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田中参考人 ただいま御紹介賜りました
田中でございます。
こういう
機会を与えていただきまして、本当にありがたく思います。私の十五分間のお時間をいただいたわけでございますが、お手元に簡単な
レジュメがあろうと思います。それに基づきながら概略を御説明させていただけたらと思っております。
まず、
資本主義という
経済体制というのは、その中でも特に発展する国あるいは
都市というのは、絶えず
地価は上がり続けるといったことを、もう既に百五十年前、J・S・ミルが指摘しているところでございます。こういうような
現象の中で、これを裏づけるように、一八二〇年ごろあるいは一八四〇年ごろ、当時の
資本主義の最も発展した
イギリス、特にロンドンとかマンチェスター、リバプールで
地価が高騰したわけでございまして、その後、
世界の
覇権国といいましょうか、
中心国が
アメリカに移りますと、一九二〇年ごろ異常な
地価高騰がこの
アメリカでマイアミを
中心として起きたという歴史的な事実があるわけでございます。
あるいはまた、翻ってみますと、
我が国におきましても、一九一〇年ごろ、余り指摘されて劣りませんが、大阪を
中心とした異常な
地価高騰が見られたわけでございます。そして
高度成長期における
列島改造論議、あるいはまた、今回といいましょうか、
昭和六十年から始まったと言われる、一千兆円とも一説では言われる
バブル、これは多分
世界の歴史の中でも最も大きな
バブルといいましょうか、水膨れであったと指摘されているところでございます。
前回の、一九二〇年代
アメリカで起きました異常な
地価高騰、これにはやはり
都市計画の
不備、税制の
不備、
背後に
金余りという
現象があったわけでございまして、今回の
古今未曾有と言われるような一千兆円、
世界経済の約四割に相当するという一千兆円でございますが、これが起きたのも、やはり
我が国の場合もこの三つがあろうかと思います。そしてその
背後には、
土地に関する
国民が買わなきゃ損だという
意識が、どうも一九二〇年代、そして
我が国の三回にわたる
狂乱地価にも見られるという
現象であろうと思います。すなわち、的確な
土地情報というのが
国民の間に知られてなかったという、そういう
不備も考えざるを得ないと思うわけでございます。今回の
狂乱地価ということの後遺症に今いろいろ悩んでいるところでございますが、
土地情報の
整備ということは、これからの
狂乱地価を再び起こしてはならないという
視点から、どうしても必要不可欠なことであると考えられるわけでございます。
そのために、
土地情報の
整備をいかに進めるべきかということについて、簡単に私見を述べさせていただけたらと思っております。
まず、
レジュメに書きましたように、一番初めに、
土地政策の的確な
実施のための
土地情報の
整備の
必要性ということでございます。
土地政策の的確な
実施を遂行していくためには、
土地の
所有、
取引、
利用、
地価等に関する
土地情報を総合的、系統的に
整備することがどうしても必要不可欠であるわけでありまして、また、
土地情報の
収集、
整備、
利活用のための
体制を確立する必要があるわけでございます。この点につきましては、今回のこの
狂乱地価の深い
反省のもとで、事実上の
与野党一致法案どお聞きしておりますが、
土地基本法が制定され、その十七条に「国及び
地方公共団体は、」「
土地の
所有及び
利用の
状況、
地価の
動向等に関し、
調査を
実施し、
資料を
収集する等必要な措置を講ずるものとする。」と書かれているわけでございます。また、
総合土地政策推進要綱におきましても同
趣旨のことが書かれているのは、
先生方御
承知のとおりであるところでございます。
こういうように、
土地政策のために
土地情報の
整備の
必要性というのは言うまでもないわけでございまして、
土地の
憲法と言われる
土地基本法にもはっきりうたったということは、私は、これからの再度の
地価高騰を起こしてはならないということから、非常にいいことであると考えているところでございます。
そして、そういう中で、
我が国の
現状と
問題点ということが指摘できるわけでございますが、
先生方御
承知のとおり、
我が国は明治の
近代化以来、
統計調査の充実のために我々の
先人たちが非常に努力してきたわけでございまして、
統計調査がかなり
整備された国だと外国からは指摘されている、
評価されているわけでございます。しかし、残念ながら、
