○柳田稔君 私は、民社党を代表して、ただいま
議題となりました
老人保健法等の一部を
改正する
法律案につきまして、
総理並びに厚生
大臣に質問いたします。
日本の平均寿命は、男性が七十五・九一歳、女性が八十一・七七歳と、男女ともに世界一の長寿国となりました。しかし我が国は、
国民が本当に長寿を心から喜べる社会となっているとは思えません。経済企画庁が本年三月に発表した調査によれば、七〇・四%の
国民が自分の
老後に明るい見通しを持つことはできないと答えております。
老後の不安を払拭し、
心身ともに快適な
生活を送ることのできる社会を築くことは極めて重要な
課題であり、これにこたえることは政治家の責務と信じます。
今回
提出されました
老人保健法等改正案は、
国民の願いに逆行し、
老後に対する
国民の不安をますます増大させるものであると言わざるを得ません。私は、この
観点に立って、以下数点にわたり
政府の所見を求めます。
まず、
公費負担率の
引き上げについてですが、御案内のとおり、我が国は、世界でも例のないスピードで急速に人口
高齢化への道を歩んでいます。一九九〇年には六十五歳以上の一人のお
年寄りを十五歳から六十四歳までの五・八人で支えていたものが、二〇〇〇年には四人で一人を、二〇二〇年には二・五人で一人を支えていかなければなりません。
高齢化の進行に伴い、
老人医療費も、今後長期的に上昇を続けていくことが確実と見られています。昭和六十年から
平成元年までの五年間に、
国民所得の伸びは二二・六%でしたが、
老人医療費は、これをはるかに上回る三六・六%も上昇いたしております。
一方、
老人医療費の
増加は、既に被用者
保険に極めて過重な
負担を強いています。千八百十八ある健康
保険組合の三六%に当たる六百五十四の組合は既に赤字で、その主たる要因は
老人保健への拠出金にあり、このまま
老人医療費が伸び続ければ、被用者
保険各
制度の
財政基盤は根底から揺らぎ、
医療保険制度そのものの崩壊につながりかねない危険性を秘めています。今後、
老人医療制度を長期的に安定させ、適正な
医療を
確保していくためには、国の
責任と
負担を強化する方向での
制度改革が必要不可欠です。
政府は、
消費税を導入するに当たり、
高齢化社会への対応をその理由として挙げておりました。しかし、
消費税が導入された後も、
公費負担が一向に
拡大されないのはいかなるわけによるものでしょうか。
政府案では、わずかに
介護部分にのみ
公費負担率を三割から。五割に
引き上げるとされていますが、すべての
老人医療費について三割から五割に
引き上げることが、今回の
改正のまず前提となるべきであったと考えます。この点について
総理の決断を強く求めるとともに、御見解を賜りたいと存じます。
次に、一部
負担の問題について伺います。
政府案では、
患者一部
負担を
外来一月八百円から千円に、
入院一日当たり四百円から八百円に、それぞれ
引き上げようと提案しています。またあわせて、今後の
患者一部
負担については、
老人医療費の伸びに合わせて
引き上げることのできる仕組みを導入しようとしています。私は、これらの
内容には次の二つの大きな問題があると指摘せざるを得ません。
第一は、
引き上げ幅、特に
入院負担の問題です。
もちろんお金が天から降ってくるわけではありません。私は、
医療費の増大という状況と世代間の
負担の
均衡ということを考慮すれば、適正な一部
負担は行われなければならないと考えますし、それをすべて否定するつもりはありません。しかし、今回の
引き上げは、お
年寄りの
負担能力を考えた場合、余りにも大幅です。特に、
入院の
負担を倍額に
引き上げるというのは、
入院しているお
年寄りの方々にとって深刻な問題となってまいります。
施設と
病院との
負担の公平化を図るというのが
政府の考え方であると承知しておりますが、
病院の場合、差額ベッドや
付添看護料あるいはおむつ代といったいわゆる
保険外
負担が存在し、これが大きく家計を圧迫しているのが実情です。これらの
改善が一向になされないままに
入院費を倍増するということについては、再検討すべきであると思いますが、海部
総理の御所見をお伺いいたします。
第二は、今後、
国会による審議を行うことなしに一部
負担金を自動的に改定できるようにしようとしている点についてです。
いざ病気になったとき、
国民のだれもが
負担可能な金額で安心して
医療を受けることができるというのが社会保障としての
