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参考人(莇昭三君) 今回の改定は幾つかの柱がありますが、まず私は一部
負担金の改定について
意見を申し上げたいと思います。
外来、
入院わずか二百円と三百円の値上げという
意見もあるかと思いますが、現在の
自己負担金でも
高齢者には大きな
負担となっていることであります。通院しています
老人のハンドバッグを見ますと、ほとんどの方が二枚か三枚の診察券を持っています。
老人は幾つかの病気を持っていることが多く、それぞれの病気で医者通いをしなければならないわけであります。その都度一部
負担金が必要なわけであります。
日常の診療で最近気づきますことは、できるだけ二週間以上薬をくださいと言う方、あるいは内科医である私に、白内障や水虫の薬を出してほしい、そういう依頼をされる方がふえております。他科でわざわざ受診するよりもその方が便利だということもありましょうが、やはり一部
負担金の問題ではないかというふうに推定しています。
私の
病院に通院する
老人の受診
状況から判断しますと、内科へ月三回、歯科へ三回、時々眼科、耳鼻科等に通院するそういう平均的な
老人ですが、歩くのが不自由なことが多くてタクシーを利用しますが、一部
負担金を含めて大体月二万五千円前後が必要となっております。つまり、
自己負担は決して一部
負担金八百円ではないのが実情であります。
入院の場合はどうか。この点では、厚生省の資料にありますように、二万二千円、あるいは前の年は二万七千円の保険外
負担があるというふうに言われております。この数字から見ましても、
入院のときの一部
負担金と合わせますと、約四、五万円が出費になるわけです。しかし、この厚生省の調査は、おむつを必要としない方の集計ではないかというふうに思います。全
国保険医団体連合会の調査ですと、おむつ代に月二万から三万五千円が必要な人も多い。また差額
ベッドに入室しなければならないような
状況の方はその差額
ベッドが追加されるわけであります。おむつの必要な方でも月七ないし八万円が
自己負担として必要となっております。決して
入院一部
負担金月一万二千円で済んでいるわけではございません。
よく、
入院患者の一部
負担金の
必要性として、家にいても食事をするではないかという例が出されます。総務庁の八九年度の
高齢者無職世帯の家計収支の調査を推計しますと、
老人の一日の食費は約七百八十六円。一カ月にしまして二万三千五百九十一円になります。仮に
在宅老人と
入院老人のバランスと言うなら、
自己負担はこの
程度が限度で、おむつ代や室料等は保険で対応すべきではないかというふうに私は思います。
一方、
高齢者の家計を見ますと、
平成二年の
国民生活基礎調査では、年収二百七十六万までの世帯が七二・七%となっております。その
方々の
生活意識は、大変苦しい、やや苦しいと述べられる方が三九・九%であります。一方、厚生省の八七年の企業年金等研究会中間報告では、安定した
老後生活のためには必要給付
水準は月額二十七万五千円であるというふうに述べています。ですから、
平成元年の総務庁の家計調査報告にありますように、高齢無職世帯は月平均三万四千八百九十九円の赤字になるのは当然であります。この赤字
対策として、
高齢者は教育費、交通費、そして
保健医療費の節約で辛うじて
生活しているのであります。このような
老人の家計から見まして、一部
負担金はスライドして引き下げる必要こそがあるというふうに思います。
この九月十四日に総務庁の
老人の
生活と意識に関する国際比較調査が発表されました。それによりますと、子供たちが気にかけてくれなくなる不安が全くない人は、
アメリカやイギリスでは五〇%以上であります。我が国の
老人はわずか二〇%弱。この矛盾が、これからの人生で一番大切なものは何か、二番目に大切なものは何かという質問に対して、外国では宗教、友人であります、ところが
日本の
老人は財産という結果にあらわれております。豊かな国の惨めな
老人像を示しているのではないでしょうか。
今回の改定にその他とあり、
老人の心身の特性に応じた
医療等のために
医療内容の評価方法等々検討すると提起されております。しかし、今緊急に検討すべき問題は、
老人医療の差別をなくするための検討だと思います。
老人保健法の制定時に、
老人特掲診療報酬が今回と同じく
老人の心身の特性をうたって制定されました。これらの
制度はその後、
介護強化
病院という名目で定額制診療報酬がつくられたわけであります。これらの
制度は、二、三の例外がありますが、
老人の
医療だけに点数を低くしたものであります。このような体系は、
社会保障
制度を全
国民に適用している国々では類を見ない差別
医療制度であります。これらの
制度ができてから
老人患者の
早期退院を強化する
病院と、できるだけ検査などの
治療をしない
病院とに二極分化していることは周知の事実であります。
厚生省保険局の九〇年二月調査では、特三類
看護の
病院がふえまして、特二類
看護の
病院は減少しています。つまり
入院期間二十日間をめどに
患者の
早期退院を経営上勧める
病院がふえていることを示すわけです。今、
入院して二、三カ月たった
患者と家族の悩みは、いつ
退院を言い渡されるかが第一の心配と言われております。
私の
病院の経験ですが、昨年一年間に、七十歳以上の方で全介助または一部介助の
