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参考人(
宮尾尊弘君) 御紹介いただきました
宮尾でございます。
私は
アメリカやカナダで長く過ごしまして、十五年ほど北米で特に都市問題、土地問題などを研究したり教えたりいたしまして、現在は筑波大学の社会工学系というところにおりまして、特に都市計画、都市問題、土地問題ということについて講義をしております。
アメリカからあるいは北米から戻りまして、一番私が
日本に戻って印象的というか気がついたことは、まず土地や住宅ということに関する研究とか教育とか理解が非常に薄いということです。私は筑波大学で都市専攻の学生を教えて、大変意識が高い学生が入ってきているんですが、その学生でさえも基本的に土地の値段というものがどういうふうに決まるのかという理解が全く教育されておらないわけです。ですから、すぐ簡単な需要供給分析になってみたり、それから全く需要供給が働かない投機バブルの
世界という議論が浸透したり、大変極端に議論がぶれるわけです。
そこに、非常にはっきり申し上げてマスコミ的な
意見で政策が左右されるような
状況が生まれてきているのではないかといった危惧をしておりまして、私がまず初めに
日本に戻ってやったことは教科書を書くことで、「現代都市
経済学」という本を書きまして、これが幸いいろいろなところで現在使われておりまして、一昨年は韓国でも訳されまして韓国でも教科書として使われているということで、非常にこの分野は研究者が少ないということで、ぜひ何らかの形で各大学でこういう専門を、国際
経済ですと
岩田先生とか、金融、財政、いろいろ分野が確立しているところはいろいろな先生がいらっしゃいますけれども、都市問題、土地政策、そういうものはこれまでは工学系の都市工学とか少しハードな
方々が
かなりやってこられた、あるいは行政の方が多かったわけですが、もう少し
経済的な視点というのが必要ではないかと私常々考えておりますので、まず初めにそのことを申し上げて、それでは早速私の
意見に入りたいと思います。
まず
現状の
問題点は、確かに土地、住宅というのは非常に
日本の場合高いということで、諸
外国に比べてそれがいわば
内外価格差というふうに考えられる面もあるんですが、私の見るところ、それは
問題点の指摘が若干拡散をいたしまして、一種の社会
現象化している。したがって、
国民の一方的な不満が拡大しているところがなかなか政策的な糸口が見出せない理由ではないかというふうに考えます。ですから、そろそろ問題を少し限定いたしまして、一体何が問題なのかということを絞り込んでいく時期ではないか。そして、それに対して
現実的な政治、
経済的な対応を
日本としてやっていくということが結局は広い意味での
内外価格差にも結びつきますし、その際重要なこと
は、対応しながら具体的な未来像を、これをやったら一体どうなるのか、一体どういう状態が土地や住宅問題の解決なのかという、そこを提示していくことが政治的、
経済的課題ではないか。それがありませんと何をやっても何も解決しないということになります。ですから、どういう状態が土地や住宅問題の解決なのか、それを同時に提示するということは大変大切な一環ではないかというふうに考えております。
まず、私のプレゼンテーションは二つの
部分に分かれておりまして、初めは東京を初めとして大都市問題です。
私の議論の組み立ては、後で地方の問題を話しますが、まずはどういう指標を使って、東京の土地問題が深刻であるかという指標をやっぱりこの際少し考えてみなければいけない。これまでのような例えば年収の五倍という、だれも口を開くと年収の五倍というようなことを果たして言い続けることが未来像につながるし、解決につながるのかどうかということをやはりこの際諸
外国の常識と照らして考え直してみる必要がある。それに対して、あと主体、地域、職場、交通というテーマを挙げていますが、これは実は後の方でだれが、どこで、何を、どうしているというのに対応しています。主体はだれが、それから地域はどこで、それから職場は何を、交通はどうしているかというそれぞれ具体的なイメージを出して、だれが、どこで、何を、どうしている状態が解決した状態なのかということを頭に置かないと常に問題だけが拡大するということになります。
