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1991-03-11 第120回国会 衆議院 予算委員会第四分科会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    分科会平成三年三月七日(木曜日)委員会に おいて、設置することに決した。 三月十一日  本分科員委員長指名で、次のとおり選任さ  れた。       粟屋 敏信君    大石 千八君       古賀  誠君    和田 静夫君 三月十一日  粟屋敏信君が委員長指名で、主査選任され  た。 ────────────────────── 平成三年三月十一日(月曜日)     午後二時開議  出席分科員    主 査 粟屋 敏信君       大石 千八君    古賀  誠君       貴志 八郎君    五島 正規君       鈴木  久君    常松 裕志君       和田 静夫君    兼務 伊東 秀子君 兼務 小森 龍邦君    兼務 仙谷 由人君 兼務 小沢 和秋君    兼務 菅原喜重郎君  出席国務大臣         労 働 大 臣 小里 貞利君  出席政府委員         労働省労政局長 清水 傳雄君         労働省労働基準         局長      佐藤 勝美君         労働省職業安定         局長      若林 之矩君  分科員外出席者         総務庁行政監察         局監察官    松田 隆利君         防衛庁人事局人         事第二課長   太田 述正君         法務省人権擁護         局総務課長   佐竹 靖幸君         法務省入国管理         局登録課長   山崎 哲夫君         大蔵省主計局主         計官      渡辺 裕泰君         厚生省社会局生         活課長     浅野 史郎君         厚生省援護局庶         務課長     田島 邦宏君         厚生省援護局業         務第二課長   浜松 恒雄君         労働大臣官房参         事官      吉免 光顯君         労働省労働基準         局労災保険審理         室長      三沢  孝君         労働省労働基準         局安全衛生部安         全課長     梅井  勲君         労働省職業安定         局民間需給調整         事業室長    大石  明君         予算委員会調査         室長      多田 俊幸君     ───────────── 分科員の異動 三月十一日  辞任         補欠選任   和田 静夫君     貴志 八郎君 同日  辞任         補欠選任   貴志 八郎君     鈴木  久君 同日  辞任         補欠選任   鈴木  久君     常松 裕志君 同日  辞任         補欠選任   常松 裕志君     五島 正規君 同日  辞任         補欠選任   五島 正規君     和田 静夫君 同日  第一分科員小沢和秋君、第二分科員仙谷由人君  、第三分科員菅原喜重郎君、第五分科員伊東秀  子君及び第七分科員小森龍邦君が本分科兼務と  なった。     ───────────── 本日の会議に付した案件  平成三年度一般会計予算  平成三年度特別会計予算  平成三年度政府関係機関予算  (労働省所管)      ────◇─────
  2. 粟屋敏信

    粟屋主査 これより予算委員会第四分科会を開会いたします。  本分科会は、厚生省及び労働省所管について審査を行うことになっております。  なお、各省所管事項説明は、各省審査の冒頭に聴取いたします。  平成三年度一般会計予算平成三年度特別会計予算及び平成三年度政府関係機関予算労働省所管について、政府から説明を聴取いたします。小里労働大臣
  3. 小里貞利

    小里国務大臣 平成三年度一般会計及び特別会計予算のうち労働省所管分について、その概要を御説明申し上げます。  労働省一般会計歳出予算額は四千八百六十九億三千五百万円で、これを前年度当初予算額千八百六十八億九千万円と比較いたしますと四千五百万円の増額となっております。  次に労働保険特別会計について御説明申し上げます。  この会計は、労災勘定雇用勘定及び徴収勘定に区分されておりますので、各勘定ごと歳入歳出予算額を申し上げます。  労災勘定歳入予算額は二兆三千九百七十三億九千六百万円で、これを前年度当初予算額二兆二千百三十三億四千二百万円と比較いたしますと、千八百四十億五千四百万円の増額となっております。また、歳出予算額は一兆二千八百七十一億六千七百万円で、これを前年度当初予算額一兆三千百八十六億九千七百万円と比較いたしますと、三百十五億三千万円の減額となっております。  雇用勘定につきましては、歳入予算額は二兆六千十一億三千四百万円で、これを前年度当初予算額二兆四千三百二十億三千四百万円と比較いたしますと、千六百九十一億円の増額となっております。また、歳出予算額は二兆二千四百四十三億二千二百万円で、これを前年度当初予算額二兆二千四百五十九億六千二百万円と比較いたしますと、十六億四千万円の減額となっております。  徴収勘定につきましては、歳入予算額歳出予算額とも四兆四百二十四億九千九百万円で、これを前年度当初予算額三兆六千七百五十一億三千九百万円と比較いたしますと、三千六百七十三億六千万円の増額となっております。  最後に、石炭並びに石油及び石油代替エネルギー対策特別会計石炭勘定につきましては、当省所管分炭鉱離職者援護対策等に必要な経費として百八十六億七千三百万円で、これを前年度当初予算額二百四億三千八百万円と比較いたしますと、十七億六千五百万円の減額となっております。  平成三年度の予算につきましては、特に、中小企業中心とした人手不足感の広がりに対処するための労働力確保定着対策や、女性高齢者能力有効発揮を可能とする環境整備を図るための対策等に十分な配慮を行うなど、限られた財源の中で、各種施策について、優先順位の厳しい 選択と、財源重点配分を行いながら、きめ細かく、かつ、効率的な実現を図ることといたしております。  以下、主要な事項についてその概要を御説明申し上げるべきではございますが、委員各位のお手元に資料を配付してございますので、お許しを得て、説明を省略させていただきたいと存じます。  何とぞ、本予算成立につきましては、格別の御協力を賜りますようお願い申し上げる次第でございます。
  4. 粟屋敏信

    粟屋主査 この際、お諮りいたします。  労働省所管関係予算重点項目については、その説明を省略し、本日の会議録に掲載いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 粟屋敏信

    粟屋主査 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。     ─────────────     〔小里国務大臣説明を省略した部分〕  次に、その主要な内容について概略説明申し上げます。  第一は、魅力ある企業づくり地域づくりによる人材確保定着推進に必要な経費であります。  景気の持続的な拡大にともなって中小企業中心として人手不足感が拡がってきております。特に中小企業は、大企業との間に、労働時間、作業環境福利厚生等雇用管理全般について格差が存在し、このことが労働力確保定着を困難にしている大きな要因となっていることから、こうした格差を是正し、中小企業で働く人々がその能力を十分に発揮でき、豊かな職場生活を送れるような環境整備を図っていくことが重要な政策課題となっております。  このため、既に中小企業団体に対し実施している中小企業人材確保援助事業拡充するとともに、中小企業団体構成員たる中小企業者雇用環境整備促進に向けての取組みに対する助成等実施することにより、中小企業を魅力ある職場とし、労働力確保を図ることとしております。  なお、これらの施策を統一的、体系的に推進するため、「中小企業における労働力確保のための雇用管理改善促進に関する法律案」を今国会に提出したところでございます。  そのほか、中小企業退職金共済制度の円滑な運営を図る等の中小企業勤労者対策についても総合的に推進することとしております。  また、地域活性化を図り、地域における魅力ある雇用機会開発していくための政策も併せて取組む必要があります。  このため、魅力ある雇用機会が不足しており、若年者等中心労働力が流出している地域を「雇用環境整備地域」として設定し、その地域において取組む雇用環境整備のためのモデル的事業援助することにより、地方における魅力ある雇用機会開発人材確保、育成、定住の促進等を図ることとしており、そのための「地域雇用開発等促進法の一部を改正する法律案」を今国会に提出したところでございます。  さらに、これら人材確保対策を強力に推進するため、ハローワークガイダンス事業充実等公共職業安定所機能強化を図るとともに建設業における技能労働者不足の解消を図るための各種助成措置についても充実することとしております。  これらに要する経費として九百七十五億一千百万円を計上いたしております。  第二は、多様な働き方を可能とする社会形成のために必要な経費であります。  経済社会構造変化は、様々なニーズに基づく多様な働き方を受け入れる社会への移行を促しております。  特に、女性高齢者が安心して働き、その能力を十分に発揮することのできる社会システムを構築していくことは、今後の我が国経済社会の活力の維持増進のために必要不可欠となっております。  このため、働く女性家庭生活職業生活の調和を図りつつ、その能力経験を活かせるようにするため、ハローワークによる女性の再就職援助事業実施等総合的な女子就業援助対策育児休業制度の確立に向けての普及促進施策を積極的に推進するなどの女子労働者就業環境整備を図るとともに、パートタイム労働者雇用労務管理改善に向けての指導パートバンク増設等パートタイム労働対策を総合的に推進することとしております。  また、本格的な高齢化社会の到来を迎え、活力ある経済社会実現するためには、働く意欲と能力をもった高齢者の知識と経験が有効に発揮されるようにすることが重要であり、特に六十五歳までの継続雇用中心として雇用就業の場を確保することが重要な政策課題となっております。  このため、高年齢者雇用についての国民的コンセンサス形成促進しつつ、六十歳定年の完全定着、六十五歳までの継続雇用制度普及等に努めるとともに、再就職を希望する高齢者早期就職促進のための施策推進や今後ますます増大する高齢者の臨時・短期的な就業ニーズに適切に対応するためのシルバー人材センターを大幅に拡充することとしております。  さらに、勤労者経済社会の急速な変化に対応して、その能力を十分に発揮し、安定・充実した職業生活を送れるようにするためには、職業生涯を通じた能力開発が極めて重要であり、将来展望に立ち、社会経済ニーズに的確・柔軟に対応した職業能力開発対策推進することとしております。  これらに要する経費として二千七百三十億五千八百万円を計上いたしております。  第三は、ゆとりある豊かな勤労者生活実現のために必要な経費であります。  豊かな勤労者生活実現のためには、労働時間の短縮勤労者財産形成等勤労者福祉向上労働者の安全と健康の確保等勤労者が安心と充実感をもって働くことができるための施策を積極的に展開していく必要があります。  労働時間の短縮につきましては、週四十時間労働制実現等経済運営五ケ年計画の目標の達成に向け、これまでも各種施策推進してきているところでありますが、本年四月一日からは週四十四時間労働制への移行により週四十時間労働制に向けての第二ステップに入ることを踏まえ、労働時間短縮等援助を必要とする中小企業の集団を対象とした援助事業等実施するとともに、主要産業分野業界団体による労働時間短縮に向けた活動の促進連続休暇普及拡大のための指導援助実施所定外労働時間短縮対策強化等により、労働時間の短縮を更に推進させることとしております。  また、勤労者財産形成制度につきましては、大都市圏における勤労者持家取得困難化高齢化の進展に伴う退職後の生活資金ニーズ多様化教育資金高額化等社会経済情勢勤労者ニーズ変化に対応した制度改善を図ることとしており、そのための「勤労者財産形成促進法の一部を改正する法律案」を今国会に提出したところでございます。  さらに、労働者の安全と健康の確保対策につきましては、昨年、死亡災害の増加が深刻な問題となったところであり、死亡災害の中で大きな比重を占める建設業における安全対策推進するとともに、大企業に比べて災害発生率の高い中小企業安全衛生水準向上を図ってまいります。  また、労働者健康確保問題は、社会的にも大きな関心が寄せられているため、作業関連疾患等の予防、治療等の総合的な調査研究を進めるとともに、労働者健康確保推進するための事業拡充を図ることとしております。  なお、労災補償対策についても、被災労働者早期社会復帰対策等を総合的に推進することとしております。  これらに要する経費として一兆一千九億九千六百万円を計上いたしております。  第四は、国際社会への積極的な貢献に必要な経費であります。  我が国国際的地位向上に伴い、労働分野においても国際社会に対する積極的な貢献が求められております。  このため、我が国国際的地位にふさわしい国際協力国際交流を積極的に展開することとしております。特に、開発途上国への技術移転を積極的に推進する見地から、外国人研修生受入事業拡充を図るとともに、外国人研修の適正かつ効果的な実施確保するための指導援助事業実施することとしております。  また、東欧諸国変革等最近の国際情勢をふまえ、ILOを通じた技術協力東欧への拡大等東欧諸国に対する国際協力推進することとしております。  さらに、外国労働者問題につきましては、事業主指導中心とした外国人雇用対策を的確に推進するとともに、最近、特に増加している日系二世等に係る相談体制充実等に努めることとしております。  これらに要する経費として百二十三億五百万円を計上いたしております。  第五は、障害者雇用対策等推進に必要な経費であります。  障害者の方々の社会参加促進を図るため、雇用対策について、一層その推進を図る必要があります。  このため、身体障害者雇用率達成指導強化職業リハビリテーション体制強化等を図るとともに、新たに、重度視覚障害者雇用促進を図るためのプロジェクト事業実施することとしております。  このほか、特別の配慮を必要とする人々に対する職業生活援助等対策は、これを推進することとしております。  なお、失業対策事業制度につきましては、今後五年間において紹介対象者数等の最大限の減少を図り、平成七年度をもって事業を終息させることとしております。  これらに要する経費として一兆五千三百十二億八千五百万円を計上いたしております。  第六は、行政推進体制整備等に必要な経費であります。  我が国が内外の厳しい環境の下で今後とも発展、繁栄していくためには、良好な労使関係を維持していくことが不可欠であります。  このため、産業労働懇話会等労使の対話の場を活用することなどにより、労使相互理解と信頼を強化するための環境づくり推進することとしております。  また、今後の経済社会変化に伴う行政需要に的確に対応するための行政体制等整備を図るとともに、中長期的な労働政策の在り方を検討する等、総合的な労働政策推進を図るために必要な経費及び一般行政事務等に必要な経費を計上いたしております。  以上、平成三年度労働省所管一般会計及び特別会計予算について概略説明申し上げました。  何とぞ、本予算成立につきまして、格別の御協力を賜りますようお願い申し上げる次第であります。     ─────────────
  6. 粟屋敏信

    粟屋主査 以上をもちまして労働省所管についての説明は終わりました。     ─────────────
  7. 粟屋敏信

    粟屋主査 この際、分科員各位に申し上げます。  質疑時間はこれを厳守せられ、議事の進行に御協力を賜りますようお願いを申し上げます。  なお、政府当局に申し上げますが、質疑時間が限られておりますので、答弁は簡潔明瞭にお願いいたします。  これより質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。貴志八郎君。
  8. 貴志八郎

    貴志分科員 私は、ベンジジン禍及びいわゆるベンジジン裁判最高裁上告関連をいたしまして質問をいたしたいと思います。  ベンジジンあるいはベータナフチルアミンと呼ばれる物質は、黒色染剤中間剤でありまして、これが大変高度な発がん性を有しております。大体、取り扱いをいたしましてから平均十八年、長きにわたっては四十五年間の潜伏期間を持つ極めて危険な物質でございます。この物質戦前昭和十年代の初期ごろから日本でも製造が行われまして、戦後も昭和二十六年のあの中国貿易の再開当時はピークを迎えるわけでありますが、かなり大量の生産が行われました。それで問題は、戦前取り扱いをいたしました労働者が戦後になって発病をする、こういう状態が現に起こってまいったわけでございます。  今から大体一世紀ぐらい前、百年ぐらい前、一八九五年、ドイツ外科医のレーンという方がこの物質発がん関連につきまして既に報告をいたしております。それから一九四二年、昭和十七年にはドイツで、それよりさかのぼること四年、昭和十三年にはスイスで、それぞれ製造禁止をいたしております。イギリスでは製造禁止並びに使用については大分おくれておるわけでありますが、それより前に早くこの物質発がん性についてあるいは危険性について広く公表をいたし、昭和四十二年に禁止を決定をいたしておるわけであります。  私が聞きたいのは、まず、この危険な中間剤に対する政府当局の基本的な姿勢であります。スイスドイツあるいはイギリスが早くより製造禁止を決めておるのに、なぜ我が国昭和四十七年までそれを禁止をしなかったか。そのためにどれだけ多くのがん発生を見たか調査をされたことがありますか。それらの潜伏期間が十八年から四十五年という長いものであるだけに一刻も早い告知と禁止とが必要であったと思いますが、大変おくれていた。おくれたことによって一体どれだけの被害が出ておるのか調査をされたか、あるいはその責任は一体どういうふうにお感じになっておるのか、ぜひ当初にお聞きをしておきたいと思います。
  9. 佐藤勝美

    佐藤(勝)政府委員 ただいまの御質問の中で出ておりますベンジジンにつきましては、我が国におきましては昭和四十七年に使用製造輸入禁止措置がとられていると存じますが、それ以前にはそういうことはなかったというふうに認識をいたしております。
  10. 貴志八郎

    貴志分科員 私はその四十七年にやったことは知っています。しかし、それ以前に例えば化成品工業協会などにおいて外国の技師を招いて実際に調査をしたという実績があるじゃないですか。それから、戦前にだってたくさんの症例があるじゃないですか。昭和四十七年から禁止したというのは、そんなことはもうだれだってわかっている。日本がなぜおくれたかというので私は聞いているんですよ。四十七年にやったという報告を聞いているんじゃないですよ。いつそのことに気がついて、そして、それを扱うことがいかに危険かということを大勢の取扱者に知らせたかということを聞いているんです。
  11. 佐藤勝美

    佐藤(勝)政府委員 我が国におきましては、今回問題になっておりますベンジジン関連をいたしますような職業性膀胱腫瘍につきましては、第二次大戦前にはごく少数の報告例が存在するのみであって、実態については必ずしも明らかにされていなかったものと思われます。しかしながら、第二次大戦後、外国のこの種の腫瘍に関する情報が入手をされるようになったということで、その対策必要性についての認識も徐々に高まってきたということ、それから昭和三十年ごろ、先生もお触れになりましたけれども、中国向け輸出のためにこの物質の増産が、だんだんこの生産が盛んになってきたということから被害拡大をしてきたという事実がございます。昭和三十一年、三十三年には、労働省ではベンジジン中毒に関する特殊健康診断実施、それから、この物質製造を行う事業所衛生管理強化促進するための通達を出して行政指導に当たってきたところでございます。このようなことでこの特殊健康診断が行われるようになりましてから、我が国でもこの物質によります膀胱腫瘍症例が多数報告をされる ようになったことが、先ほど申しました昭和四十七年に製造使用輸入禁止をされるということのもとにあるわけでございます。
  12. 貴志八郎

    貴志分科員 このことについて論戦はあえてもうやりませんけれども、とにかく日本は遅かったんですよ。外国先進国に比べて随分遅かった。そのことの責任を感じてもらわなければならぬということを私は言っているわけです。  それから、ここで聞きたいのは、新憲法ができました。明治憲法下にある労働関係法規が極めて不備であったから、労働基準法だとか労働災害保険法だとかそういうふうなものをつくって、労働者の働く権利と申しますか命、そういったものを大切にするということに、新しい憲法下でそういうことになってきたということはもう労働省の存立のゆえんでありますから、私からあえて申し上げるまでもないと思うのでありますけれども、私はここではっきりと確かめておきたいのは、労働省のお仕事労働者生活を守る、それから労働者環境だとか権利を守る、そういうためのお役所であるというふうに理解してよろしいか、お尋ねしておきたいと思うのです。
  13. 佐藤勝美

    佐藤(勝)政府委員 労働省の使命は、職業の安定を図り、労働条件維持向上を図ることによりまして労働者福祉向上を図る、こういうことであると認識をいたしております。
  14. 貴志八郎

    貴志分科員 それでは、その部分については全く意見が一致をいたします。  そこで、ベンジジン裁判、本論に入るわけでございますが、ここでなぜ裁判が起こったかと申しますと、要するに新法ができる以前、すなわち戦前ベンジジン製造に従事しておった労働者が戦後発病いたします、そして亡くなったり闘病生活に入る。そういう人たち労災保険法の適用を申請をいたしました。ところが、それを戦前労働者であったということで、要するに法施行以前の労働者であるからという理由支払いを拒絶いたしました。それに対して支払いを求める裁判がいわゆるベンジジン裁判であったということは、説明しなくても当事者はよくおわかりのことであろうと思うわけであります。  そこで、先ほど私がわざわざ労働省のお仕事は何ですかということをお尋ねしたのは、労働省労働者を救うための、守るためのお役所であるとするならば、この訴訟を起こされたときにあえて労働省理由として挙げたのは、旧法時代に原因があった、そして新法になってから発病された、だから、これは新法では支払いができないんですという、そういう建前を裁判の中でもとられたわけであります。そこで、旧法によって守られない労働者新法でも守られない、法と法の谷間で労働者が泣かなければならぬという結果が生まれてくるわけであります。そういうことを果たして労働省は期待したんだろうか。救いのない、何にも知らないで働いただけでがんが発生する、死ぬ、そういうふうなことに対して救いの手を差し伸べようとする立場に立とうとなぜできなかったのか、ぜひ聞いておきたいと思うのです。
  15. 佐藤勝美

    佐藤(勝)政府委員 この事件にかかわります労災の申請につきまして不認定の処分をいたしましたときの理由は、今先生が御質問の中で述べられたとおりでございます。私どもといたしましては、このような事情にあるということは大変残念だとは思いますけれども、労働省が救済すべき法律、法制度がこの点については欠けているというふうになるわけでございまして、私どもとしては現行法の解釈として残念ながら認定はできなかった、かように考えております。
  16. 貴志八郎

    貴志分科員 現行法でどうにもならぬということでありますけれども、同じような事件で、法の施行される直前に工場内の食事で腸チブスに感染して法が施行されて後に発病したというケースがあって、そのときの労働省の基準局長に対する通達は、この労災法の適用をしてよろしいという通達をしておるのですよ。片一方ではそれができて、片一方ではなぜそれができないのですか。
  17. 三沢孝

    ○三沢説明員 ただいま先生から御指摘のありましたように、腸チフスに関する事案については先生おっしゃるような経過をたどったわけでございますけれども、ここで一点注意をしていただきたい点がございます。と申しますのは、腸チフスの場合には、いつその腸チフスにかかって発病したかという点が明らかでなかったということで結果的には施行後であったかもしれない、そういうこともありまして、そこら辺の関係が不明でございましたことから労災保険法を適用した、こういうことでございまして、今回とは事例が違うものと思っております。
  18. 貴志八郎

