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仲村公述人 仲村でございます。
私は、一転いたしまして、専門が
社会保障、特に
社会福祉の問題でございますので、
平成三年度
予算案の
関係で盛り込まれております
社会福祉
関係の
予算中心に私の所見を述べさせていただきます。
まず、総括的な数字でございますけれども、来年度の
一般会計予算の総額は御案内のように七十兆三千四百七十四億円、そのうちの政策経費であります一般歳出は三十七兆二千三百八十二億円でございますけれども、その中で
社会保障
関係費は十二兆二千百二十二億円となっております。これは一般歳出対比では二八・三%となりますが、この数字を少しこれまでの経過をたどって顧みて見てみますと、一般歳出対比の
社会保障
関係費の割合は、一九七〇年度では一九%でございました。八〇年度では二六・七%、そして昨年度、本年度と三二・八%と、これは、高齢化の進行とともに
社会福祉、
社会保障の充実のための
国民の要求も高まり、また経済的な
対応の能力もそれだけ
日本は高まってまいりましたから当然だといえば当然でございますけれども、ここまで
社会保障
関係費の比重が高まってきたということ自体は高く評価してよろしいことかと思います。もしこれに、
国際的な通念としては恩給
関係費なども
社会保障
関係費に入りますので、これを加えますと三七・七%、四〇%近くになります。今後に向けてぜひ、これから述べます
社会福祉の充実の方向でこの
社会保障
関係費の相対的な比重についても現在の水準を落とさないように、一層これを充実させていく方向で今後の
予算についてはお考えをいただきたいと思います。
そこで、事柄をもう少し限定をいたしまして、
社会福祉の方の事柄に重点を置いて申し上げたいと思います。
社会福祉は、今日御案内のように非常に大きな制度改革の過程にあります。
社会福祉の制度は戦後、私どもは
社会福祉の三法と申しておりますけれども、生活保護法、児童福祉法、身体障害者福祉法が一九四〇年代にできまして、五〇年代の初めに
社会福祉事業法ができ、この四つの法律がいわば
社会福祉の当時の象徴的なサービス法でございましたが、その後、経済の高度成長下に一応福祉サービスの枠が広がって
社会福祉の六法となりました。
社会福祉事業法及び
社会福祉の六法を中心に一九五〇年代に組み立てられました
社会福祉の行政あるいはサービスの供給の仕組み等々の入れ物の枠組みが基本的には変わらないままで今日に至っておりまして、今日の非常に大きな状況の変化の中で、そうして特に高齢化の進行とともに変わってきております状況の変化の中で、古い仕組みの
社会福祉は今日用をなさなくなる、適合しなくなるということで、
社会福祉の制度の大きな見直しがこの十数年来問われてきております。
そういう状況下におきまして、一昨年の三月でございますけれども、厚生大臣の
社会福祉に関する諮問
機関が三つございます、福祉
関係の三
審議会と申しておりますが、この合同企画分科会が「今後の
社会福祉のあり方について」という厚生大臣に対する
意見具申を出しました。この内容を細かくここで述べている余裕はございませんけれども、その方向づけとしては、基本的には市町村の
役割を重視する、住民に一番近いところの地方自治体が責任を持って
社会福祉の行政なりあるいはいろいろな
関係業務を積極的に推進をする、そういう責任を市町村に持ってもらう必要がある、そして在宅福祉を充実する、これが一つの大きな目玉になっております。これまでの
社会福祉は、施設に例えば老人、障害者等を、昔の言葉で申しますと収容をして、今日の言葉では入所をさせて、そして施設福祉サービスとして、特にさかのぼりますと貧困の、経済的に恵まれないそういう要援護者を施設に収容して援護するという、そういう
社会福祉でございましたけれども、明らかに世の中は変わってまいりまして、そういう施設も大事だけれども、その施設自体も経済的な要援護者だけではなくて、例えばいわゆる寝たきりのお年寄りに対する特別養護老人ホームに見られますように、経済的な
条件を問わずに、介護を要する、そして家族が見切れないお年寄りをお世話をする、そういう老人ホームに象徴されますような
社会福祉が広がってまいりました。しかし、決定的に数年前までの
社会福祉で欠けておりましたのは、施設福祉に対する在宅福祉という面の貧弱さでございます。
これは細かい数字をいろいろ申し上げるとすぐおわかりいただけることでございますが、私調べてみましたら、一九八〇年度という年で、
政府の
一般会計予算の中で施設福祉に対して在宅福祉に向けられておりました
予算は二十分の一にすぎませんでした。その後徐々に在宅福祉はその重要性が強調され充実してまいりましたので今日はそういうことはございませんが、来年度の
予算案でこれを調べてみましたところが、かつての二十分の一は一対四になっております。現年度で一対五で、来年度は一対四になります。これは当然二十一世紀に向けての
社会福祉の充実の方向は、施設福祉とともに
