○堀
分科員 実は、今の脳死の問題について日本医師会の方は脳死を死と認めるという判断でありますし、厚生省の方の
竹内基準というのは脳死状態という形でその問題を提起しておるのでありますが、私は一人の医者として
考えます場合に、脳死というものが、どうしてこういう形の状態が生まれたかというと、人工呼吸器が非常に発達をいたしまして、要するに患者自身は呼吸する能力がなくても人工呼吸器でずっと呼吸ができるようにする。そうしますと、脳死の状態というのは脳幹
部分が機能を喪失しているために起こることなのでありますから、もし人工呼吸器がない時代ならばもう間違いなく二十四時間なり四十八時間後には死亡しているのですけれ
ども、人工的に呼吸ができるようにしますと、人間の心臓というものも反射的に心臓が動いて血液が循環できる。ですから、脳は脳波その他で脳死状態ということになっていても、実は体全体の組織は依然として生き続けているという状態が起きる、これが脳死という状態なのであります。
これは要するに、ノーリターンポイントということで、ここを越えたらもう生き返ることはできないというポイントを越えたものを言っているわけでありますが、それは全体の死亡者数の中の一%弱しか実は起きないわけです。それは、今の集中治療室、ICUと言っておりますけれ
ども、そこに搬入された患者が救急医療医の治療を受けて、そういう人工呼吸器で呼吸がとまってもやっておるときにだけ起こるのでありますから、普通の我々開業医が診療に行っても、そういう状態が起きても人工呼吸器がありませんから、そのままであればいわゆるこれまでの三徴候の死、要するに心臓の停止、呼吸の停止、瞳孔反応がなくなる、こういう三徴候で我々は死というものを扱っている。そうすると、脳死が一般的な死だということになると、一般の開業医は対応できないわけです。要するに、これは特殊的な状態ですから、そういうのは脳死状態ということで、ICUの中で起きる
部分である。一般の九九%は私
ども一般的な医師が治療していて、もちろん人工呼吸器のあるところは別ですが、ない我々にすれば、一々そんなものを担いで往診に行くわけにもいかないわけでありますから、持っていなければこれまでの三徴候による死を一般的な死と理解する以外にないのじゃないかというのが私の
一つの認識でございます。
もう
一つは、今ここにちょっと差し上げましたけれ
ども、集中治療室にいる医師は、患者さんが運ばれてきましたら何とかして生き返らそうと思って一生懸命努力するわけです。しかし、残念ながら努力しても脳死状態になるというのは避けられない場合があります。脳死状態になったら今度は移植医が、ひとつその臓器を提供してもらえるように話をしてくれ、こうなるのですけれ
ども、私も医者の一人として、一生懸命命を長らえようと思ってやっている患者さんがある時点でノーリターンポイントを越えた、手のひらを返すように今度は、あなたの臓器をひとつ臓器移植で出してくださいなんて、医者の良心としては原則的に言いにくいことなんですね。それが一点ございます。
それからもう
一つは、今のこの問題で、新聞にもちょっと出ておりますけれ
ども、臓器を提供してくれる方、ドナーと言われる者がなかなか出てこない。出てこない理由は、要するにそういうことを本人は初めに予測してないわけです。脳出血が起こるとか脳の外傷が起こるとか、突然としてそういう脳の障害を受けた者が脳死状態になる。本人はそれについて事前に何の話もしてない。そうすると、あとは家族の判断になるわけです。家族にすれば、やはり自分の家族が脳死状態になっても、まだ体温はあるし、一応人工呼吸器で呼吸はしているし、脈があるものの、よろしいですよ、臓器を提供してもいいですよということは、人情としてなかなかそういうことは言いにくい状態にある、こういうことでございます。
そういう状態で、いろいろ問題があるにもかかわらず、各大学では、ここにもちょっと「先陣争いには批判」とありますが、やはりこれは治療という問題もさることながら、自分たちが、和田移植以来日本で最初に心臓移植をやった、脳死状態で肝臓移植をやったということが、
学術的には確かに
一つの実績になると思いますけれ
ども、しかしそれは国民全体から見ますと余り適当なことではない。
ですから、きょう私がこの
文部省の
委員会でこれを取り上げさせていただいたのは、厚生省は例えば循環器病センターあるいは厚生省所管病院については、下条さんがこの前厚生
