはアルコールを飲んだときに杯一杯でも苦しくなる方とボトル一本あけても平気だというようなばらつきがどうしてもある。
こういうのがやはり
汚染物質に対してもいろいろございまして、ぜんそく患者が排気ガスに対する健康
影響を大変受けやすいというグループがあるということはその
一つの代表みたいなものでございますが、ぜんそくの患者だけじゃなくて、むしろいろんな酵素活性が違うとかオゾンに対して非常に弱いとかそういうような集団がこれはあるのが当然でございます。そういうことから考えますと、やはり社会というのは、多様な人間が健康に悪
影響がなくて、弱い人間でも生きられるというようなそういう条件をつくることが必要ではないかというふうに思います。
「最後に」ということでそこに書かせていただきましたが、この
二酸化窒素の
総量の
削減が実現されるようにということで、今回の実効性のある
法案の制定のために諸
先生方の努力を
お願いしたいと思います。
以上でございます。