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1991-09-04 第121回国会 衆議院 法務委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成三年九月四日(水曜日)     午前十時開議 出席委員   委員長 伊藤 公介君    理事 太田 誠一君 理事 塩崎  潤君    理事 田辺 広雄君 理事 星野 行男君    理事 山口 俊一君 理事 小森 龍邦君    理事 鈴木喜久子君 理事 冬柴 鉄三君       赤城 徳彦君    石川 要三君       奥野 誠亮君    中島源太郎君       小澤 克介君    岡崎 宏美君       清水  勇君    高沢 寅男君       倉田 栄喜君    中村  巖君       木島日出夫君    中野 寛成君       徳田 虎雄君  出席公述人         成城学園長   加藤 一郎君         弁  護  士 吉峯 啓晴君         社団法人不動産 大富  宏君         協会専務理事         弁  護  士 木村 保男君         全国地貸家協 藤井鋭三郎君         会事務局長         早稲田大学法学 内田 勝一君         部教授         全国借地借家人 酒井金太郎君         組合連合会会長         弁護士     荒木 新五君  出席政府委員         法務大臣官房長 堀田  力君         法務省民事局長 清水  湛君  委員外出席者         法務委員会調査 小柳 泰治君         室長     ————————————— 本日の公聴会意見を聞いた案件  借地借家法案内閣提出、第百二十回国会閣法  第八二号)  民事調停法の一部を改正する法律案内閣提出  、第百二十回国会閣法第八三号)      ————◇—————
  2. 伊藤公介

    伊藤委員長 これより会議を開きます。  第百二十回国会内閣提出借地借家法案及び民事調停法の一部を改正する法律案の両案について公聴会を行います。  この際、御出席公述人の皆様に一言ごあいさつを申し上げます。  公述人各位におかれましては、御多用中のところ御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。  借地借家法案及び民事調停法の一部を改正する法律案に対する御意見を拝聴し、両案審査参考にいたしたいと存じますので、忌憚のない御意見をお述べいただくようお願い申し上げます。  なお、御意見は、加藤公述人吉峯公述人大富公述人木村公述人の順序で、お一人十五分以内でお述べをいただき、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。  念のため申し上げますけれども、発言をする際はその都度委員長許可を受けることになっております。また、公述人委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、あらかじめ御承知おきいただきたいと思います。  それでは、まず加藤公述人にお願いいたします。
  3. 加藤一郎

    加藤公述人 加藤一郎でございます。  私の専門民法で、東大法学部で長い間民法教授をしておりました。八年ばかり前に停年になりまして、ただいま成城学園学園長ということをいたしております。同時に、弁護士の登録をして弁護士もいたしております。  法制審議会の方は、大分前から民法部会長ということで、民法部会の中には財産法身分法の小委員会というのがございますが、大体部会長がそれを両方兼ねていたしておりまして、この財産法委員会借地借家法の見直しといいますか検討をしようということを決めたのが昭和六十年、今から六年ばかり前のことでございます。  それから、初めに少し検討をいたしまして、改正問題点というのを出して各方面の御意見を伺う。その御意見を伺った上でまた検討をしまして、改正要綱試案というのを出しましたのが三年ばかり前でしょうか。これについても各方面の御意見を伺いまして、主として団体等から七十余りの御意見がそれぞれ寄せられました。またそれを参考にしながら検討を進めまして、このたび要綱案を出しまして、それに基づいて今の改正案ができたわけでございます。  この改正案につきましては、私は三つの点を申し上げたいと思うのですが、第一は定期借地権という新規の形式を考えたこと、それから第二は、それ以外の一般借地権といいますか普通借地権と申しますか、今までの借地権について検討をしたこと、それから第三には、それと関連しまして、地代家賃については調停制度をもう少し活用したらいいということで民事調停法改正案も一緒に含めてお出ししてある、こういうことでございます。  まず第一の定期借地権でございますが、最近借地というのが減ってまいりまして、新規借地はほとんどないという状態になってまいりました。これは、一度土地を貸しますと、更新でずっと続いてまいりましてなかなか返ってこない、一度貸したらもう返らないというような意識土地所有者の方にございますので、新しく貸す人がなくなってきているというのが実情でございます。  それを何とか打ち破って、土地供給考えることはできないか。そこで出てまいりましたのが更新のない借地権です。定期借地権という言葉自体がちょっとおかしいのです。借地権は全部定期で最低二十年から三十年というふうになっているのですけれども、更新がないからそこで土地は必ず戻ってくる、そういうものを考えようということで出てまいりましたのがこの定期借地権でございます。  これは、土地利用がかなり多様化してまいりまして、既にいろいろな需要から、例えば土地信託であるとか、あるいは更新請求をしないから土地を貸してくれという、住宅都市整備公団がそういうやり方で土地を借りて建物を建てる、そういうような例がかなり出てまいりました。これは、ある意味では今の借地法が少し硬直になっていて、それを何とかくぐって借地をしよう、借地に当たるようなものをつくっていこうということのあらわれだと思いますが、そういう需要多様化に対応して、借地権についてもそれを考えていくべきだということで出てまいりましたのが三つ類型定期借地権でございます。  その第一類型は、初めは長期と言っておりましたが、法案ではこれが定期借地権と言われるもので、五十年以上の長期ならば期間が来たら返してもいいのではないか。  それから第二類型は、三十年以上の借地で、期間が満了したときに建物を譲渡するという建物譲渡契約付借地権建物を返せば当然借地権も消滅して土地が戻ってくるわけでございますが、そういうもの。このメリットとしましては、例えば借地の上の分譲建物を買ってそこに住んでいる人はそのまま居住ができる、所有権は戻っても、そこに新しく借家権法律上設定して借家ができる。そこに住んでいる借家人がいるとすれば、これもそのまま居住ができる、そういう居住用でずっと続いていく。ただし建物は売り戻し、借地権は消滅する、そういうものでございます。  それから第三類型は、十年から二十年という短期のものでございますが、例えば郊外にあるファミリーレストランのようなものですと、その間に投資を回収するから、それでいいから貸してくれ、そういうものが考えられるわけでございます。  そういう三種類の定期借地権考えた。ただそれは、今の普通借地権にいわば風穴をあけるようなことになりますから、それが乱用されないようにかなり厳重に要件等を絞っているわけでございます。期間の点であるとか、事業用事業用であることを明確にするとか、あるいは手続としては公正証書を要求するとか、そういうようなことで、それが余り広がり過ぎないようにしたわけでございます。  というのは、これが余り一般化してしまいますと普通借地権というものがなくなってしまう。全部定期借地権でなければ貸さない、こういうことになっては困るということで、今の期間の点にしましても、全部つなげて広く定期借地権をつくったらいいではないかという意見もございました。しかし、そうなると全部が定期借地権に行ってしまうおそれもある、やはり普通借地権というものを残しておく必要がある、そのためには、その要件を絞ってそれぞれの需要に応じた利用をしてもらう、それがむやみに広がらないようにする、そういう配慮をしたつもりでございます。  そういうことで、これはやってみないとわからない点もございますが、これによってある程度借地供給がふえることを期待しておりますし、そうなればその費用を家屋の方に持っていけまして良好な家屋というものが建っていくのではないか、そう期待をしているわけでございます。  それから第二点の、今度は普通借地権の方へ参りますが、これは最初既存借地権にもある程度適用してそれを合理化するというか、もう少し柔軟に弾力的に処理ができるようにできないかということで検討を始めたわけでございます。しかし、議論をしております間に、既存のものに適用するといろいろな問題が起こる可能性がある、それからマスコミ等ではこれで貸し主権利が強くなるのだということが大分書かれまして、そうなると貸し主の方はそれで何かぐあいがよくなるように思うし、借り主の方はそれで非常に不安になるというような、余り予想しなかったような波及効果が出てきそうなものですから、これはそんなに頑張って既存契約適用する必要はないので、むしろ既存契約は今までどおりでいく、既得権といいますか、それだけ期待をして皆さんやっておられるわけですから、それはそのままにしておいて、改正法はこれからの新規普通借地権適用するということでいくべきだということで最後の報告を出しております。法案でもそういうふうになっているわけです。  そういうわけで、既存契約には適用がないので余り詳しく説明する必要はないかと思いますが、そこで今度、新規普通借地権はどうなるかと申しますと、まず存続期間ですが、最初期間は、今まで二十年、三十年というのがございましたが、三十年以上、それから更新後は今まで二十年、三十年でしたけれども、更新は十年にする。これは十年で必ず返すという意味ではございませんで、そこで正当事由チェック機会を与える。今のでいきますと、ちょうど期間満了のときに正当事由がないと二十年か三十年どうしても得たざるを得ない。それで一度貸したら返らないというように思われたりしているわけでございまして、チェック機会は十年ごとでいいのではないか、借りる方も不安定では困りますから十年あれば一応安定できる、そういうことで十年ということにしたわけでございます。  この期間満了のときに問題になるのは正当事由でございますが、現行法では自己使用の必要ということだけ。「其ノ他正当ノ事由」ということになっておりますが、これは判例で、自己使用だけでは、自分が使いたいといっただけではだめで、いろいろな状況をしんしゃくしなければならないということになってきております。それを法文の上でもはっきりさせておいたらということで、正当事由も少し細かく考慮事項を挙げるようにいたしましたが、これも既存契約には適用しない、新規契約から適用する、そういうことになっております。  今度は、正当事由があって土地を返すというような場合に、今まではゼロか一〇〇かの解決で、返すか続けるかどっちかになってしまって、そこがやはり硬直化している。そこで、返す場合でもある程度の金銭を払うべきではないか、それから、続ける場合でも今度は続ける方で若干のものを払うべきではないか、これは今までもございますけれども、そういうことで金銭的な調整をそこで図って、ゼロと一〇〇の間で中間的な解決が図れるようにしようということでございまして、立ち退き料というのは余りいい言葉でないかもしれませんが、金銭を給付して調整をするという道をつくろうというわけでございます。  同じようなことは借家についてもございまして、借家については、確定期限つき借家ということで、転勤とかいうことで一定期間貸すという場合には、これも必ず返ってくるように更新なしの借家権をつくるというようなことにしたわけです。  次に、第三点の調停制度のことでございますが、地代家賃については、現在では地代家賃増減請求というのは訴訟解決することになっております。借地法改正で前に借地訟事件というのができましたが、これは、許可とかそういうようなある程度行政的な処理の必要な場合に非訟事件にしたわけでございまして、地代家賃は今も訴訟でやることになっているわけです。これは、もう少しそれが訴訟でなくてもやれるようにしようということで、最初は非訟化も考えたんですが、非訟にしてもそれほど変わらない、そこで、それよりはやはり貸し主借り主間の話し合いで解決する調停を活用する方がいいのではないか、そこで、一つ調停前置主義をとりまして、訴訟をやる前に調停をまずやってみる。それから第二には、当事者が合意をしている場合には調停委員会の決める調停条項解決する。これはまあ一種の仲裁的なものですけれども、地代家賃の場合には金銭である程度解決のつく問題ですから、何かそういう道をつくって、合理的にあるいは迅速に解決ができるようにしたらどうか、この調停委員会にはそれぞれの有識者といいますか専門的な知識のある方に入っていただいて適正な処理をしていこう、こういう考え方でございます。  以上、私の公述を終わらせていただきます。
  4. 伊藤公介

    伊藤委員長 ありがとうございました。  次に、吉峯公述人にお願いいたします。
  5. 吉峯啓晴

    吉峯公述人 公述人吉峯でございます。  私は、弁護士をしております。借地法借家法専門一つになっておりますけれども、借地関係それから借家関係については、弁護士はどちらの側にもつきます。労働事件なんかでは、会社側でやるか組合側でやるかどっちかということになりますが、借地借家人組合顧問をなさっている弁護士さんとか、例えば貸地貸家協会顧問をなさっている先生方であればどちらかの立場でということになると思いますが、一般弁護士は、あるときは地主側に、あるときは借地人側に、あるときは家主側に、あるときは借家人側にということで事件を取り扱っております。したがって、私は、そういうどちらの事件も担当する弁護士立場から、今回の借地借家法改正問題について今から御意見を申し上げさせていただきたい、こういうふうに思うわけです。  それで、今この改正案の概括的な問題については加藤一郎先生の方から御説明がありました。その点を踏まえながら、重複しない範囲で意見を述べさせていただきたいというふうに思います。  今回の借地借家法改正問題は、一九八五、六年ごろから起きてきたわけですけれども、当時の新聞報道等を拝見しますと、最近でもそうなんですけれども、先ほど加藤一郎先生の方からもお話があったように、貸し主権利が強化される、それから借り主権利がどうしても弱くなるというふうな改正が行われるんだといった報道がほとんど支配的だったように思われます。そのことが当時から貸し主の方には大変な期待を抱かせる、借り主の方には非常に大きな不安を抱かせるというふうなことが事実の問題としてあったろうと思います。恐らく改正をお考えになった時点では担当者方々はそういうことを必ずしもお考えでなかったのかもしれませんけれども、事実の問題としてそういう事実が生まれました。  その結果、このところ少し下火にもちろん今の情勢でなっているわけですけれども、一昨年くらいまでは盛んにいわゆる地上げの問題があったわけですけれども、その中で、例えば地上げ業者などは、近々借地法借家法改正が行われてあなたたちの権利はもうすぐ弱くなるのだ、今ならこんなに多額の立ち退き料を払ってあげられるけれども、もうすぐだめになるのだよというふうなことで、この借地法借家法改正問題を地上げ等に言うならば悪用していった。それが一部ではかなり大きな成果をおさめたことはあっただろうと思います。今度の借地法借家法改正問題を御審議いただくに当たっては、そういう前提があるのだということはぜひ踏まえていただきたいというのが弁護士立場からの希望であります。私が今から申し上げることも、法案の一字一句の字面の問題だけではなくて、今言ったようなことが事実として起きているのだということを前提に御意見を申し上げたいと思うわけです。  今回は、先ほども加藤一郎先生の方からお話があったように、一つ定期借地権というものが新設されることになっております。そして今までの借地権については、一つ正当事由の問題が表現が変わる、それから存続期間が、当初は木造は二十年、鉄筋コンクリートは三十年以上だったわけですけれども、それが三十年に合わさって、それで更新後がそれぞれ木造は二十年、鉄筋は三十年だったのが、一律に三十年になったのを受けて更新後は十年になる、これが柱でございます。  それで審議過程では、試案の段階とかではいろいろなことが言われていましたけれども、今回法案になるに当たっては、普通借地権、要するに新設される定期借地権以外のもともとの借地権については、新しい法律が施行される前に契約された借地契約借家契約については一切新法適用がないというふうになったわけです。これは先ほど申し上げたような借地人借家人等の不安を踏まえたものだと思いますけれども、問題は、そのことだけで問題が解決したのだろうかということが一つあります。  どうしてかといいますと、新法施行前に契約をした借地権借家権にしても、新法施行後に更新の時期が来ます。そのときに、今借地契約とか借家契約更新実態がどうなっているかというと、大体は弁護士等が関与するのではなくて、文房具屋等で売っている日本法令であるとかそういうところの定式の借地契約書であるとか借家契約書をどちらかが買ってきて、大半の場合は家主側地主側が買ってきて、不動文字で印刷されているものに判こを押すのが実態です。恐らく新法施行後も同じことになります。その場合に、恐らくそういう法令様式業者新法施行を踏まえて契約書をつくるだろう。そういたしますと、新しい契約書は場合によっては新設された定期借地権のどれかに当てはまるような契約書を持ってくる場合もあるでしょう。大半そうなると私は思いますけれども、仮にそうでないとしても、新法を踏まえた上での契約書を持ってこられる。そうすると、家主側地主側は普通はたくさん持っておられますから、弁護士等に相談する機会も多いということで管理も行き届いていますけれども、借りている方は一件だけだから、管理が行き届いているようで実際は、普通の方はそういう前の契約書なんかは保存していないということになります。そうすると、いつの間にかなし崩しで、従前のものは従前どおりだという今度の改正案趣旨が没却されて新法適用されていく。新法適用されるだけではなくて、新法の中の定期借地権、これは定期借地権と言うよりも更新のない借地権と言った方が正確だろうと思いますけれども、更新のない借地権に切りかえられてしまう可能性が高いと思います。そうだといたしますと、今までの借地借家法趣旨がやはり没却されてしまう。  もし借地借家法が今まで言うならば積極的な役割を果たしてこなかったという前提に立つならばそれで結構だろうと思いますけれども、借地借家法は大正十年から七十年間そんなに大きな修正があるわけではありません。基本的な枠組みは変わっていないわけです。それで、この七十年間で借地借家法は、弱い立場借地人借家人権利保護という意味では非常に大きな役割を果たしてきた。一部確かに、それを乱用してごね得を図る人であるとか、貸す方も普通のサラリーマンの方で、借りている方がよほど力の強い方で、そういう方が借地法借家法の規定を盾にとってごねるというふうな現象は確かに一部にあります。しかし総体で見た場合は、この間の例えば非常な地上げのあらしというふうなものを何とか借地人であるとか借家人がくぐり抜けることができた、立ち退かずに済んだ、あるいは立ち退く場合でもそれなりの立ち退き料等を手にして立ち退くことができたというのは、やはり正当事由を厳しくしていて、そして特に借地については存続期間をきちんと定めている借地法借家法保護があったからだろうと思います。そういう意味では、基本的には七十年かかって借地人借家人の言うならば当然の権利意識を徐々に定着させて、そして今日に至っているという面が私はあるだろうと思うわけです。  そういう意味で、今回定期借地権が新しく入って、そして普通の借地権についても中身が変わるということになりますと、借地人の方あるいは借家人の方は心理状態が非常に混乱します。特に今までマスコミの攻勢で、先ほど申し上げたような事実があるわけですから、非常に実務が混乱する。我々弁護士のところに依頼に来てくれれば、これは加藤先生もおっしゃったように、正当事由の問題なんかも、表現は変わりましたけれども特に新しいことがそんなに加わったわけではありません。確かに判例等で言っていることを文字にあらわしたというふうな側面が強いと思います。  しかしながら、正当事由に関して言いますと、今までは自己使用その他というふうになっていたわけですから非常に限定されたものなんだなという意識がやはり徐々に定着しているわけですね。最高裁なんかは、自己使用があればいいというものじゃないんだよ、借地人の側の事情も考慮するんだよ、だから自己使用だけが考慮すべき理由じゃないんだよというふうなことを言っています。恐らく今回の改正担当者方々は、そういう意味借地人側事情もちゃんと考慮するということも入れるんだよということをおっしゃるだろうと思います。そのほかに、どう使われているかとか、従前どういう経緯があったとか、そういうことも当然考慮すべき事項です。  しかし、それは弁護士がついて裁判所に行って、それで今の条文でも裁判所はそう考慮していますし、弁護士もそういうことを考え交渉はしている。しかし、一般の人のレベルで言えば、自己使用その他ということで非常に限定されているんだという意識がやっと定着しているのに、違った表現がいろいろ入ってきますとこれはやはり、今は借地人借家人交渉に当たる方は、地主さんは直接はやりません、やはり業者に委託したりします。やはりプロがやります。そういう意味では、こういう表現も入ったしこういう表現も入ったんだ、前の経過はこうだったろうとか、あるいは、あなたはこういうふうにしか使ってないじゃないかというふうな形で、どうしても解約が促進される方向に使われるのではないかというふうに強く危惧するわけです。そういう意味で私は、少なくとも普通借地権については今回の正当事由表現を変えることはよくないだろうというふうに思います。実務的に非常に混乱を来します。  それから存続期間については、二十年、三十年だったのを三十年にというのは、最近結構堅固な建物がふえてきましたし、住宅ローンも二十年ではなくて三十年というのもふえてきましたから、三十年に合わせるというのは非常に合理的だろうと思います。しかし、更新後十年というのは、先ほど加藤先生の方からもお話がありましたけれども、そこで例えば解約に当たっては立ち退き料もあり得るし、続けてもらうためのお金の給付もあるんだということがありましたけれども、これは、そこでの金銭調整借地人側からもお金を払う事態を改正担当者考えておられるというのは実は私は今までちょっと気がつかずに、今加藤先生お話でそういうお考えもあるのかとはっと気がついた次第ですけれども、今は最高裁判所判例では更新料は要らないということになっております。世間の人はみんな要るんだと思っていますけれども、要らないのですね、法的には。ところが、十年十年で言うならば更新料を払う余地が実際にも出てきて、なおかつチャンスが十年十年ということでどんどんふえていくということは、やはり芳しくない。そういう意味では期間についても三十年三十年でいくべきだろうというふうに思っております。  次に定期借地権の問題ですけれども、定期借地権については、従来の借地借家法考え方、これは借地人借家人保護のための片面的な強行規定としての面がありますから、借地人借家人保護のための法律だということは学者を含めて争いがないと思いますけれども、定期借地権はちょっと性質が違うだろう。先ほどあったように郊外レストランに対応するとか、あるいは新規の社宅であるとか、そういう賃貸住宅が今不足しています。定期借地権を分譲で買う人は個人のレベルではいないと私は思います、返さないといけないものをですね。そういう意味では、定期借地権についてはそういう観点からのものであれば必要性はあると思います。ただ、借地借家法改正の中に入れるのではなくて、もっと土地政策の観点、住宅政策との整合性を持たせた上で、別個の特別立法としておやりになって、自分が借りている小規模な借地なんかとは事情が違うんだということをはっきりわからせた方がいい。そういう意味では、面積を大規模なものに限るとかあるいは税制上の優遇をいろいろするとかなさって、別の制度としてもう少し整備した方がいいんじゃないかというふうに思っております。  それから、借家正当事由については、今申し上げたことと同じことですけれども、転勤する方等のための限定された借家、これは必要性があると思います。ただ、これも悪用される可能性があります。きっとあります。そういう意味では、私がきょう公述人になるに際していただいた借地借家法関係の法務省が出した資料にフランスの法律が引かれていますが、非常に要件を厳しくしていますね。こういう理由があるから短くやるんだよと言っていて、そういう理由が実際に来なかったときはだめだとか、その理由がちょっと延びるときは一回だけ延ばせるとかいう形でやっていますけれども、そういう形でもう少し厳密にやられた方がいい。  それから値上げの問題ですけれども、なるべく値上げの問題で負担がないようにということで簡便な手続をするという趣旨については賛成でございます。ただ、裁判を受ける権利は保障しないといけませんので、要するに調停に服するという合意の書面があればいいというふうになっているわけですが、この合意の書面が先ほど申し上げたような不動文字で印刷されて市販されているようなものに書いてあって、それでもう調停でやられてしまうんだ、いや裁判でやってほしいと思ってもやられてしまうんだと解釈されるのであれば、それは困るだろうと思います。そういう意味では、裁判の中で、調停の中できちんと確認した上でそういう手続をやったらいい、そういうことでございます。  簡単でございますけれども、以上の点を踏まえて、以上の問題点が解消されない限り今回の借地借家法改正についてはやはり重大な疑問があるというのが私の意見でございます。  どうもありがとうございました。
  6. 伊藤公介

    伊藤委員長 ありがとうございました。  次に、大富公述人にお願いいたします。
  7. 大富宏

    大富公述人 不動産協会専務理事大富でございます。  不動産協会は、昭和三十八年に設立されましたけれども、現在では大手不動産を中心に会員二百十社の社団法人でございます。不動産業といいますのは、いわば土地を素材といたしまして宅地開発、供給、建て売り住宅、中高層住宅あるいはオフィスビルを建築しまして、これを分譲したり賃貸したり管理したりという仕事がありますし、そのほか土地建物の不動産の売買の仲介をやるというのが仕事の中心でございます。したがいまして、さまざまな場面で不動産業者地主にもなり家主にもなり、また借家人にもなり借地人にもなるという多面的な面を持っているわけでございまして、密集市街地における都市再開発なんかの場合には非常に複雑な借地借家関係に当面する場合も多々あるわけでございます。このような事情で、この借地借家法改正問題につきましては非常に重大な関心を持っておりまして、法務省が六十年の四月、法制審議会において検討されて以来、私どもも御要望に応じまして不動産協会の意見もしばしば申し上げた次第でございます。  今回上程されております改正法案は、その提案理由説明にも書いてございますけれども、昭和十六年から数えますと実に五十年、大正十年からだと七十年ということでございます。社会経済情勢は激変いたしておるわけでございますが、借地借家法に関する基本の枠組みはほとんど変わっていない。したがいまして、今日、土地建物利用に対する需要多様化に対応することができない状況になっておる、これは衆目の見るところだろうと思います。そのために、現行法にみられる画一的な規律を改め、より利用しやすい合理的な借地借家関係を実現するための手当てが必要であるとこの提案理由説明に書いてございますが、私どもも全くそのとおりだと思います。非常に難しい、利害のふくそうしている借地借家問題、今回こういう格好で改正法案を提出された法務省の御苦労は歩といたしますけれども、我々からいたしますれば遅きに過ぎたという感じがいたしている次第でございます。  次に、改正案の主要な内容に若干触れてみたいと思います。  借地借家関係解消の要件となるいわゆる正当事由の明確化、これはただいま陳述がありましたように、現行法より一歩進んでおります。それは七十年なり五十年なりの判例の積み重ねを明文化したというわけでございますけれども、こういうぐあいに具体的な実情に即した判断ができるようになったことは、私は一歩前進だろうと思います。ただ、現在、土地基本法が制定されておりまして、土地の適切かつ合理的な利用がこの土地基本法の有力な基本理念になっておるわけでございます。したがいまして、貸し主借り主土地建物利用状況というのは正当事由の判断基準の一つになっておりますけれども、一歩進めまして、その土地建物が存しておる周辺地域の状況、こういう問題もやはり正当事由判断の要素として規定さるべきではなかっただろうかという考え方を持っております。  第二番目に、更新のない借地権としての定期借地権の制度といたしまして三タイプの新しい制度が創設されました。また、借家関係におきましても、確定期限の借家制度というのが創設されました。いずれも借地借家に対する今日の多様な需要に対応する新しい仕組みだと考えておりまして、まさに契約当事者の自由意思に任せる機会を広げたもの、これは画期的なものとして高く評価をいたしている次第でございます。  私どもが若干不満といたしております点を二点申し上げたいと思います。  まず第一点は、改正案では、オフィスビル等の非居住用建物の賃貸借につきましても全く居住用建物と同様に扱われているわけでございます。非居住用建物につきましては当事者の自由契約に任せれば足りるのではないだろうか。したがいまして、終了については正当事由を要しないで更新拒絶等ができるようにすべきではないだろうかというのが第一点でございます。  第二点は、今るる御説明がございましたけれども、本改正案成立前に存在する借地借家関係につきましては、改正法更新関係の規定は適用しないという経過措置がございます。その理由は、借り主の間に不安が生じかねない等を考慮したということがあるわけでございますが、せっかくの画期的改正法の真価を半減するというぐあいに私どもは考えております。せめて、改正要綱に併記されたこともございますが、二回目の更新時からは改正法適用するというぐあいに改めていただけないだろうかという考え方を持っております。  結論といたしまして、若干の不満点がございますけれども、五十年来の現行法からすれば数段の改善でございまして、賛意を表します。速やかな御審議の上、可決をお願いいたしたいと思います。  陳述を終わります。
  8. 伊藤公介