まず、指標について申し上げますと、年収の五倍ということを言っておるのは恐らく
世界で
日本だけだと思います。私は
アメリカ、
ヨーロッパ、アジアにも行きましたが、大体そこで使われていますのはアフォーダビリティー、買いやすさという指標です。
アメリカではもう日常アフォーダビリティーインデックスという、買いやすさの指標というのがありまして、これはもう何のこともない、買えるか買えないかということです。ですから、例えば地価が上がりますと買える人が少なくなる、金利が上がりますとお金が借りられなくなるし、支払いが非常にふえますから買える人が少なくなるというような指標です。それは当然非常に常識的な指標です。
ところが、
日本はなぜかそれが年収の五倍というだけの指標になっています。ここで欠けているのは、じゃ年収の五倍を達成するために金利をどんどん上げて地価を下げればいいかというと、それは金利が上がれば年収の五倍になってもサラリーマンはお金を借りて返す金利が多くなれば買えないわけですから、それはどこかに欠陥があるわけです。ですからそこは指標をまず考えまして、何とか
日本で買いやすさの指標というのは何かということを出していかないと理想に通じない。
それについて既にデータがございまして、次のページの図の二を見ていただきますと、一体サラリーマンがどれだけの資金を調達できるんだろうかという、資金調達可能額に対してマンションや住宅の
価格がどれだけの比率になっているかというようなことを考えますと、今言った頭金がどれだけたまっているか、お金をどれだけ借りてきて金利をどれだけ返すか、そういう実際のレベルでの指標ができてまいります。
ですから私の提案は、まずは指標を考えれば
現実の地価高騰、住宅
価格の高騰というのは資金調達可能額に照らしてみますと、実は歴史的に見てそんなに
現状は悪化しているわけではなくて、むしろ最近の高金利の方がサラリーマンに住宅を買わせなくさせている面も見えてきますので、ぜひこういう指標の面を考え直すという点が第一点です。
それから、それでは指標を考え直したからといってやっぱり買えない人は買えないわけです。平均的にはそんなに悪化していないということを聞くことは必ずしも慰めにならないわけで、買えない人、お年寄り、所得の低い方、いろんな方は平均の議論では満足しないわけです。ですからそのときにどうするかというのが政策であって、そのときに主体、だれがが問題であります。
そのときに、当然のことながらサラリーマン一般を議論しては全く始まりません。サラリーマンには物すごいお金持ちもいますし、土地持ちも住宅持ちもいっぱいおります。サラリーマン対大
企業とか、サラリーマン対不動産屋というような対比がしばしば行われますが、これは大変誤解を招きますし、将来像が見えない形で問題が提起されている例でございます。ですから、この際サラリーマン対何々という議論をやめまして、一体サラリーマンのうちだれが一番困っているか、それは当然のことながら第一次取得者です。第一次取得者にできるだけ焦点を当てた政策を行うということで問題を限定化することが必要です。
第一次取得者というのは、これまで住宅を持っていなくてどうしても持つ必要がある、結婚をして家を買う、あるいは子供が大きくなってくる、住宅が欲しい、そういう場合に、もちろん借地や借家をこれから増していくという政策も必要ですが、当面そういうものは時間がかかります。ですから、そういう人たちにいかに買いやすくさせるかということです。これについてはようやく所得や資産面で補助をするという
考え方が遅まきながら出てきております。例えば公庫の「はじめてマイホーム」
制度というスズメの涙のような割り増しが多少入ってまいりました。そちらの方向が基本的に正しい方向です。そういう層にターゲットを絞って買いやすくしてあげるように所得や資産面で補助をする。例えば、初めてマイホームを買った人には金利支払いについては所得税の控除をするとか、そういうターゲットを絞った所得資産面でのサポートが最も正しい。これは
経済学者の間では
世界的に常識になっております政策です。
それから、今度はどこでどういう問題です。
世界的に見ても東京の土地は確かに高い。それから