    貴志分科員 いつ感染したかわからぬと言いますけれども、それはもう事故というのは法律解釈でもそれが発生したとき、要するに発病したときが事故だというふうな法律解釈が既にできておるのに、曲げて、原因がその前にあったからこの事故に対しては適用できないと言うのはもう大変なこじつけであって、最初労働基準監督署長が示した解釈がボタンのかけ違い、そのかけ違いをそのまま引き継いでいるというふうな現在の立場というふうなものがありあり見えているような気がしてならないわけであります。  後で少しこの問題についてもさらに申し上げたいと思いますが、時間もありますので急いで私が言わなければならぬことを言っておきたいと思いますが、今日本は経済大国だということで随分繁栄を誇っております。日米構造協議の中で労働時間の短縮の問題も打ち出されましたね。労働者のこういった労災事故に対して、こんな状態であるということを日米構造協議の場の中に仮に持ち出されたとしたら、一体どんな扱い、どんな非難を受けるかということ、あなたわかりますか。こんなことは日本だけの問題じゃないですよ。国際的な問題になります。それだけの大きな問題だと思うんです。要するに安くつくれて簡単につくれるというこの黒色洗剤の中間剤をたくさんつくらして、そんな危険があるということが新聞社によって暴露されて初めて重い腰を持ち上げたというふうな経過から見ても、ここらあたりで最初のボタンのかけ違いをかけ直すべき時期がやってきているんじゃないか、僕はこう思うのです。いかがですか。
  19. 佐藤勝美

    佐藤(勝)政府委員 労働災害が起こりました場合には、これによりますけが、疾病あるいは死亡等に対しまして、できるだけ迅速に適正な給付を法律に基づいて行うというのが私どもの基本的に心がけていることでございます。今御質問の案件は、不幸にして非常に特殊な問題であるわけでございまして、御承知のように昭和二十二年九月に実施をされました労働基準法によりまして、労働災害につきましての使用者の補償責任が規定されておるわけでございます。それから、労災保険法による補償責任は、この基準法による補償責任にかわるものとして理解をされておるわけでございます。したがいまして、労働基準法施行前に、使用者に補償責任が課されていない時点で労災保険法による補償は考えられないというような解釈から、現在行われておるような訴訟になっておるわけでございます。  私どもとしても、これが一般的なケースであるというふうには考えておりません。労働者の保護につきましては所定の手続に従って迅速適正に行いたいと思っておりますが、この件については労災保険制度の運用にかかわる極めて重大な法律問題が内包されておるという判断に立ちまして、これは裁判所の最終的な判断を仰ぐほかないというふうに十分考えました末に決断をいたしたものでございます。
  20. 貴志八郎

    貴志分科員 一審でもあなた方の主張は退けられました。完壁に退けられた。二審、高裁で同じように一審を支持するとともに、現在の労働基準法なり労災保険法なりは旧法の欠点を補うためにつくられた法律だから、法律の精神に照らしてもこれを適用するのは当たり前だというふうな判決がちゃんと出ているじゃないですか。それをわざわざ最高裁までなぜ出すのですか。  ところで、この問題について和歌山労働基準審議会、御承知ですね、各都道府県に審議会ができています。基準行政に対する意見を出すところで Fす。和歌山労働基準審議会では、早くこの被害者を救済してやりなさい、裁判の決定に従って何とかしてあげなさいということを言っているのですよ。あなた、この審議会にどういう答弁を出しましたか。
  21. 佐藤勝美

    佐藤(勝)政府委員 この審議会の要請につきましては特別に返事を応答いたしておりません。
  22. 貴志八郎

    貴志分科員 審議会の存在を一体どのような扱いで見ているのですか。労働基準行政を実施していくために審議会の意見を尊重して、そして民主的に地元の声を聞いてやろうというのが審議会の趣旨じゃないんですか。答弁をしないわけを言ってください。
  23. 佐藤勝美

    佐藤(勝)政府委員 審議会の職務は、先生おっしゃいましたように労働基準行政上の重要な問題について御審議をいただくということでございますが、この出されました救済についての要請につきましては、これは審議会の委員の方々の要請ということで、行政運営に関する一般的な問題とはちょっと違うのではないかということで、これについて特に応答はしていないものと思われます。
  24. 貴志八郎

    貴志分科員 どう見ましても、今までの御答弁はこの労働者を見殺しにしてしまうということでありまして、労働省としてとるべき態度ではない。その辺はぜひここらで検討し直してほしいと思うのです。  私は和歌山でございますから、大体製造の五〇%以上和歌山でつくられたということがあるわけですから、私の周辺にもベンジジン禍で亡くなっていった人は数人おります。私の友人にもおりました。一人は、今から十年余り前に亡くなりましたけれども、今度入院して腰が痛くなったらもうわしはおしまいや、そのときには仲間のことを頼むよ、せがれのことを頼むよと言って私の手を握って死んでいきました。息子は大学受験をあきらめて、私は福祉の施設で働きたい、そう言って、私は世話をしてあげました。そんな実態をあなたは知っていますか。わかりますか。生と死の苦しい闘いを、凄惨なまでの闘いをやっている患者の姿を、その家族の痛ましい生活を、机の前で法律がどうだとかいうようなことを言う前に、なぜこれを救おうという立場に立たないのか、私はそれを非常に残念に思うのです。  私の非常にお世話になった和歌山医大のお医者さんで、金沢稔先生という方がいらっしゃいましたが、その方は、貴志さん、ベンジジンという染料中間剤がんが発生する、自分は泌尿科の医者だから、自分の余命から考えて、自分が実験台になってもこれは究明していかなければいかぬ、若い医者に実験させるわけにはいかぬ、そう言われた。ほかの病気で亡くなられてしまいましたけれども、そういった学究だってありました。そんな善意の人々が周辺にたくさんおるのに、なぜ労働省だけがこの問題に対して何とか見直そうという気持ちを持たないのかと、私は残念でならないわけであります。こういった問題について、私は本当に時間があればもっと細目にわたって労働省の姿勢をただしていきたいのでありますけれども、時間の制限がございますから、最後に労働大臣にお尋ねをいたしたいと思います。  段々と申し上げてまいりました。このような法と法の谷間の中でだれも救おうとしない。今の労働省の考えでは救うことができない。救うことができるはずであるにかかわらず、救ったところでだれにも迷惑がかからないじゃないですか。戦前ベンジジン製造に従事した私の友達なんか、ボイラーマンで、直接さわっていなくても完全にこのベンジジンに暴露されているわけなんです。そういう人は救いがない。司法では一審も二審も救いなさいと言っているのです。最高裁まで行って、労働省が最高裁で負けたら一体だれが責任とるんですか。死んだ人に対して責任を持てますか。その家族にどんな責任をだれがとるんですか。今からでも遅くはない、再検討をぜひしていただきたい、そのことを強く要請を申し上げまして、ぜひ大臣の御答弁をお願いいたします。
  25. 小里貞利

    小里国務大臣 和歌山ベンジジン事件につきまして、先ほどから一問一答をお聞かせいただいておるところでございます。  端的に申し上げまして、痛ましい事件であるんだな、しかも、心情的には傾聴申し上げておるところでございます。しかしながら、いきさつとして、先ほど局長を初め答弁申し上げましたような一つの労働行政の判断もございます。また、先生お話しのとおり、たまたま、この労災法を適用すべきか、あるいはべからざることなのか、その辺の争いが現在最高裁によって審理中でございます。この結果をまちまして適正にかつ機敏に対応する以外に方法はないのかな、そういう感じを持ったところでございます。
  26. 貴志八郎

    貴志分科員 このような論議をしている最中にも、法の救いもなしに死んでいく人がいらっしゃいます。そのために先ほど申し上げたような家族の苦しみもなお続いております。こんなことが法の谷間の中でうっちゃられておいてどうにもならないということは、経済大国と言われる今の日本の中で許されていいことでは絶対ないということを私は痛切に思います。最高裁の結論を得るまでもなしに、私は今ここでどうしろとは言いませんが、再検討だけはぜひここで何とか約束をしていただきたい。再検討するということだけで私は遺族の皆さんにも顔向けができる、そんな思いできょうはこの演壇に立たせていただいたわけであります。どうか再検討をお願いいたします。
  27. 小里貞利

    小里国務大臣 先生の御質問のお気持ちもよくわかります。十分注目をしてまいりたいと思っております。
  28. 貴志八郎

    貴志分科員 終わります。
  29. 粟屋敏信

    粟屋主査 これにて貴志八郎君の質疑は終了いたしました。  次に、鈴木久君。
  30. 鈴木久

    鈴木(久)分科員 私は、いわゆる朝鮮人強制連行問題についてお尋ねをしてまいりたいと思います。  昨年の五月に日韓外相会談の中で韓国の外相からいわゆる要請を受けて調査を開始して、八カ月くらいになるのでしょうか、当初は八月の段階で七万人、三月五日、九万人余の名簿を韓国の大使館の方へ提出したようでございます。何かそのときに、これで調査は打ち切りをするんだというような報道もありまして、ちょっと私は残念に思って、不十分な調査のままこれで打ち切っていいんだろうか、特に日韓関係の問題で言えば約束事項であり、これを十分果たしていない、こういうふうに思った次第でございます。  もう一つは、日朝関係も戦後四十五年にしてやっと新たな段階を迎えておりまして、くしくもきょうはまた第二回の政府間交渉が開始をされるというときでもございます。昨年の自社両党と朝鮮労働党の三党共同宣言というものがありました。それを受けての政府間交渉もいよいよ具体化を帯びてきている、こういう背景もございます。  さらにこの中では、戦前の植民地三十五年のいわゆる償いの問題。戦後の問題については日本と朝鮮の間では大分意見の違いがあるようでございますけれども、強制連行問題というのは日朝間でも改めて問題になってくるだろうというふうに思います。  同時に私は、ちょうど昨年の共同宣言を締結した後、機会がありまして民主主義人民共和国を訪れることになりまして、この間お見えになりました金容淳書記とも何度か会談をする機会がありました。その中でも強制連行問題についてはかなり関心を持っているという発言などもございまして、そういう意味から、私は以下具体的にただしていきたい、こんなふうに思うのです。  今回の九万人の名簿というのは、労働省中心になって各省庁協力をして、あるいは都道府県、市町村までいろいろと協力をいただいてこれだけ集約をしたということについては私は多としたいと思います。しかし、あの九万人の名簿を見ますと、政府や自治体が調査をした名簿のほかに、いわゆる民間の方の調査というのがかなり大きな成果を上げている。これも、政府がやった調査よりはもっと幅広い範囲で調査をして皆さんのところへ名簿を用意しているという意味では大変注目す べきことをここに含んでいる、私はこういうふうに思っております。  ところで、私の地元に、私はいわき市なのですけれども、長い間本問題に取り組んで、今回の皆さんの調査にも二百十二名の名簿を提出した大塚一二さんという方がいらっしゃいます。きょうここに資料を持ってきたのも彼が長年集めてきた資料でございまして、先般予算委員会の一般質問で嶋崎さんが取り上げになったのも同様の資料でございます。  こうした民間人の調査と比較いたしますと、どうも政府がやった調査というのは、私ども県に行ってみても自治体へ行ってみても、いわゆる徴用名簿があるかないかという形の調査でございまして、範囲がずっと、役所というのはどうしてもそういうふうに制限をされて、調査依頼をするとその部分しかやらないというのが通常なのでしょうけれども、そういう形になっておりまして、思うような成果を上げなかったのじゃないだろうか、こういうふうに私は思うのです。  改めてここでお伺いしたいのは、これまでの政府調査の経過と実績を皆さんはどんなふうに踏まえられているのか、そういう民間の協力の問題についてどういう認識をお持ちなのか、今後、そういう教訓を得て、改めてどんな考え方を持っていらっしゃるのか、この辺をまず伺いたいと思います。
  31. 若林之矩

    ○若林政府委員 お答え申し上げます。  いわゆる朝鮮人の強制連行の名簿につきましては、今先生御指摘のとおり、昨年五月二十五日の日韓外相会談の際に韓国政府から要請がございまして、日本政府として協力することになったのを受けまして、労働省中心調査を行うことにいたしました。  労働省といたしましては、労働本省、都道府県、公共職業安定所につきまして、関係する部署、倉庫、図書館等できる限り広範に調査をいたしますとともに、全市区町村に対して調査依頼をいたしましたほか、当時の事情に詳しい職業安定行政関係者からもヒアリングをいたしまして、いわゆる朝鮮人徴用者等を受け入れていた可能性のある事業所約八百カ所への照会をいたしました。そのほか情報を把握しました場合の情報の調査ということで、誠意を持ってできる限りの調査をいたしたつもりでございます。  昨年の八月七日には約八万人の名簿を確認いたしまして、そのときに、存在はわかっておりましたが数がまだはっきりしないものがございましたのでその確認をいたしましたのと、新たに発見されましたのと含めまして、新たに約一万名の名簿が確認できましたので、この三月五日に九万八百四名分の名簿を写しをつくりまして韓国政府に提出したわけでございます。  この中で、国が保有するものが六万七千六百五十八でございます。それから地方自治体が保有するものが一万七百九十四人分、民間が保有する名簿が一万二千三百五十二でございまして、やはり民間の方々がいろいろな形でそれぞれの篤志で名簿をおつくりくださっていた、それが私どもの名簿の確認作業に大変役に立ったということでございます。  私どもは決してその名簿の簿冊と申しますか、名簿という格好になっていなければならないというふうに思っておりませんで、それが労働者であるとはっきりわかっておりますれば、例えば殉職者の方の碑とかというようなものがございますと、そういうようなのは間違いなく労働者でございますから、そういうものは整理してお渡しするというようなことをいたしておりますけれども、何分にも個々のそういうものじゃないものにつきましては、一人一人を労働者だったかどうかというのを確認するのはなかなか難しい問題がございます。そこは民間の方がいろいろ御協力をいただいてそういうものにまとめていただくということは、私ども、この名簿の作成、これを確認する段階では大変に力になったというふうに思っております。
  32. 鈴木久

    鈴木(久)分科員 今後はどうなのですか。先ほど冒頭申し上げましたけれども、何か三月五日に名簿を韓国大使館に提出した段階で、これはマスコミに載っているのですけれども、どうも労働省はこれで名簿を打ち切るのだというような話が載っておった。ちょっと私は残念でならない。特に、この関連で申し上げますと、これは二月二十一日の予算委員会の一般質問で、嶋崎さんの質問に対して坂本官房長官は、かなりはっきりと今後も労働省中心にこれは続けてまいりますよということを言っていらっしゃるというのに、こういう報道が出るというのはどうも不可思議だったものですから、そこは改めてしっかりと答弁をしていただきたいと思うのです。
  33. 若林之矩

    ○若林政府委員 私ども予算委員会でお答え申し上げたとおりでございまして、これまでも誠意を持って取り組んでまいりましたけれども、今後とも労働省中心になりまして、各省連携をいたしまして、誠意を持ってこの問題に対応していきたいというふうに考えております。
  34. 鈴木久

    鈴木(久)分科員 そうだとしますと、これから少し具体的に例を挙げまして、考え方をお尋ねしたいと思うのです。  実は、先ほど名前も御紹介した、資料を収集したという大塚さんの皆さんに提出した名簿の二百十二名の中身を少し考えてみますと、後で大臣もごらんになっていただいて結構ですけれども、ここに寄留日記というのがあるのです。これはどこの市町村でもこういう日記とか、あるいは寄留簿とかいうので全部つけてございますね。これは原本でございまして、なぜ原本を持っているかというのは、町村合併のときにあった資料なのですけれども、市町村でそういうのを見ると、何年何月に何のだれべえがどこから来たかというのがみんなわかるのです。ちょうど皆さんがいわゆる強制連行と言われている時期が昭和十四年から、そして終戦までということになるとすれば、その時期に日本に寄留した方々の名簿を調査をするということによって、かなりの人が把握できるように私は思うのです。そういう調査はほとんどやってございません。私の手元に大塚さんが集めただけでも、いわゆる戸籍に関する名簿というのが二十冊ほどございます。そういう名簿を逐一調査をしていって、大塚さんは二百十二名の特定をしたわけでございまして、それを民間の方が提出をしていらっしゃる、こういうのが一つございますね。これは労働省ではない、自治省かもしれませんけれども、そういうことも一つ可能であるということをこれははっきり示していると思います。  もう一つは、昭和二十年にこれはいわゆる政府の総理府統計局が人口調査をしていますね。国勢調査ですね。これなんかの表を見ますと、完全にどこどこ地域にだれだれが住んでいるということも全部把握できる、こういう資料もございます。  それから、ここにお持ちしましたけれども、これは実は警察関係の資料でございます。福島県の文化センターに眠っていた資料をコピーをしたものでございます。県の方は、そこに眠っていることも全然知らないというのが実情でございまして、これを見ますと、福島県内のどこでどういう事業所でどれだけの人が働いていたかということを、ちょうど終戦直後に全部調べているのです。そうすると、どこの事業所にどれだけが働いていたかということについては、こういう関係の資料を見ると全部わかるのですね。これらの今私が申し上げたようなもの、これは実は一切今度の皆さん方の調査のやり方の中には入っていない問題なんですね。皆さんは、名簿を調査しなさいということだけだったものですから、そういう点については一切どこの自治体も、県も調査をしておらないということでございました。私は改めてこういう警察関係の資料を含めて、これは必ずしも役所だけじゃなくて民間の協力を、こういう問題をやれば名簿が明らかになりますよという、民間の協力をやるためにもこういうことをぜひやってみる必要があるのじゃないだろうか。  また、私は常磐炭田の地元ですから、常磐炭田の資料は全部福島大学に行ってしまっている。これはいわゆる研究のためにということになってお りましてなかなか公表してくれません。しかし、この調査事業を国が責任を持ってちゃんとするということであれば、そういう大学だって協力をしていただけるのじゃないだろうか、こういうふうに私は思うのですけれども、新たにこういう問題について皆さん方が新たな角度から名簿を調査するという意味で、今私が申し上げましたような内容で再検討する必要がないかどうか、お伺いをしたいと思います。
  35. 若林之矩

    ○若林政府委員 先生から福島関係のいろいろな名簿の次第について御指摘をいただきましたが、ただいま拝見をいたしました寄留届でございますが、もとより精査をしなければならないことでございますけれども、こういった関係の資料、例えば御婦人が入っているのもございます。場合によりますと子供さんの入っているものもございます。男性も果たしてそれが労働者であったかどうか、この確認は実はなかなか容易ではございません。何分にも古いことでございまして、そういうものを国がいわば責任を持ってこれは労働者である、ないと分別していくというのはなかなか難しい問題がございます。私どもは、先ほど申しましたように名簿という薄冊にはとらわれておりません。明らかに労働者であるということがわかれば、簿冊でございませんでもそれを集めて整理をして提出するというふうに努力をしてまいっておりますが、寄留者名簿ということ一つ取り上げますとそういったような問題がございます。  それから、福島大学につきましては、ただいま先生御指摘のように、常磐炭田の資料を私ども拝見させていただきたいとお願いを申し上げましたが、まず一つは外に出せない、外に見せられないということと、それから名簿等はないというお話でございました。私ども、とにかくお願いをしておりますが、そういったことでございます。  いずれにいたしましても、私ども、これは名簿ではないかという可能性のあるものにつきましては、できる限り今後ともその確認を進めてまいりたいというふうに思っております。
  36. 鈴木久

    鈴木(久)分科員 福島大学、名簿がないというのをおっしゃいましたけれども、実は私ここにお持ちした、これはまだ対外に発表していない名簿なんですけれども、これは後で労働省の方に提出をいたしますが、これは常磐炭田の殉職者の名簿です。三百十名ございます。これはいろいろな、今の福島大学、それからお寺さんに行って過去帳を調べたりして全部収録した名簿でございます。ここの中には、調べた方々の話ですと、福島大学の中にもこういう名簿が入っているというふうにはっきり言っておりまして、これは殉職者名簿ですから間違いなく徴用者ですね。ですから、後でこれは写しか何かとっていただいて結構でございますけれども、これは過去帳を調べただけでこれだけ出てきているわけですね。これもこれから自治体なんかで十分にできる作業なんじゃないか。あるいは、企業責任を持ってやる気だったら、自分たちが働いた企業の埋葬されたところとか、そういうところ、わかるですよ。それは実際はほとんど協力をしてないということが今度の名簿提出が不十分になっている中身だと思うのです。もう少しその辺は関係団体にきちっとした指導をしていただきたいというふうに私は強く要望しておきたいと思います。時間がありませんから、その問題はそういうことで要望を強くしておきます。  厚生省の方、お見えですね。浮島丸の問題について、ちょっとこれと関連してお伺いをしたいのですけれども、この浮島丸問題というのは昭和二十年八月二十二日に京都の舞鶴港で爆発、沈没をした事故でございました。これは青森県の大湊から何千人かの朝鮮人を終戦後祖国に帰すという名目で集めて乗せて、航海も不可解なんですけれども、朝鮮に行かないで舞鶴へ入って爆発して沈没をしてしまったという事故です。この間GHQの資料が明らかになりまして、どうもいろいろな意味で不可解だということなども言われております。特に乗っていた人数、犠牲者、その行動内容というのが大変不可解なんですけれども、いずれにしても沈没をして、その後遺体の収集もやりまして、現在五百二十四名の死亡者の名簿というのを厚生省はお持ちになっておりますね。これをどうして今度の調査の名簿として提出にならなかったのかということを私ちょっと疑問に思ったものですから、これは大体、いろいろ聞くと軍属も入っておりますけれども、いわゆる強制労働者もそこの中にはかなり入っているというふうに見て差し支えないと思うのです。そのことについてまず厚生省の考え方、あるいは労働省が考え方を持っていらっしゃったらお聞かせいただきたい。
  37. 浜松恒雄

    ○浜松説明員 厚生省におきましては、昭和三十一年五月でございますが、外務省を通じまして、韓国側に対しまして朝鮮半島出身の軍人軍属に係る遺骨の保管名簿を送付したところでございます。韓国側に引き渡しましたその名簿の中に、先生ただいまおっしゃいました浮島丸犠牲者も含まれているというところでございます。
  38. 若林之矩

    ○若林政府委員 今回韓国政府から要請を受けて私ども名簿の確認をいたしておりますが、基本的には国内に埋もれている名簿と申しますか、そういったものの調査確認というふうに私どもは理解をしてまいりまして、実はこの浮島丸事件の死亡者の方の名簿というのは既に市販されている図書に全部出ているものでございますので、私どもさっき申しました趣旨から、今回の調査対象からその数を除外しているわけでございまして、それ以上の意味はございません。
  39. 鈴木久