地域における在宅福祉を伸ばしていって、そして施設福祉と見合う程度に、私は私見としてはこれは、一対一というのは必ずしも望ましいとは思いませんけれども、少なくも三対二、施設福祉に対して在宅福祉は二ぐらいのところまで伸ばしていくということで、二十一世紀に向けて在宅福祉を伸ばしていって、そして
地域において在宅福祉と施設福祉のネットワークと申しますか、福祉サービスの網の目を在宅看護ないしは在宅保健サービスと、保健と福祉が提携する形で
地域に伸ばしていって、そうした
地域において
地域の住民がそのサービスを主体的に選択をして利用できるような、そういう保健と福祉のサービスの網の目をつくり上げていくということ、これがこの「今後の
社会福祉のあり方について」で
意見具申として出された基本線でございます。
これまた
委員の皆様御案内のように、これを受けて、これと軌を一にして、一昨年の十二月にはいわゆるゴールドプランといいます高齢者保健福祉推進十か年戦略が策定されました。私は率直な感想としてそのとき、これはどえらい計画が出たものだ。大変申しわけないことですけれども、福祉
関係ではこれまでも随分いろいろな計画なるものが出されて、これらは全部が絵にかいたもちであったというのは言い過ぎかもしれませんが、少なくも出された計画が一〇〇%そのまま実現する方向で具体化されたという例はいまだかつてございません。状況は変わっておりますから、こういう計画の推進ということについては
政府も大いに力を傾けられるとは思いましたけれども、正直のところこれが一〇〇%で計画の具体化に動き出すというところまでは予想いたしませんでしたが、一昨年の
予算編成過程、つまり本年度の
予算編成過程でこの高齢者保健福祉推進十か年戦略、ゴールドプランで立てられた十カ年の年次計画に基づく計画に
対応する数値が計算されて、そしてこれが全部、本年度の
予算では全額通るという、いまだ福祉
関係では例を見ない結果が生じました。そして来年度はその二年次でございます。来年度の
予算案の組み立てられる過程で私はこの点を大変注目しておりましたが、これまた要求が全額、満額通るということで、少なくもこのゴールドプランの
最初の二年は計画どおりにすべてが
予算化されるということで、これはもう大変高く評価してよろしいことかと思います。
ただ、これはそう簡単に喜んでいるわけにはおれませんので、
関連してたくさんの今後の十年に向けて検討しなければならない課題がございますし、また
予算的にも、すべてこれが
予算に絡んでまいりますので、その計画を実質化するためのいろいろな手だてをこれから講じてもらわなければならないわけですけれども、そういう視点から見まして、これも時間が限られておりますから、二、三のごく大事だと思われる問題を具体的な数字等にも触れて申し上げてみたいと思います。
例えば象徴的な、これも細かく挙げますと切りがありませんので、十カ年戦略で打ち出されております象徴的な事項の一つとして、在宅福祉の充実ということですと、当然人の面で、いわゆるホームヘルパーの充実ということが問題になります。ホームヘルパーを一つの例に挙げてみますと、十カ年戦略では二〇〇〇年、
平成十一年にホームヘルパーを十万人にするという数字が挙がっております。これは、現年度におきましては
予算措置の枠はほぼ三万五千人であったかと思いますが、来年度これを五千人ふやして四万人を超えるということになっております。これは十万人にしたとしてもどうかというようなことがよく問題になりますけれども、ともかくここまでは絶対に達成しなければならない数字、目標として
政府はお立てになったのだと思いますので、これは何としてでも実現をしていただかなければならないのですけれども、さて、これを実態がどうかということで見てみますと、地方自治体が直接市町村にこれをおろしていって責任を持ってもらうことになっているわけですが、決して地方自治体はこれの受け皿として十分な
対応措置ができておりません。例えば、地方自治体の首長が大変福祉に熱心であり、そして困難な財政の中でもできるだけ福祉には力を割いて福祉を充実するということに熱心に取り組んでおられるようなところは明らかに一歩も二歩も進んでおりますけれども、いろいろな
理由がつけられて、例えばホームヘルパーを置いてみたところでホームヘルパーへのサービスを要求する人がそんなにいるわけではない、置けと言われてもこちらは困るというようなことで、消極的な自治体も決して少なくはありません。
そういうような状況下で、これまでに比べますと、これを思い切ってふやしていくということが実現できるようにするためには、市町村の福祉行政の強化ということがあらゆる面で今後に向けて考えられなければなりませんし、また、市町村行政の担い手としての人の問題等も含めての福祉行政の強化が必要でございます。ですから、国のレベルで立てられますこういうゴールドプランのような計画が実質的な中身を伴って十年間充実していって、そしてそれが
地域における
