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参考人(
今村奈良臣君)
東京大学の
今村でございます。
第百二十回
国会に上程されました
土地改良法等の一部を
改正する
法律案についての
参考人としての
意見を述べようということでございますので、以下述べたいと思います。
ただし、きょう
参考人の
名簿を拝見いたしますと、私以外は現場でさまざまの御苦労あるいは御経験をされている方が主でございますので、私はどちらかというと包括的な
意見をこれから述べてみたい、こういうふうに考えております。
今回の
改正法律案の内容は五点にわたっております。これは私からくどくど申し上げる必要もないんですが、
土地改良事業費の
市町村負担の
明確化というふうな問題あるいは
換地制度の
改善というふうな問題、それから
土地改良施設の
更新事業の
実施手続の
整備の問題、それから
土地改良区あるいは
土地改良事業団体連合会の
運営等に関する
規定の
整備、特に
理事の
性格規定についての
改正、それから
市町村特別申請事業における
都道府県が
負担金を徴収できる者の
拡大を考えるというふうな五点にわたっております。
総論的に結論から申し上げますと、このいずれの諸点も
時宜を得た、あるいは別の表現ですればやや遅きに失したという形容詞もつけてもいいかと思いますが、いずれも私は
時宜を得た適切な
改正提案であろうというふうに考えております。
さて、そこで少しその根拠を私なりに述べてみたいと思います。
御
承知のように、
土地改良法は
昭和二十四年に制定されまして、それに基づいて
土地改良事業は今日
推進されてきているわけですけれ
ども、
一言で言いますと、
農業基盤の
整備あるいは
開発といったようなことを通じて
農業の
生産性の
向上あるいは
農業の
構造改善等に資するというふうな目的のもとで
日本の
農政の基本的な部分にずっと長い間やはり位置づけられてまいりました。
予算上においても、ほぼ三分の一ないしは
時代によっては半分近くの
予算がこれに割かれてきたという量的な側面から見ても非常に重視されるということでございます。
なぜそうであったかという点は
最後に述べますけれ
ども、しかし、こういうふうに
推進されてきた
土地改良事業でございますけれ
ども、
農村地域の
都市化の
進展あるいは
混住化の
進展、
兼業化、
高齢化といったような
農村の
構成員の
異質化が非常にさまざまな問題をもたらしてきております。と同時に、
事業工期の
長期化あるいは
事業費の
増高、
農家負担金の
増大といったような問題、それがひいては
農家の
償還金の
増大ということで、
農村地域では非常に大きな
社会問題になってきております。
こういうことを背景としまして、
土地改良事業への
農家の積極的な
参加意欲が低下してくる、それから
農家間における
参加意欲の
格差が大きくなってきている、
農家間で
意見の違いが出てきているというふうに
一言で言ってもいいかもしれません。つまり
地域全体における
合意形成の低下ということがございます。
地域全体における
合意形成ということは、
日本の
土地改良事業がほかの諸国に比べて非常に違っているところでございます。御
承知のように、
申請主義をとりながら、同時に三分の二以上の
合意ということが
法律でも示されておりますが、事実上は、特に
面工事においては一〇〇%同意というふうなことが前提になっている。これは
日本の非常に
特徴でございます。私は、アメリカなどの例えば
土地改良などといろいろ比較してこれまで研究してきておりますけれ
ども、非常にこの点が
特徴でございます。
しかし、そういうさまざまな問題に対処しながら、
農政としても、
昭和六十年代に入りますと、さまざまな
対応策を講じてきていることは私も
承知しております。そういう中で、今回特に
事業による
受益の限度においてその
費用の一部を
市町村に
負担させることができるということを
明確化したということは、非常にこれは重要な
改正点であるかと思います。事実、これまで
市町村によってはさまざまな
事業費負担をやってまいりました。ただ、それが制度化されていなかった、
明確化されていなかったということでいろんな
地域ごとの
格差、差別といったようなことが実際上は起こっておりまして、こういうことを制度化することを
明確化することによって新しい方向が生み出されるんではないかというふうに考えるわけであります。
と同時に、先ほど申し上げましたように、
土地改良事業というのは、
農業の
構造改善や
生産性向上にかかわるだけではなくて、
計画的な
土地利用だとか
水利用の
推進に大いに寄与いたしております。さらに、
国土の
防災、
保全、
自然環境の
保全、
地域経済の
振興、
地域環境の
改善というふうなさまざまな
機能を持っております。
これは一括していいますと、
公益的機能の重視ということになるかと思いますが、この
