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参考人(
福井俊彦君)
お答えを申し上げます。
最初に結論めいたことを申し上げて大変恐縮でございますが、
日本銀行といたしましては、現在行っております金融引き締め政策、その効果の浸透状況を引き続き冷静に見守るべきそういう段階にあるというふうに思っているところでございます。
そこで、現在の経済
情勢について、ただいまお尋ねのございました点に沿って、私
どもがどういう判断を抱いているかということをごく簡潔にお話し申し上げたいというふうに思っております。
金融引き締め政策そのものは、金融面から金利あるいは流動性の状況の変化を通じて実体経済に影響を及ぼしていくものでございます。したがいまして、現状におきまして金融面の状況がどういうふうなことになっているかということをまず申し上げますならば、金利水準が相当に高いところに来ておりまして、企業の
資金需要のある部分に対しては
資金需要を幾ばくか慎重ならしめる方向に作用してきているというふうに思います。
またそれだけではございませんで、
資金を供給いたします金融機関のサイドにおきましても、
資金の
調達コストが上がっておりますし、
資金の貸し出しを行いました場合のいわゆる与信リスクも高まってきているというふうなことがあって、
資金を提供する金融機関サイドの
態度もだんだん慎重化してきている。
それから、最近は企業の
資金調達ルートは自由化市場の発展の中で大変広がっておりまして、真っすぐ金融機関から借金をしなくてもマーケットから、つまりCPの発行とかあるいはエクイティーファイナンスの市場から、資本市場を通じての
資金調達のパイプが広がっておりますが、そうしたところを見ましても、やはり金融引き締め効果が幅広く浸透してそうしたルートでの
資金調達パイプも次第に細りつつある。最終的に、企業の手元流動性とかあるいは私
どもが金融面の指標として比較的重視しておりますマネーサプライの指標というふうなものを見ておりますと、マネーサプライの伸び率が各期あるいは月を追って伸び率が下がってきております。
委員重々御
承知と思いますので多少蛇足になると思いますが、その点だけ数字を申し上げますれば、いわゆるM2プラスCDという形で見ておりますマネーサプライの伸び率は、昨年の四―六月がピークでございまして前年比一三%、それから七―九月が一一%に落ちました。十―十二月が一〇・一%、またもう少し落ちまして十二月単月では八・六%というところまで下がってまいりました。間もなく一月の指標が出てくると思いますが、多分十二月の指標よりはもう少し下がっているのかなというふうに期待を込めて今見ておる、こういうふうな状況でございます。
そういうふうに金融面の姿が少しずつ変わってきている中で実体経済の方はどうかということでございますが、ただいま
委員からまさしく御
指摘がありましたとおり、いろいろな経済指標の中で例えば自動車の売上高、あるいは経済企画庁の方で取りまとめておられる家計の状況の
調査がございますが、その中で家計消費の動きなど拝見しておりますと、景気の動きが少しずつ減速しつつあるのかということを示唆する経済指標がこのところ出てきていることは事実でございます。しかし、それ以外の経済指標とか現実の企業の生産・出荷活動等広く拝見いたしますと、全体としての足元の景気動向は引き続き堅調であるというふうに、私
どもは判断を
基本的には変えておりません。
そして、先行きにつきましても、ただいま御心配になられました
我が国の経済の牽引力になっております設備投資動向、個人消費動向、これが非常に大事でございますが、それぞれにつきまして、例えば設備投資動向について考えますと、景気循環的と申しますかサイクリカルな物の見方をいたしますと、あるいは多少減速傾向にあるのかなという感じは否めませんが、最近の設備投資動向にはまた別の面から、つまり技術革新の強い潮流の上に乗っている部分、あるいは人手不足に
対応して景気循環側面とは少し独立的な判断で投資がなされている部分、そうした強い支えが今後とも大きく崩れる心配はなさそうだということが
一つございます。
それから個人消費、これまたGNPの中では非常に大きなウエートを占めてきておりまして、
日本の場合にも個人消費の動向が一番大事だと思えるところでございますが、自動車売上等多少動きに変化が出てきていることは私
どもも正確にこれをとらえておりますけれ
ども、一方、
日本の経済の場合には消費性向が非常に安定いたしております。したがいまして、個人所得の動向がどうかという点が一番今後の消費動向を占うポイントでございますけれ
ども、この点につきましては、個人の所得環境は今後ともかなりしっかりと保全されていて、この点でもまた大きく基盤が崩れる心配は今のところ少ないんではないかというふうに見ているところでございます。
これを全体として申し上げますれば、景気の減速を多少示唆する指標が出てきているから私
どもも十分注意深く見なければならないけれ
ども、足元なお堅調であり、先行きもいろいろな不透明要素がありますから一層注意深く見なければいけないとは思いますけれ
ども、今の景気の腰の強さ、そして個人消費、設備投資について、今私が申し上げました論点から見まして、景気が大きく下方屈折する懸念というのは今のところ小さいと思っているところでございます。