大臣になられたときも、脳死臨調の
結論が出て、そういうことがはっきりした後でなければ厚生省所管の病院については臓器移植は認めませんと、就任のときに発言しておられるのですね。私ちょっとテレビで見ていましたから、ああ下条さんちゃんとまともなことを言ってくれたなと思ったわけです。ところが、主たる競争をしているところは国立大学や私立大学の医学部でして、厚生省はこれに対しては何らのコントロールの力がない。
そこで、きょう私が今
大臣にお願いをしたいと思いますのは、国立大学というのは少なくとも国が費用を持ってやっておる
文部省所管の教育
機関でありますね。私学は確かに私立でありますけれ
ども、これもやはり要するに私学助成金というものを国が出して、それによって運営をされているのが
現状だろうと思うのですね。そういたしますと、国会が脳死臨調というものを決議をいたしまして、そうしてそれが、今山口
審議官の
答弁にございますように鋭意努力をして、要するに
平成四年の一月までには最終
結論を出そうといろいろな
範囲で研究しておられるさなかにそれを無視して、うまくいけば私はとがめる気はありませんけれ
ども、うまくいく保証があるかというと、私は非常に心配なわけであります。もしここでまたミステークをやりましたら、もうあと十年、二十年日本では臓器移植は行えなくなります。
実は私は外国の
関係の仕事をいっぱいやっておりますけれ
ども、よく言われるのは、ともかく日本が、自分たちが能力はありながらまともな対応をしていないものが
二つある。
一つは、移植技術がしっかりしているにもかかわらず外国の、例えばアメリカにしろオーストラリアにしろイギリスにしろ、やはり臓器提供者というのはそんなに数があるわけではありません、その臓器を求める人が順番を待っているところに日本から行って割り込む。あなた方は能力を持っていながら、一体どうして自分の国でやらないのですかということを、私は向こうの医者の立場の人たちからよく言われます。
もう
一つが、実は今後ろに関さんがいますからちょっと問題がありますけれ
ども、日本は原子力発電所があって、この燃料を再処理するのに実はフランスやイギリスへ運んでやってもらっているのですね。これも私
どもよく向こうで言われるわけですね。あなた方、能力があるのに自分のところでどうして再処理しないでわざわざフランスやイギリスへ持っていって再処理しているんだ。要するにこの
二つが、そういう国から見ますと、日本は能力がありながらちゃんと自分でまともにやらない、こういうことになっているわけなんですね。
その原子力発電の話は別でございまして、きょうは脳死の話なんでありますけれ
ども、だからどうしても私は、日本で脳死の問題をきちんとして
私
どもが法律的に殺人罪で告発をされることがないような法制的な整備を進めていかなければいかぬと思っているのですが、それには臨調の答申を得て、その上でまた生命倫理研究議員連盟で
皆さんと十分相談し、またいろいろな
関係者を呼んで、どういう処置をすれば今の脳死状態で臓器移植をやっても告発されないようになるか、それに対する法的な担保をどうするかというようなことを手順を追ってやっていきたい、そうなった上でならば各大学は大いに、慎重にやっていただかなければなりませんけれ
ども、今度は公式に脳死状態に対する法的な整備もできるし、あるいは今の告発に対する対応措置もできるとなれば、問題は非常に前向きに安定的に発展するだろう、私はこう
考えておるわけです。
そこで、
大臣にきょうひとつお願いをしたいのは、各大学のそういう臓器移植の問題について、既にオーケーを出しておるところ、まだオーケーを出していないところはいいのですが、オーケーを出しておるところについては今現在こうやって脳死臨調というものが法律に基づいてつくられてそれが鋭意やっているし、私
どももこれをうまくやるためにその後の脳死臨調の答申を得て立法作業に入って、
皆さんが問題なく処理ができるようにやる間、もう少し慎重にこの問題に対処してもらいたいということを、
文部大臣としてそういう各
関係大学に指示をしていただきたいということが、本日私がこの文教の
委員会でこの問題を取り上げている理由でございます。それらの問題について、最初にもし
局長の方で
お答えになるものがあれば
局長から
お答えいただいて結構ですが、
大臣から直接
お答えいただいても結構ですから、ひとつよろしくお願いしたいと思います。