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藤井公述人 藤井でございます。
予算案、特に
防衛関係費につきまして、四点にわたり
意見を陳述させていただきます。
第一点は、
バブル財政からの
脱却をしなければならないという問題でございます。つまり、
防衛費における後
年度負担、いわゆる
ツケが激増している、まことに憂慮すべき
状態になっているわけであります。
今、
防衛計画の
大綱が決定されました一九七六年
予算と新
予算案との比較をいたしますと、この十六年間に
防衛関係費は七六年を一〇〇として三〇一、約三倍になっているわけであります。
一般歳出は二〇六、二倍であります。これに対しまして後
年度負担額は四九八、つまり五倍になっているわけであります。
一般歳出二倍、そして
防衛費は三倍、後
年度負担額は五倍であります。そして、そのような
増加というのはいつから始まったかと申しますと、一九八〇年から非常に顕著に起きてきたわけであります。その結果として、
防衛費の中におけるいわゆる
歳出化経費、
ローンの支払いに当たる
部分が急増している。そして
財政の
硬直化という現象が起きているわけであります。
新
予算案について検討してみますと、後
年度負担額は確かに
合計額においては昨年に引き続きわずかに減少しております。九〇
年度がピークであった。そうして来
年度におきましては〇・七%、百九十億円の減となっておりますが、
しかし
新規の後
年度負担は、九一
年度は減であったのに、九二
年度案におきましては
プラス三・六%となっているわけであります。したがいまして、九三
年度の
歳出化経費は今
年度よりさらに
増加するものと見込まれているわけであります。
なぜこのように後
年度負担、つまり
ツケがふえていくのかと申しますと、まず何よりも非常に少ない
頭金でもって膨大な
発注を続けている、この結果がこういう
状況として出てきているわけであります。新
年度に関して見てみますと、
頭金が三百二十億円、そして後
年度負担は一兆七千百三十四億円、これは
新規の分でありますが、つまり
頭金の五十三倍という
ツケを
ローンを組むという、そういうことになっているわけであります。これは極めて不健全な
財政運営であると言わざるを得ません。つまり、そこでは
歳出予算がどんどんと先取りされていく、したがいまして、
情勢が変化しても
政策的に柔軟に対応していくということは不可能になっている。もう返済することが目的で
政治が行われている、行政が行われていると言っていいような、そういう
状況が起きているわけであります。
第二に、
国会の
審議権、
予算を
審議し、そしてまたそれを議決する、この権限というものが非常に損なわれてきていると言わざるを得ません。
予算書を拝見しますと、
国庫債務負担行為、これが出ておりますが、そこに書かれている、なぜ
ツケをつくらなきゃならないかという
理由は、生産とか輸入に多くの日数を要する、こう書いているだけてあります。そして、では、その
ツケの
部分を今度は
歳出予算に直していくわけでありますが、この
歳出予算の各
目明細書というものを拝見いたしますと、そこに書かれているのは、
平成元
年度に
国庫債務負担行為でやったものを
歳出化する分が
幾ら幾らである、
平成二
年度の分が
幾ら幾らであると書いてあるにすぎない。つまり、なぜそういう装備が必要なのか、そしてそれがどういうふうにして支払われていくのか、こういうことが全く明らかではないわけであります。
今や
国際情勢が激変している。こういう
バブル財政というものに対して根本的な
治療をしなければならぬ、また
治療が可能な
チャンスである。
ローンづけの
中毒症状をどう治すか、このことをお考えいただくべきときが来ているように私は思うわけであります。大事なことは、やはりモラトリアムをやるということである。つまり、
新規発注、これは
歳出の範囲内にとどめる。そのことを二、三年間やりますとこの
ローン地獄からの
脱却は申すまでもなく可能になるわけであります。
次に、
防衛関係費というのは、申すまでもありませんが、
人件糧食費と、そして
物件費から成り立っております。この
二つを合わせたものが基本的に
防衛関係費である、こう考えていいと思います。この
人件糧食費というのは、
大綱が決定された七六年から九二
年度案に至るまでの間に二二二%、約二倍強になるわけであります。ところが、
物件費というのは、この同じ時期に四〇二%、約四倍になっているわけであります。つまり、
人件糧食費というのは
一般歳出予算の伸びとほぼ同じようなものでありますが、
しかし
物件費というのはそれをはるかに超えて約二倍
増加しているわけであります。そして、この
物件費の増というのも、これは実は八〇年代に起きてきたことであります。それ以前におきましては
物件費は
人件糧食費よりも下にあった、こういう
状況でございます。
お手元に配付していただいております資料をちょっとごらんいただきたいのでありますが、この第一図並びに第二図は今申しました
防衛関係費の使途別