日本全国でも東京が高いということですが、これは東京の都心や都内に限るから高いのであって、拡大東京圏で見ますと、二ページ目の一番左下、図の五に「距離別に見た住宅取得の年収倍率」というのがございまして、仮に年収にこだわっても大体五、六十キロ出ますと年収の五倍でいまだに買えるわけです。
筑波学園都市にいますと、筑波は高くなりましたが、最寄りの駅の土浦というのは大変まだ安く、第一次取得者でも買えるような住宅がどんどん建っておりまして、あの辺は大変ポテンシャルが高いところで、私はいつも住宅問題で文句を言っている人はぜひ土浦へ来いというふうに言っているんで、土浦の不動産屋の宣伝みたいになって恐縮なんですが、そういうところはちょっと出ればいっぱいあるんです。それは、しかも国際的に常識的な広がり方なんです。私はボストンにおりましたし、カリフォルニアにもおりましたし、トロントにもおりましたが、大体都心部に住んでいる人というのはごくわずかで、非常に
世界的に住居というのは郊外化になっています。何も郊外に住むことは
日本では異常でも何でもないんです。ですから、ぜひそこら辺を大いにいい供給をふやす。例えば、市街化区域内の農地を宅地化するという問題も行き過ぎますと問題ですが、まだまだ低・未利用地、農地で農家の方も利用したいという方はいっぱいいらっしゃいますから、そういうことで大いに供給をしていくということで、住宅問題は基本的に私はそんなに問題はないというふうに認識をしております。
ただし、そう言いますと、それじゃ通勤地獄が問題ではないか、片道二時間も三時間も通ってどうしてくれると言います。確かにそれが問題です。しかし、それは住宅の問題ではありません。それはむしろ職場の問題です。これも諸
外国で見ますと、職場が東京の
中心に集まっているような構造を持っている都市は非常にわずかです。
私もMITの学生だったときに、郊外のちょうど五十キロ圏にある高級住宅地のレイセオンという会社のMIT出の技術者のうちがホストファミリーということになっておりまして、サンクスギビングとかクリスマスというときに招待をしてくれましてよく参ったんですが、その方などは職場
が環状道路沿いにレイセオンという会社がありまして、その環状道路を十分か十五分行きますと自分のうちがあるわけです。
ですから、短時間で自分の職場に行って非常に裕福な生活をしておるわけです。レイセオンの本社が環状道路沿いにあってなぜ都心にないかということを、我々は十年か二十年おくれてやはり
日本は、東京は考えていく必要がある。もっとさかのぼりますと、ニューヨークからなぜ本社がどんどん出ていったかということを考えますと、当初は環状高速道路沿いのコネチカットとかニュージャージーの便利なところにまずは本社が移りまして、今そこからさらにテキサスとかいろんなところに移っているという段階です。そういう職場の移動というのが重要であって、それを
日本は何とか近いところに住宅をという、近いというのは職場を固定いたしまして、大体国会議事堂から出発して、ここから近いところということの発想がどうしても抜け切らないということになっているようです。
ですから、私の発想は、職場に近い住宅という発想はやめまして、住宅に近い職場をもたらすにははどうしたらいいかということが恐らく土地住宅問題を国際的に解決する重要なポイントではないか。これについては何とか職場の分散ということを、また問題を起こすような
規制ではなくて、非常にいいインセンチブを与えながら郊外に張りつかせるにはどうしたらいいか。そのかなめになりますのは恐らく交通網だと思います。
三ページ目の東京圏の幹線道路図、これは何度見ても私は憤りを覚えるんですが、黒い線で
中心に向かっているところは現在ある道路です。ところが、白くぽつぽつとなっておりますのはいまだ計画中、
調整中、工事中とかというところが三つ、四つ、環状道路は
一つもできておりません。これだけ見てもなぜ職場が環状道路沿いに張りつかないかわかります。
なぜかというと環状道路がないからです。この環状道路沿いへの職場の移転というのは、
アメリカでは二十年から三十年前、
ヨーロッパでも今どんどん起こっておりまして、ここで新しい
産業の勃興とか活力が保たれておって、それは
