○東祥三君 私は、公明党・
国民会議を代表し、ただいま
議題となりました
証券取引法及び
外国証券業者法の一部を
改正する
法律案に対し、
総理並びに
関係大臣に
質問をいたします。
今回の
証券不祥事は、
国会審議が進むにつれ、日本の経済構造全体を根底から揺るがしかねない重大な問題であることが次第に明らかになり、戦後、日本の企業社会を支えてきたその仕組みが、今、内外から厳しい批判にさらされております。私は、この
不祥事が、ジャパン・バッシングを一層強める契機となるだけでなく、世界経済へ悪影響を及ぼすことを危倶せざるを得ないのであります。
官民癒着の日本型経済システムによる強い国際競争力によって、世界の金が日本に集中し、この貿易黒字と
金融の超緩和とが相乗してバブル経済を発生させました。バブルの余剰資金は新たなもうけ先を求め、土地や株式に向かい、これを担保にしてマネーがマネーを生む自己増殖のメカニズムが日本経済にビルトインされ、企業は国際競争力を一層高めたのであります。こうした実体経済から離れたマネー経済のメカニズムに手をかしたのが、ほかならぬ
証券会社、不動産
会社、そして
金融機関であります。
一九八七年から八九年の三年間のGNPの総額は千百兆円、土地と株の値上がりは何と千四百兆円であります。汗水垂らし一生懸命働いて千百兆円、一方、マネーゲームで千四百兆円であります。ガルブレイス教授を引き出すまでもなく、だれが見ても「バブルの物語」としか言いようがありません。しかし、バブルによる悪魔のうたげは当然ながら長く続きません。九〇年初頭からのバブルがはじける過程において、
我が国の
経済社会システムはさまざまな矛盾を露呈いたしました。その一つが
証券・
金融スキャンダルであります。
総理、世界最大の
市場を持つに至った日本の
総理大臣として、この
証券スキャンダルをどのように認識されておられるか、どこが問題で、それをどのように解決しようとされておられるのか、今回の
証券問題に対する
総理の御見解と
責任の自覚、解決に向けた御決意のほどを改めて伺いたいのであります。
さて、今最も必要なことは、この
不祥事を生んだ根本
原因にメスを入れ、全容
解明の上に立って公正、透明な
証券市場をつくることであります。全容
解明なくして対策を立てることなど不可能であります。しかし、疑問点のうち肝心なことは今もって何一つ
解明されておらないと言っても過言ではありません。
国民の皆様は、
不祥事の全容
解明を強く要求しておりますしかるに、
証券・
金融問題
特別委員会の
審議における自民党の対応は、問題であります。我が党など野党が共通して要求した
証券不祥事のかぎを握る田淵義久
野村証券前社長など、この
不祥事に精通する実務
責任者に対する
証人喚問の追加要求を拒否したのみならず、参考人でもだめだというのでは、全容
解明の意思があるのかどうか、全く理解に苦しみます。自民党総裁として、海部
総理の明確な答弁を求めるものであります。
解明されていない問題点のうち、特に九〇年四月以降の
損失補てんはどれぐらいあったのか、公表された
補てん額より少額のものはなかったのか、
信託銀行のファンドトラストでの
補てんの
実態はどうか、海外の事業法人等を利用した
損失補てんはどうなのか、
政治家との
関係は本当になかったのか、暴力団絡みの相場操縦の
実態は等々、
国民の疑念は深まりこそすれ、全く払拭されておりません。何をもって全容
解明がなされたと
考えるのか、
総理の御所見を伺いたい。また、全容
解明がなされていないと
考えるのなら、何ゆえこの段階で
再発防止策である本
改正案を提出されたのか、明確な見解を伺いたいのであります。
損失補てんは、本来、
損失保証という
違法行為と一体であり、
補てんという履行
行為によってこそ
損失保証は完結するのであります。にもかかわらず、
大蔵省は、
補てんという字句が法文上に明記されていたいことを理由に、
補てんは違法となっていないから問題であり、通達によって禁止したとしております。こうした
大蔵省の態度は、
証取法の機能を矮小化させ、弱体化させるものと言わなければなりません。
大蔵省は、営業特金が保証の温床であるとの認識でその廃止を指導したのでありますから、
損失補てんが表面化した段階で、まず
関係者を呼び出し、保証の立証に全力を挙げるべきでありました。立証の困難性を理由として、
行政責任を回避するために、
損失保証と
補てんを別のものだとする論理を用意するなど、法解釈、運用の
姿勢として、監督の立場にある者のとる態度とは到底言えないのではないでしょうか。
損失補てんは、一面で企業人のモラルの問題でありますが、モラルは法の下支えがあって初めて確立されるものであります。その意味で、今回の
不祥事は、
大蔵省が真の意味で
証取法の番人たり得なかったことを明確に示しております。
大蔵省に
市場規制の監督権限を集中させることの問題点を
指摘するものであります。
総理の御見解を伺います。
さて、
証取法五十八条には、悪質な不正
取引の禁止が定められ、
違反した場合にほ
刑事罰が
規定されております。私は、今回の
損失保証、
補てん問題には、この条項を適用することが可能だと
考えるものであります。五十八条の「何人も、」に
証券会社が含まれないという解釈はなく、
損失保証の高度の反公益性から見て、今回の
損失補てんは、
損失保証を禁止する
証取法五十条に該当することはもちろん、刑罰