医療政策の根幹です。そして、その
負担をどのように分かち合っていくのかということを決めるのが政治の役割です。
患者の一部
負担金の額を、
負担能力のいかんにかかわらず、
老人医療費の伸びにスライドして
国会のチェックもなしに
引き上げていくというのは、
医療保険財政のみに着目したテクノクラートの発想であり、このような
政府・自民党の姿勢は、ナショナルミニマムを保障するという
福祉国家建設路線をみずから放棄したものと考えざるを得ません。
政府に対して、このような
医療費スライドによる
老人医療費の一部
負担改定方式の撤回を求めます。
総理の明快なる御答弁をお願いいたします。
我が国の
医療保険制度は、昭和二年発足の健康
保険以来、逐次適用
対象の
拡大等その
改善充実が図られてまいりましたが、各種
制度に分立していることから、給付率や
保険料
負担水準など給付と
負担の両面で格差が生じています。
国民皆
保険体制のもとで、公的な社会保障
制度の基礎ともいうべき
医療保険について
政府が今後とも
制度の確立を図っていこうとするならば、
制度体系全般にわたる
見直しと、これに基づく一元化を進め、すべての
国民にとって公平な
制度づくりを行うことが必要であります。
政府は、
医療保険制度の一元化についてどのような見通しを持っておられるのか。
また、疾病構造が感染症
中心から循環器疾患や糖尿病等成人病
中心に移ってくる中で、病気を治療することから病気を予防することに
政策の重点を移し、単なる検診だけでなく、積極的な健康増進
事業の
推進を図っていく必要があり、
医療機関の
体制も成人病の
患者にふさわしいものに変革していかなければなりません。従来の治療
中心主義の
医療体制を改め、健康管理、健康づくり
中心の
医療資源の配分を進めていく必要があると考えますが、この点についての見解はいかがでしょうか。
我が国は、確かに
医療技術は世界一流でも、三時間待って三分診療とか冷たい給食という言葉に代表されるような、治療する側の論理が優先されがちな状況のもとで、
患者サービスの質の低さに対する批判は根強いものがあり、治療を受ける側に立った
医療制度の
整備を進める必要があります。これに伴い、住みなれた自宅で療養
生活が送れるようにするため、訪問
看護、訪問リハビリテーション等の普及を図るとともに、
在宅療養を支える新しい
医療技術の開発促進や
保険の適用等を進めていくべきであると考えます。
以上三点について
政府の方針を厚生
大臣からお聞かせいただきたいと思います。
最後に、
総理にお尋ねいたします。
民社党は、昭和三十五年の結党に当たり、
福祉国家の建設を目標に掲げました。当時、この我が党の目標に対して、与党からは、働かなくても食べていける怠け者の社会をつくるものだと批判され、また、他の野党からは、資本主義の延命に手をかすものだと攻撃されたのであります。ところが、現在、
福祉の
充実を各党ともに唱え、民社党の主張が正しかったことが立証されております。しかし、人口の
高齢化がさらに進む場合、将来の社会保障は本当に約束されているのか、今
国民の不安が高まっています。
消費税の導入の論議に当たり、民社党は
福祉ビジョンの
提出を
政府に求めました。これに対して
政府は、長寿・
福祉社会実現の
施策の
基本的考え方と目標と題する
福祉ビジョンを昭和六十三年十月に
国会に
提出しました。
政府が単年度予算主義や審議会の審議
経過など種々の制約の中から
福祉ビジョンを
提出したことについて、我が党はこれを
評価するものですが、このビジョンは、
財政計画を具体的に示していないこと、年次計画が示されていないこと、
介護サービスの
充実についての問題認識が薄いことなどの問題があり、十分なものではありません。
また、昨年からスタートした
政府の「
高齢者保健福祉推進十か年戦略」は、依然として厚生行政の
範囲内にとどまっています。特に、
高齢化社会に新たに必要となる財源を具体的にどう賄っていくかが明らかになっていない限り、
国民の不安を解消することはできません。
今後の
高齢化社会において
政府が提供する
福祉サービスの
水準と、それに要する
費用負担の
あり方を示した新たな
福祉ビジョンを提示すべきであると思いますが、
総理の明快な答弁を期待して、私の質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣海部俊樹君
登壇〕