方々の
入院相談を三十九件受けております。つまり発病して
入院してよくなる。それで
在宅介護。
介護はこれ以上続けられないから
入院させたい、こういうケースであります。対応した結果ですが、
病院からの
早期退院と思われる方は十五例、
老人保健施設の
自己負担が高額で入所が続けられない方が三例、他は、現在の
在宅介護サービス制度等では到底これ以上
在宅介護が続けられない、そういう世帯であります。この
在宅患者の実態こそが
老人特掲診療報酬や二十日間を限定した特三類
看護制度からくる
老人医療の差別そのものだと思うのであります。
ある百床の
老人保健施設の例ですが、八八年五月からの一年間で病態が急変して二十一例が併設診療所または協力
病院に転送をされております。このうち八例が死亡していますが、その病名は腸閉塞、心筋梗塞、心不全、肺炎であります。問題なのは、死亡八例とも同じフロアの併設診療所に転送されたケースだということであります。つまり、今の
老人保健施設の
医療、
看護の問題点を示している気がいたします。
老人患者は安定していてもいつ何が起こるかわからない、老健
施設という名目での
医療の制限は結局は死亡という最大の
老人差別を示していると思うのであります。このことはまた逆に、症状不安定な
老人は
施設に入れたくないという
施設側の
老人排除という差別ともなっていると思うのであります。
今回の改定、その他の
医療内容の評価等々ですが、このような今回の今申しましたような
老人医療の差別、
病院からの
早期退院の強制、まともな
医療ができない
制度こそ検討すべきでありまして、心身の特性を口実にしてさらに
老人患者の差別の強化につながりかねないことを疑問に思っているわけであります。
次に、
老人訪問看護制度の創設に関して
意見を述べたいと思います。
地域での
在宅医療・
介護の
充実は今非常に必要だと私は思っております。私は、この点での強化は、今行われている
医療機関や自治体を中心にした
訪問看護、
介護センター、
ホームヘルパー派遣事業、こういう
制度を積極的に進める方向をとるべきで、今回の提案の
制度化には疑問を持っております。今回の提案は、
医療法や
老人保健施設の設置のときのような営利目的を禁止する条項が見
当たりません。八九年六月に発足しました法律第六十四号、民間事業者による
老後の
保健及び
福祉のための総合的
施設の
整備の促進に関する法律との
関係や、
アメリカでのこの
分野での実態からしまして、もしこの事業が開始されれば営利的な
訪問看護がどんどん進められることは火を見るよりも明らかだと思うからであります。
私の
病院では現在六十一名の方を
訪問看護しております。今の
在宅患者診療報酬でこの収入を合計しますと年間一千二百三十万円となります。ところが、この仕事には二・八人のナースがかかわっていますが、この
方々の人件費は一千二百四十三万円であります。つまり赤字であります。ですから、車代を含んだ
医療材料費品はもちろんのこと、医師の賃金も全然出てこないわけであります。
このような
レベルで今回の
老人訪問看護療養費も設定されると思います。つまり、基本的
看護・
介護サービスの概念で一括されまして、本当に必要な
看護・
介護はオプションで追加可能とされ、その部分は保険適用外、つまり営利部分となることは必然であります。これは、例えばKKダスキンがホーム
ケアサービスのメニューを出しておりますが、一日一時間、週三回で月十二万円であります。今の厚生省がこの
老人訪問看護制度でこの分を認めるとは到底考えられません。必要な多くの部分はオプションになるに違いないというふうに思うのであります。また、このオプション部分を前提にしない限り
制度としては
成立しない、業者の参入がないわけであります。このようなオプションという保険外
負担を前提にした
制度は、ますます貧富の差による
老人医療福祉の差別を持ち込む、
老人患者を含めた家族を
サービスの口実で企業の利潤追求の市場にするものと断言せざるを得ないのであります。
また、このような
制度は、現在の
訪問看護あるいは
在宅介護サービスの
制度の形骸化に通ずるのではないかというふうに予測します。特に問題になりますのは、アメニティー部分のオプション化は保険適用除外部分を他の
医療分野に拡大させ、年金と同様に二階建て
医療保険制度がつくられる引き金となりかねないことであります。憲法で
国民に保障されました
社会保障の否定につながると思うのであります。
最後に
公費負担割合の
引き上げの問題ですが、時間がありませんので結論だけ述べさせていただきます。
九〇年十二月の
老人保健審議会
意見では、少なくとも
公費負担を五〇%に
引き上げるべき、こういう記載があります。バランス論の前に、まず国庫が
老人医療費の五〇%は補完すべきだと思いますし、このことは湾岸戦争での百三十億ドルの戦費
負担を見ている
国民の素朴な感情ではないか、そのように思います。衆議院で二、三の修正がされていますが、しかし
介護は大切ですが、政府は
介護介護と言って議論を誘導してわずかの修正に応ずる陽動作戦をとっていることを
国民は見抜いています。
行政改革の今、非常に事務的に煩雑な
介護の
負担ではなくて、
老人医療全体に少なくとも五〇%の国の
負担が必要だと思うのであります。
政治の前提というのは、私は強い者は我慢をして弱い者を助けることではないか、そのように思います。
以上で
意見を終わります。