○中野鉄造君 私は、前回の
委員会で
法務大臣の
所信をお聞きいたしましたけれ
ども、しかしその中には私が最も重要で緊急を要すると思っていたことが全く含まれておりません。
そこで、お尋ねしたいことはいろいろございますけれ
ども、本日は時間の
関係もございますし、
憲法が保障する
裁判を受ける
権利に焦点を絞ってお尋ねをいたしたいと思います。
それは、人事訴訟手続法の中における
裁判を受ける
権利についてでありますけれ
ども、この
質疑をするに当たりまして、私は少し長くなりますけれ
ども、ここで背景
説明をさせていただきたいと思います。
我が党では、昭和六十年の五月十六日に人事訴訟手続法の一部改正法案を
国会に提出いたしました。この法案提出のきっかけになったのはいわゆる次のようなことであります。
これはある高裁での事件ですが、ある父親が亡くなった。
子供は父親の全財産を
相続した。ところが、この父親の死亡後に認知判決を受けたAという人物があらわれて
相続財産の半分近くを
要求してきました。
相続人の側としては全く寝耳に水で、そのような死後認知訴訟があったなどということは全く知らずに、そのAというような人物が父親の隠し子として存在することなどあろうはずがない、そういう確信を持って、これはまさに江戸時代における天一坊的な問題提起だと確信をして、その死後認知訴訟の取り消しを求めて再審訴訟を行ったわけなんです。
ところで、現在の人事訴訟手続法には、御
承知のように、この
相続人の再審訴訟を認める
規定はございません。しかしながら、この
相続人に再審訴訟の原告適格を認めないと、その
相続人は自分の全く知らない間に確定した不服のある死後認知判決によって強制的に
相続財産を持っていかれる、こういうことになりますし、これでは
憲法上国民に認められた
裁判を受ける
権利を奪う危険性があるとして、高等裁の判決は再審を認めた行政事件訴訟法三十
四条を類推適用して再審訴訟を認めたわけなんです。そこで、これは最高裁にゆだねられることになったわけなんです。
この段階で、この事件が類推適用をもって
対応はしているものの、
基本的には再審訴訟をする
権利が人事訴訟手続法に欠けていることはこれはもう
憲法上ゆゆしき問題である、いわばこれは欠陥
法律であるとして、我が党では単独で人事訴訟手続法の一部改正法案を
国会に提出いたしました。これが昭和六十年五月十六日。しかし、残念ながらこの法案は、当時この本件が最高
裁判所に上告されて訴訟係属になっているので最高
裁判決が出るまで待ったらいかがかというような理由から、そのときは提案理由の
説明まではいったものの結果的には廃案になっております。
こういう背景を経て、一昨年、平成元年の十一月十日に上告されていた訴訟についての最高裁の判決が出ました。その判決には、高
裁判決を破棄自判して
相続人は再審訴訟を起こす資格がないといういわば門前払いのような却下判決であったわけです。その結果、
相続人はAという人物に
相続財産の半分近くを奪われた、こういうことになりました。
ところで、この判決文の中において最高
裁判所は、人事訴訟においては真実発見のために利害
関係人、つまり
相続人の訴訟参加の機会を与えることが望ましいことは言うまでもない、こう述べておりまして、また一方では、不可抗力的に訴訟参加できなかったため被害をこうむるであろう利害
関係人、つまり
相続人に対して、人事訴訟手続法は再審訴訟を認める
規定がない、したがって再審訴訟は認められないという趣旨のことを述べております。これらは最高
裁判所が、人事訴訟手続法に法の不備があり、そのために国民の
権利保護、
権利救済に欠けるうらみがあることを暗に
指摘しているわけでありまして、また、この判決を担当した最高
裁判所
調査官も、昨年の平成二年十二月号の「法曹時報」という書物の中の「最高
裁判所判例解説」においても、本件判決は利害
関係人を救済する必要性があることを認めており、かつその救済
方法は
立法によるべきであるという旨を明言しております。
また、この判決に対する多くの学者の見解も、国民の
権利救済のための
裁判を受ける
権利を認めないこの判決に批判を投げかけております。あるいはまた、その救済のための
立法の必要性を説いておるわけでございますが、そういったようなことで、こういう背景を踏まえ、かつ最高裁の
指摘していることを重視するがゆえに、人事訴訟手続法の改正による国民の
権利保護、救済の必要性を私
どもは再確認をいたしたわけでございます。
そこで、我が党としては、平成元年十一月下旬、一昨年ですけれ
ども、再び、
一つは事前
規定として、人事訴訟の当事者以外の第三者、つまり
相続人でその訴訟に利害
関係ある者に対して訴訟参加の機会を与えること、二つ目には、事後
規定として、不可抗力的に訴訟参加ができなかった第三者で、その判決により被害をこうむる危険性のある者について再審訴訟を認めること、こういったようなことを内容とする人事訴訟手続法の一部改正案のたたき台をつくりまして、非公式に黒柳前法務
委員長が理事会出席のメンバーの各先生方のお部屋にお伺いして、
法務委員会提出として人事訴訟手続法の一部改正法案の御
検討方をお願いしたわけなんです。
ところが、これに対して当時の
法務省のある上層幹部が、意外にもこの法案をつぶしに回ったとしか思えないような極めて不明朗な行動を各先生方に行ったということを聞いておりますが、これこそはまさに
憲法で保障された議会、議員の
立法権を阻害しようとする許されざる行為であると断ぜざるを得ないわけでございます。しかし、どういう人がどういうことをした、どういうことを言ったということはあえてここでは詳細は省略いたしますけれ
ども、以上申し上げたようなことを前提として
法務大臣の
所信をお伺いするわけでございます。
そこで、最初にお断りしておきますけれ
ども、これからお尋ねをすることは極めて
憲法レベルの問題でございますので、私が指名する
局長以外は
大臣にお答えをいただきたい、こういうように思います。
まず第一番目に、先ほど申し上げたこの人事訴訟に関する最高
裁判決では、人事訴訟手続法が訴訟当事者以外の第三者の
権利保護について十全な
規定になっていない旨を述べていると私は理解しておりますけれ
ども、
大臣は私と同様な理解をされるでしょうか。いかがですか。