規定のある五十八条にも
違反するものと
考えるものであります。
証取法五十八条は死文化しているというような認識に象徴される
大蔵省の
姿勢にこそ、今回の
損失補てん問題の本質的な問題があると言わなければなりません。御見解を伺うものであります。
今回提出された
証券取引法改正案は、事前の保証、事後の
補てんを
法律で禁止するとしており、
違反した
証券会社と
顧客の双方に
罰則規定を設けております。しかし、問題点を幾つか
指摘せざるを得ません。
まずその一つは、
損失補てんの基準を
証券業界の
自主ルールにゆだねており、現時点でまだその
ルールもできていないことであります。
法案を提出しても、その
法律を実質的に適用する基準がないというのでは、一体何を
審議せよというのか、政府の
姿勢を疑わざるを得ません。この
法律と
自主ルールとを媒介とした
行政と
業界の
関係を
考えたとき、今回の問題の
原因となった癒着構造そのものは依然として温存されており、
自主ルールに名をかりて、みずからの
行政権限を手放そうとしない
大蔵省の意図が明白であります。
大蔵省から独立した監視機構の必要性を
指摘するものであります。今回の
不祥事について、一体何を反省したのか、疑問に思わざるを得ません。
二つには、
補てんを受けた
顧客は、要求しなければ罰せられないことになっております。今回の
証人喚問を通じて、
証券会社の首脳
たちは、
損失補てんは
独自判断だったと述べ、
顧客からの要求がなかったことを強調しております。一方、田渕節也
野村証券前会長は、
補てんを受けた企業側も担当者は認識があったとも証言しており、
顧客側が
補てんの事実を知っていたことを明らかにしております。にもかかわらず、この
改正案では、
補てんを受けたことを知りながらも、
顧客側からは要求しなかったことにすれば、
顧客についてはすべて合法となり、もらい得となって、全く該当しなくなります。それではこの
法案は一体何のために提出したのかわかりません。
顧客に対する
罰則は、認識しながら
補てんを受けていた者を
対象とすべきであります。
顧客の
罰則適用を、要求した者にのみ限定した理由はどこにあるのか、伺いたいのであります。
三つに、
損失補てんの温床となりやすい
証券会社の
取引一任勘定取引を禁止しておりますが、なぜもう一つの問題である仮名・借名口座
取引をあわせて禁止しないのか、これも不可解と言わぎるを得ません。
四つとして、今回の
証券取引法改正案はいわば緊急避難
措置であって、抜本
改革は次期
国会に提出される旨を表明しておりますのであるならば、現行法のどこが問題で、どう
改正しようとしているのか。銀行と
証券の業際問題や、
免許制度や
売買委託手数料の自由化など、抜本
改革の骨組みはどうなるのか。少なくとも、政府として問題意識を鮮明にすべきであります。小手先の対症療法は事態を悪化させるだけであります。
結論して言えば、今回の証取
法改正案は、緊急是正と称して、部分的な対策にとどまるだけでなく、その
実効性にも疑問が残るものであります。それぞれの疑問に対し、明確なる答弁をお願いいたします。
この際、私は、現行
証取法に対する見解を明らかにしておきたいと存じます。
現行法は、その
目的を「
国民経済の適切な運営及び
投資者の保護に資するためこと第一条に
規定しております。しかし、
国民経済に資することの具体的
内容が明らかにされておりません。私はい法が
実態と適合せず、
市場にさまざまな問題を生じせしめる
原因も実にここにあると
考えるものであります。
証取法は、
市場法体系の一角を構成する経済法規として、
市場機能の
確保、すなわち公正な
価格形成のための環境づくりに法の
目的があることを明らかに
規定すべきであります。そうすることによって、初めて「
国民経済の適切な運営及び
投資者の保護に資する」ことの具体的な
内容が鮮明になるとともに、グローバル化、ハイテク化、
金融の
証券化という
市場の
実態に適合した
証取法制になると
考えます。
公正、透明な
市場をつくるために、今最も必要なことは、
市場の
価格機構が公正に働くための環境を整えることであります。そのために、
株価操縦、ディスクロージャー等の
市場規制を完全なものとすることが重要であります。課題となっている
損失保証、
補てんの禁止も、この一環として位置づけて
規定すべきであります。本来、これらの環境が未整備だったこと自体が問題であり、これらの規制策が整備されて、初めて、
証券取引の基本である自己
責任の前提条件が整うものと
考えるものであります。法
目的の明確化に対する見解とあわせ、
市場規制に対する
総理の御見解を伺いたい。
最後に、私は、今回の
証券不祥事の温床である
行政のあり方を、これまでの
保護育成型から監視型へ抜本的に転換する必要があると
考えます。
監視機構について、行革審の答申では、
大蔵省からの独立を求める
国民の期待とかけ離れた。
実効性に疑問の残る
内容が答申されております。私は、
大蔵省から独立した組織として、公正
取引委員会と同様に、強制
調査権など多くの権限を持ち、国家
行政組織法第三条を根拠とする仮称
証券取引委員会を創設すべきだと
考えます。いわゆる日本版SECの創設に関する
総理の見解を伺い、私の
質問といたします。ありがとうございます。(
拍手)
〔
内閣総理大臣海部俊樹君
登壇〕