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松浦(昭)
委員 私は、本
委員会におきまして本日議題となりました北方問題の
調査に対しまして、これから
政府に二、三の
質問をさせていただきたいと思う次第でございます。
ただいま、隣邦でございます
ソ連の
国内におきましては政治的な大
変革が進行している次第でございまして、まことにその現象は瞠目に値すると思うのであります。また、その
規模と速度につきましても我々の予想をはるかに超えるものがありまして、まさに世紀の世界史的な
地殻変動ともいうべきものであると思うのであります。
思え拭、七十三年前の
ロシア革命に端を発したわけでございますが、
共産主義による一党の
支配体制が、
ゴルバチョフ大統領のペレストロイカあるいは
グラスノスチ政策の推進によりまして揺らいでまいったわけでございます。さらに、これが西ドイツによります
東ドイツの
統合、これを契機にいたしました
東欧共産主義体制の崩壊へと続きまして、さらには最も注目すべき事象といたしまして、去る八月十九日の
ソ連邦内部に発生した
クーデター、そして三日後にその
失敗を見たわけでございますが、これを転機といたしまして一挙に
ソ連邦の
内部で
民主化が加速され、それによって
ソ連邦の解体につながるような
危機の状態が生じまして、
共産党の廃止あるいはバルト三国その他の
共和国の独立あるいは
経済の急速な悪化へと突き進んでまいった感があるわけであります。
この大事件は、
東西冷戦構造の上に成り立っておりました
国際政治に大きな
変動を与えるとともに、
隣国であります
我が国に対しましても、内外のいろいろな大きな影響が生じてまいっているわけでありまして、この
変革は特に今後とも不確定の要素を持っているだけに、これに対しましては、
我が国として時としては果断な、また時としては慎重な
対応が要請されるものと思うのであります。
本日は、本
委員会に幸いにも
中山外務大臣に
おいでをいただいておりますので、このような
情勢下で一体
ソ連はどこに行くのか、あるいは
経済問題あるいは
援助問題あるいは
核拡散問題等たくさんお尋ねしたいことがございますけれ
ども、時間の
関係もございますので、ごく絞りまして一、二問お
伺いしたいと思う次第でございます。
まず第一問は、何と申しましても
北方領土問題でございます。この問題は当
委員会の
所掌でもありますだけに、まず第一にお
伺いをいたさなければならないものであると思います。
振り返ってみますと、本年四月に
ゴルバチョフ大統領が
訪日されまして、
日本の
内部では
北方領土問題の前進を期待した向きもございますけれ
ども、
ゴルバチョフ大統領は領土問題の存在を認めていったものの、期待した足跡は残されていかなかったようであります。
しかし、去る八月十九日の
クーデターの
失敗によります
ソ連邦内の大
変革は、特に
ロシア共和国の
強力化あるいは
エリツィン大統領の
台頭を見たわけでございまして、
北方領土問題についても、引き続いて驚嘆すべき
変化が生じているような兆候が見られるわけでございます。
すなわち、我々は
新聞報道しかわかりませんけれ
ども、この
報道によりますと、去る九月初旬に来日いたしました
ソ連・
ロシア共和国最高会議議長代行の
ハズブラートフ氏、この方は九日に
海部総理にお会いなさいまして、
エリツィン・
ロシア共和国大統領の
親書を手渡したと言われておりますけれ
ども、この
親書の
内容は、かつて
エリツィン大統領が
最高会議代議員時代に提唱なすっておられましたいわゆる五
段階論を大幅に修正したものだと言われているわけでございます。この五
段階論はここで細かに御説明することは要らないと思いますけれ
ども、何と申しましても、最終的には四島の帰属は次の
世代にゆだねられるべきだといった点が非常に印象的でありました。
しかしながら、
さきの
ハズブラートフ氏の
記者会見によりますと、新しく
海部総理に手渡された
親書の
内容によりますと、この五
段階論に大きな修正が加えられ、著しい質的な
変化を見ていると述べられています。また、五
段階論で述べられた期間をそれぞれ短縮していこうと提案されており、特に、我々の