    伊藤委員長 ありがとうございました。  次に、木村公述人にお願いいたします。
  9. 木村保男

    木村公述人 弁護士木村でございます。  法務省が今から六、七年前から借地借家法改正作業に着手するということを表明されたわけでありますが、その段階で弁護士会は、この改正は国民の生活に直結する重要な基本法の改正である、そういう認識を持ちまして、法制審議会の審議に乗りおくれないようにできるだけ弁護士会の意見を集約をして反映をさすべきである、こういうふうに考えまして、各地方単位会にこの問題の検討委員会をつくり、そして日本弁護士連合会の中にもそういった単位会の意見を集約するような意味での委員会、司法制度調査会と申しますが、その中に専門検討委員会をつくったわけでございます。私は、その弁護士会の意見法制審議会に橋渡しをするという役目で法制審の委員を仰せつかって、今日に至っておるわけでございます。  弁護士会の基本的な考え方といたしましては、借地借家法は、先ほどからるるお述べになっておられますように、制定以来長年月を経過しておりまして、戦後の激動期を踏まえいろいろな土地建物利用関係に対する需要多様化している、一方では現行法規と裁判実務すなわち裁判所判例との間に乖離が生じておりまして、必ずしも法律の条文を見ただけで実情がわからないというふうな様相も見えてきておりますので、ここでこの二つの法律を見直して改正検討するということは有意義であろうという基本的な考え方を持ったわけであります。  ただ、今回の改正につきましては、二つの点で十分配慮しなければならないであろう。  一つは、当初の法務省の改正意見、これはあくまでも仮の問題提起ではございますけれども、一方における土地の高騰、片一方においては大都市圏において土地を高度かつ有効に利用したいという期待がある、そういうものを含めた形で法務省の方が一つの仮の提案をなさった。これを見ますと、どうもその考え方は、東京を中心とする大都市における土地の有効利用ということがかなり念頭にあるんではなかろうかというふうに見受けられたわけであります。弁護士会が各地方単位会の意見を集約しようとしましたのは、借地借家の問題は、地域地域、地方地方によってその実態や慣行が随分違うだろう、それを大都市の実情だけで処理をするということは必ずしも妥当ではない、地方の実情も十分配慮してもらいたいということを基本的な問題点として指摘いたしました。  それから、戦後枚挙にいとまのないほど出ました判例がようやくに定着しつつある、現行の借地借家法によって保護される借地人借家人権利関係、それが今般の改正によって大きく揺らぐというふうなことは、やはり既存権利を保障するという観点から十分に慎重な検討を必要とするんではなかろうか。基本的に言いますと、既存権利に深刻な影響を与えるような改正は避けるべきである、こういうふうに考えてまいりました。  この二つの基本的な態度でいろいろ法務当局から出された改正の案を検討いたしまして、賛成するところ、これは少し問題があるのではなかろうかということで留意するようなところ、いろいろ意見を申し述べてまいったわけであります。  先ほども申し上げましたように、法務省の当初の考え方は改正がかなり積極的な性格を帯びておったのでありますが、やはり私たちが申し上げましたような観点を踏まえて改正を最小限度にとどめよう、特に既存借地借家関係については新法適用しないという基本的な原則をはっきり打ち出されたわけでありまして、そういうことから、私たちの基本的な考え方と大きく食い違うものではないということで、この改正案につきましては、先ほど申し上げました司法制度調査会の意見を受けて日弁連の理事会においても基本的に賛成をするということを決議いたしたわけであります。  改正の内容について若干申し上げたいと思います。  定期借地権あるいは借家における確定期限つき借家の問題、これは現在の多様なニーズに適合するという意味で、法務省がいろいろなメニューを提供して、当事者がそのメニューの中から最も自分らの関係に適合するものを採用してやっていこうということを考えられたわけであります。現行法のもとではこれらの類型借地借家というのは勢い法をくぐるということでなければ実現をしなかったわけでありますが、それを新法においては採用し、試みにやった場合にどの程度借地借家需要供給が活性化するかということで、期待が持てるのではなかろうかというふうに思うわけであります。もちろん、吉峯公述人がおっしゃったようないろいろな危惧、危険性というものを内包いたしておりますが、それにつきましては、法制審議会においても、その歯どめをどうするか、条文の規定をできるだけ細かく、要件を厳格にするということでその危険性を薄らげるということに努力をしておりまして、おおむね妥当な内容を盛り込んでおるのではなかろうかというふうに思うわけであります。  正当事由の点につきましては、あるいはこういう新法の規定は、現在の正当事由考え方、すなわち当事者の自己使用を中心とするものについて、これを拡大するということにはなりはせぬかという御指摘がないわけではないことは十分承知いたしております。しかし、弁護士会で検討いたしました結果、改正条文はおおむね裁判所で長年の間積み重ねてきた判例の傾向を後追いしているんだというふうに考えておるわけであります。先ほど御指摘のありましたような、借地に関して土地の存する地域の状況、あるいは借家についてはその建物の存する地域の状況をもしんしゃくするという内容の条文が入っておったわけでありますが、これが最終段階において法務省によって削除され、現在の改正案の中からは落とされておるわけであります。そういうことからいいますと、この正当事由の規定は、当事者の公平なあるいは妥当な権利関係を調整するという機能にとどまっておるというふうに見えるわけでありまして、この土地建物の存する地域の状況をしんしゃくするということに反対した弁護士会も、この規定を落とされたことによって一応妥当なところに落ちついたというふうな評価をいたしておる次第でございます。  それから、地代家賃増減請求に関して、これを調停に必ず付すべきである、いきなり訴訟手続に持ち込まさないということにいたしました。  これは先生方もよく御存じだと思いますが、現在でも各地の法務局に行きますと、月末から月初めにかけて、これくらいの大きな供託書が窓口に持ち込まれておる。それをぺらぺらとめくってみますと、大体五千円とか一万円とか一万五千円とかいうふうな賃料が供託をされておるわけでありまして、これを仮に家主の方が倍に増額するといたしましても絶対的な額はそう大きなものではない。ところが、これを裁判所へ持ち込みますと、どうしても必需の手続として不動産鑑定士の鑑定を求めるというふうなことがあり得るわけでありまして、この鑑定料が、地方によっては二十万、三十万というふうな費用がかかる。私から申し上げますと、およそ賃料の増額請求ほど一般庶民にとってはコストの合わない紛争解決方式はないのではないかと考えられるわけでありまして、そういう意味では地主、家主の方は、固定資産税に満つるかどうかわからぬような賃料で、嫌な思いをしてこんなことをやることは好ましくないということでほってあるのがかなりの部分ではなかろうかと思うわけであります。それを裁判所調停手続において簡易迅速かつ低廉で処理ができるということであれば、いわば裁判所一般市民に近づけ、かつ門戸を広くするという意味で、裁判所の機能をかなり大きく広げていくということに役立つのではなかろうか。これをいわば突破口にいたしまして、単に借地借家の賃料増減請求という問題に限らずに、もう少し広い分野においても調停制度というものを活用していただいて、簡易で迅速で、かつ余り費用のかからない格好で紛争解決ができるということであれば非常に望ましいと思うわけであります。  ただ、そのためにはやはり調停委員あるいは調停裁判所において人を得なければならぬわけでありますから、できるだけそういうものを裁判所のサービス機関として有効にあらしめるために、最高裁判所の御配慮、御努力をお願いしたいと思うわけであります。  まだまだ申し上げたいことがございますが、結局この改正案を見ますと、私は、多分先ほどのお二人の公述人お話から推測がつくように、家主、地主側あるいはデベロッパーのサイドから言うと、この改正というのは何を改正しようとするのかという意味で非常に物足らないというふうな御意見をおっしゃるのではなかろうかと思います。一方、午後からの公述人の御意見が出ようかと思いますが、やはり借地人借家人からしますと、これまで守られていた自分たちの権利新法の施行によって揺らいでくる、非常に危険な要素が入ってくるのではないかという形の御心配が指摘されるのではなかろうか。いわば両サイドからこの法律は不満であるという御意見が出てこようかと思うのでありますが、私は個人的には、そういう利害関係が対立している両サイドから、なまぬるい、問題があると御指摘があるような法律があるいは一番妥当なものではなかろうかという感想を持っております。速やかに先生方の御審議を賜りまして、この法律が制定されることを期待いたしたいと思います。  以上でございます。
  10. 伊藤公介

    伊藤委員長 ありがとうございました。  以上で公述人の御意見の開陳は終わりました。     —————————————
  11. 伊藤公介

    伊藤委員長 これより公述人に対する質疑を行います。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。田辺広雄君。
  12. 田辺広雄

    ○田辺(広)委員 ただいま諸先生方には大変有意義な、また大変御検討いただきました公述をしていただきまして、心から感謝を申し上げます。  そこで、時間もございませんので至極簡便に御質問し、先生方の御意見を聞きたい、こう思っております。  そこで、最初公述をしていただきました加藤一郎公述人にお尋ねをいたしますが、今お話の中にありました、長い歴史の中から、現在の時代にはこの借地借家法がちょっとそぐわないのじゃないか、それは需要多様化、また長い間の物の考え方の相違、経済的にもまた大変な差が出てきておる、それにあわせて今回ということで、このような借地借家法改正の段取りをしていただいたわけでございます。しかも、長い期間大変な御苦労をいただいたわけでございます。  その中で、私は順次お話を聞きたいと思いますが、これによって、土地利用について果たして有効な手だてとしてこれから利用されるであろうかどうかが一つ。  それからもう一つは、正当な事由の判断でございますが、その正当な事由の判断の中に立ち退き料という具体的な名称が出てまいっております。この言葉は、公述人も大変気に入らないとおっしゃったのですが、私も気に入らないのです。この言葉がこの文章の中に出るということは、借りた人、貸した人が今度は期限が来て別れようとするときには、借りた人は貸した人に立ち退き料を要求する。また、そういうことになれば、したがって次のときに新しい人に貸すときには、どうせこの人と別れるときには立ち退き料を取られるのだから、この際権利金をもう少したくさん取るべきではないかということが一つの基準になってくるのではないか。今、木村先生ですか、お話がありましたように、地域によりましては大変事情が違います。例えば、名古屋の場合は更新料という言葉はありませんが、関東へ行きますとその言葉があるように、いろいろな地域で状況が変わってまいりますが、今度その言葉が出ますと、満期になってまた延長の場合には正当な事由の中に立ち退き料が取られるのじゃないか、また、すべて出てくるのじゃないかということを私は心配をするので、お尋ねをしたいと思います。  それからもう一つは、先生もおっしゃってみえましたように、定期借地権の問題でございますが、普通借地権定期借地権を比べますと、貸し主にとってみればもう定期借地権が一番いい、同時に、期限が来たときに何ら問題なしにそこで契約解除ができる、非常にもうすっきりしておるということで、普通借地権よりかむしろ定期借地権の方を利用されることがほとんどではないだろうかというようなことを言われましたが、普通借地権というものを利用される方、利用しなければならない方はどういうふうな方々であろうかということをお尋ねをしたいと思います。  それから調停法の一部改正につきまして、地代だとか家賃だとか、こういうものは金銭で片づくものでございますから、木村公述人もおっしゃったように、そんなに難しく物を考えないで、ある程度具体性があるからそれは調停ができるのではないかということでおっしゃいました。しかし、一部にはこの調停の一部改正については大変きつい反対をする方々があるわけでございますが、これについてもう少し詳しく御説明をいただけないだろうか、この一点でございます。以上。
  13. 加藤一郎

    加藤公述人 ただいまの御質問にお答えいたします。  第一点は、土地供給との関係はどうかというお話だったと思いますが、これはやってみないとわからない点がございますけれども、今までのいろいろな実際の契約がいろいろな形で行われているということからいたしますと、今度の改正によって土地供給は実際的には促進されるであろうというように期待しているわけでございます。それはなぜかと申しますと、先ほども申し上げましたが、実際の契約更新請求はしないから何年間土地を貸してくれというようなものが住都公団初めデベロッパーの間で行われていて、貸す方もそういう大手といいますか信頼できるところなら更新請求はないだろうから貸そう、そういうようないわば強行規定である借地法をくぐるような契約が既にある程度行われている。それからまた、郊外のファミリーレストランなんかを見ますと、これはいろいろな契約の仕方があると思いますけれども、もう短期でいいから貸してくれ、あるいは地主に家を、建物を建ててもらって借家契約という形でそれを利用するとか、本来なら借地利用するのがよさそうに思われるところを別の形で利用する。あるいは先ほど申しました土地信託というのも実質的にはこの借地法を別の形でくぐるようなものでございまして、そういうものが全部今度の新しい定期借地権に入ってくるとも思われませんけれども、できるだけそちらの正常な借地関係利用という形の方へ行ってもらうことが望ましい、それでかなりのものはそういう形で今後利用されていくのではないか、そういうふうに思っているわけでございます。いろいろな資料なども我々も取り寄せまして検討したわけですが、はっきりしたことは言えないにしても、そういう方向へ進んでいくであろうということは申せるかと思います。  次に、第二の点でございます立ち退き料関係でございますが、これは立ち退き料という言葉が時々出てまいりますけれども、法文上は立ち退き料という言葉は使っておりませんで、土地の明け渡しの条件として、あるいは土地の明け渡しと引きかえに金銭の給付をするということをこれは地主の方で申し出るという場合に、それを正当事由のいわば補完事由として、補う事由として認めていこう、こういうことでございます。それを俗に立ち退き料などと言っているわけです。  これは、実際は裁判所判例借家契約についてそういうことを認めたものが出てきているわけでございます。借家契約の解消の場合に、家主の方から、正当事由だけであれば別にお金を払う必要はないのですけれども、正当事由だけではちょっと足りないというような場合に、それでは幾らそれに足すから明け渡しを認めてくれ、そういう形のものが出て、下級審ですけれども、判例もそれを認めてきているわけでございます。借地については必ずしもそういうものは十分にまだ裁判例にはなっておりませんけれども、借家についてそういうことを認めるとすれば、借地についても認めてもいいのではないだろうか。借地については、特にこの地価の高騰の折から利害関係がどうも先ほどのゼロか一〇〇かということでは余りに離れ過ぎているので、そこで、それを金銭的にある程度調整するのが適当ではないか、こういうことで地主の方から一定の金銭の給付を申し出ればそれを正当事由の補完事由として認めていってもいいというのが、今の六条でしたか、改正法の規定になっております。  なお、更新料との関係のお話もございましたが、先ほど私が言ったのはちょっと不正確で、借地人の方で更新料を払い地主の方で立ち退き料を払うというようなことをちょっと申しましたけれども、これはさっき吉峯さんからもお話がありましたように、更新料を払うということは別に借地法で要求されているわけではない。立ち退き料の方については新しい規定を入れた。これも借地人の方からその立ち退き料を請求する権利があるということではなくて、地主の方からこれだけお金を出すから立ち退いてくれという申し出を、裁判所が妥当ならば認めてもいいということでございまして、これはただお金を出すということでなくて、正当事由がある程度あって、それにお金を足して正当事由が認められる、こういう補完事由でございます。  それで、借地人の払う更新料というのは、期間満了のときにある程度慣習的に払われているものがある。これは事実上の問題としてあるわけでして、借地法では、地主に正当な事由がなければこれは更新料を払うこともなく更新ができていくことになるわけでございます。しかし、地主の方から正当事由を持ち出されて争われると面倒があるというようなことで実際には若干の更新料が払われているということもございまして、実際調停などにいきますと、わずかの更新料更新を認めていくということが行われている。こちらはそういう実際の取引でございまして、先ほどのいわゆる立ち退き料とは性質が違うわけでございますが、いずれにしても金銭的な調整である程度円滑に事柄が運んでいくということがあり得るわけでございます。  一部には、新規普通借地権で十年ごとに更新があるということになると更新料を払う機会がふえるのじゃないかという心配をする方もございますけれども、更新料は必ず払わなければならないというものではないということと、それから回数が二十年が十年になって二回機会があるとすれば、いわゆる更新料なるものもそれだけ金額が安くなるはずだ。実際にはそういう権利金的なものはなくなっていくことが望ましいと私は思っているのですけれども、なかなか地代はそう高く上げられないから、更新料あるいは初めの借地権の設定の対価というようなことで金銭が払われているというのが実情であるわけです。  それから次に、第三点の定期借地権の件でございますが、定期借地権については先ほどかなり説明をいたしましたのでそれをごらんいただきたいと思うわけですが、定期借地権普通借地権を切りかえるというような心配をされる方もございますけれども、それは単なる切りかえということではございませんで、今までの普通借地権を一応合意解約、解消させた上で新規契約を結ぶということは、これはそれを阻止することは難しいわけですが、本当の合意で解消をして新規定期借地権をつくるということは可能ですけれども、それを切りかえていくということを強制されることはございませんし、仮に定期借地権のうちの第二種の譲渡契約建物譲渡契約つきのものとか第三種の事業用借地権というのは要件が限定されておりますから、普通の住宅定期借地権に切りかえるとすれば五十年以上の第一種の定期借地権にすることになります。そうすると、今まで借りていて更新する場合に、それから五十年さらに保証されるわけですから、新しく五十年の定期借地権契約をするということもこれは借地人が望めばできることになるわけで、そういうふうに絞りといいますか歯どめがあるわけですから、そう心配することはないだろうというように思っております。  以上、不十分かもしれませんがお答えさせていただきました。
  14. 田辺広雄

    ○田辺(広)委員 大変時間がございませんので、もう一方に御質問を申し上げて終わらざるを得ません。  そこで、先ほど公述していただきました吉峯先生、いろいろ先生のお話を聞きますと、こういうことがあったら全部あれはだめじゃないか、こうしたらあれはだめじゃないか、裏の話ばかり十分聞かしていただきまして、どちらがどうか私もちょっとわからないのですが、しかし考えられることは、長年かかってこういうものがあってそれが今ここで解消をされよう、先ほどおっしゃったように借りる側にも貸す側にもやはり両方に不満があって初めてそれは成り立つ法律だ、法案だというようなこともお話を聞いたわけでございますが、そこでもしそういうものをお考えならば、これから土地を貸そうという人たちのために、その貸す気持ちを引き出させるために先生はどういうふうに考えてみえるか、そのことを一点お聞きしたいと思います。
  15. 吉峯啓晴

    吉峯公述人 それでは、今の点についてお答えしたいと思います。  私が先ほどいろいろ申し上げたことは、特に裏の問題を並べ立てたということではないと思うのです。現実的な危険性について申し上げたつもりですけれども、先ほど加藤一郎先生の方からもお話があったように、最近新規借地権が設定されないというのはそのとおりでございます。  その理由は幾つかあると思いますけれども、一つは、もし新規借地権を今設定するとするならば、借地権が都心部では、例えば堅固な建物、ビルが建っているような土地については大体更地価格の九割ぐらいで取引がされるわけです。それから木造の場合も大体七割ぐらいで取引がされるわけです。そういう意味では、新規に設定する場合というのは、土地を売却するのに比較してそう変わらないようなお金を手にすることができるわけです。しかし地主さんはそういう場合に、ある意味では借地権を設定してしまうとかなり強固な権利ができますから、したがって土地を売った場合とそう違わなくなってしまうわけですが、借地契約というのは、この後ちょっと述べさせていただきますけれども、まだ未整理な部分がたくさんあります。そういう意味で、むしろ貸すことよりも売ることを選んでいるということであって、現在の借地法のために土地供給が阻害されているということでは必ずしもないだろう。  では、借地権のどういう部分が未整理なのか。これは今回自己借地権というものが改正法の中に盛り込まれております。これは私は賛成です。例えば借地権つきのマンションなどを分譲する場合に、自己借地権が認められていないといろいろな意味で不都合です。ただ、そのほかに、借地権についてもう七割の権利があるのですからちゃんと財産権として整備しないといけないので、そのために今一番阻害要因になっているのは実は住宅ローンがきかないことです。住宅ローンがきかないためにお金が借りれないから買う人がいない、それがあります。これはきちんと行政指導等でもクリアできる問題ですが、今銀行は、住宅ローン等を設定するためには、地主さんから地主にとっては判こを押しにくいような承諾書を取ることを必要としています。これは、借地人が地代を払わなかったときにちゃんと銀行に知らせてくれとか、競売になったときに銀行がこの人にと言ったらその人にちゃんと借地権を引き継がせてくれとか、普通の地主さんがちょっと判こを押しにくい書面を要求しています。そういうことをきちんと整理して住宅ローンが設定できるようにする、そうすると取引が活発になります。それからもう一つは、今借地非訟手続きで、地主さんが譲渡が嫌だったと言ったら借地非訟手続きでできますけれども、建てかえをやる場合も借地非訟手続でできますけれども、これが当初、立法時は大体三カ月くらいでやるというお話だったと思います、立法者のお話は。ただ、現実には六カ月とか一年たっていますから、なかなか普通の方がお買いになれない。プロ的な不動産屋さんなどが、住宅ローンの設定がしにくいこととも相まってお買いになる。したがって価格が安くなる。したがって、借地人が売るに売れませんから、地主さんの方も借地人との関係がきちっとした形で近代化されてないので、借地権の流通が阻害されているというふうなことがあると私は思います。
  16. 田辺広雄

    ○田辺(広)委員 時間が大変少ないのですが、今先生がおっしゃったように、借地権九〇%で貸す、それより売った方がいいのだということですが、私は九〇%というのはそんなにないのじゃないかと思うのです。例えば、それならば税法上、売ったならば税金がかかるから、だから貸そうという考え方があるのですから、私は一概にそのことは言えない。  同時に、今私どもよく考えますのは、例えば、今加藤公述人がおっしゃったように一つの店舗をつくろう、そういう場合でも、やはり借りて、しかも定期的な借地権であったならば二十年でこれは返す、そうすれば権利金もそんなに要らないと思うのです。先が不安だから権利金をたくさん取らなければならない。しかし、二十年たったら必ず返ってくる、三十年たったら返ってくるということならば、そんなに今おっしゃったような権利金は要らないであろう。そこで安い単価でもってお店もつくる。  今私の近くで、例えば例として申し上げますと、建物をつくりまして、建物をつくった代金は借り主が建築協力金として払う。そして、その中の内装等につきましては、その借りた人が商店の内装をする。家賃はどうなるのかといったら、家賃でなしに地代の中で払っていく。そして、その契約が完全に終わったときには、その建物をつくった金額の九〇%を最初に払った人に返す。こういうようななかなか難しい実際の運営の仕方があるわけなんです。  ですから、先生がおっしゃってみえるようなこと以上に、そういうもので店舗をつくって商店街をつくる、そしてそれが経済的にも、また市民、消費者のためにも大変有益なものであるということを私は考えるわけでございます。  時間もございませんし、質問でございますからあえて討論をしようとは思いませんが、どうぞひとつこの法案にできるだけの賛意を示していただきたいと私は強くお願いしておきます。  終わります。
  17. 伊藤公介

    伊藤委員長 御苦労さま。  鈴木喜久子君。
  18. 鈴木喜久子

    ○鈴木(喜)委員 たくさんの御意見を皆様方から聞かせていただきまして、ありがとうございました。さまざまなお立場上のお話で、私は大変興味深くそれぞれのお話を聞かせていただいたのです。一つの事象をとらえるのに非常にいろいろな見方があるなというふうに思いました。  それでまず第一に、皆様に、四人の公述人方々にそれぞれ伺いたいと思います。今なぜ改正なのかという問題でございます。  これはもうそれぞれのお立場があるとは思いますけれども、先ほど来加藤先生等々、その問題について立法に携わるといいますか、関与されていらした方々お話では、多様化するニーズというものがこのごろ出てきて、それに対応するためなんだとか、または借地借家というものについての活性化を図っていくんだというようなお話があったように思いますけれども、今の借地借家法が七十年余り大した改正もされず、基本的にそれがずっと続いてきた。非常に長く、その間にはいろいろな社会の変転が飛躍的にあったわけでございますけれども、その間これがなぜ続いてきたかというこの借地借家法の存在の意味というものは非常に大きなものがあると思うのです。それを今なぜ改正なのかという点について、それぞれのお立場から、賛成、反対もございましょうけれども、伺いたいと思います。
  19. 加藤一郎

    加藤公述人 ただいまの御質問にお答えいたします。  借地借家法は、御承知のように大正十年にできまして、昭和十六年に正当事由が入ってその後大きな改正なしに来ております。それで、戦後のいろいろな変化に応じて、変化といいますのは、利用形態の変化、それから建築技術の変化、それから都市化の問題いろいろございますが、そういう変化に応じて改正をしようという話は前からございまして、最初は昭和三十五年ごろ、私の先生であり前の民法部会長をしておられた我妻栄先生を中心に私どもが加わって検討して、一応法案をつくったのですが、これはついに成立を見るに至りませんでした。  その後も改正論はあるわけですが、最近になって特に改正の希望、要望が表から出てくると同時に、裏で事実上借地法をくぐるような契約がある程度行われてきているというような実情があるので、これはほっておけないのではないだろうかというように思ったわけです。一部の委員といいますか、学者、研究者の中には今手をつけるのは危険だ、先がどこへ落ちつくかわからないので手をつけるのはやめた方がいいと私も言われたことがございます。しかし、そういういろいろな問題が出てくるのをただ見過ごすというのはやはり無責任ではないだろうか。はっきりした行く先はわからないにしても、ともかく問題点を洗って検討して、妥当、必要な改正、可能な改正というものを考えるのが筋だろうということで検討を始めたわけでございまして、昭和六十年に検討を始めたときには最終の姿というものはまだ浮かんでこなかった。やっているうちにだんだんこれでいくべきだということで改正案にまとまったわけでございます。  先ほどからお話のありますように、これは貸し主借り主地主借地人、家主と借家人の間で非常に利害の対立する問題で、しかも地価の高騰した今日ではその対立が激化しているというようなこともございますので、いわば火中のクリを拾うような危険な作業であるということは承知の上で始めたわけで、その両者の間の微妙なところを通り抜けて可能な改正をやろうということで今の改正案ができたわけでございまして、よろしく御審議をいただきたいと存じます。
  20. 吉峯啓晴

