○東祥三君 私は、公明党・
国民会議を代表して、ただいま
議題となっております
借地借家法案に関し、総理大臣並びに法務、建設の両大臣に質問いたします。
本
法案は、従来の借
地法、借家法に加え、建物
保護に関する
法律という三法を一本に統合したもので、基本的な枠組みの変更という意味では、昭和十六年以来の、実に五十年ぶりの大幅
改正となっています。
現在、借家住まいは全国で約四割近くを占めていると言われます。その意味では、借地・借家法が果たしている役割には今なお大きいものがあり、したがって、その
改正についても極めて慎重な対応が必要であると言えます。それは、
国民の安定した居住権の確保が国の責務であり、経済社会の健全な発展の基礎をなすものと考えるからであります。
私は、こうした基本的認識に基づき、以下六点について質問いたします。
まず第一点は、本
改正案の
趣旨、目的に関することについてであります。
今、借地・借家人の多くは、更地価格の一〇%と言われる高い更新料や年々請求される地代や家賃の値上げ
要求に悩まされているばかりか、建物を建てかえる際には、高額な建築費に加え、これまた高額な承諾料の支払いにおびえている
実情にあります。
こうした状況の中で、法務省は、今回の
法改正は、借地・借家をめぐるニーズの多様化など社会経済情勢の変化に対応するための、貸し主と借り主の
権利関係を
調整しようとするものであるとしています。確かに、現行法は今日的状況に対応できなくなっており、その意味では、
改正することの必要性を否定するものではありません。しかしながら、今回の
法改正の見直し作業については、一九八五年に経済団体連合会が発表した土地政策に関する
意見に端を発し、内需拡大、民活導入の名のもとに、地上げ屋やデベロヅパー等の
要求に沿って行われ、弱い借地・借家人の
権利を奪うための改悪ではないのかとする懸念もあります。
総理並びに法務大臣は、借地・借家関係の現状をどう認識し、現行制度を基本的にどう変えようとされているのか、今提起した懸念への回答を含め、改めて
法改正するに至った背景、
法改正の
趣旨、ねらい等について明確な御答弁をお願いいたします。
第二点は、借地権の
改正に関することについてであります。現行の借
地法のもとでは、一たん借地として差し出してしまうとなかなか手元には戻ってこないようになっていますが、本
改正案の大きな特徴の一つは、貸し出しても必ず地主の手元に戻る、いわゆる更新を認めない定期借地権という新たな借地権を創設していることであります。これは、サラリーマンが一家を挙げて転勤する場合、持ち家を安心して貸せる確定期限の借家制度の導入とあわせ、本
改正案の中で特に評価できる
内容の一つであろうと考えます。
しかしながら、この定期借地権制度が導入されるならば、レストランや量販店など契約
期間の短い
事業用としての土地供給だけが増大し、宅地供給を減らすことにならないか、収益の高い
事業用地における安易な地代の値上げが周辺の宅地の地代に影響を及ぼすことにならないのか。したがって、私は、この定期借地権については、
地域、建物の利用目的等を限定して適用するようにしてはどうかと考えます。
また、本
法案では、普通借地権における最初の存続
期間が一律に原則三十年、更新
期間は十年へと短縮されることになっています。この契約
期間の短縮化は、より短いサイクルで契約を見直すごとにより、時代の変化に合わせ借地関係を適正化できるようになる反面、借地権を弱め、更新料を支払う機会をふやすなど、借り主の不安を増長するところとなっています。こうした借地権
改正に係る
問題点に対し、法務大臣の御見解をお伺いいたします。
第三点は、既存の契約関係への影響についてであります。
我が党の法務部会では、今回の
法改正に当たり、法務省に対し、借地・借家人の置かれた現状に十分配慮し、借地・借家人の地位と
権利を損なうおそれのある
改正案には
反対である、とりわけ
改正される新法を既存の契約関係に適用することについては、既得権の保障や居住権の長期安定性の確保という見地から見て大きな問題があるとの申し入れを行ってきております。
その意味では、本
改正案の決定段階において、既存の契約関係にある多くの借地・借家人や我が、党の強い要請等に配慮し、
政府が、更新及び更新後の
法律関係に関する新法の
規定は、既存の借地・借家関係には適用せず、従前どおりとするとして、法制
審議会の
答申段階の
内容を大幅に譲歩させたことは、率直に評価したいと思います。しかしながら、本
改正案が
成立し新法が存在すること自体が、既存の契約関係にもその解釈や運用において微妙な影響を及ぼすことにならないのか、法務大臣の御見解をお伺いいたします。
第四点は、正当事由の明確化に関することについてであります。