    鈴木(久)分科員 殉職者や死亡者の名簿というのは、今のようにはっきりしているものも、あるいはこれから明らかになるものも含めて、どんどん出てくるんじゃないかと思うのですね。  それで最近韓国の方では太平洋戦争犠牲者遺族会というのが民間団体でつくられまして、いわゆる強制連行の実態調査を含めて民間レベルで謝罪、損害賠償支払い要求というのを東京地裁に起こしました。国と国との間では、日韓関係ではいわゆるこの問題にけじめはついている、日朝はこれからだということを考えてまいりますと、これは厚生省なのか労働省なのか外務省なのかわからないのですけれども、特に強制連行者の名簿の作成ということを一層やると同時に、その中で特に死亡者、殉職者、それがどこに埋葬されているのか、遺骨の問題等についてもこれからかなり具体的にそういう民間団体を含めて要求が来るものと私は思っております。これにやはり政府はこたえるべきだと私は思うのですよ。これにこたえられなければ、本当の意味でのこの問題についての決着というのは、名簿を提出すれば終わり、こういうものじゃない。  今ゴルバチョフ大統領が来日される、それを機にシベリア抑留の問題についても長年名簿の問題が議論になってまいりましたけれども、自主的に民間レベルでまず名簿の提出がございましたね。政府にも、今度はゴルバチョフ大統領が来るときにその写しを持ってくる、こういう話になっておりますけれども、これは日本側から見た、いわゆるそういう抑留者に対する名簿の要求とか墓参とか、そういうものが今強く国内的に大きな盛り上がりを示しておる。  戦後四十五年たっても、当時の植民地支配をし、そして、そこで強制連行されて亡くなった方々、自分の先祖様がどこに埋まっておるのかわからぬというふうな状態が、これは現実にあるわけですから、そういうものに対してはしっかりと政府はそれにこたえられるような準備態勢というのを整えておくべきなんじゃないだろうか、ほとんどそういうところをこれまでやってこなかったのじゃないか。この名簿だって、実はこれは在日朝鮮人の皆さん方が特に一生懸命になって自分たちの仲間や何かを調査をしてやっとお墓が見つかったということですよ。そういうものに対して、自治体の協力を、私ども市議会や県議会の仲間の皆さんに言っていろいろ要求しても、木で鼻をくくったような話しか今までやってこなかったのですよ。これからは私はそういう問題について政府がやはりしっかりとした指導をしていくべきなんじゃないだろうか、こんなふうに思うのですけれども、具体的なところは担当者の方で結構でございま す。後から大臣にも、今後特に日朝関係が来るだけにこの種問題についての考え方をお聞かせいただきたい、このように思います。
  40. 若林之矩

    ○若林政府委員 先ほど来の、経緯を申し上げましたとおり韓国政府からの要請がございまして、それに協力するということで私ども名簿の確認作業、これは労働省中心になりまして政府として取り組んでいるわけでございます。  その名簿の確認ということにつきましては、これは誠意を持って私ども取り組んでまいりましたし、また、今後とも進めてまいるという考えでございますけれども、ただいま先生の御指摘の点になりますと、率直に申し上げまして私どもが御答弁を申し上げる範囲を超えているのではないかというふうに思いまして、その点御理解を賜りたいと思います。
  41. 小里貞利

    小里国務大臣 先生今御発言ございましたように、昨年の五月二十五日の日韓外相会談で要請を受けまして始まった問題、そして我が日本政府としては誠心誠意ひとつ名簿についての調査をいたしましょう、私ども労働省中心になりまして関係省庁、地方自治団体等の協力を得まして集約をいたしました。その第一次の答えというものが御承知のとおり八月七日、まあ言うなれば名簿、あるいは目録とも私どもは判断いたしておるのでございますが、それをお渡しいたした、八万前後。さらにまた、その後それが一つの導火線になった、導火線というとおかしゅうございますが、一つの関係に対しまする意識啓発になりまして、そして一万人前後出てまいりまして、過ぐる三月五日に九万余りの名簿をお渡しをいたした。しかも、これは名簿の写しでございまして、かなり具体化した姿でお答え申し上げた。さらにまた、先ほど局長が答弁いたしましたように新しい名簿が出てまいりましたなれば、あるいはまたそういう関係があるとすれば、誠心誠意これが実態把握に努めまして協力を申し上げます、こう来ておるわけでございますが、それ以上先生がいろいろ今後の新たな対応、あるいは政策課題と申し上げますか、対応措置についての一つの参考を示しながらお話がございましたが、今局長が答弁いたしましたように、そこまでさらに率直に申し上げまして具体的な外交関係で踏み込んでいくということになりますと、今までの調査ベースにおける労働省の私どもの立場で果たせるかなどこまで行い得るのか、もっと率直に申し上げまして、その責任分野というのは政府としての全体的な対応等も新しく求められるのかな、そういう感じもいたしますので、名簿の調査を誠意を持っていたしますと今局長言っておりますが、この一応の原則を基本にいたしまして誠意を持って対応させていただきたい、こういうふうに答えさせていただく次第でございます。
  42. 鈴木久

    鈴木(久)分科員 これは、今言ったように労働省よりもむしろ、死亡者や遺骨の収集やそういう問題まで来れば、労働省なのかあるいは外務省なのかあるいは厚生省なのか私はわかりませんけれども、そこのところはどうですか、厚生省もきょうお見えですけれども、これからいずれ先ほど言ったように民間のレベルでそういう問題が出たときに、政府がきちっと対応しなければこれはならないことであろうというふうに思うのです。大塚さんなどはまた十日の日に今度は韓国へ行って、釜山の支庁で韓国側の徴用者名簿がいっぱい出ているというのがわかって、向こうへ調査をしに行っておりますけれども、むしろ日本の名簿よりも向こうにあるものが多かったなどと言われたのでは、どうもこれは日本としては体裁だって繕えないでしょう。ですから、今後名簿の調査も十分していただくと同時に、今のような新たな問題についても私は政府は誠意を持って当たるべきであるというふうに思いますけれども、厚生省で何かあったらお答えいただいて、私の質問を終わりたいと思います。
  43. 田島邦宏

    ○田島説明員 厚生省といたしましては、御案内のとおり、旧陸海軍の軍人軍属に係る名簿の保管及びこれらの方々の遺骨収集事業というものは所管しておるわけでございますが、先生御指摘の、いわゆる朝鮮人の徴用者の方々についての死没者の名簿といったようなものは持ち合わせておりません。また、これらのものの遺骨収集事業は現在所管しておらないところでございます。
  44. 鈴木久

    鈴木(久)分科員 いずれ後でその問題は改めて新たな問題として取り上げてまいりたいと思います。どうもありがとうございました。
  45. 粟屋敏信

    粟屋主査 これにて鈴木久君の質疑は終了いたしました。  次に、小森龍邦君。
  46. 小森龍邦

    小森分科員 労働省厚生省の方にお尋ねをいたします。  まず、かねてからお骨折りをいただいておりますが、労働省の方にお尋ねをします。  それは、何といいましても被差別部落の解放ということは、我が国の民主主義にとって非常に大きな問題でございまして、わけてもこの問題の解決には、就職の機会均等の保障ということが非常に重要な課題であると私は考えます。この点につきましては、同和対策審議会の答申が既に重要なことを分析しておるように思いますが、かいつまんで、政府は今日同対審答申の就職の機会均等をめぐる分析なり理念をどう考えておられるか、簡単にお答えいただきたいと思います。
  47. 若林之矩

    ○若林政府委員 同対審答申におきまして、同和関係地域就職差別問題が依然として残っているわけでございまして、これらの地域におきます不安定就労の問題、日雇い、臨時の職業についている方が多い、あるいは零細事業に従事している方が多い、あるいは依然として就職差別が行われておるという現状でございまして、職業の安定という問題が極めて重要な課題であるということがうたわれているわけでございまして、私どもは、その同対審答申の基本認識に基づきましてこれまで行政を続けてまいっているわけでございます。
  48. 小森龍邦

    小森分科員 同和対策審議会の答申には、明治以後我が国が近代化の方向をたどったにもかかわらず、依然として近代的な生産過程に部落の労働力が導入され得なかった、ここが差別が残るもとだ、こういうふうに分析しておると思いますが、その点につきましては労働省ではどうお考えでしょうか。
  49. 若林之矩

    ○若林政府委員 ただいま先生が御指摘のとおりの同対審答申でございまして、私どもも基本的にその認識でおるわけでございます。
  50. 小森龍邦

    小森分科員 いろいろ努力をなさっておられる方々に対しましては私も非常に敬意を表しておりまして、特に、全国の職業安定所の現場の所長さんを初めとして、関係の職員の皆さん方が大変お骨折りをいただいておることに心から感謝をいたしております。しかしながら、それで実績がうまく上がっておるかというと、必ずしもそうはいかないわけでありまして、それは、出先がいかに努力をしても、国の政策の基本がそれに対応する政策というものを打ち出せなければならない、私はそう思っておるわけであります。  今のところ部落の労働者の収入、あるいは労働者とは言われなくて自営関係の仕事をしておられる方々の収入、これは全国平均の大体六割か六割少々ぐらいの水準にとどまっておると私は思うのですけれども、労働省はどういう見解をお持ちでしょうか。
  51. 吉免光顯

    吉免説明員 同和関係地区住民の就業実態につきましては、先生も今御指摘ございましたように、確かに日雇い労働でありますとか非常に不安定な職業についていらっしゃる方が多数ございまして、賃金水準等についても、全国に比べてなかなか厳しいものがあるというふうに考えております。
  52. 小森龍邦

    小森分科員 数字もなるべく的確にひとつつかんでいただくように、これからもそういう数字的なものにも目を向けていただくようにお願いをしておきたいと思います。  そこで申し上げたいと思うのでありますが、そういう収入が低い、不安定労働ということになりますと、この問題の解決のためにはかなり個人的な、それぞれの人に対する個別的対応というものが大事になってくると思います。今までも随分労 働省は骨を折っていただきまして、その個別的対応、例えば失業保険は少し延長さすとか、あるいは就職をしたときその事業に円滑になじむように奨励金みたいなものを出すとか、さまざまなことをやってこられたわけであります。だんだんそれが下り坂に、いわゆる政府の同和対策の関係で、切るように切るようにという方向に移っていっておるというように思うのでありますが、そういうものが下り坂になりますと、またまたこの状況は、今でさえ解決していないのに、ますます解決がつかない方向になると思うわけであります。その点についてはいかがですか。
  53. 若林之矩

    ○若林政府委員 先生御指摘のとおり、いろいろな援助制度におきまして、こういう同和関係住民の方々の就職の円滑化を図るための措置を講じてまいっておるわけでございます。そして、そういったような措置を講じ、私ども一生懸命努力をさせていただいてまいりまして、随分と改善はなされてきているというふうに思っております。私どもは、そういったような状況をにらみながら、今後ともこういった地域の方々が円滑に就職をし、安定した職業を得ることができるように総合的に考えてまいりたいというふうに思っております。
  54. 小森龍邦

    小森分科員 個々の細かい問題を、私はきょうはここにデータを持ってきておりませんが、要するところ私の問いたいことは、今まで同和対策事業特別措置法なり地域改善対策特別措置法なり、根本的な解決にはならぬけれども、対症療法的には労働省は努力をされておる、その気持ちもよくわかるわけであります。  ところが、八六年、非常に反動的な地対協の方針が出まして、これは各地で反撃を食って、地方自治体との関係においては非常にぎすぎすした関係で、お互いがにらみっこするような関係になっておりますが、地対協の方針というものは、どちらかというと個別対応はこれからもうやめよう。これは、来年の法が切れる後のことについて今議論をしておるわけでありまして、また、大衆運動もこれから盛り上がるわけであります。  この間は、同和問題の現状を考える連絡会議というのができまして、これは代理の方を含めて、与野党含めて衆参両院議員七十一名が来賓で集まっていただきましたが、新たなる物の考え方がまた出かけておるのであります。労働省は要するに、そういうわずかに個別的対応で、気持ちの上ではなかなかよくやってもらっているなということが、私らの胸に響くようなことがあったのですが、そういう個別的な対応もずるずる引こじられて、それに同調しておるような気配を私は感ずるのですが、それはどうでしょうか。
  55. 若林之矩

    ○若林政府委員 私ども職業安定のための仕事をさせていただいておりまして、いろいろな意味で就職が困難な方のお世話をしているわけでございます。そして、そういったような方々については、それぞれに応じて措置を講じてまいっております。同和関係住民の方々の就職の問題も同様でございます。それぞれの就職の困難度に応じて対策を立てていくというのが基本でございますし、今後ともそういった考えでこの問題に対応していくべきであるというふうに思っております。
  56. 小森龍邦

    小森分科員 前向きな答弁をいただきまして心強く思いますけれども、事実の問題として、労働省は私に対する答弁でそういうことを言ってもらっただけでは、もう役に立たないわけであります。ただ、そういう答弁が一つでもあれば、少しは雰囲気が前へ進むということはありますけれども。  つい先般、総務庁が、これは主管でありますが、同和対策のことに関して次のような文書が出ております。これも実にみみっちいことを総務庁の地対室あたりがやっておるわけであります。みみっちいというのは、私はいつもこそ泥的なことをするなと言っているのですが、こういう文書をばっと流して、どの程度みんなが知って反発するかというのを味を聞いてみて、それから、まあまあ何とかなりそうだと、さあっと正式の文書で出すという汚いやり方をしているのですが、その中にこういうのがあります。これは趣旨として理解してくださいよ。こういうものがまかり通ったら、労働省の個別の問題もだんだんそういうことになるわけでありますから。  「地方公共団体の中には、「一般対策の国庫補助事業に上乗せ・拡充して実施」するなどの関係施策を行っているところがあるが、このような施策実施するに当たっては、著しく優遇した内容のものとすることのないように、一般対策との均衡について十分配慮されたい。」つまり、これはうまいことを言うておるけれども、個別対応について今労働省の方からお答えになりました。それぞれの状況に応じて対応しなければいかぬのだ、つまり、うんと落ち込んでいるところは分厚く対応しなければいかぬのだ。この精神を覆すようなことが総務庁から出ておるのです。  それが、残念ながらこれにつきましては、見ると労働省職業安定局長も判を押しておるのです。これがいかぬのです。こういうことがばっと押し流されていくわけですから、したがって、こういうことには注意をしてもらわなければいかぬ。論理的矛盾ですよ。矛盾ですけれども、私はここで徹底的にそのことを今詰めようと思うのじゃない。わかるのですよ。わかるというのは、上手に抜け駆け的にずんずん関係省庁を引っ張っていって、ついには日本に部落差別を的確に残していこう、こういう政府の担当省庁の悪い意図があるのです。  これは、先ほど申しました近代産業に労働力が吸収できなかったということが差別の原因であるということを、逆の意味でよく知っているのです。差別があることによって物事がすべて差別的な段階で都合よく動く、こういう汚い考え方を持っているのですね。だから、私はこういうことに無批判に引っ張られてはいかぬと思うのです。  現にあなたの机の上に置いてある竹村参事官中心になっておつくりになった、この文章と同じ時期に出た地域改善対策室から出ておる文章の重点の置きどころは、あなた方の省から出たのか個人的に努力されたのかわかりませんけれども、いろいろな資料も含め、その資料の入れ方の重点というのは、部落問題を解決しようという真心があるのです。ところが、時折同調してずるずるっと引っ張っていかれるような中身があるということは、私はまことに遺憾に思うのです。  したがって、この場で地対協をくさしてもらいたいとは思いませんけれども、その中に盛られた資料を企業に徹底させたいと思ってあなた方はやられたのでありますから、そういう点につきましても今後細心の注意を払って努力をしていただけますか。お答えいただきたいと思います。
  57. 若林之矩

    ○若林政府委員 私ども、同和関係の住民の皆様方の職業の安定というものは、極めて重要な課題であるというふうに考えておりますし、まことに遺憾ながら依然として就職差別があるという状況でございますので、その解消のために今後とも全力を挙げていくという基本的な姿勢は、常に変わっておりません。
  58. 小森龍邦

    小森分科員 もう少し聞き足りないのですけれども、気兼ねをされるということもわかるし、各省庁のつき合いで判を押されることもわかるし、我々が個別に聞いたらこれとは違うようなことも、労働省のみならず官僚の皆さんが言われることもあるのですが、そういう抽象的に今後も努力するということばかりではなくて、労働省が今まで大事だと思うたことは最大限努力してやっていく、こういうお答えをひとついただきたいと思いますがね。
  59. 若林之矩

    ○若林政府委員 繰り返して恐縮でございますけれども、私ども、これまで就職差別の解消に向けていろいろな努力を重ねてきたつもりでございます。依然として年間八百件に及ぶそういったような事象、あるいはそれにつながる事象があるということは遺憾なことでございまして、今後ともこの解消に向けて全力を挙げていきたいというふうに思っております。
  60. 小森龍邦

    小森分科員 差別の現実を知る者は、それは労働省の方も随分御理解を賜っておると思いますけれども、それで苦しむ者は筆舌に尽くしがたい苦 しみを感じておるし、同時にまた、労働の問題というのは収入の問題に直結して、また子供の教育に直結する。よい教育を受けられなかったということになれば、また次の就職戦線のときに、同じような状況を世代を繰り返しながら続けていくということなんでありますから、私どもももちろん民間的な努力を一生懸命して、政府の考え方もさらに前向きにするように努力したいと思いますし、まだまだ、労働省は今までのことを守るということは、ほんの対症療法的なことでありまして、いかにしてその労働力をばさっと近代的な生産過程に導入するか。それがなかったら本当の部落の解放はないわけでありますし、また、それにまつわるもろもろのそういうものが存在することによって、ほかの差別を肯定する雰囲気というものがずっとつながっておるわけでありますから、したがって、そこを十分にお考えをいただくように強調させていただいておきます。  さて、きょうは労働大臣がおいででございますが、よく時間配分を考えて、最後に労働大臣からもお願いしますけれども、厚生省の方にちょっと先に入らせてもらいます。  余り多くのことを申し上げておきますとわからなくなりますので、厚生省の方に申し上げたいのは、部落差別と俗に言われておる寿命ですね。寿命が長くなったとか短いとかいうあの寿命ですね。部落差別と寿命あるいは健康あるいは障害というようなものとの因果関係について厚生省はどういうふうなお考えを持っておられるでしょうか。
  61. 浅野史郎

    ○浅野説明員 お答えいたします。  まず最初に、今先生御指摘になった何点かについての実態でございますが、最近の調査では、総務庁が行いました昭和六十年度の生活実態把握というのがございます。その中で、例えば同和地区の六十五歳以上の方々の健康の状況、病弱それから床につききりという方を合わせまして四〇・七%という結果が出ております。一方、ちょっと時点は違いますが、昭和五十九年の全国の老人実態調査、これでは同じ方々が三六・九%ということになっておりまして、同和地区の老人の方の方が病弱、床につききりという方々の割合が高いという数値が出ております。  それから、先生お話しになった寿命でございますけれども、寿命については直接的に比較できる資料はございませんが、ちょっと私どもで試算をいたしまして、国勢調査、それから総務庁の調査でいわゆる超高齢者の比率というのを出してみました。これは六十五歳以上人口の中に占める八十歳以上人口の方の割合ということでございますが、総務庁調査、これは同和地区の方々の数字でございますが、一三・六%という数値がございます。それで六十年の国勢調査、全国の調査でございますが、これは一七・五%ということでございまして、六十五歳以上人口の方々の中に占める八十歳以上のいわゆる超高齢者という方々の比率では、同和地区の方々の方が低い、こんなことで、直接ではございませんけれども、寿命も短いということは推察できるのではないかと思っております。
  62. 小森龍邦

    小森分科員 これは私の町、広島県府中市のつい隣町の芦品郡新市町という町のデータであります。少し古いですけれども、傾向がわかりますので、この際にちょっと披露させておいていただきます。  一九六八年から一九七七年の間にこの町の同和地区で死亡なさった方が四十五名、そのうち男が二十三名、女が二十二名で、死亡なさった死亡時の年齢のトータルを出してみると千四百九歳。それを二十三名で割ってみますと、男が六十一・三歳。これはこのときの寿命などを調べてみれば、どのくらいの低位にあるか、しかもそれよりも前にこの同年齢の人で死んだ人はたくさんおりますから、まだまだ低いと思うのですね。これは平均年齢でいったら五十歳ぐらいになるか、あるいは四十歳台かもわかりませんね。女が千三百十七歳で二十二名ですから、五十九・九歳。  これはどうして女の方の寿命が短いかというと、所によっては男の仕事が特になくて、女の仕事で一家の生計を支えるというのがずっと続いておったのです。これは、私は自分の地域のことですからわかりますよ。男は仕事がないのであります。ぶらぶらするのであります。つまり、女は低賃金で働くのが何とかある。こういうことで女が過労のために男より少し寿命が短くなっておるのだと思いますけれども、これとても差別の具体的な一つの現象形態ですね。  そのときの同和地区外、つまり一般町の方は、平均が六十七・一歳で亡くなっておられるのであります。千四百五十八名が亡くなっておられますけれども、その年齢のトータルは九万七千八百二十五歳、それを割ってみると六十七・一歳。だから結局、先ほど厚生省の方からデータが、お話しになりました傾向と似ておる。だからこれはもう全国的傾向と見なきゃなりません。  そこで、先ほどの労働省との関係でも申しましたけれども、こんなことは個別に対応しなかったらどうやるのでしょうか。つまり、健康管理のために、もう少し長生きしてもらいたい、これまでの社会的な不始末でこうなっておるのだから、国はあなた方にもっと栄養でもとってもらいたい、健康管理でももっと特別にしてもらいたい、これは本当の人間のとるべき措置だと私は思うのであります。しかしながら、先ほど申しましたように「一般対策との均衡について十分配慮されたい。」、早う死ぬなら死んでもいいから一般対策と同じようにせい、これでは事にならぬと思うのです。そういう意味で、どうですか、厚生省の考え方は。
  63. 浅野史郎