    吉峯公述人 今回の改正法がいつごろから議論されたかということが一つの理解の手助けになるだろうというふうに思うわけです。先ほどもちょっと申し上げましたけれども、今回の改正問題は、法務省が一九八五年の十月から法制審議会民法部会改正についての審議を開始して、八五年の十一月に「借地借家法改正に関する問題点」というのを発表したことに端を発しているわけです。  偶然の一致だという考え方もあるかもしれませんけれども、当時は中曽根内閣が都市の再開発についていわゆる民活であるとかあるいは規制緩和ということを非常に強く言っていたころでございます。恐らく、先ほど加藤一郎先生お話にもあったように、改正担当者の意に反してマスコミが当時貸し主に有利な改正借り主に不利な改正ということを報道したのは、必ずしもマスコミ方々の誤りであるとばかりは言い切れない。やはりマスコミ方々というのは、文字面だけではなくて、周囲のいろいろな客観的な情勢とかそういうものとの関連の中で案外本質をつかんでおられることがある。そういう意味では、その報道借家人借地人に要らぬ不安を与えたりとかいう側面は現にあるのはあるのですけれども、しかしながら、やはり中曽根内閣の当時の規制緩和についての非常に突出した考え方等の中でこの改正問題が言われてきた。  特に、一番問題になったのは、先ほどもちょっとお話がありましたけれども、正当事由の問題について、判例等表現を直しただけであれば、これは必ずしもやらなくてもいいんです。これは、条文と実態が乖離しているのはたくさんあります。実態に合わせた方がいいのですけれども、実態に合わせることによる副作用の方が多い場合には、これはむしろやらない方がいい場合もあるだろうというふうに思うのですね。そういう意味では、規制緩和の流れの中で正当事由が緩和されるという方向に働くということが問題である。  そういう意味では、そういう民活路線、規制緩和路線の中で出てきた。当時法務省は大変気にして、そういう批判はあるけれども違うんだ、利害を調整するだけなんだということを盛んにおっしゃっていたわけですけれども、必ずしもそうではない。そういうことで、簡単に言ってしまえば、改正担当者の方からすれば、いろいろ批判があった部分についてはみんな引っ込められたわけですけれども、正当事由のところを変えるという一点ほどうしても維持したいというお考えだろうと思いますし、その部分が変わってしまうということであれば、やはり私が危惧しているような大きな副作用というのは解消できない、こういうふうに思っております。
  21. 大富宏

    大富公述人 今、るる加藤先生吉峯弁護士さんがお述べになりましたとおりでございますが、私が冒頭に申し上げました現在の借地借家法改正の理由というのは、この提案理由の説明理由書に書いてあるのを私引用したわけですが、まさにそのとおりで、七十年ないし六十年の間、全く基本的枠組みは変えないで今日まで来ておる。昭和十六年というのは戦時中に入っている、非常に借家供給が困難な時代でございます。それから、戦後二十年間、これは全く住宅の絶対数が足りないという状況の中で借地借家法はそのまま生きてきた。  今お述べになりましたように、正当事由というのは、現在、弱者保護と言ったら弱者はどっちなんだとむしろ逆に言われるくらい、地主さんであり家主さんの方がむしろ弱者と言われているぐらいでございまして、そういう歴史が五十年続いた今日になりますと、むしろ現在では既に住宅事情もすっかり変わっているわけでございます。土地利用状況も当時とは比べ物にならないぐらいになっておるわけでございますが、それに相応したような借地借家関係をこの際新たに律すべきではないか。しかも、地主であれ借地人であれ、家主であれ借家人であれ、どちらが弱者ということじゃなくて、今日では対等な立場で、公平に合理的な立場としてこれを律するのが当然ではないだろうか。私どもはそのように理解いたしております。
  22. 木村保男

    木村公述人 改正の論議が起こりましたときに、一部の人たちの間からは都市の再開発を容易に実現する手段として借地借家法改正しようという期待が込められておったと思うわけでありまして、法務省の改正問題点の中にはそれに沿うような改正論点が幾つかあったように思うわけであります。今先生のお尋ねのように、そういうふうなはっきりとした意図、プリンシプルがある場合には改正の方向づけというのは明確になるわけなのでありますが、その後の経過を見ますと、そういうものがだんだん落ちていった。毒にも薬にもならぬという言葉がございますけれども、貸し主側からすると薬と思われることが、借り主側では危険な毒であるというふうにお考えになるであろう。そういう意味では、非常に薬用的な効果を上げているような部分も薄れてきたかわりに毒性も薄れてきているというふうに考えられて、改正の意図が非常にぼやけたものになっていることは事実ではなかろうかと思います。  ただ、借地借家というのは国民の生活に密着した法律でありますから、できるだけ読んで内容がわかるということになってほしい。そういう意味では、現在の現行法を裁判実務に当てはめてみますと、必ずしも読んですぐわかるという状況にはなっていない。それをできるだけ法文を整理をすることによって現状に合わすということも一つ意味があるのではなかろうか、今の法律を口語体の条文にするということでも意味があるのではなかろうかというふうに私は理解いたしております。
  23. 鈴木喜久子

    ○鈴木(喜)委員 どうもありがとうございました。  今お四方からいろいろ伺いましたけれども、何かやはり焦点がぼけている、今何もこのような改正をしなくてもいいのではないかというようなことが、私やはりお四方のそれぞれのお話を伺って総合的に考えましても出てくるような気がいたします。  こういった改正論議がずっと昭和六十年代起こっていまして今回の改正につながったというときに、私、加藤先生吉峯先生に伺いたいのですが、加藤先生には、吉峯先生が先ほど言われました社会的な影響、副作用という言葉もお使いになりましたが、やはりこれが改正されるということになった途端に、いろいろな意味地上げ等々において借地人のところにいろいろなことを言ってこられる。また、これから先もそうした事実上の副作用というものが法律を、先ほど加藤先生も言われたのです、こういうときには新法に変えましょうといったって、こうきちっとなっているのですから、変わらないように法律ではなっているのですよとおっしゃるのですが、そうではない、そういう法律に疎い一般市民の人たちがだんだんと事実上の新法に変えられてしまう、例えば定期、または定期でなくても新法一般の賃借権にどんどん変えられてしまうというような事実上の副作用という点、そういった社会的な影響の存在または効果ということについてどう考えられるか。  そして吉峯先生は、同じような社会的影響というところで、新法案のどこの点に一番問題が、社会的な影響、副作用があるとお考えなのか。  時間がありませんので、端的にお答えいただきたいと思います。
  24. 加藤一郎

    加藤公述人 ただいまの御質問ですが、社会的影響という点は私が最初に予想した以上に大きいものがございました。これは貸し主に有利になるという報道がされ、借り主は不安だということがつくられていったわけです。ちょうど地上げも盛んに行われているようなときで、ある程度そういう報道がされるのもやむを得ないかと思ったのですが、私たちの意図に反してそういう報道がされたことはまことに残念で、それがいろいろ障害を生んでいるように思われます。  それから、先ほど都市再開発の話もございましたけれども、そういう社会的な要求といいますか、都市再開発のようなものは借地借家法で直接取り上げるべき問題ではない。これはあくまで貸し主借り主の間の私法、私の法律上の関係を記述するもので、それを合理的かつ公正適切にやっていくのは借地借家法だということで、建設サイドからの都市再開発に役立つようにということは退けて、専ら民法上というか私法上の関係を合理的にということで私たちは検討したつもりでございまして、それが必ずしも正確に報道されなかったのは残念に思っております。
  25. 吉峯啓晴

    吉峯公述人 結局どこが問題なのかというお尋ねですけれども、一つ正当事由のところをさわることだろうと思います。先ほどから繰り返し申し上げているように、弁護士のところに来れば、別にそんな変わったことを定めたわけではありませんから構いません。ただ、弁護士のところに来ない方が大半であるということになりますと、先ほど加藤先生も遺憾だとおっしゃったように、やはりそういう雰囲気が現につくられているわけですから、その中であえて変える必要がないわけです。もし新法で変えることが旧法時代と表現は異なっても同じだということであれば、今はむしろあえてさわらない方がいい。それをさわることによって、やはり変わるんだということでいろいろな形で運用されていく。  それともう一つは、定期借地権が、借地借家法借地人保護借家人保護という法律の中に、そういう新しい、例えば郊外レストランというふうなものの需要にこたえるような異質のものが同時に入ってくることによって、むしろその趣旨そのものが没却されてしまう。定期借地権的なものは、整備した上で必要だと思います。これは別個の法律でやるべきなのであって、借地借家法の方に入ってくるべきでない。そうでないと、先ほど加藤先生もおっしゃったように、解約をした上で設定するのは阻止しょうがない、切りかえるというのは、我々はそのことを言っているわけです。実質上切りかえだけれども、形とすると合意解約をしてそして新しい設定になる。そうすると五十年以上の定期借地権に流れるから五十年になればいいのではないかというお話もありますが、三十年の買い取り方式で建物を買い取るのは、特に今都心部の土地価格と建物価格とのバランスを考えれば、建物を買い取って三十年にすることは地主にとっては少しも負担なことではありません。そういう意味では三十年の定期借地権の方に大半が切りかわっていくということは、裏の話ではなくて現に表の話として十分あり得ることだろう。それを改正担当者というか主導された加藤先生の方でもやはり阻止できないんだというお話であれば、むしろ定期借地権についても、借地借家法改正の中に入れるべきでない、こういうふうに思います。
  26. 鈴木喜久子

    ○鈴木(喜)委員 ありがとうございました。  時間がありませんので、今のところのお答えを集約して考えますと、今なぜ改正なのかという問題について、いろいろなニーズはあると言うけれども、一つ加藤先生言われたような、潜脱行為をこのままにしておいていいのかというふうに言われますと、そういった法の潜脱行為を認めるために、後づけするために法律をつくるのかというような疑問が一つわいてまいります。それからまた、大富公述人が言われたようなところでは、供給がだんだん多くなっている、現在は供給についていろいろ違ってきているのだというようなことでいながら、賃借関係が活性化しなければいけないという、この二つを合わせますと非常に矛盾した言い方になってくるのではないかという点がございます。  時間が来ましたので、木村先生の方にもう一つだけ伺いたかったというか、あるのです。  双方の不満のバランスがちょうどいいのだ、両方が不満、不満と言っているぐらいでちょうどいいのだというような立法の態度があるのではないか。確かに当事者間の問題であれば、そういうふうな個別的な和解やまた判決のようなときに、当事者間のバランスということで利益考量をするのは確かにそれでいいと思うのですが、こうした社会的、一般的に、貸借人とそれから賃貸人でない部分も含めた一般的な、全国的な法律をつくる、当事者間の問題ではないときに、それだけの不満と不満が少しずつあるところでちょうどいいのだという形で法律をつくっていくということは、国民の全体的なコンセンサスを得るということにはちょっと足りないのではないか。この点について、御意見を本当は伺いたかったのですが、時間がありませんので、ここで終わらせていただきます。  ありがとうございました。
  27. 伊藤公介

    伊藤委員長 冬柴鐵三君。
  28. 冬柴鐵三

    冬柴委員 公明者・国民会議の冬柴鐵三でございます。  きょうは先生方には大変お忙しい中わざわざお越しいただき、そしてまた非常に貴重な意見をそれぞれの立場からお述べいただきまして、ありがとうございました。私に与えられている時間も二十分でございますので、よろしく御協力のほどをお願いします。  まず、加藤先生にお伺いしたいのです。  今回は、借地法、それから借家法、それから建物保護ニ関スル法律、こういう三つ法律借地借家法という一つ法律に、単独法にするという画期的な改正作業だと思うのです。ところが、この中に言葉の不統一があるように思うわけです。まず、借地法のときには「土地ノ使用」というふうに呼んでいました。ところが、借家法の場合は「建物ノ使用文ハ収益」、こういうふうに使われておりました。これが一つ法律になりますと、これをなお同じ法律の中で片や「土地の使用」と呼び、片や「建物の使用又は収益」と。ここに意味は違わないと思うのですね。例えば、更新拒絶の要件新法六条ですね。「土地の使用を必要とする事情」、こういうふうに書かれています。それから新法二十八条では「建物の賃貸人及び貸借人が建物の使用又は収益を必要とする事情」。同じもので、土地の場合ですね、借地の場合、収益ということを排除する意味はないと思うのですね。  これは何でこんなことが生じたのかなと思って法制審の答申を読んでみても、やはり土地の場合は「使用」、それから建物の場合は「使用又は収益」とこう書いてある。そして、何で出てきたかなと思って、もう一つ借地法借家法にさかのぼって見てみると、単独法であったのでその点は言葉が別々に使われていてもよかったと思うのですが、やはり土地の場合は「土地ノ使用」、借家法の方は「建物ノ使用又ハ収益」、こういうふうに書いている、沿革を引きずって単独法にこれを持ち込んでしまった、こういうふうに思うわけです。  そこで、お尋ねですが、もしこれを語彙を全部統一すると、これは法制局の作業の場面だと思うのですが、先生、民法の大学者でいらっしゃいますから、こういう場合、例えば建物の「又ハ収益」というのを削って「建物ノ使用」で統一してしまうという場合に、従来の考え方と判例と違う結果が出てきますか。その点について、急なことですけれども先生の御意見を伺いたいと思います。
  29. 加藤一郎

    加藤公述人 ただいまの御質問でございますが、私も余り細かい字句のところまでチェックを十分してないのでよくはわかりませんが、これは法務省で一応案をつくって法制局に持ち込んで、そこで字句の検討を十分してもらっているだろうというふうに私も思っているわけでございます。  ただちょっと、土地の「使用又は収益」としますと、例えば農家から作物をつくるというのも収益になるわけなんで、そこは借地の場合どういうふうに言ったらいいのかよくはわからないのですが、ちょっとそういう点で土地の場合と家屋の場合とでは違う点もあるのかなと思ったりもしますけれども、ちょっと今の御質問には私十分お答えできないので、これは法制局の方に問い合わせるほかはないだろうというように思います。
  30. 冬柴鐵三

    冬柴委員 それでは、これも沿革。  借地法の方はどうも民法の地上権の規定を引きずってきたのだろうし、借家法の方はどうも建物の賃貸借、民法の中でもその話彙が使い分けられて、地上権の場合は「使用」で、賃借権の場合は「使用及ヒ収益」、こういうふうに言っていますけれども、この収益という言葉と使用——使用は収益を包摂しているのじゃないかな。別概念として何か説明されているコンメンタール、例えばドイツ法は、これははっきり言葉も違って別の概念のようですけれども、日本ではそんな議論は過去に余りされてないのじゃないかなというふうに思うのですが、その点だけ、ひとつ教えていただきたいと思うのです。
  31. 加藤一郎

    加藤公述人 確かに御質問のように、ドイツあたりでは使用賃貸借と収益の小作の場合の賃貸借とは別の表現をしておりますが、日本の場合、余りそれは区別をしないで、賃借権であれば、土地であれば借地もあるし永小作もあるし、いろいろなものに使われる。賃貸借というのは非常に広い概念として使われているわけでございまして、まあ日本では余りそこを区別しないで使っているというように思います。十分なお答えになるかどうかわかりませんが……。
  32. 冬柴鐵三

    冬柴委員 では、木村公述人にお伺いいたします。  中立的な立場に立って、弁護士会、各単位会にまでおろし、そして日弁連でも特別の委員会を設けていろいろ審査、審議をされた、その結果がおおむね妥当の見解を出すに至ったということですから、私ども非常に心強いお話であったわけであります。  ただ、この中で一つ民事調停法改正を今回は含んでおります。その中で、この地代家賃増減請求につきまして、二十四条の三というので規定を置きました。減額請求は理論上はあり得るけれども、実際上はしばらくは減額請求は起こらないであろうから、実務的には増額の方に問題がいく。そうすると、ここで「当事者間に調停委員会の定める調停条項に服する旨の書面による合意があるときはここの合意なんですけれども、先ほど吉峯先生も御指摘のように、恐らくこれは契約書の中に印刷文字として、今、例えば管轄合意、この紛争につきましてはどこどこ裁判所にしますというような管轄合意、当事者は余り理解せぬままに判を押しているだろうと思うのですね。これを消してくれということをなかなか言えない雰囲気のもとに日本人はそういうものをやってしまうという習性もあります。そういうことを考えますと、不服申し立てもできませんのでこれは相当慎重にしなければいけないんじゃないかというふうに思うわけです。  私はやはり、慎重にされることの担保というものを、この法案審議の中でしっかりとした民事局なりあるいは最高裁判所からの担保をとりたいというふうに思っているわけですけれども、木村公述人の御意見として、この部分、どういうふうにすればいいのか。例えば私は、書面による合意成立のいきさつ、要するにそんな例文で印刷したものにぱんと判を押しただけなのか、あるいはこの調停時点における当事者の意思というものを十分に考慮しなければこれはやってはいかぬのかというような点を、しっかりした答弁、あるいは最高裁判所の規則制定等で定めてほしいなというふうにも思っているのですけれども、何かその点について御意見があれば伺いたいと思うのですが、お願いします。
  33. 木村保男

    木村公述人 冬柴先生の御指摘、まことにごもっともでございまして、契約が成立したときの書面の中に、地代の増減請求、特に増額は、調停に持ち込んで当事者の協議が調わない場合でも調停委員会の仲裁的な裁定で決めてもらうことができるんだという記載をしておきますと、法律的にはそれが発動できるような形になるわけであります。  この民事調停法改正につきましては、実は弁護士会でも意見が割れておりまして、例えば大阪弁護士会の意見はこれには反対であります。先生御指摘のような危険性ないしは妥当でないる面が出てくるということで反対の意見を出しております。ところが日弁連ではこれは賛成というふうに言っておるのでありますけれども、この賛成の内容は必ずしも全面的賛成ということではなしに、これは調停委員会の実際上の運用にゆだねても危険はなかろうという判断ですね。私も調停委員をやっておりますが、調停委員会は臆病と言ってもいいほどこういうことについては慎重にやるものでありまして、両方の当事者が出てきてそしていろいろ意見を言う、自分の希望を言う。わずかなところで合意ができない、しかし、決裂するほど大きな差があるわけではない。これは公平な第三者の調停委員会に任じたらいいんだろうとお互いにそういうふうに考えて、そういう意見を表示したときに初めて調停委員会がこういう条文の規定を発動するということになるので、お互いに意見が完全に割れているようなときに無理やりに裁定的な判断をするということはしないという実情を踏まえて日弁連の方は賛成をしておりますが、しかし、その中にはただし書きがございまして、「紛争発生前の合意にまでこのような効力を持たせることは妥当ではないので、調停申し立て後になされた書面による合意に限ることとする。」というふうに注文をつけております。  ですから私は、法務省の方でこの合意の書面というのを、調停に際しあるいは調停後当事者が合意した書面というふうに改めていただく、修正していただくのが一番望ましいと思いますけれども、それでいかぬ場合には最高裁判所の規則でそういうことが明確になるような形の運用をできる、そういうものをつくっていただければ大変ありがたいというふうに思っております。
  34. 冬柴鐵三

    冬柴委員 それでは、時間も迫りましたので、吉峯先生と大富先生に同じことをそれぞれにお答えいただきたいと思います。それは、今回の、やはり改正された正当事由の読み方についてでございます。  これは、我々法曹人としては同じ読み方をすると思うのですけれども、例えば六条に、更新拒絶の要件の部分ですけれども、「借地権設定者及び借地権者が土地の使用を必要とする事情のほかこれこれ、これこれ、これこれ、これこれ「を考慮してこういうふうに立ててあります。その「ほかこという前の「土地の使用を必要とする事情」というのを主たる事情あるいはこれは必須、これは絶対要るんだ、そしてそれを補充する意味で、従たる事情としてその後ろの事情が並べられているんだ、こういうふうに私はこの法文を読むのですけれども、その点について違う読み方があると大変ですので、まず吉峯先生、そして大宮先生から、それぞれこれについての御感想をお伺いしたいと思います。
  35. 吉峯啓晴

    吉峯公述人 この条文を読む限り、従前貸し主側の自己使用その他と言っていたのを、判例等ももちろん貸し主事情とそれから借り主事情とを比較して考えるということは言っているわけですから、これが主要な判断であろうというふうにもちろん思います。そのほかに「借地に関する従前の経過及び土地利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出」というのを考えるというふうになっているわけです。  ただ、私が先ほどから申し上げているのは、裁判になったら裁判官はそう読むだろうと思いますけれども、その前の段階で、違った読み方をされてそれが力を発揮する場合があるだろうということが一つと、もう一つは、やはり最近この財産上の給付で割り切ろうという考え方が裁判所の一部にもあります。借家については一つ考え方かもしれませんけれども、借地については七割、八割が借地権者のものだということになりますと、法的にはともかく、経済的にはその土地はもう借地権者のものだと考えた方が正しいわけです。そういう財産的に確立された権利が両当事者の事情によって消滅することがあり得るというのは、例えば都市部では借地権がそれこそ一億、二億するわけですから、それがなくなる余地があるというのはむしろおかしなことだろう、これはむしろ財産権としてぴしっと割り切ってしまった方がいいというふうに思っております。
  36. 冬柴鐵三

    冬柴委員 済みません、ちょっと今のところで、大富先生の話を伺う前にちょっと吉峯先生に。  この「土地の使用を必要とする事情」がなければお金だけ積んでもだめだというふうにこれは読めますね。その点だけ。
  37. 吉峯啓晴

    吉峯公述人 そのように読めますし、そのようにぜひとも運用していただきたいと思っております。
  38. 大富宏

    大富公述人 私は法律家でないのでございますが、この条文につきましては、お述べになりましたように前二行の 「土地の使用を必要とする事情」というのが主たる事情であって、その以下は従たる事情だ、こういうぐあいに理解しております。
  39. 冬柴鐵三

    冬柴委員 大富公述人も、借地権設定者が土地の使用を必要とする事情というのは必須条件であって、それが全然ないのに、後半のいわゆる立ち退き料だけを出すからというもので正当事由は補完できない、こういう読み方でいいですか。その点もう一度、お返事だけいただきます。
  40. 大富宏

    大富公述人 そのように存じます。
  41. 冬柴鐵三

    冬柴委員 私の質問は終わりにさせていただきます。ありがとうございました。
  42. 伊藤公介

    伊藤委員長 御苦労さまです。  木島日出夫君。
  43. 木島日出夫

    ○木島委員 日本共産党の木島日出夫でございます。  四人の公述人の先生から御意見をお聞かせいただきました。加藤先生吉峯先生と木村先生、いずれも、今回の借地借家法が七十年ぶりの改正だが、既存借地権借家権は守らなければならない、既得権は守らなければならないという点で一致をした意見をお述べになったと思います。  そこで、お三方の公述人で違うのは、今度出された法律案の附則で既存借地権借家権が守れるような条文ができた、ですから賛成だというのが加藤先生木村先生。ところが、この附則の条項では、現状の借地人地主との力関係、借家人と家主との力関係から見て、更新時等に新しい契約がつくられた場合に脱法的なことが想定される、ですからこの附則では既存借地権借家権は守れないという立場から反対するというのが吉峯先生の公述であつたろうと私は今理解をいたしました。  この二つの立場の違いがどこから来るか考えますと、要するに、本法案の附則が現在の日本の土地住宅事情から本当に有効に機能するだろうか、法社会学的な見通しに立ってこの附則が有効に生きるだろうか生きないだろうか、その認識の違いなのではないかと考えました。吉峯先生は明確に、現在の土地住宅状況から、あるいは貸し手と借り手との力関係からこの附則は有効に生きないだろうという認識でありました。こういう現状認識を加藤先生木村先生はどう考えるのか。  私は、法律をつくる場合には、その法律がどのように社会において生きていくか、法社会学的な見通しなしに条文だけつくることはできない、国会としてはできないと考えております。吉峯先生から提起されたこの問題について、現状をどう認識されておるのか、お二人の公述人から意見をまずお聞かせ願いたい。
  44. 加藤一郎

    加藤公述人 ただいまの御質問にありますように、やはり法文をつくる場合には、それがどういう機能、実際上の機能を果たすかということを考えなければならないと私も思っております。  ただ、今の附則の問題について申しますと、貸し主借り主の力関係というのは、これはその具体的な状況によってどっちが強いかという議論もあるかと思いますが、貸し主の方が強いというのが一般的に言われているわけで、もしそれが非常に強ければ、その切りかえの問題ばかりでなくて、いつでも立ち退きの請求というのをしてくる可能性がある。いわゆる地上げというのは、本当は借りている方が頑張っていればいいはずなんですが、そこへいろいろ実力あるいは圧力を行使して追い出すというのが地上げでございまして、契約上の権利を主張していれば問題はない、あるいは裁判所に行けば問題はない、頑張れるはずだというように思うわけです。  つまり切りかえというのは、結局前の契約を合意解約して新規契約を結ぶということで、その前に、その合意解約ということで貸し主の方がどうしても立ち退け、借り主の方がそれもやむを得ないと言えば、これはもう今でもそれだけで追い出しはできるわけですね。これはちょっと法律上の問題というよりもむしろ今お話しの社会的な実態の問題でございまして、今の切りかえというのはそれよりはまだましといいますか、解約をして今度は新規定期借地権に切りかえるというようなものですから、それも合意解約自体を防ぐということはこれは法的にできないことで、裁判所に出てくれば、そのいろいろな圧力、暴力を加えたというようなことを言えば裁判所で合意解約も否定されることはあるかもしれませんが、合意解約で結構ですと言ってしまえばもうそれで契約としては終了するというのが原則でございまして、これは仕方のないことである。  それで、今度の改正法でその切りかえが促進されるとは必ずしも思っておりませんで、借り主の方はやはり自分の権利を主張するようにしてほしいというように思うわけでございます。
  45. 木村保男