法務省は、貸し主が更新を拒否したり解約を申し入れることのできる正当事由について、本
法案では、これまでの判例を明確化したにすぎないものと
説明しています。しかしながら、このことは、多くのマスコミ等において、借地や借家の明け渡し、追い出しを容易にするものであると報道され、借り主を大きな不安に陥れています。この懸念にはどう答えられますか。
私の手元には、こうした不安を訴える便りが数多く届いておりますが、ちなみに、その中の一通をここで紹介させていただきますと、
前略、私は身寄りのない独り暮らしの六十九
才の年老いた借家人です。いま、国会に提案さ
れている借地・借家法の
改正法案は私たち住民
が追い出されやすくなる
内容だと聞いていま
す。大変心配です。たった一つの生き甲斐とし
てペットを数匹飼って家族代わりとしているた
めか、老齢のためか、移転先も見つかりませ
ん。その上、地上げ屋に事実無根のことを並べ
立てられて、訴訟に持ち込まれ、生きた心地も
ありません。どうか私たち、借家人が安心して
暮らせるようにして下さい。心からお願い申し
上げます。というものであります。
万一借り主の
権利が弱められた場合は、借地関係者はともかく、契約
期間の短い借家関係者は、家主による家賃の値上げのみでなく、明け渡し攻勢にも絶えず悩まされることになるわけであります。既存の契約関係には適用しないことになっているとはいえ、古い借家で建て直しか必要なケースにおいては、既存の契約関係は解消され、新法に基づく新しい借家関係への移行を余儀なくされることになります。
今もお便りを御紹介いたしましたように、現在、借家人の高齢化が一段と進みつつあります。となりますと、よほど安い公共住宅や家賃補助制度のような助成制度が充実されない限り、これら年金収入のみに頼っている高齢者や低所得水準の方々は、そうした厳しい状況に耐えられなくなるのではないかと考えざるを得ません。これは大変重大な問題であります。法務大臣の見解とあわせ、公共住宅の増設、家賃補助制度実施の見通しについて、
建設大臣の御答弁をお伺いいたします。
第五点は、地代家賃の改定に係る
手続についてであります。
政府は、今国会に、本
法案との
関連で民事調停法の一部
改正案を提出しておりますが、この一部
改正案では、地代家賃の値上げ等をめぐり貸し主と借り主の間で合意できず訴訟提起の段階となっても、訴える前に調停に付することを義務づけようとしています。
この調停制度は、裁判より時間や経費が大幅に節減できるようになることから、結果的に地代家賃の値上げが行われやすくなるおそれがあります。この点に関し、法務大臣の御見解をお伺いいたします。
第六点は、悪質な地主や不動産業者への指導の徹底等についてであります。
今回の
法改正の動きが、これまでの各種マスコミで「借主の
権利、大幅に制限」とか、「借地・借家の
権利弱め、土地供給を狙う」とか、さらには、正当事由の拡大等で借り主の追い出しか容易になるといったように報道され、借地・借家人の不安を必要以上に増長させている嫌いがあります。また、こうした報道に便乗し、悪質な不動産業者等が、複雑な
内容を理解できないお年寄りなどに対し、既存の契約関係にも新法が適用されるとか、あるいは、既存の契約には旧法が適用されるが、更新には新法が適用されることになるなどと言い、解約の申し入れや契約更新を拒絶するような事態があるように聞いております。
したがって、こうした不正、不法な
行為が横行しないよう、一体、現行制度がどう変わるのか、
国民に正しい情報を伝えることが重要であり、関係業者への指導をも徹底する必要があると考えます。法務大臣並びに
建設大臣のお考えをお伺いいたします。
また、不安におびえている
国民の皆様に対し、正確な情報を伝えたり、個別のケースに応じた適切なアドバイスを与えられるよう、この際、仮称「借地・借家一一〇番」といった無料の、いわゆるフリーダイヤルを設けてはどうかと考えるものでありますが、いかがでしょうか。
ともあれ、近年の土地住宅政策の貧困、とりわけ地価の異常高騰が、借地・借家関係をも著しくゆがめ、今後の都市のあり方にまで大きな影響を及ぼそうとしています。まさに、地価の値上がりこそは諸悪の根源であります。この地価の異常高騰こそが、貸し主と借り主の
権利関係をもアンバランスなものとし、その再
調整を図るために今回の
法改正が必要となったと言っても過言ではありません。
政府の地価政策に対しては、強い怒り、憤りを禁じ得ません。
最後に、
政府が単なるポーズだけでなく、実効ある地価対策を講じることを強く要請し、私の質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣海部俊樹君
登壇〕