観点はますます今後重視されていかなければならないというふうに考えております。にもかかわらず、これまでは原則的には国、県、
受益者の三者による
負担ということにされておりましたが、この中に
市町村等地域公共団体の
負担を
明確化するということによって、
受益者の
負担の軽減という問題とあわせて
地域の
土地改良施設の持っている
公益的機能を重視していくという方向を打ち出したことは大変喜ぶべきことではないかというふうに私は考えております。
ただ、ここで問題になりますのは、それに伴う
地方財政措置をよりしっかりとっていかなくてはならないのではないか。これは恐らく今後
予算上の措置その他で問題になってくると思いますけれ
ども、大蔵省、自治省等の関係官庁と協議をしながらこの
改善、確保ということを望みたいというふうに考えております。とりわけこれから
土地改良事業を重視しなくてはならないのは中山間地帯でございます。中山間地帯は財政力が非常に低い
市町村が多うございます。こういうこともとりわけ考えてその施策を講じていただきたいというふうに思っております。
それからさらに、
換地制度にかかわることでございますけれ
ども、これにつきましては、もう時間がございませんので詳細は申し上げませんけれ
ども、問題は、中核
農家あるいは担い手
農家の育成にこれを結びつけていくということと大いにかかわってまいります。次代を背負う若者の
農業への参入が非常に激減してきております。いろんな形でその
努力を私なりにもやっております。例えば農林水産省の大きな肝いりで二十一世紀
村づくり塾というふうな運動を、私も副塾長をさせられておりまして、全国的に今日進めております。県レベルだけではなくて
市町村レベルでも、恐らく全国
農村市町村の一割ぐらいにはもう農民塾、
農村塾といったようなものが行き渡りつつあるのではないかと思いますが、こういうことを通じながら、次代を背負っていく、あるいは二十一世紀の
日本農業を背負っていく若者を大いに育てていかなくてはならない、そういうことと大いにかかわりがあるかと存じます。
それから、時間がないのですべての点にわたって述べられませんけれ
ども、
土地改良区あるいは
事業団体連合会の運営にかかわることでございます。特に、論点は、
理事を
組合員以外から選出する、この部分をふやすということでございます。
農村の実態を私なりに把握してみますと、利用権設定等で事実上離農せざるを得なくなった、しかし、学識経験者といいましょうか、さまざまな事情に通じている、こういう経験豊富な
方々がおられます。そういう人たちを
組合員資格がなくても入れていくようなことが必要だし、それからまた
土地改良施設の維持管理という点では、非常に特殊な技術、長年経験を持っておる
方々もおられます。こういう方も大いに入れられていった方がいいんじゃないでしょうか。この点についても賛成したい、大いに
推進していただきたいというふうに考えるわけであります。
最後になりますが、今日、皆さんいろいろの
機会にお聞きになるかと思いますが、サステーナブルということが、これは英語でサステーナブルというのは持続的という意味なんですが、だからサステーナブル・アグリカルチュラル・デベロプメントあるいはサステーナブルアグリカルチャーという言葉をよく耳にされると思いますが、持続的
農業発展というふうな課題が世界史的な今日の展望の中で、あるいは地球
環境の
保全というふうなこととのかかわりで今日提起されております。私、
日本の稲作
農業あるいはかんがい稲作
農業というのは非常に歴史的にサステーナブルであるというふうに考えております。ただ、今日だんだんそれがサステーナブルでなくなりつつあるということも他方で深く憂慮しております。実は、ことしの八月二十二日から二十九日にかけまして八日間にわたって、このサステーナブル・アグリカルチュラル・デベロプメントというのをメーンテーマにして、第二十一回国際
農業経済学会議世界大会というのが東京の新宿で行われます。その
委員長が皆さん御
承知の
農政審議会の前
会長の川野重任先生であります。私が副
委員長、事実上の総責任者をさせられております。世界八十三カ国から七百五十人ほど出てまいります。各国のオピニオンリーダーでございます。こういう
方々にぜひ
日本農業を理解していただき、
日本についての理解が非常に浅いということもありまして、理解していただき、その上で
日本農業の持っている歴史的な意義あるいはこれからの展望という点で大いに議論を交わして
日本の評価をいたただきたい、そういうことにつきましても、きょうおいでの
先生方にもぜひ御尽力、御援助いただければありがたいということを考えております。ちょっと
最後は宣伝めきましたけれ
ども、
日本農業の、あるいは
土地改良事業の持っているサステーナビリティという点についてぜひ世界に知らせていただきたい。と同時に、
日本の中でもこの点を大いに
推進していただきたい、こう私考えております。
ちょっと長くなりましたが、以上で
意見の開陳を終わりたいと思います。ありがとうございました。