    木村公述人 確かに御指摘のように、既存借地借家関係新法の施行によりまして合意解除したり、あるいは更新時に新法普通借地権あるいは定期借地に切りかえさせられてしまう、すなわち力関係でそういうこともあろうし、何か黙っていることによってだましてそういうふうに切りかえさせられるという、そういう危険性のあることは御指摘のとおりだろうと思います。  ただ、私の経験からいたしますと、現在における借地借家の場合で、例えばもう古くから契約関係があるものですからお互いに当事者が契約書をもうつくってない、あるいはつくってあったけれどもなくなっている、そういうときに、地主、家主の方から念のためにということで契約書をつくってほしいということを借地人借家人に持ってくることが間々あるわけでありますが、そういう場合でも、借地人借家人の方が弁護士事務所へ行って、こういうふうに貸し無視の方から言っているけれども今の時点でそういうものをつくらなきゃならぬのかということを相談に見えることが割合多いわけでありまして、現行法立場契約書を新たにつくるということであれば私は内容いかんによっては決して不利なものではないというふうに言えるわけあります。  まして法律が変わりまして、旧法の適用があるものと新法適用があるものとの二本立てが現に社会の中に存在するという場合でありますと、新しいそういう新法適用するような内容の契約書面を調印する場合においては、これは規定にもございますように定期借地権の場合は五十年以上のもの、あるいは十年以上二十年以下の短期のものを含めて公正証書その他の書面をつくらなきゃならぬわけでありますから、これはかなり手続的にきちっと歯どめがかかる、こういうことでありますから、そう簡単にそういうものを切りかえるということに同意したり、あるいはだまされた形でそういうものをつくるということは少ないのではなかろうか。  そういう意味では、法務当局がこの改正案が通過いたしまして施行の段階で、旧法の適用のある借地権借家権というものと新法とははっきり違うのだというふうな情報提供をしなきゃならぬ責任は大変大きいと思いますし、また弁護士も相談を受けた場合にはその点明確な指導をしなきゃならぬ、そういう責務を負わされているのではなかろうかと思いますので、大変楽観的だとおしかりを受けるかもわかりませんが、それほど私はその問題について弊害が大きいとは理解はいたしておりません。
  46. 木島日出夫

    ○木島委員 加藤先生から、旧法から新法への切りかえが促進されると思わない。私が聞きたいのは、なぜ思わないのか、その実態をどう認識しているのかというのをお聞きしたかったのですが、木村先生の方からは、弁護士としての経験上大丈夫じゃないかとおっしゃられました。先ほど、弁護士としての経験からむしろ危険だ、危ないんじゃないかというのが吉峯先生のお話でした。  短かい時間でそこを詰めることはできませんので、吉峯先生に一点だけその件で、どういうことをすれば既存権利が守れるとお考えなのか、その制度的保障をどうあるべきと考えるのか。あるいはそんな制度的保障は可能性がないから全面的に反対なのか、一言、簡潔に答えていただきたい。
  47. 吉峯啓晴

    吉峯公述人 普通借地権は、先ほど加藤先生もおっしゃったように、もう最近余り設定がないのですね。さっきちょっと舌足らずでしたけれども、要するに一〇〇%で売れば一〇〇%お金が入ってくる、七割で貸したら七割しかお金は入ってこないけれども三割は財産で残りますから、それに、売るのがなかなか難しいのに相続税がかかりますから、その問題でだれもが売る方を選ぶということですけれども、今のお話で、普通借地権がそういう状態になっているということになれば、ほとんどもう新たに設定されない普通借地権について改正をする必要はない。要するに、なぜその既存のやつに及ばないのかといったら、やはり及んじゃまずいなという御判断があるわけでしょうから。よければ既存のやつにも及べばいいのです。新法既存のに及ぼせられないというのは、やはり及ぼせられないなりの理由があるわけですから、そうであれば新法でもやめれはいい。そして定期借地権については、さっき言ったような観点から別の立法で、これとこれはもうはっきり違うんだということを最初からぴしっと意識づけて、そして場合によっては行政の許認可等も係らせて、それこそきちんとした定期借地権を別の制度にしてやればそういう混乱は起きないだろうと思います。
  48. 木島日出夫

    ○木島委員 今回の改正法案で、私もう一つ重大な問題だと受けとめているのは、地代家賃の紛争について調停前置主義をとり、そしてその中で、事前に書面による合意があれば調停手続の中で仲裁裁定を行うことができる。その仲裁裁定は訴訟上の和解と同一の効力を有し、しかも不服申し立て制度がないということだと思います。その点についても各公述人から意見が述べられました。  木村先生にお伺いいたします。  日弁連としては賛成の意見を言った、しかし条件をつけたとおっしゃられました。私、手元に日弁連が法務省に出した意見書を持っています。結論は賛成です。ただし、理由として条件がついています。「但し、紛争発生前の合意にまでこのような効力をもたせることは適当ではないので、調停申立後になされた書面による合意に限ることとすること、仲裁判断を争う方法が定められていることに鑑み、何らかの不服申立ができることとすること等の配慮が必要である。」非常に重要な二項目に及ぶ前提条件がついております。  私、当委員会で法務当局に質問いたしました。民事局長から、事前の合意、紛争発生前の合意でも有効だ、借地借家契約書にこういう合意があれば有効だという答弁、明確にされております。そうしますと、日弁連のこの立場、これは日弁連の立場だと思うのです。この二項目のうち、不服申し立てがないものははっきりしています。調停申し立て前の合意も有効だということを法務省は述べておりますから、そうすると、もう結論は反対になるんじゃないでしょうか、どうでしょう。
  49. 木村保男

    木村公述人 先生御指摘のように、実質的には反対でございますね。ただ、先ほど冬柴先生のお尋ねにも申し上げたのですが、運用面においてはこういうことは絶無であろうという非常に楽観的な考え方のもとに賛成ということに形式上はなっておりますが、しかし理由を立ち入ってお聞きいただければ、これは反対である。  まあ法務当局がこういう規定を持ち出したのは、商事調停にこういう条文がありますものですから、それとの整合性でこういう同じ内容の条文をお考えになったのだろうと思いますけれども、企業間の紛争処理に使う商事調停と庶民が非常にたくさんこういうものを活用するこの借地借家の賃料増減請求調停とは別意の規定を置いても差し支えないわけでありますから、先生の御指摘のような、日弁連の意見の内容を踏まえたような修正をお願いできたらと、こういうふうに思っております。
  50. 木島日出夫

    ○木島委員 私は、この問題は憲法問題だと思うわけであります。憲法三十二条に「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。」この憲法から見て、調停条項制度——強制調停のようなもの、押しつけ調停のようなものであります。事実上の仲裁であります。これが許されるかどうか、まさに大問題だと見ているわけであります。  そこで加藤先生に、法制審議会において、この制度を今回借地借家地代家賃紛争に持ち込むことについてこの憲法問題がしっかり審議されていたのかどうなのか、質問をしたいわけであります。そして、その前提として私は二、三の点を、こういう点が審議されていたかどうか述べたいと思います。  実は、日本において調停制度がつくられた出発点は、まさにこの借地借家の紛争についてつくられました。大正十一年に借地借家調停法ができたのが日本の調停制度の出発であります。土地建物の賃借、地代家賃その他の借地関係借家関係の紛議につき調停を申し立てることができると。  この借地借家調停法は、第二十四条におきまして「期日二於テ調停成ラサルトキハ調停委員会ハ紛議ノ目的タル事項及手続ノ費用二付適当ト認ムル調停条項ヲ定メ其ノ調書ノ正本ヲ当事者ニ送付スルコトヲ要ス」、そして第二項で、これ、大事なところであります。「当事者カ前項ノ正本ノ送付ヲ受ケタル後一月内ニ調停委員会ニ異議ヲ述ヘザルトキハ調停ニ服シタルモノト看做ス」。大正十一年につくられた借地借家調停法にまさに、調停条項調停委員会によって強制的につくることはできるけれども、当事者から異議が出されればそれは吹っ飛んでいくんだ。不服申し立ての道がきちんとあの当時の法律ですらできていたわけであります。しかも二十六条を読みますと、「第二十四条第二項ノ規定二体リ当事者カ調停ニ服シタルモノト看做サレタルトキハ裁判所調停主任ノ報告ヲ聴キ調停ノ認否ニ付決定ヲ為スコトヲ要ス」、さらに合意があっても、不服申し立てがなくても裁判所はそれを認否するかチェックするのだ、ダブルチェックがこの法律にあったわけであります。  しかしそれが崩されました。歴史的には昭和十七年、戦争中であります。まさに戦争促進のため、こういう争い事は簡単に解決せいということで、戦時民事特別法というのが昭和十七年にできました。そこで制度がつくりかえられまして、金銭債務臨時調停法という法律が全部の調停事件に準用されることになりました。その金銭債務臨時調停法というのは、昭和七年九月七日、法律第二十六号でありますが、第七条で、調停委員会において調停成らざる場合においては調停委員会調停条項制度をやることができるのだ。しかし、その法律ですら第九条で「第七条ノ規定ニ体ル裁判ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得其ノ期間ハ之ラ二週間トス」。戦争中の戦時調停法ですら不服申し立ての道が開かれていたわけであります。もちろんこれらのものは戦後全部廃止になりました。戦後昭和二十六年に民事調停方がつくられました。そのときにこれらの制度は全部廃止されまして、幸いに残ったのが、今木村公述人お話しになりました商事調停と鉱害調停だけは辛うじて特殊の性格からこのような調停条項制度を残したわけであります。それが今回復活する。しかし、これは私既に法務委員会で指摘したのですが、昭和四十九年の民事調停法一部改正で全面復活させようとしたのですが、廃案になっているわけですね。  私は、憲法三十二条とのかかわりで重大な疑義があるということで、こういう押しつけ調停制度、強制調停制度、事実上調停の名による仲裁、これが否定されたのだろうと思うのです。こういう非常に大きな歴史がある、憲法上の疑義がある、このことを法制審がどのように論議したのか、加藤先生から……。
  51. 加藤一郎

    加藤公述人 ただいまの御質問でございますが、いわゆる強制調停あるいは調停にかわる裁判と、今回の合意による調停、仲裁的な調停ですね、それは制度としては私は違うと思うのです。強制調停の場合には、これは何もあらかじめ合意がなくて調停をやっていて、これは調停条項で片づけた方がいいというふうに調停委員会が思ったときにはそれで調停をする、そして、それに対しては後で異議を述べなければそのまま通るけれども、異議を述べればそれはもう一度やる。それが、戦時中の臨時金銭債務調停法ですか、それでは強制力が非常に強かったのが戦後なくなったということで、今の調停にかわる裁判というようなものは残っているものもありますけれども、それは後で異議を述べれば消える。今回の調停というのは、あくまで事前の合意がはっきりしている場合に調停で措置をするというもので、それと性質が違うというふうに思っております。  それで、問題はその事前の合意というのがどこでどうはっきりわかるかということで、調停委員会に出ましたときには、これは印刷された契約書ではっきり当事者が合意をしていないということを言われれば、調停委員会の方でそれの実情を調べるなりあるいはそういうことであれば調停はしないというようなことで処理してくれるだろうと、私も木村公述人と同じように、そういうふうに実際には処理されるから心配はないというふうに思っております。  これは別の話になるかもしれませんが、我が国では仲裁ということが余り行われていない。もっと仲裁ということでいけば片づくようなものがいろいろありまして、国際商事仲裁制度などというのもあって、これは商事仲裁ですけれども、契約書に入っている場合には国際商事仲裁委員会で決めたところに従うということになっております。民事の借地借家の場合にはそれよりは慎重でなければならないし、恐らく調停委員会の方でも慎重に、どこまで合意があったかということを認定するだろうと思います。ですから、実際にはその場での事前の合意がなければやらないということになっていくのではないか、こういうふうに思っております。
  52. 木島日出夫

    ○木島委員 時間が来たから終わりますが、私は今回の調停条項制度即強制調停だとは考えておりません。強制調停のようなものというふうに正確には言いたいと思います。しかし、どれだけそれが事実上強制調停のような法的効果を発揮するかどうか、まさに事前の合意の問題、それと、適正な賃料が提示されるかどうか、まさにその中身の問題、そういうチェックがなければ非常に乱用されるのではないか。しかし、本法案には法律上何らのチェックもありません。裁判所の方から最高裁規則を変えるなどという発言もまだありません。そういう前提条件なしに本件の民調法だけが持ち出されたということに大変大きな危惧を感じているということだけ触れまして、終わらせていただきます。
  53. 伊藤公介

    伊藤委員長 中野寛成君。
  54. 中野寛成

    ○中野委員 民社党の中野寛成でございます。きょうは四公述人先生方には御苦労おかけいたしまして、お礼を申し上げたいと思います。  四人の先生方に、まず最初に、それぞれまとめて質問をさせていただきます。  加藤先生からは、従来の形のものに風穴をあけるんだ、しかしながら、乱用をされるようなことがあっては困るということを当初申されました。その乱用の一つの形として、今もお話がございましたが、調停制度の問題もあるのではないだろうかと私も一種の危惧を持つわけであります。まず調停を申し立てなければならない、こうなっておりますが、そのことと、例えば借家人がいや調停は嫌だと言えば調停は入らない。しかし、調停前置主義の、調停を申し立てたという行為はなされた。それは、事前に不調に終わって次の段階へ行くということになるのか。そして、その他の乱用についての危惧の念をお持ちでしたら、その乱用はどういうところが考えられ、それをどう防がなければいけないのか。そのことについて加藤先生からお答えいただきたいと思います。  それから、吉峯先生からは実体論について詳しく述べられ、その中で、例えば契約更新の時期に市販の契約書、これは新法に基づくものがつくられるであろう、そしてなし崩し的に新法適用がなされていくであろう、そして、言うならば知らず知らずのうちに定期借地権に変更されるというようなこともあるのではないか、専門家といいますか弁護士に相談をされれば問題はないが、こういうふうにおっしゃられたわけであります。  法律の場合にはまさに解釈論と実体論、これが伴わなければ大変問題を起こすわけでありますが、そこでお聞きしたいことは、先生であれば、どういうタイミングでどういう内容にするであろうか。実は先生の弁護士というお立場ですから、立法論者ではなく、また行政者ではありませんのでこういう質問をするのは酷なのかもしれませんけれども、実体論にお詳しい先生ですのであえてそういう聞き方をさせていただきたいなと。  というのは、いろいろ地上げが盛んに行われていた時期にこの法案の審議が法制審で行われておったということなども考えなければいけないというふうにおっしゃられました。言うならば、そういう意味ではタイミングと中身というものもあわせ考えなければならないという御指摘であつたろうと思うのであります。先生であればどうなさるかということをお聞かせいただければと思います。  それから大富公述人にお尋ねをいたしたいと思いますが、この前これは当委員会で法務省にお尋ねをしたのですが、法務省民事局でつくっておりますパンフレット、「貸しやすく借りやすい借地借家関係を」というタイトルのパンフレットができております。そのとき申し上げたのは、貸しやすくなって、そしてそれによって、貸しやすくなった制度を利用して供給がふえれば、それは借りやすくなるだろう、すなわちこの貸しやすくと借りやすいの間に供給がふえて、そしてその供給による競争がふえて、量もふえると同時に、例えばその競争関係の中で地代家賃等が安定をするとか安くなるとかというふうなこともあわせ考えられれば、貸しやすく借りやすい環境が生まれるであろう、こう思うのであります。  この法律は、加藤先生も先ほどおっしゃられましたように、そういう住宅政策論的なことを考えてつくられるものではなくて、制度の合理化を目的とされているわけでありますが、しかし、現実に不動産協会というプロのお立場考えて、この法律改正された場合に、そういう土地住宅についての政策的効果、立法効果といいましょうか政策的効果があるか否か、何か期待をされるものがあるかどうか、そのことについてお尋ねをしたいと思います。  次に木村先生にお尋ねをいたしますが、大変お久しぶりでございまして、大阪空港のときには、私はその選挙区でございますので木村先生には大変お世話になりまして、あのときは公害の、航空被害者の立場に立って運輸省と大変訴訟で大げんかをしていただいて、感謝しているんでございますが、どうもそのイメージの方が強くて済みません。そういう意味で、弁護士というお立場でおやりになったのでそのことが先生の思想的傾向をあらわしているとは思いませんが、しかし私からすると、弱い者の立場に立ってよく頑張ってくれる先生だというイメージの方が強い。  そこで、そのことは無関係でお答えいただいて結構ですが、先ほど貸す方にとっては物足りない、借りる方にとっては不安がある、そういうのがちょうどバランスがとれているのではないか、弁護士らしくない政治家的発想で最後を締めくくられたのですが、これを逆転してちょっと質問さしてください。この法案はどちらにもメリットがあるものなのかどうか。貸す方にも借りる方にもメリットがあるものなのかどうか。というのは、メリットがなければ法改正意味はないと思うのですが、そのことについてどうお考えか。いわゆる一方は物足りない、一方は不安だということだからバランスがとれている、これはバランス論ですが、この法改正は双方にとってメリットがあるかどうかということでございます。  それから、この調停の問題について日弁連として注文をつけられたということでありますが、その部分。一番問題はそれだ、それが例えば法案の修正とか最高裁の規則で配慮されればとおっしゃられましたが、それがあればまずまずこの法律は問題ないなということなのかどうか。これは重ねての質問になりますが、再度お答えをいただければありがたいと思います。
  55. 加藤一郎

    加藤公述人 私には調停の乱用のおそれはないかというお話だったと思いますが、まず、調停委員会というのは裁判官、判事一人と調停委員二人とで構成される三人構成になっております。ただ、実際には裁判官は忙しくてなかなか顔を出さないで、調停委員二人がやっていて、まとまると裁判官のところへ行ってそれを説明して判こをもらうというのがかなり実態に近いのじゃないかと思いますけれども、いずれにしても調停委員会というのはそういう三人の構成でございますので、まず手続的に見て、その事前の合意ということをやはり一応そこで十分チェックはできるのではないかと思うわけです。契約書などでその合意ということが書かれておりましても、前から裁判所判例などでは、印刷したものにある文言は一種の例文、例として書いてある文にすぎない、例文にすぎないから、これは本当に当事者が合意していなければその効力はないというような判決もございました。例文解釈などと言われておりますが、今度の場合も、この事前の合意がはっきりしなくて契約書をただ使ったにすぎないということであれば、例文解釈あるいはそれに近いような考え方で調停委員会処理するのではないか、手続上そういうふうに思っております。  それから、実体的にその調停委員会地代家賃を決めるとなりますと、これは調停委員専門家あるいは有識者という方で、そこで決まる地代家賃というのは信頼できるのではないか、こういうふうに思うわけで、そういう手続、実体両方の面で一応の歯どめはあるので、私はそういう意味調停委員会を信頼していいというふうに思っているわけでございます。
  56. 吉峯啓晴

    吉峯公述人 今の中野先生のお話は一弁護士の手に余る問題ですけれども、一つは、やはり我々の立場からすると、十分議論していただいた部分もありますけれども議論していただいてない部分もある。例えば住宅ローンの問題なんか本当に切実な問題です。住宅ローンが設定できなければ買うにも買えない。したがって借地人も、売ろうと思っても買い手が住宅ローンが設定できないから正当な価格で売れずにプロ的な人に安く買いたたかれるというふうな問題がありますから、そういう問題を含めて借地権の財産としての近代化という問題が一つと、それから土地政策、住宅政策との整合性、ドッキングということを踏まえた上で一回仕切り直しをしていただいた方がいい。要するに、それこそ借地人地主さん、家主さんと借り主というのが本当にフィフティー・フィフティーの関係で納得のいく関係をつくっていただいて、我が国の社会が借地借家問題については本当にもうフィフティー・フィフティーの問題で穏やかに調整できるのだというふうなことでないと困ると思いますし、借地借家法はその手助けをする法律なのだろうという気がします。  今のまま、何らかの形で改正されれば、この借地借家法をめぐって、かえって借地人地主との関係、家主と借家人との関係が、ある種の何か対立的な構図になってしまうだろう。そういう意味では、法務省がおっしゃっているように、多様な要求にこたえるため、社会経済状態にこたえるためであるということで、従前借地人借家人権利を阻害することはないんだということであれば、仕切り直してその趣旨をもう一回十分国民に徹底していただいて、法務省はやはりほかの役所と違って広報能力が高いとは思えません、はっきり言って。それを一回十分やっていただいて、その上で今言ったような論点も踏まえてもう一回全国民的にきちんと議論していただいて、それで先ほど言った包括的な問題を全部取り込んで、正当事由の問題を弱めるとかあるいは定期借地権借地借家法の中に入れ込んで性急に導入するということではなくて、仕切り直しをしていただいて、今の問題をきちんと議論した上でもう一回仕切り直しをしていただきたいというふうに思います。  そういう意味では、今のこのバブルの問題が一回きちんと処理がついて、その上でこの問題がなくなって地価等が本当の意味で安定して、また上がると思っている人もいるわけですから、きちんと鎮静化した中で、全国民的な議論を背景に穏やかな関係が形成されるような改正をやっていただきたい、こういうふうに思います。
  57. 大富宏

    大富公述人 お答えいたします。  この借地借家法改正が、住宅政策論的に見て立法効果があるかどうかというお尋ねだったと思いますけれども、今回の借地法借家法改正というのはあくまでも借り主貸し主権利関係に即した改正で、この間を適切に規律するというのが目的でございまして、全く純粋に民事上の見地から改正が行われるものでございまして、土地供給促進とか住宅政策にプラスになるとかいう観点からなされたものではないということは私も了解いたしております。したがいまして、不動産業者的な立場からもう少し、土地基本法もできたのだから、土地建物の置かれている周辺の地域状況もひとつ正当事由の中に入れてくれという要望も出しましたけれども、これはアウトになっている。それはアウトになる理由もあったかと思います。  ただ、今回やはり七十年なり五十年なりの借地借家法の実績を踏まえて、今日の時代に合わない、よく言われておるのでございますが、新たな借地がなかなか提供されていない、それから貸し家にしたくても良質の貸し家供給がないというのも、そのすべてが借地借家法の責任ではございませんけれども、一半の理由はあるのではないだろうかというふうに思います。したがって私どもも、借地借家法改正されたから不動産業者として非常に仕事がやりやすくなるとか、あるいは住宅政策上非常にプラスだと直接には思いませんけれども、今回の新たな改正によりまして定期借地権式の新たな制度もできましたし、これは利用の仕方によっては非常に使われるであろうし、地主さんの方でも貸すことについての心配が余りなくなる、そうすると良質賃貸住宅等もふえてくるのかな、こういうぐあいな感じは持っておりますけれども、住宅政策に直接プラスするような法律改正とは理解いたしておりません。
  58. 木村保男

    木村公述人 弱者が不当な形で権利侵害を受けているということを救済するのが弁護士としての第一の責務でございまして、そういう意味では、例えば地上げ屋に不当な言いがかりをつけられて追い出しにかかられているというふうな場合であれば、これは公害被害者と同じような形でその救済に当たらなければならぬというふうに私たちは考えております。  ただ、例え話のような形で、貸し主側にも期待したほどのものはない、借り主側にも何らかの危険性があるのじゃなかろうかというふうな懸念というものを持たす改正法がちょうど妥当なんじゃなかろうかというような、言わずもがなの非論理的なことを申し上げたものですからいろいろ誤解を受けてしまいましたのですが、現行の借地法新法ができたときの状態とを考えて両当事者のメリットということになりますと、これは借り主の方もそう大きくは変わらないのではないかというふうに思っております。  例えば私たちが懸念をしたのは、ちょうど駅前である、しかしそこはまだ十分に開発が進んでいない、駅前で歩いて四、五分のところに住んでおるのだけれども、路地の奥におじいさんとおばあさんと二人で駄菓子屋をやって近所の子供を相手に商売をしている、こういうなりわい的なもの、この人たちはやはりそこの場所に極めて強い定住意識があって、せめて死ぬまでここに置いてくれ、そういう考え方、要請というものは無視できないというふうに思うわけですね。  ですから、地主、家主の方が、従前改正法のように、もしこれが当該土地建物の存する地域の状況というファクターをも入れてしんしゃくをするということであれば、あるいはこのおじいさん、おばあさんの生活権というものが揺らぐということも考えられるわけでありますけれども、今回の改正はその危惧はかなり減ったのではないか。やはり地主の方がそのおじいさん、おばあさんの当該借地借家の使用の必要性を上回るようなそういう必要性が出てきて、初めて正当事由が具備する可能性が出てくる。だから、例えば、最低限そのおじいさん、おばあさんがそこにおりたいという希望を入れてあげて、今の建物利用状況からして相当でないとすれば、ビルに建てかえてあげてその一部分に住まわせてあげるぐらいの配慮は当然しなければならないというふうに思っておるわけでありまして、裁判所も多分、今回の改正法適用の場合にそういうふうに考えてくれるのではなかろうかというふうに思うわけであります。  それ以外には、例えば定期借地権で、通常の普通借地権であれば三十年で、その先に十年十年の更新があって、そのたびに正当な事由の有無について審理された上で、何というか、安定感が少し損なわれるような、それよりは五十年ということで、返さなければならぬけれども長期の間自分の生涯サイクルに合わせた借地ができるということで、それを承知の上で借りる。その場合には権利金も通常言われておるような大きなものを要求されないで済むというふうなメリットが出てくる可能性があろうかと思いまして、そういう多様なメニューを上手に使う、それには弁護士も積極的に相談に乗っていかなければならぬのではないか、こういうふうに考えております。
  59. 中野寛成

    ○中野委員 きょうはどうもありがとうございました。
  60. 伊藤公介

    伊藤委員長 これにて午前の公述人に対する質疑は終了いたしました。  公述人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。  午後一時三十分より再開することとし、この際、休憩いたします。     午後零時四十三分休憩      ————◇—————     午後一時三十四分開議
  61. 伊藤公介

    伊藤委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  この際、御出席公述人の皆様に一言ごあいさつを申し上げます。  公述人各位におかれましては、大変御多用中のところ御出席をいただきまして、大変ありがとうございます。  借地借家法案及び民事調停法の一部を改正する法律案に対する御意見を拝聴し、両案審査参考にいたしたいと存じますので、忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願い申し上げます。  なお、御意見は、藤井公述人、内田公述人、酒井公述人、荒木公述人の順序で、お一人十五分以内でお述べをいただき、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。  念のため申し上げますけれども、発言をする際はその都度委員長許可を受けることになっております。また、公述人委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、あらかじめ御承知おきください。  それでは、まず藤井公述人にお願いをいたします。
  62. 藤井鋭三郎

