○
参考人(
中西啓之君)
法政大学で
自治体行財政論を講義しております
中西でございます。
最近の
地方財政の一般的な特徴につきましては、八六年暮れから
日本経済が好況に転じておりますので、一見、国の
財政も
地方の
財政も、
国税収入、
地方税収入が増大して好転しているというふうに見ることができるわけでありますが、しかしその
内容をよく分析してまいりますといろいろな
問題点を含んでいる。特に、本
年度の
地方財政措置を具体的に
検討していくとさまざまな問題があるように思われます。
私は次の二点について
意見を申し述べたいと思います。第一は、ただいま
和田参考人からも御
意見がございました
地方交付税の
特例減額措置についてであります。第二は、
地方交付税の
基準財政需要額における公債費の項目の数字が非常に増大しているという特徴についてでございます。これにつきましては、ただいまお配りしております表に沿って私の
意見を申し述べたいというふうに思っております。
まず第一の
地方交付税の
特例減額措置でございますが、御承知のように、現在の
地方交付税制度におきましては国税五税の法定割合によって算定されるという仕組みになっております。ところが、本
年度の
地方財政対策におきまして、国と
地方、大蔵省と自治省との協議の結果、
交付税総額を五千億
減額するという
措置がとられたわけでございます。当初、国の側、大蔵省は、
地方交付税法第六条の三第二項に基づく
特例減額、具体的に申し上げますと
交付税率の引き下げということを主張したと報道されております。
この
交付税法第六条の三の第二項、これは、基準
財政収入額と
基準財政需要額を計算いたしました場合に、
交付税の算定額と
交付税財源の
総額とが著しく開きがあるという場合には
地方行財政の
制度改正を行うかあるいは
交付税率の変更を行うということが決めてあるわけでございますが、この規定が、
先ほども
和田参考人が申されましたように、そもそも果たして
減額に、つまり
交付税引き下げにこれが適用できるかどうかという問題、これは非常に重大な問題であろうかと思います。
私はこの
交付税法の規定の趣旨は、本来、
地方財源を
保障するために国がその
財源保障を行うという趣旨で設けられたものでございますから、拡充には適用できても
減額に適用することは非常に問題があるのではないかという考え方を持っております。
一九五六年から六六年にかけまして
交付税率が漸次引き上げられてきたということは、この法律に基づく適用がされてきたわけでございます。ところが、第一次石油危機に続く七四年のマイナス成長、それに基づいて、一九七五
年度の
年度途中で
地方税及び
地方交付税が
地方財政計画に比べまして著しく
不足するという事態が発生したことがございます。具体的には、
地方交付税について一兆一千百九十九億円の
不足を来した。なおその後数年にわたって、
年度当初で
地方税及び
交付税の
財源が
不足するということが続いたわけでございます。
私はこのときにこの
交付税法の規定を適用して、自治体の
財源を拡充するための
財政制度を確立するかあるいは
交付税率を引き上げるという
措置が当然とられるべきであったというふうに考えているわけでございますが、御承知のようにそれが行われずに、資金運用部資金から
交付税特別会計へ貸し出しを行ういわば臨時応急的な
措置のみがとられてきたという経過がございます。つまり、拡充が必要なときにこの
交付税法の本来の趣旨を適用せずに、表面上
地方財源が若干増大したように見えるときに
減額だけ行うということは大変筋が通らない、道理に合わないというふうに考えるわけでございます。
しかも、その資金運用部資金からの貸し出しにつきましては、その後元金及び利子の一定部分についての
返済がかかってまいったわけでございまして、後
年度の
地方財政を非常に圧迫するという結果をずっともたらしたわけでございます。
地方交付税のみならず
地方税につきましても、減収補てん債の発行等々の方法によって、
基本的には起債を増発するという方法で対処してきたわけでございまして、これが今日でも
地方財政の非常に大きな重荷になっているということは御承知のところであります。
こういう
措置の結果、
交付税特別会計が多大の
返済義務を負わされてきたわけでございまして、その
返済義務を負ったために、
交付税財源を拡充する上で長年にわたってマイナスの影響を与えてきたというふうに私は見ているわけでございます。
一九八七年以降経済が好転してまいりまして、国、
地方の税収が
伸びてまいりましたので若干事態が変わってきたわけでございますが、そういう
状況の中で、税収の
伸びが若干ある、
地方財源に余裕があるというふうなことを理由に
減額が出されてきているわけでありますが、私は、実際に余裕があるのではなくて
予算運営上の余裕ではないか、つまり、余裕のように見えるけれ
ども実際に余裕があるわけではないというふうに見ているわけでございます。これは後ほど表で御説明したいと思っております。
こういう
状況の中で、国の側はいわゆる
特例減額を行う。これは
交付税法の六条の三の適用ではなくて、
先ほど申されましたように、今回は
交付税法附則第三条に基づく
特例減額を行うという
措置がとられたわけでございますが、これもこの第三条をよく読んでみますと、「
交付税の
総額の安定的な
確保に資する」というふうに書いてございます。
つまり、
地方財源をあくまで安定させるということを目的としてこの
附則第三条が設けられているわけでございますから、
不足した場合には補てんをする。しかし、余裕があるからといって、これはすぐに安易に
減額していいかどうかということは私は大変疑問を持つわけでごさいます。そういう意味で、この一方的な
減額措置というのは、
地方自治体の側の国に対する不信というものを招きかねないというふうに私は考えているわけでございます。