    ○浅野説明員 平均寿命に今御指摘あったようなデータからも見られますように差がございますが、その原因を確と分析したものは私ちょっと目にしておりませんが、今先生お話しになったようないろいろなこれまでの社会的、経済的な状況というものが大きな影響を持っただろうということは推察できます。それに対しまして個別にどう対応するか、これまた厚生省施策の中で打ち立てるということはかなり難しかろうとは思いますけれども、そういったような特性というものも考えながらきめの細かい対策を立てる。これは同和対策のみならず、老人福祉計画というものはこれからできていくわけでございますけれども、各地域の状況というものを十分に考えた計画でなければならないという意味では、御指摘のことはよく理解できるわけでございます。     〔主査退席、古賀(誠)主査代理着席〕
  64. 小森龍邦

    小森分科員 この芦品郡新市町はどういうことをやっておるかというと、これは老人の姿がそうであるから、もう少しさかのぼるというか現実へ、若い者のところへもぐっとそれを引き取って、若いときから健康ということについての感覚を十分にお互いが持たねばならぬということで、町独自の体育指導制度というものを設けて体育を活発にし、健康管理の知識というものあるいは実践する能力というものを養おう。それからもう一つは、私も建物の中にまで入って見ておりませんけれども、健康センターというのをつくりまして、もちろん被差別部落のそういう寿命の短いことに端を発して、町民全体に及ぶことではありますけれども、しかし、そこにヒントを得てそういうふうな町独自の行政というものを進めておるわけであります。  ところが、これは厚生省も判を押していますけれども、「一般対策との均衡について十分配慮されたい。」、これではさまにならぬのであります。まるで流行のごとく八六年の段階でうわっとそういうことを打ち出しましたけれども、それは事実に合わない政策なんですね。今地対協をまた新たに構成されまして、これからいろいろ議論が行われることと思いますが、厚生省は十分にその点を配慮して、この問題解決のために、いわゆる社会的な制度とか仕組みとかそういうものでやるべきものと、それから、四百年来の歴史の集積みたいな形で、個々人がそういう被害を受けて今人生を生きておるわけでありますから、それに対して個別対応をどうすべきかということは真剣にお考えをいただきたいと思うわけであります。  時間が参りまして、先ほどはちょっとやり損ねてきたのですが、大臣の意見を聞かれなかったのですが、ここでまだ四分ぐらいあるようでございますので、大臣、閣僚の一員として、そこらについてのお気持ちをひとつお聞かせいただきたい、かように思います。
  65. 小里貞利

    小里国務大臣 労働省といたしましては、先ほども関係局長からお答え申し上げましたように、また先生の御指摘の中にもございましたが、同和関係住民のいわゆる就職の機会均等の確保を図ることが大前提だと思っております。そのためには、就職促進を行い、そしてまた職業の安定を図ることが同和地区対策のいわゆる中心的な重要政策の一つではなかろうかとも思っておるところでございます。御指摘の同対審答申の趣旨も大事に大事に踏まえながら、そして就職差別あるいは不安定な就業の解消に積極的に努めていかなければならぬ、かように考えておるところでございます。
  66. 小森龍邦

    小森分科員 大臣の前向きなお気持ちを披瀝をしていただきまして、ひとつ引き続きまして、我々のような民間の立場から見ましても、この間労働省はかなり政府の先頭を切っていろんなことをやってきていただいた、そういう実績を私は評価をさしてもらっておりますので、どうぞひとつどこまでもその評価と期待が持ち続けられるように御尽力をいただきたいと思います。  そこで、あと二分半ほどございますので、ついでのことながら申し上げておきたいと思いますが、この同和問題の解決というのは、何かこういうことを言っておると個別の狭い分野の、人口比重からいうと昔から六千部落三百万と言われておったが、なかなか差別が厳しいから、部落問題をひっ提げて前で闘うというのはごく限られておりまして、まあ全体とすれば百数十万人ぐらいの者がそういうことを前に掲げて努力をしておるというふうに私は思うわけであります。  しかし、これは非常に狭い問題のようですけれども、そこで培われる人間尊重の精神というものはすべてに行き渡るわけで、ここだけがぐんと水準が高くて、その思想がみんなに及ばないというようなものではないし、また、そこで培われた行政施策というものは、一つの基準というか目標到達点として、ほかの行政も次第に行政水準を高めていくべき筋のものだ、こういうふうに思いますので、これを要するに特別視することなく、しかし、特別視することなくということは、格別な行政施策があって初めて特別視しないで済む、こういう状況が生まれてくるのでありますので、そこをひとつ十分にお考えいただきたいと思います。  えてして多数者の権利というのは黙っておっても守れる。少数者の権利というのは格別配慮格別の掘り下げがなかったら守れない、こういう関係にありますので、その辺ひとつ御理解をいただきまして、なお一層前進した行政施策労働省及び厚生省においてとられますことを期待をさせていただきまして、私の質問を終わります。  ありがとうございました。
  67. 古賀誠

    古賀(誠)主査代理 これにて小森龍邦君の質疑は終了いたしました。  次に、常松裕志君。
  68. 常松裕志

    常松分科員 まず労働大臣にお尋ねをいたします。  大臣は、国鉄改革に当たり、当時の中曽根内閣総理大臣を初め労働大臣あるいは運輸大臣が、一つは、国鉄改革により当時の国鉄職員の一人も路頭に迷わすことはしない、二つ目に、国鉄労働組合あるいは鉄道労連など幾つかの労働組合が当時の国鉄の中には存在をしたわけでありますが、その所属する労働組合によって差別があってはならない、これは一九八六年十一月二十五日の当時の平井労働大臣の御答弁でもございますが、このような答弁がされているということについては、労働大臣、御存じでございましょうか。
  69. 小里貞利

    小里国務大臣 実は、ただいまの常松先生の御指摘になりました議会審議の経過、大変率直に申し上げまして懐かしく、そしてまた責任新たにそういう気持ちでお聞かせいただいたところでございます。国鉄改革に関連する諸法案審議の特別委員会で、私も当時自民党の代表質問などを中曽根総理大臣、当時の橋本運輸大臣等に展開いたしました。その中で最も注目をしながら質問をいたしました項目の中の一つである、こういうことでございます。
  70. 常松裕志

    常松分科員 そういう大臣でございますから、当時中曽根首相あるいは労働大臣が一人も路頭に迷わせない、労働組合による差別はしないということについてお約束をされたというふうに私は理解しておりますけれども、大臣の御認識を改めてお伺いいたします。
  71. 小里貞利

    小里国務大臣 原則としておっしゃるとおりでございます。
  72. 常松裕志

    常松分科員 もう一つだけ大臣にお尋ねをいたしますが、昨年の三月三十一日現在で国鉄清算事業団で就職未内定の方々が千五百八十二人いらっしゃいましたが、そのうちの千四十七人の方々が四月一日付で清算事業団を解雇をされたということは御存じだと思います。その千四十七名の方々が今何をしていらっしゃるかにつきまして、大臣、御存じでございましょうか。
  73. 清水傳雄

    ○清水(傳)政府委員 千四十七名の方々が解雇されました。労働省関係で把握をしておりますその後の経過について申し上げますと、その方々のうち千三十一名の方々が求職の申し込みをされており、その後それぞれ雇用保険の受給、こういうふうな段階に移られました。安定所で把握をいたしております限りにおきましては、そのほとんどの方々は受給を終了されておられる。一月末の現在におきまして、安定所の方に有効求職者として求職のお申し込みの登録をされておられるのが、現時点においては五十一名、こういうふうな状況になっております。
  74. 常松裕志

    常松分科員 千四十七名の方々の大部分が現在闘争団というのを組織をいたしまして、そして政府に対しあるいはJR各社に対して、その千四十七名の方々を旧国鉄、現在のJR北海道あるいはJR九州その他に採用するように、このように追って闘いを継続し、闘争を継続をしているということについては御存じでございましょうか。
  75. 小里貞利

    小里国務大臣 承知いたしております。
  76. 常松裕志

    常松分科員 その闘争団の方々から寄せられた手紙がございますので、一、二その皆さんの気持ちをこの機会にぜひ大臣に聞いていただきたいと思います。  手元にありますのは御家族の方からの手紙でございますが、「夫が二度目の首切りを強行され、早いものでもう十カ月がすぎようとしています。ヨチヨチ歩きだった子供も二才になり、四月からは保育所に入ります。」中略いたしますが、「十二月には通帳残高が五万弱となり、どうしたものかと暗い気分になりました。我が家は、私が定職についているので、生活費は借りていません。」  この「生活費は借りていません。」という意味は、闘争団の方々は、皆さんで生活費をプールしていらっしゃるようであります。就職するわけにいきませんから、アルバイトをしています。それぞれの方々がアルバイトしてきたアルバイト料を全部プールして、そして闘争団の方々が生活費を賄う、こういうことなのですが、このお手紙を下さった方は、奥さんが定職についているので、生活費はその闘争団からもらわないで、つまり、御主人には闘争団から一円の支給もされないで、奥さんの賃金だけで生活をしているという趣旨です。  「とはいっても手取り十三万円で親子三人の生活は出来ません。」「夫はC型肝炎で毎年入・退院を繰り返し、出稼ぎは勿論、責任ある任務も持てません。今まで頑張ってこれたのは、国労組合員であり、周りの仲間に支えられてきたからです。」こういうふうなことをつづられた後で、一番最後に「現在の私達の状態は、決して当たり前ではないし、厳しく、辛く苦しい生活です。けれども、少しくらい長くかかってもきっちりと解決を図ってほしい、働き易い職場をとり戻してほしいと願っています。」こんなふうにお手紙を寄せてくれました。つまり、私は、大臣も御認識くださっておりますように、この問題は、現在まだ問題として解決されていないどころか、国鉄改革の問題 として現在になお残された課題である、このように認識をしているわけでございます。  さて、そこでお尋ねをいたしますが、この背景でございますけれども、JRの関係で全国の地方労働委員会に提訴が行われております。この提訴の件数あるいはそれに伴う地労委等からの命令の件数等について、局長、いかがでしょうか。
  77. 清水傳雄

    ○清水(傳)政府委員 地方労働委員会に係属をいたしましたJR関係の不当労働行為事件の累計は、四十一地労委二百七十四件、うち三十件については取り下げが行われております。そして、そのうち百件につき地労委から救済命令が出されておるわけでございまして、そのうち九十五件が中労委へ再審査請求がなされた。また、行政訴訟の方に出されたものが五件、こういうふうな形になっております。現時点におきまして九十九件二十地労委、これが地労委で係属中、こんなふうな状況にあります。
  78. 常松裕志

    常松分科員 その百本のうちすべてが組合側の勝利命令が出されているということ、及び中央労働委員会からも再審査申し立てがされたほとんどの事件について、JRに採用せよという地方労働委員会の命令を履行するようにというような初審命令履行勧告が出されているにもかかわらず、JRはこれを全く無視しているわけでありますが、このように労働委員会の命令や中央労働委員会の勧告が守られなくてもいいというふうに大臣お考えでございましょうか。
  79. 小里貞利

    小里国務大臣 申し上げるまでもなく、私といたしましては、JR各社の労使関係が現在も、また将来も着実に安定した一つの関係で推移することを心から期待いたしておるところでございます。
  80. 常松裕志

    常松分科員 私がお尋ねいたしましたのは、労働省として、労働大臣として、このように労働委員会の命令あるいは中央労働委員会の勧告がJRによって無視をされているという事態について、どのようにお考えかということをお伺いいたしております。
  81. 清水傳雄

    ○清水(傳)政府委員 御案内のように、地労委の救済命令につきましては、それに不服がある使用者は中労委に再審査の申し立てをすることができる、そうしたこと等が認められておるわけでございまして、現在もそうしたことで中労委に係属中でございます。また、裁判所に上がっているものもございます。そうした係争中の事案、こういうふうに見られるわけでございまして、中労委、御承知のように独立した行政委員会でございまして、こうした係争中の事案そのものについての見解を述べるということは、私どもとしては差し控えさせていただきたい、こうした基本的な考え方でございます。
  82. 常松裕志

    常松分科員 国鉄改革の国会の中で、一人の職員も路頭に迷わせないという約束をした、労働組合による差別をしないという約束をしたその国会における大臣の答弁あるいは国会決議が守られるだろうというふうに期待をするのは、これは日本国民として当然のことだろうと私は思います。  しかし、その結果、JRによって解雇が行われた、あるいは職員として採用されなかった。そこで、法の定めるところに従って地方労働委員会に提訴をした。地方労働委員会がその提訴に対して、これは不当労働行為だということで改善命令を出した、採用するようにという命令を出した。その命令が守られるだろうというふうにその職員の方々が期待をする、守られるだろうというふうにその職員の方々が願いを持つ、きっと守られるだろうというふうに信ずる、家族の方が大臣の答弁を信頼をし、国の法律を信頼をするというのは当然のことだ。このように家族の方々や職員の方々が認識をされるのは、私は法治国家として当然のことだと思いますけれども、大臣の認識はいかがでございましょうか。
  83. 小里貞利

    小里国務大臣 政府責任者が、しかも国会審議の公開の場におきまして、あるいはまた公式の場におきまして、国民に対しまして、なかんずく関係者に対しまして約束を申し上げましたことは、きちんと履行されなければならぬことは大きな政治の要諦でございます。  ただいま先生が御提起になっておられまする具体的なもろもろの問題については、今直線的に、また直接的にきちんとその状態の正否のいかんにつきまして私が明言を申し上げる立場に、状況にないということもまた御理解をいただけると思う次第でございますが、最小限、私どもは労働行政を所管する立場の者といたしまして、先ほど申し上げましたような原則に立って、今日、今先生が指摘しておいでになる係争中の問題につきましても、これが最も公正に、そしてより多くの国民が納得をしていただけるような一つの集約をしてくれること、またその方向で環境整備にも努めていかなければならぬ、かように考えております。
  84. 常松裕志

    常松分科員 大臣のおっしゃること、今の御答弁は私それなりに理解をいたしますが、私が大臣の心に訴え、そして大臣が大臣の心でお答えをしていただきたいのは、そういう職員の方々や御家族の方々が大臣の答弁や国の法律がきっと守られるだろうというふうに期待をすること、そういう気持ちを持つことですね。それは人間としてあるいは一国民として、大臣、理解できませんか。私は事の正否を言っているのではないのです。そういう気持ちを持つことについては、これはそういう気持ちを持つのは当然だというふうに大臣お思いになりませんかということをお尋ねいたしております。どうぞお心を御答弁いただきたいと思います。
  85. 小里貞利

    小里国務大臣 私も心情的には、先生が今何を探求し、そして何を求めておいでになるか、よく理解ができる次第でございます。ただし、また先生も御理解いただきたいのは、私どもも行政機関という一つの立場がございます。そういう立場から、お許しいただきまして精いっぱいの表現として申し上げたいのは、いわゆる勤労者の保護という一つの観点からは、不当労働行為に対しましては厳正に、厳粛に対処しなければならぬ、このことでございます。
  86. 常松裕志

    常松分科員 ありがとうございます。  もう少しお伺いをいたしたいわけでありますが、そうした過去の、つまり国鉄改革時における問題だけではなくて、今もJRがそうした命令を守らないだけではなくて、さらに不当労働行為を重ね、新しい不当労働行為事件が頻発をしているということについて御存じでございましょうか。
  87. 清水傳雄

    ○清水(傳)政府委員 JRの労使関係につきましては、私どもより安定をした、より改善をした状況に持っていくべく、これは労使双方がさらに努力をしていくべき分野が相当あるのではなかろうか、こういうふうに受けとめております。それぞれの立場において、それなりにそういう面においての御努力というものはいろいろな話し合いの場を通じて進められてはいるであろう、このようにもまた感じておるわけでございます。あるいは、JR発足後におきましてもそうした事象が起きているのかもしれません。そういう面へ向けての御努力はなされているだろう、このように受けとめております。
  88. 常松裕志

    常松分科員 局長、ぜひ調べていただきたいのですけれども、現実にその後も起こっているのです。  例えば、ここにありますのは盛岡の電力区の方の事件なのですけれども、組合からの脱退強要事件で地方労働委員会で証人になった組合員の方、この方は盛岡市に住んでいる馬場勤さんという方です。この方に助役が、今JRになってからの助役が、中央労働委員会で証言をするときには、地労委での発言は不本意だったというふうに言えばいいんだ、そういうことを強要する。いや、地方労働委員会では事実のとおり証言したので、今さらうその証言をする気にはなれないというふうにこの馬場さんが断りますと、その助役から、国労にだまされているのがまだわからないか、国労を脱退するしかないということで脱退書を書かされるという事件が起こり、そういう事実が地方労働委員会の中で証言されているわけです。  あるいは北海道ですけれども、北海道では組合の掲示板事件であるとか、脱退強要事件であると か、旭川における配転差別の事件とか、そういった新しい三件の事件が地方労働委員会に申し立てが行われている。  このように、改革時の不当労働行為だけでなくて、その後もまだ行われている。こういう事態、つまり、いつまでたっても解決しようとしないどころか、さらに不当労働行為を繰り返すということが許されていることは、やはり労働委員会制度の存続そのものが問われている、日本における労働委員会制度というこの制度そのものが問われているというふうになるのではないか、私はこんなふうに認識をしているのですけれども、いかがでしょうか。
  89. 清水傳雄

    ○清水(傳)政府委員 今御指摘の個別の諸ケースについては、申しわけございませんが、現在私は詳細を承知いたしておりませんし、それからまた、委員会に係属中であるとすれば、直接のコメントも差し控えさせていただきたいと思うのでございます。  いずれにいたしましても、現在御承知のように中労委で不当労働行為の案件がかかっておるわけでございまして、中央労働委員会自体といたしましても、やはり労働委員会制度の機能、役割というものを発揮をさせていかなければならない、こういう使命感を十分にそれぞれの委員の諸先生方は当然のことながらお持ちでございますし、そしてまた、そういう考え方をベースにいたしましてJRの労使関係を長期的に見ても安定したものに持っていく、相互に信頼感というものをベースにした労使関係に何とか築き上げていくべきだ、こういう基本的な考え方のもとに、労使当事者の話し合いをベースにした円満な解決を目指して、これは中労委全体としての考え方がそういうふうな総会等の考え方を経まして、そういう基本的立場に立ちながら関係者の話し合いを現在進めていただいている状況でございますし、既に事情聴取その他も十数回にわたって行われてきておるところでございます。現実問題といたしまして、そういう中で労使双方のいろいろなケースについての話し合いも行われてきているようになっておるわけでございます。  私どもといたしましては、こうした中労委の努力につきまして十分に注意深く見守りながら、そうした方向への解決が進むように環境整備の面での努力を積み重ねてまいりたい、このように考えているところでございます。
  90. 常松裕志

    常松分科員 その環境整備のために具体的に何をやっているかということです。もう時間がありませんから、具体的なことをきょう聞きたかったのですけれども、現実に労働省としてどういう環境整備をしてきているのかということが私にはさっぱりよく見えない。  これだけは伺っておきますけれども、つまり、この不当労働行為の問題については、労働省としては未解決の問題なのだというふうに考えていらっしゃる、こういう認識を持っているというふうに受けとめていいですね。不当労働行為問題については未解決の問題である。端的に答えてください、時間がありませんから。
  91. 清水傳雄

    ○清水(傳)政府委員 係争中の事案でございます、そういうふうに受けとめております。
  92. 常松裕志

    常松分科員 つまり、もっと大前提で言うと、今のJRと国鉄労働組合との間の労使関係というものは不正常だ、あるいは正常な状態にない、こういうふうに受けとめてよろしいですね。認識として、労働省はそういうふうに考えていると受けとめて。
  93. 清水傳雄

    ○清水(傳)政府委員 係争中の問題であり、また、さらに労使関係の安定について労使双方が努力すべきところがなお一般的にはあるのではなかろうか、こういうふうに思っております。
  94. 常松裕志

    常松分科員 大臣にお願いをしたいのですけれども、環境整備に努めるというふうにこれまでも再三御答弁いただいています。そこで、これらの中労委の推移を見守るというこれまでの答弁に比べれば、ずっと進んだ受けとめ方をしていただいていると私は思うのですけれども、しかし、これからも、新しい鉄道の時代を迎えて、本当に新しい気持ちでやっていかなければなりません。そういうときにこの問題、一刻も早く解決をして、そして新しい気持ちで進むということがどうしても必要だろうと私は思っているのです。  例えば、北海道では新しい職員を来年の四月に採用するなんて言っていますけれども、やはりこういうときに、この今残されている方々を進んで採用すべきだ。北海道で闘争団を組織しているような方々を率先して採用して、そしてこの解決を図っていく、こういうような指導労働省として、労働大臣として積極的に進めていただきたい、こんなふうに私は思います。具体的な答弁は結構ですけれども、決意をひとつお願いいたします。
  95. 小里貞利

    小里国務大臣 虚心坦懐に申し上げまして、常松先生が質問し、かつまた先ほどからいろいろ貴重な御意見をお聞かせいただいておりまして、私も申し上げたいこと、あるいは意見をお聞かせいただきたいこと、この問題についてはたくさんございます。しかし、きょうは時間もありませんし、またこのようなベースでございますから、その点寛大に御理解いただきたいと思うのでございます。  最後の方でお聞かせいただきましたが、率直に申し上げまして、この種の問題は余り長たらしくいつまでも際限なくやっていることは、必ずしも関係者間におきまして穏やかで好ましことではなかろう、いよいよそういうような一つの機会が今到来しつつあるのではないか、実は私はそういう気持ちも気持ちとしては持っております。しかしながら、たまたま今独立した行政委員会である中労委でああいう御心配をいただいておるところでございますから、十分これを見守りながら、そして私どもはやはり政治、政界の場でございますから、その側面からもまた他日先生方とも忌憚なく御意見をお聞かせいただく機会も得たいものだ、そういうふうに考えております。
  96. 常松裕志