    ○藤井公述人 全国地貸家協会を代表いたしまして意見を述べさせていただきます。  私どもの協会は、戦前よりの大変古い契約関係を数多く有する個人の地主あるいは法人、または宗教法人、団体等で構成されておりまして、現行法に大変矛盾を感じ、ここ数年来改正運動等積極的に取り組んでまいりました団体であります。  今回法案が御提出され、ようやく改正の機運を得ましたることは大変喜んでおる次第でありまして、基本的に、御提案されております法案に対しましての賛成の意見を述べたいと思っております。しかしながら、一部内容的に不満もございますので、その不満の点を少し述べさせていただきたいと思います。  まず、正当事由についてでございます。  御承知のように、正当事由は昭和十六年改正時に導入されました新しい制度、すなわち大正十年の制定時から二十年目に当たる昭和十六年に導入されたものでございまして、このときの衆議院における御答弁で、菊地委員からの御質問で、坂野民事局長は具体的な正当事由を掲げております。これを御紹介させていただきますと、自己使用はもちろんでありますが、賃料不払いあるいは土地の原状変更、無断増改築、無断譲渡、貸借人の破産、最後は非常に大事なところでございますが、自己の家族または親族の使用、こういうことが正当事由に当たるんだということの趣旨説明のもとに制定された経緯がございます。しかしながら戦後、未曾有の空襲により家屋が損失したためにこれらの判例における解釈が非常にあいまいになってまいりましたことが、現行法をめぐる多くの紛争の基本になったわけでございます。  昭和三十五年に改正準備会でまとめられました四項目の正当事由、具体的に列記されております。一、請求の際、借地権者または転借地権者が正当な事由なくして当該土地を使用していないとき、二、土地所有者が当該土地の上に工作物を築造する計画を有し、これを実行することが当該土地をより高度に利用することとなるとき、三、土地所有者借地権者または転借地権者に比較して当該土地を使用すべきより切実な必要を有するとき、四、土地所有者借地権者または転借地権者に対し相当な条件で直ちに使用し得る相当な代替土地を提供するとき、この四項目を掲げて正当事由としようとしたのでありますが、今回の法案はこれよりはるかに後退した内容になっております。  すなわち、戦後の住宅困窮時代に構築されました数多くの判例を踏襲したものになっておるのではないかと思っております。若干評価できる点は、従前契約経緯、それらも正当事由の判断の要素の一つに掲げられておりますが、財産給付を考慮するなど、今日ちまたで横行しております高額な借地権対価、条文には全くございませんが、六割とかあるいは九割という、所有権を侵害する大きな権利となって賃借権が一つの物権化をしておるということに大きな問題があろうかと思っております。ここのところは、現行法をめぐりまして紛争の多くの起因しているところがこの正当事由をめぐる争いでありますので、願わくばより明快な明文化を期待してやまない次第であります。  次に、法案の目玉であります定期借地権でございますが、従来の返さなくてもいいという概念の中に、限定された三つ類型でありますが、返さなくてはいけないという概念が導入されることにつきましては高く評価いたしております。しかしながら、従前契約を数多く持っておる地主にとりましては、新たに貸す意欲を持つかということは大いに疑問がございます。  次に、賃料改定につきましてでありますが、物を貸すという大原則は賃料、使用料をいただくことにあるわけです。しかしながら、地代、特に不動産を貸す場合には、長きにわたりまして、昭和六十年十二月まで地代家賃統制令という非常に古い法律の網をかぶっておりました関係から、賃料増額請求というのが円滑に機能いたしておりませんでした。一例を挙げますと、固定資産税、公租公課の上昇にとても賃料の値上げがついていかない、そういうことがたくさん私どもの業界に事例として報告をされております。また、賃料増額請求で本訴に及びましても非常に長い時間がかかり、また鑑定をとりましても、そもそも地代家賃なるものは不労所得の最たるものとしてという書き出しに始まります一つのイデオロギーを基本とした鑑定書しか出てこない。非常に多額な鑑定料あるいは訴訟費用をかけましてもわずかな値上げしか期待できないのでありまして、これらをめぐる紛争は水面下で日常的に小市民的な争いになっておるのでございます。  今回の法案では調停前置という制度を設けられておりますが、願わくば固定資産税あるいは相続税をも二十年あるいは三十年にわたって転嫁できる一つの指数、ガイドライン的なものをお示しいただく制度にしていただけば大変ありがたいと思っております。  また、借家につきましてでありますが、大正十年の制定時には、当時の山内民事局長は、ビルディングは借家ではない、この法案における借家法適用ではないのだという明快な答弁をしておりますが、現在では、大企業が貸借人で入ります。営業用借家と私どもは言っておりますが、これらにつきましても借家法適用がございます。これはどういうことになるかといいますと、現行法の多くは、弱者保護ということで、私人であります賃貸人、すなわち地主あるいは家主に社会福祉的な役割を担わしておるのでございます。この不合理が、相手がだれであれ借家人であるというだけで、一部上場企業の会社であっても厚く保護されておるという現状を御認識賜りたいのであります。  私ども零細地主、家主は、固定資産税の重圧に耐えかね、また、老朽家屋を建てかえをしようとしましても大変法外な立ち退き移転料を要求される現実があるわけでございまして、とても経済原理が働く賃料体系にはございません。こういうことを現実招来させております大きな原因は、この法案の根底に流れております強行規定そのものでございます。近代法におきまして、強行をもって当事者の取り決めを無効としてしまうということは、契約自由の原則あるいは法のもとの平等等におきましても大いに疑問を感じておる次第でございます。  願わくば、御審議の過程で、二十一世紀に向かっての不動産の賃貸借のあり方、国民の基本財産であります不動産をどうこれから活用していくのか、貴重な資源であります不動産賃貸におけるあり方の原則をぜひお示しいただきたいのでございます。現行法余りにも大きな矛盾があるために多くの紛争を招来させておることは周知の事実でありまして、これらを基本的な御討議の原点にしていただきまして、願わくば不動産リース法的な近代法に脱皮することをこいねがうものであります。  以上、簡単でございますが、意見を述べさせていただきました。
  63. 伊藤公介

    伊藤委員長 ありがとうございました。  次に、内田公述人にお願いいたします。
  64. 内田勝一

    ○内田公述人 私は、早稲田大学法学部で民法を教えており、民法の中では特に借地借家法を研究してまいりました。今回の借地借家法改正問題につきましては、ジュリスト、法律時報など法律専門雑誌に論文を書いております。本日は、改正問題の背景あるいは法案の具体的な内容についての詳細は省略し、法案の基本的な問題について意見を述べさせていただきたいと思います。  まず第一は、借地制度のあり方です。  借地法改正する理由として、借地法の規制が厳格で土地所有者による貸し地供給を阻害しているとか、短期間利用を欲し更新を希望しない新たな借地のニーズがあるという理由づけがされています。しかし、建物所有のための借地制度というものは、欧米の借地借家制度と比較して研究してみますと、土地所有者が都市開発や建物を建設する資力あるいは能力がないときに利用される極めて例外的なものでありまして、一般的に発展する可能性は少ない、そういう制度であります。例えば、我が国と同様の長期賃貸借制度を持っていたイギリスは、借地人土地所有権の買い取り請求権を与えることで借地制度を実質的に消滅させましたが、これは我が国の借地制度のあり方にとっても教訓的です。すなわち、借地制度の運用に問題があれば借地人を所有者にするというのが比較法的な結論だからであります。そして、借地制度が活用されるのは、例えばドイツに見られるように、国や自治体の有する公有地を開発する際、開発主体に所有権ではなく借地権を与えるという場合に限られています。借地制度は比較法的に見るとこのような特徴を持った制度であり、借地法の規制を緩和して借地供給を拡大するという発想自体に比較法的には問題があると思います。  第二は、正当事由制度であります。  判例法によって発展してきた、展開してきた正当事由の内容を具体化することは必要ですし、また望ましいことだと思います。諸外国でも、例えばイギリスでは自己使用にプラスして明け渡しを求める相当性があるかどうかを裁判所が判断するという基準になっておりますので、日本法の正当事由制度というのは比較法的に見ても異例のものではありません。また、八五年に公表された「問題点」に含まれていた「土地の有効利用の必要性及び相当性」あるいは要綱試案での「土地の存する地域の状況」が除かれ、当事者間の土地建物利用の必要性を比較考慮するという正当事由制度の本来の状況へと戻ってきたことは十分に評価に値すると思います。なお、再開発の必要性が正当事由の要素になっている外国法もありますが、それは都市計画法により住民参加を経た上で再開発地域として指定され、公的な主体が開発事業を行う場合でありまして、我が国のそれとは基本的に違っていることをつけ加えておきたいと思います。  ところで、今日では立ち退き料により正当事由が補完されるのが通常ですが、法案が立ち退き料を正当事由判断の一要素として明文で認めたことは、現状の追認ということができると思います。しかし、このことによって、立ち退き料が正当事由の補強事由という位置を超えて、正当事由がなくとも立ち退き料さえ支払えば明け渡しを求めることができるという状況に限りなく近づくことが危惧されるわけです。  したがって、改正法案の正当事由制度はこれまでの内容を変更するものではないことを明確にした上で、正当事由の中での基本的なもの、つまり当事者が土地建物の使用を必要とする事情と、それ以外の二次的なものとを区別し、さらに立ち退き料は補強的なものであることを明示すべきだと思います。  なお、借家の場合に、借地と異なり、建物の使用または収益の必要性という規定がありますが、収益という言葉は恐らく営業用建物の場合を念頭に置いているのかもしれませんが、削除すべきではないかと思います。  第三は、今後新たに設定される普通借地権についてです。  現行法の採用している堅固な建物と非堅固の建物との区別をやめ、存続期間を三十年としたことは妥当だと思います。ただ、借地権設定者に更新拒絶の機会を与えることを目的として更新後の期間を十年とした点については、借地の安定的利用を阻害し、更新料請求をめぐる紛争を増加させるだけであるという批判が当てはまると思います。現行法と同様の二十年とすべきではないかと思います。  また、借地権更新後の建物の滅失の場合、借地権が消滅することを原則とし、貸し主の承諾がない限り、残存期間を超える建物を建築できないとしていますが、貸し主は何らの理由がなくても承諾を拒絶でき、借地権者はやむを得ない事由がなければ承諾にかわる許可を求めることができないというのは不公平ではないでしょうか。更新の前後の区別は重視すべきではなく、借地権更新を想定している土地利用権であるという原則を貫くべきでしょう。  第四は、定期借地権の問題です。  まず、定期借地権は果たしてどの程度利用されるでしょうか。例えば、法案二十二条の規定する期間五十年以上の定期借地権の場合、半世紀もの長期契約を設定することに貸し主は不安を感じ、確実に土地が戻るかについて疑いを持ち、余り利用されないのではないでしょうか。公有地の貸し付け、あるいは公的機関が定期借地人となることが考えられる程度ではないでしょうか。  また、定期借地権によってどのような都市ができるのかも考えるべきでしょう。例えば、法案二十四条の定期借地権の場合には、ファミリーレストランやスーパーの建設が想定されていますが、郊外の街道沿いに建築されるであろう建物は、いわば映画のセットのような簡易な建築物であり、美しい町をつくるということに逆行するのではないでしょうか。より一般的に言えば、定期借地権により建設される建物は、期間満了とともに効用を失うような建物となり、建築物を社会資本と考え、質を向上させようとしている都市開発、建築行政の基本的な方向に反するのではないかと思います。  さらに、更新規定のある普通借地権が新たに設定されることはなく、既存借地権も徐々に定期借地権化していくと思われます。つまり、定期借地権によって普通借地権が駆逐されるということになるわけですが、原則としての普通借地権利用されず、限定されたニーズにこたえるとされていた定期借地権一般化されるというのは決して望ましいこととは思いません。  現在の法制度においても、土地信託とかあるいは土地所有者に資金を融資して建物を建設させ借家人になるというような方法で定期借地権と同様な機能を実現できるのですから、このような副作用の予想される制度をあえてつくる必要はないと考えます。  第五は、借家の問題です。  借家法借家供給の阻害になっているという意見がありますが、これは正しくないと思います。建築戸数を見れば持ち家建設よりも借家建設が多く、借家供給は進んでいますし、空き家率も高く、統計的には借家供給需要を上回っています。また理論的に見ても、外国法と異なり正当事由という存続保護制度のみで家賃規制のない我が国の借家法が、借家供給を阻害するとは考えられません。  借家の質の向上は、都市計画的規制に加えて住宅居住水準を定め、それを確保する手段を持つ諸外国に見られるような住居法あるいは住宅基本法を制定し、それによる規制をした上で、建築業者に対する資金融資が必要なのです。さらに、借家人の家賃負担能力と住宅の家賃との差額を補助する家賃補助という財政政策も不可欠になるわけです。良質な借家供給の拡大というものは、借家法の緩和によってではなく、ドイツに見られるような住居関係法の整備と国や自治体の積極的な財政政策によってなされるべきなのです。つまり、住宅基本法の制定こそが良質な借家供給のかぎであり、このような方向を追求すべきなのです。  第六は、既存借地借家関係に及ぼす影響についてです。  既存契約には改正法を原則として適用しないとしているのは当然ですが、賃貸借の途中、当事者が賃貸借契約を合意解約し、合意により新たな借地借家関係を設定することはできます。裁判になれば、賃借権の放棄、合意解約の意思が本当にあったのか、あるいは賃貸人の圧力によったのではないかが確かめられますけれども、裁判にならない圧倒的大多数の事例では、当事者の力関係からして、括弧つきでありますが、合意解約により新たな権利関係へと移行してしまうでしょう。特に、賃貸人の地位を譲渡し、貸借人に対して新たな契約を求めるということが増大するのではないかと思います。  つまり、言いかえると、法は裁判所適用される規範ですのでその内容が公正かどうかが基本的な判断の基準ですが、改正法案によって実際の社会で当事者の権利義務関係がどのように変化するか、どのような影響を与えるのかが実は重要なのです。紛争の圧倒的多数は裁判外で解決されるからです。  例えば、法案地代家賃の紛争について調停前置主義を採用し、書面の合意があれば調停委員会は適当な調停条項を定めることができるとしていますので、今後の賃貸借には常にそのような調停文言が挿入されるでしょうし、また、地代家賃の増額請求権の要件に関しては「その他の経済事情の変動」がつけ加えられました。つまり、家賃規制のない点が比較法的に見た場合の日本法の問題点でしたが、これにより問題は一層深刻になります。調停や裁判では適切な解決期待することもできますが、このような改正を見て貸借人が裁判に訴えることに消極的になり、結果として地代家賃の増額がこれまで以上に容易になるでしょう。つまり、法改正により、裁判上の処理は簡易になっても、社会では紛争が増加するという結果を招くと思われるからであります。  確かに改正法案の内容は、当初の時期と比べると、批判が加えられた箇所が削除され、問題点は少なくなってきました。しかし、それでもなお、改正法によって借地借家関係が公平に処理されるか、快適な都市づくりや良好な住宅供給に役立つかは疑問であります。特に、国民の過半数以上が借地借家人であるわけですから、改正法案によって国民の生活に実際にどのような影響を与えるのか、十分に考えるべきではないでしょうか。現在の内容のままでの改正には反対というほかないと思います。  以上でございます。
  65. 伊藤公介

    伊藤委員長 ありがとうございました。  次に、酒井公述人にお願いいたします。
  66. 酒井金太郎

    ○酒井公述人 私は、昭和四十二年から現在まで、借地借家人組合の役員として二十四年間、借地借家問題にかかわってまいりました。私たちは、借り手の立場からもできる限り話し合いによって事がおさまるように努めてまいりました。したがって、訴訟などの紛争になるのはそれほど多いわけではありません。  現行法のもとで、借り主権利が強過ぎると一般には言われておりますが、法的に権利保護されていても、借り主の多くは長いものに巻かれろ式の、貸し主の理不尽な要求や嫌がらせに泣き寝入りをしている場合が実は多いのが実態であります。私たちは、この法律の見直しか開始された八五年六月以降、非常に危機感を持って、法務省の意見照会に対して全面的に反対する意見書を提出し、その後さまざまな反対運動を繰り広げてまいりました。そのことを冒頭に申し上げておきたいと思います。  さてそこで、審議をされている法案の成立が本当に必要なのかどうなのか。私はその必要は全くないと確信をして、借地借家人の置かれている実態を明らかにしておきたいというふうに思います。借地借家問題はさまざまな問題が発生をいたしますけれども、限られた時間ですべてに触れられませんので、特にこの法案の、また借地借家人の置かれている状況から判断をいたしまして、その基本ともいうべき地代家賃の問題、それから同時に地上げを含む立ち退き問題に絞って、具体的な事例を挙げながら明らかにしていきたいと存じます。  京都市北区で、七十五歳の病弱の奥さんを抱えて、月額五万円弱の年金と内職程度の収入でやりくりをしている呉服雑貨商を営んでいる八十歳のあるお年寄りの方ですが、戦前から借りている住居兼店舗の家賃をめぐって深刻な問題が発生をいたしました。わずか三十平米足らずの借家を一万九千円で借りていましたけれども、一昨年春になっていきなり家主さんから月額四万円に値上げするというふうに通告をされました。従来千五百円から二千円程度の値上げでございましたけれども、今回は一挙に二倍強の値上げの通告に遭って全く驚いたわけであります。三度の食事がのどを通らなくなるほどショックを受けました。この人は、自分の収入から考えてとても払い切れないし、首をくくるしかないという深刻な問題になりました。  この京都では、ことし三月以降、借地借家法案国会に上程されると、各地で一斉に、今度法律が変わったので契約書を交わさなきゃあかぬと契約書締結を詰め寄ってくる例が非常に多くなりまして、京都の組合に寄せられている相談件数の六〇%以上はこういう異常な状況を示しております。  また、長野市千歳町で店舗を借りているある借家人は、そのほか二人の方もいらっしゃいますが、固定資産税の増額と近隣の環境の変化を理由に、月額五万八千四百円の家賃を五・八倍の三十四万円に値上げの通告をされました。御本人は営業ができなくなってしまうという悲痛な悲鳴を上げております。  状況は家賃だけではありません。地代値上げても同じような状況があらわれております。東京中野区本町で親の代から十五坪の宅地を借りているある女性の方は、現行の地代が坪月額千百五十円でありますけれども、実はそれ自体が非常に高額であります。なぜならば、平成二年度の地主さんの税額は坪当たり月額二百三十八円でありますから、この地代は税額の四・八倍にもなります。ところがその地主さんから、平成三年度の税金の通知も来ていないことし二月に、坪当たり月額千五十円、税額の九・二倍という予想もできないような値上げの一方的通告を受けました。現在この地主さんと話し合いをしている最中になっておりますけれども、これを聞いた周辺の人々は、余りにもひど過ぎるという大きな批判の声を上げております。  また、大阪市では、ことしから小規模住宅用地の都市計画税が三分の二に減税になっております。にもかかわらず、西淀川区竹島で、坪月額五百円の地代を、諸物価と租税公課のたび重なる見直し改定による上昇を理由に、この五月から八倍以上の四千百七円に値上げするという全く一方的な通告がされております。大きな不安にさらされております。同じ福島区でも、同じ理由で、現在坪月額四百六十三円を四月分から約五倍の二千二百八十円に値上げを通告されるという状況が生まれております。  こうした大幅な賃料の値上げは、そこに住み続けることが極めて困難にならざるを得ない状況をつくり出しております。原因は、地価の高騰とそれに伴う固定資産税などの増額であります。土地政策の失敗のツケがしわ寄せされていると言わざるを得ません。審議中の賃料改定と民事調停法の一部改正案がもし成立すれば、既存契約にも直ちに適用され、一層賃料値上げが借地借家人にのしかかり、生活と営業に耐えがたい影響を及ぼすことは明白であります。このことが全体の物価水準の上昇をももたらすことになるのではないでしょうか。  次に、立ち退き問題に触れたいと思います。  北海道小樽市で市民に大きな衝撃を与えた事件があります。横浜に本社を持つある貿易会社が、小樽市真栄町一丁目で、三世帯の借地人の住む土地を昨年五月にマンション用地として買収をいたしました。市内の不動産業者を使って戸別に訪問して立ち退きの督促を繰り返しました。立ち退きを渋る借地人に対して、事前の通告もせず突然パワーショベルで住んでいる家を壊しにかかる無法なことを行ったわけですが、仏壇から位牌までめちゃめちゃにしました。まさに人権無視というべきものではないでしょうか。  東京墨田区東向島で、十七世帯が住む土地を厚和産業という企業が買収いたしました。この厚相産業というのは地上げを専業としてやっておりまして、再三警察ざたになっている札つきの企業でありますけれども、昨年十一月に、この借地人たちがこの企業からいきなり三倍の地代値上げを通告されております。これは実は立ち退かせるための嫌がらせでした。既に更地になった土地のブロック塀をショベルカーでいきなり壊し、隣接する借地人の木の塀がばらばらになりかねない状況になりました。急を聞いて駆けつけた警察官とともに組合の役員がこうした暴力行為をやめさせたのですが、今度は更地になったところに二坪ほどの鶏小屋を建てて、十羽ほどの鶏を飼って夜中でも鳴くようにして嫌がらせを続けるという極めて悪質なやり方をしております。  また、大田区大森西五丁目で、共同住宅の階下店舗で二、三年前からコインランドリーを経営している借家人が、家主さんから突然、更新をしないから立ち退けというふうに言われました。また、二階に住む単身者二世帯も、連日非常に執拗な嫌がらせて立ち退かされてしまいました。コインランドリーの借家人は、引っ越して新規に店を開く余裕もないために、ぜひ更新をしてくれるように家主さんに頼んだのですが、家賃の受け取りを拒否され、おまけに電気、水道、ガスまでとめられました。そして空き家になったところから取り壊されるという不当行為にさらされ、今大きな不安に陥っております。  また、京都市ではここ二、三年、地上げの波が押し寄せておりますが、住民がみずからの町をみずからの手で守るために、まちづくり憲章をつくって地上げに対抗する運動が起きていますが、東山区今熊野で、借家人二十九世帯が住む約千五百坪の土地が不動産会社に売却をされております。昨年三月、買収をした不動産会社の代理と称する男たちに立ち退きをしつこく迫られ、よく地上げに遭った者でなければその恐ろしさはわからないというふうにいいますけれども、これらの人たちは一様に、彼らがこれ以上強くなるような法改正には断固反対だと口をそろえて言っております。  大阪市では、暴力団絡みの地上げで人命にかかわる深刻な事件が起きております。昨年一月三十日、午前九時三十分ごろ、北区長柄の六十五歳のあるお年寄りが、台所にあった文化包丁で自分の腹を突き刺し、割腹自殺を図っているのを近所の人が発見をいたしました。救急車で大阪大学附属病院に運ばれましたが、これは集中治療室で治療をしなければならないほど重体であったというふうに言われます。原因は、暴力団がこの人の路地入り口でドーベルマンなどの大型犬で立ち退かせるために嫌がらせをしていたのでありますが、年をとったし、住みなれたこの土地にいたいのだけれども前途を悲観したというふうに言われております。  また、西成区の天下茶屋一丁目の八十六歳の山口さんという方ですが、午前八時四十分ごろ、一階のトイレの中で首をつって死んでいるのを奥さんが見つけました。原因は、昨年一月、土地建物の所有者がかわり、七月までに立ち退きを迫られて、この年になって住みなれた家を離れるのほかなわぬというふうにこぼして、眠れない夜が続いたといいます。  このように、立ち退き問題は人権を侵害し、生存の権利を否定する深刻な問題になります用地上げ行為は、だれがもうけ、だれが犠牲にされたか余りにも明らかであります。これがバブル経済を招き、今多くの国民の憤激を買っている証券スキャンダルを発生させたことは明らかではないでしょうか。  特に高齢者の場合は、立ち退きを迫られて、行き先を不動産業者に頼んでも紹介してもらえないという現状です。住むところを保障する受け皿のないような住宅政策を改め、拡充することが借地借家法改正よりも急を要する問題と言わなければなりません。  私が居住する田無市南町四丁目に、もとあったアパートその他の住宅を買収した企業が、昨年十月、九階建てのマンションを完成させました。売り値は一億八千万円です。余りの高額のために入居はゼロです。ことし四、五月ごろに一億一千万円に値下げをしました。しかし、まだ入居はゼロであります。建てても売れないような住宅供給は、民間に依存をすればこういう実態になるということは明白でありまして、国民の要求にこたえるということにはならないというふうに私は確信をしております。  現状でも、以上のような具体例が示しておりますように、借地借家人の置かれている状態は絶えず居住不安に脅かされております。決して現行法によって借家借家人権利が強過ぎるとは言えません。提出されている法案は、貸しやすく借りやすくというふうに言いますが、貸し主にとって貸しやすくなっても、借りる方にとっては全く借りにくくなると言わざるを得ないのであります。  正当事由が大きく緩和されており、政府、法務省は今までの判例を条文化したので現状の変化はないというふうに言っておりますけれども、そうだとすれば、既存のものには適用しないから何も心配することはないということには大きな矛盾があると言わなければなりません。なぜならば、賃料改定は新法が直ちに適用され、明け渡しの正当事由も実質的に適用されることになるからです。最近法務省が発行された二種類のパンフレットは、そういう意味では全く適切を欠いているというふうに私は思います。  以上、審議されている法案については私どもは反対を表明をいたしまして、終わります。
  67. 伊藤公介