事土地に関するものにつきましては、非常におくれているということが指摘されてきましたし、今回の場合、それが明らかになったということも考えられるわけでございます。
このような
土地情報の根本的な
不備というものが、今回起こった
狂乱地価の原因でもあった
土地問題の
実態把握や適切な
施策が直ちに実行できなかったこと、あるいはまた、
施策の
総合性に欠け、ともすれば対症療法的な
施策に追われたこと、さらに、
土地政策についての
国民の
合意形成が困難であったというような
欠点が出てきたということは、
反省しなければならないと考えられるわけでございます。
もっとも、考えてみますと、
我が国の場合でも、先ほど申しましたように、
統計は、
公的統計あるいはまた
民間統計も含めますと、非常に多くあるわけでございます。しかし、
目的がそれぞれ違ったために、ばらばらであったり、
役所の間のいわゆる
守秘義務といいましょうか、そういうことにも阻まれてしまいまして、その現実的な
効果、総合的な
効果、体系的な
効果というのが必ずしも期待できなかったということがあるわけでございます。
こういう中で、
土地情報整備の代表的なものであります
不動産登記簿を考えてみましても、
土地所有に関する
統計は作成されていないという、ある
意味では根本的な
欠点があるわけでございまして、さらに、地積、地目が
現状と異なる場合が多々ある。よく言われますように、山林の縄延びという
現象がこういうことであろうと思いますが、
地籍調査成果の
積極的活用がこの面からも必要であると考えられているわけでございます。そして、
日本は
コンピューターが最も進んでいる、
コンピューター文化とも言われる国であるにもかかわらず、この
土地情報に関する
電算化が進んでいない。これも
予算の
関係もあろうと思いますが、
電算化が進んでおらず、また
土地情報としての集計・
検索システムの構築も現在のところ予定されていないとお聞きしているところでございます。この辺も早急に対応していただきたいという
感じがいたすわけでございます。そして、最も
土地情報の中でも
現状ではベースとなると考えられる、
基本となると考えられております
固定資産課税台帳でございますが、これは市町村をまたがる名寄せは、御
承知のとおり、できないという
現状でございます。さらに
守秘義務、
個人情報の
保護の問題があるということでありまして、この辺が大きなネックとなっているところは、御
承知のとおりでございます。この壁を突破しないと、有効なその
利用がなかなかできないんじゃないかという
感じもいたすところでございます。
そして、ある
意味ではもっと
基本ともなるべき
地籍簿についてでございますが、この
地籍簿という
我が国の
土地の最も
基本となるものが非常におくれているということでございます。
昭和二十六年からスタートしたとお聞きしておりますが、
進捗率は非常に低い。現在ですら三五%しか進んでない。とりわけ
調査の必要がある非常に
地価の高い
大都市圏でおくれが目立つわけでございます。こういう点も早急に対応していただかないと、
現状のままでは、約百年、一
世紀、
日本の
地籍がしっかりするために百年かかるともお聞きしておりますので、早急にお願いできたらという気がいたすわけでございます。刑法二百三十五条ノ二の
不動産侵奪罪ができた
背景、そしてまた、それに対する対応のおくれという問題も、この辺が
原点であると
法律上からは考えられるわけでございます。
さらに、
地価公示の点でございますが、
ポイント数は御
承知のとおり非常に少ないわけでございます。ことし
平成四年、やっと二万五百五十五とお聞きしております。これが
韓国では、今現在時点約三十万
地点で
地価公示をやっておるわけでございまして、
土地の面積からいきますと、
日本と比較してみますと、約百万
地点と考えられますので、
日本に比べまして五十倍も
地価公示をやっている。
韓国の
土地政策が進んでいる
一つの
背景、
原点が、こういう点にもあるように
感じられるわけでございます。
さらに
地価調査でございますが、これは御
承知のとおり七月一日でございますが、これも含めて先ほどの
地価公示とともに年二回しかないわけでございまして、多くの
先進国とか、
土地問題に非常に
関心のあるところでは、少なくとも年四回ぐらいやっているということから考えますと、できるだけ精細な
資料が必要でございますので、このためにも年四回ぐらいお願いしたいと思うわけでございます。これがないと
短期的な
地価動向の
把握としては不十分で、どうしても
後手後手ということにならざるを得ないという
感じがいたすわけでございます。
こういう中で、
我が国も