    常松分科員 質問を終わりますが、どうぞ一日も早い解決のための大臣の御努力を心から期待いたしまして、質問を終わります。
  97. 古賀誠

    古賀(誠)主査代理 これにて常松裕志君の質疑は終了いたしました。  次に、伊東秀子君。
  98. 伊東秀子

    伊東(秀)分科員 私は、昭和六十一年七月から施行になりました労働者派遣事業法のその後の問題について伺いたいと思います。  平成元年度の派遣事業事業報告書によりますと、派遣事業は大幅な伸びを見せております。派遣労働者の数は四十三万人、前年度比三六・八%増、その中で一般派遣事業の中の登録型に所属する登録者が三十一万六千七百九人、前年度比四九・五%増、年間の売上高も総額で七千九十三億円、二一・六%増、一般派遣事業の場合には前年度比の四五・六%増という形で、大変急激な伸びを見せているわけでございますが、施行後四年余りを経た現在、非常にいろいろな問題点が指摘されております。  この点について労働大臣にお伺いしたいのですが、例えば法制定当時の批判、これは、労働基準法六条に「業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。」という規定があるわけですが、これに反するのではないか。つまり、他人の業に介入してピンはねをして、中間搾取でもって利益を得る業を認知することになるのじゃないかというような批判とか、派遣労働者の身分の不安定、労働条件の低下につながるというような問題点が指摘されており、四年余り経た現在もその点が非常に派遣労働者の側からの問題点としてアンケート調査等で出てきているわけでございますが、この二点に関しての行政側の指導監督状況、問題点をどう把握しているかについて御答弁をお願い申し上げます。
  99. 若林之矩

    ○若林政府委員 まず、そういったような中間搾取と申しますか、そういったものをどのように防止していくかというようなことでございます。  まさにこの派遣事業というものを法制化いたしました趣旨はそこにあるわけでございまして、この制度の中で請負事業と派遣事業とを明確に区分いたしまして、派遣元にその労働者の保護につい てのいろいろな責任を課し、また派遣先にはその労働者を指揮命令するに当たりましての問題についての責任を課すということで、これは今御指摘の中間搾取の防止でありますとともに、それぞれの一人一人の派遣労働者の保護、福祉向上という観点で規定ができているわけでございます。
  100. 伊東秀子

    伊東(秀)分科員 その指導監督をこれまで四年余りなさってきたわけでございますが、その点に関する問題状況をどういうふうに労働省は把握しているかについて御答弁願います。
  101. 若林之矩

    ○若林政府委員 この問題につきましては、先生御承知のとおり、法律が制定されましてから三年で見直しを行うということになっておるわけでございまして、これにつきましては、昨年の三月でございますけれども、中央職業安定審議会の労働者派遣事業委員会報告という形でいろいろな問題点が整理され、それに対する対応策が示されてきたわけでございます。  それにつきましては、その概要を申し上げますと、いろいろなその派遣労働者就業に当たりましてのトラブルといたしまして、第一線における指導監督や関係者からの申し立てによりまして把握しましたいろいろな事例と申しますものは、一つは、派遣期間の中途におきまして派遣契約が解除されました結果、派遣就業ができなくなったような問題点がある。あるいは、派遣契約に定められました就業時間の範囲を超えて長時間にわたり就労させられた事例、あるいは派遣契約に定められました業務以外の単純な作業をさせられました事例、あるいは派遣労働者の業務処理能力が派遣先の求める水準に達していないといったようなことに伴いますトラブルが生じた事例等がございまして、こういったような諸問題につきましてただいまの小委員会での報告がなされているわけでございますが、一つは適用対象業務の問題でございます。もう一つは派遣期間の問題でございます。第三は派遣元責任者の選任条件の問題でございます。四点は派遣先に対する問題でございます。第五点は派遣料金等の実態の把握、公表の問題でございます。あと行政事務手続の簡素化等がございますが、主な点は以上でございます。
  102. 伊東秀子

    伊東(秀)分科員 今の御答弁にもございました五点目の派遣料金の実態把握に関してだと思うのですが、これが大変高いピンはね率ということで、派遣労働者の問題として現在指摘されていることではなかろうかと思うのです。  私もこの報告書を拝見いたしましたけれども、事業報告書については法の二十三条、さらに派遣契約の内容については法二十六条に規定がございますけれども、派遣労働者にとって自分の労働の対価が派遣先会社から幾ら払われ、そして自分の支払い賃金は幾らその間の中間のマージンとして差し引かれているのかについての、何ら派遣労働者に明示する規定がない。さらには事業報告にもそれを求めてはいない。つまり、派遣料率に対しての規制は行政側からは何ら実態把握ができないような法規定になっているわけでございますが、その点が先ほど私が申し上げました今の問題点を発生させているのではなかろうかと思うわけでございます。その点についての労働省の御見解はいかがでしょうか。
  103. 若林之矩

    ○若林政府委員 派遣料金の問題につきましては、労働者派遣というサービスに対する対価でございまして、一方、その派遣労働者に支払う賃金というものは、派遣元事業主と派遣労働者の間で自主的に決定されるものでございます。このいずれの部分につきましても独自の立場から、いわば市場原理と申しますか、賃金につきましては、労働市場の中での市場原理でございますが、そういったものに基づきまして決定をされるわけでございます。したがいまして、こういった派遣料金と派遣の賃金の問題、それはそれぞれまさに経済行為であるわけでございますので、それをある一つ一つについて、あなたの賃金に対応する派遣料金はこうですよと申しましても、その間の差というものはいろいろな内容があるわけでございますので、それを一概に論ずることは難しいのではないだろうかというふうに思います。
  104. 伊東秀子

    伊東(秀)分科員 まさしくそこが問題でございまして、労基法六条、他人の労働に介入して収益を上げてはならない、さらにはその精神を具体化するために職安法四十四条で、労働者供給事業を行ってはならないとか、あるいは「その労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。」という規定を置いているわけでございますから、この両方の重要な規定を潜脱することのないように、つまり市場原理に労働者供給事業を任せてはならないというのがこの二つの法律の精神でございますわけで、その辺を考えれば、市場原理に任せていいという今の御答弁は大変問題があるのではなかろうかと思うわけでございます。  例えば、東京都の平成元年三月に発表した派遣労働に関する実態調査の結果によりますと、派遣料金、時間給と派遣料率に関する調査でございますが、通訳や翻訳、速記の場合、派遣料率は三一・七%、ファイリングの場合は二七・五%、ところが財務という派遣業務に関しては四九・二%の派遣料率というような実態結果報告が出ております。特別に法が許した有料職業紹介所の場合でも、これは登録型の派遣事業と業務形態はほぼ同じなわけでございますけれども、一割という法規制があるわけで、その辺との絡み合いから考えても、余りにこの四九・二%、五割に近い派遣料率というのは問題ではなかろうかと思うわけでございますが、労働省は問題でないというふうにお考えなんでしょうか。
  105. 大石明

    大石説明員 まず東京都の調査に関しましてでございますが、東京都の調査はサンプル数も非常に少なく、その意味におきまして私ども行政の立場からいたしましては、特にこれを参考とするのは適切でないのではないかというふうに感じております。  と申しますのは、例えば具体的に申し上げまして、昭和六十三年に実施されましたケースを見ますと、添乗でありますとか機械設計でありますとかはサンプル数が一でありますとか、秘書についても七というようなことで、その辺、統計的な処理として若干問題が大きいのではないかというふうに思っております。またその結果といたしまして、一部には派遣料金よりも平均時給の方が高いと出ているような項目もあるようでございまして、その点は対象が違うので一概に間違いということではございませんけれども、施策を考えるに当たって余り参考にできないのではないかというふうに承知いたしております。
  106. 若林之矩

    ○若林政府委員 派遣料金の賃金との割合につきましてはいろいろばらつきがあるわけでございますけれども、事業報告の集計結果等から見ますと、一般労働者の派遣事業につきましておおむね七、八割程度というふうに考えております。  ただいま先生は民営職業紹介のことにお触れくださいましたが、確かに民営職業紹介の手数料は規制を受けているわけでございまして、これは民営職業紹介の場合は、文字どおり求人者と求職者の間に立ちまして、紹介所は労務管理とかそういうことはしておりません。訓練とかではなくてこれは文字どおりのあっせんでございまして、他人の就業に介入するということによって手数料を得て業をしているということでございますから、こちらの方は手数料についての規制が必要である、こういう構成になっているわけでございます。
  107. 伊東秀子

    伊東(秀)分科員 先ほど御答弁で東京都の調査調査としては問題がある、実態をこれだけで分析するのは問題があるという御答弁でしたけれども、とすれば、労働省としてこのような派遣料率に関する、つまり派遣料金と現実に支払われている賃金との差額等についての実態を業務ごとに調査する意向があるかどうかということが第一点。もしそれで不適正である、派遣料率が高過ぎるというような判断がなされるような業務について、あるいはそのような企業に対して何らかの規制をする用意があるかどうか。三点目は、今後この派遣料率に関する法規制の検討を考えているかどうか。この三点について御答弁願います。
  108. 若林之矩

    ○若林政府委員 第一点の派遣料金と賃金の関係 でございますが、先ほど申し上げましたように、三年経過後の見直しに関する中職審の労働者派遣事業委員会報告におきまして、「派遣労働者の賃金その他労働条件維持向上に資するため集計結果を定期的かつ広範に公表することが適当である。」ということでございます。「さらに、派遣労働者の賃金水準についても一定の周期で実態調査を行い、その結果を公表することが適当である。」こういう御提言をちょうだいいたしております。したがいまして、私どもは、来年度から地域ごとの派遣料金と賃金水準についての定期的な調査をいたしましてこれを公表したいというふうに考えております。  第二点目の、ではそのときにその差についてどうかということでございますが、これは先ほど来申し上げましたように、派遣料金と賃金、それはそれぞれいわば市場原理で決まってくるわけでございますので、どれが適正か不適正であるかということをここで論ずることは、私は無理ではないかというふうに存ずるわけでございます。  また、第三点の法規制の問題につきましては、ただいま申し上げましたようにこれはあくまでも労働市場の中で決定していくものでございますので、行政としてガイドラインを設けたり、あるいは派遣料金のような取引上の情報を明示したり、金額について規制をしたり、こういうことは適当ではないというふうに考えております。
  109. 伊東秀子

    伊東(秀)分科員 今の御答弁だと、大変法の目的からいって問題ではなかろうかと私は考えるわけでございますけれども、この法の第一条におきまして、「この法律は、職業安定法と相まつて労働力の需給の適正な調整を図るため労働者派遣事業の適正な運営確保に関する措置を講ずる」ということと、さらには「派遣労働者就業に関する条件の整備等を図り、」この二つのことをしながら「もつて派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的とする。」となっております。  この賃金に関する問題というのは派遣労働者にとって一番重要な問題でございまして、需給の適正な調整を図るために派遣事業の適正な運営確保に努めるというのであれば、この派遣料金に対する労働省側の行政指導というのはどうしても私は必要ではなかろうか。それを規制する考えはないとか、あるいは市場原理に任せるというのであれば、実態調査は何のためにするのか意味がなくなるのではなかろうか。そこから出てくる結果が、余りに中間マージンとして、すなわち派遣手数料として高額のものが派遣業者の手に入っている、そういう事実がわかったとすれば、行政としては労働者の雇用条件の引き上げ、つまり賃金の引き上げのために何らかの行政指導をすべきであるし、行政指導で実効性が上がらなければ法規制へ踏み切るべきだと考えるわけですが、そういった視点は全くないということなんでしょうか。
  110. 若林之矩

    ○若林政府委員 市場原理の中で私どもが、ただ、先ほど申し上げましたように、今後実態調査をいたしましてそれを公表していくということは一つの情報提供でございまして、そういう事業に携わる方々、あるいは派遣労働者として携わる方々にとってのいろいろな判断の材料になるだろうというふうに思っております。しかし、それ以上にということになりますと、派遣料金と賃金との差額というものはいろいろなファクターがあろうかと存じます。非常に労働者の資質向上職業訓練などに力を入れるというような事業所もあろうかと思います。そこに相当のコストをかけるところもございましょうし、その他、この差というものは一概に何か利益であるというふうには言えないのではないのかというふうに思います。
  111. 伊東秀子

    伊東(秀)分科員 これも派遣労働者労働条件に関する実態調査結果でございますが、平成元年三月六日労働省発表の調査結果においても、派遣労働者の四八・九%が、勤続により給与が上がるようにしてほしいという不満を持っておりますし、実力や能力で賃金が上がるようにしてもらいたい、三七%、交通費を自己負担している、五六・八%という調査結果が出ております。さらに、先ほど申し上げました東京都の平成元年三月発表の実態調査でも、賃上げがなしというのが二一・二%、賞与なしが六八・九%という結果になっております。さらに、一九八九年、平成元年の六月にマスコミ文化情報労組会議労働法制委員会というところが発表したマスコミ労働者に対する調査結果でも、月平均の残業時間が五十時間以上と回答した者が四三・八%おり、さらには残業代を全くもらっていないあるいは一部しかもらっていないという人たちが三一%に上っている。  こういった賃金面での派遣労働者労働条件の悪さと不満というものが如実にいろいろな調査結果にあらわれているわけでございますが、ぜひこういった点の改正に向けて労働省は、実態調査を行うのであればやっていただきたい、そしてその結果を公表し、それなりの労働省の見解を発表していただきたいと思うわけでございますが、その点についていかがでしょうか。
  112. 若林之矩

    ○若林政府委員 派遣労働者の方々の資質の向上といった面では、先ほど申し上げました小委員会でも、「教育訓練の促進を図るためには、その実施状況を労働者派遣事業報告書に基づきより的確に把握することができるようにする」ということが言われております。  ただいまいろいろ残業の手当がもらえていないというような点につきましては、私どもいろいろな形で業界に対する指導をきちっとしていかなければならない問題だというふうに考えております。もちろん、今後私どもは折に触れてこの制度がより円滑に進むように指導、努力を重ねてまいるつもりでございますけれども、先ごろの小委員会におきましても、今後この小委員会報告等を踏まえて制度改善を図り、一定の期間を経てまた見直しをすべきであるという御指摘をいただいておりますので、私どもは現時点におきましては、この職業安定審議会の小委員会の御提言に沿いまして、できる限りの制度改善を図ってまいりたいというふうに考えております。
  113. 伊東秀子

    伊東(秀)分科員 先ほどの労働省の実態調査結果の中にも出ておりましたように、対象業務以外の単純労働に派遣労働者が使われているとか長時間労働が問題になっているということでございましたけれども、これはまさしく現在派遣労働者に大きい問題として出てきていることでございまして、つまり、派遣労働者正規の社員の代替として使っているのではないか、さらには、本来使ってはならない単純業務と言えばいいのでしょうか、法の許していない業務に就業させてそういう安上がりの労働力として使っているという問題の指摘があるわけでございます。これに対して労働省としては、具体的にどのような手だてといいますか対処を考えておられるのでしょうか。
  114. 若林之矩

    ○若林政府委員 ただいま御指摘のように、派遣法で認められておりません職種、例えば単純労働でございますが、こういったものについているという問題点が指摘されてまいりましたので、昨年私どもといたしましては、派遣先の事業主に対します指導を徹底いたしました。そして、そういったような認められている職種以外について派遣労働者を受けないように、派遣元の方はこれまでも指導してまいりましたけれども、派遣先の方もそういう労働者を受けないようにという指導を強力に進めているところでございます。今後ともその点は指導を進めてまいりたいというふうに考えております。
  115. 伊東秀子

    伊東(秀)分科員 今の行政目的をより達成するためには、事業報告書の内容に派遣料金だけしか明示を求めておりませんけれども、実際に支払った賃金は幾らであったかとか、派遣を必要とするような具体的事由は何か、つまり余剰の労働力の調整に使われてはいないかということなんですけれども、そういった点もきちんと求める必要があるのではなかろうかというのが第一点と、二つ目には、派遣期間ですが、先ほどは解除の不安があるというような問題の御指摘がございましたけれども、今問題になっているのは、更新をどんどん続けて、結局正規の社員の代替として安上がりの派遣労働者を使おうとしているということも問題 になってきている状況だと思うわけです。それで、三年という期間の制限がございますけれども、それを超えて就業させるような場合には派遣先との間に雇用契約が成立するという西ドイツの法規制がございますけれども、正社員の代替の潜脱を防ぐという意味で、こういった派遣事由と派遣料率と派遣期間については、労働者の身分安定の側に立って今後行政指導なり法規制なりしてもらいたいと私は考えているわけですが、その三点に関する労働省側の御見解をお願いいたします。
  116. 大石明

    大石説明員 先生御指摘の、事業報告の中に賃金の条項も入れたらどうだというお話でございますけれども、事業所ごとに事業所報告をつくられておりますけれども、派遣の賃金につきましては、それこそ一人一人、また日によって派遣料金、それに応じた賃金というものも違ってくる場合もございます。これを技術的にどのような形でとるかという問題もございます。総額としてとっていくこともあり得るかというふうには思いますけれども、その際に、業務ごとに、あるいはそのときどきの賃金が決定されるに当たっての諸条件といいましょうか、そういったものを事細かく見ていかないと、本当のところはどうしてそういう賃金が決まったのかということは分析することができないわけでございます。  そういった非常に技術的な問題もございますし、また、いわゆる派遣労働者といっても、派遣会社の雇用労働者として、先ほど局長から申し上げましたとおり、その派遣会社と派遣労働者の間で賃金というものが決められてくるものでございますが、そういう中で、ほかの業界において、つまり一般の労働者についてその賃金というものが一体どういうふうになっているのかということを、その業界のあり方の問題としてとっているケースというのはないわけでございまして、この点のみを賃金をとっていくというのは、技術的にも、また内容的にもなかなか難しい面があるのではないかというふうに思っております。  それから、二番目の問題については局長からお答えいたします。
  117. 若林之矩

    ○若林政府委員 たびたび先生から料金と賃金の問題の御指摘がございましたが、先ほど来申しましたように、来年度からはその全体についての調査をするということでございます。そういう中で、私ども、その動向と申しますか、そういったものを把握してまいりたいというふうに思っております。  余剰労働力というようなお話でございました。これにつきましては、まさに労働者派遣事業対象職種を決めるにつきましては、そういったおそれのないというところで問題を押さえておるわけでございまして、私どもがなすべきことは、先ほど来先生お話しのように、対象でない職種、これにつかないように派遣元なり派遣先に対してさらに一層指導を強めていきたいと思っております。  それから、期間の三年の問題でございますが、ただいま御指摘のように、今度新しく三年という期間を設けることにいたしました。それをまずもって行政指導できちんと三年を超えないようにさせていきたいと思っております。まず、この中職審での御提言は、三年を上限にして指導を進めるようにということでございますから、その線に沿って進めてまいりたいと思っております。
  118. 伊東秀子

    伊東(秀)分科員 最後になりますが、大臣にお聞きしたいのですけれども、この派遣労働に関しては、今申し上げたような正規の社員の代替として法の潜脱が横行している。特に財務処理という名目で一般事務、単純事務に使われていたり、ファイリングという名目で文書の発送のような単純業務に使われている。非常に労働者保護に欠けるような問題が出ているわけでございますが、その点今後の大きな方向性といえばいいのでしょうか、どういうふうにお考えでいらっしゃいますか。
  119. 小里貞利

    小里国務大臣 先ほどから先生、労働者派遣事業法に関連する労働者労働条件維持向上のためにもろもろ具体的に指摘いただきながらお話をお聞かせいただいておるところでございます。申し上げるまでもなく、法制定、新しい需給システムとして発足をいたしまして、ざっと申し上げまして四年前後、三年たってその時点で振り返って、今度は新しく、経験にかんがみてこういうところを注意してやったらどうか、いろいろ指摘をいただきましたことも、ただいま解析をいただきました。  その中で、特に派遣料金あるいは賃金水準等に重点を置いてお聞かせいただいたところでございますが、先ほど局長が答弁いたしましたように、これらの問題も一つの地域ごとにそれぞれ調査をいたしまして公表いたしましょう、こういうような新しい提起もなされておるところでございます。ただいままたお尋ねの問題等も含めまして、制度発足いたしましてまだ四年前後のいわば試行期間と申し上げるのは言い過ぎでございましょうか、とにかく十分足元を見詰めながら、そして修正なりあるいは国民の要望にこたえていかなければならない一つの状況にあると思っておりますから、ただいまお聞かせいただきました問題等も十分見詰めながら検討してまいりたいと思っております。
  120. 伊東秀子

    伊東(秀)分科員 終わります。
  121. 古賀誠

    古賀(誠)主査代理 これにて伊東秀子君の質疑は終了いたしました。  次に、小沢和秋君。
  122. 小沢和秋

    小沢(和)分科員 本日は、労働災害の問題でお尋ねをいたします。  まず大臣にお尋ねをしたいと思うのですが、この一年間に全産業で死亡災害が増加しております。この中でも鉄鋼が二十七名から三十九名へと四四%も激増しております。労働省はこの事態をどう認識し、どのように対応されているか、まずお尋ねをいたします。
  123. 小里貞利

    小里国務大臣 具体的に内容にかかわる問題でございますから、事務当局の方から答弁いたします。
  124. 佐藤勝美

    佐藤(勝)政府委員 労働災害、特に死亡災害につきましては、長期間を見ますと着実に減少しておりますが、残念ながら死亡災害につきましては昭和六十二年、六十三年、それから平成二年、前年に比べまして全体として増加をする様子を見せておりまして、我々としても大変懸念をいたしております。ただいま先生特に鉄鋼業のことにお触れになりましたけれども、鉄鋼業につきましてもそういう流れの中でそういう状態になっておると思います。  この対策でございますけれども、全体的には労働安全衛生関係法令の遵守を励行させる、あるいは事業主、事業主団体の自主的な災害防止活動を活発に行わせる、あるいは労働基準監督機関によります監督指導を徹底させるというようなことが大要でございますけれども、特には、鉄鋼業の関係につきましては総合安全衛生管理指導ということで、元請、下請を含めましたグループにつきまして諸般の対策を講じているわけでございます。例えば統括安全衛生責任者等の選任、統括管理の遂行であるとか、あるいは親企業の安全衛生管理、発注、生産部門相互間の連携あるいは災害防止協議会の設置と活動の促進といった、鉄鋼業の事業遂行の現状に合ったような対策を行うように心がけているつもりでございます。
  125. 小沢和秋

