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前田公述人 前田でございます。
私は、この
国連平和協力法案に反対の
立場からいささか
意見を開陳いたしたいと思います。
既に当
委員会において
法律的な側面、個々の
問題点については十分洗い出されていると考えますので、私は概論風に、
法案制定過程における
問題点、
法案の持つ
問題点、あるべき国際貢献について
意見を述べてみたいと思います。
まず、
法案制定過程についての
問題点でありますが、第一に、極めて唐突な情勢認識、国際情勢認識における転換が指摘されなければならないと思います。
海部総理は、所信表明演説の中で、「新しい国際秩序」あるいは「冷戦時代の発想を超えて」という表現を盛んにお使いなさいました。そのこと自体、そういう認識に立つこと自体私は賛成であります。極めて正しい情勢認識であろうと思います。しかし、奇異に感じますのは、この
法案が提出される以前の
政府の情勢認識、国際情勢認識に関して、そのようなはっきりした「冷戦時代の発想を超えて」あるいは「新しい国際秩序」の
必要性を言っていなかったという事実であります。極めて唐突にこういった情勢認識の転換が出されてきたことに不透明な感じを抱きます。
例を挙げますと、九月十八日に公表されました今年度の防衛白書の中には、我が国周辺地域の厳しい軍事情勢に依然変わりはないという、冷戦いまだ終わらずの認識が示されております。湾岸危機突出後の八月七日、安全保障会議に提出された外務省及び防衛庁の情勢認識を見ましても、やはり同じように、冷戦いまだ終わっていないという認識が示されている。このような認識が示されていた中で、今回の
法案提出後にわかに「新しい国際秩序」ないしは「冷戦時代の発想を超えて」という認識が出されてくる、これにはにわかについていけない。「新しい国際秩序」、「冷戦時代の発想を超えて」ということであれば、まずなすべきこと、軍縮、
自衛隊の縮減ということが必要でありますし、そのことをもってまず我々の新しい発想としなければならない。その上に国際貢献があるのだろうと思うんです。そういうことをせずに、あれもこれも、スクラップしながらビルドアップしていくという手法を忘れて、一方で軍事力を増強することをやめない中で新しい国際責任を軍事力をも含めた形で提示していくというのは、
アジア諸国に対して極めて刺激的な問題であろうというふうに思います。そういう唐突な情勢認識の転換をまず指摘したい。
二番目は、言うまでもなく、この
法案が確定するまでの朝令暮改と申しますか、二転、三転ぶりです。
私たちは、八月二十九日の海部総理大臣の記者会見、テレビで、
自衛隊を海外に
派遣することは考えていない、しっかり聞きました。それが九月二十七日の記者会見の段階では、原則非武装で行ってもらうという形で
自衛隊の
派遣が
示唆され、そして本
法案では
部隊ぐるみの
自衛隊の
派遣が提示されている。これはやはり一種の食言と言わなければならない。このような形で
法案が確定していくことに対しで、国民は非常に不安を持たざるを得ないと思うのです。
三番目に、目的の不透明さであります。「
国連決議の実効性を確保するため、」という表現で平和
協力隊の海外
派遣が規定されております。実質的に多
国籍軍への
協力が目的でありまして、そこには前提として、多
国籍軍が
国連決議を受けた形で展開し
行動するのだということが含まれているように思います。しかし、これも、ブッシュ大統領が八月八日にテレビを通じて
アメリカ国民に発表した派兵の目的に沿いますと、そのようなことは出てこない。ブッシュ大統領はサウジアラビア防衛を掲げて派兵の目的としました。四原則を挙げておりますが、その第一は、クウェートからの
イラク軍の即時撤退であります。第二は、クウェートの合法
政府の復帰であります。第三は、ペルシャ湾の安全であります。第四は、在留米人の保護であります。これがブッシュ大統領の派兵の目的であり、かつそれらを総合して、大統領は、サウジ防衛という形で派兵の目的を
アメリカ国民に告げたわけでありまして、決して
国連決議を受けるという派兵の目的ではなかったことに注目したいと思います。ここにおいても本
法案の目的の持つ不透明さを感じざるを得ません。
次に、この
法案の持つ
問題点を
幾つか指摘してみたいと思います。
第一は、これによって、
日本外交の基調であった中東政策において大きなこれまでとの不整合を生ずるということであろうと思います。
言うまでもなく、
日本外交は一九七三年以来親アラブ政策をもって中東外交の基調としてきました。八年間に及んだイラン・
イラク戦争においても注意深くこの政策は維持されてきたと考えます。しかし、今回このような形で湾岸危機に対処し、人員が
派遣されるということになりますと、これまでとってきた
日本外交の中東に対する
対応は崩れざるを得ない。これは重大な問題であろうと思います。
私ここに外務省が一九八一年発行した「中東紛争 その背景と現状」というパンフレットを持っておりますが、この中には、
日本の基本的な
立場として、
アメリカと中東政策が違っている、しかし、それを「進んでいる」という表現であらわしています。「パレスチナ人の権利に関する
日本の
立場は、
アメリカはもちろん、ECよりも進んでいるといえます。」というふうに表現されています。次に、中東和平の枠組みに関するこの当時の