土地政策については必ずしも
先進国ではないということから考えます、と、他国ではどういうような
土地情報制度をやっているかということを
参考にすべきだと考えるわけでございますが、今回の
狂乱地価を含めまして、
地価高騰が非常にしやすい狭い
国土、高い
土地生産性を持っている
韓国でございますが、御
承知のとおり、
資本主義の限界とも考えられる
土地公概念法を
与野党一致法案として制定されたわけでございます。こういう中で、今回この
土地公概念とともに、ここまでできた
背景には、
土地情報がしっかりとされていたということを、我々は認めざるを得ないと思うわけでございます。
それにはいろいろなことが指摘されているわけでありますが、
土地台帳の
電算化、
所有、
取引に関する
統計の作成というようなことがあるわけでございます。この
背景には、
国民総
背番号制あるいは
住民登録番号制というもの、さらにまた一歩踏み込んで、
検認契約書といいましょうか、
登記をする場合には、
役所や何かの
検認の印がないと
登記できないというような形の
制度も、今回つくったわけでございます。こういう点で非常に
国民の
コンセンサスが、
地価を再び上げてはならないというようなことがあり、そしてその
成果が今徐々に出てきているとお聞きするところでございます。
さらに旧
西ドイツでございますが、これは
先進国の中でも最も
土地情報が
整備されていると
学者の間でも指摘されているところでございます。ここでは、
土地登記に
公信力があるため、
権利のすべてが
登記されているということでございまして、
我が国の場合、
第三者対抗要件にすぎない、
公信力は持っていないということから考えますと、国の
背景が違うということも認めざるを得ないわけでありますが、しかし、
土地台帳と一体となった
地図が
整備されているということでございます。そして、
不動産の
取引内容の
把握がしっかりしている。特にこの場合、
価格や何かは、グルントブーフといいまして、
土地登記簿といいましょうか、そういう中に
取引した
価格を必ず入れるということでございます。
日本の場合でも、
登記簿の中の
乙欄あたりにはいろいろなことが書かれております。特に
金融機関との担保の問題の違約は何%というような、ある
意味では
プライバシーによるようなものも書かれておりますが、そのかわりにこんなこともやってもいいんじゃないかという
意見も、
学者の間ではかなり有力になっているところでございます。
そういうような中で、
物件ごとの
物件編成カードがございますし、また
所有者による、人的な
編成によって、だれがどのような
土地を持っているかということがすべてわかるような
システムが構築されているわけでございます。これは、精密な
地図の
整備は
国家行政の根幹であるという認識があるという
背景があると聞いているところでございます。
それにまた
台湾、もう
先生方御
承知のとおり、かなり積極的におやりになっているところでございます。
また
イギリス、
自治の発祥の地と言われる
イギリスでございますが、
地方税はこれまでポールタックスが導入されるまでは、御
承知のとおり、
地方税はただ
一つのレート、いわば
日本で言う固定資産税的な税でございました。これがため、
土地情報の
整備をしっかりしなければならないという
背景もあったわけでありますが、これが
フー・ペイ・
フー・レシーブという感覚がしっかりできた、
地方自治は
自分たちの財源によるのだという
意識も、この辺が醸成されたものであろうと考えているところでございます。
さらに、
土地情報整備に当たっての
基本的な
視点でございますが、これは
土地情報を体系的に
整備し、常時適切に管理するということが何よりも必要であると考えるわけでございます。そして先ほ
ども申し上げましたように、
我が国はかなり
役所間においてもそれぞれの
目的でいろいろな
土地情報をしっかりされているわけでありますが、それがばらばらであるということから考えますと、
行政機関相互の
連携意識強化及び
情報の
相互利用というものが必要であろうと思います。
現状では法務局、例えば
登記をいたしますと、それが
地方自治体だけに行くわけでございまして、これも必ずしも税務署の方にすぐに行くような
システムにはなってない、あるいはその他
土地情報を必要とするところに生きた
登記の
現状がなかなか、
所有権の移転も含めまして、その
システム化がないわけでございます。これは
守秘義務の
関係もあると思いますが、
現行の中でも、
行政機関相互がもっと連携したらかなりのものができるんじゃないかという
感じもいたしているわけでございます。