    小沢(和)分科員 死亡災害は、私が調べてみると一九八六年ごろから増加傾向になっているわけであります。これは私は、景気上昇による増産、そのための労働強化の結果ではないかというふうに考えざるを得ません。  鉄鋼の場合で申しますと、円高に対応するために八七年から中期計画が実施されまして、労働者数は八六年度末で三十三万八千五百八十人から、八九年度末二十九万四千百九十三人へと、一二%も減らされております。ところが、この時期に景気が急速に回復し、生産は、八六年度九千六百三十八万トンから八九年度一億八百十四万トンへと一三%も伸びている。結局、人はどんどん減らし生産をふやしたので、労働生産性は二九%も飛躍的に伸びております。大手五社に限ればもっとこの伸び率は高いわけであります。私は一定の設備投資が行われたことは事実だと思いますけれど も、その大きな部分労働者へのいわゆる労働強化によって賄われたことも否定できないし、ここに死亡災害激増の原因があるのではないかと考えておりますが、いかがでしょうか。
  126. 佐藤勝美

    佐藤(勝)政府委員 最初に申し上げましたとおり、先生も同じ趣旨の御指摘かと思いますが、昭和六十二年、六十三年と全産業の死亡災害がふえてきた、それからいろいろ努力をした結果でございますが、平成元年には一度これはまた減少に転じたわけでございますが、平成二年にまたふえるというような状況でございます。それでこの中を見てみますと、やはり多いのは建設業、これが四割以上を占めるわけでございますが、産業別にはそういうことでございますけれども、一方、災害の形態ということになりますと、交通災害が非常にふえてきております。これは一般の交通災害もそうでございますけれども、業務上の交通災害、これが相当寄与しているというように見ております。それから、その産業別に戻りまして建設業が多いということを申し上げましたけれども……(小沢(和)分科員「いや、私は鉄鋼の話を聞いているのですからね」と呼ぶ)災害全体の状況をまず申し上げたいと思います。やはり経済の好況の中で労働力不足が進んでくる、未熟練労働者がふえてくるという中で、これに対応した災害対策が必ずしも十分行われなかったところにも原因があろうかと思います。鉄鋼災害そのものについて特別に分析をした結果は今持ち合わせておりませんけれども、大体同じような状況の中でそういう状況になっているかと思う次第でございます。
  127. 小沢和秋

    小沢(和)分科員 いや、私がお尋ねをしているのは、今の急激な景気上昇の過程でいわば労働者に対する労働強化のためにこういう災害が激増しているということはないかとお尋ねをしているわけです。  その点で一つの裏づけになると思いますけれども、労働時間が大幅に伸びているわけですね。鉄鋼についてで結構ですが、総労働時間の増加、特に残業時間の増加状況を八七年と九〇年ということで比較をして示していただきたいのですが、いかがですか。
  128. 佐藤勝美

    佐藤(勝)政府委員 お尋ねの鉄鋼業の所定外労働時間でございますが、昭和六十二年、一九八七年、年間百六十三時間でございます。それから平成二年が二百八十三時間となっております。
  129. 小沢和秋

    小沢(和)分科員 私がいただいた資料とちょっと数字が違うようですけれども、その点については後でまた伺うことにしたいと思いますが、今のお話でも顕著に増加していることは間違いないと思うのです。  私がきょう特に問題にしたいのは、労働災害が圧倒的に関連労働者に集中している問題であります。鉄鋼の死亡災害が三十九名というふうにさっき申しましたが、その三十九名をいわゆる本工と関連というように分けたらどうなりましょうか。
  130. 梅井勲

    ○梅井説明員 平成元年度における鉄鋼関係の災害でございますけれども、親企業の方で死傷合計が六十名、それに対しまして下請企業の方では四十九名、こういうふうになっているわけでございます。
  131. 小沢和秋

    小沢(和)分科員 今のお話は、親企業が六十名、下請が四十九名、そんなはずないでしょう。だって全体は、あなたさっき三十九名なんですよ。何を言っているのですか。
  132. 梅井勲

    ○梅井説明員 失礼いたしました。親企業の方が三十一名、下請企業の方が十四名でございます。
  133. 小沢和秋

    小沢(和)分科員 いや、あなた、私に報告があっているのは、あなた方の方の資料で年間に三十九名亡くなったという報告なんですよ。こんな数字のことで時間をとらないでくださいよ。はっきり答えてください。
  134. 梅井勲

    ○梅井説明員 失礼いたしました。下請の方としましては、鉄鋼だけではございませんで……
  135. 小沢和秋

    小沢(和)分科員 いや、私は鉄鋼を聞いているのですよ。そうあなたに通告してあるでしょうが。
  136. 梅井勲

    ○梅井説明員 鉄鋼関係では下請関係は八名でございます。
  137. 小沢和秋

    小沢(和)分科員 いや、そんなことはあり得ないですよ。全国的に見ても関連労働者が圧倒的に死亡が多いのですけれども、鉄鋼でも同じでしょう。現に八幡の場合でいえば本工一名に対して関連が四名亡くなっているのですよ。大部分関連だというのは厳然たる事実でしょうが。
  138. 梅井勲

    ○梅井説明員 失礼いたしました。平成二年における鉄鋼関連では、親企業が三十一名、それから下請の方としましては、これは鉄鋼が八名でございますけれども、そのほかに下請の建設とか金属その他がございましてトータル十四名ということでございまして、両者を合わせますと三十九名、鉄鋼だけでは両者を合わせまして三十九名ということでございます。
  139. 小沢和秋

    小沢(和)分科員 いや、そんなことはあり得ないです。だから、それは後で調べてください。圧倒的に関連のはずです。  引き続いて申し上げたいのですけれども、結局私が下請、関連に災害が集中していると言うのは、一つはいわゆる三K職場、きつい、汚い、危険な職場、ここに委託ということでどんどん関連労働者が入ってきている。だからふえる。それからもう一つ申し上げたいのは、労働時間などがこの関連労働者の場合むちゃくちゃに長いということなんです。さっきは私は鉄鋼業全体の残業時間を平均で示してもらったわけでありますけれども、関連の場合はそれを何倍と超える残業をやっているんですね。  私の友人で原田昭蔵さんという、これは新日鉄の有力な関連企業である日鉄運輸の労働組合の幹部を長年務めておった人なんですが、つい最近クモ膜下出血で亡くなったんです。奥さんが言われるのには、この人、亡くなる直前の十二月に入ってからの八日間だけで二十四時間残業している。つまり一カ月でいえば約九十時間というベースで残業している。その職場では一番長い人は月間百二十時間ぐらい残業しておるというんですね。だから、こういうように残業が非常に長いということで、くたびれ果てるということが大きな災害の原因になるのではないかということを私は申し上げたい。現に、その日鉄運輸では、昨年十一月二十二日に堀幸重さんという勤続二十九年五カ月のベテラン労働者ですけれども、死亡する災害があったんです。彼は当日午後三時から勤務して、次の晩の夜勤まで残業して明け方に被災しているのです。彼はフォークリフトにひかれたんですけれども、関係者は、あんな大きな音がする車が接近してきても気がつかなかったとはよほど疲れていたのではないかと言っております。  このような、一カ月百二十時間というようなすさまじい労働強化、いわゆるむちゃくちゃな残業をなくさなければ、私は本当に労働災害を根絶できないのではないかというふうに考えております。残業をもっと厳しく規制すべきではないかという点について労働省としてどう考え、対策をとっておられるかをお尋ねします。
  140. 佐藤勝美

    佐藤(勝)政府委員 残業といいますか、言いかえますと所定外労働時間につきましては、現在労使協定に基づいてその上限を定め、これを届け出ることになっておりますが、私どもとしましては、その上限である時間数を労働大臣の告示の目安として指針を設けております。これによりまして、届け出がありましたときに指導いたしておるわけでございます。
  141. 小沢和秋

    小沢(和)分科員 だから、今私が申し上げたようなひどい状況を改善するためにその指針、ガイドラインを改善するというようなことを検討しないのかということを私は言っているんです。
  142. 佐藤勝美

    佐藤(勝)政府委員 指針につきましては、ことし見直しの検討をいたす予定にいたしております。
  143. 小沢和秋

    小沢(和)分科員 現に指針があるにもかかわらず、今私が申し上げたように一カ月に百二十時間というようなむちゃくちゃな残業をしている人がおる。こういうことについてはガイドラインは無力だったとしか言いようがないと私は思うんですが、それを本当に力のあるものにして、これを規制していくという点ではどういうことをお考えになりますか。
  144. 佐藤勝美

    佐藤(勝)政府委員 労働時間、特に長時間労働につきましては、これは労働基準監督の一つの重点といたしまして今後とも違反の事実がある場合には是正に努めたい、かように思います。
  145. 小沢和秋

    小沢(和)分科員 大臣にもう一つお尋ねしたいのは、労働時間もだけれども、賃金もなんですよ。関連労働者の賃金というのは本工の七割というのが大体新日鉄などでは常識ですね。今私、日鉄運輸というところの話をしているからそこで例を一つ申し上げてみると、勤続二十五年で三交代手当を含めて所定内賃金だけだったら二十五万円。これでは残業せずには生活できないというのが実態だろうと思います。で、最近はこういう低賃金では人手不足で労働者が集まらないし、すぐやめる。だからろくに教育もせずに未熟練な労働者を危険な職場でいきなり働かせるというような、安全面からもゆゆしい問題が起こってきているわけであります。  今、春闘の時期でもありますけれども、特にこういう下請労働者労働時間の短縮あるいは今申し上げた賃金の引き上げという点については、格別労働省としてその改善に努力をすべきではないでしょうか。
  146. 小里貞利

    小里国務大臣 大臣を名指しでお尋ねございますからちょっと申し上げる次第でございますが、これは、もう申し上げるまでもなく、原則的には賃金の問題は労使間におきまして適正かつ安定した雰囲気の中でやっていただきたい、こういうことでございますけれども、先ほどから先生お聞かせいただいておりますように、労働時間の短縮問題を中心にいたしまして労働条件の適正な維持のためには私どもも手がたく見守ってまいらなきゃいけない、かように考えておるところでございます。
  147. 小沢和秋

    小沢(和)分科員 次にお尋ねしたいのは、労働災害が起こりますとしばしば刑事事件になることがあります。私がきょう質問をいたしたいと思いますのは、去る一月二十一日に新日鉄八幡の一製鋼工場でガス中毒による死亡災害が起こっております。三名の労働者が書類送検をされました。  私は、今度の事件というのを調べてみると、会社の責任こそ問われなければならないと思うんですが、こういうような末端の同僚である労働者の不注意というようなことで書類送検をされるというようなことは全く私は納得いかないんですが、労働省も彼らの責任だという見解にお立ちでしょうか。
  148. 佐藤勝美

    佐藤(勝)政府委員 今のお尋ねは、ことし一月二十一日の第一製鋼工場の設備増設工事の件であろうと思いますが、今先生おっしゃいました三名が送検をされたという事実は、労働基準監督機関としては承知をいたしておりません。労働基準監督機関といたしましては、基準法なりあるいは労働安全衛生関係法令の違反がありや否やということで現在調査中でございます。
  149. 小沢和秋

    小沢(和)分科員 だから警察が書類送検をしておるわけで、あなた方の方がどういう考え方かということをお尋ねしたわけですね。  この事故というのは、VOD、真空脱炭精錬設備の能力増強工事を行い、テストしてみたところタンクの能力が不足していることがわかったわけであります。そこでVODの操業は始めながら突貫工事でもう一基タンクを据えつけておりました。ところが、VODの排気ガスがそのタンクの中から噴き出てきまして、急いでとめようとして死亡災害を引き起こしたわけであります。作業をしていた労働者たちは、一酸化炭素を含む猛毒ガスを排出するためのタンクであるという最低の教育さえ受けておらない。だから、一たんは慌てて逃げ出したが、わざわざ白い煙、排気ガスをとめに行って死亡してしまったわけであります。こういう初歩的な、また基本的な教育をしていなかったということはだれの責任になりますか。私はこれは会社の責任ではないかと思いますが、いかがですか。
  150. 佐藤勝美

    佐藤(勝)政府委員 この個別の案件につきましては調査中でございますが、一般的に申し上げれば、労働安全衛生関係法令によりまして事業主に教育の義務を課しておるところでございます。
  151. 小沢和秋

    小沢(和)分科員 だから、そういうところで仕事をするのについては、一酸化炭素という非常に危険なガスが出てくる危険も万が一のときは考えられるという程度の最低の教育はして作業をさせるべきじゃないんでしょうか。
  152. 佐藤勝美

    佐藤(勝)政府委員 一般的に、そういうような教育をするように義務づけておるところでございます。
  153. 小沢和秋

    小沢(和)分科員 だから、その点で、これはとりわけ親企業責任があると私は考えざるを得ないわけであります。この事故で関連企業の工事係長と、それから新日鉄の工事管理掛の二名の労働者責任を問われたわけであります。それは、排ガスが入ってこないように仕切り板を二カ所取りつけるべきところを一カ所つけ忘れたという責任を問われたわけであります。しかし、関連企業に対しては、ただ前回同様という漠然とした指示しかしていなかったということが、これは新日鉄の会社自身も反省している点なんです。  一方、新日鉄の二名の労働者の問題ですけれども、以前でしたら、いわゆる工事監督と工程管理と両方の担当者がそこに配置をされたわけですけれども、もう今では工事監督というのは廃止されてしまって、実際には、計画どおり仕事がいっているかどうかのチェックをするだけのいわゆる工程管理の要員が置かれている。今度はその人が処罰されているのですが、工事監督でもない、実際に話を聞いてみると、あっちもこっちもかけ持ちで走り回っていて、ただ仕事が順調にいっているかだけチェックして別のところへ行ってしまっているような労働者が書類送検をされるということは、これは全くおかしいことじゃないでしょうか。この点どうお考えになりますか。
  154. 佐藤勝美

    佐藤(勝)政府委員 ただいまの書類送検の件、詳細は承知をしておりませんが、警察が捜査をして犯罪事実の認定をして送検をしたものと思いますので、ちょっと今の段階で私の方からこれについてコメントすることはできません。
  155. 小沢和秋

    小沢(和)分科員 現場の労働者は今回のこの書類送検に大きなショックを受けているわけです。我々が一体どうして責任をとらなければいけないのか、責任を問われるとしたら会社という以外ないじゃないかというのが多くの人たちの声ですね。だから、労働省としてこの問題についてメスを入れるときには、私自身が調べた範囲のことを今ここでお知らせしておきますので、ぜひそれを参考にして検討していただきたいというふうに思います。  時間もぼつぼつ参りましたから、最後にお尋ねしたいと思うのですけれども、鉄鋼業では、先ほどから申し上げているように、関連企業労働者の比率というのがいよいよ高くなって、混然一体となって作業している状況です。だから、ちょっと連絡が悪いとかいうようなことがありますと、たちまち、今申し上げたような重大な災害が起こったりするわけであります。だから、こういう関連労働者が非常にふえてきているという職場の実態を考えて、造船業とか建設業などでは、特定元方事業者ということに労働安全衛生法などで指定をして特別に、そういう混然一体となって作業していることに対する体制をとっているわけですね。鉄鋼業についてもそういうことを検討すべき時期に来ているのではないかということを私考えるわけですが、この点いかがでしょうか。
  156. 佐藤勝美

    佐藤(勝)政府委員 先生今おっしゃいましたように、労働安全衛生法の第三十条で特定元方事業者の義務を定めているわけでございます。これは重層下請によります複数の事業労働者がいろいろな作業を混在して同じ場所でやるということが一般的であるということで、建設業、造船業について現在指定をしておりまして、それらの産業におきましては協議組織の設置、作業間の連絡調整等の措置義務を定めております。  ところで、鉄鋼業についてはどうかというお尋ねでございますけれども、構内の協力会社に設備の保全、製品の運搬等の定常的な作業を下請させる場合が鉄鋼業についてあります。しかし、建設 業や造船業と比較いたしますと、比較的限られた場所で複数の事業者により同時に作業が行われる、言ってみれば混在性は相対的に低いというふうに見ております。現在のところ特定事業とすることは考えておりませんが、しかし、鉄鋼業の親企業と下請企業との関係につきましては、親企業労働安全衛生法第二十九条に基づきます元方事業主として、それぞれの関係請負人それから関係請負人の労働者に法令の遵守の指導、法令違反是正のための必要な指導を行うことが義務づけられておるわけでございます。  このほかに、先ほどもちょっと触れましたけれども、鉄鋼業におきましては総合安全衛生管理指導ということで、特定元方事業者に準じたような措置を行うための指導を今やっておるところでございまして、私どもとしては、鋭意こういった点についての施策を進めてまいりたい、かように思っておるわけでございます。
  157. 小沢和秋

    小沢(和)分科員 時間も来たようだから、最後に大臣にもう一つだけお尋ねをして終わりたいと思うのです。  というのは、今全国的にいわゆる三交代勤務というのが非常に広がっております。先ほどもちょっと話の中で出ましたように、夜勤で終わりがけに死亡災害を引き起こしたというような痛ましい事故などを考えてみましても、人間の生理条件に反するようなこういう三交代、とりわけ夜勤などというのはできるだけ抑えていくべきじゃないか。また、それがどうしても必要な場合には、例えば鉄鋼などでいえば生産量をできるだけ抑えるとか、仮眠時間を少しでも保障していくようにするとかいうような努力が必要ではないかということを、私、常々考えているわけであります。こういう三交代労働者労働条件改善というような点について、大臣はどうお考えでしょうか。
  158. 小里貞利

    小里国務大臣 今先生の方から最後の方で御指摘いただきました三交代制労働就労の問題、のみならず、きょうは大変具体的に現場におきまする労災事故防止の問題等を中心にいたしましてお聞かせをいただきました。私どもは、基本的にあらゆる分野におきまする労働者の健康、そして安全、衛生等々、労働者の諸条件を健全に守るための責任があるわけでございますから、御指摘、御要請ありましたことなどを十分注意しながら対応してまいりたいと考えております。
  159. 小沢和秋

    小沢(和)分科員 終わります。
  160. 古賀誠

    古賀(誠)主査代理 これにて小沢和秋君の質疑は終了いたしました。  次に、仙谷由人君。     〔古賀(誠)主査代理退席、主査着席〕
  161. 仙谷由人

    仙谷分科員 私の方からは、依然としてなかなか改善が進みません、いわゆる被差別部落の労働の実態と申しますか、あるいは不安定就労というふうな言い方をされておるようでございますが、その問題、そして各職場における差別事件、これらの点について時間内にただしていきたいと思います。  まず、一九八八年ですから一昨々年ということになりましょうか、第百十二国会で三月九日に、我が党の永井孝信議員に対するお答えで当時の岡部政府委員が、一般常用雇用が昭和六十年には五三%と上昇している、それから三十人未満の事業所への就職率が六五・八%から六十年には四二・四%というふうに、全体の平均の三三・八%に比べるとまだ十分でないけれども、徐々に改善をしておるという答弁をなさっておるわけでございます。この点につきまして、ここ数年、一九八八年からどういう状況になっておるのか、その点についてまずお伺いしたいと思います。
  162. 若林之矩

    ○若林政府委員 ただいま御指摘の同和関係住民の労働実態の問題でございますが、これにつきましては、ただいま先生御引用になりました六十年の同和地区を対象にした生活実態調査というもの、私どもはその調査認識をしておるわけでございまして、ただいま御指摘のように、臨時、日雇い等の不安定就業者の割合が一五・一%と全国平均の一・八倍も高いこと、一方、常用雇用労働者の割合が五三・三%で全国平均に比べて七ポイント低いこと、また、従業員三十人未満の小零細企業で雇用されている者の割合が四二・四%で全国平均より九ポイント高くなっており、一定の改善は見られるわけでございますが、なお雇用情勢は厳しい、こういう状況でございます。
  163. 仙谷由人

    仙谷分科員 ちょっと角度を変えまして、これは調査昭和六十二年の七月から八月、調査結果が出ましたのが昨年の六月という資料でございますが、徳島県教育委員会が総合教育実態調査分析というのを行ったわけであります。私の選挙区であります徳島で見ますと、常勤の実態を見ますと、父親では八ポイント、母親では二二ポイント、いわゆる同和地区に住んでおる人は低い。それから無職の状況では、父親が五ポイント、母親では七ポイント高いという報告がされておるわけであります。  あるいは、徳島県企画調整部が八九年十一月に発行しております徳島県婦人の生活実態調査というのを見ますと、この報告書には、三十ないし五十代では臨時雇い、日雇い、パート、内職の合計の数字を比べるとかなり差があり、地区内では、二十代は別にして不安定就労が多い。これは女性ですね。それから就労内容についても、全体に占めるいわゆるホワイトカラー的就労者の比率を見るとかなり差がある。それから二十代についても、就労内容、給与形態、企業規模等については格差が見られる点にも留意する必要があるということですね。さらに、その就職先の社会保険制度や福利制度実施状況を見るとかなり差が見られておる。これは全国的な調査あるいは他県、大阪、京都、広島、鳥取、香川というところをとっておるようですが、同様な結果が出ておる。こんな調査結果が出ておるわけであります。  同和対策審議会の答申から、六五年でございますので既に二十八年ぐらいでしょうか、そういう年月の中で労働省は非常に熱心にこの就職差別の問題といいますか、主要な生産過程に同和地区の方々が入らない限り職業選択の自由といいますかこの問題は解決しないのだ、基本的な問題だという御認識のもとにいろいろな施策を講じてこられていらっしゃると思うわけでございますが、二十数年一生懸命やってこられて、今日のこの実態についてどのようなお考えをお持ちなのか、その点についてお伺いいたしたいと思います。
  164. 若林之矩

    ○若林政府委員 先ほども六十年の数字で申し上げたとおりでございまして、これまで私ども努力を重ねてまいりまして一定の改善が見られるわけでございますけれども、雇用状況はなお厳しいものがあると認識をいたしております。就職差別事案の解消につきましても努力を重ねてまいりました。しかし、依然として年間八百件ぐらいの事案があるということでございまして、まことに遺憾に存じておるわけでございます。  そういった観点から、私ども安定した職業への就職が可能になるようにいろいろな施策を講じてまいりますとともに、企業の公正な採用選考が行われるような指導を行っておりますし、そういったような就職差別の解消に向けて一層の努力を重ねていかなければならないと思っております。
  165. 仙谷由人