    伊藤委員長 ありがとうございました。  次に、荒木公述人にお願いいたします。
  68. 荒木新五

    ○荒木公述人 弁護士の荒木でございます。  御承知かと思いますけれども、日弁連、日本弁護士連合会では司法制度調査会というのがございまして、これはいわば法制審議会の対応機関でございますけれども、各種の立法あるいは法改正について審議したり、あるいは日弁連としての意見書づくりをしております。借地法等の改正についても数年来討議を重ねてきておりまして、また、法務省民事局参事官室からさきに公表された借地法借家法改正要綱試案についても、既に日弁連としての意見書を提出しております。私も若輩ながら司法制度調査会のメンバーとして討議に加わりましたし、また意見書づくりにも参画いたしました。  それで本日は、そこでの議論と、それから私個人の二十年近い民事専門弁護士としての経験を踏まえながら本法案についての意見を述べたいと思います。  あらかじめお断りしておきますけれども、私の依頼者というのは、いわゆる地主さん、家主さん、あるいは借地人借家人方々のどちらかに偏っているというわけではございません。大ざっぱに言えば、地主さん、家主さんの方は半分ぐらい、借地人借家人の方が半分ぐらいというようなことになるのではないかと思います。私としては、貸す側、借りる側、それぞれの立場とか気持ちとかはそれなりに理解しているつもりですし、どちらか一方に味方しなければならないというような義理もありませんし、また義務もございません。そういう意味では、まあニュートラルな立場ということでお聞き願えれば幸いと思います。  本法案については幾つかの重要な点がありますけれども、やはり一番重要な点は、更新しない借地権、すなわち定期借地権の創設の問題と、もう一つ借地権存続期間の問題であろうかと思います。時間の都合もありますので、一応この二点について的を絞ってお話ししたいと思います。  定期借地権については、御承知のとおり現行法では、借地人が希望する限り原則的に更新することとされております。借地権設定者、一般には地主の方なんですけれども、そちらが更新を拒む場合には、自分でその土地を使う必要があるといったような正当事由が必要とされております。ただ、大抵の場合、地主というのは別に土地を所有して自分の建物の敷地や何かに使用しておりますから、実際上はなかなか正当事由というのは認められないわけです。正当事由がないとさらに三十年、二十年延びることになる。地主から見ると、一たん土地を貸すと半永久的に戻してもらえなくなるというような感覚が生じてきているわけであります。  その結果、地主の方としては、たとえ余っている土地があっても貸さないというような状態が生じてきているわけです。実際、近年、新たに借地権設定をする例は非常に少なくなっていると言われております。これが土地供給を阻害する一因になっていることはやはり否定できないと思います。それから、仮に土地を貸すとしても、半永久的に戻してもらえないということを見越して、高額な権利金、売買代金にも匹敵するような権利金をもらって初めて土地を貸すというのが少なくとも都市部では半ば通例化しているわけであります。  それで、借地権といいますのは、借地人の生活や事業の基盤になっていると一般には考えられますので、ある程度長期的な期間が保障されなければならないというのは当然であろうかと思います。しかし、常に半永久的な存続期間が保障されなければならないというものではないと思います。土地を借りて建物を建てようという人あるいは企業の中には、半永久的なものでなくてもいいから貸してほしい、一定期間後必ず返すことにしてもいいから、そのかわり権利金なしで貸してほしいというような要望をする人あるいは企業も少なくないと思います。また、客観的に見て、また公平に見て、借地人の方に更新請求権を認めてやる必要はないと考えられる場合も少なくないわけです。一方、地主の方にとっても、将来返してもらえるかどうかわからないというのでは不安だから貸さないけれども、一定期間後確実に返してもらえるのだったら貸してやってもいい、それから比較的短い期間だったら権利金なしで貸してもいいという人が多いのではないかと思われます。そういう場合を想定して、一定の要件のもとに、一定期間経過後更新することなく終了する借地権ということで定期借地権考え出されているわけであります。  本法案の二十二条ないし二十四条に広い意味での定期借地権三つ類型が示されておりますけれども、いずれも、借地人保護は十分であって借地人更新請求を認めてやる必要はないと考えられる場合であろうと思います。例えば二十三条では建物譲渡特約付借地権というのが示されていますけれども、この場合の借地人として予想されるものは、いわゆるデベロッパーあるいはマンション業者などであろうかと思います。それから二十四条で事業用借地権というのが示されていますけれども、主に考えられるこの場合の借地人というのは、例えばファミリーレストランだとかファーストフードとかスーパーとか、そういった比較的資力のある企業者ではないかと思われます。  そもそも更新拒絶に正当事由を必要とするという借地法借家法の制度というのは、借地人借家人地主、家主に比べて社会的弱者であるからこれを保護しようというような考え方が背景にあったと思われます。ただ、今日ではそういうふうな見方は必ずしもできないのではないかと思われます。地主、家主よりも借地人借家人がはるかに大きな財力を有している場合も全然珍しくはございません。それから、いわゆる大企業と言われるようなところでも、本店、支店、営業所あるいは工場といった施設のどこかを賃借しているというのは非常に多いわけです。恐らく上場会社の中で全然賃借不動産がないというような会社はまれではないかとさえ思います。また、大企業ではなくても個人あるいは小さな企業であっても、土地を借りてそこでアパートを建てて、そこでそれを賃貸しているという人も珍しくはないわけです。あるいはまた、本法案の三十八条で期限付建物賃貸借というのがございますけれども、転勤する場合に自分の持ち家を人に賃貸するというような場合に、転勤先でやはり自分は自分で建物を借りているというような場合もあるわけです。そういうふうに一人の個人あるいは一つの企業なりが、片方で地主、家主であって、片方で借地人借家人であるケースというのは全然珍しくはないわけです。まあ土地建物を賃借りしている大企業だとかあるいは借地上でアパートを経営している人が、いわゆる借地借家人組合といったものに入れてもらえるのかどうか私は存じませんけれども、少なくとも地主、家主が社会的強者であって借地人借家人が社会的弱者であるというような図式的な固定観念は、今日では通用しないと思われます。  もちろん、そうはいっても借地権の永続性を保護しなければならない場合もあるわけです。本法案は、定期借地権でない借地権、すなわち普通借地権正当事由がなければ更新拒絶できないという従来型の借地権というのも、なお本来的な借地権としてこれを維持、存続させているわけであります。いわば定期借地権という特別のメニューを追加して、当事者の選択の幅を広げるものであります。今日、借地関係が非常に多様化しているというような時代背景を見ますと、有意義な改正であると考えます。  定期借地権が創設された場合にはいわゆる乱開発が起きるというようなことを心配する向きもありますけれども、この問題は、まあ地主がビルを建てること自体は現行借地法では全然何の、少なくとも借地法としては問題ないわけであって、乱開発云々の問題は借地借家の問題ではなくて別の法律で規制すべき問題であります。  それから定期借地権が創設された場合には、既存のというか従来型の普通借地権が駆逐されるのではないかということを心配する向きもあるわけです。私は必ずしもそういう予想が正しいとは思いませんけれども、仮に正しいとしても、少なくとも現行法のままで土地を貸す地主がほとんどいないという状況であれば、定期借地権としてでも土地を貸す人がふえるんだったら、まだその方がましてはないかというふうに考えるわけです。  ただ、私としては一つだけ不満な点がございます。それは、本法案の二十四条、事業用借地権の設定について公正証書によってしなければならないとしている点であります。定期借地権のうちの三つ類型の中でも、この事業用借地権というのは最も活用されるであろうと私は想像しているんですけれども、そういうのについてわざわざ手間暇、金かけて公正証書をつくらなければならないとするのは、いわばそういう活用の道の足を引っ張るものであるというふうに考えます。この公正証書によって借地人に慎重な対応をさせようというねらいがあるのかもしれませんけれども、この場合の借地人というのは、先ほどもお話ししましたように事業者であります。例えばファミリーレストランとかスーパーとか、そういう比較的資本力のある事業者一般であろうかと思います。そういう事業者一般に取引について十分な知識もあるし、経験もあるし、あるいは弁護士に相談する機会も非常に多いんじゃないかと思います。それから公証人というのは、そもそも契約当事者の一方である借地人の側に立って助言したり有利不利の判断をしてやる立場にはないわけです。したがって、この二十四条の公正証書云々というのはやはり削除すべきであると思います。  それから二十二条ですけれども、ここでもやはり公正証書によるなど書面によってしなければならないと規定されております。公正証書は要求されてないわけなんですけれども、こういう例示は今お話しした点からやはりナンセンスであろうと思います。ちなみに、定期借地権に関しては日弁連も賛成の意見書を提出しております。  次に、借地権存続期間でございますけれども、最初存続期間を三十年とすることについては、現行借地法が堅固な建物の場合には最低約定期間が三十年、それから非堅固建物の場合が三十年としているようなことも考えますと、まあ適当なところではないかと思われます。  問題なのは、更新後の期間を十年とするということであろうと思います。現行法では堅固建物の場合更新後の期間は三十年、非堅固建物の場合は二十年とされているから、この点については大きな変更になるかと思います。  ただ、更新後の存続期間が問題になるというのは、もちろん定期借地権でない場合、すなわち更新拒絶に正当事由を要するという場合でありますが、正当事由を判断する機会が三十年ごとあるいは二十年ごとというのはやはり現代の社会の動きを考えますと余りにもサイクルが長過ぎると思われます。三十年目あるいは二十年目にたまたま正当事由があっなかなかったかというのではいささか偶然的に過ぎるのではないかと思います。要するに、どちらにより強い使用の必要性があるかというようなことを判断して双方の利害調整を図ろうということですから、その機会がふえることは利害調整の面からは望ましいことと言えます。ただし、それが余り頻繁ですと借地人は安心してそこで生活や事業を営むことができないということで、その調和として十年、つまり十年ごとに正当事由判断の機会を与えるというのはほぼ適切なことではなかろうかと思います。ちなみに日弁連の意見書では、反対意見があったことを付記してはおりますけれども、十年という案に賛成しております。  ただ、ここでも私が一つ不満な点は、この更新後の期間に関する規定を既存借地契約には適用しないとされていることであります。本法案は十年ごとに正当事由を判断して利害調整を図ろうというものでありますから、既存借地関係適用しても借地人権利を奪うということには必ずしもならないと考えます。問題なのは、旧法によって三十年ごとあるいは二十年ごとに更新するという借地関係と、新法によって十年ごとに更新するという借地関係が、半永久的に併存するという事態が考えられることであります。こういうことは一般の人には非常にわかりにくいことであります。法的安定性を損なうものと言わざるを得ません。  この点については、本法の改正要綱で一つの案として示されていますように、二度目に更新するときから新法適用する、すなわち新法の施行後最初存続期間が満了するときは、いわば借地人期待を尊重して現行法のとおり三十年または二十年ということで延長して、更新期間を認めて、そうしてそれが終了するときにはその後は十年とするというような案の方が立法政策としては適切ではないかと思います。  ついでながら正当事由についてでありますが、改正要綱では当然のことのように既存借地関係適用されるとされていたものが、本法案では適用されないというふうにされております。この正当事由については、裁判所が従来から正当事由の判断の要素としてきたもの、学説が一般に承認してきたものをいわば明文化したものということで、実質的な内容が現行法正当事由と変化するわけではないというふうに理解しておりますけれども、それならば、これを既存借地権適用しないというのはやはり矛盾であります。例えば、もしそういうことであれば、旧法の正当事由新法正当事由は別のものではないのかというような疑問が生じてくるわけであります。あるいは、新法正当事由が認められないという場合であっても旧法では正当事由が認められるということになるのだろうかというような疑問の余地も生じてくるわけであります。  正当事由については、試案の段階では「土地の存する地域の状況」というのがあって、日弁連ではそれには反対しておりまして、その部分が入っているんだったら既存借地関係適用するのは反対だという意見を出しておりますが、この「土地の存する地域の状況」というのは本法案では削除されております。したがって、日弁連の意見としては、正当事由既存借地関係にも適用されるという考えてあります。正当事由の内容あるいは表現といったものについてはいろいろな議論があるとは思いますが、既存借地関係適用しないとすることは全く意味がないというふうに考えます。  以上で、とりあえず私の意見陳述とさせていただきます。
  69. 伊藤公介

    伊藤委員長 ありがとうございました。  以上で公述人の御意見の開陳は終わりました。     —————————————
  70. 伊藤公介

    伊藤委員長 これより公述人に対する質疑を行います。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。田辺広雄君。
  71. 田辺広雄

    ○田辺(広)委員 きょうは、公述人の皆さん方には御多忙の中をこのように私どもの委員会に御出席をいただきまして、大変ありがとうございます。  それでは、時間が余りございませんので、私の方から簡潔にそれぞれの方々に御質問をさせていただきますが、御答弁の方もひとつできるだけ簡潔にお願いをしたいと思います。  最初にお願いをいたしたいのは、今公述していただきました荒木先生に一言お尋ねをいたしたいと思います。  一番の問題、定期借地とそれから正当事由の二つについてお話をいただきました。私ども、この今度の法改正によって一番の目的は、やはり土地の有効利用が促進をされるということと同時に、今までの借地借家の関係の中で需要の非常な多角化というものに対する対処、この二つが大体の目的でこれが行われたと思います。  そこで、一つの問題は、これによって土地の有効利用が促進をされるかどうかということ、それから定期借地につきまして、いろいろ公正証書の取り扱い等について御意見がございましたが、全体的には御賛同いただいたというような気持ちで今聞いておりましたが、問題がありましたらお聞かせをいただきたいと思います。  それから、今回の借地借家法における期限の延長の問題です。  これも今お話を聞きましたように、十年というようなことで御理解をいただいておるということでございますが、ここでお話しの正当事由につきましても、期限の延長につきましても、旧来の、既成の借地借家法との食い違いというものがどうしても私は存在をすると思います。しかし、存在する中で、一方においてはやはり従来の、大正十年、昭和十六年に改正されました法の精神といいますか、その当時の社会情勢を考えながら、個人の土地を借り個人の家を借りておる、そういう社会的な保護をしなければならない方々立場も考慮に入れながら今回の法改正がされたというふうに解釈をしますが、先生の立場としてはどういうふうにそれをお考えか、お聞かせをいただきたいと思います。
  72. 荒木新五

    ○荒木公述人 ただいまの幾つかの御質問ですけれども、最初の有効利用が促進されるかどうかという御質問です。  これはどういうのを有効利用考えるかでいろいろな見解が違うかとは思いますけれども、少なくとも、余っている土地を貸そう、いわゆる貸し地意欲といいますか、土地供給はやはりふえるのじゃないかと思います。その結果、そこを有効利用する機会がふえることは間違いないかと思います。そこから先、どういう建物を建てるかというのはもはや借地法の問題ではないと思います。  それから、期間の延長といいますか、更新後の期間についてお話がありましたけれども、これについては先ほど述べたとおりで、十年というのはほぼ適切なところではないかと私は考えます。  それから、既存借地権との関係ですけれども、もちろん新法に、よって既存借地権者の権利あるいは借地権設定者の権利を侵害するわけにはいかないわけでありますが、本法案で示されている案は、少なくとも既存借地権者なりなんなりの権利を侵害するものとは思いません。これは、正当事由については先ほども言いましたように特に内容が変わるものとは理解しておりません。したがって、これが既存借地権者、借地関係適用されても何ら影響はないというふうに考えます。
  73. 田辺広雄

    ○田辺(広)委員 次に、内田勝一公述人にお聞きをいたします。  いろいろ先生のお話を聞かせていただきましたが、午前中にもずっとそれぞれ公述人先生方お話を聞いたその中身と、大分考え方、想定が食い違っておるような感じがいたします。  例えば、先生がおっしゃいました定期借地権については、これはもうほとんど利用される可能性が少ないのじゃないか、希望される方が少ないのじゃないかというのが一点ございました。それから、現行法のままでいけばいいけれども、今度こういうふうに改正した場合には余計にいろいろな紛争事件が起きてまいりまして、調停だとかそれから裁判所のその事件の数がふえるのではないか、こういうようなことをおっしゃったわけでございます。  その中で、これは日本不動産研究所の発表でございますが、例えば定期借地方式によって借り地をした場合どうかというと、貸したいと思う人は、個人で四九%、法人で六七%、平均して五三%という数字が出ております。それから貸したくないという方が、個人で四三、法人で三三、平均四一。こういう数字を見ても、一般的にはやはり定期借地権というのが一定の評価をいただきまして、それによって貸してもいいのじゃないだろうかというような気持ち、これによって、今荒木先生がおっしゃったように、決してそれが有効利用にどうこうということではなしにその機会はふえるであろうというようなことは私も判断ができると思いますが、それにつきましては先生の考え方は少し違うのじゃないか、我々の考えと違うのではないかというようなことを私は考えておるわけでございます。  同時に、今回の改正というのは、普通借地権の期限の問題、それから定期借地権の期限つきの貸し家の問題、それから解約時の適正な事由というようなことと紛争解決のための調停の一部改正、この重立った柱というものがあるわけですが、それを考えてみて、今の現行の法律で、今後世代がかわっていくときになおそのままでやっていった方がいいのか、やはり改正というのは必要なのか、そこらのところも一遍お聞かせいただきたいと思います。
  74. 内田勝一

    ○内田公述人 お答えいたします。  最初定期借地権の理解の仕方ですけれども、私先ほど申し上げましたように、定期借地権のみならず借地制度というものは、基本的にこれからの日本においてほとんど利用されていかない、そういう方向にあるだろう。これは、日本法と外国法を比較してみたときに理論的にはそういうことになるのではないかというふうに思っています。  そして、不動産研究所の数字を先生御引用されたわけですけれども、問題は、そこでイメージされている定期借地権というものの内容がどういうものかということを確定しないと、それぞれこういうものであるというふうに理解して、そういう定期借地権ならよろしいということになっていないと、数字としては、本当に定期借地権のニーズがあるかという点では若干私は疑問を持っています。  繰り返すことになるかもしれませんけれども、要するに、定期借地権について言えば、一つは、現行法のままでも、強行法規の中でも紳士協定的な形で当事者間で契約をすることができるわけです。そして、実際の社会では裁判にいくのは極めて例外的な場合ですから、当事者間のそのような紳士協定で処理をされていくということがありますし、また現在の、例えば事業用定期借地権というような場合でありましても、これは土地を借りようという人が土地の所有者に対して資金を供与して借家を建ててもらって、それを利用するという形で十分できているわけです。そういう意味では、確かに新しいメニューをつけ加えるという点ではこの定期借地権というものをつけ加える意味はあるかと思いますけれども、しかし、先ほど申し上げましたように、そのようなメニューを新たにつくらなくても実際にはできている、実際に定期借地権と同じことができているということ、それから、定期借地権をつくることによって逆の副作用があるという点がむしろ問題なのではないかということであります。  それから、全体的にその改正の必要性があるかないかということですが、これは私も、最後に申し上げましたように、現在の内容のままでの改正には問題があるというふうに申し上げましたけれども、改正をする場合には、例えば正当事由のところで申し上げましたような現在の判例法の内容というものを前提とした上で、つまりこれまでの内容を変更するものではないことを明確にして、正当事由の中で基本的なものと二次的なものをはっきりさせ、そしてさらに、立ち退き料というものは補強的なものであるというように、現在ある借地借家制度についてはこれまで形成されてきた判例とか学説によって一応の理論ができてきているわけですから、それを踏まえて改正をするということ自体を否定するものでは全くありません。  以上です。
  75. 田辺広雄

    ○田辺(広)委員 そこで、重ねて内田公述人にお尋ねしますが、今の現行法でも借地借家法でもって、例えば商店をつくる、スーパーをつくる、サークルKをつくるだとか、いろいろな最近のニーズがあるわけなんですね、それは今の状態でもできるというようなお考えですけれども、今の状態というのは私は決して正しい形ではないと思うのです。ということは、土地のまま貸せばその土地はとられてしまうんだ、旧来どおりでいけば、貸したら最後、とられてしまうんだという観点がありますから絶対貸さないと思うのです。ですから、家をつくってください、家をつくっていただいたら、その外郭をつくったらそのお金は建築協力資金として借り主がお払いしましょう、中の内装だとかそういうものについては本人が払って減価償却はその借り主が行うというような中で、家賃はどうだ、家賃でなしに地代、駐車場も含めた地代でもって計算をしていくことが多いのです。  だから、今はお話のように紳士的な協約だとおっしゃるが、相手が大きいから紳士的協約かもしれませんが、一たんこれが問題になったときに、その建物をどうやって壊すか、そしてそれはだれが補償するのかということになるとやはり争いのもとになるので、やはりそれは新法に基づいて初めから約束、契約をきちっとすべきである。しかも、それは法的にも裁判所も我々も認めるような組織でやるべきだ、こう思うのですが、どうですか。
  76. 内田勝一

    ○内田公述人 私はそういう考え方があることを否定するわけではないわけです。ただ問題は、そのような新しいメニューをつくって任憲法規化し、その多様性を設けるということが、それ以外の場合に対してどういう反作用を持つかというところが問題なんだ、そうすると、そういう反作用を持たないようにするためには、既存のもので十分間に合っているのだからそのままでもよろしいのではないかという意見であります。  以上です。
  77. 田辺広雄

    ○田辺(広)委員 先生の答弁の中で、いろいろな法廷における争いがふえてくるかどうかということ、これからますますふえてくるのではないかとおっしゃったことについて、今までの経緯でいきますと、減るように調停法の一部改正等、また正当な事由についてももっと明確化して、しかも、附帯条件じゃないけれども、それに立ち退き料も加えて非常にわかりやすくして解決を早くしようということにしておるわけで、紛争をふやすためにやっておるわけじゃないが、その点についてはどうも判断の仕方が食い違っておるのじゃないかと思いますが、どうですか。
  78. 内田勝一

    ○内田公述人 先ほど申し上げましたように、新しいメニューをつくったりすることによって、裁判になったときの解決というのは確かに簡易で容易になると思います。しかし問題は、それが実際の社会で果たして紛争が簡易に解決される方向にいくかということだと思うのですね。その点については、私は先生の御認識とは若干違っていると思います。  以上です。
  79. 田辺広雄

    ○田辺(広)委員 酒井公述人にお尋ねしますが、非常に具体的な例をたくさん挙げられまして、私ども聞いておるうちに、なるほどそういう事件もあるか、そういう事件もあるかということはおよそわかります。しかし、現在の法律ですらそういう問題がたくさんあるのに、その現在の法律改正しながらいかにして前進するかということを考えなければいかぬのじゃないかと思うのです。今のことを否定して今のいろいろ問題点だけ挙げたところで、これは決して前進ではないと思うので、その点について公述人はどうお考えでございますか。
  80. 酒井金太郎

    ○酒井公述人 現実の問題として私たちは先ほど申し上げたような事例をいろいろ挙げたのですが、あれはまだごく一部分なんですね。状況からしますと、現行法でいろいろ法律借地人あるいは借家人権利保護されているとは言いながら、現実の問題としては、私たち組合に相談をされる方、あるいは弁護士さんに相談される方は、なるほどこういう権利があるのかということでわかりますけれども、一般方々にはわからないままで、地主さんあるいは家主さんの方の言い分で負かされてしまうという例が非常に多いんですね。これでは非常にぐあいが悪い。ですから、法律改正されれば余計その事態はひどくなるだろうということを考えますし、同時に、そのことによって自分たちの住まいが非常に脅かされるという基本的な人権の問題として大きな問題にならざるを得ないだろう、そういう観点でございます。  もう一つは、私が申し上げたいのは、先ほど六十五歳あるいは六十歳を超えた高齢者の場合、立ち退かされれば行くところがなくなってしまう。不動産屋に行ってぜひ物件を紹介してほしいというふうに言っても、まず不動産屋さんは紹介をしてくれない、そういう状況なんですね。ですから、先ほども私の方から申し上げましたけれども、問題は、つまり安心して豊かに住める住居をどういうふうに保障をするかということを政策的に私は国としては考えるべきであるし、政治家の皆さんとしてはそういうふうに手当てをすべきだというふうに思っております。  終わります。
  81. 田辺広雄

    ○田辺(広)委員 今のお話でわかりましたが、これは正当な事由というところで、正当な事由の中に新法で盛っていけばやはり解決つくと思うのです。要は、PRが足らないということ、大正十年から始まっておる借地借家法がPRが足らないのですから、そういうようなことだったらいつまでたっても足らないと思いますが、そうでなしに、もっともっと我々も皆さん方にわかりやすく、新しい法律は古いやつよりいいんだということでお勧めいただければと思います。  その次に藤井公述人に、おくれて申しわけございませんが、大変長い間この借地借家の事業に貢献をされてみえまして、いろいろな事例の中から大変御努力いただいておるということはわかります。しかも、先ほどお話がありました四つか五つの問題を出して、これはもうぜひ解決をすべきだということにつきましても私もよくわかるのです。  例えば、今借りる方の立場お話を申された公述人の酒井さんもそうですが、私どもの近辺には、土地を持っておる、ところが契約書もない。借りている人もおるのだが、しかし家賃が一万二千円や三千円では、といを直したって半年分の家賃が飛んでしまう、直しょうがない。だから、あなた直さないか。入っている人が、わかりました、といも直しましょう、屋根も直しましょう、床も直しましょう。結局、中身はほとんど自分で直した、だから、おれのうちなんだというようなことを言われたり、そして家賃を値上げするたびに、そう気持ちよく固定資産税が上がったから上げてくれということにならずに、泣き寝入りのような状態で、先ほど酒井さんが言われた借り主の方にそういうことがあれば、貸しておる方にもそういうことがあるのです。  特に相続をされますと、相続税の問題でございますが、今路線価の何%というような掛け算ですね。しかも国税庁ではAからKまで決めて、一番多いところでは七五%、最低でも、Kでも二五%の借地権は認めておる。それでもって相続税を払っておる。そしてどうだといえば、固定資産税は、あなたは人に土地を貸しておるから評価は更地価格である。そこから借地権分だけ引いてあげようというような固定資産税を払っておるかというと、そうではない、全額払っています。名古屋の中心でいいますと、千八百六万円、平米当たり路線価が。例えばその二五%とすると、四百五十一万円の固定資産税の評価でなければいけない。ところがそうじゃない。固定資産税の評価は三百三十三万ですが、本当をいえば三百三十三万掛ける二五%が固定資産の評価でなければいけない。それをしも、長い間苦労して固定資産税を払い、しかも借りておる人たちには何か申しわけないような気もして家賃を上げる。そして出ていくときにはまた立ち退きの話が始まる。こういうことを考えてみると、どちらがどうしたということは私も言えないぐらいのことで、よくわかります。  しかし、といえども今度の新しい法案についてはそれぞれの配慮がされておりますから、十分言うことを言って、しかも、それが実らなくてもこれはぜひひとつ御協力をいただいて、今酒井さんからもおっしゃったように、やはりPRすると同時に理解をしていただいて次の新しい法案へ向かっていくことが私は大事ではないかと思いますので、大いにひとつ御協力のほどを心からお願いをして、私の質問を終わりたいと思います。  終わります。
  82. 伊藤公介

    伊藤委員長 小森龍邦君。
  83. 小森龍邦

    ○小森委員 四名の公述人先生方からいろいろお聞かせをいただきまして、これからの法案審議に大変参考にさせていただきました。心から感謝を申し上げます。  そこで、この公聴会の事柄の性格から、公述人先生方とお互いに考えておることの違い点を議論するというのでなくて、私の立つ立場から疑問とする点をお尋ねする、こういうことでお願いをしたいと思います。  まず藤井公述人の方から、当初、現行の法律ができるときの法務省民事局、つまり行政側が説明したことと、それからその後司法判断として正当事由で定着をしてきたこととの間に相当程度食い違いがあるというお話でございました。歴史の経過とすればそういうことではなかろうかと私も思いますが、つまり行政側が説明をしたことと司法判断とのずれというものはどういうふうなところから出てきておると判断なさっておられますか。お聞かせいただきたいと思います。     〔委員長退席、星野委員長代理着席〕
  84. 藤井鋭三郎