アメリカではちょっと行き過ぎまして
中心都市部が没落したということがありますが、
日本は全く環状道路がないというところが一番大きな問題ですので、これを解決する。そうしますと、だれが、どこで、何を、どうしているかというビジョンが浮かんでまいります。それが恐らく
日本の土地住宅問題についての一番実態に即した解決策だろう、それをサポートする税制、金融等の政策というふうに考えるのが順序であって、それをやらずに税での締めつけ、金融での締めつけということをやって土地の
価格だけに焦点を当てるということは、実は逆効果になるおそれが大変高いと私自身は考えております。
時間が余りありませんので地方の方の問題に移ります。
この地方分散の問題も実は指標の問題が大切です。この指標の問題を間違えますといつまでたっても地方は疲弊し、東京ばかり集中するというフラストばかりが一方的に拡大いたしまして何の解決の道も見出せません。
実は、指標をきちんと見ますと、一九八六年から七年、大体八七年というのが
一つの契機になって、今とうとうと地方分散の動きが出てきております。その例が三ページ目の地図がありました下の方に、これは地域
経済レポートの九一年版ですが、ごらんのように戦後
高度成長期、工場等の分散で大都市圏への人口の転入は非常におさまりまして、昭和五十一年、五十二年、五十三年、五十四年、つまり七〇年代後半、地方の
時代と呼ばれているときには大都市圏への人口の転入は余りなかったわけです。それが八〇年代になりまして、確かに大都市圏への再集中が起こりました。これが一極集中と言われている流れです。
しかし、それは八七年に大体頭を打ちました。今は完全にそれが再び新しい
産業構造の変化、情報化、
国際化の流れは今地方にとうとうと流れております。それを我々は大体三、四年遅いデータで見ておりますからいまだに東京への集中が激しい。それから五年ごとのデータとか十年ごとのデータで見ると、もう今それでは東京のオフィスの立地
規制をしないともうこれ以上はパンクするとか、そういう危機感がありますと非常に対症療法的な、
規制的な政策だけが入ってきまして、現在の動きをむしろ固定化する動きが出てまいります。そういうことで、指標を考えますと例えばマンション建設でも地方が大変
伸びている等のことが出てまいります。
あとは御質問のときにいろいろお受けしたいんですが、簡単に申し上げますと主体の問題。今地方に行きたいという人が非常にふえております。これは四十代から三十代の男の人、特に地方出身の男性に地方志向が非常な勢いで拡大しております。ですから、こういう人たちにぜひ移転の補助をしたり移行を助ければみんなのプラスになる移行ができるわけで、無理やり行きたくもない人を引っ張ることは何もないわけで、それはぜひ促進をすべきだろうというふうに考えます。
しかし、おもしろいことに最近は女性はますます都会志向になっておりまして、男女差をどういうふうに地方分散で解決するかという方が
かなり難問でございます。ですから、
かなりきめの細かい、だれが一体地方に行きたがっているのか、そのビジョンとして年齢別、男女別の対策をどうするかという主体に即した政策をやる必要がある。その主体抜きの、地方にいっぱいお金をばらまいたり東京に来るのを
規制したり、そういう議論はもうビジョンにはかかわらない誤った政策に導く
可能性があるというふうに私自身は考えております。そして、道路についても地方でこれから必要なのは、高速道路と空港及び通信基盤の整備というふうに広域的な交流を促進して地方の発展を図るというのが筋であろう。
結論としましては、そういう具体策を地道にやっていくというそれと同時に、これは一体何に向けての政策なのか、これをやったらどうなるのか、どういう状態が解決の状態なのかということを常に提示しながら政策をやっていきませんと、必ずそれに対して不必要な反論が出てまいります。ですから、解決したときの未来像を含めて、だれが、どこで、何を、どうしている状態が一体夢の実現なのかということをそろそろ政治、
経済的レベルで打ち出していくときが来ているのではないかというふうに私は考えまして、
発表にかえさせていただきますが、もう少し具体的なデータに即したお話は、御質問の答えのときにやらせていただきたいと思います。