    仙谷分科員 採用時の差別の問題が出たわけでございます。最近判明したことでありますけれども、防衛庁で、大阪地方連絡部の中の少年工科学校の採用あるいはその他陸上自衛隊の生徒、海上自衛隊の生徒、航空自衛隊の生徒の採用をめぐって、どうも面接時点に要求する書類、それから面接内容というものが就職差別につながるのではないか、こういう問題が出ておるようですが、その種の事件といいますか事案がございましたでしょうか。
  166. 吉免光顯

    吉免説明員 先生ただいま御指摘のうちの防衛庁関係の事案につきましては、現在のところ承知はしていないわけですけれども、そういう事案がわかりますれば私どもも関係省庁と連携をとりながら対応していきたいと思いますし、従来そういう形で就職差別問題解消に努力しているところでございます。  私どもが全国から集めておりますデータで見ますと、例えば、平政元年度で就職差別案件という のは八百十二件でございました。そのうちの七五%は、先生今御指摘もありましたけれども、面接時の不適切質問でありますとかいうようなものが占めておりまして、こういった点においても私どもの啓蒙啓発というものは、さらに努力する必要があるのではないかというふうに現在考えておるところでございます。
  167. 仙谷由人

    仙谷分科員 防衛庁に限らず、どうもこの就職差別事件関係で、民間の会社もさることながら、官庁各出先機関が相も変わらず、結果としての場合もございましょうし、本人は無意識というふうにおっしゃる場合もあるのでしょうけれども、差別事案を惹起させておるというのが多いようでございます。今申し上げました防衛庁のこの事案でございますが、面接試験の段階で戸籍抄本を要求する、面接内容として住居とその環境を聞く、それから家族関係を聞く、それからクラブ活動についても問いを発して答えを求める、それから趣味についても問いを発して答えを求めるということが行われたようであります。  これについて労働省、いかがでございますか。従来から御指導なさってきた観点からいいまして、こういう項目について問いを発する、あるいは面接試験の段階で戸籍抄本を要求するというふうなことがあったとすれば、これは労働省の職安行政といいますか、指導との関係ではどういうことになりましょうか。
  168. 吉免光顯

    吉免説明員 就職問題について私ども労働省で所管をしておりますし、御指摘のように採用あるいは面接に係って戸籍謄本をとるとかあるいは不適切質問をする、こういうことは避けるべきという認識で対応しております。それぞれの所管の関係の官庁のところの分については私どもも連携をとりながら対応しているところでございますし、御指摘のような事案がございますれば早速に防衛庁とも連絡をとって対応してまいりたいというふうに考えているところでございます。
  169. 仙谷由人

    仙谷分科員 今の点について、防衛庁の課長さんでございますか、おわかりになる範囲でそういう事実があったかなかったか、あるとすればその後どういう経過になっておるのか、お聞かせ願えればと思うのです。
  170. 太田述正

    ○太田説明員 御指摘の自衛隊生徒にかかわる試験、少年工科学校等に入るわけでございますけれども、その試験の際に戸籍謄本になり抄本等の提出を求めているということはございません。また、面接等に当たりましても、受験者の信条ですとか社会的身分等にかかわる差別につながりかねないような質問を行わないように指導しているところでございます。この種の問題で隊員の採用に関しまして特に問題があるという事例の報告は、私どもとして受けておりません。
  171. 仙谷由人

    仙谷分科員 確認をしておきたいのでございますが、大阪府の教育委員会なり大阪府の労働部、ここからいわゆる受験報告書、就職試験を受けた方から報告書を今教育委員会等がとっておるわけでございますけれども、そこにこの陸上自衛隊少年工科学校の件が報告をされておるわけであります。今私が申し上げたような件として報告されているわけです。これについては、大阪府の教育委員会なりあるいは同和教育という部署から何らの申し入れも来ておりませんですか。
  172. 太田述正

    ○太田説明員 御指摘のように、昨年大阪府教育委員会調査されたという事実はあったようでございますけれども、調査の結果、特段問題ありとの御指摘を自衛隊側が受けているようなことはないというふうに承知しております。
  173. 仙谷由人

    仙谷分科員 では、その点についてはこちらの方ももう少し調べてみたいと思いますけれども、いずれにしても、今教育部局では差別につながる十四項目ということがほぼ確認的に挙げられておって、この十四項目については、差別につながらないような方法で採用選考試験を行うようにというのが各府県で行われておると思います。先ほど防衛庁の少年工科学校の件を出したわけでございますけれども、まだまだいわゆる就職差別事案というのが絶えないということでございますので、より一層の厳しい指導あるいは研修等展開をしていただきたいというふうに考えております。  続きまして、日本公認会計士協会東京会というのが「経理不正行為の見つけ方・防ぎ方」という図書を出したそうでございます。その場合に、公認会計士事務所への採用に当たって「健康度合、家庭環境、本人の生立ち、性格、学業成績、趣味、その他、に区分して採用ラインを決めておくとよいでしょう。」それで、その件について「調査」として「これは興信所を利用したり、会社自らが行なうというような方法で、本人の素行、風評を調査することです。」こういう本を公認会計士協会東京会というのがお出しになったというのですが、そういう事実は、労働省、そして法務省の方は確認をしていらっしゃいますでしょうか。
  174. 若林之矩

    ○若林政府委員 私ども、かねてより企業に対しまして、応募者の適性と能力のみに基づく、予断と偏見の入らない公正な採用選考システムを確立するように啓発指導に取り組んでおるわけでございますが、特に就職の際の身元調査は無責任な予断と偏見が入って応募者の適性と能力がゆがめられて報告されるということが多いわけでございまして、就職差別事象につながったケースが数多く見られるところでございます。この観点から、企業が採用に当たって身元調査をしたことが認められた場合には、その企業に対しまして個別指導を行うことといたしておるわけでございますが、先生ただいま御指摘の図書におきましては、就職に際しての身元調査を奨励しているかのごとき記述があることはまことに遺憾でございます。この編者である日本公認会計士東京会に対しまして、関係省庁と連携の上で適切に指導してまいりたいというふうに考えております。
  175. 佐竹靖幸

    ○佐竹説明員 ただいまの御指摘の事案につきましては、私どもとしては現時点においては承知しておりません。
  176. 仙谷由人

    仙谷分科員 いわば税理士事務所というようなところでこういう差別的な採用が行われるとすれば、幾ら啓発というふうなことを言ってみても、どうも国民の間にもむしろ逆の、やはり人間はレッテルがあるとか、肩書があるとか、親御さんがいい人を採用した方が安心だという差別的な風潮につながっていくのではないかと思うのですね。公認会計士とか税理士というのは割と事業者に対する影響力の強いところでございますので、これは法務省の人権擁護の担当部局でもひとつこの辺について調査をして、労働省ともどもこの種のことがないように、あるいは公認会計士東京会というのは研修的な事柄とかそういうことが必要ではないかというふうに私思いますけれども、その点について人権擁護の担当の法務省としてはいかがですか。
  177. 佐竹靖幸

    ○佐竹説明員 法務省の人権擁護機関といたしましては、企業が人を採用するに際し、部落差別等人権侵害を意図した身元調査を行うことはもとより、部落差別等人権侵害につながるおそれのある身元調査を行うことも許されないもの、そのように考えているところであります。
  178. 仙谷由人

    仙谷分科員 ちょっと話題を変えますけれども、企業の研修でございます。いわゆる同和問題あるいは被差別部落の問題についての企業の研修というのが、従前に比べますと相当活発になってきたといいますか、盛んに行われるようになってきておるのではないかというふうに私も外形的には感じておるところでございます。にもかかわらず、例えばこれは有名な事案でございますけれども、リクルートという就職あっせん誌の大手の会社の新入生の歓迎号に、例の三菱化成の社長さんが極めて明らかな差別発言をしたというのが、これは八八年でございますけれども、ありましたですね。私はこの研修について、一つは企業のトップの理解と熱意がどこまであるのかなと。そうしないと、私が聞き及んでいた範囲では、三菱化成というのは同和研修について相当熱心な企業であるというふうにこの一九八八年までの間は伺っておったわけでございます。そしてまた、リクルートは当然のことながら労働行政の関係で、いわば職業安定部局との関連を持ちながら職業あっせんに関連する業を行っていた会社でございますか ら、リクルートの雑誌にまさか三菱化成の社長さんがこのようなことを書く、つまり二重三重の、ある意味では差別問題についての軽視といいますか、そういうことがあったのではないか、こういうふうに思って、当時もこのことについて重大な問題だなというふうに感じておったのですが、このトップに対する研修でございますね、これは今労働省の方でつかんでいらっしゃる範囲ではどういうふうになっておるか。いかがなものでございましょう。
  179. 若林之矩

    ○若林政府委員 やはりこういった問題の解決のためには企業のトップの方々、人事採用のトップの方々が十分理解をされるということが極めて重要でございますので、私どもそういった観点から企業のトップクラスに対する研修を重ねてまいっておるわけでございまして、年々回数、人数もふえてまいっておりますが、平成元年度で申しますと、回数で四百件でございまして、対象事業所数が約三万ということになっております。
  180. 仙谷由人

    仙谷分科員 内容的にも効果が上がっているというふうに労働省の方は見ていらっしゃるんでしょうか。
  181. 若林之矩

    ○若林政府委員 私どももとより、先ほど来申し上げておりますように、毎年約八百の事案というものがあるということはまことに遺憾でございますけれども、やはりこういった研修というものの効果は浸透してきているというふうに考えております。しかしながら、なお今後とも一層この研修の徹底を図っていきたいというふうに考えております。
  182. 仙谷由人

    仙谷分科員 話が飛びますのですが、昨年私、やはりこの委員会質問をさせていただきまして、在日朝鮮人・韓国人の就職差別の問題について労働省質問をしたわけでございます。そして、この在日朝鮮人・韓国人の労働実態がどうなっておるのかということをお伺いしまして、いわば在日韓国人・朝鮮人については研修なんかを企業に求めてはいないというお答えともども就職差別は許さないようなことを我々やっているんだ、それで通達とパンフレットがある、通達とパンフレット等におきまして企業に徹底をするよう指導いたしておりますと言うので、ではパンフレットと通達をいただけますかという話をしましたら、その後に持ってこられたのは通達という、これを持ってこられた。パンフレットは「採用と人権 大阪府労働部公共職業安定所」、これを一つだけ持ってこられた。これです。それで私は、当時の政府委員が通達とパンフレットがあるというふうに委員会の席上で見えを切ったものですから、立派なものをおつくりになって相当熱心にこの点についてやっておるのかなというふうに思ったのでございますけれども、これじゃ幾らなんでも、この二つじゃ、力を入れて外国人、在日韓国人・朝鮮人の就職差別をなくする施策をやっている、量とか格好だけの問題ではなくて、何と言うのですか、いかにも力が入っていないというのが見え見えのような感じなんですね。その点についてはその後何か昨年の盧泰愚大統領の来日を機に一層企業の啓発といいますか、あるいは企業に対する理解を求める、こういう施策をするというふうなことも報道ではなされておるのですが、昨年の四月以降具体的な在日韓国人・朝鮮人に対する就職差別をなくする何らかの施策を行ったのかどうか、その点をお伺いしておきたいと思います。
  183. 若林之矩

    ○若林政府委員 毎年、新規学卒者の募集採用時期におきまして、全国の公共職業安定所におきまして事業主を集めて求人説明会を行っておりますけれども、そういった機会を利用して企業の採用選考が応募者本人の適性、能力中心に行われるよう指導啓発に努めてまいっておるわけでございます。在日韓国・朝鮮人の方々の採用の問題につきましても、ただいま先生御指摘のようにパンフレットなどにその問題を指摘しましてPRに努めているわけでございます。  さらに、労働省では、先般の日韓法的地位協定に基づく両国の協議の中で、在日韓国・朝鮮人に対します就職差別問題が提起されたことなどその問題の重要性にかんがみまして、各都道府県の労働担当責任者を集めた会議におきまして、在日韓国・朝鮮人の就職の機会均等の確保について指示をいたしてまいっております。さらに、ことしの二月に各都道府県に文書で同趣旨の通知を行ったところでございます。  加えまして、韓国政府に対しましていろいろの場で、私ども就職差別の解消に向けて行政指導強化するというお約束をいたしておりますので、このことにかんがみまして、来年度は、事業主が在日韓国・朝鮮人に対する正しい理解と認識を深めるために、新たに在日韓国・朝鮮人の就職の機会均等を図るためのリーフレットの作成、配布、事業主啓発説明会の実施等、指導啓発の一層の強化を図っていく考えでございます。
  184. 仙谷由人

    仙谷分科員 時間がなくなったようでございますが、昨年のこの委員会でも私が申し上げましたのは、実態調査をぜひ、この在日韓国人・朝鮮人の就職がどういうふうになっておるのか、特に、まさに主要な生産過程、主要産業にどういうふうに採用されておるのか、これは調べてみていただきたいという話をしたのですが、そのときの労働大臣は、寝た子を起こすことになるからこれはまずい、こういう答弁をなさっているわけであります。にもかかわらず、この問題は、本籍問題というよりも国籍問題のところでまずはねられる。あるいは、彼らが民族的な主体性を保持しながら生きよう、つまり本名を名のって生きていこうとすればこれは容易でないことだ。それで、この際本名を名のって例えば主要産業に就職をしている方がどのぐらいいるのか。最近はぼつぼつ、テレビなんかを見ておりますと本名を名のった方がスポーツ選手で出てきたり、あるいは大証券会社のアナリストで出てきたりしておりますので、ふえてきておるかもわかりませんですけれども、それをぜひやっていただきたい、こういうふうに要望をしておきたいわけでございます。  この被差別部落の就職差別の問題あるいは不安定就労の問題、そして在日韓国人・朝鮮人の問題、いずれにしましても、私は、差別が人を殺す、特に就職差別というのは若い能力を持った方々が差別を受けて自分の希望した職種であるとか会社に入れない、そのことで人を殺すことがあるのだ、こういうことを痛感をいたしておる一人でございますので、どうかその点、今後ますます就職差別事案が起こらないような強力な指導施策をお願いをいたしておきます。  労働大臣、その点について一言いただければありがたいと思います。
  185. 小里貞利

    小里国務大臣 就職差別につながるような事案が発生いたしておりますことは極めて遺憾でございます。これが適正化のために、先ほど局長など答弁いたしましたような気持ちで最善の努力を尽くしてまいりたいと思っております。
  186. 仙谷由人

    仙谷分科員 終わります。
  187. 粟屋敏信

    粟屋主査 これにて仙谷由人君の質疑は終了いたしました。  次に、菅原喜重郎君。
  188. 菅原喜重郎

    ○菅原分科員 最初に、労働時間の短縮についてお伺いいたします。  現在、我が国は世界最高水準の経済大国としてその地位を築いているのでありますが、しかし、国民は全くと言っていいほどその豊かさを実感していないのであります。その大きな原因は、欧米諸国と比較して労働時間が二百時間から五百時間も長いということにも原因があると考えております。経済成長の成果を労働時間の短縮にも実現させ、国民が日本の経済力にふさわしいゆとりと豊かさを実感できるような社会をつくっていかなければならないと思うわけでありますが、民社党は平成四年度までに年間総実労働時間を千八百時間に短縮することを目標としての政策を掲げて主張してまいっているわけでございます。政府もまた同様な目標を掲げ、国際公約としてもそれに対応しようとしていると思いますが、現在の実情と、そういう目標達成がこれから可能かどうかについて、まずお伺いいたします。
  189. 佐藤勝美

    佐藤(勝)政府委員 まず、最近の労働時間の実態ということでございますけれども、昭和六十三 年四月に改正労働基準法実施をされまして以来、労働時間は着実に減少してきております。ということで、現在年度単位でまとまっておりますのは平成元年度でございますが、年間総実労働時間が二千七十六時間と過去最低となっております。平成二年度もさらに短縮のテンポを速めております。このまま行けば年間三十時間を上回る減少が見込まれるわけでございます。  ただし、所定内、所定外の別でこれを見ますと、週休二日制の普及等によりまして所定内時間は着実に減少しておりますが、所定外労働時間は、最近徐々に短縮しているものの、なお短縮が十分ではないというか、ほとんど短縮をしていないというのが実情でございます。  なお、本年度は、四月一日から新しい政令によりまして週の法定時間が四十六時間から四十四時間になるという予定もございます。それから中小企業におきます年次有給休暇の付与日数も、今まで猶予されておりました六日でありましたのが八日になるというようなこと、それから週休二日制の普及促進、あるいは中小企業の業種、地域によるグループ、あるいは親企業も含めてのグループごとの指導というようなこと、あるいは自動車運転手等一番おくれている部門についての改善基準を見直す、その他のいろいろな措置を講ずる予定にしておりますので、今後時間短縮のテンポは速まっていくものというふうに期待をいたしている次第でございます。
  190. 菅原喜重郎

    ○菅原分科員 いずれにいたしましても、中小企業、個人企業ほど今までの労働慣習等からこの時短はなかなか難しい問題を抱えておりますが、目標達成に向かって最大限の努力をしていっていただきたい、こう思うわけでございます。  平成三年二月に労働省が発表した「労働時間短縮生産向上等に及ぼす影響に関する調査研究結果」、この要旨についてお伺いいたします。  要するに、労働時間の短縮労使の理解と協力があれば十分に生産性を向上させることが可能だということのようでありますが、単に勤労者労働条件改善するという視点ばかりではなく、時短に消極的な企業には人材さえも集まらなくなっているという現実を無視することはできないわけであります。それで、今年の賃上げ交渉も本格化しつつありますが、恐らく時短も大きな課題となるわけでありますから、政府としても目標に向けた具体的プログラムを作成すべきではないかと思うわけであります。  民社党といたしましては、このことのために、国が事業主への労働時間短縮計画を策定させるとか、あるいは時短投資減税の推進として、国は事業主が計画に基づき労働時間を短縮することを目的として合理化、省力化、機器等を導入するに際して、中小企業には五〇%、大企業には三〇%程度の特別償却、または中小企業一〇%、大企業七%の税額控除とか、時短投資減税制度を創設すべきだということ。また、時短環境整備貸付制度の創設といたしまして、事業主が計画に基づき労働時間を短縮することを目的として作業環境改善人材確保のため託児所、寮、食堂などの施設整備を行う場合、その整備運営に必要な資金を低利で融資する時短環境整備貸付制度とか、労働時間短縮推進三カ年プラン、このプランをまず国が策定する、そして、その中に我が国の総実労働時間を三年以内に一千八百時間以下とする目標の設定をなす、公務員の完全週休二日制推進計画、学校週五日制推進計画、公務員の有給休暇取得奨励策、余暇活用促進のための環境整備計画、有給休暇日数の拡大、また五月一日の祝日法制化をなして、これにより四月二十九日から五月五日までを連続休暇とする太陽と緑の週を実現するとか、いろいろプラン、政策を掲げているわけでございますが、労働大臣の所見をお伺いいたしたいと思います。
  191. 小里貞利

    小里国務大臣 まず、労働省といたしまして、私どもが重要な政策課題として最も典型的に、最右翼に置いておりますところの労働時間短縮問題等につきまして、大変貴重な、しかも熱心な御意見をお聞かせいただきまして、心から敬意を表する次第でございます。  本来、労働省といたしましても、先ほど局長など御答弁申し上げましたように、完全週休二日制あるいは年次有給休暇の拡大、そして確実に把握をしなさい、実行しましょう、あるいはまた連続休暇拡大問題等々、先生御承知のとおり鋭意集中的な努力を払ってまいっておるところでございますが、これは、時短の流れは御承知のとおり手がたく着実に進んでおりますものの、先生御指摘ございましたように、必ずしも平成四年をもちまして一千八百時間という最終目標が達成できるよというところまでまだ進んでいないことも私どもは寂しく受けとめておるところでございます。ただいま先生の方から御提起いただきました問題なども十分参考にさせていただきながら対応を進めてまいりたい、かように考えておるところでございます。
  192. 菅原喜重郎

    ○菅原分科員 御所見いろいろありがとうございました。  それでは次に、外国労働者問題に移りたいと思います。  戦後我が国は、自由貿易体制のメリットを最大限に享受して、経済発展を図り、経済大国として確固たる地位を築いてきたわけであります。我が国に今求められていることは、この成果を途上国への援助に振り向け、世界の豊かさに貢献していくことであると思います。このことは、自由貿易体制のもとで大きな位置を占めている我が国の国際的責務でもあるわけでございます。我が国の進んだ技術、技能を途上国の産業発展、人材養成のために生かしていくことは、我が国の国際的貢献の一つとして重視されなければならないと思います。  このため、この目的に合致する我が国内の労働分野外国人に段階的に開放し、秩序ある外国労働者の受け入れ体制を確立していかなければならないのであります。本格的な労働力移動時代に備える、そのためには現状のように各省庁がばらばらに対応していたのでは的確な対策を講じることができないのではないかと危惧いたしておりますので、この点いかにお考えか。  また、首都圏、近畿等の事業所外国人を雇用している実態、さらに労働力補完等の意味を含め、労働力移動時代にどのように対処する方針なのか、労働省にお伺いいたします。
  193. 小里貞利

    小里国務大臣 前段の基本的なところはちょっと私の方からお答えさせていただきますが、先生御指摘のとおり、我が国経済の国際化に伴いまして、外国労働者も、顕著な勢いでと申し上げていいかと思うのでございますが、正規労働者はふえてまいっております。なおまた一面、巷間不法就労者と言われる側面におきましても、その方向であることも御承知のとおりでございます。基本的には、ただいまお話がございましたように、専門、技術的な能力あるいは外国人ならではの能力を有する外国労働者は可能な限り前向きで受け入れていかなければならないという姿勢が一つございます。  それからもう一つは、単純労働者につきましては労働市場あるいはまた我が国経済社会に及ぼす影響などもいろいろとありますよと各方面から、特に労使両面から強い意見などもこれあり、そしてまた、もう先生御承知のとおりでございますが、社会的な各種事業等を中心にいたしましたコストの問題等もこれあり、また、その景気の進展に伴うところの外国労働者の失業問題等も先進国等におきましては数多く見られるところでございまして、それらの情勢等を勘案しながら自粛をいたしておるところでございます。  ただし、研修制度等につきましては御承知いただいておると思うのでございますが、政府及び民間挙げましてこれの積極的推進を図らなければならぬということで、財団等の設置も平成三年度中に行うべく段取りをいたしておるところでございます。
  194. 若林之矩

