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向日参考人 私は、
和歌山県
龍神村の
村長向日でございます。このたび、本
委員会に
参考人として
陳述の
機会を得ましたことは、まことに光栄に存じ、厚くお礼を申し上げます。
しかし、私の
意見が
参考としていただけるかどうかまことに不安に存じますが、
林業を基幹
産業として生きる
龍神村の
立場から、今回の
法改正に当たって素人なりに所見を述べさせていただきたいと存ずる次第でございます。
最初に、私の村が「森に生きる村」であることを御理解いただくため、村の概要を少々説明させていただきます。
龍神村は、
和歌山県中央部の北東紀伊山地に位置し、奈良県に接した区域
面積二百五十五平方キロメートル、県土の約五%を超える広範な村で、その九五%、約二百四十二平方キロメートルを
森林で占められた純
山村であります。
林業は粗放ながらも二百年前ごろから行われ、現在杉、ヒノキの
人工林率は七〇%に達し、素材
生産量も年間四万立方メートル、県下総
生産量の一八%にも及ぶ、まさに「
林業に生きる村」と言うことができます。
また、観光の面では、弘法大師が難陀龍王の夢のお告げで開かれたところから命名されたと伝えられ、千二百年の歴史を持つ、人情味豊かで
日本三美人湯と称される
龍神温泉の村でもあります。ロマンに満ちた全国にも珍しい
龍神村の名の由来も、この温泉にちなんで名づけられたものであります。
昭和三十年代半ばまでは交通の便も悪く、紀伊のチベットと呼ばれた
時代もありましたが、その後は徐々に整備され、特に昭和五十五年、高野
龍神スカイラインの開通によりまして、関西の奥座敷白浜温泉と霊峰高野山を結ぶ主要道路として国道整備を急速に進めていただき、その沿線に見られる関西唯一のブナ原生林とあわせ
龍神温泉も一躍脚光を浴び、入り込み客も年間六十万人にも達してまいりました。しかし、この発展の中にも、全国
山村の持つ共通的な悩みも抱え、その
対策に苦慮しているところもございます。
本村は、昭和三十年、旧四村が合併発足しました。当時の人口は八千四百五十八人、千六百二十八世帯でありましたが、その後は
減少の一途をたどり、近年過疎現象は鈍化しているものの、本年三月現在の住民基本台帳による人口は四千九百二十七人、千六百二十七世帯。世帯数に変動はありませんが、人口
減少率は四二%に達し、このうち六十五歳以上の高齢者人口は二三・五%。若齢層の
減少、出生率の低下、
若者の
都市就職から見て、今後十年間には急速に
高齢化が進むものと危惧している次第でございます。
このことは、
林業を基幹
産業とする
龍神村にとってその影響はまことに大きく、
林業そのものの
崩壊を
意味するもので、村の存亡にもかかわりかねない重要な
課題ともなってまいります。昭和六十三年現在で、
龍神村の
森林を守り育て、
生産活動に懸命の
努力を続けている人の八〇%は既に五十歳を超え、二十—三十歳代の山で働く後継者はわずか三%にすぎません。ここ十年もすれば、村内での素材供給可能量は八万立方メートル近くにも達し、従来の施業仕組みのままでは二百人の
労働力を必要とされるところから、
国産材時代到来、
国民の
ニーズに合った施業推進といっても、「
森林を護る、みどりの旗手!」は非常に厳しい
状況になってまいります。これは単に私の村だけではなく、小異はあれ全国
山村林業地の共通した問題と
考えられます。
龍神村の
林業が発展し出したのは新しく、昭和四十年の初めで、この時期雪崩的な過疎現象が生じ、実に二千人近くの人口
流出を見ました。国勢
調査によりますと、昭和三十五年の
林業就労者千百三十五人が四十五年に四百八十二人と、五八%の激減となっていることでおわかりいただけるかと存じます。
その主な原因は、
山村に生活
基盤を持たず不安定
林業労働にのみ生活依存をしてきた
若者、中堅層が、
都市に安定した職場を求め離村していったことであります。これは、
日本経済の急成長に、当時見るべき
産業を持たなかった
山村への行政の立ちおくれと、旧態の
林業の
経営基盤の脆弱さの結果とも言えましょう。
このように、
地域林業の根底を揺るがした急激な過疎化に、村も住民も危機を感じたわけでございます。このため、
林業を村の基幹
産業と明確に位置づけ、
龍神林業開発会議を核として、「組織ぐるみ、村ぐるみ」を合い言葉に、
林業振興と
地域活性化に地をはう
努力を重ねてまいりました。おかげをもちまして、この二十年の間に全国的にも優良
林業地の一つとしての地位を
確保し、
森林組合も全国屈指と
評価されるに至りました。
ここで私の申したいことは、
龍神林業の発展は、村民の
努力もさることながら、この間に
森林法、
林業基本法、
山村振興法等々に基づいて、そのときの実情に応じた諸施策、諸
事業が時宜を得て実施されてきた結果のたまものであり、これら国の御
援助がなければ、現在の村の
林業はなかったと痛感しているところでございます。
今回の
森林法改正が、長年不振を続ける
林業の活性化を図り、
森林・
林業を取り巻く厳しい諸
状況に対処し、あわせて
森林の持つ多様な
機能に対する
国民の
ニーズにこたえるため、
民有林、
国有林を通じた
森林整備の向上と
条件整備による
計画的施業の推進を基本とされていることは、まことに時宜を得たものと存じます。
これを現実化するために、一つ、全国
森林計画及び
地域森林計画の