第二の、
交付税の
基準財政需要額において公債費が大変ふえているという
問題点でございます。御承知のように、
基準財政需要額の行政項目に公債費という項目がございますが、この公債費の需要額がこの間非常に増大してきているわけでございます。
これは表の一と二を
比較すると明確に出てくるわけでございますが、ちょうど
地方財政危機の始まりました一九七五年、
昭和五十
年度では、この公債費の需要額が表一にございますように九百七
十五億円でございました。ところが、昨年一九九〇年、
平成二
年度になりますと、表二にございますように一兆五千二百四十三億円になっておりまして、何と十五年間で十五・六倍にふえているわけでございます。
同じ期間、
交付税総額はどうだったかと申しますと、四兆四千二百九十五億円から十三兆七千五百九十四億円、三・一倍の増でございます。三・一倍に対して十五・六倍にふえているということでございますから、いかにこの公債費の需要額がふえたのかということが明瞭でございます。
ちなみに、
基準財政需要額の
総額に対する割合を
比較いたしますと、一九七五年には〇・八八%だったわけでございますが、一九九〇年には四・二%に上昇しているということでございまして、
基準財政需要額における公債費が異常に増大しているということを示しているわけでございます。
基準財政需要額と申しますのは、御承知のように、各
地方自治体が一定の行政水準を維持できるよういわば
財政的な
保障をするために算定する需要額でございますが、その中で公債費の需要額がふえるということは、
交付税財源の中で
債務の
返済に充てる部分が非常にふえて、実際に
地方自治体の福祉とか教育とかの行政水準を向上させるために充てる
財源に回らないということを意味しているというふうに思うわけでございます。
しかも、私が大変問題があると思いますのは、この一九九〇年、
平成二
年度の公債費需要額の
内容でございますが、これは表二の後半部分に挙げてございますように、減収補てん債でございますとか調整債としての
財源対策債だとか、あるいは
地域財政特例対策債とか臨時
財政特例債とか、これは広い意味での
財源対策債である。もう少しはっきり申し上げますと、事実上の赤字
地方債に当たるものではないかというふうに私は見ることができると思います。
このいわゆる広義の
財源対策債の公債費需要額が非常に大きな割合を占めておりまして、六千百二十億円、公債費需要額の四〇%に達しているということでございますから、過去の
地方財源を補てんする起債政策のツケがこういう形で今あらわれてきている。つまり、本来適切な
財政制度の改革あるいは
交付税率の引き上げによって対処しなかった、
地方財源の拡充を行わなかったということが、
交付税の
基準財政需要額における公債費の需要という形で現在あらわれてきている。ここに私は非常に大きな問題があるのではないかというふうに考えるわけでございます。
そこで、これと関連いたしまして、表三をごらんいただきたいわけでございますが、これは国の一般会計と
地方財政計画の
伸び率を、第一次石油危機が発生いたしました一九七三年、
昭和四十八
年度から、ことし一九九一年、
平成三
年度まで
比較したわけでございます。これを見てまいりますと、八〇年代に入りまして
地方財政計画の
伸び率が極めて低く抑えられているということが一見して明らかでございます。
具体的に見ていきますと、七〇年代は国の一般会計の
伸び率と
地方財政計画の
伸び率はさして違わないわけですが、八〇年代の前半になりまして国の一般会計の
伸び率よりも
地方財政計画の
伸び率がかなり低く抑えられている。八〇年代後半になりますと国の一般会計よりちょっとまた増大する年が出てまいりますが、これは全体として国の一般会計と歩調を合わせて
地方財政計画の
伸びが非常に低く抑えられてきたということを示しているわけであります。
さらに、一九九〇年、九一年と二年連続して国の一般会計よりも
地方財政計画の
伸び率が下回っている、こういうことが表三によって示されているわけでございます。
これは何を意味するかということでごさいますが、八〇年代以降一貫して、
地方自治体の経費を抑制する、つまり
地方財政計画全体の
伸び率を抑制するという政策がとられてきた。これは当然
基準財政需要額全体の
伸びを低く抑制するということを意味するわけでございます。
こういう
地方財政計画における歳出全体の抑制に加えて、
先ほどの公債費の需要額が増大している。つまり実際の行政に充てる
財源が狭くなってきているということでございますから、結局、
地方自治体の住民の暮らしに密着した福祉でございますとか教育であるとか、あるいは町づくりであるとか、そういうところに回る
財源が非常に圧迫されているのではないかということが想定されるわけでございます。
これが一体
地方自治体の具体的な行政にどういう影響を及ぼしているのかということでございますが、私は二点、
問題点を申し上げておきたいと思います。
第一は、自治体の福祉や教育のいわゆる公的
保障の水準が向上しない、あるいは引き下げられるということの結果、住民の
負担が非常にふえてきているということが第一点でございます。
それから第二点といたしましては、
比較的豊かないわゆる富裕団体と、それから
比較的
財源の乏しいいわゆる農村部の
地方自治体との行政水準の格差が
拡大しているのではないかということ、これは、この
地方財政対策のこれまでのいわば経過がそういう結果を引き起こしているのではなかろうかというふうに考えるわけでございます。
そういう意味で、今
年度の
地方財政対策、特に
交付税の対策には私は大変批判的な
意見を持っておりますし、もっと根本的に
地方財源の安定的な
保障の体制がつくられるべきではないかというふうに考えるわけでございます。
以上で私の
意見を終わりたいと思います。