    ○藤井公述人 お答えいたします。  制定時の社会情勢とその後の社会情勢の変遷、これらが著しく変化してきたと思います。すなわち大正十年の社会背景というのは、大正デモクラシーと申しますか、一つのイデオロギー的なものが吹き荒れた時代に制定されたと聞き及んでおりますし、また昭和十六年は、戦争遂行という大きな国策の中で、建築資材あるいは都市勤労者を確保するという国策のもとにこの法律が制定あるいは改正されてきた。しかしながら、実際に運用されていきます過程では財産に絡むことになるわけでございますから、司法の段階では当事者の争いを裁く段階でどうしても文言にとらわれるということで、そういう差異が出てきたというふうに考えております。
  85. 小森龍邦

    ○小森委員 司法判断の方だけが大正デモクラシーに影響されたということになればそういう理由は、認識は成り立つと思うのですけれども、政府側もその時代に提案をしたことなんでありまして、そういう時代の一つの背景というものをもって政府も政策を立案したわけで、政府はいろいろなことを正当事由の中に挙げておって、司法判断がそれを採用し得なかった。むしろ私は、司法の方が世間の一般的雰囲気に影響されにくい、つまり司法の独立、ゆがみなりにも、今日ほどではないにしても司法の独立ということはある程度存続しておったわけでありますから、それが食い違ったということは、むしろ行政側が提案理由なり答弁で説明したことの方に不統制があったのではなかろうか、こういう考えはどうでしょうか。
  86. 藤井鋭三郎

    ○藤井公述人 お答えいたします。  私はさように考えておりません。少なくとも立法の段階で議論されたことが一つの方向として、基本的な理念として理解をしておるわけであります。  正当事由につきましては、先ほど申し上げましたが、戦後住宅困窮時代に大きく変化したということでありまして、三十四年の四項目を改正要綱としてまとめられた経緯もあるわけですから、少なくともその四項目に近づけるべく立法段階での御議論を賜りたい、そういう意味で申し上げてきております。
  87. 小森龍邦

    ○小森委員 それではその食い違いというものは、また私ども審議の時間がございますので、行政当局の方から、きょうの先生の提起を参考にさせていただきまして、なおいろいろと説明を聞きたい、こういうふうに思います。  それでは内田公述人の方にお尋ねをいたしますが、調停前置主義、もちろんこれは双方の合意ということが前提となっておりますが、この合意というものが、よくわかった上で合意するかどうかというと、必ずしもよくわかった上で調停に従いますという合意をするとばかりは決まらないわけでありまして、先生もそのことを非常に御心配になっておられると思います。  まあ私思うのは、そういうことに対して最終的な裁判というものがあるんだというしっかりとした権利意識があればそこは乗り切れると思いますが、今のところはまだ日本の場合そうばかりはいかないのではないかという気持ちがいたしておりますので、この際先生にお尋ねいたしますが、憲法第三十二条に何人も裁判を受ける権利を奪われないとか、あるいはそのことと大変深い関係を持っていると思いますが、憲法第七十六条は行政裁判を最終審とすることはできない、こういった、最終的に国民の公平にして公開の場における裁判を権利として保障するということが憲法に明記されておりますが、現在法務省から提案をされております調停前置主義というものと憲法との関係について、私はこれは大変抵触するのではないかという気持ちを持っておるのですが、先生の法理論的立場からどのようなお考えをお持ちでしょうか。
  88. 内田勝一

    ○内田公述人 お答えいたします。  私は憲法の専門ではないので憲法的なお話はできないと思いますけれども、確かにその調停前置主義については今先生がお話しされたような問題点はあるとは思いますけれども、そしてまた調停文言が、当事者が本当にその内容を明確に理解しない上で挿入されるということはあるかと思います。ただ、先ほど申し上げましたように、調停や裁判の場合にはやはり調停の中でその点については判断をすべきだと私は思いますし、そしてそういうことによって当事者が本当に真実に自分たちの権利義務というものを理解した上で調停文言が挿入されたかどうかということを明確にしていくということの方が重要なことではないかというふうに思っています。
  89. 小森龍邦

    ○小森委員 それから更新の十年の問題について、先生の立場は安定性を阻害するというお話でございまして、私は大体そういう考え方を持っておるのでございます。ファミリーレストランとかスーパー、ごく臨時的な建物といいますか、そういうものは外見上ちょっと美しいように見えても実に重厚感のない建物ということになるので、先生がおっしゃられるとおり美しい町というようなことについては少し問題があるのではないかときょう指摘をされまして、私もなるほどそうだと思いました。  しかし、私はもう一つこういうことも思うのですが、先生のお考えをひとつ聞かせていただきたいと思います。  それは、なるほど今でこそ日本の経済というものは成長しておりますから、急激な経済的な動きがございます。しかし、もしこれが更新十年ということで決まった場合に、例えばアメリカのニューヨークあたりへ行ってみますと、古い建物に対して、例えば観光時なども一流の建物に泊まりましても、寒い冬に十分に保守工事ができておりませんから寒かったら寒かったままとか、さまざま今の日本の社会とは違う、同じ資本主義が高度に発達した国といってもさまざま日本と雰囲気の違う状況を見ておるわけであります。要するに、更新十年というのは町の美化という面からいっても問題だというお話でございますが、もし日本が今のアメリカ、あるいは今のアメリカよりももっと成長が鈍化したときには、経済の動きというのはまだまだ鈍化するわけでありまして、そのときに十年更新というようなものがありますと、更新をさせようと思うその機会に、何とか現在の契約関係を変更させようと思う者はさまざまな手を使って誘いをかけてくると思いますが、そうなる場合に先生が言われる安定性を阻害するということがますますひどいことになるのじゃないか、私はそういう観点からもこの十年更新には大きな疑問を抱いておりますが、先生のお考えはいかがでしょうか。
  90. 内田勝一

    ○内田公述人 お答えします。  今の御質問、恐らく二つの事柄があるかと思うのですが、一つ普通借地権更新後の期間が十年という問題と、それから事業用建物を目的とする定期借地権という二つの問題があったと思うのです。  前者の十年更新という点なんですが、確かに更新については、異議の機会をふやすということが、十年を経過すればその更新後十年で再度更新という考え方だと思うのです。ただ、やはり実際に十年であっても二十年であってもそれは基本的に、そのときにあった正当事由というものを判断する意味では十年であろうと二十年であろうと三十年であろうと余り違いはないと思うのですね。この場合重要なのは、やはり十年ということでは借地人が将来の建物利用の計画を十分に立てることができないのではないかという意味では、十年よりもこれまでの、非堅固な場合はそうですが、二十年というあたりが適切ではないかということでした。  それからもう一つ事業用建物の所有を目的とする定期借地権の場合ですが、ここで問題になるのは、定期借地権によって期間が満了したときに効用が失われるような建物をつくるということの問題というのは、これから我が国の社会が高齢化していく、そうすると成長力というのは衰えてくるわけですね。そういう中で十年後、二十年後に効用が失われたというときに、再度またそれを取り壊して新しいものを建てていくのか、それとも今経済力が非常にあるときに将来ずっと継続するような、ヨーロッパの都市に見られるようなそういう都市をつくるために借地をするのかということだと思うのですね。そういう意味では、将来続いていく大変美しい都市をつくるという点では十年間の定期借地権というのは問題があるのではないかという趣旨でございます。  以上です。
  91. 小森龍邦

    ○小森委員 それでは、続きまして酒井公述人にお尋ねをいたします。  いろいろと具体的な事例をお話しいただきまして、私どももそういう話は時折耳にすることがあるわけでありますが、お話を承って、実情は私どもが考えておるよりもはるかに深刻なものがあるということを知らせていただきました。  そこで、今日新しく改正を提案しておる法律現行法とを比べると、借地借家人権利を守るということでは現行法の方が権利を守っておると思うのでありますが、その守られている法律の施行下にあってもそういう状況でございまして、まだまだ国民の権利意識というものを培養しなければならないということを痛感いたします。  そこで、そういった実務に携わっておられます酒井公述人立場から、新しい法律の提案に対しては反対だ、そうなると現行法をどのように補強したら、十分とは言えないまでも今よりももう少しそういう関係者の権利が守られるか、そういう点についてお考えがあればお聞かせいただきたいと思います。
  92. 酒井金太郎

    ○酒井公述人 お答え申し上げます。  今先生がおっしゃりますように、私の方からも先ほど具体的な事例、現行法のもとでもああいうひどい実態があるということを申し上げたわけですが、私どもの全国借地借家人組合として現行法のもとで、確かに現行法の中では非常に不十分な部分がまだあるのですね。例えばこれはもう四、五年前ですか神戸で起きた事件ですが、仮に地主さんから土地を借りている借地人の方がアパートなりあるいは住宅を建てて人に貸しますね。そうすると関係、つまり地主さんあるいは借地人借家人という三つの関係ができてくるわけですが、その場合に借地人である家主さんが地主さんに対して賃料の不払いをした場合に立ち退きの請求をされるわけですけれども、しかしその家を借りている借家人の方はきちんと毎月家賃を払っているにもかかわらず、家主さんが立ち退きを食わされると一緒に立ち退きを請求されてしまうということで、その場合に対抗力がないのですね。ですから、そのことを一つ考えますと、そういう罪のない、しかもきちっと賃料を支払っているにもかかわらず立ち退きを食わされるというような点は、私は現行法のもとでも法律の不備があるというふうに思っております。  それからそのほか幾つかありますけれども、まだ私どもの組織として十分議論はしておりません。むしろ現行の法律を守る方が今非常に重要だということでございますので、まあ、一つの具体的な例としてはそういう事例があって、以前神戸で大問題になったという事実がございます。
  93. 小森龍邦

    ○小森委員 それでは、時間がございませんので、弁護士の荒木先生にお尋ねをいたしたいと思います。  先生の方から、今日の事態というものは必ずしも、現行法のできたときのいわゆる社会的弱者を保護するといいますか、これに公権力が肩入れをして少し弱者の立場を守るということだけでは、その考えは現状は当たらない、こういう意味お話がございました。  それで、いろいろお聞きをしておりまして、先ほど酒井先生がお話しになるようなことも私どもは耳にしますし、私から見ると、やはりこれは基本的なパターンは弱い者と強い者ということではないのかと思っておるわけです。例外的には少し、法律の裏の裏まで知り尽くした者が地主と対抗してやや勝ち目にあるというようなこともあるでしょう。そんなことも思いますが、荒木先生の方で、社会的弱者ということだけで見てはいけない、それは要するに、こういう事例もある、こういう事例もあるということでそういうお話なのか、あるいはそういうことをずっと扱って、数字的に統計的に言ってももうこれはどっちとも言えぬのだというようなことなのか、そこをお知らせいただきたいということと、もう一つ、日弁連という組織でおおむね賛成のような立場を表明されておるようでございますので、日弁連に参加をされております構成メンバーの弁護士の方、たくさんいらっしゃると思うのです。地方の組織からずっと積み上げてきて中央の日弁連でそのような結論に到達されておるのか、あるいは日弁連の今日のたまたまの、他の組織で言いますと執行部といいますか、役員の皆さんの間でそういうことになっておるのか、その点もひとつお知らせいただきたいと思います。
  94. 荒木新五

    ○荒木公述人 お答えします。  まず、社会的弱者保護の点ですけれども、私が申し上げたのは社会的弱者を保護してはいけないというようなことを言っているわけじゃございません。社会的弱者を保護するのは当然であります。ただ、私が言っているのは、地主、家主が当然に社会的強者であって、借地人あるいは借家人が当然に社会的弱者であるというような見方をして考えるのはおかしいということを申し上げたわけです。それで、それについての、では例えば借地人が大企業である場合が数字的にどれぐらいあるかというようなことは私はわかりません。ただ、これは私どもあるいは私自身の経験としてそういう場合が非常に多いというふうに考えているわけです。  それから、先ほど酒井公述人がいろいろなケースをお話しになりましたけれども、例えば借地人あるいは借家人が嫌がらせを受けたり暴力を受けたりというようなお話がありましたけれども、それは借地借家関係の問題に限ったことではないわけです。暴力受けたり何なりするようなことはほかの問題でもよくあることです。この問題に限る問題じゃございません。  それから、賃料等の請求、莫大な、例えば数倍の賃料増額請求を受けたとか、あるいは明け渡し請求を受けて非常に困っているというようなお話もありましたけれども、少なくとも今の時世で明け渡しを受けたからといってすんなり出ていくような人は非常に少ないと思います。それから、賃料増額を受けたからといって、はいそうですかと言ってそのまま応じるような人は非常に少ないと思います。正直に言いますと、私ども弁護士が依頼を、あるいは相談を受ける場合に、地主、家主さんからの依頼を受けるときは非常にいわば気が重いわけです。その反面、借地人借家人からの依頼の方は、言い方に語弊があるかもしれませんけれども、ある意味では気が楽なわけです。そういうふうな感覚があるということを一応お話ししておきたいと思います。  それから、日弁連の意見書についてお話ありましたけれども、これは司法制度調査会というのが一応中心になって意見書をまとめることになっていますけれども、その間には各単位会、全国にある単位会から、いろいろな弁護士が直接体験したことやなんかも含めて意見書をそれぞれ出してきております。そういうのを参考にしながら議論しているわけです。そして、司法制度調査会で議論したものをさらに理事会や何かにかけて可決しているわけです。特に今の執行部あるいは役員がちょこちょこっとつくったというようなものじゃございません。相当な年月をかけて、相当慎重に議論しております。  以上です。
  95. 小森龍邦

    ○小森委員 終わります。ありがとうございました。
  96. 星野行男

    ○星野委員長代理 御苦労さまでした。  冬柴鐵三君。
  97. 冬柴鐵三

    冬柴委員 公明党・国民会議の冬柴鐵三でございます。  公述人方々におかれましては、御多用のところお出ましをいただき、また、有益な御意見をいただきまして心から御礼を申し上げます。  さて、まず内田公述人にお伺いしたいと思います。  内田先生から、大学教授でいらっしゃいますので、この改正法二十八条のいわゆる借家関係更新拒絶正当事由のところで、「使用又は収益」という「収益」の文字は削るべきだ、こういうお話をされました。私も全く同じ意見でございます。  ただ、この「収益」が入っているのは、私が調査しますと、その部分だけではなしに、改正法の中では二十六条の二項、三項にも「使用又は収益」という言葉があります。それで、一つ法律の中で「使用」というところと「使用又は収益」という言葉を使い分けるには、それだけの意味が必要になってきます。先生が二十八条を削るべきだというのは、二十六条二項、三項、そういうところも削るべきだ。ちなみに借地の方はすべて「使用」だけしか使っていません。新法の五条二項、三項、それから六条、いずれも「使用」という言葉しか使っていません。したがいまして、この「収益」という言葉を使わなくても「使用」の中にこの「収益」も包摂されているんじゃないか、私はそういうふうに思いまして、単行法の中に余り意味もなく二つの言葉が使い分けられるということは好ましくないという観点から、二十六条の二、三項も二十八条についても「又は収益」という部分は削るべきだと思うのですが、先生のお考えを伺いたいと思います。
  98. 内田勝一

    ○内田公述人 お答え申し上げます。  使用、収益という言葉は、要するに民法で賃貸借のところでは必ず「使用」「収益」という言葉があります。ですから、その賃借権の内容として、他人のものを使用、収益するという言葉で例えば二十六条の二項などでは使われていいのではないかと思います。  そうしますと、二十八条で言う「使用」「収益」という点では、それと同じだというふうにすると、借地の場合なぜ収益を入れないのかということが問題になるわけですね。そうすると、考え方としては、今先生がおっしゃられたように「使用」「収益」という民法言葉をすべてどこでも使う、そしてそれは民法で言う「使用」「収益」であるという意味で限定するのか、あるいはそうではなくて「使用」という言葉で統一するのか、どちらかが望ましいだろうと思いますし、誤解を招かないという点では「使用」という言葉で統一した方がわかりやすいのではないかというふうに思います。  以上です。
  99. 冬柴鐵三

    冬柴委員 重大なことですから重ねてお尋ねしておきたいのですけれども、「使用」で統一しても従来の考え方と別にそごすることはない、こういうことですか、先生のお考え。もう一言で結構ですけれども。
  100. 内田勝一

    ○内田公述人 ここで「使用」という言葉を入れたとしても、その使用というのは民法の六百一条、六百八条等で言われてくる「使用」「収益」という意味だということでありまして、それ以上に営業用賃貸借において貸し主の収益という意味ではないという意味で統一的に使えるということであります。  以上です。
  101. 冬柴鐵三

    冬柴委員 それでは次に荒木公述人にお伺いをしておきたいと思います。  今回、借地借家法改正というか、単行法をつくるということのほかに、民事調停法の一部を改正する法律案も提案されております。これはもう御案内のように、この部分は賃料増減額、実務的には増額請求だと思いますけれども、これにつきまして調停前置主義をとるということであります。  そこまではいいのですが、「当事者間に調停委員会の定める調停条項に服する旨の書面による合意があるときは、申立てにより、事件解決のために適当な調停条項を定めることができる。」こういう案がありまして、私はこの部分について不安を覚えるわけでございます。現実問題としては、裁判官も入った調停委員が強引にこれだけをやる、要するに調停を空洞化してしまう、形骸化してしまって、そして解決を急ぐ余りに適当な調停条項を提示してそれで終わりにする。そういう性急なことは起こらないと私は、私も弁護士をやっておりましてかたくそう信じているわけですけれども、しかし、これだけを読みますと、例えばここの「調停条項に服する旨の書面による合意」というものは、恐らくは印刷された契約書、今後市販される契約書の中にはその合意は必ず書き込まれるであろう。それからもう一つは、「申立てによりこというこの中し立ては、増額請求をする方が申し立てをすることで足りるのではないかという解釈になると思います。そうしますと、その次には「調停が成立したものとみなし、その記載は、裁判上の和解と同一の効力を有する。」こういうことになってきますと、この和解はもちろん不服申し立ての手段がありません。  そういうことを考えますと、先生の日弁連の中でも、この部分につきましては、意見は賛成ですけれども、やはり重大な附帯の意見がついていると思うのです。この点について先生どうお考えになりますか。
  102. 荒木新五

    ○荒木公述人 お答えいたします。  日弁連の意見書では、たしか紛争が生じる前にそういう書面を交わした場合にはそれは適用しないようにしようというような考えであったと思います。私自身は必ずしもそのように限定する必要はないんじゃないかと思います。  例えば、今御発言がありましたように、調停条項に服する旨のいわば合意というものが例えば不動文字契約書の中に書かれて、借地人あるいは借家人側が不利益に扱われるんじゃないかというようなことなのですけれども、この点は、賃貸人あるいは貸借人にとっての危険というのは全く同等であります。もし私が賃貸人の方からそういう条項を最初から入れておくかどうかという相談を受けたら、むしろ否定するのではなかろうかと思います。その意味ではむしろこの条項の有用性に問題があると思います。むしろそんなに使われないのじゃないかというような気がします。  仮にこういう調停条項に服する旨の合意があった場合に、それに従うというのはむしろ当然のことなんですね。これは調停に限らず、例えば普通の訴訟において和解の実質的なやり方というのは、場合によっては裁判官がある程度あっせん案を出す、そういう場合に、じゃそれに実質的に従いましょうというようなある程度の、約束とまではいかなくてもそういう自分たちの気持ちをあらわす、そういうあっせん案が示されたときに一応それに従うというようなことは、日常茶飯事的にやっていることであります。特に調停において、じゃ煮詰まって、あるいは煮詰まる前であっても、とにかく調停条項があったらそれに従うようにしようということがあったからといって特に貸借人に不利益になるというようには考えられないと思います。  以上です。
  103. 冬柴鐵三

    冬柴委員 これ以上は、これは先生のお考えですから詰めませんけれども、ただ、私も二十数年の弁護士経験があるのですけれども、例えば一般契約書の一番後ろには管轄合意というのが印刷されています。これを消せという人はまずない。日本人というのは案外、示された、重大なことが書かれていても判を押してしまうのですね。特に印刷されたものを逐一読んでそして、中で自分に将来不利に働くのではないかということまで考えてその削除を求めるということはほとんど、弁護士の場合はやるでしょうけれども、それ以外の人は相当な方でも求めないのじゃないか。そういうことで、私はこれは何らかの手当てが必要じゃないか。  それから、日弁連も何か紛争発生前の合意にまでこのような効力を持たせることは適当ではないというような意見がたしかついたと思うのですが、先生はそこまでする必要はないのじゃないかという御意見のようですけれども、この条文からは全然区別はつかないですね。その点いかがでしょうか。
  104. 荒木新五

    ○荒木公述人 おっしゃるとおり、この条文からは、特に合意の時期というものを限定しているようには読めないと思います。  以上です。
  105. 冬柴鐵三

    冬柴委員 それでは次の質問に移ります。  藤井公述人にお尋ねをいたします。  定期借地権は結果として評価できる、そのような意見の開陳をいただきました。ということは、貸し主としては、地主さんたちとしては、もしこういうものができれば貸す意欲、今は新たな土地の賃貸借というものが出ないというところに非常にいろいろな問題があるように私思うわけですけれども、やはりこういうふうなのができれば貸す意欲がわくかどうか、その点について藤井公述人立場からお話しをいただきたいと思います。  それとともに、いろいろなメニューがそろえられているわけですけれども、そのうちどういうものが、予想ですからはっきりしたことは言えませんけれども、協会の中で話し合われたこととか調査されたことがあればお示しをいただきたいと思います。
  106. 藤井鋭三郎

    ○藤井公述人 お答えいたします。  三つ類型定期借地権の中で最も個人地主が関心を示しておりますのは、中期建物買い取り型の定期借地権であります。現行法の中では貸す意欲を持ちません。それは、貸したらとられたも同じということで返ってこないわけですから。しかし、返ってくる保証があれば貸したいという意欲は歳として持っているわけでございます。  現在は売るしかないわけですね。地主が何かを利用しようというときには、みずから建物を建てて貸すかあるいは売却するか、二つしかないわけですけれども、本来はそこに貸すという行為がなくてはいけないと思っているのですけれども、そこは確実に返すという保証を国家がする前提で十分その意欲を持ち得る、協会内でもそういう議論はいたしております。
  107. 冬柴鐵三

    冬柴委員 もう少しお伺いしておきたいのですけれども、建物買い取り型の場合には、その建物はどういう目的に使われるものが望ましいと思われますか、地主立場で。
  108. 藤井鋭三郎

    ○藤井公述人 一般都市勤労者に供給する普通住宅であろうと思っております。少なくとも賃貸借の基本は信頼関係にあるわけですから、当事者同士の信頼感があり、賃料が長期にわたって経済的理論のもとに保証されるのならば、一般住宅の、すなわち都市近郊におけるB農地、C農地の供給というのは期待されると思っております。
  109. 冬柴鐵三

    冬柴委員 重ねてもう一問お尋ねしたいのですが、今都市近郊の土地地主さんが貸す、貸す意欲がないとおっしゃいましたけれども、それでもなお貸す場合には、相当高額な権利金と申しますか敷金と申しますか、そういうものを徴求しないと合わない。七割、八割、九割近いものを、土地の交換価格に匹敵するようなものをもらっておかないと貸せない、そういう現実があるように思うわけでございます。そういう調査結果もあるのですが、もしこの建物買い取り型定期借地権というものができればそのようなものは相当改善されると思うのですが、藤井公述人の御意見はどうでございますか。
  110. 藤井鋭三郎

    ○藤井公述人 お答えいたします。  一時金につきましては税法との絡みがあろうかと思います。すなわち地主が一時金を取得することを目的に貸すわけではないわけです。一時金を取りましても一時所得で税の徴収の対象になるわけですから、それでは権利金を取って貸すかということにはならないと思います。ですから、今後の税務当局の御判断にもかかってくるわけですが、少なくとも定期借地につきましては無償返還約定と同じことになるわけですから、権利金を取って普及するということにはならないと思っております。
  111. 冬柴鐵三

    冬柴委員 最後に、酒井公述人にお尋ねをしておきたいと思います。  今回のこの改正法の中で更新拒絶の事由正当事由と今まで言っていたものが細かく、今まではみずから使用する必要その他正当事由と、こういう非常に抽象的な書き方になっていたのが書き方が変わったことはもちろん御存じのとおりだと思いますけれども、その中で、土地の使用を必要とする事情のほか、従前の経過及び土地利用状況、一並びに借地権設定者が土地の明け渡しの条件として、または引きかえに立ち退き料のようなものをお渡しするからという申し出をした場合には、そういうものを考慮してと、こういうふうに書いてあるわけです。これをあなたはどういうふうに読まれますか。どれが主でどれが従か、これはなければならないけれどもこれは補完的な意味だとか、そういう区分けをした場合にこれをどういうふうに読まれますか。借地人あるいは借家人立場でお答えいただきたいと思います。
  112. 酒井金太郎

    ○酒井公述人 お答え申し上げます。  これは裁判所がどういうふうに判断をするかということになろうかと思いますけれども、今までの立ち退きの裁判の場合、例えば借家の場合は確かに立ち退き料が補完をするということでそういう判例がふえているようですけれども、借地の場合は立ち退き料適用ということではまだ非常に少ないのですね。現実の問題として、裁判所もその裁判長あるいは裁判官によっていろいろ違いがありますから一概に申し上げられませんが、正当事由をああいうふうに主とする部分と従とする部分が実際にどういうふうになるかということは私もまだ予測はできません。できませんけれども、今までの実態から見ますと、さまざまな点がいわゆるそこでもって解釈をされていくというふうに判断をしております。  したがって、今度の正当理由について言えば、主たる判断としてつまり自己使用、あるいはそれ自体が大きな基礎にはなるかもわかりませんが、現実に今の東京あるいは大都市地域の地上げ実態その他から見て、恐らく立ち退き問題が出てきたときに、それが訴訟になった場合、あれが相当広く判断の材料に使われるだろうというふうに判断をしております。
  113. 冬柴鐵三