    ○若林政府委員 ただいま東京、大阪等における外国労働者の就労の実態についてのお尋ねでございますが、私ども研究会の先生方にお願いをいたしまして、昨年十月に関東地方の一都五県の中 小企業対象実施した調査結果がございます。これによりますと、採用時期につきましては、昭和六十三年以降に雇い入れた企業が七八%を占めております。採用経路につきましては、直接応募や知人、外国人従業員、同業者等の紹介が約九〇%でございますが、あっせん業者、派遣業者の仲介も八%程度見られるところでございます。国籍につきましては、バングラデシュが一八%、パキスタン一六%、中国一六%、フィリピン一一%、ブラジル七%などが多くなっております。学歴が明らかな労働者のうちで七七%が中等教育以上の学歴を持っております。高い学歴でございます。在留資格につきましては、短期滞在者を雇用している企業は二〇%。雇い入れた外国人の在留資格が不明の企業は二七%等ございます。職種につきましては、生産工程作業員が六三%、土木建設作業員が一五%、荷役、積みおろし作業が五%、ウェーター、ウェートレスが四%等でございまして、単純労働職種が大半を占めております。最後に給与について申し上げます。月間の給与総額につきましては、同じ職種で就労する日本人と格差があるとする企業が四三%、格差がないとする企業が四五%となっております。外国労働者の給与総額が多いとする企業格差があるとする企業の三五%を占めておりまして、その理由としては、残業時間が長い、賃金相場が高い等を挙げる企業が多うございます。また、外国労働者の方が給与総額が少ないという企業が、格差があるとする企業の六四%を占めておるわけでございます。その理由としては、技能が低い、勤続年数が短い、日本能力が不足している等を挙げる企業が多うございます。長くなりましたが、以上でございます。
  195. 菅原喜重郎

    ○菅原分科員 いずれにいたしましても、外国労働者に対しましてはやはり秩序ある受け入れ体制を我々はつくっていかなければならない、国としては責務があるわけでございますので、この点についてそれでは法務省にお伺いいたしますが、これは不法滞在者と言われる数がどのくらいあるかということでございます。近年外国からの新規入国者数は韓国、台湾、米国などを中心に年間三百万人近い数に及んでいるわけでございますが、滞在事由別に平成二年には正確にどれだけの外国人入国者があるのか、また不法滞在者と言われる数がどのくらいなのか、お伺いいたしたいと思います。
  196. 山崎哲夫

    ○山崎説明員 まず、不法就労外国人の数でございますが、電算機の計算によりますと、平成元年十二月末ではおよそ十万人というように推計をしております。また、就労があらかじめ認められている在留資格で平成元年中に新規に入国した外国人は七万一千九百七十八人でございます。この数は四年前の昭和六十年の四万三千九百九十四人と比べまして六三・六%増加しております。
  197. 菅原喜重郎

    ○菅原分科員 それから、行革審の世界の中の日本部会でこの外国労働者の受け入れについての方向を見出されたようでありますが、総務庁の方からこの概要について差し支えない範囲で御説明いただきたいと思います。
  198. 松田隆利

    ○松田説明員 行革審の事務室長をしております松田でございますが、御答弁申し上げます。  昨年十月三十一日に行革審が発足いたします際に、海部総理大臣から、いろいろな課題検討の一つといたしまして国際化対応の行政についていかなる改革方策があるかという諮問がございまして、その関係で、先生今御指摘の、世界部会と略称いたしておりますが、世界の中の日本部会が一月二十三日に発足いたしているわけでございます。発足の際に行革審の方から示された課題といたしまして、これも多岐にわたるわけでございますが、その一項目に人的文化的交流のあり方という項目がございまして、その一環として、先生今御指摘の外国労働の問題が議論されているわけでございます。それでただいまの段階は、先ほど申し上げました行革審の方から示された多岐にわたる課題につきましてどのような改革問題があり得るかという議論をいたしている段階でございまして、外国労働問題を含めまして今後その問題が具体的にどのように取り上げられていくのか、これはまさに今後の検討次第であるということでございます。
  199. 菅原喜重郎

    ○菅原分科員 いずれにいたしましても、秩序ある受け入れ体制を確立するためには、やはり第一に国内の雇用労働条件及び社会生活へマイナスを及ぼさないこと、この意味で私たちはこの単純労働者の受け入れには原則禁止ということに理解を示しております。しかし、受け入れた以上は、その労働者の人権擁護と医療、保険など国内労働者との均等待遇を確保すること、三には海外経済援助等により途上国への技術移転人材養成に貢献することを主眼としながら、民社党といたしましてはさらに、就労を目的とする外国人の受け入れ範囲の具体的見直しについては法務省に労使、関係団体、学識経験者等による審議会を設置し、労働力需給状況等を考慮して決定するようにすることとか、外国人向けの技能検定制度の創設、これには外国語による外国人向けの技能検定試験を創設し、この技能検定試験合格者への就労を目的とする在留資格を付与できる制度を確立することとか、また海外での日本語教育センターの増設、国際的な日本語検定制度の確立を図るとか、二国間協定による研修、就労制度の確立として、我が国での外国労働者の受け入れ体制を段階的に確立するために現在の研修制度を抜本的に拡充するとともに、研修後一定の技能を身につけた外国人に実務経験としての就労を認めるとか、その他いろいろの主張を掲げているわけでございます。政府としても今後どうかこの規律ある外国人受け入れ、また就労を目的とすることに対しまして積極的に対処していただきたい。そのために政策的にもどのようにお考えなのか、一応お伺いいたします。
  200. 若林之矩

    ○若林政府委員 先生ただいまいろいろと御提言を賜りましたが、基本的には先ほど来お答え申し上げておりますように、いわゆる単純労働者の受け入れにつきましては、労働者定着の問題でございますとか、あるいは景気後退期における外国労働者の失業発生の問題、さらには受け入れに伴います社会的、行政的コストの負担の問題などいろいろ難しい問題がございますものですから、十分慎重に対応すべきであるというふうに考えております。  外国労働者の受け入れにつきましては、これを二国間協定をもってやったらどうだろうか、あるいは人数枠を決めてやったらどうだろうか、あるいは期間を限定したローテーション方式をとったらどうだろうか、こういうことの御指摘等もあるわけでございますけれども、やはり外国の例を見ましてもなかなかその実効について問題があるようでございます。こういった点で慎重に対応すべきであるというふうに考えているわけでございます。  外国人の研修の問題につきましては、先ほど大臣から御答弁ありましたように、国際協力の観点から今後受け入れの促進を図っていくわけでございますし、この点大いにこの外国人研修推進を図っていくべきであるというふうに考えております。そして、そういった際に研修についての技能の評価という問題につきましてはいろいろと研究をしていかなければならないというふうに考えております。
  201. 菅原喜重郎

    ○菅原分科員 いずれにいたしましても、二十一世紀のこの国際化社会に向かって避けて通れない外国労働者の問題でございます。しかしまた一方、まだ国内の経済体制、政治体制がどんどんどんどん労働難民を生むような、そういう政治をやっている国のツケを我々日本が引き受けるようなことがあってもならぬわけでございますので、このことに対しまして誠意を持って積極的に対応していただきたいことを要望し、私の質問を終わります。  ありがとうございました。
  202. 粟屋敏信

    粟屋主査 これにて菅原喜重郎君の質疑は終了いたしました。  次に、五島正規君。
  203. 五島正規

    五島分科員 本日は、就労差別の撤廃につきまして労働省の御見解並びに御努力についてお伺い したいと思います。  一九七三年以来、高校新卒者採用に際しましては全国的に統一した応募用紙を使用するように指導されてきているのでございますが、統一応募用紙の趣旨に反した就職差別事件やあるいは採用選考時の違反事例というのはいまだに後を絶っておりません。また、統一応募用紙ではなく社用紙の使用事例もいまだに多く見られるところでございます。さらに、面接時の不適切質問、親の職業であるとか学歴あるいは収入、自宅への順路等々につきまして採用内定後の書類提出に不当な記載を求めるといったような事例も後を絶ちません。今後とも企業における人材確保競争の激化が続くと予想される中で、社用紙の使用などによる家族の職業調査あるいは身元調べにかかわる調査あるいは家庭環境調査など違反調査を行う企業が続出されることが予想されるのでございますが、労働大臣はこの問題につきましてどのようにお考えであるか、お伺いしたいと思います。
  204. 小里貞利

    小里国務大臣 就職及び職場での差別撤廃に向けた大臣の基本的姿勢を、こういうことであると思うのでございますが、労働省は、同和関係住民の就職の機会均等を確保することはいわば同和問題解決の中心的な問題点である、課題である、こういう認識のもとに、就職確保あるいは職業の安定を留意しながら、特にまた関係企業に対する啓発指導の徹底等に努めて、そして差別の解消に全力を挙げてまいっておるところでございます。
  205. 五島正規

    五島分科員 就労に際する機会均等の確保ということが基本であるという点につきましては、私も全く同感でございます。その点につきましてもう少しお伺いしたいと思うわけですが、公正な採用選考を実施するためにも今企業内同和問題研修推進制度が設けられているわけでございますが、この制度、その推進員の設置基準が百名以上の従業員を抱えている企業ということになっております。もちろん府県においてはその基準を三十名以上としているところもあるわけでございますが、例えば私の出身でございます高知県では、百名以上の民間企業に就労する同和地区居住者はわずかに一一%程度にしかすぎません。多くが百名以下の従業員を持つ企業就職しております。そういう意味では、この百名以下の従業員を持つ企業における企業内同和問題研修推進制度の確立ということが非常に重要であるというふうに考えるのでございますが、労働省はこの点についてどのようにお考えか、また、こうした中小零細企業におけるこの問題についてどのように御指導なさるつもりか、お伺いしたいと思います。
  206. 若林之矩

    ○若林政府委員 労働省といたしましては、同和関係住民の就職の機会均等を確保することが同和問題解決の中心的課題と認識をいたしておりまして、そういった意味で、事業主が同和問題について正しい理解、認識を深め、公正な採用選考が行われるよう啓発啓蒙の展開をすることが重要であると考えております。このため、従来から事業所に対しましてはただいま先生御指摘の企業内同和問題研修推進員の設置を要請いたしまして、これら推進員に対して定期的に研修を実施いたしまして、推進員を通じて同和問題についての正しい理解と認識が各事業所に浸透し、公正な採用選考体制が確立されるよう努めてまいっているところでございます。  推進員の設置状況について見ますと、百人以上については九八%が設置されておるわけでございますが、百人未満につきましても設置を進めているところでございますけれども、今後関係府県の状況も勘案いたしまして、ただいま先生御指摘のような実態もあるわけでございますので、逐次設置範囲の拡大について配慮していきたいというふうに考えております。  なお、現在推進員が未設置となっております中小零細事業所に対しましては「採用・選考自主点検資料」、こういうものをつくりまして、こういうものをお渡ししまして御自分でいろいろチェックしていただく、こういうようなことも行っておるわけでございまして、今後とも粘り強く啓蒙啓発に努めてまいりたいと思っております。
  207. 五島正規

    五島分科員 推進制度推進、特に中小零細企業の中におけるそうした推進をぜひとも図っていただきたいのでございますが、同時に推進制度が設置されておれば問題が解決しているかということを考えてみますと、そうとは言えない、残念ながら言えないというふうに思います。例えば一九八九年に発覚いたしましたブルーチップスタンプ株式会社の差別事件というのを考えてみますと、御承知のように、この企業内の採用時の選考マニュアルとして次のような記載がございます。「ブルーチップの社員として不適正な者」、すなわち「経営活動を阻害するおそれのある者は、絶対に採用しない。採用してからは手おくれであり、予防すること。」という頭書きの下にまず最初に、「同和者(部落出身者)の取り扱い」というふうなことが書かれていたわけでございます。部落出身者の排除をこれほど明確に打ち出したというのは驚きでございます。この企業企業規模から当然企業内同和問題研修推進員が設置されていたはずでございます。しかし、このような状況の中で全く役に立っていなかったということが証明されたというふうに考えるわけでございます。このブルーチップスタンプのこうした事件について労働省の御認識と、それから推進員の活動の強化についてどのようにお考えなのか、省としてのお考えをお伺いしたいと思います。
  208. 若林之矩

    ○若林政府委員 ただいま先生御指摘になりましたブルーチップスタンプの問題でございますけれども、問題の採用選考マニュアルの記載は、客観的に見まして同和関係住民を排除するものと読まれても仕方がないものと思われます。私どもではこの観点から同社の啓発指導を行うように東京都に指導をいたしているところでございまして、また、昨年五月にこの会社の社長等を労働省に呼びまして厳しく注意をしたところでございます。推進員に対する研修というものも私ども進めてきておるわけでございますし、企業のトップに対する指導も進めてまいっておるわけでございますけれども、こういった事案でございますので、さらにその研修の徹底を図ってまいりたいというふうに思っております。
  209. 五島正規

    五島分科員 こうした事件が発生して後、労働省ないしは職安の方でその事業主を呼んで注意する。もちろん事件が起こればそのように御指導いただくのは当然でございますが、そうした事件が起こらないように、あるいはいま一つ大切なことは、推進制度実施されあるいは企業内での同和教育が実施されていたとしても、それが形式に終わってしまうということがあっては意味をなさないわけでございます。そういう意味におきまして、そうした真の意味での就労差別撤廃に向けての労働省としての今後の御方針があればお伺いしたいと思います。
  210. 若林之矩

    ○若林政府委員 私ども、ただいま先生御指摘のように企業内の同和問題研修推進員というものを置いてその指導をいたしておりますし、いろいろな機会に指導を進めておるわけでございますけれども、現実にこのような事案が起こっておるわけでございまして、今後ともこういった企業内同和問題研修推進員の研修とかあるいは企業のトップクラスに対する研修、こういったものを粘り強く進めていかなければならないというふうに考えているところでございます。
  211. 五島正規

    五島分科員 今の労働省の御対応では、悪質な企業については結果的には処置のしようがないという事例もあるように思います。  いま一つ事例を挙げますと、一九八九年の九月に発覚した事件でございまして、広島県の企業での就職差別事件、東洋シートでございます。その事件についてでございますが、この企業の場合は極めて大々的な企業を挙げての身元調査実施している。しかも身元調査、自社の社員によるだけでなくて、興信所まで使って身元調査を行ったという事件で、極めて悪質でございます。この事件に対して省の方としてどのように御指導なさったのか、まずそれをお伺いしたいと思います。
  212. 若林之矩

    ○若林政府委員 この件は、昨年九月でございますが、株式会社東洋シートが新規学卒者の採用選 考に当たりまして応募者の身辺について電話で身元調査を行っているという応募者の出身校よりの提起があったわけでございまして、この件を所管いたします広島県の職業安定課が同社の社長及び人事労務担当幹部を呼びまして事実の確認に努めておるわけでございますが、同社はその事実を否定している状況でございます。
  213. 五島正規

    五島分科員 同社は事実を否認したといっても、事実関係として多くの学校から、採用された元生徒あるいは不採用になった人たちからの事実関係が非常に明らかになっているわけで、そのことに関しましては、広島の職業安定所自身がこの事実関係を認めた上で、昨年七月の六日になってもこの問題について事件解決ができないということで、その時点で、新たに新規高卒対象者に対する求人票が東洋シートから提出されたときに、職業安定所は、この問題は基本的人権を尊重し公正な採用選考を確保する上で行政の指導責任社会的に問われる問題であるとして、求人票を一たん預かりとされた経過がございます。しかしその数日後、七月十八日になりまして、現行法上受理せざるを得ないということで、職安はこの預かりを解き、この求人票を受理確認したという事実がございます。この点については、労働省確認しておられるのでございましょうか。
  214. 吉免光顯

    吉免説明員 先生御指摘の経過は私どもも承知しておりますし、そういう経過も踏まえ、さらに推進員等を通じながら研修等を徹底するように指示しておるところでございます。
  215. 五島正規

    五島分科員 例えばこれは不採用になった人に対する調査でございますが、本人と妹の素行、それから母親の仕事は何か、夜の仕事か、化粧は厚いか、男性の出入りはあるか、母子家庭だが離婚か死別か、離婚なら原因は何か、御主人はどんな人であったか、アパートは場所もよいし新しいし家賃が高いのではないか、しかし家賃が安いのはどうしてなのかというふうなことまで電話でもって近所の人に聞いているという事実がございます。このような、企業が明らかな人権侵害を行って、かつこの事件のように居直った場合、現行の法律のもとにおいてどのように是正させることができるのか、お伺いしたいと思います。
  216. 若林之矩

    ○若林政府委員 このような差別事件というものがなお後を絶たないということは、まことに遺憾なことでございます。「因習的な差別意識や新たに差別意識の解消を促進することは、新たな差別意識を生む要因を取り除くとともに、人権尊重の立場で、ねばり強く啓発活動を展開し、差別を生み出している心理的土壌を変えていくことによってのみ可能となる。」と六十一年の地対協意見具申は述べておりますけれども、私どももこういった事案について文字どおり粘り強く啓蒙啓発を進めていく、企業のトップの方々のそういった意識を取り除いていくということのみによってこの問題の解決の道があるというふうに考えておるわけでございまして、今後とも私ども粘り強くその努力を重ねていきたいというふうに考えております。
  217. 五島正規

    五島分科員 高校を卒業する若者がこれから社会に出ようという、そういう人生の中において通常極めて希望にあふれた時期に、このような理不尽な理由によって採用を差別されている。そういうふうな状況を考えた場合に、私自身本当に憤りでいっぱいになってしまう状況でございます。就職に際する企業の差別行為というのは、まさに基本的人権である労働者労働権を奪うものでございます。しかし、現行の法律においては被害者に対する救済、あるいは差別した者を罰する法的な根拠はないのではないかというふうに考えますが、労基法あるいは職安法といったようなものによって、現行のこの法体系の中においてそうした救済なりあるいは差別者に対する罰則が可能であるかどうか、その点はどのようになっているのでございましょうか。
  218. 若林之矩

    ○若林政府委員 先ほど先生御指摘ございましたような職業安定法の紹介の受理の問題でございますけれども、これはやはり法令違反の場合に受理をしないことができるわけでございますが、非常な悪質な事例で民法の公序良俗に反するというようなものでございますと、私どもとしてそういったような措置を講ずることができるわけでございます。しかし、いずれにいたしましても、このような差別事案というものを、一般に差別行為を根絶させるということになりますと、法的な制裁と申しますかそういうものでなくて、やはり差別意識に焦点を当てた啓発を本当に粘り強くやっていくということが根本的な解決策である、それはまことに迂遠なように思われるわけでございますけれども、しかし、根本的にそれなくしては問題の解決はないと私どもは認識をいたしておりまして、今後ともできる限りの努力を続けてまいりたいというふうに考えております。
  219. 五島正規

    五島分科員 今後ともぜひこの面についての労働省の御努力をお願いしたいというふうに考えます。とりわけ、現行の法律の中において法に違反という明確な根拠を指摘することは困難であるけれども、明らかに人権が侵害されている、しかし、法体系の不備によってそうした救済なり、特に心理的なこうした大きなダメージに対する救済、あるいはそういう基本的な労働権という人権を侵害している企業に対して何らの処置ができないという状況、そういうふうな状況をなくしていくためには、ぜひそういう啓蒙活動等もあわせて労働省としても法的な面においても検討をされるべきではないかと考える次第でございますが、そのあたりについて何か御意見がございましたらお伺いしたいと思います。
  220. 若林之矩

    ○若林政府委員 同じお答えをして恐縮でございますけれども、やはり私ども、こういった一般的な差別行為というものを根絶させるためには、確かに迂遠なように思われますけれども、しかし、やはり企業のトップなり人事採用の責任者なり、こういった人たちにしっかりとこの問題の本質を理解してもらうということによって初めて問題の根本的な解決が図られるというふうに思っておるわけでございまして、ただいま先生御指摘のようないわば制裁と申しますか法的措置と申しますか、そういったことではなくて、やはり啓蒙啓発活動というものを粘り強く繰り返すことによって問題の解決を図っていくべきではないかというふうに考えておるところでございます。
  221. 五島正規

    五島分科員 これまでも労働省がこの就労差別の撤廃につきましていろいろと御努力をいただいてきたという事実は私も認めるところでございます。しかしながら、こうしたような極めて残念な事件がいまだに後を絶たないということでございまして、そのためにも、中小企業も含めた推進制度の設置あるいは企業内における同和教育の推進ということにつきましてはぜひ省としても今後一層の御努力をお願いしたいというふうに考えます。  最後に大臣にお願いでございますが、高知県におきましては、同和地区居住住民の二六・七%の人たちが日雇い労働あるいはパート労働に就労しておられます。これは、高知県全体の中においてそうした日雇い労働あるいはパート労働に就労しておられる方が七・五%であるという比率と比較してみた場合に、まだまだ地区の住民にとって不安定就労の状態が大きいということが言えるかというふうに考えています。  そういう意味で、この不安定就労の解消の施策ということにつきましてもぜひ大臣の御意見をお伺いしたいということとともに、こうした実態を大臣自身が直接視察いただいて、そのことによってこうした現在の就労差別の問題あるいは不安定就労を解消させていくための先頭に立っていただきたい。その点についてどのようにお考えか、御意見をお伺いしたいと思います。
  222. 小里貞利

    小里国務大臣 最後にお聞かせいただきました不安定就労対策、これも大変肝要な施策が求められる問題だな、さように受けとめております。  なおまた、労働行政の責任者がそのようないわゆる同和住民地域の現場を視察する、そしてまた、貴重な行政への資料等も得られるであろうということはよくわかります。昭和五十四年、さらに昭和六十年、二回労働大臣が、大阪、福岡でございましたか、それぞれ視察をなさった経緯もある ようでございます。ここ当分労働大臣が現場を視察申し上げたことがない状況にもあるようでございますので、また、せっかくのお話でございますから、後刻事務方ともよく相談をして対応いたしたいと考えております。
  223. 五島正規

    五島分科員 ぜひよろしくお願い申し上げまして、私の質問を終わらせていただきます。
  224. 粟屋敏信

    粟屋主査 これにて五島正規君の質疑は終了いたしました。  以上をもちまして労働省所管についての質疑は終了いたしました。  次回は、明十二日火曜日午前九時から開会し、厚生省所管について審査を行うこととし、本日は、これにて散会いたします。     午後六時三十五分散会