日本政府の政策の基調として、こういうふうに述べられています。「したがって、パレスチナ問題の公正な解決とイスラエルの生存権の承認を含む中東紛争の包括的な解決なくしては、同地域における安定を実現することは困難であり、他方、同紛争の解決への展望が開けることは、それだけでも同地域の政治的緊張を大幅に緩和させるものとなりましょう。」という形で
日本の中東政策が
説明されているわけであります。
このとき、この著を編んだ背景としてあったのは
イラクとシリアの緊張、それが中東全体に波及するのではないかという中でこのパンフレットは編まれたのでありまして、そこで我が外務省は、全体的な中東問題の包括的な解決なくしてアラブの安定はないということをはっきり言い切っております。そこにおいて
日本の政策が
アメリカやECより進んでいるという見方も示されています。このような政策を持ちながら、今回のような形での
対応しかできないということになりますと、いささか政策の連続性、継続性に対して疑問を感じざるを得ない、そういうことがあります。
法案の持つ
問題点、もう
一つ挙げますと、やはりこれは日米安保
協力を中東に拡大するという側面の方が強いのではないか。中東
貢献策というふうに言われてはおりますが、しかし、やはり日米安保条約の中東への拡大と受け取れる側面の方が強いのではないのかという懸念であります。
言うまでもなく、防衛計画の大綱によって示された
日本の
自衛隊の活動内容、範囲は極めて限定的、抑制的なものであります。しかし、確かに
国連平和
協力隊と
自衛隊は
組織としての違いはありますが、しかし、実質的に編成される
部隊が
自衛隊中心であることを考えますならば、この防衛計画大綱の枠外で
日本の
自衛隊の構成員が
行動すること、これはやはり実質的に安保
協力の中東地域への拡大ととらえるべきではないのか。同時に、日米安保
協力のこれまでとってきた措置、これを規定した一九七八年の「日米防衛
協力のための指針」、通称ガイドラインの中においても極東の範囲ということが明記されているわけでありまして、これからも逸脱、拡大することになる、そういった懸念を抱きます。これらは当然
アジア諸国への刺激とならざるを得ないわけで、私たち今日知っております
アジア諸国からこの
法案への懸念は、こうした背景があるだろうと思うのです。
具体的に申しますと、既にこの
法案の適用事例として、中東湾岸のほかにカンボジア問題が指摘されておりますが、同時に、もしこの
法案が成立され、いろいろな
協力がなされるということを仮定しますと、韓国に駐屯している
米軍は法形式上は
国連軍という帽子をかぶっているということを忘れてはならないと思います。
国連軍司令官としての在韓
米軍司令官が存在し、かつ韓国に駐屯する
国連軍の後方司令部は神奈川県の座間に今日なお現存しております。そのような朝鮮
国連軍と本
法案との
関係がどういうふうになっているのか、物資
協力はこういった形の
協力にも文字面を追うだけでは当てはまるのではないかというふうに思えてくる。このあたり、やはりきちんとした
説明がなされない限り疑念は解消しない。これも
法案のはらむ
問題点ではなかろうかというふうに考えるわけであります。
最後に、では、あるべき国際貢献とは何であろうかという点について申し述べてみたいと思います。
まず、国際貢献をする環境整備として
自衛隊の縮減、軍縮が必要であろうと思います。今日、湾岸危機に対処する
米ソ英仏、ことごとく
軍隊を
派遣しながら、しかし一方ではデタント後の軍縮を開始しております。海部総理がおっしゃるように、「新しい国際秩序」、「冷戦時代の発想を超えて」というのが
日本のこれからの国家目標となるのであれば、とりもなおさず、それはまず
自衛隊の縮減という形で示さなければなりません。そうすることによって初めて
アジア諸国の、もし無用とおっしゃるのならば無用の困惑、懸念は解消されるわけでありまして、まず大方向としての
自衛隊の縮減、軍縮が必要であろうと思います。そして冷戦後の新しい国際秩序を担う
日本の
役割が見えてくると思うんです。
二番目は、そのような方向が示された後でも、やはり
日本の国際貢献は
国連を
中心とし、
国連総会あるいは
国連安全保障
理事会の
決議を直接的に受けた
国連事務総長の行う
平和維持活動に重点が置かれるべきだということであります。
国連の
平和維持活動は一九八〇年代末期から特に目覚ましい活躍をしているように思います。アフガニスタンにおける停戦監視、イラン・
イラク戦争の停戦条約の監視あるいはニカラグアにおける、ナミビアにおける、アンゴラにおけるさまざまな活動は、
国連の復権を私たちに告げているように思います。そのような中で
日本の
役割を見つけていく、
自衛隊と別個の
組織をつくることによって、そのような
国連の
平和維持活動に
国連のシビリアンコントロールのもとで活動するということが必要になってくると思います。
さらに、より長期の
日本の国際貢献としては、世界的な軍縮が達成された後に新しい
役割を見つけていくことではないでしょうか。一九六一年、
アメリカとソビエトはゾーリン・マクロイの協約によって「軍備全廃のための八項目合意」というのをつくっております。これには
軍隊の解散、海外基地の撤去、軍事費の全廃ということも含まれております。さらに一九六二年には、軍備全廃条約のための条約草案も
国連において十八カ国軍縮
委員会によって採択されています。このような既に着手された全面的軍縮への
日本の貢献を大きな国家目標とすること、それを展望しつつ、その中で、当面
日本のあるべき貢献を探ることが重要であろうというふうに考えます。
以上であります。ありがとうございました。(拍手)