    冬柴委員 終わります。
  114. 星野行男

    ○星野委員長代理 木島日出夫君。     〔星野委員長代理退席、委員長着席〕
  115. 木島日出夫

    ○木島委員 日本共産党の木島日出夫でございます。  四人の公述人の先生からお話を承りました。藤井公述人と荒木公述人が明確に法案賛成の立場を述べられました。内田公述人と酒井公述人が明確に法案反対の意見を述べられたわけであります。私聞いておりまして、賛成、反対の分ける分岐点、分水嶺は何だろうかということを考えながら聞いておったわけです。  四人の先生の公述を私がひっくくるのはまことに僣越でありますが、全体的にお聞きいたしますと、内田公述人、酒井公述人の発想は、現行借地法借家法は生存権的借地借家人を守る、生存権的借地借家権を守るのが根本理念である。現状の日本の借地借家の状況からするならば、ますますその生存権的借地借家権は守られなければならないであろう。ところが本改正法案はそれが縮小されていって、私のつくった言葉でも必ずしもないのですが、営利的、資本的借地借家関係保護するといいますか、それを基本にして貸す方の権利を強化するものだから反対だというふうに大局的にお聞きしているわけです。  ところが藤井公述人と荒木公述人の方は、この基本は同じだ、現行法は生存権的借地借家関係を規定している、強過ぎる、借地借家人保護し過ぎている。そこは四人とも一致しているのですが、ただ、現状の日本の借地借家関係を見ると、典型に荒木公述人が、借り手が弱い者、貸し手が強い者という構図は今は成り立たない、借り手が強い場合もある、貸し手が弱い場合もある。それをもっと典型的な言葉で藤井公述人が言ったのは、借り手の方に一部上場企業があるじゃないか、東京のど真ん中に。貸し手の方の非常に弱い零細の地主が泣いているじゃないか、その逆転現象があるじゃないかということを、その典型的な言葉でお聞きいたしました。そういうことから藤井公述人と荒木公述人は、もう今や日本の借地借家関係を律する法律は生存権的借地借家関係は考慮しなくてもいいんだ、むしろ対等平等、あるいは地主、家主が弱い立場、あるいは、そういうことが背景にあって新法に賛成するんだというふうにどうも発想が分かれてきているんじゃないかなと思うわけであります。  こんな簡単な二つの、生存権的借地借家関係と営利的、資本的借地借家関係というふうにくくってしまうこと自体が妥当かどうかという大問題があろうかと思うのですが、そういうふうに払お聞きをいたしました。  四人の先生とも一致しているのは、現行借地借家法は生存権的借地借家権を守る、この新法というか新しい法案は、もうそういう理念ではなくて、対等平等が、営利的、資本的な借地借家関係を生み出そうじゃないか、それが新しい借地借家関係をつくり出すことにも作用するというふうに考えておられるんじゃないかと思うわけですね。そういうふうに私感じました。  しかし、借地借家法は一本なんですね。生存権的借地借家人権利を守るという法律と対等平等の借地借家関係を律する法律が二本立てになって明確に分かれていればそんなに矛盾はないのですが、残念ながら一本だ。そうすると、一つ借地借家関係を律する法律の守備範囲ですね、どういう借地借家関係を律しようとしているのか、そして律すべきなのか、そこがどうも判断の分かれ道なように思えてなりません。そういう立場からいいますと、まさに一番大事なのは、本改正法案の基本的な理念とそして現状の日本の借地借家関係の現状がどうか、やはり社会的、経済的な実態をきちっと把握して、いまだに生存権的な借地借家関係を守るべきなんだというふうに力点を置くのかそうじゃないのかを考えるのが一番大事ではなかろうかと思うわけであります。  先ほど荒木公述人から、余り定量的なことはようわからぬというお話がありました。しかし、まさに大事なのはその定量的な現状認識ではなかろうかと思うわけであります。そういうくくり方がいいのかどうなのかという点と、荒木公述人にお聞きしたいのは、現状日本の借地借家の関係で酒井公述人から、いやもう大変厳しいんだ、零細借地借家人がたくさんいるんだということが指摘されましたが、本改正法案の理念をどう考えるかということと、その守備範囲はどうあるべきかを、簡潔にお聞かせ願いたい。
  116. 荒木新五

    ○荒木公述人 お答えします。  私が借地借家法の理念と考えますのは、借地人あるいは借家人借地権設定者あるいは建物賃貸人といった関係者の正しい利害調整ということに尽きると思います。  それから守備範囲ということですけれども、これはやはり双方の利害調整にとどまると思います。それで、例えばどういう美しい町づくりをするかというようなことは、ちょっと守備範囲から外れるんじゃないかと思います。  それから、先ほど現行法は生存権を守る借地法で云々というお言葉がありましたけれども、私は何も生存権を守る必要はないというふうに言っているわけではありません。現行法で生存権を守る場面があるというような立場は、それはそれとして尊重するのは当然であります。ただ、現在においてはいわば対等の立場考えるべき場合もあるんじゃないかというふうに考えるわけです。それで、そういう対等の立場考える場面においては、いわば一般民法的な処理をしても構わないのじゃないかというふうに考えるわけです。  以上です。
  117. 木島日出夫

    ○木島委員 学説なんかですと、現行借地借家法は社会立法だということを言われていますね。社会立法というものは、構図が描かれていると思うのです、借り手は弱い立場、貸し手は強い立場ですね。ですから、その強い者と弱い者の利害をバランス調整するために社会的立法にして片面的強行規定を入れたんだと。期間の問題もしかり、正当事由の問題もしかりだと思うのですね。ところが、今荒木公述人がまさにおっしゃいました。そういう考えでない、市民的な、対等平等な立場法律が今必要なんだとおっしゃられましたね。  そこで、同じ質問なんですが、そういう基本認識について内田公述人はどうなんでしょうか。
  118. 内田勝一

    ○内田公述人 お答えいたします。  まず最初に、最初のくくられ方なんですけれども、私は、明確に反対かどうかという点では、現在の内容のままでは反対せざるを得ないというふうに申し上げて、明確に反対というふうには申し上げていなかったと思います。  それから、今回の改正法並びに借地法借家法をどういうふうにとらえるかという点では、実は、八五年にこの改正問題が問題点という形で問題になったときにジュリストで特集をしていますけれども、そこで私、巻頭論文で書いているのですけれども、要するに日本の借地借家法というのは、外国法と比べてみますと三つの全然違うものが入っているということが基本的に問題なんだということです。すなわち外国法でいえば、居住用建物貸借人の、先生のお言葉で言えば生存権的な保護、それから営業用の建物の貸借人の投下した営業利益を保護するという法律、これはフランスでもイギリスでも特別法があるわけですね。そしてまた借地については特別法がある。こういう三つのものが、日本ではこれまで生存権村営利的なものという形で対比されているところが基本的な問題点なんだという指摘をした覚えがあります。ですから、単純に生存権的か営利的なものかという対比はできないということであります。  したがって、例えば非居住用建物の賃貸借についてどうするかという場合にも、これを一般法で規律すればいいんだということではないのですね。その場合には、要するに中小零細企業が貸借人である、そうすると、その中小零細企業の既得利益を保護するのか、すなわちフランスの営業用建物借家法というのはそういうものなんですね。日本の大店法と同じように、中小零細商店を保護するというのがフランスの営業用建物借家法。しかしイギリスの場合にはそうではないわけですね。むしろ大企業が非居住用建物の貸借人になることを想定して規定をしているわけです。  ですから、借地借家の問題を考える場合には、非常に多様な賃貸人、貸借人がいるんだ、そしてそれぞれについて最もふさわしい規律の仕方はどういうことなのかということを、当事者双方の権利義務というだけではなくてもう少し広い観点から、例えば居住用建物の場合には住宅政策とかそういうものとの関連で、あるいは非居住用建物の場合には中小商業政策との関連でというぐあいに考えなければ妥当な立法ということにはならないんだというのが、基本的なこの問題に対する私の考え方であります。  以上です。
  119. 木島日出夫

    ○木島委員 大体一致すると思うのですが、現行法が社会法、それで新規立法、今まさに論議している法案一般法。私も、本借地借家法の全面改定というのは、社会法から一般法への転化だと見ておるわけです。  それで、今、二千万の借家人が日本におる、二百万の借地人がいる、それで法律は一本です。そうすると、社会法から一般法に転化していくということになると、それがその二千万の借家人に総体としてどういう影響を与えるのか、二百万の借地人に総体としてどういう影響を与えるのか、あるいは地主、家主にどういう影響を与えるのか、まさにその厳密な社会的な検証が行われなければならぬのではないかなと思っておるわけです。先ほどそういう面から見て内田公述人が、法律がこれで変わると、はねっ返りといいますかね、はねっ返りが心配だというようなちょっと趣旨言葉といいますか、趣旨をおっしゃられたように承っていますが、まさに私はそれを心配しているわけです。  私は、現状の日本の借地借家関係は、やはり基本は、借地借家人は弱き者であり貸し手の方は強き者であり、特にこの五、六年前からの日本のバブル経済を見ますと、まさに強き者が地上げ等によって土地を買い占めに入って地主になってきているというふうに見ざるを得ないのです。そこで、酒井公述人からいろいろ今の問題点が指摘されましたが、まさにそういう問題が今日本の経済社会に噴き出しているのじゃなかろうかと思わざるを得ないのですね。そうすると、まさにこの新法はますます、そういう強き資本力を持った者が今度は地主になってきておる、それに武器を与えるものになるんじゃないかな、そこを一番懸念をし、だからこそ逆に、総体として多い零細の借地借家関係を律する法律を守って、借地借家人の生存権的権利を、その生存権というのは住むだけじゃありません、生業もあります。小さな八百屋さん、魚屋さんもあります。それを守ることが今急務ではないかなと私は思うのですが、荒木公述人、どうでしょうか、現状認識。
  120. 荒木新五

    ○荒木公述人 お答えします。  現状認識云々では、私、繰り返しになりますけれども、いわゆる地主、家主が社会的強者であって借地人借家人が社会的弱者であるというようなのを統計的に調べたわけでもないし、またそういう資料を見たわけでもありません。今御質問の中で、総体的に借地人借家人が弱い例が多いとおっしゃいましたけれども、それがどういうふうな統計的な根拠を持っておるのか私はわかりません。ただ、私の感覚としては、少なくともそういう場面がうんと多いとは言えないのじゃないかというふうに現状認識としては考えております。  それから、本法案は市民法的な処理をするように一般法に直すんだというふうな考えを私がしているわけではなくて、本法案はむしろ、先ほど生存権的借地権とおっしゃいましたけれども、そういうのはそういうので残しておいて、ただ、対等の立場考える場面もないことはない、そういう場面については一般法で処理しよう、一般民法処理しようというような考え方だと思います。  以上です。
  121. 木島日出夫

    ○木島委員 同じことなんですが、現状を内田公述人はどう認識されているでしょうか。
  122. 内田勝一

    ○内田公述人 先ほどから申し上げていたことと変わることはないと思うわけですが、確かに総体として見た場合に、先生がおっしゃったような関係は居住用建物の大都市には多く見られると思います。しかし、借地借家関係はそれがすべてではないということも私は理解をしているつもりです。したがって、そういう意味ではさまざまな関係がある。それを強行規定で今まで一番弱いところを守っていたものを任憲法規化すると、一番今まで弱かった者にその任憲法規化の一番の問題点、矛盾がいくんだという趣旨であります。以上です
  123. 木島日出夫

    ○木島委員 全国借地借家人の現状をある面では一番よく把握されているかなと思われます全国借地借家人組合連合会の会長の酒井さん、その辺の現状認識、どうでしょうか。
  124. 酒井金太郎

    ○酒井公述人 現状から判断をしますと、先ほど私の方から申し上げましたようにさまざまな借地借家人が脅かされるような現状が、特にこれは中曽根内閣以降、こういうものが非常に大きくはびこってきたわけですね。しかも、地上げその他で追い出された方々はいろいろな状況の中で各地に散らばったわけですけれども、しかしそこでは大きな不動産あるいは民間デベロッパーが大もうけをした、こういう状況なんです。しかし一方で、生きるためにそこに住まなきゃならない人たちが町の中から追い出されていってしまった、こういう状況ですから、そういうことは絶対にあってはならない。そういう意味では、私は現状の追認をするような状況はあってはならないというふうに思っております。
  125. 木島日出夫

    ○木島委員 時間が来たから、終わります。細かい点は触れません。
  126. 伊藤公介

    伊藤委員長 中野寛成君。
  127. 中野寛成

    ○中野委員 民社党の中野寛成でございます。きょうはありがとうございます。  四人の公述人方々に相互関連がありますので、まとめてお尋ねをさせていただきたいと思います。  先ほどの公述をいただいておりました中で、酒井公述人の方から、いろいろ追い出しを受けていることや法外な家賃地代の値上げを要求されているケース等々、たくさん御紹介をいただきました。もちろん全国に多くあるケースの中のごく一部を御披露されたわけでありますが、そのお話をお聞きしながら一方で、これを藤井公述人はどういう気持ちで聞いているのかなと思ったりいたしておったわけであります。内田先生のお話の中で、住宅福祉を地主、家主に負わせていいのかという考え方もあるとたしか言われたような気もします、それは決して肯定的に言われたわけではないのでございますが。いずれにいたしましても、先ほど来お話をお聞きしながら思いますことは、この賃貸借の関係でなすべきこととそれから国の土地政策や住宅政策の中で解決すべき問題と二つあるのではないのだろうか。そのことについては私は藤井公述人も酒井公述人も同じお気持ちではないだろうかという気がするのでございます。  そういう意味で、今回の借地借家法改正の意図、趣旨でございますが、よくよく考えてみますと借地借家法でありまして、貸し地・貸し家法ではないわけですね。すなわちこれは、消費者保護法ではないけれども、借りている人の立場をいかに保護するかということがやはり基本理念としてあるであろう。しかしそのときに、例えば家賃統制令ではないけれども、ストレートに借りている人を保護する方法と、すなわち貸している人の行為を規制することによって借りている人の権利保護するというやり方と、それから、貸している人に貸しやすくするために、法務省の言葉じゃないけれども、貸しやすい条件をつくることによって供給がふえ、借りる人がそれだけまた利益を受けるという方法と、これまた二つあるだろうと思うのです。今回の法改正は、ストレートに貸している人の権利を規制し借りている人の権利を守るという部分を残しつつ、同時にまた貸している人が貸しやすくする環境もつくる、この二面性が今回の法改正にはあるように思えるのでございます。  そういうことを考え合わせますと、このことについて藤井公述人と酒井公述人、どういうふうにお考えであろうかな。二人力を合わせて、ひとつ政府、もっと土地対策、住宅対策しっかりやれ、例えば高齢者、障害者、そして低所得者、また外国人、そういうふうに土地や家を借りることによって大変不利な立場に立たされているそういう人たちを守る施策はもっと公の仕事としてやれ、そして、対等の立場に立ってお互いに権利義務を主張し合いながら貸し借りができる環境をつくるのならばわかるけれどもというのが大体お二人の一致するところになるのではないかなという気がするのでありますが、そのことについてどうお考えか、この法律との関係。  それからもう一つ、内田公述人にお尋ねをしたいのでありますが、原案であれば反対だとおっしゃられたわけであります。ということは、何らかの改正が必要であるということもお考えであろうと思うのであります。この内田公述人と荒木公述人との御意見の違うところがございます。それは定期借地権等についての評価の違いであります。定期借地権について内田公述人は、果たして効果を発揮するであろうか、五十年それからまた事業用の場合は二十年、これは果たしてそういう状況になったら貸しやすくなるのかという御指摘と、今度は借りる立場にといいますか、都市計画、町づくりとの関係で、いわゆる簡易な建物が建てられることによって、よりよい町づくりということにならないのではないかというお考えもありました。しかし、二十年、五十年あれば、建物の耐用年数と関係をして十分な年月だという考え方も一方であるわけであります。そしてまた、建築基準法、都市計画法等々、他の法律との絡み合わせで、この新しい改正案をもってしても、むしろ改正案の方が他の法律、制度とセットにされるならばよりよい町づくりにも貢献をし、かつ貸しやすい、借りやすいという結果を生むという評価も一面する人がいるわけであります。この考え方について内田公述人と荒木公述人とにお聞かせをいただきたい。  それから最後に、先ほどもちょっと触れられましたが、酒井公述人がおっしゃいましたいろいろな事例、これは現行法でそういうひどい状況がある。改正法になるとなおふえるのだろうか。先ほど改正法といったって、賃料に関する調停、それから立ち退きに関する正当事由、このことは現行契約にも適用されるんだ、だから新法も現行契約に直ちに適用されるものであるというふうにおっしゃられたわけでありますが、果たしてそのことが基本的な問題になるだろうか。調停の問題につきましては、いろいろ双方が一致するということが前提条件になければならないと思うわけでありますし、正当事由判例法を明文化しただけだという考え方もあります。そういたしますと、現行契約に直ちに適用されるということが必ずしも弊害ではないという解釈にもなります。このことが極めて重要な問題であるという考え方と、いや、これは現行法とそんなに変わるものではないという考え方が相反してあるわけであります。そのことについての解釈の違いにつきましても、これは酒井公述人と荒木公述人とにお聞かせをいただければと思います。  以上、まとめてお尋ねをいたしましたが、恐縮です、藤井さんからよろしくお願いをいたします。
  128. 藤井鋭三郎

    ○藤井公述人 お答えいたします。  現行法一つの生存権をめぐるものとして契約の相手方に、すなわち私人である地主または家主にその負担を強いるということは、今日の社会経済情勢の中では不合理さがあると思っております。先ほど酒井公述人からのいろいろな事例も聞いておりまして、私は物事というのは例外が幾つもあろうかと思っておりますし、いろいろな事例の類型を数多く積み重ねるとしたならば、私どものところにも山ほど来ておるわけですが、しかし、そういう争いの原点を対決させる、二極対立的な議論をするのではなくて、これからどうしていくかということの方が大きいと思っておりますので、今の御質問の御趣旨、まことに当を得たものと思っております。  その中で、私は、現行法の存在そのものが紛争の大きな種になっておるという認識を多年にわたって持っておりますので、個人的な見解ではございますが、現行法は可能な限り速やかに廃止されるのが望ましいと思っております。社会法的な色彩を持たせる必要があるとしたならば、それは国家であるとかあるいは地方自治体であるとか、福祉政策の中で御処理をいただくのが最も望ましい形であろうかと思います。私人にそのものを負担させるということそのものが対立の原点、利害の最も対立、拮抗するところであろう、そういうふうに認識いたしております。
  129. 内田勝一

    ○内田公述人 お答えいたします。  主として定期借地権あるいは借地権それ自体についての評価の問題だと思うのですが、私最初に申し上げましたように、借地制度というのは、日本では土地建物が別だということもありましてこれまで使われてきたわけですけれども、戦後昭和三十年代以降ほとんど使われできていない背景には、確かに借地権が強くなったという主張もあるわけですけれども、むしろ世界的に見た場合に借地権という制度自体が非常に異例なものである。そしてそういう異例なものを発展させるということはほとんど可能性はないのだと私は思っています。  ですから、定期借地権の場合でも、先ほど藤井公述人がおっしゃられたような建物譲渡型の場合でありましても、現在そういう定期借地権ができた場合にどれだけ使われるかという点でも私は疑問を持っているわけです。といいますのは、現在でも例えば市街化地域の農地については農住で展開をすることができるわけですし、また住宅都市整備公団などの特定賃貸住宅という形での利用可能性もあります。あるいは、民間の信託会社では土地信託、それ以外の不動産業者では土地信託と類似の制度を持っているわけです。それと比べて建物譲渡型の定期借地権が決定的に違うか、そしてそれによって非常に借地供給されるかという点では、どうもそういうことはないのではないかということを感じています。  それから、先生が最初におっしゃられたことですが、私も良質な民間借家供給することが非常に重要だと思います。そして、確かに現在家主の負担において供給がされているのではないかという問題が提起されることがよくあるのですけれども、外国の居住用建物借家法と日本法を比べた場合の一番の違いは、家賃規制が日本法はないのです。外国法の場合には家賃規制があって、貸し主の賃料取得権が日本法以上に制限されているわけです。ですから、日本法で考える方向というのは、むしろ外国法に見られるそういうふうな方法にした上で、同時に賃貸人に対する賃貸住宅建設の融資をもっと整えるとか、あるいは借家人の家賃補助制度を整えるというように住宅政策全体の中で借家法というものを見ていくことが必要であると思いますし、そういう意味では先生のおっしゃったことはそのとおりだと思っております。  以上です。
  130. 酒井金太郎

    ○酒井公述人 先生にお答えを申し上げます。  日本の住宅実態というのは、既に先生方も御存じのとおり、また国民の間でも広く認識をされているように、EC諸国からいわゆるウサギ小屋とか鶏小屋というふうに痛烈な批判を以前に受けております。ところが、その現状が解決されておるのかといったらそうではない。非常に深刻な、いわゆる経済大国世界第二位と言われながら事住宅問題については全く後進国並みの状況にあるわけです。ですから、実は現行法のもとでも借地借家問題の紛争が絶えず繰り返し起きていくという状況なんです。そういう状況の中で、ですから私たちは基本的には借地借家の紛争をなくしていくという観点でいえば、国なりあるいは地方自治体の住宅政策あるいは住宅行政そのものがもっと拡充をされる必要があるだろうというふうに思っています。  先ほど内田先生が住宅基本法の制定が必要だというふうにおっしゃいましたけれども、それは私も全く同感であります。ただそれが、住宅に困っている人たちのために土地利用され、そして住宅供給をされるというような政策がどうしても必要だというふうに思いますし、それから現実の問題として、今東京の二十三区あるいは大阪市等では、地上げ等で都心部に人がいなくなってしまうという状況に歯どめをかけるために、例えば世田谷区あたりでは自治体として住宅条例を制定をするとか、あるいは家賃補助制度を導入するという自治体がふえておりますね。こういうことがなぜ国でできないのか、そこのところが非常に私は不思議な気がしてなりません。ですから、政策的に見れば、そういうところをきちっと拡充をされていくことの方が、むしろこの法案の成立を図るよりもそちらの方が優先すべきではないかというふうに私は思っております。  それからもう一つ、藤井さんの方からいろいろ言われましたけれども、私の方も、つまり、零細な地主さんあるいは家主さんと敵対の関係をとらざるを得ないというようなことがないとは言えませんが、なるべくなら円満に話し合って解決をしていくという方向でいかなきゃならないと思っています。特に、地価の高騰に基づいて固定資産税あるいは相続税が非常に増税をされていくという状況を考えますと、一つ土地税制の上からも、私たちは今まで自治省に対して何回となく、小規模住宅用地については税の軽減を図るとか、あるいは最終的には非課税にしてほしいという要求を続けてまいりました。そのことは私は、零細な地主、家主さんの組織の中でもそういう要求があるだろうというふうに思いますし、その点では私たちも一致して運動をすることによって一定の前進を図ることができるのではないかというふうに思っております。それからもう一つは、建物のいわゆる改造といいますか、例えば零細な家主さんが何としても住宅を改良したいという場合に、融資が十分低利あるいは長期に行われるというような制度がもし行われるとすれば、私たちもその点については協力をしていくこともある場合にはあり得るというふうに思っております。  そういう意味で、全体のこの法案については、政策的に見ればもっとやるべきことがあるにもかかわらず何でこういうものが出てきたのかということを、借地借家人、あるいは地上げの問題で見れば持ち家の人たち、あるいは零細な地主、家主さんも追い出されるという現状を見ますと、さらに今、公団住宅あるいは公社住宅の建てかえ問題を通じて、正当事由の問題が場合によってはそこに取り入れられていく可能性もあるという話も聞いております。そういうことでいえば、私は、その辺のところを十分考えていきながら、現行法は生存権を守るためにぜひ守っていただきたいというふうに思います。  それからもう一つ先生がお尋ねの正当事由については、今までの判例のあれを条文化したというふうに言われておりますから、そうするというと既存のものに対して一体どういう影響を及ぼすのかということになりますが、もし裁判の判例がそうだということになれば、実質的にこれから正当事由の問題を通じて訴訟になった場合に新法適用されることになるわけですね。ですからそういう点では私も、冒頭に申し上げましたけれども、政府あるいは法案を提出された法務省の方は既存のものには適用しないよというふうにいっても、現実には実質的に適用されてしまうという判断をしておりますので、それがもし拡大解釈をされていくというようなことになれば非常に大きな被害を借地借家人が受けなければならないという現状になりますので、その辺はぜひひとつ御理解をお願いしたいと思います。
  131. 荒木新五

    ○荒木公述人 お答えいたします。  まず第一に、定期借地権の評価に関して、特に定期借地権が活用されるかどうかということなんですけれども、定期借地権にも三つ類型があるわけで、これは私の半ば想像になるのですけれども、狭義の定期借地権、つまり従来長期借地権と言われていた期間が五十年の定期借地権、これはやはり地主から見ると期間が長過ぎるんじゃないだろうか。そういう意味では、さあ、どれほど活用されるだろうかという点については若干疑問を抱いております。ただ、建物譲渡つきの借地権あるいは事業用借地権というのは、これはこれからかなり利用されてくるんじゃないかと思います。ただ、そうはいっても、都市部では土地そのものがそれほど多く残っているというわけでもないでしょうから、そういう面で、どの程度活用されるかというような統計的なあるいは数字的なものは何とも言えないと思います。  それから二番目に、いわゆるよりよい町づくりというような問題なんですけれども、確かにそういった住宅政策あるいは町づくりといった問題は忘れてはならないことなんですけれども、ただ、どういう建物を建てるかというのは、借地人だけの問題ではなくて地主の問題でもあるわけです。つまり、地主、家主とか借地人借家人といったような関係でとらえられる問題では必ずしもないわけであります。ですから、この点についてはもちろん住宅政策としていろいろな、例えばさっき地代家賃の統制だとか、あるいはそれについての補助だとかいうような意見が出ていましたけれども、それはそれでぜひお考えになっていただければと思いますけれども、少なくとも定期借地権を反対する理由にはならないと思います。  それから三番目に、借地借家関係についての紛争がこれからどうなるかというようなことなんですけれども、率直な私の想像としては、本法案ができたとしても、今ある紛争が全然なくなるというわけでもなければ、多分ふえもしないだろうし減りもしないだろうと思います。それはそれで仕方ないことだと思います。それは借地借家法の問題に限らないと思いますけれども、ただ紛争解決規範としてより適切な処理期待できるようになるのではないかと考えております。  それから正当事由について最後に申し上げますけれども、これはやはり私が見るところでは、従来の判例の積み重ね以外の何物でもないというふうに考えます。したがって、これが既存借地関係適用されたとしても、実質的な影響は何にもないというふうに考えます。  以上です。
  132. 中野寛成

    ○中野委員 ありがとうございました。終わります。
  133. 伊藤公介

    伊藤委員長 御苦労さまでした。  これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。  公述人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。  これにて公聴会は終了いたしました。  次回は、来る六日金曜日午前九時四十分理事会、午前十時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後四時十九分散会