世代で四島問題を片づけようと述べておられるというわけであります。また事実、
おいでになった
ハズブラートフ氏御自身が、具体的に実質的な
交渉を始めるとお述べになったそうであります。
また、同氏とともに
訪日しておられました
クナーゼ・ロシア共和国外務次官は、
親書の
内容は五
段階の圧縮であるとともに、
戦勝国、
戦敗国の
区別なく
日ソ関係を発展させようと述べられていると言われますし、あるいは
国際ルールに従って問題を
解決しようと書いてあるとも言われているわけであります。
さらに驚くべき事実としては、
ソ連の
暫定内閣ともいうべき
国民経済対策委員会の副
議長である
ヤブリンスキー氏、この方は。元の
ロシア共和国の副
総理でありますが、この要職にあった方が九月九日、共同通信との
会見におきまして、一八五五年の
日露通好
条約に立ち返って歯舞、色丹、国後、択捉の四島は
日本に
返還されるべきである、あるいはこの
条約は
日露両国が戦争ではなく友好的な
交渉の後結んだものであるということを述べられたそうであります。これはまさにこれまで
ソ連側が主張しておりました
ヤルタ体制の放棄につながるものでありまして、また我が方の
返還論そのものと言ってもいい、そのような大きな転換であります。
このような一連の
発言を見ておりますと、
ロシア側はこの四島問題について大きく
態度を変えまして、
返還への千載一遇の
好機が訪れたかのように見えるわけでございます。
しかしながら、同時にこの話し合いは決してストレートにいくものではないとも思われるわけでありまして、
ロシア側は同時に、一方で
日本政府の
政経不可分の
原則は認めつつも、大
規模な
緊急援助を
日本に要請しているようでありまして、
ハズブラートフ氏の言をかりましても、その額は何億ドルの
単位ではなくて、何十億ドルの
単位の
援助を期待すると述べているようであります。
確かに、
ソ連は未曾有の
経済危機に直面しております。ことしの冬も乗り切れるかという
状況であると聞いておりますが、これを打開するのは西側の
援助しか道がありません。しかも、米国は今大きな
債務国となっておりまして、その
援助の力には限界があります。またドイツも、
東ドイツの
統合によりまして
東ドイツを抱えて、
援助の力も大きく減殺されている
状況であります。アメリカ及びヨーロッパが四島問題の
日本側の
態度に対してこれをバックアップしてくださることはまことにありがたい次第でありますし、もちろん我が方の主張を正論と認めてくださっている、そのように
判断するわけでありますが、彼らのお家の事情もあるのではないかと思うわけであります。とにかく、極論すれば、
ロシアにとって
我が国は一番頼りになる
援助国であるということであります。ここで我々は、四島問題と
援助問題のパッケージディールという極めて厳しい
外交交渉を
ロシアとの間で持つことを考慮しなければならないと思います。
課題はほかにもあります。それは四島に住む
方々の反対であると聞いております。これを受けまして、サハリン州知事のフョードロフさんは、
返還論に傾いた
ロシア共和国首脳の
考え方に強く反対していると伝えられております。
以上が我々が
承知している事実でありますが、これらのことに関してはもちろん
外務省の
方々は十分に
情報をとっておられると思いますし、我々以上の
情報を持っておられると思います。そこで
兵藤局長にお尋ねいたしたいことは、これらの
事態を踏まえましてどのような
状況であると
判断をしておられ、またどのような分析をしておられるか、ひとつ
外務省の御
見解を承りたいと思います。
また、
中山外務大臣には、この
事態をとらえまして
外務大臣としてどのように問題に
対処していくか、お
伺いをいたしたいと思います。確かにこの
事態は、今まで一度も訪れたことのないような
国民の
悲願を実現させる絶好の
機会とも言えます。しかし、私も長年、
日ソの
漁業交渉に携わらせていただきましたが、そのいささかの経験をもちましてもまた次元は非常に違うものと思いますけれ
ども、このようなときにこそ冷静に
判断をしなければならないとも思うわけでございます。
外相はいかがお
考えか、
外相のお
考えのほどを聞かしていただければありがたいと思う次第でございます。