予算及び後
年度負担額の推移を示したグラフでございます。ここで非常に顕著なのは、一九八〇年において
物件費が
人件糧食費を超えたということ、そしてその同じ年に後
年度負担額がさらにそれらを超えまして大きく膨れ上がっていくということになったわけであります。そして、結果として、今申しましたように
人件糧食費が二・二倍であるが、
物件費は四倍になり、さらに後
年度負担額は五倍になる、こういう異常な
状況が今生じてきているわけであります。
これを一体どういうふうにするのか。つまり、
大綱決定以来十六年間にわたって行われてきました異常な軍備拡充というものに対してどう対処していくのか、そうしてこの
ツケの増大、
バブル財政からいかに
脱却していくのか、このことを私たちは真剣に考えなければならないときが来ているわけであります。
物件費がどんどんふえていく、そして後
年度負担がふえていく、この
二つはともに原因であり結果であるわけでありまして、いわゆる悪循環が続いてきた、こういうふうに言うことができるわけであります。つまり、八〇
年度からお金に糸目をつけずにどんどん軍拡をやってきた、その結果がこういう
状況を生み出しているわけでありまして、
世界第三位と言われる軍事
予算、これをつぎ込んで、そして極めて高価な装備を際限なく買い続けてきたのが過去十年間の実態であります。
その一例として、ここに、改良ホーク並びにペトリオットに関しましてどういうことが行われているかということを、二枚目の第一表及び第二表で明らかにしたいと思います。
第一表は改良ホーク、これは、二次防からこのホークというのは調達が始まったわけでありますが、何かいつの間にかそれが改良されて、そうしてその改良ホークが初期型から改善Ⅰ型、改善Ⅱ型、改善Ⅲ型というふうになってきた。そして、今
年度予算、九一
年度予算におきましては、この改善Ⅲ型の採用が決定されている。そして、このいわゆる
モデルチェンジと申しますか、買いかえが行われることに値段がだんだん上がってきているという傾向がございます。今度の改善Ⅲ型というのは、ここで見ますと〇・五個群ずつ買うわけでありますから、これは合わせまして一個群、一個群の総計所要経費は三百七十一億、こういうふうになっているわけでありまして、従来の一個群が百八十億、百九十億であったというのに比べますと非常に高くなっている、こういう現象がございます。
買いかえのたびにじゃ古いものは一体どうなっているのか、この問題がございますが、陸上自衛隊に勤務していた高井さんという方がお書きになった文章によりますと、ホークシステムの場合、基本型から改良型へ切りかえることにより、ミサイル本体、組み立て装置、発射機、
関連部品等のストックがむだになった、こういうふうに言われております。私たちは、ホークを入れるというふうに聞きますと、ホークが入って、そして八個群そろえばそれで一たんストップ、こういうことになるのかと思っていたわけでありますが、そうじゃない。もう十数年間にわたってどんどんどんどん毎年毎年買っていく、八個群どころじゃない、そういう買い物が行われる。そして、買いかえのときに過去にあった部品のストックなんかが全部だめになっていく、こういうことが行われているという事実を発見するわけであります。こういうことが本当に必要でやられているのか、ここが問題であります。一体このようなことが、
国会で
審議の上でそういう
予算が組まれているのか、こういう問題もございます。
もう
一つ、ペトリオットの問題がございます。これは、九一
年度までに既にもう六個群全部そろっているはずである。昨年は湾岸戦費の問題がございまして、四分の一個群はカットいたしましたが、一応もう沖縄までの分は全部そろうはずである。ところが、新
予算案におきましては〇・二五個群
プラス一セット、これが入ってまいりまして、そして防衛当局によりますと、このペトリオットの性能向上、能力向上に着手する、こう言っているわけであります。今度の
予算案には六百七十七億円が組まれておりますが、着手するというのであればこれから先一体幾らになっていくのか、この全体像というものが全く明らかではない。着手するに当たっては当然、どういうふうな能力向上であり、かつそれにはどのような経費がかかり、どういう
年度にどのようにして整備をしていくのか、こういう実態を、あるいは計画を出すべきであろう。そういうふうなことが行われないでどんどん買いかえをしていく、そして買いかえのたびにますます高い物を買い、古い物はどんどん使い捨てにしていくというふうなことが行われていいのかどうか、このことをぜひ御
審議をいただきたいと思うわけであります。
私は、装備を採用したりあるいは更新する際は、なぜそれが必要であり、かつその数量、こういう問題につきまして十分審査をする必要があろうと思います、時間のゆとりは十分にあるわけでありますから。新たな装備を入れる場合は、一たん入れますとこういうふうにどんどんふえていく、こういうことがございますから、今度も
新規装備は随分いろいろと組み込まれておりますが、これはやはり