改善と再編がなされることになっております。確かに、今後の
国産材時代に向かってユーザーにこたえる安定的供給という面では、一
地域が対応できるものではなく、
木材生産を行ってきた従来の川上部分と製材、市場等を含む川下部分の連携による流域の一体化と、さらにこれらを包括した広域の総合的な
生産、流通
体制を整備していく必要があろうかと思います。
また、
森林の
役割が
木材生産機能、
水源涵養機能、災害防止
機能、そして住民の
ニーズに即した保健
機能等、
公益的、多面的な
役割を果たしていくという面では、
地域森林計画は従来の小さな区域よりも、見直されたより広い区域について立てられた方が濃密な連携が図られるものと
考えられます。
ただ、考慮されることは、従来より区域が広がることにより
計画の密度が低くならないようにしていかなければならないと思います。
二つ目。
国有林の
森林計画と
民有林の
森林計画が同一の流域の中で一体的に立てられることは確かに必要なことでございまして、大きな前進と言えます。
と申しますのは、私たち
民有林行政は
地域森林計画の中で、また
国有林は
国有林の使命を果たすべく施業
計画の中で施業実施が行われてきたわけでありますが、そこには
労働力の問題とか販売
事業の問題等々、それぞれ独立した形で行われてきたと
考えております。そこには、同じ
山村の
林業を進めていく上において、また
地域社会の振興を図る上で連携を欠く面もあったかと思われます。今後は、特に
生産基盤の整備、
労働力対策、
木材の安定供給、銘柄材の産地
形成等々、
生産、流通に至る緊密な連携協力が必要とされるところから、時宜を得たものと
考えます。
法改正に伴う
国有林野事業の
経営改善については、私たちにもわからないところも多く、この点は専門の先生方にお任せしたいと存じます。
ただ、言えることは、累積債務の増大に対する
経営改善は早急に行い、健全財政の中で、
国土の
保全や
民有林では困難とされる原生林や自然環境林の維持保存、さらにレクリエーションの場の
確保等、
国民の
ニーズにこたえる
森林の整備を期待したいと思います。しかしながら、組織の縮小や統廃合については、それぞれの
地域にとって大きな影響を及ぼすことのないように
地域の実情を勘案して進めていただくようお願いしたいと思います。
三つ目。
地域森林計画の事項の追加では、施業の共同化、
林業従事者の
養成確保、機械化の促進が含まれ、さらに具体的には
市町村が
森林整備計画において、
地域に密着した
計画樹立を行うこととされています。
市町村がこれらの事項を
計画することが
法律の上で明確に位置づけられることは、
評価しているところであります。
私が特に声を大にして申し上げたいのは、緊急を要する後継者
対策であります。
龍神村
森林組合が、独自で昭和五十六年より給料制による青年
林業士の育成に努めてまいりましたが、今回村としても積極的に
援助をするため、
林業技術者後継者
対策委員会を設置し、働く人の
社会的地位の向上を図るため、
社会保障
制度の確立、祝休日週休制、給料制の実施、就労諸
条件の
改善等検討を進めてまいり、近々まとめ、平成三年度より実施の
方向で取り組んでおります。
林業労働環境は三Kと言われておりますように、非常に立ちおくれております。これを排除するため、
基盤の整備や機械化の推進等を図っていく必要に迫られています。
また、通年就労の
条件として、
計画的施業や共同化等が
課題とされているところであります。これらの条項についても、今回の
改正に盛り込まれていることは幸いに存じます。
しかしながら、財源の乏しい
市町村にとりましては、自治体のみでこれらの推進を図っていくことは困難を伴うことも
考えられますので、きめ細かな施策展開を希望いたします。
四つ目。今回、
造林・
林道事業の国の投資
計画が新たに策定されることとなっています。
地域の
林業生産活動が低迷している中で、
林業の振興にとって大変重要なこれらの
事業について、今後の投資
目標が明らかにされることは、大変心強く、高く
評価されるものであります。
五つ目。林地
開発許可制度の
改善において、
市町村長の
意見聴取の法定化については、今後予想される
開発増加に対処するため、環境
保全、水資源の
確保、災害防止、
水害防止等の面からも、住民の意思、実情を十分配慮されると
考えられるところから、法定化は望ましいと存じます。
六番目。
間伐、保育の裁定
制度について。
龍神村での不在村林家は
森林面積の六〇%を占め、健全な
森林の育成、施業の実施、労務
対策等においても、不在村林家の協力、実行がなくては不可能となっております。
その
意味から、毎年不在村林家との懇談会開催、補助
制度等の普及指導に努めており、大半は協力実施しておりますが、中には協力いただけない人もあり、健全な
森林育成のためにも、
間伐、保育の裁定
制度の法定化はまことに望ましいことと思います。
七番目。特定
森林施業は、長伐期良質材
生産志向の高まりもあり、また非皆伐施業も
時代の趨勢かと存じます。
以上、私のつたない
意見を申し述べましたが、今回の
法改正が
国民の
ニーズにこたえる
森林整備や低コスト
林業の確立、広域流域による
木材の安定供給
体制づくりに貢献し、
山村、
林業の活性化の跳躍台になることを確信し、早期
成立を待ち望んでいるものでございます。
どうもありがとうございました。(
拍手)