そしてまた、一番最もおくれているというのは、
国民への適切な
情報の
提供がなかなか構築されていないということであるわけでございます。もっとも、今回の
狂乱地価によって
国民の
関心が非常に
土地に来たわけでございまして、ある
意味では千載一遇のチャンスであるということも考えられるわけでございます。
そして、
土地についての
公共の
福祉優先と
プライバシー保護という問題がどうしても避けられない問題でございまして、先ほどの旧
西ドイツあるいはまた
韓国あるいは
台湾という、いろいろ
土地問題で悩んだ結果、特にドイツの場合は十九
世紀末に、今から百年ぐらい前に
狂乱地価が起きたわけでございまして、こういう深い
反省のもとで、
プライバシーをある
程度犠牲にせざるを得ないという
コンセンサスができたわけでございます。
土地は
個人資産の重要な
構成要素であり、個々人の
土地の
保有状況というのは本当に
プライバシーに属するものであるわけでございますけれ
ども、しかし一方は、よく言われますように、また
土地基本法でも指摘されておりますように、他の
一般財と違いまして、かなり
公共性の高い財であるわけでございます。こういう
趣旨を
土地基本法第二条で「
公共の
福祉を
優先させる」としているところでございまして、これはある
意味では
土地の
憲法とも言われているところでございますけれ
ども、翻ってみますと、
マッカーサー憲法草案、この二十八条に
土地の条項があったわけでございますが、これが消えて
現行憲法第二十九条の
私有財産の尊重というところに入ってきた。この
マッカーサー憲法草案では、まさに
公共の
福祉をうたっていたわけでございますけれ
ども、これがこの
土地基本法でよみがえってきたと私自身は考えているところでございます。
こういう中で、この
プライバシーを
保護するということを念頭に置きつつ、
土地についての
公共の
福祉の
優先の
趣旨というものが、
土地情報の
収集、
整備、その
提供等において十分反映されることが、これからの
土地政策にとっては非常に重要であるわけでございます。
土地基本法では、
公共の
福祉を
優先させることをうたっておりますけれ
ども、具体的には、
公共の
福祉のためどの
程度の
制約が課されることができるかについては、
一般論としてはいろいろな御
意見があろうかと思いますが、少なくとも二つの
要件を備えているかによって判断されるべきではないかと考えるわけでございます。
まず第一は、その
制約の
目的が、
公共の
福祉のため
制約を課する合理的な
必要性を有しているかどうかということ、すなわち、合理的な
範囲内にあるかどうかという
視点でございます。それと第二に、その
制約の
内容が、
制約を課する
必要性に応じて合理的な
範囲内にあるかどうかということでございます。これはいささか抽象的でございますが、こういう大前提のもとに個々のケースを判断していくべきじゃないかと考えるわけでございます。
そして、
土地情報の
総合的整備でございますが、この
土地の
所有・
利用構造を明らかにする全国的な
調査が、今こそ求められているということであろうと思います。そして
地価公示地点の増設ということでございまして、これによって、適正な
地価形成と
課税評価の
適正化ということが期待されるわけでございます。これによって、さらに、
地価に対する
国民の信頼の
向上ということも必要となってくるわけでございますし、また、早期に
短期の
地価動向、
経済、特に
地価の場合は非常に動きますので、タイムラグというのがあることは望ましくないわけでございますから、
短期の生きた
情報というものを早く
収集し、それに早
目早目に、
政策が
先手先手とやっていくというためにも、この辺はどうしても必要不可欠な条件であると考えられるわけでございます。
そして、先ほど申しましたように、その
土地情報の
原点でもあると考えられます
地籍調査を一層促進していただけたらということでございます。さらに、
不動産登記簿の
電算化の促進ということがどうしても不可欠であろうと思います。完了まで今のペースで考えますと十年以上かかるとお聞きしておりますが、そんな時間はないと考えるわけでございますので、どうかこの
予算や何かをおつけいただけたらという
感じがするわけでございます。そして、これらに基づいた
情報を、正確な生きた
情報をその
政策に活用していただけたらと考えるわけでございます。
希望を含めまして、簡単でございますが、いただいた時間がちょうど過ぎましたので、これで一応やめさせていただけたらと思います。
ありがとうございました。(拍手)