最初が大事である。頭を出しますと、後はどんどん続いていく、そういう性質を持っているということを念頭に置いて私たちは考えなくてはならないんじゃないか、こういうふうに思うわけであります。
次に、安全保障についての発想を転換しなければならない、このことが急務になっているということを申し上げたいと思います。
冷戦が終結し、ソ連が崩壊した。もはやソ連の脅威がどうなったというふうな問題ではない。ソ連そのものが消えたわけであります。そして、今この旧ソ連のマイナスの遺産というのが極めて大きい。核の問題がある、あるいは兵器輸出、空母をつくりかけていた、それを売りに出すというふうなことをウクライナが言っているわけであります。ソ連が持っている、そして余剰とされている兵器だけでも大変なものでありまして、欧州通常戦力条約による削減分と、それからこの条約
関連で、ウラル以東にソ連が移送したその分だけでも、戦車が二万八千両、装甲車が二万五千両、火砲は三万円という莫大なものになっている。この余剰装備が
世界に流れ出してくるというようなことがあったならば、一体どういうことになるのか。
つまり、私たちは、ソ連が攻めてくるというふうなそういう脅威に対応する必要は全くなくなったわけでありますが、
しかしそれとは全く態様の異なる脅威に対応しなければならないときが来たわけであります。つまり、脅威の性質が、軍事的脅威から非軍事的脅威になってきた。このCIS諸国の問題にいたしましても、これは
日本が軍事力をもって対応できる問題ではないことは明らかであります。
環境問題がある、南北格差の問題がある、人口問題がある、いろんな問題がございますが、これはすべて軍事力以外の非軍事的手段で対応すべきものである。こういうことについてどう考えるか。
つまり、時代が今や大きく変わっているわけであります。産業革命以来の大変化である、こういうふうに言っていいと思いますが、もはや戦争やりほうだいの時代は去りつつある。これからは、やはり戦争は違法であり、そして、人類がともに生きていくという方向で私たちの安全保障
政策を展開していかなければならない、そういう時期ではなかろうかと思うわけであります。
第四に、その点にも
関連いたしますが、
国際貢献の問題がございます。
国際情勢が激変し、人類がともに生きる、そのために
日本が
貢献しなくてはならない、その点ではやはり
国民的合意が極めて大事であると言えます。そして残念ながら、過去、この二年にわたって行われてまいりました
国連平和協力法とかPKO協力法案とかという問題は、合意ができるのにごり押しをやって、結局、何回も臨時
国会がむだになっている、こういう現実がございます。やはり
意見の不一致、特に憲法問題をめぐって疑義がある、そういう問題は棚上げをして、一致できるところから
国際貢献をスタートさせる、このことがなぜできないのか、極めて私には不可解であります。
平和
貢献に関しまして私は小さな文章を
幾つか発表いたしましたが、まずGNP一%をこの平和
貢献に回す、こういうふうに考えております。そしてそれは十年、二十年の計画を必要といたしますが、スタートは千六百五十八億円である。これは、つまり九一
年度から九二
年度へ
防衛関係費の上積み額。この千六百五十八億円を平和
貢献のまずスタート資金として、そしてやっていく。これが第一。
第二に、平和をつくるのは人材であります。平和
貢献に対しまして長期的な計画のもとに約十万人、この人々がその
技術や能力を持ってやっていけるようにしていく、その人材養成のための研修センター的なものもつくる、こういうふうなことがやはり求められているんじゃなかろうかと思います。十万人に一人一千万円かけるといたしまして、これは一兆円かかるわけであります。
次に、平和奨学金を十万人に提供していく。現在
日本の国費による外国人の青年たちの留学生というのは約五千人にすぎません。これを十倍にふやす。十倍にふやして五万人にしたところで一千億円で足りるわけであります。十万人で二千億円で足りる。こういうふうなデータを見ておりますと、そのような平和
貢献のための人材の育成やあるいは人材の派遣というふうなことがどうして緒につかないのか。これがやはり求められているんじゃなかろうかと思います。
フルブライト奨学金というのが
アメリカにございますが、これはずっとやってまいりまして、百二十五カ国から十七万人、青年を呼びまして教育をしている。それに要した経費は十億ドルであると言われております。
日本の
国会にフルブライトさんのような方がいらっしゃらないのか、いやそんなことはないはずであります。何百人もいらっしゃるはずである。だから、そういうふうな、可能なそういうところからどんどんと平和
貢献を進めていくべきではなかろうかと思います。
私たちは
世界の平和、まあPKO等の問題がございますが、その論議は別として、やはり対症療法、紛争が起きたからどうするというふうなことだけではなくて、紛争原因を除去していくためにどうしたらいいのか、そこで
日本が
リーダーシップを発揮すべきではなかろうか、こういうふうに私は考えているわけであります。
以上で陳述を終わります。どうもありがとうございました。(拍手)