国民の福祉の向上のために実質的に役立てられるというようなところまでいきますためには、このあたりのことを十分に考慮に入れて今後の行政を進めてもらわなければなりませんし、また、
予算的な
措置もこの面では十分に今後に向けて配慮されてしかるべきだと思います。
例えば、ホームヘルパーのイメージというのは、大変残念なことですけれども、決して一つの、とうとい仕事ではあるけれどもちゃんと
社会的に評価される職業ということにはなっておりません。したがって、こういう人手不足の時代には特にそうですけれども、処遇もまだ不十分なままで、こういう仕事にどんどん入ってくれるというような労働力が確保できるかどうか、マンパワーが確保できるかどうかということになりますと、大変心もとないところがあります。来年度の
予算案を見てみますと、このあたりも単価のアップ等についてはそれなりの配慮がされておりますけれども、恐らく今後に向けては、これだけでは不十分だということで、ホームヘルパーの受け皿の仕組みを充実させるというようなことをいろいろな面で考えていかなければならないだろうと思います。
もう一つ例を挙げますが、このゴールドプランで一つの目玉として大変強調されましたのが、今までなかったもので新しいセンターを
地域に設けるということで、在宅介護
支援センターというものが柱が一つ立てられて、これは二〇〇〇年には、
平成十一年には一万カ所に設ける。このプランが立てられましたときはこれはゼロであったものですが、一万カ所にする。そしてこれは、本年度の
予算では三百カ所、来年度これが四百カ所ふえて七百カ所にする、そして
平成十一年には一万カ所にする、こういうプランが立てられております。私、先ほど、当初の二年はともかく予定どおりいったけれども今後に向けて大変心配だと申しますのは、例えばこういうところにも見られるわけですが、本年度この三百カ所をこなすのに必ずしもスムーズに事柄が進んでいるとは言えません。来年度四百カ所、今後に向けて一万カ所と申しますと、これはほぼ中学校区に一カ所でございますけれども、そしてこの
考え方自体は大変結構な、つまり
日本国民、全国どこに住んでおってもその住んでおるところのごく近くで、介護の問題等で困難に直面している
国民はそこに足を運んで二十四時間サービスで相談に乗ってもらえる、そして何らかのサービスと結びつける機能も果たす、そういうねらいで、そしてそこにはフルタイムの保健と福祉の専門家を置いて、ボランティアを組織化してそういう体制を整えていく。アイデアとしては大変結構でございますけれども、これをフルタイムの、二人と仮にいたしましても一万カ所で二万人の専門の職員を今後確保しなければならない。先日、こちらの
委員会で看護婦さんの問題が取り上げられておりますのをたまたま私も拝聴いたしましたが、同じような、ある
意味でそれ以上に深刻な問題に福祉の
世界でも今日私ども直面しております。
そういうような状況下で、こういう入れ物のセンターをつくるということについては大変壮大な計画が立てられておって、その中身をどうするかということになると、結局はこれは人の問題になります。それで、福祉にいい人を、特に若い人たちを受け入れて、そしてこれをやりがいのある仕事として、職業活動として、しかし保健医療や教育などに一段と劣る職業活動としてではなくて、二十一世紀には百万の大台に乗ります三つのヒューマンサービスの職業集団の一つとして、
社会福祉につながる従事者、職員が誇りを持ってこの仕事に入ってこれるような、そういう体制を整えるということが必要になります。
それで、これが実現できて初めて二十一世紀には、今回のゴールドプランの、あるいはこれを受けて昨年全会一致で可決をしていただいて法律面から、法制の面からその体制固めをしていただくことになりました老人福祉法等の一部を改正する法律、これは事実上、老人福祉法で代表されておりますけれども、福祉
関係の主要な八つの法律の改正でございますが、これを財政面で実質化するプランとしてのこのゴールドプランの、今申しましたような中身の面を含めての充実ということを図っていただくこと、これが二十一世紀に向けての
社会福祉の、単に
社会福祉のサービスを必要とする一部の
国民の問題だけではなくて、すべての
国民が直面する介護問題等の不安にこたえて福祉のサービスを充実していくということが今日要求されていると思いますので、先ほど本年度及び来年度の
予算案についてこの面からの、今回のこの
予算の数字については私は高く評価すると申しましたが、この評価が実質的に実現されるためにはかなりいろいろな検討課題があるということを申し上げて、このあたりを
委員の皆様方の御検討の課題にしていただければ幸いでございます。
そのほか
社会保障
関係の
予算ではいろいろと問題になりますことがないわけではありませんが、これはもし御
質問等ございましたら、私の専門の
範囲でお答えできることはお答え申し上げたいと思います。
時間が参りましたので、ここまでといたします。(拍手)
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